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神7のストーリーを作ろうの会part9

1 :ユーは名無しネ:2014/02/18(火) 13:31:52.50 0.net
終わることのない 神7 Story

2 :ユーは名無しネ:2014/02/18(火) 23:59:29.16 0.net
作者さん続き待ってます

3 :ユーは名無しネ:2014/02/19(水) 01:16:28.49 0.net
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4 :ユーは名無しネ:2014/02/19(水) 20:58:16.15 0.net
水曜ドラマ劇場「私立神7学園高校」

第十一話

「これは物置部屋か何かか?」
部屋に入るなり、羽生田が顔をしかめた。
「うわぁなんか昭和の匂いがするよぉ。ブラウン管のテレビの実物なんて初めて見たよぉ。ねぇ栗ちゃん?」
「ギャハハハハハ!!倉庫かなんかじゃね?」
中村と栗田が埃の被ったブラウン管テレビを珍しがっている横では谷村が「神田川」を口ずさんでいた。余計に辛気臭さが増す。
「おい!!泊まりの楽しみっつったら皆で有料放送観ながらエロ談義だろ!!これ有料放送観れんのかよ!?」
神宮寺にとって重要なのは部屋のボロさよりも何よりも有料放送が観れるかどうかであった。
「観れなさそう…どこにもカードの挿し込み口もないから…」
何故か有料放送視聴の仕組みを知っている岩橋がそう告げると神宮寺は暴れた。
「ごほ…神宮寺くんやめてよ埃が舞うよ…窓開けよう」
高橋が部屋の埃に耐えかねて窓を開けるとそこに広がった風景は…
「うわーこりゃ見事な墓地だなー」
倉本がポテトチップス片手に呟いた。
そう、旅館の裏は墓地だった。しかも秋なのに周りは枯れ木ばかりで不気味さを更に際立たせていた。
「そーいやこの旅館って「出る」ってことで有名らしいね。だから格安なんだよね?おに…森田先生?」
同じくカラムーチョ片手に中村(海)が問いかけると美勇人は何故か目を輝かせて答えた。
「大丈夫だみんな!おに…先生が守ってやるよ!ああ、自分のクラスだけじゃなく他にもこんな可愛い男の子達を守ってあげられるなんて俺は幸せ者…」
悦に浸る美勇人をよそに岸くんはなんとかして部屋を変えてもらえないか室内電話で教頭に交渉した。が、無情な答えが返ってくる。
「何言ってんの。7組が問題起こさないようにそこにわざわざ配置したんだから。岸先生よろしく頼むよ」
「そんな…」
窓から一陣の風が吹き抜ける。生温かくて湿り気を帯びたそれに、不吉な予感だけがまとわりつき岸くんは涙目になる。
出ませんように…
岸くんの願いといえばただ一つ、それだけであった。そんなことはおかまいなしに7組と寅菱学園の5人ははしゃぎまわっていた。そしてそれを眩しい目で見守る同期のイケメン少年愛好者…
気が遠くなりながら夕食会場に向かった。


.

5 :ユーは名無しネ:2014/02/19(水) 21:00:34.80 0.net
「1番!神宮寺勇太、「抱いてセニョリータ」いっきまーす!!!」
夕食会場の大広間では案の定、7組は大騒ぎだった。しかし端っこに配置されているためさして御咎めもない。時たま教頭の苦い顔が目に入るだけだった。
「おに…森田先生、飲んで飲んで」
「おにい…森田先生、パセリ好きだったよな?あげる」
「おに…森田先生、この後自由時間?」
またしても隣に配置されていた寅菱学園五人組は美勇人にお酌をしたり好物の交換をしたりと和気藹藹と楽しんでいる。相当慕われているようでなんだかうらやましかった。
でも俺も運動会やピンチの救出なんかで7組と絆も深まってきているし…みんなだって少しは俺のこと…と期待しているとぽんぽんと肩を叩かれる。
「岸ぃこれあげるぅ。これもぉ」
中村が岸くんのお膳にトマトとうにを入れた。よしきた、岸くんは感涙に咽ぶ。こうして生徒に慕われることこそ教師の醍醐味…鼻をすすった。
「お、ありがとう中村。じゃあ俺もこれあげる」
岸くんが中村の好物である卵焼きを渡そうとするとしかしその箸が払われる。
「てめーの唾液がついた卵焼きをれいあに食わそうとかセクハラにも程があんぞコラ!!このセクハラ大魔王」
「やだぁ岸ぃそんなのいらないよぉ谷村にでもやっといてぇトマトもうにも僕嫌いだからちゃんと処理しといてねぇ」
「…」
いや違う。これは中村特有のツンデレであって決して残飯処理じゃない。決して…
「谷村、はい…」
卵焼きを仕方なく谷村にあげようとすると彼は顔をしかめた。
「俺、卵嫌いなんだけど…」
「…」
沈黙。
暗い。暗すぎる。谷村は好き嫌いが多いからそこかしこによけられたにんじんやら大根やらがあった。自我修復を繰り返しながら食事をしている。なんだか食欲がそがれるから見ない方がいいかもしれない。

6 :ユーは名無しネ:2014/02/19(水) 21:02:25.01 0.net
「岸くんお疲れ。まあ飲みたまえ」
珍しく羽生田が岸くんのグラスに飲み物を注いだ。よしきた、こいつも普段は天から人を見下したような上から目線のもの言いだがどこかで慕ってくれているのだ。最近は教室をセレブ改造しなくなったしこれはこれで可愛いところが…
「ごふっ!!!」
液体を一口入れて、そのあまりに強烈な味に岸くんは思わず吹いた。なんじゃこりゃ。すっぱいのか甘いのか辛いのかしょっぱいのかわかりゃしない。一体何が入っているというのだ…?
「わはははははは。どうだ羽生田挙武特製ドリンクの味は?天にも昇る心地だろう?」
「ギャハハハハハ!!すっげー色!!そんなんよく口にするよな!?俺だったらぜってー飲まねえ!!」
「やだぁ岸ぃお行儀悪いよぉ口から出し過ぎぃ」
違う。これは愛嬌だ…。羽生田はこう見えてお茶目だからその冗談の延長で…あ、口が痛い。ダメこれ…これはアカンやつ…キシ君はあまりのまずさに意識が遠くなる。
「岸くん先生大丈夫!?お水お水!」
誰かが親切に水を持ってきてくれた。普通の水だ。ようやく意識が戻ってきて岸くんはその親切な生徒に涙ながらにお礼を述べる。
「ありがと…命の恩人様…」
ぎゅっと手を握るとしかしその手が触るのが痛いくらいに高温になっていく。
「そ…そそそそそそそそそそそんな、生徒として当たり前のことをしただけで、そそそそそそそそんな風に手なんか握られたら…ああああああああああああああああああああああ」
ぼんやりと開けて行く視界に、ゆで蛸のように真っ赤になった高橋が映った。
「ひゅーひゅー颯良かったなー!今夜岸くんとランデブーってか?」
「ギャハハハハハ!!颯、なんなら俺とれいあが実践して教えてやっか?おしべとおしべのアレをよ!!」
神宮寺と栗田が悪ノリで颯をはやしたてると彼の頭から湯気が立ち上った。
「ちょっと何言ってんの神宮寺くんに栗田くん、冗談やめてよ!あああああああああああああ」
岸くんがやばい、と思った時にはもう遅かった。すでに岩橋と中村と羽生田と谷村は非難済みであり、倉本もお膳を持ってそれに倣っていた。
「高橋、やめ…」
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
「ああああああああダメえええええええここで超高速ヘッドスピンはダメええええええええええええええええ」
高橋は米国のハリケーンも真っ青の破壊力を伴った超高速ヘッドスピンを始めた。宴会場は一時騒然となり、当然の如く岸くんは教頭から大目玉をくらう。説教に疲れて部屋に戻るともう皆大浴場に行っていた。


つづく

7 :ユーは名無しネ:2014/02/20(木) 00:41:18.86 0.net
更新きた!作者さん乙です!
ここから寅菱学園とどう絡んでいくのか…
続きも楽しみにしてます

8 :ユーは名無しネ:2014/02/23(日) 19:14:15.27 0.net
日曜ドラマ劇場「私立神7学園高校」

第十二話

部屋は悲惨だが大浴場はそれなりに広い。もっとも7組は他のクラスが入った後にまわされ順番的には最後だった。それでも大はしゃぎである。
「おい!誰が一番長く潜れるか潜水競争やろうぜ!ビリはみんなにジュース奢りな!」
神宮寺と栗田と羽生田と倉本が潜水競争をする横では高橋が不安にうなだれていた。
「どうしよう…俺のせいで岸くん先生が怒られてしまった…」
「気にすることないよぉ颯。岸が怒られるのはお約束じゃん。そうじゃなかったらつまんないしぃ」
中村がタオルを頭に乗せながら慰めるが、それでも高橋の表情は冴えない。
「岸くん先生に嫌われたら…どうしよう…」
「颯ほんとに岸のこと好きなんだねぇ。どこがいいのぉ?まぁこないだ助けてくれた時はちょっとかっこいいかもと思ったけどぉ相変わらずのあの感じでしょぉ?やっぱぁ男は栗ちゃんみたいに天真爛漫で明るくつっぱしってくれる子じゃないとぉ」
全裸でぎゃはぎゃは風呂の中を走りまわる栗田を眩しそうに見ながら中村がそう呟くと、高橋は入浴してまだ間もないのに顔を赤くして湯船に沈む。
「ど、どこがいいのっていうか…岸くん先生は俺の中での理想そのものだから…。優しいしかっこいいし不憫だしすぐ汗かくし真面目に見えて適当すぎるところがあるし舞台上でありえないミラクルミス犯すし…って何言ってんだろ俺…」
高橋と中村がガールズトークを繰り広げる横では谷村がのぼせてぐったりしていた。岩橋はマイペースにシャンプーをしている。
「これ女子風呂覗けんじゃね?ほら、ここんとこの子窓からさ」
神宮寺が何かを見つけてそう呼びかける。皆呆れながらもそれに付き合ってやると…
「…なんじゃありゃ?」
暗闇の中にぼんやりと浮かび上がるものがそこにはあった。


.

9 :ユーは名無しネ:2014/02/23(日) 19:15:06.50 0.net
「岸くん、さっきは大変だったな。風呂で疲れ落とそうよ」
教師の入浴は生徒の後である。岸くんは美勇人と共に大浴場に向かった。その途中でばたばたと通り過ぎる集団がいた。
「あれ?いまの可愛い子たち岸くんのクラスの子たちじゃなかった?」
「…そうだけど…どうしたんだろ?あいつら…」
7組の連中が血相をかえて通り過ぎて行く。てっきり大浴場で大騒ぎしているかと思ったら…
まあいいや、騒ぎを起こさないでいてくれるならその方が…と思い直して大浴場に入る。湯船に浸かっていると美勇人のクラスの5人組が入ってくる。
「あれ?お前ら風呂まだだったの?」
「卓球やって腕相撲対決してたら時間過ぎててさ。おにい…先生も俺と腕相撲やる?」
ゴリラのような腕を見せながら閑也が冗談めかすと梶山がやめとけやめとけ、と止めに入る。岸くんは彼がどこをどう見ても30代にしか見えない。年下だなんて信じられない。
「おに…先生、背中流すよ」
「お、ありがとう顕嵐。お前は可愛いなああああ」
涙ぐみながら美勇人は顕嵐に背中を流してもらっていた。生徒に背中を流してもらう…なんだかうらやましい。そんな思いと共にふと横を見やると中村(海人)が湯船に浸かりながらアニメソングを歌ってアイスを食べていた。
同じ中村でもうちのとはえらい違いだなぁ…と思いながら見ていると、誰かが何かを見つけたらしく声をあげた。

10 :ユーは名無しネ:2014/02/23(日) 19:15:40.79 0.net
「宮近、どしたの?」
美勇人が声をかけると子窓のようなものを開けて見ていた(何故そんなことをしていたのか分からないが)宮近が青白い顔を更に青白くさせて指をさしていた。
「なになに?なんかあるの?」
興味本位で岸くんがその子窓を除くと暗闇の中に薄ぼんやりと何かが浮かびあがっている。岸くんは己の視力の良さをこの時ばかりは呪わずにいられなかった。
これって所謂一つのつまるところ率直に言うところ「幽霊」ってヤツですか…?
「うわあああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!」
認識すると同時に全裸で大浴場を飛び出していた。丁度居合わせた教頭にまた怒られるがそれでも岸くんはまっしぐらに部屋に戻った。
部屋に戻った岸くんを待っていたのは季節外れの大怪談大会だった。真っ暗な室内の真ん中に蝋燭の火だけが揺らめき、そこに青白い顔が…
「それでねぇ…その和尚さんが振り向いたらぁ…和尚さんの顔がぁノッペラボーでぇ…」
「ぎぃやぁあああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
岸くんが腰を抜かして大絶叫すると連鎖反応で皆もびびりだす。幽霊だと思ったのは怪談を話す中村だった。あまりにも色が白いから見間違えてしまった。

11 :ユーは名無しネ:2014/02/23(日) 19:16:26.98 0.net
「失礼しちゃうよぉ。人のこと幽霊だなんてぇ。幽霊を引き寄せてそうとかって「霊感が強そうJr」に名前挙げるとか失礼にもほどがあるでしょぉ」中村は頬を膨らませた
「てめぇびびらすな岸!!心臓飛び出すかと思っただろ!!」栗田が蹴ってくる
「岸くんタチわりーよ!!いっちばん怖いとこで大声出すとかよ!」神宮寺が肩パンしてくる
「ひどい…あんな大きな声でびびらすなんてこれはいじめだ…心臓に悪いよ…」岩橋が涙目で非難してくる
「南無阿弥陀仏…」谷村は自我修復しながらお経を唱えている。
「岸くん先生にびびらされるなんて…幸せ…」高橋は何故か恍惚としている。
「お前らびびりすぎ。俺はお化けより飢えの方が怖いね」
皆が皆びびる中、倉本だけはお菓子片手に余裕だった。そして悪ふざけBABYこと羽生田が何かを思いついたらしくぽん、と手を叩いた。
「そうだ、せっかく墓地が裏にある絶好のロケーションだから肝試しなんかはどうだろう?修学旅行の思い出作りに」
岸くんは大反対したがあれよあれよという間に何故か風呂あがりの寅菱学園の連中も交えて裏の墓地で肝試し大会が行われることになった。


つづく

12 :ユーは名無しネ:2014/03/01(土) 17:31:41.97 0.net
あげ

13 :ユーは名無しネ:2014/03/02(日) 20:04:45.25 O.net
問題点

宗教は羽生の自由ですが薬事法違反のカルト商法は問題です

【血糖値が〜糖尿病にも!】【神のテープ・神の声】【新たな医療】【念を込めたアイテム】

チャクラ仙人のブログに書かれていることは某ゴーストライター詐欺師と同じ主張

そんなチャクラ仙人に【相棒】と書かれている羽生

税金でチャクラ仙人をソチ入りさせて閉会式も一緒に行動

羽生の父親も手伝ったと書かれているチャクラカード…【共犯者】です

14 :ユーは名無しネ:2014/03/02(日) 20:29:28.09 0.net
日曜ドラマ劇場「私立神7学園高校」

第十三話

旅館の裏の墓地は世にも恐ろしいロケーションだった。
真っ暗闇の中ににょきにょきそびえる墓石と枯れ木のコラボレーションはその不気味さをよりお互い引き立てている。こんなところに何故旅館を建設したのかという疑問はともかくそのおあつらえ向きのおどろおどろしいムードに岸くんは戦慄した。
「皆、消灯時間もあるし問題起こしたら停学だし、やっぱりそろそろ寝た方が…」
しかし7組は岸くんの半分びびり、半分忠告を全く聞き入れずくじ引きを始めた。
駄目だこいつら…岸くんは美勇人に援護射撃を求めた。
「ねえ美勇人くん、やっぱりこういうのって何かあったら後々問題になると思うしどうにかしてやめさせた方が…」
「可愛い男の子達が恐怖に震える…それをお兄ちゃんが守ってやる…こんな素晴らしいシチュエーションはない…!」
悦に浸る美勇人に、駄目だこりゃ、と岸くんは諦めた。それならそれで現場監督としてゴール地点でずっと待ってようと思ったのだが…
「岸くんは颯とペアな。おめでとー」
神宮寺からくじを渡され、え?と岸くんは目が点になる。
「なんで俺もやるの?俺は教師…」
「あっちの先生もやるっつってんだから岸もやれ!ギャハハハハハハ!!」
栗田に尻を蹴られ、あれよあれよという間に肝試しは始まってしまった。ルールは30分かかる墓地を一周。5分間隔でスタートし、タイムが一番早かったり前のチームに追いついてしまうとヘタレ決定として罰ゲームの対象になる、と告げられスタートした。


.

15 :ユーは名無しネ:2014/03/02(日) 20:30:09.01 0.net
第一組 岩橋&閑也ペア

「僕は嫌だって言ったのに…これはいじめだ…」
岩橋はすでに泣きそうになっていた。怖がりびびりヘタレ…どう言われてもいいから逃げられるものなら逃げたい。恐怖心は腹痛を招く。早くもしくしく痛みだした。
「おい大丈夫かお前。顔色悪いぞ」
懐中電灯で照らされ、岩橋は目を細める。しかも人見知りなのに知らない人と一緒になんてなんたる拷問…
「こんなとこなんも出てきゃしねえよ。そんなビビるな」
がしっと逞しい腕が伸びてくる。岩橋は顔をあげた。
「さっさと行こうぜ。もっとも早すぎると罰ゲームだからほどほどにな」
「うん。ありがとう…」
なんだか頼もしくて岩橋は安心する。そうだ、彼の言う通りこんなところにオバケだのなんだの出てきやしない。ただちょっと暗くて不気味なだけだ。そう、何も問題はない。問題は…
そこでガサガサ!!と大きな音がする。風で何かが擦れ合ったのだろうが、岩橋は反射的にびびって大声をあげた。
「うわあああ!!!!」
閑也にしがみついてしまったものだから、彼はバランスを崩してその際に懐中電灯を落としてしまう。それはころころと転がって茂みの向こうに落ちて行ってしまった。
「おいおいどうすんだよ灯りなしじゃキツイぞ」
うんざりしたような閑也の声と共に、真っ暗闇の中で岩橋の意識は深い淵に落ちて行った。

.

16 :ユーは名無しネ:2014/03/02(日) 20:30:56.34 0.net
第二組 嶺亜&栗田&顕嵐トリオ

「両手に王子様とか僕幸せだよぉ」
中村はごきげんだった。右には栗田、左には顕嵐とイケメン二人に囲まれてうきうきピクニック気分である。墓石はカルストに見えなくもないし、枯れ木には花が咲いているように思え、カラスの鳴き声も小鳥のさえずりに聞こえるようだった。
オバケが出てきたらどっちに抱きつけばいいだろう…頭はそんな悩みでいっぱいだ。
「おいおめーくっつきすぎじゃね?ちょっと離れろ」
栗田は中村の肩を抱き寄せて顕嵐を牽制した。
「あ、ごめん」
顕嵐はスマートな動きで一歩離れる。ああ、紳士イケメンと自然体イケメンのどっちを選べばいいのぉ…?れあくりはジャスティスだしぃフォーエヴァーだけどぉれあらんも最近キてるよぉ…と中村が脳内にお花畑を作っていると懐中電灯であたりを照らした顕嵐の顔が青ざめた。
「どぉしたのぉ顕嵐くん?もしかしてオバケぇ?」
中村が問うと、顕嵐は首を横に振って少し震える声でこう囁いた。
「ここって意外と高いんだね…こっちが崖になってて…」
言われてみれば道の脇は急な崖になっていてかなりの落差だった。落ちたらひとたまりもないよぉ、と思っていると顕嵐がこう告白する。
「実は高所恐怖症で…オバケより高いところが苦手なぐらいで…」
「ギャハハハハ!俺は高いとこ大好きだぜ!!」
栗田が得意げに叫ぶ。中村はうんうんと頷きながら
「そうだよねぇ栗ちゃんと煙は高いところ好きだもんねぇ頼もしいよぉ」
と握った手に力をこめる。頼もしい栗ちゃんも素敵だけどイケメンが怯えてるところもまたいいよぉ…とうっとりしながら中村はもう一方の手で顕嵐の手を握った。
「怖い時はぁこうして手を握れば怖くないってJJLっていう番組で見たよぉ」
三人で手を繋ぎながらスキップ気分で中村は栗田と顕嵐とともに先を行くと、少し行ったところで見覚えのある人物が見えてくる
「あれぇ?」
そいつは全速力で逆走して通り過ぎて行った。

.

17 :ユーは名無しネ:2014/03/02(日) 20:31:53.56 0.net
第三組 倉本&中村(海人)ペア

「実際さー、罰ゲームとかよりご褒美の方がやる気出るよな」
たけのこの里を口に放り込んでボリボリやりながら倉本はぼやく。
「ほんとだよねー。優勝したら回転寿司食べ放題とかにしてくれたら優勝する自信あるんだけど」
きのこの山を次々にたいらげながら海人も同意した。
「けどよー、俺らってそれぞれのクラスで大食いキャラとして定着してんじゃん?でも最近俺思うんだよね。それだけっつうのも限界あるかなって。縦に伸び出してそんなにぽっちゃりでもなくなってきたしよ」
倉本が胸中を曝け出しながらじゃがりこチーズ味をかじると海人はうんうんと頷きながらカントリーマァムを次々に開ける。
「まあねー。俺なんかはほら、その他にもアニメオタクキャラができつつあるんだけどさ、正直大食いもアニメオタクもアイドルにとってはマイナスでしかないと最近思い始めてきてね。
顕嵐なんかは紳士イケメンとして確立してるし、梶山なんかは開き直ってオッサンキャラ貫いてるけどね」
「うちもさー、腹痛キャラとかなにかってえとすぐ回りだす担任ラブキャラとか乙女ドSキャラとかアホキャラとかエロキャラとかセレブキャラとかネガティブキャラとかでけっこう個性激しいんだよね。大食いだけじゃ埋没しちまうから悩みどころなんだよな」
「そっち個性強いっていうかある意味芸術だもんね。俺ら5人とはいえまだまだ模索中でねー。この長身を活かしたキャラ作りってないもんかなー」
「色々大変だよなー。大食いもそんな楽じゃねーしよー」
「だよねー。あ、期間限定のポテトチップスしあわせバター味あるけど食べる?お近づきの印に」
「まじかよそんなんあるの?うみんちゅお前ってやっぱいい奴だなー。今度俺の漫画コレクション貸してやるよ」
すっかり友情が深まった倉本と海人の前に突如として人影が踊り出る。二人は驚いてポテトチップスしあわせバター味を落としかけた。
「ちょっとおいこらシャレんなんねーぞしあわせバターがおじゃんになったらどうしてくれんだよ!!」
倉本が激怒しながらその人物に怒鳴ると海人がしあわせバターを死守しつつ首を傾げた。
「あれ?閑也じゃん。何やってんのお前一組目でしょ?」
不思議がる倉本と海人だが、閑也はただぜえぜえと息を切らしてこう呟くのみであった。
「デーモンが…デーモンが…」

.

18 :ユーは名無しネ:2014/03/02(日) 20:32:28.65 0.net
第四組 神宮寺&宮近ペア

「やっべーなこの雰囲気…怪談モノとか今度見てみるのもいいかもな…これが終わったら早速検索だ」
神宮寺は程良い恐怖心を興奮に置換して心拍数を上げている。チャラ男キャラだが意外と小心者…そのギャップが自分でも魅力だと思っている。
「なになに怪談モノって。そんなんあるの?教えてよ!」
興味津々で宮近がノってくる。思春期男子そのもののノリに神宮寺のテンションも上がった。
「それでよ、さっき女子風呂覗けんじゃね?と思って窓の外見たらよ暗闇にボーっとなんかが浮かびあがって…」
「あ、それ俺も見た!やっぱ女子風呂覗きは定番だしな。ちょうど墓地の方角だったよな」
「幽霊でもさー色っぽくて巨乳の幽霊だったら大歓迎なんだけどな。初体験が幽霊とかちょっと面白くね?そーいうAVあんのかな?」
Y談にお花畑を作りながらどしどし進むと、ちょうど墓地の真ん中あたりにぼうっと灯りのようなものが浮かび上がっているのが見えた。
「おい宮近…なんだありゃ?」
「さあ…美人の幽霊かな?」
二人は唾を飲む。怖い。が、美人の幽霊なら見てみたい。恐怖心と好奇心の狭間で揺れた。
「宮近…お前確かめてこいよ。モノマネ得意だろ?幽霊にもうけるかもしれんぞ」
「神宮寺こそ…チーッス!ってチャラさ全開で行けば幽霊もフレンドリーになんじゃね?」
「いやそこは宮近、女優と熱愛報道されたお前が行けよ」
「その傷ほじくり返すのやめてくれる?ていうか初対面の設定だし世界観無茶苦茶になるじゃん」
らちがあかず、じゃんけんで決めることにした。だが置いて行かれたらそれはそれで怖いので結局は二人でそこまで向かう。だが…
「フフ…フフフ…」
背後から不気味な笑い声が響いた。振り返ってライトをあてたが誰もいない。
「おい宮近…俺の言いたいこと分かるな?」
「おう神宮寺…今日出会ったばかりだけど俺達テレパシー使えんじゃねってぐらいに以心伝心だぜ今ばかりは」
「だったら話は早い…いいな、せーので行くぞ」
「おう。せーの!」
神宮寺と宮近はダッシュで逃げた。

.

19 :ユーは名無しネ:2014/03/02(日) 20:33:11.62 0.net
第五組 羽生田&梶山ペア

「このいかにもなシチュエーション…燃えてきたぞ…フフ…」
羽生田は血の騒ぎを抑えつつ愛用のモデルガンを撫でた。悪ふざけ大好き、ハリウッド映画大好き、普段はセレブに収まっているがこういう時に眠っていた血が騒ぐのである。
その羽生田を隣で若干ヒきながら梶山は見ていた。
「そんなもん持ってきていいのか?修学旅行だろ」
「フフ…先生は黙っていてくれ。他校なのだから口出し無用」
「誰が先生だ!俺はれっきとした生徒だ!高校一年生だ!」
梶山が主張すると羽生田は目を丸めた。
「なんと…こんな老けた高校生がいるのか?うちの高橋や谷村も充分老けているがそれにしても半端ないな。一体どういう人生を歩んできたら10数年で30代の貫録が身に付くんだ?」
「自分が比較的年相応だからって言いたいこと言いやがって…寅菱学園のワイルド梶山こと梶山朝日とは俺のことだ。ようく覚えて…うわち!!」
梶山の頬の横を物凄い勢いで放たれた弾丸がかすめる。それは羽生田のモデルガンから放たれていた。
「何すんだ!危ないだろうが!!」
「すまんな。近くに気配を感じたものだから」
梶山は頬に違和感を感じて触ると薄く血が滲んでいるのを認識して背筋が寒くなる。
「それ本当にモデルガンか?充分殺傷能力あるんじゃないか?合法なのか?」
「さあな…俺が「とりあえずカッコイイモデルガンを頼む」と言ったらこれが送られてきた。使用するのは今回が初めてだが」
羽生田はモデルガンを舐めた。すでに目がイっている。こいつは何をしでかすか分からない。
「お前一体どこの何者だ!…まあいい。先を進もう。まったく…こんなことならあの暗い奴と一緒の方がまだましだったぞくそ…」
ぶつくさ言いながら進むその最中も羽生田はモデルガンをぶっぱなしている。その彼がぴたっと足を止めた。
「どうした?」
「人の気配が…あっちだ!!」
「やめろ俺に当たる!!こんなとこで乱射すんな!!おい聞いてんのか!!人の気配がするんなら尚更ぶっぱなしちゃいかんだろうが!!」
梶山の叫びも虚しく、暗闇にモデルガンの乱射音だけが響き渡ったのであった。


つづく

20 :ユーは名無しネ:2014/03/03(月) 06:50:14.54 I.net
暗いやつw
さては谷茶浜…

21 :ユーは名無しネ:2014/03/05(水) 23:10:24.17 0.net
作者さん乙でっす
うみんちゅ倉本コンビはもはや鉄板ww

22 :ユーは名無しネ:2014/03/06(木) 19:18:05.05 I.net
作者さん乙です!

梶山 羽生田コンビとは珍しいw
ホント倉本うみんちゅコンビ鉄板だわw

23 :ユーは名無しネ:2014/03/09(日) 19:24:15.60 0.net
日曜ドラマ劇場「私立神7学園高校」

第十四話

最終組 谷村&美勇人&颯&岸くん
岸くんは美勇人に頼みこんで4人で行かせてもらうことにした。どうにもこうにもこのロケーションは怖すぎる。とんだ時間外労働である。
「可愛い男の子を守ることができるなんて教師になって本当に幸せ…」
目を輝かせて美勇人は率先して最前線を歩いてくれた。頼もしい限りである。
「あの…岸くん先生…」
隣で懐中電灯を持つ高橋がおずおずと切り出す。その声は萎んでいた。
「何?どしたの?てかそんな小声で話さないでよ益々怖くなる…」
「さっきはごめんなさい…俺のせいで先生が怒られたって…」
しおらしいその態度に岸くんはなんだか忘れていた教師魂が蘇る。そうだ、俺は教師だ。肝試しでびびって怖がっている場合じゃない。こんな時こそ担任らしくあるべきだ。
「そんな気にすんなって!俺が怒られるのは毎度のことだしそうじゃないとこの話つまらないしお約束みたいなもんだからさ!ドンマイドンマイ!」
「岸くん先生…」
高橋は感激で目を潤ませる。彼の中でまた岸くんが神格化していく。懐中電灯を持つその手がぶるぶる震えたかと思うと美勇人が「しっ」と人差し指を立てた。
「これは…閑也の悲鳴…!可愛い教え子のピンチ!待ってろ閑也ああああああああああああああお兄ちゃんが助けてやるからなあああああああああ!!!!!!!!!!!」
何かを察知した美勇人は墓場の中を突っ切って行ってしまった。


.

24 :ユーは名無しネ:2014/03/09(日) 19:25:22.99 0.net
「…」
高橋は動揺した。こんな暗闇で岸くん先生と二人きり…吊り橋効果で二人の間には教師と生徒に芽生えてはならない感情が沸き上がってしまうのでは…?そんな…まだ心の準備が…
「俺もいるんだけど…」
背後の暗闇からぼそっと声がした。それは谷村だったが今高橋の脳内には彼はもう闇と同化してしまっている。
「あ、あ、あの…岸くん先生…」
何か話題、話題…沈黙になると変なムードになってしまう。ああでもそんなムードになっちゃったらもうこれはイケナイことになってしまう。
落ち着け颯。落ち着くんだこんな時はメロンパンのことでも考えよう。そしたら二人きりというこの極限状態にも耐えうるのではないか…
「だから俺もいるってば…」
また背後の闇が何かを呟いている。高橋はそれをシャットアウトした。闇は溜息をついた。
「ん?何?」
「あの…えっと…あ、明日の自由行動でど、どこを回ったらいいかな?京都って名所だらけでどこに行っていいか分かんなくて…」
「う〜ん…俺も詳しくないからなんとも言えないけど清水寺とか三十三間堂とかそういう有名なところかな?」
「そ、そうですか…清水の舞台からヘッドスピンして飛び降りたらど、どうなるかな…?」
ああ、もう心臓が限界だ…高橋は喘いだ。こんな状況で平静を装えっていう方が無理がある。いっそのことオバケでも出てくれた方がいいかも…。ああ、でもそうしたら岸くん先生に抱きついてしまって更に変な雰囲気になるんじゃなかろうか、どうしようか…
高橋の脳内がオーバーヒートしかけているとどこかで銃声のようなものが鳴り響いた。
「うわああああああああああ!!!!何今の音!?なんなのなんなの!?幽霊?オバケ!?うわああああああああああああああああああああ」

25 :ユーは名無しネ:2014/03/09(日) 19:26:51.66 0.net
びびって取り乱す岸くんの可愛さと幼稚さにまた高橋が胸をきゅんとさせていると突然墓場の中から人影が飛び出す。その人影は岸くんに抱きついた。
「はああああああ岸くん先生のピンチ!!ていうかうらやましい!!岸くん先生から離れろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
逆上した高橋は高速ヘッドスピンを始めた。
「ちょ、待て…!!おい颯、俺だ、神宮寺だっつってんだろおい!!」
「神宮寺とりあえず俺から離れてえええええええハリケーンが来るうううううううううう!!!」
岸くんが必死に高橋のヘッドスピンを止めようと抱きついてきた神宮寺を離そうとすると今度は後頭部に激痛が走った。
「いで!!なんだこれ…いで!痛い痛い!!」
細かい粒のようなものが次々に当たってきて岸くんは悶えた。
「オバケはどこだ…この羽生田挙武が成敗してくれるわ…フフフ…!!」
なんとそれはライフルを持った羽生田であった。すでに目がイっていて説得は困難な様子である。もう無理。岸くんは全力で逃げた。走って走って走りついた先には…
「…岩橋?」
ゆらりと誰かが立っているのが見える。背格好は岩橋のように見えたから恐る恐る近づいたがやはり彼である。ちょっと安心して気を抜いたのだが…
「え?」
いきなりがしっと両腕を掴まれたがそれが尋常な力ではなかった。野球経験者とはいえどちらかというと華奢な岩橋の腕力とは到底思えない剛力…岸くんは本能的に恐怖を覚えたがもう遅かった。
「岸くん…トントンしてあげるね…」
すでにその眼はいつもの頼りないウェットな岩橋のそれではなかった。瞳の奥が妖しく光っている。最早それは人間のものではなく悪魔そのものだった。

26 :ユーは名無しネ:2014/03/09(日) 19:27:45.87 0.net
「ちょ…岩橋…何する気!?先生に暴力はいけません!校内暴力断固反対!!」
「優しくしてあげるからね…」
そう囁くと岩橋は物凄い力で押し倒して来た。抵抗しようとしたがそれが全く無駄であるほど岩橋は超人的な力でねじ伏せる。
「うわああああああああああちょっと待て無理いいいいいいいいいいいやめてええええええええええ犯さないでええええええええええ結婚するまで綺麗な体でいたいのおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
思いがけない貞操の危機に岸くんは叫んだ。まさかこんな形で失うなんて…お父さんお母さんごめんなさい、優太は穢れた子になってしまいます…生まれ変われるなら貝になってもう全てを閉ざしてしまいたい…
白目を剥きながら意識を遠くに飛ばしていると、突然その力が止まった。
「…?」
薄眼を開けると微かな眩しい光が挿し込んでくる。
「何やってんのぉ岸ぃ」
「ギャハハハハハ!!おめーらこんなとこでプロレスか!?やめといた方がいーんじゃね!?」
中村と栗田が笑っている。彼らの照らす懐中電灯の光を浴びて岩橋はまるで憑物が落ちたかのようにきょとん、としていた。
助かった…俺の貞操は守られた…
安心感と疲労とで岸くんはその場に倒れ込んだ。


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27 :ユーは名無しネ:2014/03/09(日) 19:28:56.03 0.net
「生きてるって素晴らしい…綺麗な体でいられるって素晴らしい…」
肝試しは結局誰が一番早くゴールしたのかがうやむやになり、羽生田がぶっ放したモデルガンの銃声音を聞きつけた旅館の従業員が警察に通報してしまったがために岸くん達は慌てて旅館に戻ることになった。
「可愛い教え子達が無事で何より。さ、寝よう。おに…先生が寝かしつけてあげるからね」
美勇人はご満悦の様子で消灯し始める。まだ起きていたい神宮寺と栗田はぶーたれたが岸くんも疲れ果てていたからそれに倣った。
「おやすみ…いい夢見られますように」
そう願って蒲団に入った時である。
「…フフ…フフフ…」
暗い部屋に不気味な声が谺する。岸くんはこの声に聞き覚えがあった。本能的に恐怖を感じて飛び起きるとそこには再び澱んだ目をした岩橋が…
「うわあああああああああ!!!灯りつけて!!!デーモンが来る!!!!!!!」
岸くんが叫ぶと誰かが素早く点灯させた。そうすると岩橋は通常モードに戻る。
「岩橋は暗くなると人格変わるからぁ…電気つけて寝た方がいいかもねぇ」
中村がそう言って栗田と一緒の布団に再び入って行った。
「マジシャレんなんねーよこの俺の腕力でも敵わないんだからさ」
閑也がぐちぐち言いながら蒲団を被る。彼もどうやら恐怖体験を味わったようである。
「なんなんだ皆…まるで人のことを腫れもののように…いじめだ…これはいじめだ…」
涙ぐみながら岩橋は蒲団に入る。全員が寝付いたのを確認して岸くんも蒲団を被った。
夢すら見ず泥のように眠り、翌朝は自由行動でこれまた7組の監視に追われた。そんな岸くんの修学旅行の唯一の収穫は嵐山のお土産屋さんで買った青い唐草模様の扇子である。
帰りの新幹線では汗だくの体をそれで扇ぎつつ東京駅で教頭に起こされるまで爆睡であった。


つづく

28 :ユーは名無しネ:2014/03/09(日) 20:51:30.02 I.net
作者さん乙です!!

谷茶浜のセリフ「俺もいるんだけど」
だけw
さすが不憫2ww

29 :ユーは名無しネ:2014/03/09(日) 21:44:08.03 0.net
ひんがら目気色悪すぎこっち見んな死ね。ひんがら目気色悪すぎこっち見んな死ね。ひんがら目気色悪すぎこっち見んな死ね。
ひんがら目気色悪すぎこっち見んな死ね。ひんがら目気色悪すぎこっち見んな死ね。ひんがら目気色悪すぎこっち見んな死ね。
ひんがら目気色悪すぎこっち見んな死ね。ひんがら目気色悪すぎこっち見んな死ね。ひんがら目気色悪すぎこっち見んな死ね。
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ひんがら目気色悪すぎこっち見んな死ね。ひんがら目気色悪すぎこっち見んな死ね。ひんがら目気色悪すぎこっち見んな死ね。
ひんがら目気色悪すぎこっち見んな死ね。ひんがら目気色悪すぎこっち見んな死ね。ひんがら目気色悪すぎこっち見んな死ね。

30 :春休み直前スペシャル 岸家の人々2:2014/03/16(日) 19:09:19.04 0.net
第九話 その1

「受験票…筆記道具…腕時計…電車賃…連絡用携帯電話…参考書etc…よし、忘れ物はないな」
リビングで家族全員が輪になり、龍一の荷物チェックをする。挙武が一つ一つ確認して鞄に入れた。
「体調は?龍一」
岸くんが訊ねると龍一は頷き、大丈夫という意を示した。
「消化にいいものとぉ頭にいいものちゃんと詰めといたからぁ…ゆっくり噛んで食べるんだよぉ。今日だけはぁ全部龍一の好きなものしか入れてないからぁ」
嶺亜がそう言って弁当箱を手渡す。
「おい龍一!俺が究極のリラックスのおまじない教えてやるぜ!これさえやりゃあプレッシャーなんて消えてなくなっちまうぜ!俺も去年これで乗りきったからな!ギャハハハハハハ!!いいか、手の平にだな…」
恵が言いかけて勇太がツッコんだ。
「おい恵、まさか「人」っていう字を三回書いてそれ飲み込む、とかじゃねーだろうな?」
「なんでおめーが知ってんだよ俺の必勝法を!!」
「…龍一、このアホはとりあえず無視していいぜ。この勇太お兄様が疲れた時に元気が出る動画を…」
「おめーの動画は下半身が元気になるだけだろ!!んなもん受験会場で見たらつまみ出されんぞコラ!!」
恵と勇太がやりあうその横で郁がハムエッグをもぐもぐ食べながら冷静に時計を見る。
「もうそろそろ出た方がいいんじゃね?てかさー、何もわざわざ颯兄ちゃんが付いて行かなくてもタクシー呼んで行けばよくね?」
「いや、郁…龍一の運の悪さと不憫さを甘く見るな。渋滞に巻き込まれたり事故ったりするかもしれん。電車の方が確実だ」
挙武がきっぱりと断言すると皆がうんうんと頷いた。
「大丈夫だよ皆!龍一のことは俺に任せて!!ちゃんと責任持って受験会場まで送り届けるから!この日のためにちゃんと二人でD高まで行ったし道もちゃんと覚えてるし」
どん、と胸を叩いて颯は言い切った。頼もしい双子の兄の言葉に皆胸を熱くする。そして岸くんは今こそ父親の出番…とばかりに総括した・
「龍一、皆がついてる。だからお前は絶対受かるよ。大丈夫。俺達を信じて、自分を信じて当たって砕けろ!!」
拳を握ってそうしめくくったが恵に「砕けてどうすんだおめー縁起でもねーこと言うな!!」と蹴りを入れられた。岸くんは仕切り直す。
「いてて…今のは言葉のアヤで…。ちゃんと昨日嶺奈の遺影にも上手くいくよう手を合わせてきたからきっと天国でお前のママも見守ってくれてるよ。帰ったら大好きなプリン食べようぜ」
「ありがとうパパ…兄ちゃん達…颯、郁…がんばります…絶対合格するから」
龍一は固い意思を瞳に宿してそう宣言し、第一歩を踏み出した。
「あ」
ちょうどそこに郁が飲みほしたファンタオレンジのペットボトルがあり、見事に龍一はそれを踏んづけて滑って転んだ。
「…」
沈黙。
起き上がった龍一は涙目で高速自我修復に励む。出だしの第一歩からつまづき、不吉なことこの上なし。そこに庭に黒猫が迷い込んで叫んでいるのが見えた。続いてリビングの掛け時計が傾いて落ちてくる。
「…」
どんよりしたムードが漂う。龍一の放つ尋常ならざる負のオーラにたった今まで盛り上がっていた気分はどん底にまで落ち込もうとしていた。
「と、とにかく、龍一がんばれ!勝利の女神がお前に微笑んでいるぞ!ほら!嶺亜!!女神の微笑みで励まして!」
「龍一がんばってぇ。ヘマしたらおしおきだよぉ」
嶺亜はにっこり笑って言ったがこれもいつもの癖で余計に追い込むようなセリフが出てしまう。
「ああー!!そうこうしてる間にこんな時間!早く行かなきゃ龍一!行くよ!」
時計を見て颯が龍一の腕を引っ張る。慌てた龍一は玄関先でもすっ転んだ。それを皆が不安いっぱいに見守る。
「ところでよ、龍一の受験番号って何番だ?」
勇太がなんとなく訊ねると挙武がしばし考えた後こう答えた。
「確か339番…さんざん苦しむ…」
「…」
「こりゃ…ダメかもな」勇太が溜息をついた
「とりあえずダメだった時のことをもう一度考えとくか」挙武が頭を掻いた
「やっぱり龍一の負のオーラの前には僕達無力なのかもねぇ」嶺亜は指を唇に当てた
「残念会は焼き肉だな!」郁は肉屋のチラシを見始めた
「いや…龍一を信じよう。天国の嶺奈もきっと見守ってくれているはず…」
岸くんが亡き前妻を想いながら手を合わせると嶺亜がそれを横目で睨んでこう呟いた。
「パパぁ、ママはねぇ龍一のこと『あんな不憫で負け神しょった子他にいないよぉ』って断言してたからねぇ。ママなんかの力借りようとすると絶対不合格だよぉ」

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31 :ユーは名無しネ:2014/03/16(日) 19:10:19.95 0.net
「お、今日はすき焼き?豪勢だね」
夕飯の支度をする嶺亜と郁に仕事帰りの岸くんが問いかける。
「そぉ。恵ちゃんがバイト先ですきやき用のお肉安くしてもらってきたしぃ勇太が八百屋のおばちゃんに気に入られてるからぁお野菜も安くわけてもらったんだよぉ」
「あとは俺が春休みの農場体験で卵をもらってきたからな!」
郁が得意げに胸を張る。そろそろできあがろうかというところに龍一と、彼を迎えに行った颯が帰ってきて家族全員で鍋を囲んだが…
「…ダメかもしれない…」
開口一番、この世の終わりのような顔で龍一はそう呟き、リビングは凍りついた。
「…国語の問題で、途中分からない問題があってそれを飛ばして回答してたつもりだったんだけど…どうも回答欄を一つずつ間違えたかもしれない…最初の方の問題だったからあとの問題全部解答欄違いで撥ねられる…」
「…」
皆の箸を持つ手がぴたりと止まる。郁でさえも、である。
「…やっぱり俺には負け神が憑いてるんだ…この先何やってもどうせ上手くいかないんだ…」
「そ、そんなことないだろ龍一!お前の勘違いかもしれないだろ。その解答欄を空けて他の問題解いたんなら何も問題は…」
岸くんが元気づけようとしたが龍一はうなだれて首を振った。
「…最後の問題を解答しようとしたら…一つ空いてるはずなのにすでに全部の欄が埋まってしまってて…そこでパニックになってしまってあとは自分がどうしたか覚えてないんだ…もうだめだ…」
「いや…でも、1教科だけだったら他で挽回…」
「それが1限で、あとの時間もどうやって問題を解いたか覚えてないんだ…頭が真っ白になって…」
沈黙が流れる。鍋のぐつぐつと煮える音だけが虚しくこだまし、すき焼きはすでに煮えすぎてグラグラになってしまっていた。その残骸を皆が無言で自動的に口に入れて夕食は終わった。
それから一週間、龍一は生ける屍となっていた。いつもの10倍増しの暗さで同部屋の颯はいたたまれず郁の部屋に寝泊まりするほど負のオーラがだだ漏れていたのである。
そして合格発表の日…
「龍一!何言ってんの!?龍一の合格発表なんだから自分で見に行かないと!」
颯が部屋のドアを叩きながらそうまくしたてたが龍一は蒲団を被ってそれに抵抗した。
「…嫌だ…どうせ落ちてるんだから誰でもいいからそれを確かめてきて…俺には耐えられない…」
「おいおめー何言ってんだよ!おめーの合格発表をなんで俺らが代わりに行かなきゃなんねーんだ甘ったれんな!」
蒲団の上から恵が蹴りを入れたがそれでも龍一は出て来ない。
「龍一、いいから出てこい!ここにお前好みの巨乳美女のグラビアがあるぞ!」
勇太がエロ本で釣ったがしかし全く反応はない。
「おい龍一!!辛いのは分かるがこの僕だって去年、不合格と言う事実を甘んじて受け入れたのだからお前にそれができないなんて言わさないぞ!
心配しなくても不合格だった時の対処法も全て考えてあるからそんなに気に病むことはないんだ!だから行け!」
挙武が自身の苦い体験を励ましの言葉に変えたがそれでも龍一は「嫌だ」の一点張りである。
「龍一ぃ…出て来ないとおしおきだよぉ…それでもいいのぉ…?」
嶺亜がドスをきかせた声で脅しをかけると龍一は一瞬顔を覗かせたがそれでも再び蒲団を被った。
「んじゃ俺が行ってきてやるよ」
末っ子の郁が、仕方がないといった様子でそれを申し出ると岸くんが蒲団の前に座ってこう諭した。

32 :ユーは名無しネ:2014/03/16(日) 19:11:44.00 0.net
「龍一、じゃあ皆で行こう。お前が辛くて一人じゃ耐えられないなら皆で見よう。例え不合格でも皆はお前を責めたりしないよ。それは分かってるだろ?」
「…」
「お前が颯のために公立一本に絞って受験するって言った時…お前が家族みんなのこと思ってそう決断してくれたその気持ちは高校に合格するよりもずっと大事なことなんだって俺は思ったよ。結果じゃなくて課程が大事なんだって。
だから合否がどうであれ俺達は受け入れるし、お前にもそうしてほしい。不合格だから自分はダメな奴だなんて絶対思わないでほしいんだ」
「パパ…」
しばしの沈黙の後、龍一は折れたが歩くのがやっとといったおぼつかない足取りでいつ風と共に吹き散って行くか分からないような状態であった。
そして合格発表会場を目前にした門の前に到着する。会場の方から喜びの声や叫び声、その他歓声が飛んでくる。それとは正反対に泣きながら門を出て行く親子連れもちらほら目にする。まさに合格発表の悲喜こもごもである。
「龍一、行こう」
岸くんが手招きしたが、龍一はうつむいて立ち尽くしていた。
「龍一」
もう一度岸くんは龍一を呼んで手を取った。それでも龍一は泣きそうな顔で歯を食いしばっている。
「龍一ぃ、仕方ないからぁ今日は龍一が食べたいもの作ってあげるからぁ…だから行くよぉ」
反対側の手を嶺亜が握った。
「しゃーねー、今日だけは許してやるぜ!!」恵がばしっと龍一の背中を叩く。
「俺も兄貴らしいとこちょっとは見せとくか。おい龍一、今夜はお前の好きなジャンルのAV見放題のオールナイしてやる!帰りにツタヤに寄って帰ろうぜ!」勇太がぴしっと龍一の額を弾く
「まあ今日だけは僕のコレクションのモデルガンをいじらせてやってもいい。今日だけな」挙武がぺん、と龍一のお尻を叩く。
「龍一、帰りに俺のイチオシのメロンパン買って帰ろう!だから行こうよ!!」颯が前方を指差す
「どーしても嫌なら俺が見て来てやるからさ、龍一兄ちゃん」郁が前を歩く
「…」
兄弟達と岸くんに背中を押されて、龍一はようやく門をくぐる。そして震える足で合格発表の掲示板の前まで歩いた。人だかりの中を掻きわけて、受験票を手に龍一は自分の番号を探す。その後ろ姿を岸家一同が固唾を飲んで見守った。
ややあって、龍一が振り向く。その眼は大きく見開かれ、唇はわなないていた。
「龍一?どうだった!?」
岸くんが訊ねると龍一は震える声で
「…あった…」
と掠れた声で呟いた。

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33 :ユーは名無しネ:2014/03/16(日) 19:13:21.64 0.net
「本当だ…339番。確かにある。合格だ。やったぞ龍一!!」
龍一の合格を家族全員がこの目で確かめ、周りがどん引きするくらい大騒ぎで胴上げをしてひとしきり騒いだその後は岸家で合格祝いパーティーが催された。どんちゃん騒ぎで夜を明かし、岸家は颯と龍一揃ってサクラが咲いた。そして入学式を迎える。
「良かったねぇパパぁ。龍一と颯の入学式が午前と午後で分かれててぇ。颯は絶対入学式に来てほしいって言ってたしぃ」
岸くんのネクタイを正してあげながら嶺亜は微笑む。岸くんは自分自身もちょっと前まで高校生だったのに今や保護者として入学式に参列だなんて不思議な感慨に浸った。
「パパありがとう来てくれて!俺は1年1組になったよ!あとで校門の桜の木の下で一緒に写真撮ってよ」
颯は入学式で大はしゃぎだった。陸上部の部室も一緒に見に行って噂のトラビスなんとかの先輩達も見て来た。そして午後は龍一の入学式に向かう。
さすがに超進学校なだけあって周りの保護者もどことなく上品な感じである。岸くんはその中で浮きまくっているのを痛いほどに感じる。保護者も楽ではない。

人生で初めて勝ち取った合格に龍一は少しポジティブになっているようで、入学式が終わって家に帰るとアルバイト雑誌をリビングで読み始めた。それを恵がからかう。
「ギャハハハハ!龍一無理すんじゃねーぞ。おめーまずは高校で友達作んねーと!」
「そうだよぉ龍一ぃ。中学の時だって凛と仲良くなるまでほとんどクラスの子としゃべってなかったんだからぁ。それにぃ進学校なんだから勉強だって大変だしねぇ」
嶺亜が夕飯の支度をしながらそれに加わる。龍一は苦い顔をしたが真剣にページをめくっている。
岸くんとしては恵と嶺亜の言う通り、まずは友達を作って高校生活を楽しんでほしかったが家族のために、自分を変えるためにバイトを始めたいという龍一の気持ちは尊重したかった。
そんなこんなで一週間ほど経った頃である。
「龍一…今、なんて?」
その日の夕食で龍一がぼそっと話した内容に全員が耳を疑い、挙武が「信じられない」というニュアンスを含んで訊き返した。
「…あ、明日…友達が家に来るから…」
もう一度、龍一は繰り返した。
「友達…だと…?」
勇太は絶句しながら箸を転がした。
「嘘でしょぉ…一体どうしたっていうのぉ龍一ぃ…なんか運勢まで変わってないぃ?」
味噌汁を入れる手を震わせながら嶺亜は呟いた。
兄弟達は皆顔を合わせて驚愕したが、岸くんは素直に喜ぶ。
「良かったじゃん龍一、友達できるか不安そうにしてたのに難なくできて。同じクラスの子?」
「うん…。隣の席で、ちょっとしたきっかけで話してそれから一緒にいるようになって…」
「そうなんだ。まあ同じ学校だし頭のいい子なんだろうな。大事にしろよ。やっぱ学校は友達といるのが一番楽しいから。俺もさー高校生の頃さー」
岸くんは高校時代の思い出を語ったが誰も聞いていなかった。そうこうしているうちに郁に半分食べられてしまっていた。

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34 :ユーは名無しネ:2014/03/16(日) 19:14:44.59 0.net
「んじゃバイト行ってくるわれいあ。夕飯までには帰るから」
「うん。行ってらっしゃい恵ちゃん」
恵と勇太はいつもの肉屋とファミレスのバイト、颯は陸上部の練習に出かけて行った。
「さぁてとぉ、郁ぅお庭の畑のお手入れ手伝ってぇ」
「あいよ!」
嶺亜と郁は庭に作った畑の世話に精を出す。4月の陽気に包まれて岸家の家庭菜園は少しずつ芽吹き始めていた。
「これ収穫できる時期になったらさ、庭でバーベキューとか良くね?嶺亜兄ちゃん」
「そぉだねぇ…そのうち鶏とか牛とか飼いだしたりしてねぇ」
二人できゃっきゃと笑いながら鍬やスコップを動かしていると話題は今日龍一が連れてくる彼の友達になる。
「そーいやさー、さっき龍一兄ちゃん駅に迎えに行ったけどどんな奴かなー。あの龍一兄ちゃんとよくコミュニケーションとろうなんて思ったよな」
「だよねぇ。でも凛の時も龍一と似たようなタイプでお互い安心できてたみたいだからぁ似たようなタイプの子じゃないのぉ?おとなしくてくらぁい感じのぉ」
「てことは龍一兄ちゃんに負けず劣らず暗くてネガティブで負のオーラ放ってるってことか。あ、そういや空が曇ってきたからそろそろ帰ってくるかも」
郁に言われて嶺亜が空を見上げるとさっきまで晴れていた青空が今は一面の鉛色になっていた。ひと雨来そうな感じがして嶺亜は洗濯ものを早めに取りこむことにした。郁と物干しに向かうと門が開く音がしてそこに視線をやると龍一が帰ってきたところであった。
「あ、ただいま嶺亜兄ちゃん…。えっと…友達の…」
おずおずと龍一が連れて来た友達を紹介しようとする。嶺亜と郁は想像と全く違った龍一の友達に目を丸くした。
「初めまして、おじゃまします。本高克樹と申します」
はきはきと明るく、礼儀正しくお辞儀をしてにっこりと輝くような笑顔で自己紹介をすると、本高と名乗った美少年は龍一に向き直る。
「龍一君が言ってた通り、綺麗なお兄さんと可愛い弟さんだね」
「あ…うん…そう言っていただけると嬉しい…」
光と闇、陰と陽…二人から放たれる全く正反対の雰囲気に驚愕しつつ、嶺亜と郁はリビングにいる岸くんと挙武に報告しに行った。

35 :ユーは名無しネ:2014/03/16(日) 19:15:58.22 0.net
「冗談言うな嶺亜。龍一にそんな明るくて朗らかな友達なんてできるはずがない。エイプリルフールはとうに過ぎたぞ」
新聞の経済欄を見ながら挙武は鼻で笑う。岸くんも映画のDVDを見ながらまたまた〜と冗談めかす。
「本当だって!目がくりくりしててチャーミングで小動物的な可愛い感じだけどガタイは意外に良くて頭も良さそうで昆虫苦手っぽい感じでなんとなく絵が超ド級に下手そうなとにかく龍一兄ちゃんとは正反対な明るい美少年なんだよ!な、嶺亜兄ちゃん」
「そぉなのぉ。可愛い子だったよねぇ…ちょっとお茶出しにもう一回覗いてこよぉ」
嶺亜はいそいそとお茶とお菓子の用意をして二階の龍一の部屋にあがった。
「龍一ぃ、お菓子持ってきたからぁお友達と食べてぇ」
部屋を開けると二人とも勉強の最中だった。こういうところはいかにも進学校の生徒らしい。難しい参考書が広がっている。
「すみません、ご馳走になります」
「どういたしましてぇ。ゆっくりしていってねぇ。汚い家ですけどぉ」
謙遜ではなく部屋の中は本当に汚かった。颯と龍一の二人部屋だが颯は部活が忙しくて部屋の整理どころではないらしいし龍一も無頓着である。よくこんな部屋にせっかくできた貴重な友達を入れようなどと思ったものである。
「龍一ぃ、お友達連れてくるなら部屋くらい片付けときなさいぃ。これじゃ恥ずかしいでしょぉ」
「これでも少し片付けたんだけど…」
「こんなの片付けたって言わないよぉ。次からお友達来る時は僕が掃除するからちゃんと言ってねぇ」
小言を言いつつ本高には笑顔で対応して部屋を出ると嶺亜は岸くんに「可愛い子だったぁ。いい子だしぃ」と報告をする。しかし岸くんからは「あんまりぶりっこしちゃいけません」という忠告が帰ってきたのだった。

36 :ユーは名無しネ:2014/03/16(日) 19:17:09.35 0.net
嶺亜が出て行った直後、本高はほうっと溜息をついた。
「優しくていいお兄さんだね。お兄さんっていうよりお姉さんかお母さんみたい。綺麗だし可愛いし…」
「そうかな…ああ見えて怒ったら怖いし小言は多いしヘマするとおしおきくらうし…いいことばかりでもないんだけどね」
しかし兄を褒められて悪い気はしない。龍一はお菓子を食べながら顔が綻ぶ。
「龍一くん家は兄弟が多いんだよね。いいよねそういうの。うちは普通の核家族だから」
「いや…多くてもあんまりいいことはないよ…。二番目の兄ちゃんはすぐ暴力ふるうし笑い声がうるさいし三番目は下ネタ大好きで家族内セクハラがひどいし四番目は嫌味攻撃と理論攻めで精神的に責めてくるし。
双子の兄は普段は穏やかだしいいんだけど回り始めると手がつけられないし末っ子は食欲の権化でうっかりしてたら全部食べられるし…パパは優しくていいパパだけど」
「お父さんって義理のお父さんなんだよね?凄いよね、赤の他人なのにそこまで受け入れてるなんて。普通なかなかよそよそしくなって気まずくなってしまうと思うんだけど」
「まあ色々あって…。その点についてはバックナンバーかまとめサイトを読んでもらえば…って何を言っているんだろ」
すっかり和んで話をしていたらけっこうな時間が経っていた。バイトを終えた恵と勇太が帰宅し、颯も部活を終えて帰ってきた。
「ただいま!あ、友達来てるんだっけ龍一。こんにちは初めまして、俺は双子の兄の颯。人見知りだけどよろしくね」
人見知りなんだかフレンドリーなんだか分からない挨拶をして颯は本高と打ち解けたようである。
「龍一ぃ、良かったら本高くんにお夕飯食べて行ってもらったらぁ?恵ちゃんが唐揚げ用のお肉たくさん持って帰ってきたからぁ」
本高を気に入ったらしい嶺亜はそう持ちかけたがしかし龍一は気が進まなかった。というのも岸家は奇人変人のオンパレードだ。至って常識人の本高には刺激が強すぎる。ドン引きで顔をひきつらせるであろう彼の姿が容易に想像できた。
「いや、でも…あんまり遅くなったら家の人も心配しそうだし…そうだよね、本高君?」
頼む、断ってくれ…と龍一は願ったがしかしその祈りは届かなかった。
「いいんですか?今日は両親が遅くまで仕事で、弟は学校行事で泊まりに行ってるから夕食は僕一人でしなくちゃいけなかったから…嬉しいです」
かくして龍一の懸念をよそに本高は岸家と食卓を囲むことになったのだった。


その2に続く

37 :ユーは名無しネ:2014/03/16(日) 23:55:59.16 0.net
キタ━━( ゚∀゚ )━( ゚∀)━(  ゚)━(  )━(゚  )━(∀゚ )━( ゚∀゚ )━━!!!!
まじ作者さん乙乙乙

38 :ユーは名無しネ:2014/03/20(木) 16:05:17.74 I.net
岸家の人々きた!!

谷茶浜よかったね〜おめでとう!

39 :ユーは名無しネ:2014/03/20(木) 16:05:54.73 I.net
岸家の人々きた!!

谷茶浜よかったね〜おめでとう!

40 :ユーは名無しネ:2014/03/21(金) 21:56:09.95 0.net
作者さんありがとう!
岸家の人々ずっと楽しみに待ってました!!

41 :ユーは名無しネ:2014/03/21(金) 22:02:49.06 0.net
谷村が中学卒業高校入学の季節にこのストーリーを持ってくるところがステキ

42 :ユーは名無しネ:2014/03/22(土) 18:05:56.72 0.net
この小説最高過ぎて泣ける!!
欲望を言えばきしれあをもっともっと書いて欲しいです←

43 :連載リレー小説 岸家の人々2:2014/03/23(日) 16:45:00.96 0.net
第9話 その2

「うちの家族は皆ちょっと変わってるから気にしないで。決してあまり深く考えないように。珍獣ハウスに迷い込んだと思って。世界ビックリ人間大賞を3D体験してるんだと思えば少しは笑えるだろうから」
夕飯ができてリビングに向かう途中で龍一は本高にそう言い聞かせた。個性的と言うにはあまりにもエキセントリック過ぎる家族をこんな常識人に紹介するのは気が進まない。
だけど兄弟達にそれらしく振る舞ってもらうなんて不可能だからせめて予備知識だけでも与えて置いた方が衝撃は少なかろう。
「龍一君て面白いね。最初会った時はそんな感じしなかったけど。そういう冗談も言うんだね」
あっけらかんと本高は笑う。駄目だ、通じてない…。純粋な彼の頭の中にはこの世の中に生息する奇人変人の類など想像もつかないのだろう。せっかくできた友達なのに、また明日からは一人かな…と龍一は覚悟した。
「いっただきまーす!」
威勢のいい郁の声で夕食は始まる。彼はまるで飲み物のように唐揚げを次々に胃袋に放り込む。最近、縦にも伸びてきてるからこのままいくと末っ子が一番巨漢になってしまいそうである。
「ギャハハハハハ!おめーこんな暗い奴と友達になってやるとかいい奴だな!ボランティアの一環か!?ギャハハハハハ!!」
早速バカ笑い全開で恵がからみにまわる。アホと秀才の対極にあるその構図になんだか皮肉なものを感じた。
「座った席が隣同士で、龍一君が筆箱忘れて困ってたからシャーペンを貸してあげたのがきっかけで話すようになったんです。僕も新しい環境で知ってる子もいなくて不安だったから」
「そぉなんだぁいい子だねぇ本高君。龍一ぃ、あれだけ学校に行く前に忘れ物ないかチェックしときなさいって言ったのに筆箱忘れたのぉ?ほんとうっかり屋なんだからぁ」
嶺亜が本高に感心しながら彼のご飯をよそった。
「頭のいい学校だし勉強とか大変でしょ?龍一もバイトするって言ってるけどそんな暇なさそうだよね。龍一、無理しなくていいからね」
岸くんが味噌汁をすすりながら優しく諭すと本高はそれをうらやましそうに見た。
「龍一君は偉いですよね。家族のためにバイトするって聞いて僕は自分のことしか考えてないからちょっと恥ずかしくなりました。でも将来なりたいものがあるから後悔はしたくなくて…」
「なりたいものってぇ?」
「医者です。そのためには大学もちゃんと選ばないといけないしそのために努力もしなきゃいけないし…」
それを聞いて勇太が指を鳴らした。

44 :ユーは名無しネ:2014/03/23(日) 16:45:49.56 0.net
「医者か!!いいな!診察で美女の裸体拝みたい放題だし産婦人科とかいいかもな!!美人ナースもいりゃあ天国だろうな。よし、女医モノでも探すか!」
ああまた下ネタ大魔王がぶち壊しにしたよ…と龍一が自我修復をしかけると本高はうんうんと頷く。
「産婦人科は今本当になり手がいないみたいだからそれも視野に入れてるんです。生命の誕生に携わる大事な仕事だしやりがいはきっとあるだろうから」
澱みのない瞳で本高がそう答えると挙武が「ほう…」と感心したように呟く。まあ挙武兄ちゃんはこの中では常識のある方だし秀才同士話も合うんじゃないか…と龍一が落ち着きかけていると挙武はいきなりその眼をヘッドライトのようにした。
「それではお近づきの印に僕がモノマネで迎えよう!まずは藤ヶ谷君のラップ…フジラップだ!!その次はサクラップ!サランラップはニュークレラップ!!」
いきなり立ち上がり、挙武はラップだのモノマネだのクオリティの低いものから高いものまで次々と連続で披露する。春の訪れとともにどうやら挙武の頭の中にはサクラが咲いているようである。恵と勇太がバカ笑いで盛り上げ、どんちゃん騒ぎである。いつものパターンだ。
「騒がしい家族でごめんねぇ。これからも龍一と仲良くしてあげてねぇ。暗くてネガティブで負のオーラと負け神を生まれつきしょいこんだどうしようもない弟ですけどぉ」
最後は嶺亜がぶりっこ全開で本高の手を握る。すると岸くんがオホン、と咳払いをする。郁は本高そっちのけでひたすら食べていたし颯はトレーニングのため空気椅子で食事をしていた。


.

45 :ユーは名無しネ:2014/03/23(日) 16:47:03.61 0.net
「大変お見苦しいものをお見せしてしまって申し訳ない…放送事故のようなものとして処理していただければ…」
やはりこうなる運命なのか…と龍一は諦めに似た感情がやってくる。所詮俺には友達なんて立派なものはできなくて一人でくら〜く自我修復してろという神様の訓示…。そう、友達と高校生活を楽しむよりも家族のために馬車馬のように働けという…
たった一週間だったけど友達ができて嬉しかった。ありがとうさようなら本高君…俺のことはもう亡きものにしてくれてもかまわないからね…
龍一が数秒でそんなことを頭の奥に響かせていると本高はあっけらかんとこう言い放つ。
「面白かったよ。なんか今までに出会ったことのないタイプの人達だったし賑やかで楽しいよね。お父さんもあんなに若いなんてびっくりしたけどいい人だよね。雰囲気もいいしうらやましいな」
「…まじで言ってるの…?」
空耳ではないようである。本高は至って平然としているから冗談というわけでもなさそうだ。
「笑い声の大きなお兄さんは頭がカラッポそうで愉快だし産婦人科に異常に興味を持つお兄さんもファッションセンスとかかっこ良くて憧れるしモノマネ披露してくれたお兄さんは面白いし。
颯くんのヘッドスピンって凄いし郁くんはとにかく食べてて豪快だしお父さんは優しそうで人が良さそうで安心できるし、それに…」
そこで本高は何故か伏し目がちになる。どこか恥らっているようにも見えた。
「龍一君のお兄さんって、可愛いよね…なんか今までに出会ったことのないタイプで…」
「は?」
お兄さんってどの?四人いるけどそりゃあ四人ともそういないタイプの奇人変人オブジェクションだ。一体どれのことを言っているのか…分かるような気もしたが分かりたくない気もする。そう懸念した矢先に本高は独り言のように呟いた。
「苦手なカブトムシも『れいあ』って名前をつけたら可愛く思えるかなぁ…」
「ちょ、ちょっと待って…」
「あ、ごめんね。お兄さんのことこういう風に想われるのって嫌だよね。こういう奴とは友達になりたくないよね?」
「いや…そんなことはないけど…」
「ほんと?龍一君って心が広いね。良かった、友達になれて」
にっこりと笑顔でそう言われ、龍一は涙が出そうになる。もちろん、これは感動が半分である。そしてもう半分は…

46 :ユーは名無しネ:2014/03/23(日) 16:47:55.20 0.net
「あんなに可愛いけど彼女とかいるのかなあ…なんか想像できないなあ…それとも彼氏がいるのかなあ…まさかね」
「は…はは…」
まさか義理の父とデキてるだなんて清廉潔白な本高の頭の中には存在し得ない予想であろう。後ろめたさに泣きそうになる。
しかし憧れは憧れのままそっとしておくのが一番だ。龍一はそう判断した。家族の話はこの先ひかえよう…そう決心したのだが…。
「これは…」
あくる日の休み時間、ひょんなことから龍一は本高の持つスマホの画像フォルダを見てしまった。見るつもりなど全くなかったが不慮の事故だ。偶然だ。そこにあったものは…
「嶺亜兄ちゃん…?」
一体いつどこで撮ったのか、それは嶺亜の画像だらけだった。どう考えても男子高校生が男子高校生の画像を集めているのは普通じゃない。例え憧れという理由付けがされていようとも。
龍一は全身から血の気が失われて行くのを自覚する。見なかったことにして本高とは距離を置くのが一番いいかもしれない。だが…
「あ…」
5限が始まる直前、問題集を忘れてしまったことに気付く。今日の授業は問題集がなくてはどうにもならない。忘れると大幅に遅れを取ってしまう。
「どうしたの?あ、問題集忘れたの?良かったら見せてあげるよ」
焦っていると本高が察してくれて問題集を見せてくれた。それだけではなく、昼休みは一緒に食べようと誘ってくれて購買で買ったパンまでくれた。
こんないい友達と距離を置くなんてできるわけがない。ただでさえ暗くてネガティブで友達を作るより東大に合格する方が簡単な気がするくらいなのにそんな勿体ないことしたらもう未来永劫独りぼっちで生きなくてはならない気がした。
ならばせめて嶺亜と岸くんの道ならぬただならぬ関係を決して悟られることのないよう努めよう。龍一は固く心に誓う。

47 :ユーは名無しネ:2014/03/23(日) 16:49:08.26 0.net
「龍一くん…ちょっと頼みたいことがあるんだけど…」
放課後、一緒に下校すると本高がそう呟いた。少し浮かない表情である。
「何?」
「大変あつかましいんだけど…いや、やっぱりあつかましすぎるかな…」
本高は悩んでいる風だった。だから単純に龍一は力になりたいと思ったのである。問題集を見せてくれて、一緒にお昼を食べてくれて、パンまでくれた。こんなに親切にしてもらってるんだから何か一つくらいは恩返しをしないといけない。
「そんな遠慮しないでなんでも言って。俺にできることならなんでもするから」
龍一は自分の軽はずみな言動を後に激しく後悔することになる。本高は少し安心したようにこう言った。
「あのね、両親が明日から親戚の結婚式に行くんだ。北海道だから明日は帰って来なくて…。弟は付いて行くんだけど俺は勉強が遅れると困るからって残ったんだ。
でも一人で家にいるのは不安で…。龍一くんの家って家族が多くて賑やかで楽しそうだから泊めてくれると嬉しいんだけど…」
冗談じゃない。泊めるとなれば奇人変人ブラザーズが何をしでかすか分からないし嶺亜と岸くんの関係がバレる可能性が高くなる。絶対ダメだ。これは断固断るべき…
龍一が断る理由を考えていると本高はふっと暗い表情になって俯いた。
「あ…やっぱダメだよね…。ごめん、忘れて」
「いや全然!うちの家族は変わってるけどそれでもいいって言ってくれるなら大歓迎だよ。むさくるしい家ですがよろしければいつまでもいてもらってかまわないから」
口が勝手に回ってしまった。後悔先に立たず。龍一は本高を泊めることを約束してしまった。

48 :ユーは名無しネ:2014/03/23(日) 16:49:58.23 0.net
「まずい…非情にまずい…」
「何がまずいの龍一?嶺亜くんの作ったご飯まずいなんて言ったら素っ裸で外に放り出されて二度と家に入れてもらえなくなるから滅多なこと言わない方がいいよ」
隣で筋トレをしながら颯がトンチキなことを言っているが龍一はそれに付き合う余裕がない。なんとかしてこの危機的状況を脱しなくてはならない。考えろ、考えるんだ龍一、お前の頭脳はこんな時のためにあるんだろうが。
颯を無視して思案にあけくれていると彼は「あ」と何かに気付いたように筋トレを一時中断した。
「始まっちゃった。まだ10時なのに。今日は早いね」
時計を見ながら颯が呟いたと同時に壁の向こうから艶めかしい声が響いてきた。
「やだぁ…パパ、ちょっとそんなの無理ぃ…んっ…んんっ…!!」
忘れていた設定ではあるが龍一と颯の二人部屋は岸くんと嶺亜の寝室の隣である。壁一つ隔てて夜はあの声がわりとダイレクトに聞こえてくるのだ。
「あっ…やだっ…ダメだってばぁ…」
「もうちょっとだけ…ここをこう…おおっ…おおお」
「パパぁ…絶対出したらダメだからねぇ…黙って出したらもうしてあげないよぉ」
「分かってる分かってる…あっ…いい…!」
龍一は絶句する。こんなの聞かれたらもう終わりだ。三月は岸くんが長期出張があったりして随分溜まっているのか回数も内容の濃さもハンパない。
「始まったか!よしきた!今日のプレイは何かこの勇太お兄様が当ててみせようぞ!」
そうすると嬉々として盗み聞きに勇太がやってきて勝手にY談にお花畑を作るのである。エロ談義独演会を始めてティッシュ持って来いとパシられた。

49 :ユーは名無しネ:2014/03/23(日) 16:50:35.62 0.net
「駄目だもう…せめて明日だけは我慢してもらうようパパに頼むしかない」
大丈夫、パパは優しいしいい人だから聞いてくれる。可愛い息子のためならば…
「そんなの駄目だよ龍一!パパはね、嶺亜くんとすることだけが楽しみなんだからその楽しみを奪うなんてとんでもないよ!俺からヘッドスピンを奪うようなもんだ!」
岸くんバカが何か言っている…しかし折れるわけにはいかない。反論しようとするといつの間にか部屋にいた挙武がコップを壁にあてて耳に付けながらこう忠告してきた。
「パパはともかくとして龍一、お前が嶺亜にもの申すことなんてできるのか?まあ僕は止めないがな。明日にはお前が全裸で庭に作られた小屋に生活していると思うと兄としては心苦しいな」
「…」
龍一は己が全裸で犬小屋のような粗末な空間で震えながら生活してる様が脳裏に浮かび、気が遠くなった。
忘れてた。俺が嶺亜兄ちゃんに何か言おうものなら絶対零度でねじ伏せられるだけなのだと。
やっぱり友達を失うフローチャートになってたんだと絶望しながらリビングに降りると恵がプレステでバイオハザードをプレイしていて、叫びながら次々にゾンビをなぎ倒していた。
アホは悩みがなくていいよな…と思っていると声をかけられる。
「おい龍一。まだパパとれいあはヤってんのか?」
「え?あ、うん。今佳境みたいで…」
「なんかムカつくから俺が協力してやる。明日あいつらにヤらせなきゃいーんだろ?」
「え?今、なんて…」
我が耳を疑っていると最後のゾンビを倒してステージクリアした恵は立ち上がって龍一にこう言った。
「恵「お兄様」が弟のためにひと肌脱いでやるっつってんだよ。感謝しろよオメー!」
蹴りをいれられたが、溺れる者はなんとやら…龍一は恵の協力を得ることになった。


その3につづく

50 :ユーは名無しネ:2014/03/24(月) 08:15:24.31 0.net
早く続きみたいです!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

51 :ユーは名無しネ:2014/03/26(水) 00:10:02.63 I.net
作者さん最高です!
面白い作品をありがとうございます!
辛いことがあってもここを見れば神7への思い、
楽しいお話があって玄樹が出ます^_^
これからも頑張って下さい!

52 :ユーは名無しネ:2014/03/30(日) 23:32:06.38 I.net
51です
誤字ですw
元気がでます!

53 :ユーは名無しネ:2014/03/31(月) 03:04:46.34 0.net
デブ豚死ねデブ豚死ねデブ豚死ねデブ豚死ねデブ豚死ねデブ豚死ねデブ豚死ねデブ豚死ねデブ豚死ね
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54 :ユーは名無しネ:2014/04/06(日) 21:42:29.59 0.net
第九話 その3

嶺亜は隣の部屋で兄弟達が聞き耳をたてていることを薄々勘付いていた。だから今夜はそこそこに切りあげるつもりでいたのだがいかんせん岸くんがやる気になっちゃっている。
「それでは続きまして…」
「ちょっと待ってパパぁ、颯達の部屋で勇太とか挙武が聞いてるよぉ。今夜はもぉこれくらいにしとこうよぉ」
「それは無理です」
キッパリハッキリと岸くんは言い切った。分かっていたことではあるがこの状態の岸くんと止めることなでできるはずもない。嶺亜は諦めて受け入れようとしたが…
「!?」
いきなり部屋の扉が開いた。驚いてそちらを見ると難しい顔をした恵が立っている。
「恵ちゃん!?なに?どぉしたのぉ?」
「け、恵…今お取り込み中なんだけど…」
嶺亜と岸くんが焦っていると恵はずかずかと入りこんで来て嶺亜の腕を掴んだ。
「な、なぁに?恵ちゃん?」
「れいあ、今夜は俺と寝るぞ!明日もな!」
「えぇ?あっちょっと待ってよぉ服くらい着させてよぉ」
嶺亜を半ば引き摺るようにして恵は強引に自分の部屋に連れ去る。岸くんは全裸で放心状態になった。一体どういう風のふきまわしだろうか。ここにきてブラコン魂がまた再燃してしまったのか。慌てて服を着た嶺亜は恵に問いかける。
「恵ちゃん急にどうしたのぉ?なんで一緒に寝るとか言いだしたのぉ?そりゃあ小さい頃は毎日一緒に寝てたけどぉ」
「れいあ、れあくりはフォーエヴァーなんだよ!例え今現在の俺が行方不明でもれあくりは確かに存在した青春の証なんだよ!俺がギャハハと笑えばれいあがうふふと笑う、そんな仲なんだよれあくりは!お前の誕生日にれあくりメモリーBDを見ながら作者は涙してんだよ!
だからこれから暫くは俺と一緒に寝んだよ、いいな?」
何を言っているのか全く分からないけど必死なことだけは伝わってきたから嶺亜は首を縦に振ることしかできなかった。

55 :ユーは名無しネ:2014/04/06(日) 21:43:40.45 0.net
嶺亜を連れていかれて岸くんが全裸で拗ねているとコンコンと部屋のドアをノックする音がする。今度はなんだと振り向くと枕を抱えた颯と夜食のスルメをかじった郁が入ってきた。
「パパ、嶺亜くんがいなくて寂しいだろうから今夜は俺達が一緒に寝てあげるね!」
颯ははりきって挙手をした。
「寝てやるから明日帰りに老老軒の肉まん買ってきてくれよパパ」
郁はスルメをへけもけと口の中で噛みながらたかってきた。
「いや…あの…お二人の気持ちは嬉しいんですけど…」
岸くんは丁重に御断りの方向でいった。というのも息子とはいえ颯はすでに岸くんよりかなり大きくてガタイもいいし郁は最近食欲のせいで加速度的に体格が大きくなってきてもう岸くんは身長を抜かされてしまった。
こんな二人に挟まれて寝たらどんなことになるかは想像せずとも分かる。
「せ…狭い…」
ダブルベッドに男三人川の字はきつい。これでは翌朝寝違えること必至である。
「パパ、あのね、今日学校の部活で朝日がね…」
「なーパパ聞いてくれよ。みずきがよー…」
しかしながら、最近忙しくてまともに子ども達の顔も見ていない話も聞いていないことに岸くんは気付いた。
たまにはこうして話を聞くのも悪くないかな…そう思い直して岸くんは颯と郁の新学期の生活から朝食のリクエストまでえんえんと話を聞いた。
「それにしても恵兄ちゃんはなんでまた急にブラコン魂が復活したんだろ」
郁が疑問を口にした。
「さあ…そりゃまあここでしかれあくりは見れないからな…って何言ってんだ俺は」
岸くんは自分の頭を小突く。
「龍一とさっきなんか話してたみたいだけど…。珍しいよね、龍一は恵くんに何か言うとすぐ蹴られるから嫌だって言ってたのに」
「俺夜食取りに行った時ちょこっと話聞こえてきたけど明日誰かうちに泊まりにくるみたいだぞ。来るなら手土産持参してもらわないとな」
「へえ。龍一と恵がねえ…。でもそれとブラコン復活となんの関係があるんだろう?ま、いいか。明日も早いしそろそろ寝よう。颯、寝ぼけてヘッドスピンだけはやめてね。郁も腹が減ったからって噛みついてくるのはやめてね。おやすみ」
「うん、おやすみパパ」
翌朝、やはり岸くんはベッドから放り出されていて首と腰が痛かった。

56 :ユーは名無しネ:2014/04/06(日) 21:44:39.54 0.net
「つーかよ、れいあとパパがデキてるってことを本高に気付かれずに帰ってもらえりゃそれでいーんだろ?」
恵と龍一は一緒に家を出る。学校へ向かう道で昨夜の相談の続きを始めた。本人達はもちろんのこと他の兄弟に漏れるとややこしいからである。
「そうだけど…昨日嶺亜兄ちゃんは怒ってなかった…?パパとのアレの邪魔をして…」
「あ?そんなん、れいあが俺に怒るわきゃねーだろ。おめーとは絆がちげーんだよ、キズナが!」
いきなり蹴られた。だが逆に頼もしいと言わざるを得ない。もしも龍一が同じことをしたら逆鱗に触れて全裸で叩きだされていただろうが恵だったら「どぉしたのぉ?」で済むのだから。
「れいあは可愛いからなー。悪い虫がやってこねーように追い払うのも楽じゃねーぜ。まあ悪い虫どころかパパみてーな汗だく涙目ほうれい線野郎とデキちまったんだからもう俺もそろそろブラコン卒業かとも思ったんだけどよ」
「そんな…本高くんは悪い虫なんかじゃ…むしろあんな純情で真面目な好青年を誑かす嶺亜兄ちゃんの波打つ魔性のDNA異次元フェロモンに問題があるわけで…」
「あ、言ってやろ。れいあに言ってやろー!龍一がれいあのことウルトラ淫乱尻軽ぶりっこ上目遣い性別不明男の娘っつってたって言ってやろー!」
「ちょ…そんなことまで言ってない…!!お願いですやめて下さいまたおしおきの絶対零度くらう…!!」
さんざん恵にからかわれて疲労感を抱えて龍一は登校した。隣の席にはもう本高が着席していて、不思議そうに龍一の顔を覗きこむ。
「どうしたの?なんかぐったりしてるけど」
「あ…いや、ちょっと昨日遅くまで勉強してたから睡眠不足で…」
「そうなんだ。凄いなあ。俺は昨日はなんだかフワフワしちゃってあんまり勉強できなかったんだ。遅れないように授業はちゃんと聞かないと」
「フワフワ…?」
「うん。今日泊まらせてもらうじゃん?お兄さん、何が好きかなあ…とか何持って行ったら喜んでくれるかなあ…とか何話そうかなあ…とかずっと考えちゃって。あ、予鈴なった。いけね、予習しなくちゃ」
本高は慌てて教科書を取り出していそいそと予習を始める。龍一は一抹の不安がよぎったがそれを無理矢理押し殺して授業に集中した。

57 :ユーは名無しネ:2014/04/06(日) 21:47:21.06 0.net
そして放課後、本高は商店街に寄りたいと龍一を誘った。本屋で参考書でも買うのか手土産のお菓子でも買うのかと思っていたら彼は花屋で足を止めた。
「喜んでくれるといいんだけど…」
はにかみながら本高は真っ赤なバラの花束を購入する。
「…」
花より団子の末っ子始め岸家には花を愛でる殊勝な心がけのものなどいない。花よりゲームの二男、花よりAVの三男、鼻は高いが花には全く興味のない四男、花より岸くんの五男、そして長男は花なんかより僕の方が可愛いよぉのスタンスである。
「あの…せっかくだけどうちにはそんな綺麗な花似合わないと思うんだよね」
「そう?綺麗な人には綺麗な花が似合うと思って。清楚な感じもいいけどこういう華やかな方が喜んでもらえそうだからさ」
その綺麗な花には無数の棘があって刺されてるとこれまた痛いんだよ、と龍一は喉まで出かかったが黙っておいた。
かくしてバラの花束を抱えた本高を迎え、第二ラウンドが始まろうとしていた。


その4に続く

58 :ユーは名無しネ:2014/04/09(水) 00:16:52.17 0.net
作者さん乙です
れあくりフォーエバーで涙が・・・

59 :ユーは名無しネ:2014/04/11(金) 07:28:13.72 I.net
作者さん乙です!!

れあくりフォーエバーサイコーです!
栗ちゃんと谷茶浜の絡みが見れて嬉しいな…

60 :ユーは名無しネ:2014/04/13(日) 23:24:21.56 0.net
ジャニーズJr.板VIP
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/lite/subject.cgi/music/28222/

2年間閉鎖してたJr.板VIPが復活したけど過疎ってるからよろしく

61 :ユーは名無しネ:2014/04/17(木) 09:48:20.18 0.net
きたぁぁぁあれあくりフォーエヴェア!!!!
本高の変態っぷりと、栗谷の協力関係もすばらしいね

62 :連載リレー小説 岸家の人々2:2014/04/20(日) 20:13:08.26 0.net
第9話 その4

「今日は無理言ってお邪魔させてもらってすみません。あの、これはほんのつまらないものですが…」
はにかみながら本高は嶺亜にバラの花束を渡す。岸くんは残業でまだ帰宅していなかったから嶺亜はぶりっこ全開だった。
「ありがとぉ。こんな綺麗なお花もらっちゃっていいのかなぁ」
「お兄さんのイメージに合うと思って…」
「お兄さんだなんてそんなぁ他人行儀だよぉ。嶺亜って呼んでねぇ」
ぶりっこ笑顔で嶺亜が微笑みかけると本高は頬を染めた。
「れ、嶺亜…くん…」
なんだかいいムードになりつつある二人を恵の強引で飾り気のない振る舞いが攪拌した。
「おい本高!お前ゲームは好きか!?好きだよな、よっしゃこっち来い俺と対戦だぜギャハハハハハ!!」
本高の腕をひっぱって恵はツインビー対戦を始めた。何故岸家にそんなカビの生えたようなレトロゲーがあったのかはともかくとして次々に兄弟達が帰ってくる。
「勇太様のお帰りだぜ!お?なんだ客か?あれお前確か龍一の友達…おいおいなんだよツインビーとかやってんじゃねーよときメモやろうぜ!」
「ときメモ…?ときメモってなんですか?」
本高がきょとん、とした顔で問う。
「お前ときメモ知らねーとかモグリかよ!いいか、ときメモはなあ…」
「なんの話をしてるんだ。おや本高くんこんにちは。今日も懲りずに龍一に付き合ってやってるのか。君もなかなか忍耐強いね」
勇太がときメモについて熱く語ろうとすると挙武が帰宅する。本高は礼儀正しく挨拶をした。
「ただいま!あれ?本高くん来てたの?こんにちは。これ高校の近くに来てた屋台で買ったメロンパンだけど食べる?」
部活帰りの颯がメロンパンを差し出すと郁が光の速さで奪い取った。

63 :ユーは名無しネ:2014/04/20(日) 20:14:37.84 0.net
「嶺亜兄ちゃん…あの…パパは…?」
ご機嫌で花瓶にバラの花束を移し換えている嶺亜に龍一が問う。
「パパは高校の時の友達と同窓会なんだってぇ」
有り難い展開だった。岸くんと嶺亜の道ならぬ関係さえ気付かれずに帰ってもらえたら後はもう安心なのだ。帰りが遅ければ遅いほどその危険が薄まるから願ってもない。
夕飯ができて岸くん抜きで食卓を囲む。今日はお好み焼きである。ホットプレート一面にタネが敷かれそれをコテで割って分けるという大家族岸家スタイルである。一枚ずつ焼いていたのではおっつかないのだ。
「パパ同窓会かよ。元同級生とランデブーしてなきゃいいけどな」
勇太が嶺亜に冗談めかすが龍一は背中に汗をかいた。お願いだからそれとなく分かるようなこと言わないでくれ…
「まあパパもたまには正真正銘の女と触れあいたいだろうからな。おっと嶺亜、コテで人の手を刺すのはやめろ」
挙武はさっと嶺亜の攻撃をよける。彼は絶対零度の人殺しの眼になっていたが本高は豚玉を食べていて気がつかない。顔をあげたと同時に女神の微笑みに戻って嶺亜は本高に話しかける。
「いっぱい食べてねぇ。あ、郁ぅ食べ過ぎだよぉポテトサラダが冷蔵庫にあるからそれ食べてなさぁい」
嶺亜のぶりっこは相変わらずだったし岸くんは帰宅が遅いからその前に本高を自分の部屋にでも連れて行けばさほど問題ないかもしれない。
何事もなくこのお泊まりが終われば明日からまた平穏な日々が訪れる…龍一は祈りながらお好み焼きを口にした。
「こら龍一ぃ、ソース零れてるよぉほんとだらしなぁい」
嶺亜にたしなめられて、慌てて龍一が拭くと本高がくすっと笑う。その後でうらやましそうに呟いた。
「いいなあ。俺もソース零して怒られたい…」
いつもならこれ絶対零度で「服に染みできるような真似したら洗濯大変なの分かってんのぉ?」って刺されるんだぞそれでもいいのか…という言葉を龍一は飲み込んだ。
本高がいるからか嶺亜は猫を被って優しいお姉さん…じゃなくてお兄さんを演じている。さすがと言うべきだろうか。
夕飯が終わり、恵が強引に本高をマリオカート対戦に付き合わせて洗いものを終えた嶺亜も参加する。
「あぁまた轢いちゃったよぉこれ難しいよぉ」
「ギャハハハハ!!れいあはカートで人轢くのがうめーな!ギャハハハハハハ!!」
恵がバカ笑いしていると本高がうっとりした表情でまた呟く。
「いいなあ。俺も嶺亜くんのカートで轢かれたい…」
龍一は思う。日曜の朝、遅くまで寝てると「ちょっと邪魔ぁ。自分で掃除しないんならさっさとどいてぇ」と掃除機で轢かれるんだけどそれでもいいのか…と。こいつならそれでも悦ぶんだろうか…

64 :ユーは名無しネ:2014/04/20(日) 20:16:11.63 0.net
「れいあ兄ちゃん、風呂入れたから俺先に入っていい?あ、冷蔵庫のコーヒー牛乳は俺のだから恵兄ちゃん飲むなよ!」
郁がバスタオルを持って風呂場に向かって行った。
「たくよー郁はちゃっかりしてやがんなー。れいあ後で俺と一緒に入ろーぜー!最近ずっとパパとばっか入ってっから今日から暫く俺とな!」
恵の際どい発言にハラハラしているとまた本高は恍惚の表情である。
「いいなあ。俺も一緒にお風呂に入って背中流しっこしたりシャンプーされて冷水や熱湯で責められてタオルを窒息寸前にまで被せられたい…」
まともな常識人だと思っていたが、龍一は本高に対するイメージが変わりそうだ。だがそんなことを言っている場合ではない。本高は嶺亜に幻想を抱き過ぎだ。初期段階でそれをやんわりと否定しておいた方がいいのではないか。
とすれば協力を仰ぐのはあの二人しかいない。嶺亜の本性を語らせるにはうってつけの三男と四男に…
「おいおいおい本高、お前さては童貞だな?女子に免疫ねーな?いいか、数々の女を相手にしてきたこの勇太様から言わせるとあんな二面性の激しい可愛いこぶりっこ小悪魔になんか騙されんなよ。
あいつピンクが大好きだよぉとか言ってっけど身に付けるのは黒系が多いしお料理大変だぁとか言ってるけど最近冷凍モン多いしとにかく自己アピールにだけは長けてっからそこんとこ騙されないようにな」
さすがだ…龍一は感心した。本人に聞かれたら「明日から勇太は犬の餌ねぇ」と言われかねないがそこはそれ。挙武も続ける。
「童貞に童貞と馬鹿にされる筋合いはないと思うが本高、嶺亜は男のくせに女々しいからな。昨日、この僕のメロンジュースを勝手に飲んだくせに「そんなに飲みたかったら名前書いとけばぁ?」なんて開き直るんだぞ。
おまけにトマトがどうしても無理ときたもんだ。全くあのぶりっこ小悪魔め」
「挙武と嶺亜の口論は一晩中でも続くからな。どっちも譲りゃしねえ。れあむオタにはたまんねえ光景なんだろうが俺はうるさくてAV鑑賞もできなくてとんだ迷惑だぜ」
勇太と挙武は嶺亜に対する愚痴を本高にこぼした。いい具合にイメージが崩れてくれればと思ったのだが…
「いいなあ。俺も嶺亜くんに犬の餌食べさせられてメロンジュース飲まれたい…一晩中口論したい…」
駄目だこりゃ、と龍一が白目を剥いていると嶺亜と恵が風呂からあがってくる。風呂あがりの嶺亜に本高はぽ〜っと魅入っていた。
「ごめんねぇお客さんより先に入っちゃってぇ。次入ってもらってねぇ龍一ぃ」
シャンプーの香りをちらつかせて嶺亜は猫かぶりぶりっこモード全開だ。分かっててやってんな…と龍一も挙武も勇太も呆れる。その後ろで颯が爽やかに挙手した。
「じゃあ本高くん俺と入ろう!どっちが長く湯船に潜ってられるか勝負!!」
また訳の分からんことを…と頭を痛くしていると本高はこう呟く。
「嶺亜くんの入ったあとのお風呂に潜る…ああ幸せ…」
もう勝手にしてくれ…と諦めの境地に達した龍一が静かに部屋の隅で自我修復を始めようとすると玄関のドアが開閉する音が聞こえた。

65 :ユーは名無しネ:2014/04/20(日) 20:17:23.13 0.net
「ただいま。終バスがなくなったから岩橋泊めることにしたよ。灯りはつけて寝てもらうから皆ご安心を…あれ?」
岸くんが岩橋を連れて帰宅した。本高の姿を見て首を傾げている。
「あ、お邪魔してますお父さん」
本高はぺこりと頭を下げる。龍一が今日泊めることになって…と説明すると岸くんはそうなんだ、と答えた後で本高に岩橋を紹介する。
「どうもこんにちは…」
岩橋は人見知り全開で挨拶をする。相変わらずである。
それからばたばたと順番に入浴を済ませてリビングでゲーム大会やら勇太推薦のギャルゲー大会なんかが催されて盛り上がったが龍一はそんな気分ではない。
さっさと床につきたかったがいかんせん本高が気にかかる。さっさと彼を連れて自室に寝に行きたかったが…
「んじゃ今日は俺とれいあが一緒に寝るかんなパパ!おめーは岩橋と寝ろ!ギャハハハハ!」
恵がさっさと嶺亜を確保した。よしこれで今夜アレの声が部屋の横から聞こえることはなくなった。ろくでもない兄だがこの時ばかりは龍一は恵に感謝した。
「あ、じゃあパパとは俺が寝る!!だって本高くんは龍一と寝るから俺が二段ベッドあけてあげないとね!」
颯が目を輝かせて挙手した。まあどうでもいいやと思っていると郁が空いた恵の部屋で寝たいと言いだした。
「とするとぉ…郁の部屋が余るよねぇ。颯のベッド、ヘッドスピンのしすぎで凹んでるからそんなとこに寝せたら本高くんが可哀想だからぁお客さん用の布団をそこに敷くかねぇ」
ということは…?と龍一が考えていると本高は先程のうっとりした目をなんと岩橋にも向けていた。
「岩橋くんって年上なのに可愛いよね龍一くん…。なんかモジモジして人見知りっぽいとことか…」
「…」
龍一は思う。本高ってこういう系にとことん弱いのではなかろうか…
しかしながら彼の興味の対象が嶺亜から岩橋に移ってくれるのは有り難い。これでもう心配することはないだろう。今夜は久しぶりに安眠できる。龍一が心の底から安堵して眠りにつくと階下から悲鳴が聞こえて来た。
後は察するとおりである。「電灯は消すな」のお達しを忘れた本高がうっかり暗闇にしてしまってデーモン化した岩橋に襲われかけたのであった。
当の岩橋本人はやはりその記憶はなく翌朝怯える本高に「これはいじめだ…」と涙目でトーストをかじって岸くんにフォローされていた。

おわり

66 :ユーは名無しネ:2014/04/21(月) 19:31:42.45 0.net
ツインビーなんだっけってつい検索しちまったじゃねーかwww
れあたんかわいいなぁ
なにはともあれ頑張れ龍一

67 :ユーは名無しネ:2014/04/22(火) 22:24:31.26 I.net
自分もツインビー検索したいわ
そして谷村が少しだけ明るくなって良かったw

68 :ユーは名無しネ:2014/04/27(日) 14:21:34.47 0.net
規制で全然感想書けないけど1スレ目からずっと楽しみに見てるよ
栗田はもうだいぶだけどついにおにくもoutで神7情勢も随分変わって来ちゃったね
個人的にはれあたんをお姉ちゃんと呼ぶという偉業を成し遂げた高橋海斗が気になる昨今

69 :ユーは名無しネ:2014/04/28(月) 23:35:00.78 0.net
日曜ドラマ劇場 Beautiful Twins

第一話

都内某所。常識外れに巨大な邸宅の一室から悲鳴が轟く。
「あああああああああああああ!!!!!!!!!!!なんでこんな時間になってるんだ!?完全に遅刻だあああああああああああああもう!!!!!!!!!!」
バタバタと部屋を出て階段を駆け降りたその先はリビングである。そこから優雅な弦楽合奏が流れてきた。曲はモーツァルトのディベルティメント第二番…しかしそんなものはおかまいなしに魂の叫びをあげる。
「どういうことだよ嶺亜これは!!!!!なんで俺の部屋の目覚まし時計が止まってるんだ!!?お前の仕業だろう!!!?」
勢い良くリビングのドアを開けると朝食のオムレツを上品に口に運ぶ嶺亜がこちらを一瞥だけした。
「いいがかりよしてくれるぅ?自分がセットし忘れただけじゃないのぉ?人のせいにすんなよぉ」
しれっと言い放ってトーストにバターを塗り始め、嶺亜はくすくす笑う。そこでまた血圧が上がった。
「俺がそんなイージーミスを犯すわけがない!!昨日ちゃんとセットして寝たのを覚えてるんだぞ!!お前が止めたに決まってるだろ!!嘘ばっかつくな!!」
「証拠あんのかよぉ」
「お前しかいないだろ!!だいたい朝は無駄に早起きなくせにいつまでもモタモタ食べて…おい、トマトもちゃんと食えよ!残すなんて非人道的な…」
「あーもううるさいなぁ。そんなのんびりしてていいのぉ?遅れるよぉ学校ぉ」
トーストをかじりながら嶺亜はリビングの掛け時計を指差した。8時10分。あと20分で教室に着くなんてどこでもドアか天狗の抜け穴が開発されない限り不可能だ。
ひとまず続きは帰ってからするとして、身支度もそこそこに飛びだしロールスロイスをぶっとばしてもらってどうにか5分の遅刻で済んだ。5分は大目に見てもらった。安堵するとふつふつと怒りが再びこみあげてくる。
「おぼえてろあの小悪魔…今日という今日は許さん…泣いて謝るまで理論攻めで言い負かしてやる…」
爪を噛み噛み、その思案にくれた。
羽生田挙武は都内の超エリート校に通う高校二年生である。
容姿端麗、学業優秀、良家の子息と3拍子も4拍子も揃った彼の将来の夢はハリウッドスターになってアメリカに永住することである。ビバリーヒルズあたりでプール付きの家でエキサイティングな毎日を過ごすことが目下の目標である。
「羽生田くん、今朝はまた大慌てだったね。徹夜で勉強でもしてたの?」
クラスメイトが話しかけてくる。お上品な学校にはお上品な生徒しかいない。多少物足りなくも感じるが学校は穏やかに過ごすべきところだと割り切ることにしていた。
「いいや。双子の兄が…どうしようもない兄が俺の目覚ましを勝手に止めたんだ。ホント毎回いい加減にしてほしいよ。おかげで朝食を食べそこねた…あの小悪魔め、帰ったらどうやって泣かしてやろうか…」
呪詛を吐いているとクラスメイトは笑う。
「そっか。羽生田くんは双子なんだっけ。一度見てみたいね。やっぱりそっくりなの?」
「とんでもない!!似てるもんか!?俺はあんなに女々しくないし裏表の激しい二面性小悪魔でもないしトマトはちゃんと食べるしそれに…」
息を吸い込んで声高らかに宣言した。
「まともな神経の持ち主だ!!」
「なんかよく分かんないけど…仲悪いの?でも二人だけの兄弟なんでしょ?」
「仲が悪いわけじゃない!あんな兄だがいてもらわなくては困る。家を継ぐのは長男の役目だからな。俺には夢があるから会社はあいつに継いでもらわないと…」
そう、家は幾つものホテルを全国チェーンとして展開しているコンツェルンなのである。当然それを継ぐのは子である挙武か嶺亜のどちらかになるが一応長男は嶺亜である。
挙武は会社経営なんて夢のない仕事はまっぴらごめんだし将来のビジョンを早いうちから見据えてそれなりに努力もしている。だから当然継ぐのは長男である嶺亜なのだが…
「羽生田くんちは桁外れのセレブだもんね。お兄さんってさ、どこの高校通ってんの?開○とか麻○とか?ここにいないってことはここより偏差値の高いとこなんじゃないの?」
「それは聞いてくれるな。おっと授業始まるぞ」
嶺亜は地元の公立高校に通っている。しかも車で5分程度の距離だから毎朝あんなに優雅に朝食を食べている。勉強が嫌いなわけでもできないわけでもないが他に興味がいきすぎてそこそこどまりなのだ。ろくでもないことには恐ろしく知恵が回るくせに…
とりあえず、帰りにもう一つ目覚まし時計を買って嶺亜に分からない場所に隠してセットしておかないとな…
そう考えながら挙武は授業をこなした。

70 :ユーは名無しネ:2014/04/28(月) 23:37:42.63 0.net
「あーもぉ寝グセついちゃってるよぉ。やだなぁもぉくせ毛はぁ」
髪の毛をいじいじしながら門の前で車から降りるとちょうど友人の高橋颯が通りかかる。
「あ、おはよう嶺亜。あれ、髪の毛変じゃない?」
「もぉ気にしてんだからさぁ。朝ご飯ゆっくり食べ過ぎて気が付いたらドライヤーの時間なくなっちゃっててさぁ」
「だったら朝ご飯を食べなきゃいいんだよ!どうせお昼にはお腹すくし」
自信満々に颯は言った。嶺亜はあーはいはいと適当に流しておいた。
高橋颯は一つ年下の幼馴染みである。この春同じ高校に進学するということで色々と高校について教えてあげている。相変わらず発想が突拍子もなく破天荒だ。こういうところは嫌いではないのだがたまについていけない。
お昼休みに二人で屋上で弁当箱を広げると颯は袋詰めされたパンをどかどかと出して来た。その全てがメロンパンである。
「見てるだけで甘ったるいよぉ。そんなに糖分摂ってるくせになんでそんな筋肉質なのぉ世界7不思議の一つだよぉ」
「糖分が筋肉にいいってことじゃない?嶺亜も食べる?」
「僕はいいよぉ。お弁当残して帰ったりしてそれが挙武にバレたらまたお説教聞かされるしぃ。そうだぁ、あのねぇ今日早起きして暇だったからぁ挙武の寝顔でも写メってやろうと部屋しのびこんだんだけどぉ
目覚まし時計が鳴ってるのに挙武ったらさぁ一向に起きる気配なくてさぁ一度止めて水でもかけて起こしてやろうと思ったら朝ご飯できましたよぉって言われてすっかり忘れてたら挙武が血眼でリビングに来てさぁ」
「嶺亜のイタズラは挙武にとってシャレになってないものばっかりだから…挙武怒ったでしょ。またこんなカッと目見開いてなかった?」
颯はそう言って挙武のヘッドライトアイズの物真似をする。けらけら笑っていると颯が急に何かに視線を奪われて話が中断されてしまった。
「あ…ふうん…なるほどぉ」
颯の視線の先にはとある人物がいる。そこで嶺亜は察した。
「かっこいいよねぇ。髪切ってなんか男らしくなったっていうかぁ…大人っぽく見えるよねぇ」
耳元で囁いても颯は聞いていない。ぽ〜っと魅入られている。
それを微笑ましく見ながら、暫く会話になりそうもないのでスマホをいじるとラインが入っていた。
「げ」
それは挙武からで、今夜は父親が客を連れて来て高級料亭に行くから予定は入れるなとあった。


.

71 :ユーは名無しネ:2014/04/28(月) 23:38:51.19 0.net
挙武はイライラしている。腕に嵌められたスイス製の高級時計の針を見てまたそれが増幅される。
「何やってんだ嶺亜は…」
ラインは確かに既読になっている。6時までには家に帰って来いということも分かっているはずだ。
なのにもう5時55分にもなるのに一向に帰ってくる気配がない。電話をかけて呼び出そうとすると父親がやってくる。
「挙武、行くぞ」
「え?嶺亜がまだでしょ。それとも現地集合?」
聞き返すと父親はバツが悪そうに頬を掻きながらこう答えた。
「嶺亜はどうしてもはずせない用事があるそうだ。仕方がないから今日はお前だけ連れて行く」
「はぁ!?」
思わず叫んでしまった。しかしながらこれはいつもの嶺亜の常套手段である。嶺亜に甘い父親にのみ知らせるという…
「ちょっと待ってよ!なんで嶺亜だけ…だいたいあいつのはずせない用事って何?そこんとこちゃんと聞いてるんだろうね父さん!!」
詰め寄ると、父親は参ったといった風に両手を胸の前に広げる。
「聞こうとしたら…『パパは僕のこと信用してないのぉ?』って泣かれちゃって…嶺亜を泣かせるとほら、後が厄介だから」
「そんなん嘘に決まってるだろ!!だいたい父さんは嶺亜にだけ甘すぎる!俺だって本当は今日見たかったハリウッド映画の公開日だったのに我慢して来たんだぞ!それなのに…」
「分かった分かった。今度の連休ロスに行こう。最新の映画セットができたそうだから…それでいいだろう?な?待たせてあるから早く」
そそくさと父親は逃げて行く。挙武は収まりきらぬ怒りを抑えながら食事を終了した。そして…
「ここで降ろして」
帰り道、家の手前で車から降ろしてもらう。それは隣の家である。
インターホンを押すと「ふぁい?」と気の抜けるような高い声が返ってくる。名前と要件を告げると渋られたが半ば懇願、半ば圧力をかけてドアを開けてもらった。
「うちのどうしようもない我儘娘…じゃなかった兄がお邪魔してると思うんで」
「あ、でもぉ…嶺亜お姉ちゃんは…お兄ちゃんだったっけ?まぁいいやぁ…今お取り込み中で挙武お兄ちゃんが来ても通すなってぇ…」
「悪いけど緊急を要するから通してもらう。すまんな海人」
挙武が睨みをきかせると隣の高橋家の二男、海人はおろおろと道を開けた。声変わりもまだの中学三年生である。
「たのもう!!」
狙いを定めた部屋のドアを勢いよく開けると、案の定そこには嶺亜と幼馴染みの颯がいた。

.

72 :ユーは名無しネ:2014/04/28(月) 23:40:36.17 0.net
挙武が嶺亜の小細工にブチ切れる少し前、コンビニで買ったメロンパンを食べながら嶺亜は颯と一緒に下校して彼の家に身を寄せることにした。
「嶺亜いいの?また挙武怒るよ」
「いいのいいのぉ。そしたら颯が助けてくれるでしょぉ」
「助けるとか無理っぽいんだけど。挙武が起こったら俺がどうにかできる感じじゃないよ」
「そんなことないよぉ。颯が一言言えば挙武はそれ以上強く出て来れないんだからさぁ」
そんな会話を交わしつつ高橋家の玄関をくぐると丁度颯の弟、海人が出て来た。
「あ、嶺亜お姉ちゃんこんにちはぁ」
エキゾチックな見た目に似合わぬマシュマロボイスで海人は挨拶をしてきた。もう中学三年生になるが声変わりはまだのようである。
「お姉ちゃんじゃないよぉ。海人どこ行くのぉ?ダンスレッスン?」
「うん。行ってきまぁす。お兄ちゃん、夕飯はママがカレー作ってくれたってぇ」
夕飯の報告をして海人はダンスレッスンに向かって行った。高橋兄弟は小さい頃からダンスを習っていて海人はヒップホップ、颯はブレイクダンスが得意なのだ。
「海人ってまだ僕のこと女の子だと思ってんのぉ?制服着てるのにさぁ」
「多分半信半疑かな。分かってはいるけどいざとなるとお姉ちゃんって言っちゃうっぽいんだ」
天然なのかなんなのか…さすが颯の弟だよぉと納得しながら嶺亜は颯と二人で映画のDVDを見たりゲームをしたりして過ごした。
その途中できちんと父親にも連絡はしておいた。嶺亜の計算通り、甘い父親は少し泣き真似をすると「仕方ないなぁ…今日だけだぞ」と折れた。
後はこうるさい挙武をなんとかしなきゃなぁと考えつつ颯の家でカレーをご馳走になった。そして再び颯と二人で宿題に勤しんでいると…
「たのもう!!」
ちょうど計算したぐらいの時間に怒りの形相の挙武が現れた。その後ろで海人がおろおろしている。
来たなぁ…と思いながら嶺亜は臨戦態勢に入る。
「嶺亜、俺の言いたいことは分かるな…?」
「挙武、まあまあちょっと落ち着いてメロンパンでも…」
颯があっけらかんとメロンパンを差し出したが挙武は首を横に振る。
「颯、邪魔したな。このどうしようもないろくでもない女々しい兄はちゃんと俺が連れて帰るから…暫くは勝手なことさせないつもりだから迷惑かけることももうないと思う。んじゃ!」
挙武は嶺亜の腕を掴んだ。
「今夜は寝かせないぞ…もちろんこれは口説き文句ではない、文字どおり徹夜でお説教だ。覚悟は出来てるよな、嶺亜!?」
「やだよぉちょっと離してよぉ寝不足はお肌の大敵なんだからさぁ。悪かったよぉごめんなさいごめんなさいもうしませんったらぁ」
「そんな軽口に騙されるか!これで何回目だと思う?記憶にある限り4歳の夏から数えてもう2789回目だ!2000回記念の時に初めて殴り合いの喧嘩をしたことを覚えてるだろう?記録は今夜でストップさせてやる」
「覚えてるぅ。僕が「なんだよぉもううるさいよぉ小姑挙武ぅ」ってほっぺたぺちんってやったら挙武が驚いて暴力に訴えるとは何事だって泣き叫んだんだよねぇほんと挙武って物理攻撃に弱いんだからさぁ」
「しっかり覚えてるじゃないか!暴力は俺の最も忌み嫌うところだ。だから今夜はみっちりと言葉のみで理解させてやるから安心しろ。とりあえず眠気覚ましのコーヒーは用意してきた!」
「コーヒーよりロイヤルミルクティがいいよぉ」
「そういう問題じゃない!なんなら眠眠○破を1ダース買ってやろうか?とにかく、ここだと迷惑がかかるからとっとと来い!」
「やだって言ってんだろぉ暴力反対ぃ!」

73 :ユーは名無しネ:2014/04/28(月) 23:43:44.87 0.net
「暴力じゃない!俺は穏便に話し合いで決着つけようとしてるだろ!」
挙武が嶺亜の腕を再度ぐいっと引っ張ると海人のマシュマロボイスが後ろで響く。
「あのぉ…挙武お兄ちゃん…女の子に暴力はいけないと思うんだけどぉ」
颯が弟の間違いを正す。
「女の子じゃないって何度言ったら分かるの海人。嶺亜は男の子だよ。小さい頃一緒によくお風呂入ったでしょ?羽生田家のだだっぴろいお風呂」
「そうだっけぇ…昔すぎて覚えてないやぁ…」
高橋兄弟の呑気な会話をよそに挙武と嶺亜の口論は激化しようとしていた。
「うっさぁい!だいたいなんなんだよぉその鼻ぁ!ピラミッドかよぉ!」
「そっちこそなんだその白さは!太陽に申し訳ないと思わんのか!?ちゃんと紫外線は吸収しろ!!」
「余計なお世話ぁ!挙武なんかウニとイクラにまみれて溺れちゃえぇ!ばーか!」
「わけのわからん憎まれ口を叩くな!そっちこそトマトジュースで顔洗って出直して来い!」
「あ、言ったなぁ!挙武なんかトウガラシ飲まされてまたリバースしちゃえぇ!!」
「人のトラウマをやすやすと口にするな!!だったら俺も言わせてもら…」
「ちょっともう二人ともやめなよ!!」
挙武と嶺亜の永遠に続くかと思われる口論を一刀両断にしたのは颯の叫び声である。
シーン…と水を打ったように静まり返った次の瞬間、神妙な面持ちの颯が再び口を開く。
「目覚まし止めたり約束すっぽかしたのは嶺亜が悪いよ。挙武が怒るのももっともだよ。そうでしょ?」
「…そぉだけどぉ…」
不満そうに嶺亜は口を尖らせる。次に颯は挙武に向き直った。
「挙武も怒り過ぎ。セレブキャラのくせにキレキャラになってるじゃん…たった二人きりの兄弟でしかも双子なんだからもっと嶺亜に優しくなんなよ。本当は嶺亜のこと好きなくせに」
「…いや…でもな颯…」
挙武はばつが悪そうに天井を見上げる。
「兄弟っていいもんでしょ?俺は海人と喧嘩することもあるけどやっぱり大事な弟だし…嶺亜と挙武だって小さい頃からずっと一緒だから兄弟みたいなもんだもん。
だから二人が喧嘩するところは見たくないよ…まあ一日平均3.47回くらいは見てるけど…だけど本当はお互い仲良しって分かってるから仲良くしてほしいよ」
「…」
「…」
挙武と嶺亜は颯の説得にその勢いを完全に鎮火された。しかしながら、これもいつもの光景だった。挙武と嶺亜の口喧嘩を颯が止めるのは通算で6895回目である。
「颯お兄ちゃんかっこいいぃ…さすがお兄ちゃんだぁ…」
海人は感心している。颯はちょっぴり照れ臭かったが兄の背中は大きく見せなさいと親に言われて育った。それを実行で来てることに達成感を感じる。
感じているとすぐ側にあった携帯が振動した。
「あ」
それはラインで、その送り主は…
「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
き、きききききききききききききき岸くんからだああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
跳び上がった颯は天井に頭をぶつけ、落下と同時にヘッドスピンでぐるぐる回りだした。その際の暴風で部屋の中はシッチャカメッチャカ、海人は跳ね飛ばされ左半身を強打し泣きだした。
それを見た彼の母親が「あれほど部屋の中でヘッドスピンはやめなさいと言ったでしょ!」と激怒りで挙武と嶺亜は巻き込まれないようそそくさと高橋家を後にしたのである。

74 :ユーは名無しネ:2014/04/28(月) 23:45:30.78 0.net
屋敷に戻ると、嶺亜は凍りついた。
「嶺亜、そこにお座りなさい」
母親が般若のような形相で立っていた。元・女優で抜群の美貌を誇るが怒るとノストラダムスも裸足で逃げ出す程に恐ろしいマダムである。後ろで父親がおろおろと右往左往していた。
「マ、ママ、あんまり嶺亜を怒らないであげて…」
「あなたは黙ってなさい!全く…父親が甘すぎるからこの子がこんなに我儘娘…じゃなくて我儘息子になるのです!反省なさい!!」
一喝されて父親は黙りこんでしまった。
父親は嶺亜に甘いが母親はわけ隔てなく厳しい。今日は同じセレブ仲間のマダムとお茶会だと聞いていたから大丈夫だと思ったのに…
「嶺亜、あなたはこの羽生田家の跡取りでしょう…?そのあなたがお客様との食事をすっぽかすなんてこんな甘えた態度が許されるなんて思ってないでしょうね…」
ゆらりと首を回しながら母親は絶対零度を向けてくる。嶺亜の唯一にして最大の弱点がこの母親の絶対零度だ。その血を色濃く継いでるが故に恐怖を感じるのである。
「でもぉ…ママぁ…」
「デモもデモクラシーもありません!!朝ご飯のトマトを残したこともシェフから聞きました!!17歳にもなってトマトの一つも食べられないようでは立派なレディに…ジェントルマンになれませんよ!!
今からママが食べさせてやるからそこにお座りなさい!!」
「やだよぉトマトだけは死んでも嫌だぁ!」
食べるくらいなら舌噛み切って死んだ方がましだぁ、と叫ぼうとすると視界が遮られる。
挙武が前に立ったからだ。
「母さん、嶺亜がトマトを食べなかったのは朝俺と喧嘩したからだよ。それで時間がなくなってしまったんだ。
それに、食事会に出られなかったのは…嶺亜は颯と前から約束しててそれを家の都合で断るのは友達を大切にしなさいっていう母さんの教えに背くことになるでしょ?だからだよ」
「挙武…?」
なんと挙武は嶺亜をかばった。これは嶺亜の記憶が一番古い4歳の夏から数えてたった915回目である。数が多いように思えるが嶺亜はこの8倍はかばわれることなく付きだされている。
「どうしてあなた達は喧嘩をしたのです?仲良くなさいといつも言っているでしょう?」
だが母親のつっこみが別の方向から入った。それは…と挙武が口ごもっていると嶺亜が白状した。
「僕が挙武の目ざまし時計を止めちゃったからぁ…だから挙武が寝坊したのぉ。ごめんなさい、挙武ぅ…」
嶺亜が挙武に素直に謝るのは通算で12回目である。生まれてから6235日で12回。一年で平均0.7回だ。
「ママ、嶺亜も反省してるし、挙武もこう言ってるから許してあげようよ。家族仲良く!これが羽生田家の家訓だし」
父親が渾身の力で宥めてようやく嶺亜は御咎めなしで済んだ。


.

75 :ユーは名無しネ:2014/04/28(月) 23:47:23.79 0.net
「疲れた…これというのも全てあの小悪魔のせい…」
へとへとになってベッドの上に突っ伏するとコンコンとノックがしてドアが開いた。入ってきたのは嶺亜である。両手にはゼリーカップと2本のスプーンが握られていた。
「食べるぅ?」
嶺亜が差し出してきたのは挙武が気に入っているコンビニスイーツだった。無言で受け取ると嶺亜は挙武の部屋のアームチェアーに座って蓋を開けて食べ始めた。
「これでチャラねぇ」
そんなこったろうと思った…と思いながら挙武も蓋を開ける。
「不公平すぎるだろ。母さんの折檻から救ってやって302円(税込)はないだろう。100個分くらいはするだろ」
「そんなことないよぉ。僕だって挙武が遅刻したことママに知られる前に救ってあげたんだからぁこれぐらいでちょうどかなぁってぇ」
「本当に口だけは達者だな…呆れるよ全く」
「それはこっちのセリフぅ」
ゼリーカップが空になった頃、羽生田家の家政婦がドアをノックした。
「お風呂のご用意ができてます」
「ありがとぉ。あのねぇお願いなんだけどぉお布団二つここに持ってきてぇ」
嶺亜は家政婦に蒲団の用意を申しつけた。一体何故?と思っていると風呂上がりにその疑問が解ける。
「…一緒に寝ろと?」
「やならいいよぉ。明日も遅刻しなきゃいいけどねぇ」
「…素直に一緒に寝たいと言えよ。全く、変なとこで意地になるんだから…」
ぼやきつつ蒲団に入ると嶺亜は満足げだった。
挙武は真っ暗にしないと寝られないが嶺亜は逆に薄明りでないと寝られない。ジャンケンの結果嶺亜が勝ち、薄明りで床につく。
嶺亜はすぐ寝付くが挙武は少し時間がかかる。これも双子でありながら全然違う。特に今夜は嶺亜の寝易い薄明りだから5分ほどして寝息が聞こえて来た。
「…」
浅い溜息をついて、挙武も目を閉じる。色々あったが世は全て事も無し。明日からまた色々とやるべきことはあるし…と考えながら眠りにつこうとすると、
「…あむぅ」
嶺亜の掠れ声が響く。なんだ?と言いかけたが寝がえりをうった嶺亜は目を閉じていたから寝言だということに気付いた。
「あむぅ、ごめんねぇ…」
やれやれ…と肩をすくめた。寝ている時なら…夢の中なら素直に謝ることができるんだな、と。

76 :ユーは名無しネ:2014/04/28(月) 23:55:44.82 I.net
その夜、挙武は夢を見た。小さい頃の夢だ。
「あむ、待ってよぉ、あむぅ」
高原の別荘に遊びに行った時、近くの林を探検していてさっさと進んでいく挙武に後ろから嶺亜が甘えた声を出す。早くしろよと急かすと嶺亜はむくれた。
「待っててくれてもいいじゃん、あむのいじわるぅ!」
「いじわるじゃないだろ、れいあが遅いのが悪いんだ。だいたい行こうって言いだしたのはれいあだろ」
喧嘩になり、拗ねた嶺亜は座りこんでしまった。しかも間が悪いことに雨が降り出した。二人とも傘を持っていない。
びしょ濡れになって帰ると二人とも母親にしこたま怒られてさんざんだった。しかも、その夜それが元で挙武は熱を出してしまった。
熱にうかされていると冷たいものが額に当たる。だるくて目を開ける気力がなかったがその声が微かに響いてくる。
「あむぅ、ごめんねぇ…」
朦朧とした意識の中で、その聞きなれた声がそう言った。生まれた時から聞いている声、この世の誰よりもたくさん聞いている声、だから聞き間違うなんて絶対にありえない。しかも、嶺亜が挙武に謝るのはそれが初めてであった。そう、5歳になってすぐのGWである。
だけど元気になってそれを問うと嶺亜は「そんなこと言ってなぁい。あむの勘違いぃ」と軽くあしらわれ笑われた。そこでまた喧嘩になった。
ふいに視界が白くなり、挙武はだるさと共に徐々に覚醒が促されてゆく。
朝だと気付いたのはそれから暫くまどろんだ後で、そのまどろみは次の瞬間一気に吹き飛んだ。
「あああああああああああああ!!!!!!!!!!!なんでこんな時間になってるんだ!?完全に遅刻だあああああああああああああもう!!!!!!!!!!」
目覚まし時計は死んだように止まっていて、時計の針だけがカチコチと動いている。昨日買っておいた二台目はあれやこれやで鞄の中に収められたままである。
確かに目覚ましはセットした。セットしたぞ、それなのに…
「あんにゃろう…」
もぬけの殻になった隣の蒲団を踏みつけると挙武はパジャマのままリビングにダッシュした。また優雅な弦楽合奏…ヘンデルの「水上の音楽」が聞こえてきて…
「ってそんなことはどうでもいい!!!嶺亜!!ふざけるなよお前!!今度という今度こそは許さないからなああああああああああああ!!!!!!!!!!!!」
嶺亜は優雅にコーンスープをすすっていた。そして涼しい顔をしながらこう言い放つ。
「僕はちゃんと起こしたよぉ。でも挙武全然起きないんだもん。僕に怒ってる暇があったら早く支度したらいいと思うよぉ。二日連続遅刻とかママが知ったら怖いよぉ」
挙武は息を吸い込んだ。
そしてありったけの大声で言い放つ。
「今日という今日こそそのフザけた態度を改めてもらう!!今夜は寝られると思うなよ、この小悪魔が!!!」







つづく

77 :ユーは名無しネ:2014/04/30(水) 20:50:21.07 I.net
作者さん最高です!!
やっぱり神7はForeverですね!!

78 :ユーは名無しネ:2014/04/30(水) 23:48:19.15 0.net
れあむうううううううううううううううううううううう

79 :ユーは名無しネ:2014/05/01(木) 00:50:14.40 0.net
高橋兄弟w

80 :ユーは名無しネ:2014/05/02(金) 07:24:22.61 I.net
神7 ショートギャグ
谷栗 オランジー○パロ

谷村龍一は列車に乗り込んだ。隣には栗田恵も一緒だ。
普段このアホにアホ扱いを受けていて、イラっとする時もあるがこのアホも割といいやつだ。
そんなことを思いながらふと前を見ると…超絶美女の色白小悪魔乙女、れあたんが座っていた。
谷村はそうだ、と思い、栗田に声をかけた。
「栗田、僕ちょっとあそこでオラン○ーナ買ってくるね!待っててね」
「うん!!ぎゃはは!早く戻ってこいよ!」

谷村は売店でオラ○ジーナを買っているとおばちゃんに声をかけられた。
「お兄さん、イケメンね〜」
こんなことを言われるのはいつも不憫で不幸な目にあっている谷村には久しぶりだった。
「ありがとうございます」
つい嬉しくなって口元を緩ませた。
しかしその瞬間栗田のダミ声が響いた。
「ぎゃはは!谷村!!ドア閉まってるぜ!!」
はっと我に返り、ダッシュで乗り込もうとしたがドアは閉まってしまった。なんとか後ろから飛び乗るが、その拍子に腰を打った。そして強風で飛ばされかけた。そして更に強風に耐えた際にまた腰をやった。
「……」
すっかりボロボロになって列車の席に向かおうとするが腰が痛い。
自我修復をしながらなんとか辿り着くと…。
「うふふ、栗ちゃん可愛いねぇ」
「ぎゃはは!れいあのほうがかわいいし!!!」
「……」
なんと栗田とれあたんは仲良くお話し中だった。
こんなアホなガキに先をこされるなんてと心が折れそうになるが、不幸な目は慣れている。めげずに小悪魔れあたんに話しかけた。
「あ、あの…これどうぞ!」
挙動不審になりながられあたんにさっき買ったオ○ンジーナを受け取るとれあたんはにっこり微笑んだ。
「ありがとぉ」
そう言ってから「栗ちゃん一緒にのもうねぇ」といちゃいちゃしながら蓋を開けた。
谷村は初めて会った相手にお礼を言われたはずなのに、この人とは何年もの付き合い、しかもかなり一緒にいた気がした。そのなかでもお礼を言われたのは初めてだと谷村は思う。
幸福感に浸っていると突然の不幸が訪れた。
なんとれあたんの顔にオ○ンジーナが勢いよく噴射されたのだ。
それは谷村が列車に乗る前の奮闘の証だ。
「あああああああの!!!すいませんごめんなさいもうしませんおしおきだけは勘弁してください…ほんっとうにす…」
谷村が必死に謝っていると絶対零度が飛んできた。
「谷村ぁ…。あとでおしおきぃ」
谷村はあまりの恐ろしさに泡を吹いて倒れた。
「ぎゃはは!アホだな谷村!!」
デジャヴ?なんかこんなことが日常茶飯事であったきがする…。
薄れゆく意識のなか、栗田の声と自分の思考がぐるぐる回っていた。


反応あれば続きます!
初めてなのに読んでくれた方ありがとう!
誤字脱字ご了承ください

81 :ユーは名無しネ:2014/05/02(金) 12:45:14.41 0.net
たにむ安定の不憫
クリエでも間違ってパンチされてるとか…
他のも読みたい!

82 :ユーは名無しネ:2014/05/02(金) 16:34:20.42 0.net
作者さん高橋海人出してくれてありがとう
この間クリエに行ったられあたんとか颯くんとかが見学に来てたよ
トラジャ組も神7組もかわいかった、明日からはまたコンサートも始まるね

83 :ユーは名無しネ:2014/05/02(金) 23:07:17.14 I.net
神7ショートギャグ
岸颯

みなさんは覚えているだろうか、あのCMを…。
作者は一部分しか覚えていない上にそこもかなりうろ覚えだ。

岸くんと颯はCMの撮影のためにとあるスタジオに呼ばれていた。
「岸くん!今日はなんのCM撮影するんだろうね!」
颯は大好きな岸くんと2人で撮影なんて、とウキウキだ。
「CM…、ついに神7もデビューの兆しか…。谷栗もなんか撮影したらしいし」
神7リーダーの岸くんはやっぱりウキウキだ。
実は2人にCMの内容は伝えられていなかった。
こんな2人で大丈夫なのかという心配はさておき、台本が渡された。
「「…‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎」」
2人共目が飛び出るんじゃないかと心配になるほど驚いた。
「これは…」


一ヶ月後…
「岸くんと颯のCMは今日放送だな。良かったらうちのテレビで神7全員で見ないか?」
羽生田の一声で神7は全員集合したが、肝心の岸くんと颯はうかない顔をしている。
「栗ちゃん、岸と颯どぉしたんだろぉ?」
「ぎゃはは! CMでなんかやらかしたんじゃね?てかれあくり久しぶりだな!!」
中村と栗田は安定のいちゃいちゃ、
「あ、もしもしみずき?くらみずき久しぶりだな!」
『くらもっちゃん!そうだね!あ、電話代もったいないからあと10秒ね』
倉本と井上はツンとデレの温度差が半端じゃない。
「おいお前ら!!神7全員大集合は何年振りだよ!神宮寺様のこの腰フリをたっぷり拝め!」
神宮寺は相変わらずキチ…、素晴らしい腰フリを披露している。
「おお谷村、最近よくあうな」
「まあ…最近出番も増えて来たしね。作者Mが毎月一回ファンレターをくれるおかげかな」
「毎月一回!?まるでストーカ……。熱心なヲタ…ファンだな」
神7のエリート担当でおなじみの羽生田と谷村はファンのありがたさについて語る。

久しぶりだがずっと前から変わらない神7だ。

「あ!始まる!」
散々バカをやっているとついにCMが始まった。
「あ、これって颯と岸ぃ?」
『てってってってってってれってててってってれー細マッチョ…』
そこでテレビが切れた。
そして羽生田家の全ての電気が止まった。
停電か?そう言ってみんな辺りを見回す。
すると…
「竜巻…」
颯は恥ずかしさのあまりヘッドスピンで竜巻を起こしていた。
そしてその風圧で電線が切れたのだ。
「おい岸くん!これをなんとかできるのは君だけだ!早くあれを止めてこい!!」
羽生田は必死で叫んで岸くんが座っていた場所に目を向けた。
しかし岸くんはシャチホコポーズを保ったままフリーズしていた。

「…はっっっ!!」
羽生田は目を覚ました。汗びっしょりだ。
「嫌な夢を見たな…目覚めがよくない」
そう言ってリビングに下りた。
今日のニュースはなんだろうとテレビをつけた瞬間羽生田は仰天した。
「てってってってってってれってってってってってってれー細マ…」
羽生田は悪い夢を見ていると思いまた高級ベッドに潜り込んだ。
一時間後、学校に遅刻すると気付いて再び仰天し、絶叫することも知らずに…。

84 :ユーは名無しネ:2014/05/02(金) 23:08:53.41 I.net
乱文すいません。
調子に乗ってまた書きました

85 :ユーは名無しネ:2014/05/03(土) 20:11:06.91 0.net
昼ドラ 颯の心の葛藤

「もぉ岸口に付いてるよぉ汚ねぇなぁ」

「え、どこどこ!?!?拭いて拭いて!!!」

「もぉーしょうがないなぁ」

「うへへw」

何やってんだいあの二人

僕の岸きゅんがぁぁぁぁぁあぁぁぁぁあの小悪魔乙女
美白皆の視線を独り占めぇおんn((
男に

とられちゃぅぅうぅぅぅう!!!!!

颯は小さい頃から変な妄想癖の持ち主で

自分に害のある妄想をした場合

高速ヘットスピンをするという

かなりの変人だ

颯は岸と付き合ってもないが

岸くん本気愛が凄すぎて

ただ間今心と葛藤中なのだ

86 :ユーは名無しネ:2014/05/07(水) 04:47:56.37 0.net
セクゾのコンサート行ったらたにれあが両手で恋人繋ぎして二人して弾けるような笑顔だった上にれあたんがそのまま全体重を谷村に預け挙げ句の果てには胸に頭をくっつけるような体勢になっていたよ
実はたにれあものすごく好きだから頭吹っ飛ぶかと思ったよ
久しぶりにまたたにれあの問題作も読みたいな…なんてね

87 :ユーは名無しネ:2014/05/07(水) 17:02:33.62 0.net
横浜アリーナバイバイDuバイ記念に


本日は晴天なり
谷村龍一は広がる青空を見上げながらそんなことを呟いた。
おりしも季節は5月、ツツジが咲き誇る麗らかな春…世間はGWだったがジャニーズJrにGWはない。4日間全てコンサートの仕事が入っている。
それでも谷村はそんな忙しさを嬉しく思っていた。何せ久しぶりのコンサートである。この春高校生になってようやく最後までいられる喜びに胸は躍っていた。
「おいそこ立ち位置違うぞ!もっとズレろ!」
しかし呑気に浮かれている余裕はない。必死に立ち位置や振りを覚えなくては二度と呼ばれなくなってしまう。バックダンサーとはいえ出演者の一人には違いないのだから少しのミスも許されない。
「…で、ここでJr紹介やるから。まずセクシーボーイズをマリウスが…」
Jrの中でも重要なポジションを与えられている彼らはしかし谷村よりも過酷な動きをこなしている。ふと周りの視線を見ると皆「いつか俺もあそこに…」といった眼をしている。もちろん谷村とて全く向上心がないわけではない。
「…」
真剣にスタッフの指示を聞いているJrの中の一人に谷村の視線は吸い込まれて行く。さっきまで必死にリハーサルの内容を頭に叩き込んでいたからその余裕はなかったが今は紹介Jr以外は休憩モードだから自然とそこに目が行ってしまった。
透き通るような白い肌に、髪を切って少しだけ短くなったその黒髪に真剣な眼差しが見え隠れしている。細い腕は17歳の男子のそれに比べてしなやかで、その全身から柔らかな美しさが溢れている。
一時期、肩を並べて活動していたのに今はなんだかひどく遠い存在のように思える。少し寂しさにも似た感情がかけめぐるがそれを無理矢理押し殺す意味で隣にいた菅田琳寧と他愛もない会話をしてごまかした。
「おいちょっと集まれJr!変更点今から言うぞ」
のんびりする間もなく変更点が告げられる。一日目、二日目とコンサートが全く同じ内容で進むことはまずない。
初日にはなかった変更が、昨日までこうだったことが、それがめまぐるしく変更するのはザラだ。こうして臨機応変に対応できる柔軟さが実は最もJrには必要だったりする。
「…で、次の曲…バイバイDuバイだけど、フォーメーションとフレンドシップの関係でバック増員。谷村、ちょっと来い!」
「…ふぁい!?」
突然呼ばれて谷村は驚いて変な声が出た。後ろで誰かがくすくす笑う。
「お前身長あるから追加な。フリは覚えてるよな?」
「…は、はい…」
こんなこともザラである。バックが増減するなんてさして珍しいことじゃない。むしろ出番が増えることは悦ぶべきことだ。谷村はそうポジティブに受け取ることにする。
「そんでこうきてこうきて…ここで二人組で向かい合って制止。おい谷村、お前はこっちだ」
振付師の指示に従って谷村は移動する。そこで二人組の相手が少しけだるそうに立っていた。谷村はその相手を確認して心臓が跳ねる。
「…よろしくぅ」
素っ気なく言って、その相手…中村嶺亜は振付師の指示に淡々と従っていた。


.

88 :ユーは名無しネ:2014/05/07(水) 17:03:13.76 0.net
「ヘイヘイヘイ!!横浜愛し合おうぜえ〜!!!」
コンサートは幕を開ける。谷村は雑念を振り払って集中しようと努めた。なんとか自分の出番はここまでミスなくこなせたのだが…
次だ。
青い衣装に着替えながら谷村は背中に汗をかいていた。もちろん、走り回ったり踊ったりして出た汗とは全く違う。
ある意味では…しくじったら振付師よりも誰よりも恐ろしい相手である。最終確認でも目も合わせず至って淡白に済まされたから何気にそれが精神的に響いているのだ。
考えてみれば、自分の前のシンメであるあいつが辞めて以来ほとんどろくに口もきいていない。元々共通の話題なんてないし性格も違うしこんな仕事をしていなければ出会うこともなかったし…それに…
あいつがいなくなってから、口にも素振りにも出さないけどやっぱり寂しいんだろうな、という感じはひしひしと伝わってくる。これは勘違いや考えすぎや深読みのしすぎとかではない。谷村は何故か確信があった。
それは、いつも見てるから。
だからその表情の細かい変化が谷村には分かるのだ。分かってしまうのだ。
時には目を逸らしたくなるくらい顕著に現れていて、どうしたらその曇りを除いてあげることができるのか、愚かな思案にも暮れた。自分なんかにどうにかできるほど彼は弱くない。余計なお世話でしかないだろう。
だから何をするでもなく、声をかけるでもなくもう一年近くにもなろうとしている。そういえば、去年のGWもここで一緒に仕事をして、その時はあいつもまだ自分のシンメで…
そんな思考に陥りかけてると肩を突かれた。
「何してんのぉ?早く着替えなよぉ次だよぉ」
一気に現実に引き戻され、谷村は超高速で振り向いた。そこには嶺亜がもう青の衣装に着替えていて…
「気ぃ抜くなよぉ。バックでもお前のことだけ見てるファンの子いるんだからぁ」
正論だけを言って、嶺亜は待機場所に向かって行った。
「…」
谷村は自分の両の頬をきつくはたいた。じんじんと痛みが伝わるがいい喝になったと思う。
失敗は許されない。真面目に、真剣にやらなきゃ。これはお遊びでもないしおふざけも許されない。ショーの邪魔をするわけにいかないんだ。例えバックでもアイドルはアイドル、舞台に立ったらファンの子に夢を与えなければ。
心を入れ替えて、谷村はステージに立つ。眩しいくらいに照らしつけるライトに勇気をもらってすでに頭に叩き込んでいる振付を懸命にこなす。
問題の個所…二人で手を合わせて数秒向かい合う、そこが近づくと否応なしに鼓動は早くなっていった。

89 :ユーは名無しネ:2014/05/07(水) 17:03:53.38 0.net
「…」
こんなにちっちゃかったっけ?とぼんやり思って自分の身長があの頃よりまた大分伸びているだけだということに気付く。少し見下ろすぐらいのその身長差がまた谷村の神経を昂ぶらせた。
黒いサラサラの髪、透き通るような白い肌に魅惑的な瞳が自分を捉えて見つめ合う…熱さのせいなのかなんなのか、谷村は頭がぼうっとしてしまう。すぐ近くにあるその嶺亜の顔に不思議な高揚感が呼び起こされ…
「…え?」
谷村はしかし、そうした幻想に浸ることを許されずぎょっとした。
合わせた掌から嶺亜が指をからませてくる。そして…
「…ちょ…」
思わず足に力が入る。踏ん張りをきかせていないとひっくりかえりそうなほどに重力がかけられて…
「れ、嶺亜くん!?」
まるで全体重を谷村にかけるかのように嶺亜はぐいぐいと押し寄せてきた。
「倒れちゃダメだよぉ。そしたら全部台無しだよぉ」
にたりと小悪魔的な笑みをたたえて、小声で嶺亜はそう呟いた。
「…ぎ…」
しかしこれはなかなかに辛い。そうこうしてる間にどんどん体重をかけてくる。大した重さではないがいかんせん動揺が先立ってしまって谷村は足が痙攣しかけているのを自覚する。
「ほら笑顔ぉ。苦しそうな顔してたらファンの子が何事だって思うじゃん」
「う…」
言われて咄嗟に笑顔を作ってみたものの、ひきつっていないか心配になる。だけど…
目の前の嶺亜は満面の笑顔だった。それは半分からかっているかのような笑いだったがそれでもその笑顔が自分に向けられて、こんな至近距離にあることを認識すると谷村は自分の顔面の筋肉が緩んでいくのが分かる。
態勢はかなり辛いのに、ずっとこのままでいたいと頭の奥で谷村の中の一番素直な人格が命じていた。
時間にして数秒…だけどその数秒だけはこうして見つめ合う喜び…それだけでなく、嶺亜特有の小悪魔めいた遊び心の餌食になっていることに悦びにも似た感情が全身を駆け巡っていた。
そして次の振りに変わる。そのまま手を繋いでくるくるとメインメンバーの周りを回る。
握った手に自然と力が入る。離したくない、だけどもう次の瞬間には離れていた。その温もりと感触だけが余韻のように掌に残っている。
「お疲れ。明日が最終日、皆疲れ残さないようにしっかり休んでがんばろう!!」
コンサート終了後、スタッフの締めに返事を返してJr達はそれぞれ着替えや帰宅準備にとりかかる。楽屋の中は当然のようにごちゃごちゃしていてこういうのが苦手な谷村はさっさと出ることにしている。
いつもなら、ここで出口に一直線だがその楽屋の前に来ると何故か足が止まった。

90 :ユーは名無しネ:2014/05/07(水) 17:04:22.26 0.net
まだいるのかな…
しかしいたところでこちらからどう声をかけていいものか…それより何より待ち伏せとか気持ち悪がられること間違いないだろう。浅い溜息をついて谷村は踵を返した。
「あ」
少し進んで、靴ひもがほどけてしまっていることに気付く。靴ひもを結ぶのは苦手だから面倒くさいな…と思いつつかがんでそれを結び直そうとしたその時である。
「…ひゃ!!」
いきなり頬に冷たいものが当たって反射的に悶絶してしまっておかしな声が出てしまった。
何事?と驚きつつそこに視線を合わすとコーラ缶があった。そのコーラ缶を持っていたのは…
「あげるぅ」
にこっと笑って谷村にコーラ缶を放ると機嫌良さそうに嶺亜は小走りで出口に向かって行った。
「…」
その冷たい缶を握りしめつつ嶺亜の後ろ姿をただ呆然と谷村が見つめていると突然彼は足を止めた。
そして、振り向きもせずこう言った。
「明日もちゃんと支えろよぉ」
谷村が返事をする前にもう嶺亜は廊下の曲がり角を曲がって行った。まるで、返事は決まりきっているから聞く必要はないとでも言いたげに。
支えるよ。
ずっと支えるよ。だからどれだけ寄りかかってくれても構わない。
誰もいない廊下で谷村はそう口にしていた。
そしてコーラを飲もうと缶を開けるとその中身が勢い良く吹きだして顔じゅうコーラまみれになり、さらにはその辺に飛散して通りかかったスタッフに谷村はめちゃめちゃ怒られた。




我らが天使を支える柱となってくれるのは、不憫な星の下に生まれた君しかいない。頼んだぞ、谷村

END

91 :ユーは名無しネ:2014/05/08(木) 00:18:51.35 I.net
たにれあやばい!
栗ちゃん懐かしいね…これからも小説に登場させたいな!

92 :ユーは名無しネ:2014/05/09(金) 02:01:49.10 0.net
早速の谷れあありがとう
れあたん最近高橋海人とふたり母子家庭みたいだけど頑張ってね

93 :ユーは名無しネ:2014/05/10(土) 19:08:30.91 0.net
横浜アリーナバイバイDuバイ記念(裏)


「龍一さん、今日はコーラ被って帰ってこないでね。お洗濯大変だから」
母親に小言を言われて谷村は「分かってる」と返事をして家を出た。
今日の横浜は平年をかなり下回る気温で5月とは思えない肌寒さだ。空を見上げると曇天で、GWの最終日にしては愛想のない天気である。
それでも谷村の足取りは軽かった。やる気に満ちていると言ってもいい。
電車に乗り込みながら昨日の回想に浸る。心なしかあの感触がまだこの手に残っている気がする。小さくて少し冷たい手…嶺亜の手の感触だ。
「明日もちゃんと支えろよぉ」と嶺亜は言った。だから今日は全身でその全てを受け留めるつもりで来た。俄然モチベーションが上がっていることを自覚しつつ外の景色を眺めていると…
「…?」
普段からほとんど着信のない自分の携帯電話が振動していた。鞄のポケットからそれを出して確認すると思ってもいない相手からの着信で思わず声をあげそうになった。
メールアドレスを交換した記憶はあったがそれが使われたことはほとんどない。それでもその名前はきちんと谷村の携帯電話のメモリに入っている。
『コンサート終わったらさっさと帰らずに楽屋○○の前で待っといて』
たったそれだけを簡潔にそのメールは記していた。


.

94 :ユーは名無しネ:2014/05/10(土) 19:09:49.56 0.net
バイバイDuバイの曲順が近づく度に谷村の体温は自動的に上がってゆく。だが浮かれているのとは少し違う。舞台裏で関西Jrと高橋海人の3人が披露する曲を舞台を見つめたまま聞いている嶺亜の背中を見ていると自然とそうした有頂天は消えて行く。
代わりにやってくるのは使命感にも似た思い。
嶺亜が何を思ってDuバイであんな気まぐれを起こしたのか、今朝メールをよこしたのか、谷村にはその真意は測れない。だけどそこに何かしらのメッセージがこめられているのかもしれないと勝手に解釈してその背中を見つめた。
そして曲が始まる。今日は心の準備ができているからパーフェクトに出来る自信がある。笑顔で嶺亜の体重を受け留めて見つめ合…
「…え?え?」
その顔がだんだん近づいてくる。身長差があるからそれは谷村の胸あたりに位置するが、それにしてもこれはまるで…
「…!」
心臓の音が嶺亜に聞こえやしないかと谷村は本気で危惧する。会場には爆音に近い音源が流れているがそれでも尋常ならざる鼓動の音に聞こえずとも触れられたら一発でバレる。
嶺亜の表情は見えない。何故なら、それを盗み見ることは許されない気がして谷村はただひたすら昨日言われた通りに笑顔を崩さずその態勢でいることしかできなかったからだ。
気がつけばコンサートは終わっていて、盛大な歓声の中嶺亜がステージ上でお辞儀をしていた記憶だけがぼんやりと残っている。
「あれ?谷村帰らないの?」
誰かに問われたが谷村は自分がどう返答したか次の瞬間には忘れてしまった。指定の場所で携帯電話をいじる振りをして待っていると15分後に彼は来た。

95 :ユーは名無しネ:2014/05/10(土) 19:10:44.96 0.net
「お待たせぇ」
柔らかい口調とは裏腹に表情は全くと言っていいくらいになかった。今仕方ステージの上で天使のような笑顔でファンに愛想を振りまいていたアイドルとは対極にある完全に無の表情。
だけどそれはぞっとする程に美しく、その絶対零度の冷たさが放つ凛とした美を目にすることを自分は許されたのだという不思議な優越感のようなものを抱いた。
「あの…嶺亜くん」
嶺亜の後ろを歩きながら谷村は問う。単純な疑問だ。
「何?」
「あの、俺今朝返事だけしか返してなかったけど…どっか行くの?だったら家に連絡…」
「行くよぉ。そこ」
嶺亜が指差した先は…
「え?ここで何を…」
谷村の質問には答えず、嶺亜はそこに入って行く。もうほとんどのJrが会場内にはいないだろうからそこもしんとしている。が、いつ誰が来るか分からない。だけど躊躇わず進んでいく嶺亜に導かれるようにして谷村は疑問符を打ち消して入った。
「嶺亜くん…?」
狭い個室内で向き合うと、さっきのステージの上でそうしたのとはまた違った心臓の変拍子がやってくる。何が起こるのか、どういう意図でこんなところに連れて来たのか分からないから余計にそれはひどく、殴りつけるように谷村の胸を打った。
「…声出すなよぉ、絶対にぃ」
そう命じたかと思うと嶺亜は谷村の両の頬をその手で包みこみ、そして…
「れ…」
その先を声に出すことができなかったのは、口を塞がれたからだ。
手ではなく、唇で。

96 :ユーは名無しネ:2014/05/10(土) 19:11:30.79 0.net
「…!!」
驚く間もなく、谷村の意識は強烈な閃光によって弾き飛ばされた。唇に伝わる柔らかい感触に、神経は一点に集中した。微かに柑橘系の匂い…いや、味?が掠めるのは嶺亜がガムか何かでも噛んだ後なのか、それともキスとはこういう味がするものなのか…
飛ばされた意識の向こうで谷村はそんなことを思った。
全身の筋肉が一時的に弛緩したのか、それとも神経がその一部分に一点集中されたからか谷村は足腰が立たなくなって閉じられた便座の蓋の上に腰をおろしてしまう。だが嶺亜はそんなこともおかまいなしに谷村に跨ってきた。
唇を離すと、向こうの見えない瞳で嶺亜はじっと谷村を見つめた。息遣いが感じられるほどに近く、瞳のガラスに自分が映っているのが認識できそうな気がした。
だけどその暇を与えず嶺亜は再び谷村の顔に自分のそれを近づけ、そして再び唇を重ねてきた。
どうして嶺亜がこんな行動におよんできたのか、谷村はその疑問の前にもう理性が毟り取られてしまう。あれこれ考えるのが馬鹿らしいくらいに震える本能を前面に出すと自分の中に爆発的な感情が芽生えるのを自覚した。
嶺亜の華奢な背中に腕を回し、きつく抱きしめながら暫く無言で唇を重ね合う。だけどだんだんそれだけでは足りなくなってしまって、谷村はもうすでに極限にまで上がりきったボルテージに従って本能のままに嶺亜を求めた。
「ちょっとぉ…調子のんなよぉ…」
乱れた息と共に嶺亜がそう囁いたがしかし抵抗はしない。これは受け入れてもらえるということだと勝手に解釈して谷村は彼の衣服の中に手を滑り込ませた。
すべすべの肌から体温が直に伝わってくる。抱き締めていて分かるが、全くごつごつとせずしなやかさすら感じるその体格も何もかもが谷村の神経を震えさせる。
「嶺亜くんっ…」
ほとんど吐息だけでそう囁き、谷村は嶺亜の全身に掌を這わせた。
「…」
谷村の拙い愛撫でも感じているのか、その瞳が潤みだす。まるで少女のようなそのいたいけな瞳に胸の奥から何かがこみあげてきて谷村は我を忘れて嶺亜にむしゃぶりついた。

97 :ユーは名無しネ:2014/05/10(土) 19:12:24.26 0.net
「はぁっ…」
嶺亜が大きく息を吐いたかと思うと、彼の体がぶるっと震えた。どうやら首筋が弱点らしい。そこに唇と舌を這わせるとまたびくん、と痙攣が訪れる。
「嶺亜くん…ここがいいの…?」
小声で囁くと、嶺亜は目をきつく閉じた。肯定とも否定ともつかなかったが体の反応で谷村はイエスであると確信する。すでにベルトを外しておいたから容易にそこに手を滑り込ませることができた。
「ちゃんとついてたんだ…」
疑っているわけではなかったがあまりにも中性的すぎて嶺亜にそれが存在することを半分忘れてしまっていた。そして今、それを確認して不思議な感慨が訪れる。谷村の愛撫でもうそれは十分な硬さを備えていた。2、3回さするといきなり耳たぶを噛まれた。
「いたっ…」
「調子のんなって言っただろぉ…どこ触ってんだよぉ…」
「だって…」
「だってじゃない。そこはダメぇ。離してぇ」
いつもなら、嶺亜の言うことに逆らえるはずもないのだが今谷村の中では色々壊れてしまって自分でも思ってもみない言葉がついて出る。
「じゃあ嶺亜くんがしてよ…。そしたら離すから」
嶺亜の目は『何言ってんのぉ?』と一瞬見開いた。だけど谷村には根拠のない自信があった。彼は首を縦に振るだろう、と。
そしてそれは当たった。嶺亜は憎たらしげに谷村を睨むとこう呟く。
「いつからそんな生意気になったのぉ…?」
その手は手際よく谷村のジーンズのチャックをおろしていた。小さな手が中に侵入してくる。暫く下着の上から擦ったあとで直に触れてきた。
「う…」
いともたやすく形勢逆転してしまった。経験ではかなうはずもないのか、嶺亜の手つきは男の性感を知り尽くしているかのように絶妙に刺激してくる。

98 :ユーは名無しネ:2014/05/10(土) 19:13:11.74 0.net
「はぅっ…あっ…」
抑えようとしても声が漏れてしまう。まるで全身に微電流でも通されたかのようにビリビリとした快感に包まれ、谷村は喘いだ。狭い個室内に自分の淫猥な声がこだまし、余計に興奮してくる。
「谷村ぁ、声出し過ぎぃ…誰か入ってきたらどうすんのぉ?」
「だって…無理だよこんなの…声出すななんて拷問…」
「自分が望んだんでしょぉ…?」
「そうだけど…それとこれとは…うぁっ…!」
「生意気なこと言った罰だよぉ。出るまでやめないからねぇ」
まるでおいたをした子を叱るような口調でそう囁いた後、嶺亜の手の動きは激しさを増す。そうなるともう谷村には太刀打ちできない。声を我慢することを早々に放棄して全身を快楽に委ねた。
「……くっ…!!」
自分の中から勢いよく粘液が放出されると果てしない充足感が包みこんでくる。うっすらと発汗する全身は燃えるように熱かった。
息を整え、閉じていた目を開けると現実的な光景が目に入ってくる。嶺亜はトイレットペーパーで手を拭いていた。事務的な動作だった。
「…あの…」
声をかけようとするとしかし冷たい目でとある部分を見おろされ、こう告げられた。
「早くしまいなよぉそれ」
「あ…」
羞恥心と、えもいわれぬぞくぞくとした悦びが沸き上がってくる。やっぱり自分は被虐趣味があるのかもしれない。だがそうされたい相手は限定されている。誰にでもそうされたいわけではないのだ。
だから谷村はその言葉に従う前に思わずこう口にしてしまった。
「嶺亜くんがして…」
案の定、絶対零度の視線で見下ろしながら嶺亜はこう返す。
「だから調子のんなって言ってるだろぉ。なんでそんなことまでしてあげなくちゃいけないのぉ?早く手ぇ洗いたいんだけどぉ。べとべとして不快なんだよねぇ。
だいたいねぇ、出る時はちゃんと言えよぉもう少しで服にかかるとこだったじゃん。そしたら洗濯してもらう時にすんごい厄介だからぁ…ほんと谷村って…」
一気に早口でまくしたてられ、これこそがまさに望んでいた返事であることを谷村は自覚し感動に似たものが全身を包んだ。
呆然とその美しい冷たさに魅入っていると呆れたような顔になって嶺亜は眉根を寄せた。
「ちょっとぉ…なんでもうそんな元気になってんのそれぇ…バケモンかよぉ…」


END

99 :ユーは名無しネ:2014/05/12(月) 00:48:38.71 I.net
たにれあきたぁぁぁ!!
テンションMAXになって夜中に1人でうぉぉって
なってたよ
作者さん乙です!

100 :ユーは名無しネ:2014/05/12(月) 08:04:16.82 0.net
たにむの変態っぷり最高です

101 :ユーは名無しネ:2014/05/12(月) 21:42:54.19 0.net
あがががががががg乙です
れいあくんがしてれいあくんがしてれいあくんが

102 :ユーは名無しネ:2014/05/15(木) 22:29:54.36 0.net
作者さんいつも楽しみにしてます!ありがとう!
嵐のwannabeっていう曲がすごい合うので、たにむらに歌ってほしいw

103 :ユーは名無しネ:2014/05/19(月) 23:52:51.32 0.net
作者さん
たにれあが兄弟の話が未完なのでずっと続きが気になってます
焦らずお好きなタイミングで良いのでいつか続きを書いて下さい
お願いします!

104 :ユーは名無しネ:2014/05/27(火) 15:02:41.26 0.net
久しぶりにたにれあで問題作が見れて嬉しいよ
スレ終盤いつも楽しみにしてたんだけど最近容量オーバーで満スレならずってのも多かったし
夏には神7周辺はどうなってるのかな

105 :ユーは名無しネ:2014/05/30(金) 19:53:51.03 0.net
たにれあDuバイ記念番外編本高復帰祝い


ここは楽屋。リハーサルの休憩時間はJr達は思い思いに過ごしている。ゲームをしたりおしゃべりをしたり勉強をしたり…中には隅っこで寝ているのもいる。
本高克樹は勉強チームだ。鏡の前のわずかなスペースを机代わりに予習に勤しんでいる。半年Jrを休んで念願の第一志望の高校に合格したはいいが勉強についていくのに必死だ。Jr活動を言い訳にはしたくない。
隣では谷村龍一も同じように勉強をしている。彼の場合は輪の中に入りにくいのもあるようだ。さっきちびっこJrに「もう変なおじさん飽きた」と言われ自我修復ののち勉強に切り替えたようである。
「今日は物理にしよう。えっと…」
2〜30分もするとしかし喉が渇いてきた。午前中のリハでしこたま踊らされて汗をかいたせいだ。生憎手持ちのペットボトルは空だ。
仕方なく、自販機のあるフロアまで向かう。途中幾つもの楽屋を通り過ぎて行ったが静かなところもあればドアもあけっぱなしで大騒ぎのところもある。チラ見しながら歩いていると曲がり角で人とぶつかりそうになった。
「あ、ごめぇん」
そう言ってミルクティーのペットボトル片手に微笑んだのは中村嶺亜だった。
「あ、いえこちらこそ。嶺亜くんも飲み物買いに行ってたんですか?自販機ってこの下ですよね?」
何を隠そう嶺亜は本高の憧れの人である。といってもJrの先輩としてダンスが上手いから、とか歌が上手いから、とかではない。そういったごくごく当たり前の感情ではなかった。
「…」
通り過ぎた後、また二度見してしまう。後ろ姿までふんわりと可愛いオーラを纏っている。まさに天使。女の子だったらぜひ付き合いたい。密かにそう思っていた。
何せこれまで周りにいた男子と嶺亜は全く違う。軽いカルチャーショックのようなものもあり、またJrに入りたての頃色々と親切に教えてもらってそうしたことから本高の嶺亜への憧れは日増しに強くなっていった。
「あー、また嶺亜くんのこと二度見してるー」
振り向くとそこにはけらけら笑った松倉海斗がいた。
「いや、そんな…してないよ!何を根拠に…」
「嘘だー。してたしてたー」
きゃっきゃとからかってくる。松倉には誌面で嶺亜への思いをばらされたこともあり(もっともすでに周知の事実ではあったが)油断ができない。だけどもう確信しきった口調で彼は言った。
「嶺亜くんの楽屋、今嶺亜くんしかいないからさー。みんなであっちの楽屋で大トランプ大会するけど嶺亜くんはやらないって言って残ってたから本高行ってみればー?」
そんなことを言い放って松倉はスキップで去って行く。
「まったくもうまちゅくは…」
ぶつぶつ言いつつ自販機でお茶を買ってそれを飲みながら楽屋に戻ろうとするとそこが目につく。
楽屋の番号を確認する。嶺亜達が控えている楽屋だ。ちゃんと名前が記されている。

106 :ユーは名無しネ:2014/05/30(金) 19:54:46.75 0.net
「…」
数秒考えた後、本高はその楽屋をコンコンとノックした。名目はなんでもいい、振りの確認とか立ち位置の確認とか…質問する振りをして少しでも二人で話ができれば…。
しかし返事はなかった。もう一度ノックしてみる。しばらく待つ。やはり返事はない。
「あのぉ…失礼します…」
いないのだろうか。本高はドアを開けてみた。
嶺亜はいた。確かにいた。だけど…
「…」
楽屋の真ん中で、薄いシーツを纏って寝ている最中だった。だから返事がなかったのだ。
疲れているのだろう、そっとして立ち去らなくては…
「あ、あれ?」
しかし気がつけば本高はポケットに入れていたスマホをたちあげ、カメラモードにしていたのである。スマホの画面には嶺亜の美しい天使のような寝顔が映し出されている。
無意識って怖い。これでまたフォルダのコレクションが増えるとか思ってしまっていることは否めない。いやいやだめだろこれは盗撮であって迷惑防止条例に引っ掛かる行為であるから…
しかしシャッター音が鳴り響いた。しかもその画像の確認までして保存してしまった。これはもう言い訳できない。
またスマホの中身を松倉に見られたらなんて言いふらされるか考えただけで怖い。今のことろ嶺亜は普通に接してくれているがそろそろ谷村のように扱われる危険もある。
消した方がいい。一瞬だけ堪能してこの後消去しなければ…
「なんで指が動いてくれないんだろう…何かの病気かな…」
いくらがんばっても消去キーに指がいかない。こんなに美しい寝顔を消すだなんてなんという非人道的行為…あ、これは違う人の口癖だったか…とにかく体が言うことを聞いてくれなかった。
「ん…」
そうこうしてたら嶺亜が寝がえりをうった。シーツに覆われていた体が露わになった。衣装のジャケットを脱いでいるからタンクトップ一枚だ。真っ白な肩と腕がそこから伸びている。
「…」
思わず唾を飲んでしまった。

107 :ユーは名無しネ:2014/05/30(金) 19:55:48.61 0.net
確か思春期に入ると第二次性徴というものがあって男子は声変わりが始まり徐々に体に筋肉がついてがっしりしてくるはず…なのにこれはどうだ?まるで逆行しているかのように細くて滑らかでしなやかさすら感じる。
医者を志す者としては知っておかなくてはならない気がする…そんなものは個人差の範囲内だろという声も聞こえたが本高はその天の声を無視した。
柔らかそうな二の腕をじっと見ていると、ふつふつと沸き上がる感情が抑えられない。
触れてみたい。ふにふにしてみたい。どれだけ柔らかいのかこの手で確かめたい…
手を伸ばしかけて、思わずひっこめた。というのも嶺亜がまた寝がえりをうって触れそうになったからだ。
「…」
また唾が嚥下していく。今度はその脇だ。
実に不思議だ。成長期の発毛というのは誰にでも訪れるものである。保健体育の授業でもそう習った。現に自分にもその現象が訪れ始めている。
それなのにどうだろう。嶺亜の脇はまるで赤ちゃんのようにつるつるだ。抜いているわけでも剃っているわけでもない。ナチュラルなすべすべ感…。そこにも触れてみたくて欲求が次々に押し寄せてくる。
これは決してやましい意味でもいやらしい意味でもなく学術研究のようなもの…
そう、嶺亜の中性的な雰囲気はどこから醸し出てくるものなのかその謎を追求すべく、好奇心が沸いて出てくるのだ。
小学校の時の担任も「気になることや不思議なことはどんどん自分から調べて確かめて行きなさい」と言っていた。それを実行しようとしているだけだ。
「…はぁ…」
嶺亜が吐息を漏らした。今度は唾ではなく心臓が跳ねる。
閉じられた瞳とスーっと通った鼻筋、そして薄い唇とそれらを何倍にも際立たせる雪のような白い肌…いつまで見てても飽きない。ていうかこれも写真に収めときたい。本高はまたシャッターを切った。
しかし現物は写真よりよりリアルに鮮やかに五感に訴えかけてくる。こういうのをなんて表現したらいいんだろう…今度の現国の問題に出るだろうか。帰ったら調べなくては。
「…」
見つめているとどんどんそこに吸い込まれそうになる。気がつくとかなり至近距離で嶺亜の顔を見ていた。
ああ、美しい…こんな女の子がいたら迷わずお願いしますって言うのに…
だけど相手は男だ。しかも先輩だ。
普段から親切にしてもらってるのに盗撮したり劣情をもよおしたり寝顔をじろじろ見たり苦手な虫を「れいあ」と名付けて少しでも愛でられるよう克服しようとしたりするなんて恩知らずだし気持ち悪がられるしいけないことだ。

108 :ユーは名無しネ:2014/05/30(金) 19:57:06.56 0.net
気を確かに持て本高克樹。お前には男の先輩の寝込みにハァハァするよりもやらなくてはいけないことがあるんだ。
もっとダンスも歌も上手くなってパフォーマンスに磨きをかけて勉学との両立を達成する。将来の夢である医者に向かって日々勉学に勤しみ、そして…
本高が自分自身を戒め始めたその時であった。
「なぁに?」
美しい瞳が開いて、可憐な唇が動いた。
本高は心臓麻痺をおこしそうになった。時間を巻き戻せるなら数分前に戻したい。
この状況は誰がどう無理矢理な論理的展開をしようとも最終的帰結は「寝こみを襲おうとした」ただ一つ。どう言い訳しても不可能。裁判なら確実に実刑モノだ。
もう駄目だ。明日から僕は嶺亜くんにとんでもない非人道ド変態痴漢野郎として汚物を見るような侮蔑の絶対零度を浴びせられるのだ。
生憎僕は谷村のようにそこに快感を感じるような性癖は持ち合わせていない。やっぱり好きな人には優しくされたい。でももうそれも終わりなんだそうなんだ…せっかく復帰したのにもうサヨナラだ。
「す…すいません…」
泣きそうになっているとしかし嶺亜はふっと笑う。こんな状況なのにその天使のような微笑みにクラっとくる。
その天使はこう言った。
「謝ることないのにぃ」
こんな状況においても優しい言葉をかけてくれるなんて感涙しきりである。本高は元々涙腺が弱いだけに泣きそうになった。先程とは違った種類の涙である。
「本高はホント可愛いよねぇ」
夢かなんかを見ているのだろうか?嶺亜はお得意の小悪魔な微笑みと共にそう囁く。
ぽや〜っと魅入っているとしかし嶺亜は少し目を細めて
「何しようとしてたのぉ?」
と問う。もちろん言えるはずがない。また背中に汗をかいた。
「え…えっと…」
口ごもっていると今度は嶺亜はけらけらと笑った。ころころ変わる表情もチャーミングだなぁ…とまた本高は状況を忘れてそう思ってしまう。嶺亜にはそんな魔力があるようだ。
「言えないようなことしようとしたんだぁ」
また表情が変わる。蠱惑的な微笑み…しかも嶺亜は本高の首の後ろに腕を回してきてまるで誘うように力をこめた。

109 :ユーは名無しネ:2014/05/30(金) 19:57:51.50 0.net
「あ、ああああああああああああああああの…」
突然の展開にパニックに陥ってしまって本高は腰が抜けた。間抜けにもそのまま嶺亜に覆いかぶさってしまう形になった。密着し薄布越しに嶺亜の体の感触が伝わってくる。この時点で本高は頭が爆発しそうになっているが更に…
「いいよぉ何してもぉ。本高は可愛い後輩だもん」
僕の耳はついに幻聴まで聞こえるようになってしまったのだろうか?と本高はこの時本気で危惧した。
ハードな受験勉強から解放されて思わぬところにストレスの影響が現れて今ここにありもしないことを聞かせているのではなかろうか。今すぐ医者にかけこむべきなのかもしれない。
だけど…
「でもちょっと重いからぁ起き上がってもいいぃ?」
「はい…」
起き上がると嶺亜は可笑しそうに本高の顔を覗きこんでくる。
「可愛いぃ。真っ赤になってるぅ本高ぁ」
そう。もう茹であがった蛸のように顔が熱かった。心臓の鼓動もどえらいことになっていて皮膚を突き破って出てくるんじゃないかと思えるほどだ。不測の事態にもう頭も体も付いて行かない。
きゃっきゃと笑っていた嶺亜はしかし接近して本高の耳元で小声でこう囁く。
「ねぇ、本高はさぁ…キスしたことある?」
「え…?」
聞きとれなかったわけではない。どういった意図の下にこの質問が自分に投げかけられたのかを考えるが思考が付いて行かないだけだ。
「どっち?ある?ないぃ?」
「あ、ありません…」
その返答が望んでいたものだったのか嶺亜はふっと笑う。柔らかい、絹糸のような笑顔である。
「受験勉強大変だったでしょぉ?」
しかし嶺亜は急に話題を変えた。やはり意図は分からない。
「あ…ハイ。漫画もゲームも絶って集中しましたから。合格するまでの我慢だって自分に言い聞かせて」
「そっかぁ。じゃあ…」
嶺亜が視線を下に落としたかと思うと、次にとんでもない展開が訪れた。
「こっちも我慢してたのかなぁ?」
下半身に何かが当たった…かと思ったらそれは嶺亜の手だった。白くて割と小さめのその手が自分の大事なところを擦っている。認識した瞬間大パニックに襲われた。

110 :ユーは名無しネ:2014/05/30(金) 19:59:08.55 0.net
「れ、嶺亜くん…!!!!!!?」
顎をカクカクさせていると、そのぞっとするような妖艶な瞳が目に飛び込んでくる。
「本高は自分でしたことあるのぉ?」
「あの…」
答えるのが躊躇われるくらい体が反応してしまっている。猛烈な羞恥心が押し寄せ、本高は泣きそうになった。
「答えてくんないならしちゃおうっと」
拗ねたように頬を膨らませると嶺亜は本高のズボンの中に手を入れてきた。ダイレクトにそこを掴まれ、思わず悲鳴に近い声が出てしまう。
嶺亜は「しっ」と無声音で囁くと顔を更に近づけて
「声出しちゃダメだよぉ。誰か入ってきたらどうすんのぉ」
すみません、と言おうとしたが声を我慢しようとするとそれができなかった。代わりに小刻みに頷くと嶺亜はくすっと笑う。
「やっぱり本高は素直でいい子だねぇ。可愛いよぉ」
慈愛に満ちた眼で見つめられているのと、物理的に快感を促進させられているのとで本高はクラクラしてきた。体温が上昇し、うっすらと汗が滲んでくるのを自覚した。
「気持ちいいぃ?」
「…ハイ…」
されるがままの状態でいるが、本高の中には一つの欲求が生まれつつあった。
「れ、嶺亜くん…」
「なぁに?」
考えるよりも先に声が出ていた。いつもの自分なら絶対にこんなことは言えない。そう、こんなことになっているからこそそれは口をついて出たのかもしれない。脳の奥で冷静に分析している自分がいた。
「キ…キスしてもいいですか…?」
一瞬、きょとん、と嶺亜は眼を見開いた。だがそれを本高が認識した瞬間にはもう小悪魔の瞳に戻っていて、微笑みながらこう返す。
「いいよぉ」
嶺亜はそっと目を閉じた。本高の記憶にとある映像がフラッシュバックする。
あれは…そう、JJLのパジャマパーティーのフリで嶺亜に「エアキス」を要求したことがあった。OAを見てそのキス顔を写メったっけ…
それが今、自分の目の前にある。しかも「エア」でなく「リアル」にできるのだ。本高の心臓は一層大きく脈打った。
「…」
嶺亜は手の動きを止めてじっと待っている。唾をごくりと飲んだ後本高は彼の肩に両手を置いた。そしてゆっくりと顔を近づける。
心臓が口から飛び出しそうだ。
顔が火を吹けるほどに熱い
震える腕を必死に宥めて本高は嶺亜の蕾のような唇に己のそれを近づける。

111 :ユーは名無しネ:2014/05/30(金) 19:59:51.09 0.net
(うわ…!)
極限の緊張の中で神経は一点に研ぎ澄まされた。
柔らかい…
それだけ確認すると後はもう酩酊状態に近い眩みが訪れた。お酒なんて飲んだことはないけどきっとこういう状態になるんだろうな…とぼんやりとした意識の向こうで思う。
くらくらと目の前が明滅する中で視界がそれを捉えた。うっすらと目を開けた嶺亜は本高ににっこりと微笑む。まるで女神のように…
受け入れてくれてるのかもしれない、という期待が欲求を一気に肥大化させた。それはもう巨大な風船となって自分を覆ってしまったような気がする。気がつけば本高は嶺亜を押し倒していた。
「れ…嶺亜くん…あの…いいですか…?」
主語述語が滅茶苦茶であるが、嶺亜は理解してくれたのか小さく頷いた。
もう誰も僕を止められない。そう、僕自身でさえも。
不思議な確信と共に本高はアクセルを踏んだ。どこまでもどこまでも暴走してこのまま二人きりで世界の果てまで行こう。
本高の人格が満場一致でその結論に達したその時である。嶺亜が恥らいがちに指を唇に当てながらこう呟いた。
「いいけどぉ…でもぉ…皆が見てるよぉ?」
「え?」
そう言われて本高が顔をあげるとそこにはJrの面々がずらりと自分達を囲んでいた。
これは…これはどういう…さっきまで誰もいなかったし人が入ってくる気配すらしなかったのに?夢中になり過ぎて気がつかなかったというのだろうか。
それにしてもこの数は尋常じゃない。村木、琳寧、舜映、ヴァサイェガ光、松倉、松田…谷村までいる。彼らは無表情で自分を見おろしていて…
本高の頭は真っ白に更新された。ついでに視界も真っ白になった。何故かガクガクと地震のように足元が揺れ出し、そして…

112 :ユーは名無しネ:2014/05/30(金) 20:02:34.16 0.net
「おい本高、うるさいってば。とりあえず目覚ませよ」
聞きなれた声がすぐ耳元で鳴り響き、意識は急に方向を変える。けだるい体を起こして当たりを見回すと村木と松倉、松田が怪訝な表情でと自分を見つめていた。
「え!?…あれ…?」
ぎょっとしたが今自分の前には嶺亜はおらず、しかも楽屋の机に突っ伏して寝てしまっていたであろう痕跡があった。やりかけの問題集とノートが広げられていてそこには涎の跡がうっすらと滲んでいる。鏡にはぼさっとした自分が映っていた。
「お前さっきからさぁ訳分かんない寝言言ってたけど大丈夫?これ何本か言ってみ?」
村木が指を三本立てて茶化してくる。
「無理しすぎは良くないと思う。休憩時間はちゃんと休憩しなよ」
年下の松田がポカリを飲みながら諭してくる。
「嶺亜くんの夢でも見てたんじゃないのー?」
けらけら笑う松倉の冗談にようやく本高は繋がった。
夢だったのだ。
夢の中で僕は嶺亜くんとあんなことやこんなこと…思い出すとまた顔が熱を持つ。
「あ、赤くなったー。もしかして図星?」
さらにつついてくる松倉の指摘に必死で言い訳をしていると楽屋のドアがノックされ、それが開く。ひょい、と顔を出した人物を見て本高はひっくり返りそうになった。
「ねぇ誰かアイフォンの充電器持ってないぃ?充電やばくて困ってんだけどさぁ」
嶺亜がスマホ片手に入ってきた。そこで今しがたの夢の内容がフラッシュバックし、本高は穴があったら入りたいほどの羞恥心にみまわれる。
だが穴がないのでとりあえず楽屋の中にあったクロゼットの中に入ると周りから「勉強のしすぎでプッツンした」と暫く腫れものを触るかのように扱われたのであった。



END

>>103氏 あんなおどろどろした湿り気だらけの話を気にかけてくれる人がいたとは驚きです
長らく放置しましたが近日中に続きをあげられるよう尽力します

113 :ユーは名無しネ:2014/06/01(日) 20:57:26.53 0.net
>>103です!楽しみに待ってます!ありがとうございます!
それにしても蠱惑wタイムリーw

114 :ユーは名無しネ:2014/06/06(金) 20:54:15.48 0.net
本高www
谷村といいインテリ系の変態はみんなれあたんにいくんだな

115 :ユーは名無しネ:2014/06/06(金) 23:49:30.09 O.net
れいあはまったく蠱惑的だなぁ

116 :ユーは名無しネ:2014/06/08(日) 17:02:53.18 0.net
日曜裏ドラマ劇場 「誰にも言っちゃダメ」


目が覚めると俺は嶺亜兄ちゃんのベッドにいた。
夢と現実が曖昧になっている半覚醒状態のままでゆっくりと身を起こす。隣には嶺亜兄ちゃんはいなくて、だけど温もりは残っていた。
時計を見るとまだ6時過ぎでカーテンの隙間から日差しが挿し込んでいる。今日もうだるような暑さであることを首の後ろの汗が示していた。
けだるい身体に鞭を打って立ち上がり、俺は嶺亜兄ちゃんの部屋を出る。そこで一気に覚醒が促された。
「あら龍一くん、どうしたの?嶺亜の部屋で寝てたの?」
洗濯ものを抱えた継母が嶺亜兄ちゃんの部屋から出て来た俺を見て目をぱちくりとさせた。
一気に血の気が引いた。
昨夜俺と嶺亜兄ちゃんがしていたことを知ったらどう思うかなんて考えなくても分かる。後ろめたさと怖さで眠気も何もかも吹き飛んでしまった。
「あの…」
声が上手く出せず狼狽していると、嶺亜兄ちゃんの声が前から響いた。
「昨日、龍一と部屋交換して寝てみたんだよ。たまには違うところで寝たいよねって二人で言っててさぁ」
にこにこと、無邪気な笑顔で嶺亜兄ちゃんは継母にそう告げた。うろたえる俺とは対照的に疑いなど微塵も抱かせないような清々しい表情で。
「あらそう。あ、もうこんな時間。お母さん今日も仕事夜までだから嶺亜、洗濯物取りこむのと夕飯はカレー作っておいたからそれ温めて龍一くんの分もちゃんと温めてあげてね」
ぱたぱたとせわしげに継母は抱えた洗濯物を持ってベランダに向かう。
ほっとしたのも束の間、嶺亜兄ちゃんはくるりと俺に背を向けて階下に降りて行く。
怒ってるのかな…
急に不安が訪れた。
正直な話、昨晩のことをよく覚えていない。自分が壊れてしまって無我夢中で嶺亜兄ちゃんを求めて…具体的に自分が何をしたのか、してしまったのかをはっきり思い出せずにいた。
ただ、燃え盛る炎のような熱さが自分を包んでいたように思う。そこだけは今も余韻のように残っている。
リビングに降りると嶺亜兄ちゃんはトーストにバターを塗っていた。朝のワイドショーを見ながら優雅に朝食をとっている。もちろん入ってきた俺には目もくれない。
受け入れられてるわけでも拒絶されているわけでもない。蛇の生殺し状態…
いつまでそれが続くのか。この先ずっとなのか、それとも…
自分の願望が「ずっと」を望んでいる…それを認識した時にはもう嶺亜兄ちゃんはトーストを食べ終わっていて、俺の真横をすり抜けて部屋を出ていった。


.

117 :ユーは名無しネ:2014/06/08(日) 17:03:54.27 0.net
夏期講習を終えて帰宅するとカレーの匂いが鼻腔をくすぐる。リビングに入ると嶺亜兄ちゃんがキッチンの前に立っていた。
「ただいま」
返事はなかった。まるで誰もいないかのように嶺亜兄ちゃんは鍋の中のカレーを掻き交ぜている。分かっていたことだから俺は荷物を置こうと自分の部屋に向かおうとした。
「お継父さんがね」
ふいに、背後で嶺亜兄ちゃんの声が響いた。俺は反射的に立ち止まり、振り向く。嶺亜兄ちゃんはまだ背を向けたままだ。
「さっき電話してきて、仕事が早く終わったからお母さんが仕事終わるの迎えに行ってそのついでに家にも寄るから皆で外食しようってぇ」
まるで独り言のように嶺亜兄ちゃんは淡々と説明する。俺はそれを一生懸命脳にインプットしようとした。
だけど、外食するならなんでカレーを温めているのか…その疑問に達すると同時にカレーを皿に盛りつけながら嶺亜兄ちゃんは言った。
「でも僕は龍一とカレー食べるからって答えておいた」
振り向いた嶺亜兄ちゃんの顔は貼りついたような能面で、まったく表情が読み取れない。
にもかかわらず、俺は何故か泣きそうになる。
きっと自分でもその時の感情をどう露わしたらいいのか分からなくて、それが溢れ出たんだと思う。食卓に乗った二つのカレー皿を不思議な感慨と共に見つめている俺をよそに嶺亜兄ちゃんはカレーを食べ始めた。
小さな口に上品な仕草でスプーンを運び、ゆっくりと嶺亜兄ちゃんは食べる。俺は知っていた。嶺亜兄ちゃんは食べるのが遅い。それは少しずつ口に入れるからだ。
猫舌なのも知っている。熱いものは暫く冷ましてからでないと食べない。それに…トマトが大の苦手だ。その証拠に用意された野菜サラダにはトマトが入っていなくて、俺の分のサラダに不自然に沢山のトマトが入っている。

118 :ユーは名無しネ:2014/06/08(日) 17:05:15.35 0.net
「…」
会話に乏しい食事だったが二人きりで向き合って食べていると不思議な充足感があった。時計の秒針を刻む音と、食器が擦れ合う音だけが谺する。考えてみればこの家に来て以来、嶺亜兄ちゃんと二人きりで食事をしたことはない。
そんなことをぼんやり思っていると、ふいに沈黙が破られた。
「昨日の夜のこと」
肩が震えた。一瞬で鼓動が速くなる。
「誰にも言っちゃダメだよ。分かってると思うけど」
睨みつけるような鋭い眼差しを向けながら嶺亜兄ちゃんはそう告げる。俺は黙って頷いた。
「バレるような言動もダメ。今朝僕がごまかさなかったらお母さんが勘付いてた可能性もあるんだから、ちゃんとして」
もう一度、俺は頷く。それだけ確かめると嶺亜兄ちゃんはあとは何も言わず黙々と食事を進める。俺の方が大分早く終わったが動けなかった。
嶺亜兄ちゃんがスプーンを口に運んでいるその仕草に、何故か下半身の血のめぐりが促進されてしまう。
淡い、薄い唇の動きに目が離せない。
時折覗く赤い舌にどうしようもなく脳髄が震えさせられる
飢えにも似た渇き…大波のように押し寄せる欲求が今にも溢れだしそうになる。
吸い寄せられるようにそこに魅入っていると、嶺亜兄ちゃんの眼が一瞬見開かれる。そこにはわずかな戸惑いが含まれていて、しかしそれはすぐに払拭されてしまった。
「なに?」
そこで俺はようやく自覚する。無意識に嶺亜兄ちゃんの頬に手を伸ばしていたことに。


.

119 :ユーは名無しネ:2014/06/08(日) 17:06:40.29 0.net
勉強をしながら、俺の意識は全く違う方向に向いていた。
「…」
何をしていてもどうあがいてもずっと嶺亜兄ちゃんのことを考えてしまう。戻そうとしても戻そうとするほどにより強くこびりついて離れない。
時計はもう12時を過ぎていた。だけど眠気は全くない。クーラーをつけることすら意識から飛んでいたからじっとりと汗をかいていた。
喉の渇きを覚えてキッチンに向かうとリビングから灯りが漏れていて、話声が聞こえる。何故か俺はドアの前で立ち止まってしまった。
「…けど良かったよ。実を言うと心配で仕方がなかったんだ。思春期のこの時期に再婚だなんて子どもたちはどう思うのかって」
父の声だった。晩酌をしているのか継母の声も聞こえてくる。
「安心するのはまだ早いんじゃない?龍一くんが負担に感じていないはずがないでしょ。内部進学がかかった大事な時期に他人と暮らすことになって思うように成績が伸びなかったりしたら…。
まだまだ私達に心を開いてるとは言い難いし…私も努力してるんだけど、どうしてもよそよそしくなってしまって」
継母はわずかな不安を口にしていた。俺が一向に馴染む気配がないからだろう。
だが父はそれとは逆に楽観視しているようだ。
「龍一はああいう子だから気にしない方がいい。昔から人見知りが激しくて、誰にでもああなんだ。学校でも友達と呼べる存在もごくわずかでね、先生にもよく心配されていたよ」
カチャン、とコップが擦り合う音がして父はこう続ける。
「嶺亜が素直ないい子で良かった。正直、かなり救われてる。龍一のあの性格は同じような年ごろの子には多分うっとおしく思われるんじゃないかって心配だったんだけど、今日も家族皆で…と外食の誘いをしたら龍一と食べるから二人で楽しんでおいでって言われてね」
「あらそうなの。でもね…」
継母の声のトーンが急に下がる。
「あの子は素直には程遠い子よ」

120 :ユーは名無しネ:2014/06/08(日) 17:10:28.00 0.net
断言するかのようだった。父の疑問を孕んだ声が続く。
「どういう意味かな?無理してるってことか?俺達の前では素直ないい子を演じてるっていう…」
「そうじゃないの。あの子は性格的には明るくて人懐っこい子だってのは母親の私もよく分かってる。昔から色んな人に可愛がられたし。だけどね…」
「だけど?」
「…父親を早くに亡くして、何かがあの子の心の中にぽっかり穴を開けてしまったんだと思う。あの子、普段は私のこと困らせたり心配させたりワガママも言わないんだけど…」
浅い溜息混じりに継母は語る。俺はいつの間には全神経を聴覚に集中させていた。拳にはじっとりと汗が滲んでいる。
「時々それが爆発するのかしら…ぎょっとするような形でそれを示すの。そんなことしなくても、素直に言えばいいのに…歪んだ表現で表そうとして…。
あの子の中で何か一定のラインがあって、そこを超えてしまったらどこまでもいびつな形になっていくような…上手く言えないけど」
酒が入っているからなのか、継母の様子がいつもと違うというのは分かる。父もきっと、普段見せない継母の顔を察しているのか冷静な口調で返す。
「どういうことだ?よく分からないんだが…」
「いつだったかしら…あの子が小学校低学年ぐらいの時…腕を骨折して帰ってきたことがあったの。学校の先生が職場に連絡してくれて…階段から転げ落ちたんだって本人が言ってて…って」
「それが?」
「それがね、運動会の直前のことで…。あの子、運動はそんなに得意じゃないけどそれでもクラスのリレーのメンバーに選ばれたんだって嬉しそうに言ってて。
でもその日、私はどうしても抜けられない仕事があってどうがんばっても運動会を見にはいけなくて、あの子はじゃあ仕方ないねってあっさりしてたから大丈夫だと思ったんだけど…
こんな形で本心を示したことに驚いてしまって結局休みをとって運動会の日はあの子も家にいたの」
「考えすぎじゃないか?どうしてそんな…」
「私も最初は偶然だと思った。だけど家にいて絵を描きながら嶺亜が『どっちみち僕の走ってるところは見れなかったよね』って呟いたのを聞いて、ああこれはあの子なりの反抗で、だだをこねた結果なんだって思った。しかも、その時描いていた絵はリレーの絵だった…」
母は溜息を洩らす。その深さがドアを隔てて伝わってくるようだった。
「今回のこの再婚も、話した時あの子は特に反対もせず、嬉しがることもなく淡々とそれに従ったけどどう思ってるのか私にはさっぱり…。今のところあなたとも龍一くんとも上手くやってるようだけど…」
背筋が冷たくなる。
もしかしたら、嶺亜兄ちゃんは…
そう思いかけた時、背後で音がした。反射的に俺は振り向く。
だけどそこには何もなく、誰もいなかった。澱んだ空気だけが静かに漂い流れている。
俺は足音をたてずに階段をあがった。


   to be continued…?

121 :ユーは名無しネ:2014/06/08(日) 19:27:22.35 I.net
作者さん乙です!
たにれあシリーズ待ってました。
嶺亜くんの過去とか本心がだんだんわかってきましたね!

読んでいてワクワクします
これからも楽しみにしてます

122 :ユーは名無しネ:2014/06/08(日) 21:01:48.41 0.net
作者さんお疲れさまです!まってました!続きも楽しみです!

123 :ユーは名無しネ:2014/06/08(日) 21:43:21.42 0.net
リクエストした者です!感無量!
本当にありがとうございます!
続きも楽しみにしてます!

124 :ユーは名無しネ:2014/06/08(日) 23:32:08.35 0.net
作者さん乙です
たにれあたまらん

125 :ユーは名無しネ:2014/06/11(水) 23:14:26.10 I.net
神7で卓球

作者が卓球部に入ったので書いてみました

岸 優太
相変わらずの不憫発揮で球が顔面に直撃したり球を踏んで転倒→後頭部強打→アホにアホ呼ばわり

橋 颯
自身のヘッドスピンのようなキレキレの回転でメンバーを圧倒させる。
焦ると卓球台の上でヘッドスピンを始める

神宮寺 勇太
とりあえず面倒で早く終わらせようと試みるが負けず嫌いな性格を発揮して最後まで全力で戦う
審判が綺麗なお姉さんだと異常な強さを発揮させる

中村 嶺亜
「僕も点欲しいなぁ(はぁと)」と可愛く微笑みながらのスマッシュで点を稼ぐ
試合休み中はチアガールでメンバーを応援

羽生田 挙武
回転のかけ方や速さのコツを全て計算で割り出して優勝を狙う
ラケットは張り切って超一流品使用しかし全力を尽くすあまり破損

倉本 郁
自分なりに頑張ってみるものの空腹には勝てずに食パンをかじりながら試合をする
井上の声援を受けて異常なパワーを発揮

栗田 恵
ルールがわからないがアホ故の野生的カンでなんとかやり過ごす
運はいいので運だけで勝ちを狙う

谷茶浜 龍一
盛大に空振り→アホにアホ呼ばわり

126 :ユーは名無しネ:2014/06/12(木) 00:04:13.82 I.net
谷茶浜とか懐かしいw
ところで栗ちゃんはいったいどこにいってしまったのだろう……
辞めたみたいな噂はあったけど実際どうなの?

127 :ユーは名無しネ:2014/06/12(木) 20:33:35.80 I.net
126です
読んでくれた人ありがとう
携帯だから予測変換で谷茶浜って出たみたい。
指摘されて初めて気づきました
部活で疲れてたからかな…

ア…栗田はたとえやめてても神7は永久不滅のForeverだから問題ない!

128 :ユーは名無しネ:2014/06/14(土) 15:58:29.09 0.net
谷茶浜www
作者さん乙です! (わたしも卓球部です)www
しかしたにれあやばいなー作者さん頑張って!

129 :ユーは名無しネ:2014/06/15(日) 03:52:07.66 I.net
神7イメージで作詞してみました


『Letts Go‼︎』


1、2、3、4、5、6、7、8!!

だから俺たちは走り続ける
傷だらけの過去は捨てて
振り返らず 前だけをみて
もう一人じゃないから
さあ Letts Go!!

何度も壁にぶつかりながらも
足跡(軌跡)刻みながら
歩いてきた道
でももうそれすらも薄れている

涙隠した 土砂降りの雨
まだやまないまま
心の中でずっと 降り続いてる
生きることとか諦めてない?

雲の切れ間から
まっすぐな光見えたら
今すぐにそう 行こう!

だから俺たちは走り続ける
過ちだらけのこの世界で
あの頃の夢叶えるため
怖くないから前だけを見て
俺たちは一人じゃないから
さあ Letts Go!!

消えかけた 地図 握り締めて
忘れてた物 探しながら
歩いてく道
でも気持ちは迷いかけてる

悔しさ隠した「どうでもいい」
まだ消えないまま
心の中でずっと繰り返されてる
あの頃の夢とか諦めてない?

闇の中から
希望が見えたら
今すぐにそう行こう!

だから俺たちは走り続ける
絶望だらけのこの世界で
あの時見た希望見つけるため
自分信じて このままじゃ駄目だから
俺たちはもう一人じゃないから
さあ Letts Go!!

130 :ユーは名無しネ:2014/06/15(日) 03:53:43.20 I.net
なんか文字化け?になった
題名は『Letts Go!!』
です

131 :ユーは名無しネ:2014/06/15(日) 08:20:56.99 0.net
作者さんすげー!
乙乙です!

132 :ユーは名無しネ:2014/06/15(日) 11:22:29.20 I.net
谷茶浜がなんで予測変換で出たのかは不明です
もっといろいろ書きたいけどネタが思いつかないorz←使い方合ってる?
2ちゃん初心者だからわからない

ネタのリクエスト募集

133 :ユーは名無しネ:2014/06/15(日) 20:02:34.58 0.net
日曜裏ドラマ劇場 「誰にも言っちゃダメ」


闇の中に一人、気配を殺すように嶺亜兄ちゃんは蒲団の中にうずくまっていた。
俺が入ってきたことに気付いていないはずがないが、微動だにしない。もちろん、声を発することもない。
ただ蚕のように静かにそこにいた。
「嶺亜兄ちゃん」
声をかけても、返事もない。一切の接触も持たないという意思が伝わってくるようで一瞬俺は怯んだ。
重い一歩を踏み出すとしかし見えない壁が立ち憚る。
「来ないで」
完全な拒絶を、その声は色濃く示している。昨日の夜とは全く違った声色だ。従う他に選択肢を与えない絶対的な強制力が働きかけてきて、俺は体が動かなくなった。
「出て行って、これからは勝手に入ってこないで。僕はもう寝るから」
「嶺亜兄ちゃん」
動けないが、声はまだ出せる。俺は嶺亜兄ちゃんの名を呼んだ。
「俺は…」
「駄目。お継父さんもお母さんもまだ起きてる。いつ二階に上がってくるか分からないから絶対駄目」
そうじゃないんだ、と俺は嶺亜兄ちゃんの声を遮った。
「嶺亜兄ちゃんは、父さんと継母さんの再婚に反対だったの?俺達と暮らすのが嫌だったの?」
空気が張り詰めている…そんな気がして俺は足が震えた。
だけど続けずにはいられなかった。
「だから俺とあんなことをしたの?継母さんに思い知らせようとして…」
俺と嶺亜兄ちゃんがしていたことがばれれば両親は穏やかでいられない。どちらも嫌悪するだろうし、このままではいられない。一気に家庭崩壊の危険をはらんでいる。

134 :ユーは名無しネ:2014/06/15(日) 20:03:13.88 0.net
『こういうことでしか、表現できないんだよね』といつか嶺亜兄ちゃんは言った。俺の『どうしてこんなことをするの?』という問いに。
母親が再婚し、見ず知らずの他人と暮らすのが…あるいは母親が知らない男と一緒になるのが嫌だ、と言えないから…だからこうやって…
俺は継母の今さっきのぼやきからそう推測し、結論付けた。それなら全て辻褄が合うからだ。
だけど、それは全く見当はずれだということを、起き上がって暗闇の中でも薄ぼんやりと見てとれる嶺亜兄ちゃんの表情が示していた。
「何を言ってるの…?」
理解不能、という意志がそこには現れていた。てっきり俺は「そうだよ。だから…」と冷たく嶺亜兄ちゃんが言い放つのを予測していたからそれは予想外もいいところだった。
その嶺亜兄ちゃんの反応に面くらってしまって黙りこくっていると、嶺亜兄ちゃんの顔は能面のような無表情に戻って行く。そしてまた蒲団を被って俺をシャットアウトした。
「嶺亜兄ちゃん」
弾かれるようにしてどうにか動いた身体を近付かせると、いきなり目の前に何かが飛んでくる。
それは枕だった。軽い衝撃にうろたえていると、次に耳を刺すような大声が轟く。
「出て行けって言ってるだろぉ!!お前の顔なんか見たくもない!!さっさと出て行け!!出て行け!!」
いきなりの感情の爆発に俺が硬直している間にも嶺亜兄ちゃんは取り乱したように叫ぶ。その声を聞きつけた両親がやってきて部屋の灯りをつけた。
「どうしたんだ?龍一、嶺亜…一体何を…」
「嶺亜…?あなたどうしたっていうの…どうしてこんな…」
「龍一、説明しなさい!嶺亜、落ち着いて。この子が…龍一が何かしたのか?おい龍一!」
父の目は俺を責めている。継母は嶺亜兄ちゃんを落ち着かせようと必死で声をかけていたがそれでも嶺亜兄ちゃんは同じことを叫び続けていた。
俺は答えを間違ったんだ。
消えてしまいたいほどの自己嫌悪と否定の向こうで、ただそれだけが嫌にはっきりと脳に刻まれていた。


.

135 :ユーは名無しネ:2014/06/15(日) 20:03:39.29 0.net
「昨日はごめんなさぁい」
次の日の朝食で、嶺亜兄ちゃんは家族全員にそう言って頭を下げた。
「龍一にゲームで負けたのが悔しくて、ついむきになっちゃった。もうあんなことしないから許してね、龍一ぃ」
いたずらっこが謝罪を求めるように、愛らしい仕草で嶺亜兄ちゃんは言う。
だけどその眼は俺には向けられていない。
その声は俺にかけられたものじゃない。
そんな気がして、俺は自分がどういう反応を示して、どう返事したのか分からなかったが父と継母はほっとしたような顔をした。
「そんな下らないことであんな子どもみたいに喚いて…お母さん恥ずかしい。嶺亜はいい子だってお父さんも言ってくれてたのに」
「だからごめんなさいって言ってるじゃん」
嶺亜兄ちゃんはむくれたように頬を膨らませた。
「いや、いいんだよ。もしかしたら龍一が嶺亜にひどいことをしたんじゃないかって昨日は心配でよく眠れなかったから安心した。そんな風に素直な感情を出してくれてむしろ嬉しいよ」
「パパは優しいなぁ。ママと大違いぃ」
無邪気に笑って、嶺亜兄ちゃんは父ににっこりと微笑む。
「龍一君ごめんね、この子たまにこういう子どもっぽいところ見せるから…懲りずにつきあってやって」
和やかな朝食だった。嶺亜兄ちゃんはきゃっきゃと終盤に差し掛かった夏休みの予定について話していたし父も継母もそれに答えている。ただ、俺だけが暗く沈んだ気分で味の分からない朝食を自動的に口に運んでいた。

136 :ユーは名無しネ:2014/06/15(日) 20:05:50.95 0.net
「もうちょっとがんばらないとな…今から集中だぞ」
悪いことというのは集中して起こるもので、その日夏期講習で返還された模擬試験の結果は最悪だった。ちょうど、嶺亜兄ちゃんと初めて誰にも言えないことをした時に受けた試験だった。
これを父に見せたら怒られるどころでは済まないかもしれない…暗澹たる思いを引き摺りながら帰宅すると、リビングで嶺亜兄ちゃんが携帯電話片手にテレビを見ていた。
「…」
なんとなく顔を合わせ辛くて黙って通り過ぎる。嶺亜兄ちゃんもこちらに一切視線を向けることはなかった。無言の拒絶…いや、無関心が肌を突き刺してくる。
もし、俺がちゃんとした答えを導き出せていたら…
そうしたら、嶺亜兄ちゃんは俺のことを少しは受け入れてくれたのかな
そんな仮定が頭の中をぐるぐると回っていた。だけどそれはやはり仮定論でしかないのだろう。現に俺は選択を誤り、こうしていないものとして扱われている。
そう、嶺亜兄ちゃんにとって俺の存在はもうゴミ以下でしかない。
俺は嶺亜兄ちゃんに嫌われてるんだと思ってた…だけど今、嫌ってもくれない。あるのは果てしない無関心と拒絶のみ
それを認識した瞬間に視界が揺れる。叫びだしたいくらいの絶望が今になって俺を飲みこんでゆく。
蜃気楼のように揺れる影
閃光のように瞬く脳の奥の風景
それらはあっという間に俺の全てを支配した。まるで悪魔が乗り移ったかのように…
「何す…」
やけに近くに嶺亜兄ちゃんの声が聞こえた。
そうして目の前にある嶺亜兄ちゃんの顔は驚きと戸惑いに満ちていて…
俺は無意識のうちに嶺亜兄ちゃんを押し倒していた。


   to be continued…?

137 :ユーは名無しネ:2014/06/15(日) 21:25:57.10 I.net
『谷茶浜凜』

かなり前に登場して、今では忘れかけていた谷村龍一、高橋凜のユニット、谷茶浜凜。

1stシングルは爆発的大ヒットを見せ、バラエティでも引っ張りだこの2人。
しかし2人のくらーい性格は変わらない。
相変わらず目が死んでると言われる。

そこでジャニーズ事務所の上層部、中年純情隊はまた密かに始動した…。

「うーん、谷茶浜凜は大人気だがやはり問題は2ndシングルだな…」
仲村が呟く。
「そうですなぁ…。あまり暗いとすぐに飽きられるリスクもありますし…」
羽生はうーんと考え込んでいる。
「明るさも少し取り入れたほうが…」
峰岸は溜息をついた。
覚えている人はいるのだろうか、中年純情隊。
久しぶりの登場だ。
このスレのPart2あたりでは準レギュラー化していた中年純情隊だが、だんだん忘れかけられていた。

138 :ユーは名無しネ:2014/06/15(日) 21:26:49.33 I.net
この2人、谷茶浜凜は2012年デビュー以来、シングルを一
枚しか出していない。
「俺たち、ずっとシングル出してないよね…」
「やっぱ捨てられたのかな」
「もともと自滅用のユニットだからな、どうせ…」
「もういいや、静かに生きていこう…」
相変わらず聞いているこっちが頭痛を起こすような会話を繰り広げる2人。
作者は小学3年生のころから頭痛持ちだが、この2人が原因なのではと中学1年の今日までずっと疑っている。しかし優しい作者はいい加減2ndシングル出してやれよと可哀想になったので自分で出してやることにしたのだ。
感謝して欲しい。

〜上層部〜

AM10:20〜
「今回の曲のコンセプトは?」
「いやー、2人共普通にしていれば綺麗な顔立ちですから、明るい性格のように見えなくもないですからなぁ…。ギャップ萌え、と言ったところでしょう」
「2人は暗いイメージが根付いていますから、明るい曲で勝負ですかな…」
「ですね!」
「では早速作ってもらいましょう」
〜AM10:25
こうして5分で会議は修理した。

後日…

「谷茶浜凜さん、新曲です」
楽屋にスタッフが新曲の歌詞を持ってきた。

「ありがとうございます…」
2人で一枚の紙を覗き込んだ。
「お、『Twin Star ~星屑のなか~』だって。綺麗な曲名だね」
「そうだね」
2人は少しだけテンションが上がる。

139 :ユーは名無しネ:2014/06/15(日) 22:06:43.15 I.net
『Twin Star~星屑のなか~』

輝く星屑のなか
僕は誰にも気づかれない
地味な星
名前も持たないこの僕は
他の星たちに 埋れている
僕は「主人公」にはなれない
個性 輝き 「人気」
そんなものなんて僕にはない
生まれてきた意味なんてあるのかな
生きる意味をずっと探してる…

輝く星屑のなか
僕は今生まれてきた
小さな星
何もない僕は いつも
他に星たちの引き立て役
僕はずっと「脇役」
華 輝き「軌跡」
そんなものなんて僕にはない
生きる意味なんてあるのかな
生まれた意味をずっと探してる…

自分だけのステージを
探し続ける
そんな時 キミと出会った
生きてる意味 生まれた意味
見つけた

Star Rush!!

そうさ僕らはTwin Star!
2人でいれば輝き放つ
怖いものなんて何もない
億兆の星屑のなかで
僕らは強く光り続ける
今までの劣等生な僕らはもういない
変わりたい
変わるんだ
Twin Star!2人なら
慌ただしく セカイは動き始めるよ
波に 呑まれても 人に流されても
夜空を見上げて
光り輝くTwin Star
見つけたなら
主役はキミさ
何千何億の中
キミと出会えたキセキがあれば
後悔しない 絶対

生きてる意味 生まれた意味
見つけたから

“Smile Again”

140 :ユーは名無しネ:2014/06/15(日) 22:08:55.24 I.net
「「…」」
谷茶浜凜は涙をボロボロこぼしていた。
「凜…」
「龍一…」
「俺、凜と出会って少しだけ明るくなれたんだ」
「龍一、俺もだよ。龍一がいなかったらきっと今の自分はいなかった」
「これは俺たちの歌だ…!」
「早く振りと音覚えよ!!」
「うん!」
2人の周りはキラキラと輝いている。
瞳はそれ以上に光が宿る。
龍一と凜は幼少期以来のはしゃぎっぷりだ。
そして…

「さあ始まりました。今夜のM○テ、ゲストは只今人気沸騰中、谷茶浜凜のお2人です!」
「こんばんは…」
「お久しぶりです…」
「今夜は谷茶浜凜の2ndシングル、『Twin Star~星屑のなか~』を歌っていただきます。谷茶浜凜のお2人、この曲の注目ポイントは?」
「はい、この曲は僕と凜のシンメのダンスや、パワーアップした歌も御注目して頂きたいです」
「そうですか、楽しみですね!ではスタンバイお願いします!」
「「はい!」」

141 :ユーは名無しネ:2014/06/16(月) 06:41:28.98 I.net
Twin Star~星屑のなか~』

龍:輝く星屑のなか
僕は誰にも気づかれない
地味な星
名前も持たないこの僕は
他の星たちに 埋れている
僕は「主人公」にはなれない
個性 輝き 「人気」
そんなものなんて僕にはない
生まれてきた意味なんてあるのかな

生きる意味をずっと探してる…

凜:輝く星屑のなか
僕は今生まれてきた
小さな星
何もない僕は いつも
他に星たちの引き立て役
僕はずっと「脇役」
華 輝き「軌跡」
そんなものなんて僕にはない
生きる意味なんてあるのかな

生まれた意味をずっと探してる…

龍凜:自分だけのステージを
探し続ける
そんな時 キミと出会った
生きてる意味 生まれた意味
見つけた
Star Rush!!
そうさ僕らはTwin Star!
2人でいれば輝き放つ
怖いものなんて何もない
億兆の星屑のなかで
僕らは強く光り続ける
今までの劣等生な僕らはもういない
変わりたい 変わるんだ
Twin Star!2人なら

慌ただしく セカイは動き始めるよ
波に 呑まれても 人に流されても
夜空を見上げて 光り輝くTwin Star

見つけたなら 主役はキミさ
何千何億の中
キミと出会えたキセキがあれば
後悔しない 絶対

龍:生きてる意味
凜:生まれた意味
龍凜:見つけたから
“Smile Again”

142 :ユーは名無しネ:2014/06/16(月) 17:50:19.36 I.net
この曲には全国が注目した。この曲の為に2人はボイストレーニング、振りの練習に全力で励んだ。しかし注目されたのはそこではなく…

“ジャニの新ユニ暗すぎワロタ”のスレを抜かし、勢いランキングで1位になった、“ジャニの新ユニの変わり方w”より…
「おいどうしたwwwニート臭しなくなったぞwww」
「目に光が宿ってるとか谷茶浜凜じゃねえwwwww」
「変わりすぎワロタwww」
などとレスがたつ。

でもやっぱりそこはTRQ。ちなみにお色気地帯のNewシングルではない。谷凜クオリティだ。CDは爆発的大ヒット、音楽ランキング1位制覇…

「やったね、凜…もう自滅とか思わずに堂々と生きられるね…」
「うん。今度は僕たちで作詞作曲して見たいね…」

頑張れ谷茶浜凜、作者は君たちを応援し続けるぞ!!


To Tanichahama rin


Congratulations

Tanichahama rin is “Forever”


From Author

143 :ユーは名無しネ:2014/06/16(月) 21:27:02.37 0.net
>>116
リクエストした者です
楽しみにしていました!
つづきが気になるけど、終わっちゃうのも嫌で複雑です

144 :ユーは名無しネ:2014/06/16(月) 21:30:10.78 0.net
>>143>>116はアンカミスで>>133
次回のたむれあに期待

145 :ユーは名無しネ:2014/06/22(日) 00:07:52.87 0.net
『おしおき』

「んっ...はぁっ...っはぁっ...はぁっ...」
室内に大人になりきっていない少年の乱れた吐息が響く。
その乱れた呼吸が落ち着くか落ち着かないかという頃に---
「ねぇ、あの子と僕と、どっちが良かった?」
この一言で、呼吸が止まった。どうやらこの甘ったるいセリフが心の中を読み取ったようだった。
「僕、分かってるよ。顕嵐だって本当は女の子の方がいいって」
「ち、ちがっ」
「あー、違うんだぁ」 甘ったるい言葉の主は、完全に相手の心をもてあそんでいるようだ。
「だったら、僕がキレイにしてあげる」
すぐに、また室内に卑猥な音が響く。お互いの唇を、首筋を貪るように口づけを繰り返す。
その合間にも「れいあ...嶺亜くん...」とささやく声がする。
しかし、相手の声は聞こえない。

わずかの時間で再び吐息に変わる。すぐに果ててしまったようだ。
何かを拭う音がすると、また甘ったるい声が聞こえた。
「やっぱり、体は素直じゃん」

146 :ユーは名無しネ:2014/06/22(日) 20:33:59.84 0.net
日曜裏ドラマ劇場 「誰にも言っちゃダメ」


「やめてよ…何のつもり?」
「嫌だ」
俺は知らず、そう口にしていた。手には嶺亜兄ちゃんの細い手首がある。そこに力をこめると嶺亜兄ちゃんの顔が苦痛に歪んだ。
耳の奥で轟音がなっている。まるで雷雨か濁流か瀑布か…とにかくそれは俺の理性を粉々に打ち砕き、滅茶苦茶にしてしまっている。それをもう一人の自分がひどく客観的に、冷静に見ていた。
受け入れてもらえないのなら
無関心を貫かれるぐらいなら
それならいっそ嶺亜兄ちゃんを傷つけて嫌ってもらいたい。憎悪でも嫌悪でもいい。俺に感情を抱いてほしい。
なんでもいいから、俺を見てほしい。
欲求が一点に絞られたことによって自分でも思ってもみなかった行動に俺は出ていた。
「やめ…」
抵抗しようとする嶺亜兄ちゃんを力づくで押さえつけると、次にその唇を塞いだ。
嶺亜兄ちゃんはもがきながら抵抗を続ける。だけど体格も腕力も遥かに俺の方が勝っているから全くと言っていいほどそれは意味をなさない。
むしろ、そうやって抵抗される程に爆発的な興奮が訪れ始める。いよいよもって危険な領域に達しようとしていたその時…
「…っ」
ふいに、肩に痛みが走る。
嶺亜兄ちゃんに噛みつかれたのだ。鈍い痛みがじんじんと神経の昂ぶりを抑制してくる。
「お前が僕を押し倒すなんて100年早いよ、龍一…」
息を乱し、震える声で嶺亜兄ちゃんはそう呟いた。そこに余裕は全く感じられなかった。
「こんなことして一体何がしたいの…もし今お母さんが帰ってきたりしたら…」
「誰にも言わない」
叫んだつもりだが、それはほとんど声になってくれなかった。

147 :ユーは名無しネ:2014/06/22(日) 20:34:55.46 0.net
「誰にも…父さんにも継母さんにも言わないから…絶対に誰にも言わないから…だから…」
そばにいさせて
俺のことを見て
そう続けることができなかった。声はどこかに吸い込まれてしまって響きとなることはなく…
声の代わりに俺を見上げる嶺亜兄ちゃんの頬を何かが濡らした。
それは涙だったように思う。
後から後から溢れ出て来るそれを、自分の意思で止めることができず嶺亜兄ちゃんの美しい白い肌が次々に濡れて行った。
見開かれた嶺亜兄ちゃんの眼が次の瞬間に警戒の色を湛えた。視線はリビングのドアに向く。玄関の開閉音が聞こえたのだ。
自分でも驚くほど素早く俺は嶺亜兄ちゃんから離れていた。リビングのドアが開く時にはもう距離があったが…
「ただいま…龍一君?どうしたの?」
買い物袋を両手に下げた継母が俺を驚きの表情で見ている。
涙を拭いきれてなかったからだろう。後ろで嶺亜兄ちゃんがすぐさま切り替える気配がした。
だけど俺は嶺亜兄ちゃんが口を開く前にこう答えた。
「…模試の結果が最悪で…父さんにきっと怒られるどころじゃすまないと思ったら怖くて…嶺亜兄ちゃんに相談してたんだ。自分が情けなくて涙が出てきて…」
嘘やごまかしは大の苦手だった。
勉強は得意だったが、咄嗟の言い訳や臨機応変な頭の回転はひどく鈍く、言葉はいつももつれてでてこない。なのに今、驚くほどつらつらと嘘と偽りが滑るように出てくる。
誰にも知られないために
それが自分に今までなかった力を与えてくれていた。

148 :ユーは名無しネ:2014/06/22(日) 20:35:54.95 0.net
「そうなの…。そんなに良くなかったの?龍一君の成績のことは私には良く分からないけど…きちんと話せばきっとあの人も怒るだけではないだろうし、まだ挽回はできるんでしょ?だからそんな…泣かないで」
心配そうな眼を継母は俺に向け、こう続けた。
「私達の再婚で色々気疲れして勉強が思うように進まなかったんでしょう?言ってみれば私達のせいでもあるんだから一緒に謝りましょう。ね、嶺亜?」
それまで呆然と見ていた嶺亜兄ちゃんは、継母にそう問われて意識を戻す。
いつもの仮面の顔に戻る。
「うん。僕もそう言ってたんだよ。大丈夫だって龍一ぃ。そんなことで泣くなよぉ」
にっこりと偽りの笑顔と優しいうわべだけの言葉を嶺亜兄ちゃんは俺に向ける。だけど俺は満足だった。
「今日はね、龍一君の好きなクリームシチューにしようと思って。フランスパンも買ってきたからそれでも食べて元気出して」
「ねぇママ、サラダにはトマト入れないでねぇ」
無邪気な嶺亜兄ちゃんのその声とは裏腹に、その瞳の奥に混乱が宿っているのを俺は見逃さなかった。



     僕は龍一に嫌われてるんだと思ってた。


僕はいざという時に素直になれない。
自分でもどうしてなのか分からない。小さい時からお父さんはいなかったけど、その記憶はないし欲しいと思ったことはあまりない。時々友達がお父さんに肩車してもらってるのを見てちょっぴり羨ましく思うくらいだった。
お母さんは仕事で忙しくしていたけど僕の話はよく聞いてくれた。保育園であったこと、小学校であったこと、多分くだらないであろうその話に仕事で疲れて帰って来た時も嫌がらずに聞いてくれていた。
愛想だけは良くて、大人の人には好かれた。いつも素直ないい子だって先生が褒めてくれた。
だけど僕は、いざという時素直になれなくて物凄くひん曲がった形でそれを示してしまうことがある。自分の中で何かラインがあって、そこを超えるとそれが発動する。普段眠っている僕の中のいびつな感情が爆発するんだ。
「ママ、僕ねぇリレーの選手に選ばれたのぉ。絶対観に来てねぇ」
小学校二年生の時、運動会のリレーの選手に選ばれた。運動は得意じゃなかったけど、たまたま僕のクラスには足の遅い子が多くて僕のタイムでも上位になれたから選ばれて、それが凄く嬉しかった。
だけど…

149 :ユーは名無しネ:2014/06/22(日) 20:37:46.34 0.net
「嶺亜ごめんなさい。お母さんね、その日どうしても出なくちゃいけない会議があるの。場所も遠いから間に合いそうになくて…本当にごめんね。そのお仕事が片付いたらお休みが取れるから嶺亜の行きたいところややりたいことさせてあげるからね。本当にごめんね」
なんで?僕はがんばったんだよ。来年はもうリレーの選手になれないかもしれない。今観に来てくれないともう僕が運動会で活躍してるところは観れないかもしれないのに。
それが声に出ることはなかった。僕じゃない誰かが「そっかぁじゃあ仕方ないねぇ。お弁当美味しいの作ってねぇトマトは入れちゃやだよぉ」って返事していた。
運動会の数日前、僕は昼休みに階段からわざと落ちた。鈍い痛みが左腕に走って骨折だと診断された。全治一カ月だった。
骨折した僕を家に放置できなかったのかお母さんはその日から休みを取った。運動会の日、僕は欠席をして家にいた。絵を描きながら僕はこんなことを呟く。
「どっちみち僕の走ってるところは観れなかったねぇ」
お母さんは驚いたような顔をしていた。
多分、僕がわざと骨折したこともその時分かったんだと思う。だけど叱られることはなかった。
快晴の青い空を見上げながら僕はどうして自分がこんなことをしてしまったのか考えた。でも答えは出なかった。
それから何度かそういうことがあったけど、中学生になった頃からあまりそれが発動することはなかった。成長するにつれ感情のコントロールもできるようになったしそう神経を揺さぶるような出来事もなかったからだと思う。
そう、お母さんの再婚が決まって龍一に会うまでは。
「よろしく嶺亜くん。これは息子の龍一で…中学三年生だから嶺亜くんより一つ年下かな。龍一、挨拶しなさい」
龍一、と呼ばれた子は緊張気味に頭を下げた。そしてほとんど聞きとれないくらいの小声で名前と挨拶をする。
美しい男の子だった。
年下だ、と言われなければ2,3歳年上だと錯覚してしまいそうなほどに大人びていて、憂いを帯びた瞳はくっきりとした二重でミステリアスな雰囲気を放っている。
整った顔立ちとは裏腹におどおどとしてぎこちない。なんだか不思議な生き物に出会ったというのが第一印象だったように思う。
「仲良くしてあげて。この子は人見知りが激しいからなかなか素直に感情が表に出せないんだ」
「うん。よろしくねぇ龍一君…あ、弟だから龍一でいいよねぇ?僕のことは嶺亜兄ちゃんでいいよぉ。ずっと弟か妹が欲しかったから嬉しいよぉ。あ、パパも嶺亜でいいからねぇ」
僕はその時違和感を感じた。

150 :ユーは名無しネ:2014/06/22(日) 20:39:26.12 0.net
また、僕じゃない誰かがしゃべっているような気がする…
だけどこれは本心に近いし、嘘を言ってるわけでもない。仲良くすることで両親も安心するし僕も今はなれなくて少し堅苦しい思いだけどお継父さんも優しそうだしすぐに打ち解けられる自身もある。何がなんでも嫌だってわけじゃない。お母さんの再婚には別に反対じゃない。
引っ越した先の家は新しくて広くて快適だし高校にも近い。何より、お母さんが仕事の量が大幅に減らせて毎日帰ってきたら温かいご飯ができているのが嬉しい。それまではできあいのものを買ったり、レトルトで済ますことが多かったからだ。僕にとってはいいことばかりだ。
嫌じゃない。なんにも嫌じゃない。それなのに、この胸のざわつきはなんだろう?
自問いする一方ですぐに僕は違和感の原因に気付く。
龍一だ。
お母さんやお継父さんがいる前では普通に龍一と話すことができるのに、誰もいない時…龍一と二人きりになるとそれができない。どうしてか、いないものとして扱ってしまって一切目を合わせることも会話をすることもできない。
幸いにも龍一の方から話しかけてくることはなかったからなんとかやりすごしていたのだけれど、ある日帰宅してリビングで携帯を見ていると龍一が話しかけてきた。
「嶺亜兄ちゃん、さっき母さんから電話があって…。宅急便が来たら受け取って判子を押してって言われたんだけど…。判子どこにあるか分かる?」
なんでもない内容だし、ある場所を告げれば済むだけだ。人見知りの龍一が少し無理をしてそう訊いてきたのが分かるから普通に答えるべきだった。
それなのに僕は黙って判子だけを置いて部屋を出てしまった。
背後で龍一の溜息が微かに聞こえる。
両親の前ではいい子を演じるのに、二人きりになると冷たい兄…龍一の中できっと僕はそんな位置づけなのだろう。自分でもこれは良くないと思っているのにどうしても素直になることができなかった。
素直に、龍一にことが好きだって認めることができなかった。

151 :ユーは名無しネ:2014/06/22(日) 20:41:21.18 0.net
自分でも気付いてしまっている…どう考えたって普通ではないこの感情を素直に受け入れることもできないし、龍一にいつか女の子の恋人ができてしまうということも認めたくなかった。
何より、龍一に知られるのが怖かった。
どうせ嫌われるのなら…
どうせ手に入らないのなら…
とことんまで嫌われよう。この感情を消去できるように。
そのタイミングで、両親が二日間家を空けることを伝えられた。
神様の悪戯か、悪魔の誘いか…僕の中で不穏な雲が充満して、それは巨大な手と化して背中を押す。
「行ってらっしゃい。気をつけてねぇ。お土産よろしくねぇ」
ドアが閉まった瞬間、僕の中に何かが降りてくる。
僕はすれ違いざまに龍一に言った。
「龍一、僕の部屋においで」
その日、僕は誰にも言えないことを龍一にした。


   to be continued…?

152 :ユーは名無しネ:2014/06/28(土) 21:54:30.57 I.net
作者さん乙です!!このお話大好き!

153 :ユーは名無しネ:2014/06/28(土) 22:13:16.88 0.net
お前は何と闘ってるの?w
あんちなんて許せな〜い!って無駄な正義感振りかざしてばかみたいw

154 :ユーは名無しネ:2014/07/01(火) 23:04:01.71 0.net
作者さん!リクエストした者です
いよいよ物語も佳境に入った様子ですね
続きを楽しみにしています

155 :ユーは名無しネ:2014/07/03(木) 21:59:42.93 0.net
だれかpart1のURL教えてください!

156 :ユーは名無しネ:2014/07/05(土) 14:45:38.80 0.net
更新感謝です!
「誰にも言っちゃ駄目」も素敵ですが、岸家のお話が好きぎて一気に全編読んでしましました…
是非また続きを書いていただきたいです!
楽しみにしています

157 :ユーは名無しネ:2014/07/05(土) 14:48:49.09 0.net
岸家は六男の受験の行方が気になります(笑)
是非とも続きを!

158 :ユーは名無しネ:2014/07/05(土) 14:59:41.45 0.net
龍一の受験の話は前スレでやってたよ。まとめサイトにはまだ載ってないのかな?

159 :ユーは名無しネ:2014/07/05(土) 15:42:11.36 0.net
158です
ごめんなさい、8から飛んできてすぐに書き込んだから六男の受験話があるの知りませんでした…
合格して良かった!ちょっととんでもないお友達ができちゃったけど!
これからも続き楽しみにしてます
長男不在の日にパパが風邪でぶったおれちゃって息子たちがあわわわわな話とかいいですよね(小声)
とか言ってみますが何でもいいから岸家の人々が読めれば私はこの上なく幸せなので全力で無視してください←

160 :ユーは名無しネ:2014/07/06(日) 13:38:48.87 0.net
160さん
それいいと思う!
作者様時間があったら作ってください!
なんて言ってみたりしてwww

161 :ユーは名無しネ:2014/07/09(水) 21:29:35.21 I.net
もっと【裏7】の作品が見たいです!
気が向いたらでいいのでいつか書いてくださると有難いです!

162 :ユーは名無しネ:2014/07/10(木) 14:43:16.30 0.net
夏休みにはまだ早いけど最近変なの沸き過ぎ
>>159-161辺りは流石にキモイから半年ロムれ

作者さんいつもありがとう
ガムシャラでれあたんがトマト食べてるのに何故か興奮してしまった

163 :ユーは名無しネ:2014/07/10(木) 15:07:41.56 0.net
まあまあ。リクエストぐらいはいいんじゃないかな。答えてもらえるかどうかは置いといて

164 :ユーは名無しネ:2014/07/13(日) 14:58:19.22 0.net
日曜裏ドラマ劇場 「誰にも言っちゃダメ」


僕が「誰にも言っちゃダメ」と言ったのを龍一は必死に守っているようだった。でもそれはいつどこで露呈してしまうか分からないくらい彼の隠し方は下手くそで、今にもばれてしまいそうなほどに拙い。元々隠し事なんてできない性格なんだろう。
それもそうだ。義理の兄にあんなことをされて平静を保てるはずがない。龍一の動揺にそのうちお母さんかお継父さんが勘付いてしまうかもしれない。でもそれでもいい、と僕は思っていた。
あの日を境に、僕は龍一と二人きりになると「誰にも言えないこと」を何度もした。そうしている時…自分が自分でなくなっているからこそ最も原始的な欲求を前面に出すことができる気がして僕は意識の向こうでとても満たされた気持ちになる。
驚いたのは、僕が寝ていると帰宅した龍一の方から手をだそうとしたことだ。
快楽に溺れて頭がぼうっとしている時…ふいの龍一の一言が僕に冷水を浴びせる。
「…なんで俺とこんなことするの?」
僕は一瞬だけ素の自分に戻される。泣きたくなるほどの後悔と羞恥心。だけどそれを別の人格が駆逐する。
そいつはこう答えた。
「こういうことでしか、表現できないんだよね」
だけどそれはほかならぬ僕の言葉であって、別の誰かではなかった。紛れもない正直な答えであり、本心だ。
そう、僕は素直になれないからこういった歪曲した形でしか自分の気持ちを龍一に表現することしかできない。
僕の気持ちはきっと報われることはないんだ。
そんな確信がその時僕の胸を突いたが、変化は徐々に訪れる。

165 :ユーは名無しネ:2014/07/13(日) 14:59:06.04 0.net
「一緒に寝たい」と言われた時…僕は動揺してしまった。それを龍一にも悟られたような気がして咄嗟に自分がなんて言ったのかよく覚えていないけどその日は龍一が隣にいて、一緒に寝て、なんだかとても満ち足りた気持ちになって眠っていた。
僕が目覚ましより先に目を覚ましたのは単なる偶然だったけど、その朝自分の横で眠る龍一の顔を暫くずっと見ていた。
綺麗な寝顔だった。
その寝顔を見ていると、抑えようとしてもどうしても抑えきれない感情が溢れ出て来てしまう。せきとめきれなくて決壊したダムのように気持ちが漏れていく。
僕は寝ている龍一の頬にキスをした。
どうしてなのか、泣きそうになる。胸が苦しくて苦しくて、僕の頭の中はおかしくなってしまったのかもしれない。
龍一が眠っているのではなく、死んでいたらいいのに…
僕はそう思ってしまった。そうしたら今みたいに素直になれるかもしれない。素直に、自分の気持ちを、心を曝け出すことができるのかもしれない。永遠に、目を閉じた龍一の側にいて…
ただ僕は、龍一のことが好きなだけなのに
こんなにどうしようもなくこんがらがってしまったのは何故だろう。だけど、自問いしても答えは出ない。
きっと、どこまでも果てしなくもつれてほどくことが不可能なくらい固結びになってしまうんだ。だったらもう…
そこに至ると僕は目覚まし時計を止めていた。


.

166 :ユーは名無しネ:2014/07/13(日) 14:59:46.24 0.net
僕が残したメモに忠実に龍一はその日の午前零時になると僕の部屋へ来た。
僕は戸惑う龍一に問う。
「僕としたいの?」
イエスとも、ノーとも龍一は答えない。僕がどうしてこんなことをするのか、ただただ不可解なだけだろう。
だけどこうして来たということは、どこかで龍一も…
そこまで考えて僕はその思考を遮断する。
動揺の抜けきらない龍一に、僕は暗闇の中でキスをした。
何かが弾けた音がした。
それが僕からなのか龍一からなのかは分からないけど、それを合図のようにして僕達は誰にも言えないことをする。吐息だけで会話をして、肌と肌で何かを探り合う。
確かな答えは出ないけれど、狂おしいまでの感情のやり場に辿り着いた気がして僕は不思議な安らぎを覚えた。
ただ、龍一の温もりだけを感じていたくて僕は一晩中彼を求めていた。不思議なことにそうしている最中は少しだけ素直な自分が出せる気がして、そこにどっぷりと浸かってこの身ごと委ねていた。
龍一はというと、相変わらず隠し事が下手だけど、僕が上手くフォローすれば大丈夫…だからもう少しはこういう爛れた関係でもどこかで満たされることができる。そう思っていた。
龍一が求めてくれば僕はいつでもそれに応じたいと思っていた。慎重にならざるを得ないから、両親がいる時はそうすることは避けた方がいい。でも、、いない時なら…。
素直に感情を出すことはできないけど、もしかしたらそのうちに龍一と心が通じ合って本当の自分を出せる日が来るかもしれない。そんな淡い期待がいつしか僕の中に生まれた。
だけど皮肉なことに、それはすぐに枯れてしまう。
「嶺亜兄ちゃんは、父さんと継母さんの再婚に反対だったの?俺達と暮らすのが嫌だったの?だから俺とあんなことをしたの?継母さんに思い知らせようとして…」
龍一の言っている意味が僕には全く分からなかった。

167 :ユーは名無しネ:2014/07/13(日) 15:00:27.90 0.net
だけど、僕には龍一が僕の本当の気持ちになんて永久に辿り着くことがないという事実を突きつけられた気がして、僕は半分錯乱状態で龍一に感情をぶつけてしまった。
何かが壊れて、希望も期待も抱く意味がないことをその時僕は悟った。所詮僕の気持ちなんてどこにも辿り着くことはなくて、彷徨う他にないということ。
心を殺して、龍一とはただの兄弟以外の接触をもたないこと。そう心に誓ったのに…
龍一はどこまでも僕の心を揺らし続ける。
「何す…」
リビングで携帯を見ていた僕に、龍一は覆いかぶさってきた。
僕には龍一の考えてることが分からなくて、ただそれを受け入れたい気持ちとまた自分の勘違いで傷つくことへの畏れが相反して頭の奥に閃光が瞬く。
「っつ…」
僕は覆いかぶさってきた龍一の肩に噛みつく。そして自分でも何を言っているのか分からないけど龍一が少し寂しそうな眼をしているのだけを認識する。
もうこれ以上僕の心をかき乱さないで
僕はそう叫ぼうとしたけどそれは掻き消されてしまう。頬にあたる温かい液体が何もかも僕の中から奪い去ってゆく。
龍一は泣いていた。
どうして龍一が泣くの?泣きたいのは僕の方だよ?だけどやっぱりそれも声になることはなかった。
ドアの開閉音を僕の耳は捉えた。咄嗟にどう取り繕っていいのか、躊躇している間にリビングのドアが開いてしまう。入ってきたお母さんは泣いている龍一を見て驚いているようだった。
混乱を一瞬で鎮めて、どうにかこの場をやり過ごすことのできる単語を僕は並べる。だけど僕は次の瞬間お母さん以上に驚いてしまって頭が真っ白になった。
「…模試の結果が最悪で…父さんにきっと怒られるどころじゃすまないと思ったら怖くて…嶺亜兄ちゃんに相談してたんだ。自分が情けなくて涙が出てきて…」
龍一がすらすらと嘘を並べた。動揺や戸惑いなど微塵も見せず、まるで今しがた僕が見ていたのは幻かと思うような、一点の疑いも抱くはずのない迫真の演技…
僕が龍一に抱いていた印象とそれは全く違った。ごまかしたり、取り繕ったりなんてできない性格のはずだったのに…

168 :ユーは名無しネ:2014/07/13(日) 15:01:01.52 0.net
お母さんは本気で心配しているようだった。成績が悪かったのは事実なのかもしれない。それでも僕は混乱する。
その場はなんとか乗り切って、夕飯になってお義父さんが帰ってくると少し緊張した食事になる。
「…確かにこれだと内部進学は厳しいな、龍一」
「ごめんなさい…」
龍一は暗く沈んだ表情で俯く。だけど僕にはそれは表向きの反省に見えた。龍一の眼は成績のことなんてどうでもいいといったぎらつきが宿っていた。
「そんなに叱らないであげて。この時期に再婚や引越しをしたんだから子ども達が混乱するのは分かってたことじゃない。龍一くん、落ち着いて勉強ができるよう配慮できることがあったらなんでもするから言ってね」
お母さんは懸命に龍一のフォローをする。僕もそれに乗って一言ふた言発するとお義父さんは軟化していく。
「まあ…これから危機感を持って頑張れば挽回も可能だから龍一、とにかくがんばりなさい」
「はい」
返事をして、龍一は食事に手をつけた。それを不思議な気持ちで僕は見る。
「嶺亜もがんばりなさいよ?宿題だけじゃだめだからね。あなたの場合大学受験がすぐそこに迫ってきてるんだから」
「はぁい。でも僕はまだ高校一年生だけどぉ」
「そんなこと言ってたらあっという間に三年生になるんだから。いつでも嶺亜はとっかかりが遅いから…高校受験の時だって…」
それからお母さんは僕の話に移した。これは龍一への気遣いだろうから僕はそれに適当に合わせた。
「嶺亜兄ちゃん」
ふいに、龍一が口を開く。僕は内心鼓動が早くなったけど何気ないふりを装った。
「なぁに?」
「あとで部屋に行っていい?こないだのゲームの続きがしたいんだ。今度は怒らせないようにするから」
自然な口調だった。お義父さんは「ゲームだなんて…」と顔をしかめたがお母さんの「こういう時は息抜きが必要よ」という言葉にしぶしぶそれを承知した。
龍一が僕の部屋に来たのはもう寝る前…両親も寝静まった頃だった。



   to be continued…?


.

169 :ユーは名無しネ:2014/07/15(火) 00:22:48.04 I.net
楽しみにしてました!
次回が気になります!

170 :ユーは名無しネ:2014/07/18(金) 18:21:36.62 0.net
WU裏ネタのれあたんかわいすぎた
あんまり先輩との絡みとか聞かないから余計

171 :ユーは名無しネ:2014/07/18(金) 23:08:39.56 I.net
本当に手越のこと好きなのが伝わってきて微笑ましいよ

172 :ユーは名無しネ:2014/07/20(日) 18:04:34.03 0.net
日曜裏ドラマ劇場 「誰にも言っちゃダメ」


嶺亜兄ちゃんの部屋のドアをノックしても返事はなかった。だけど俺はそのままドアを開ける。
きっと、嶺亜兄ちゃんは起きている。何故か不思議な確信があった。その予測どおり嶺亜兄ちゃんはベッドの上にちょこん、と座っていた。
それがまるで小さな子どものようで、急に愛おしくなる。状況は変わっていないしそう想うことすら許されない気もしたが抑える前にそれはもう踊り出てしまっていた。
色んな感情を抑えて、俺は嶺亜兄ちゃんに言う。
「ゲームしよう、嶺亜兄ちゃん」
携帯用ゲーム機を差し出すと、嶺亜兄ちゃんは驚いたように目を見開いた。混乱の色が濃くなってまるで不思議なものでも見るかのように俺を凝視した。
「…」
嶺亜兄ちゃんは無言でゲーム機を受け取った。偶然にも持っている機種とソフトが同じだったのを知ったのは少し前だ。もしかしたら嶺亜兄ちゃんもそれを知っていて前に言い訳に「ゲームをしていて喧嘩した」と使ったのかもしれない。
スイッチを入れ、対戦モードにする。少し前に流行ったカーレースのゲームだったが嶺亜兄ちゃんは上手かった。俺は息抜きで少しするぐらいだからあまり相手にならないかもしれない。
「…嶺亜兄ちゃん」
「…なに…?」
掠れた声で、嶺亜兄ちゃんは訊き返した。穏やかさが含まれている…というのは俺の希望的観測かもしれないけど、それによって円滑に言葉が導き出されたのは事実だった。
「昼はごめんなさい。取り乱してしまって、あんなことをして…あと、昨日のことも」
言わなくてはならないことを、ここに来るまで何百回と自分の頭の中で整理した。嶺亜兄ちゃんの本当の気持ちを知りたいから、あれこれ自分の中で憶測を立てるよりも正面から向き合って問うべきだという結論に俺は達していた。
嶺亜兄ちゃんがあそこまで怒った理由を、俺は知らなくてはならないと思った。きっとそれが嶺亜兄ちゃんの本心に触れているだろうから。
「…」
嶺亜兄ちゃんは無表情でキーを操作している。すでに俺の操縦するプレイヤーは周回遅れになっていた。

173 :ユーは名無しネ:2014/07/20(日) 18:05:18.33 0.net
「嶺亜兄ちゃんを怒らせてしまった理由が知りたい」
ゲームの画面から目を離して、俺は嶺亜兄ちゃんを見る。だけど彼は相変わらず自動的な手つきでゲームを操作していた。
「どうしてあんなに怒ったの?俺の言ったことが嶺亜兄ちゃんを傷つけたんだよね?」
人と話すことが苦手なはずなのに、何故か俺の中には躊躇いはなかった。何かが自分の中で変わったのか、それとも変えられたのか…
「教えて。俺は嶺亜兄ちゃんの本当の気持ちが知りたい」
偽りのない本心を声に乗せる。不思議と脳の奥はクリアだった。
ゲーム機から流れる無機質な音楽だけが小さく室内に響いていた。そうでなければ沈黙に支配されていただろう。その無言の数秒は俺にとって何時間にも感じていたかもしれない。部屋にはクーラーが効かせてあるのに背中に一筋汗が伝った。
「僕の本当の気持ちなんか知ってどうするの?」
冷たい声が返ってきて、俺は少し挫けそうになった。それでも退くことができなかったのはひとえに強い感情からだろう。
その感情に従って、俺はこう答えた。
「嶺亜兄ちゃんの気持ちを知った上で、俺の気持ちを知ってほしい」
「龍一の…気持ち…?」
嶺亜兄ちゃんはゲームの画面から目を離した。
目と目が合う。やっぱり嶺亜兄ちゃんの瞳には混乱が混じっていた。
「俺は…」
ゲーム機をプレイ中のまま床に置いて、俺は嶺亜兄ちゃんに近づく。
その瞳が間近にあった。そこに自分が映っているのが認識できるほどに。
俺は嶺亜兄ちゃんの両の腕にそっと触れる。
「俺は嶺亜兄ちゃんが好きなんだ」
自分でも驚くほどするりとその言葉が発される。それを認識した時にはもう…
「…」
俺の唇は嶺亜兄ちゃんのそれと重なっていた。


.

174 :ユーは名無しネ:2014/07/20(日) 18:06:05.49 0.net
僕の中に数えきれないほどの疑問符が激しく交錯している。明滅を繰り返して全ての機能を滅茶苦茶にしようとしていた。
「りゅ…」
龍一は僕に訊き返す隙を与えてくれなかった。キスをされながら押し倒され、衣服の中に龍一の手が侵入してくる。直接肌を撫で回されると、その疑問符達は次々に撃ち落とされて行った。
代わりに僕の中にやってきたのは「好きなんだ」という龍一の声だった。壊れたレコードのように何度も何度も繰り返しエコーする。
「好き…?」
ほとんど息だけで、僕はようやく龍一に問う。そうしている間にもあちこちに龍一の手が、指が、唇が這ってくる。ややもするとそこに溺れてしまいそうになって僕は少し焦った。
「ちょっと待ってよ龍一、こんなことする前に…」
それでも龍一は止まらない。荒くなった息遣いと共にこう断言する。
「嶺亜兄ちゃんが教えてくれるまで、俺はやめない。噛みつかれてもひっかかれてもやめない。だから教えてよ…!」
龍一の声からは悲痛な叫びが含まれているようだった。たった今まで抑えていたものが溢れだしたかのように動きがエスカレートしてくる。
このままだと、声が出てしまう。両親は多分寝てるだろうけど、もし何かの拍子にドアを開けられたら言い訳がきかない。僕はこんな状況においてもそっちに意識を傾けていたけど、龍一がまた僕の理性を揺さぶった。
「俺は嶺亜兄ちゃんが好きだから、嶺亜兄ちゃんの全てを知りたい」
どこかで声が聞こえる。何を躊躇ってるの?って。
望んでいたものがすぐそこにあるのに、まだ素直になれないのかって叱る声も聞こえる。
それは全部僕の声だった。僕の中の僕が、口々に声を揃えてシュプレヒコールを上げる。
素直になれ、と。
龍一に「誰にも言えないこと」をしている時だけ覗いていた本当の欲求を、今ここで言葉にするべきなんだってその声たちは諭していた。
誰にも言えない気持ちを、他ならぬ龍一に伝える。そんなことが許される時がくるなんて思っていなかった。
運動会をお母さんに観に来てもらうことは叶わなかったけど、龍一に僕の気持ちを受け入れてもらうことはもしかしたら叶うのかもしれない。
最後の希望が僕の中に灯って、それは僕の声になった。

175 :ユーは名無しネ:2014/07/20(日) 18:06:48.86 0.net
「僕も龍一のことが…好き…」
龍一の動きは止まる。
「龍一が好きだけど、そんなこと言えないからあんなことしたの。そうすれば嫌われても大丈夫だって。こんなことしたからしょうがないんだって思えると思ったんだ」
僕の中でどうしても言えなかったことが、決壊したダムの水のように流れ出る。放出は止まらない。とめどなく溢れる水のように思いが声となって流れた。
「だけど龍一は僕の言いつけを守って誰にも言わないからそれが僕の中で気持ちを表現できる唯一の方法になっちゃった…でも龍一は僕の気持ちなんて気付くこともなくて、それを再婚したお母さんへの当てつけだって誤解してるから、それが哀しかった。
勝手だとは思うけど僕にはどうしようもなく辛かったんだ。だって、龍一も僕のことが好きだなんて思わなかったから…」
龍一は黙って聞いていた。僕は彼の返事を待つ。だけど龍一からの返事はなかった。
言葉の代わりに、龍一は行動で僕に伝えてきた。何故か僕にはそんな確信があった。
放置されたゲーム機が相変わらずチープな音楽を奏でていて、僕達はそれを遠くで聞きながら無言でお互いの気持ちを確かめ合った。言葉はなくても、それ以上に確かなものが存在している気がして不思議な安心感に包まれる。
僕と龍一の関係は誰にも言っちゃダメだけど、二人でいる時だけはその例外なんだ。
そう、二人きりの時だけは…
秘密を抱えて生きることは苦しいって誰かが言っていたけど、僕達にとってこの秘密は安らぎすら与えてくれる。
だから誰にも言っちゃダメ。
お互いにそれを確認して、僕と龍一は一晩中誰にも言えないことをした。


.

176 :ユーは名無しネ:2014/07/20(日) 18:07:50.09 0.net
目覚めるとそこにはすやすやと気持ち良さそうに眠る嶺亜兄ちゃんがいた。真っ白な肌がカーテンから漏れた光に照らされて光沢を放っている。眩しそうに寝がえりをうつとまた小さな寝息をたてていた。
目覚まし時計は7時すぎを指している。セットはされていない。
ずっと嶺亜兄ちゃんの寝顔を見ていたいけど、緊急事態が俺達を襲った。
「嶺亜、起きてる?お母さん今日も少しお仕事遅くなるから適当に…」
なんと継母が嶺亜兄ちゃんに話かけながらドアを開けた。中にいる俺を見てぎょっとした顔をする。それもそうだろう、俺は何も身に纏っていないし嶺亜兄ちゃんだってそうだ。もっとも、タオルケットで要所要所は隠れているが…
まずい。絶対にまずい。しかも嶺亜兄ちゃんはそんなことにも気付かす寝入っている。可及的速やかにこの状況を脱しなくては。俺の頭はまどろむことも許されずフル回転した。
「おはようお母さん…昨日ゲームをやりすぎて気付いたら嶺亜兄ちゃんの部屋で寝てしまって…」
「そうなの…こっちこそごめんなさいね、嶺亜一人かと思ってたから…あ、嶺亜が起きたら言っといてくれる?今日は帰りが遅くなるからって」
継母の眼はまだ戸惑いを示している。まさか一瞬で察知されたとも思えないがもう一言二言必要かもしれない。
「うん。あの、お母さん」
「何?」
「昨日はかばってくれてありがとう。父さんにもう怒られないよう勉強がんばります。嶺亜兄ちゃんも昨日ゲームにつきあってくれて色々励ましてくれたからもう大丈夫」
継母と会話らしい会話を交わすのはこれが初めてかもしれない。皮肉にも、こんな事態になってからではあるが…
継母の表情から戸惑いが消え、代わりに彼女は微笑んだ。それが少し嶺亜兄ちゃんに似ていた。
「そう言ってくれて嬉しいわ…少しは母親らしくなれたかしら、私」
俺は頷いて答える。継母は「ありがとう」と言って階下に降りて行った。
なんとか事なきを得てほっと浅い溜息をつくと…
「…ちょっとはごまかすの上手くなったじゃん」
小さな声がすぐ横で響いた。

177 :ユーは名無しネ:2014/07/20(日) 18:08:30.94 0.net
「起きてたの?」
俺が驚いて訊ねると嶺亜兄ちゃんはむくっと身を起こした。けだるそうに首を左右に動かしながら欠伸をする。
「あそこで僕まで起きたら余計にマズくなるでしょ?だから龍一に任せたの。ちゃんとごまかせるかどうかすんごい心配だったけどぉ」
「そりゃ…ごまかせなかったらもうおしまいだから…」
「だよねぇ。だからさぁ、ほどほどにして別々の部屋で寝ようって言ったじゃん。お母さんはね、僕の部屋には遠慮なしにずかずか入ってくるから危ないんだよ」
そう言えばそんなことを言ってた気がする。もっともその頃はもう理性がぶっ飛んでいたからそんなことができるはずもないと思っていたけど。
「でも俺が『ずっと一緒にいたい』って言ったら嶺亜兄ちゃんだって分かったって答えてたじゃない。継母さんが入ってくる危険があるならそれを言っといてくれた方が…」
「てなわけで次からこの部屋で一緒に寝るのはもうダメだねぇ。寝るなら龍一の部屋だね。さすがに龍一の部屋にお母さんが勝手に入ってくることはないしお継父さんは入ってきたりしないでしょぉ?」
俺の反論をばっさり切ってそう結論づけて、嶺亜兄ちゃんは伸びをする。真っ白な肌がシーツと同化しているようだ。その白さが眩しくて、気がついたらそこに手を伸ばしていた。
「ちょっとやめてよ、またお母さんが入ってきたらどうすんの?危機感足んないよぉ」
手厳しく払われ、なんだか期待していた展開と違うことに俺は愚痴が零れる。
「俺のこと好きなんじゃなかったの?昨日はだってあんなに…」
「だから絶対にバレるわけにいかないんじゃん。いい?絶対に誰にも言っちゃダメだよ?もう一回確認しとくからね」
俺には選択肢はなかった。二つ返事で首を縦にすると嶺亜兄ちゃんは「よろしい」と完全に上から目線で返す。なんだか力関係はもう決まってしまっているようだ。

178 :ユーは名無しネ:2014/07/20(日) 18:09:13.34 0.net
「早く着替えなきゃ。またお母さん来るかもしんないし」
自分のペースでいそいそと衣服を掴む嶺亜兄ちゃんに、俺はせめてもの反抗をする。
「嶺亜兄ちゃん」
「何?早くし…」
俺は振り向いた嶺亜兄ちゃんに不意打ちでキスをした。
嶺亜兄ちゃんは一瞬驚いて目を見開く。その反応だけで俺は充分だった。
「ちょっともぉほんとやめて。何度も言ってるけどいきなりドア開けられることだってあるんだからせめてお母さんが仕事行くまでは謹んでよね。そんなんじゃこの先すごい心配だよぉ。
まかり間違ってバレたりなんかしたらもう僕この家にいられなくなるからねぇそこんとこ分かってやってんの?頭いいはずのくせにこういうところは頭回らないよね龍一って。鈍感だしホント取り柄は顔と頭だけって感じあぁやだやだ」
一気に早口で辛辣な言葉を次々に嶺亜兄ちゃんは投げかけてくる。だけど俺には分かっていた。これは照れているんだ、と。
だから俺は言った。
「ホント、素直じゃないよね」
「なんか言った?いいからさっさと服着て出てってよ。シーツ、お母さんが仕事行った後にこっそり洗わないといけないんだから僕忙しいの。何回も遠慮なく人のシーツにかけてさ、ホント龍一ってば…」
「はい。分かりました分かりました。すぐ出て行きます」
笑いながら着替えて出て行こうとすると、枕を投げつけられた。「ばーか」という声も背後から聞こえる。振り向かなくても俺には嶺亜兄ちゃんがどんな表情をしているのか分かった。そして何が言いたいのかも
だから俺は言った。
「誰にも言わないよ、絶対に」



   to be continued…→next「epilogue」

179 :ユーは名無しネ:2014/07/22(火) 00:13:51.78 0.net
リクエストした者です
きゅんっとするような終わり方ですね
作者さんが書く文章が好きです
epilogue楽しみにしています!

180 :ユーは名無しネ:2014/07/23(水) 11:09:30.98 I.net
ホントきゅんとする!
幸せになってほしいな

181 :ユーは名無しネ:2014/07/24(木) 04:35:56.32 0.net
最高

182 :ユーは名無しネ:2014/07/27(日) 22:18:16.95 0.net
日曜裏ドラマ劇場 「誰にも言っちゃダメ」

エピローグ

夏休みが終わって二学期が始まって間もなくのこと、龍一がなんとか滑り込みで内部進学が決まったとその日の夕飯で報告した。お母さんも喜んで、お継父さんなんかは安堵のあまり深い溜息をついていた。
「お祝いしなきゃね、何がいい?龍一くん」
「いや…俺は別に…」
龍一は遠慮して首を横に振った。相変わらずの人見知りっぷりは夏を過ぎてもまだ健在だ。
「夏休みは結局家族旅行ができなかったからな…どこかに家族で行くのもいいかもな」
お継父さんがそう提案する。それは魅力的だった。僕は家族旅行らしいものをしたことがない。お母さんとどこかに遊びに行ったことはあるけれど…
だから旅行と言うのは一つの憧れだ。
「いや、でも俺外に出るの苦手だから…いて!」
僕は見えないように机の下で龍一の足を蹴った。
「いいなぁ。行きたい。温泉宿とかいいんじゃない?ゆっくりできそうだし」
「嶺亜、あなたのお祝いじゃないのよ?がんばったのは龍一くんなんだから」
「僕だって龍一の勉強が捗るよう色々協力したんだから少しくらい意見してもいいでしょ。ねぇ、龍一ぃ?」
微笑みかけると龍一は脛をさすりながらしぶしぶ頷く。
協力した、というのはあながち嘘じゃない。勉強が煮詰まった龍一に僕は時々息抜きをさせてあげたのは事実だ。もちろん、その内容は誰にも言えないけど。
僕の視線の意味を察知したのか龍一はこう呟く。
「うん。行き先はじゃあ嶺亜兄ちゃんと決めるから…」
素直でよろしい、と僕は頷いた。
だけど行き先を決めようとパンフレットを眺めている間も龍一は不満げに何かぶつぶつ言っている。いい加減うっとおしくなったから僕は睨んだ。

183 :ユーは名無しネ:2014/07/27(日) 22:19:44.35 0.net
「そんなに行きたくないのぉ?」
「だって…疲れるし、くたびれるし、人ごみ苦手だし…」
「そんなだから暗いだのネガティブだの自我修復だの言われるんだよ。龍一はもっと外に出て世間のこと知るべき。勉強ばっかやってたって人生楽しくないでしょ」
僕が諭しても、まだ龍一は納得せざる素振りだったが彼はこう呟く。
「俺は今、充分幸せだけど」
僕には龍一の言いたいことが分かった。少しそれでにやけそうになったけどここで折れるのも勿体ないから今度は引いてみる。
「分かるけどさぁ、旅行って楽しいんだよ?綺麗な景色とか見て美味しいもの食べて心身ともにリフレッシュするのって凄くいいことなんだってぇ。ほらぁ、例えばこの温泉のついたホテルとか良さそうじゃない?景色も綺麗だしバイキング料理も美味しそうだよ」
「もうちょっと近場の方が…移動距離が長いと疲れるし…別にお風呂には興味ないし…」
なおも尻ごみを続ける龍一に、僕は別のアプローチを試みることにした。
「部屋別々にしてもらえばさぁ…二人で寝られるし浴衣とか着てみたくない?龍一浴衣似合いそうだし」
僕があざとく身を寄せるとここにきてようやく効果が現れた。龍一はやっと聞く姿勢になってパンフレットを見始める。
そして行き先は温泉ホテルに決まった。

.

184 :ユーは名無しネ:2014/07/27(日) 22:20:22.11 0.net
「龍一くん、大丈夫?」
ホテルに向かうバスの中で乗り物酔いをした俺を継母が心配そうに気遣う。父は「情けない」と呆れていたし、嶺亜兄ちゃんは俺のことなんかまるでほったらかしで景色に夢中になっていた。
「部屋でゆっくり休むといいわ。今日は泊まるだけだし、お風呂に浸かってゆっくりしなさいね」
「はい…」
ハンカチで口を押さえながら廊下を進むと、すでに嶺亜兄ちゃんはルームキーを挿し込んでいた。
「けっこう広いよ。あ、こっちは畳になってるぅ。景色いいねー」
嶺亜兄ちゃんは一人ではしゃいでいる。俺がベッドに倒れ込んでもおかまいなしだった。おかげで元々低いテンションが底なしに下がって行く。少しは心配してくれてもいいのに…
だけど心配するどころか嶺亜兄ちゃんは厳しい一言を放ってくる。
「ちょっともぉ乗り物酔いとかさぁ…せっかくの旅行なのにそんな暗くなんないでよぉもぉ。そんなんじゃ置いてくからぁ」
「…」
ちょっとは優しい言葉をかけてくれてもいいんじゃないの、と言おうとしたら嶺亜兄ちゃんはベッドの上に座ってなんと服を脱ぎ出した。
俺は酔いが一気に吹き飛んで思わず身を起こした。まさか、いきなり…?
「何見てんのぉ?着替えるだけだけどぉ」
ベッドの上に用意された浴衣を手にとって意地悪な目を嶺亜兄ちゃんは向けた。俺が反応するのもお見通しだったようだ。
「龍一もさっさと着替えなよ。手伝ってあげようか?」
それって脱がしてやるってことだろうか…そう解釈して俺は体温が一時的に上昇する。じゃあお願いします、と期待しているとコンコンとドアがノックされた。
「はぁい」
嶺亜兄ちゃんがいそいそとドアを開ける。父が「夕食は7時から大広間でだからそれまでゆっくりしてなさい」と話しているのが聞こえた。部屋の時計を見るとまだ5時をすぎたぐらいだから2時間はゆっくりできるな…と俺は計算する。
だけど嶺亜兄ちゃんはその余裕を与えてくれなかった。
「何やってんの?早く着替えて。ご飯の前に温泉入りに行こうよ。早く」
逆らうことも許されず俺は着替えもそこそこに大浴場に連れていかれた。

.

185 :ユーは名無しネ:2014/07/27(日) 22:21:03.32 0.net
初めての家族旅行だというのに龍一は乗り物酔いでいつにも増して暗い。分かってたことだけど僕は少し不満だった。何をしようとしても「それは…」と渋るもんだから多少強引に引っ張って行かないといけない。
「風呂はご飯の後の方がいいんじゃ…」
後ろを歩きながらまだぶつぶつ言っている。僕はいい加減腹が立った。
「じゃあ一人で部屋に帰って寝とけばぁ?」
冷たく言い放つと龍一は少し慌てた感じで前に出る。そしてなんやかんや言い訳をしてきたがそうしているうちに大浴場に着いた。
「こっちのお風呂は露天風呂だってぇ。こっちにしよぉ」
大浴場の案内図には数種類の風呂があって、僕はその中でも露天風呂に惹かれた。屋根のないお風呂に入るのは初めてだからだ。
るんるんで脱衣所に入ると誰もいなかった。元々閑散期で予約もすぐにできたとお継父さんが言ってたし、客は少ないのかもしれない。それに、夕食前というのもあるのだろう。
「貸切状態じゃない?やったぁ」
僕がハイテンションになって浴衣を脱ごうとすると龍一はぼ〜っと突っ立っている。
「何?どうしたの?」
「ううん、何も…」
目を伏せてかぶりを振ったが龍一はなんだか挙動不審になり始める。チラチラとこっちを気にしているしなんだかソワソワしていた。なんとなく分かったけど気付かぬふりをして僕は先に脱衣所から出た。
「わぁ…」
想像以上に広い露天風呂に僕は感激する。日が暮れかけて薄暗い中湯けむりが風情を醸し出している。温泉の真ん中に大きな岩があっていかにもな風景に感激した。
「あの…嶺亜兄ちゃん、ここ…」
後ろで龍一がぼそぼそ何か言ってきたけど僕はわざと聞こえないふりをして温泉に飛び込んだ。こんなに広いお風呂に入るのは初めてで、泳げそうな気すらしてきた。

186 :ユーは名無しネ:2014/07/27(日) 22:21:52.69 0.net
「待って、嶺亜兄ちゃん」
ばしゃばしゃとしぶきをたてて龍一が追いかけてくるのがおかしくて岩場の後ろまですいすい漂って行くとようやく僕に追いついた龍一が何やら必死な顔で腕を掴んでくる。ちょっと冷たくしすぎたかな、と僕は反省して笑いながら抱きついてみた。
「何必死になってんの?そんな慌てるなんて可笑しいぃ」
「いや、あの…」
ごにょごにょ口ごもりながら龍一は顔を赤くし始めた。まだのぼせるには早いがその意味を僕は察知する。
温泉で気分が高揚していることと誰もいないこと、この条件が合わさって少し僕は大胆になっている自分に気がつく。
「龍一」
目を閉じて顔を寄せる。何をしてほしいかはいくら鈍感な龍一でも分かるだろう、と僕は判断した。さっきの脱衣所での様子を見るあたりすぐにでもしてくれると思ったけど…
「れ、嶺亜兄ちゃん、あのさ…ここって…」
まだ何か言っている。いい加減僕はじれったくなってその口を塞いだ。
「れ…」
抱きついてキスをすると、龍一は戸惑ったのか若干よろめいた。だけど見る間にその大きな瞳が潤みだす。
「誰もいないからちょっとだけならいいよねぇ」
僕がそう持ちかけると、龍一はやっぱりおろおろとして決めかねるようだった。誰にも見られる心配がないとは言い難い状況だけど、誰かが入ってきたら戸の開閉音ですぐ分かる。それに、大きな岩場の陰にいるのだからいきなり見られることはない。
それを耳打ちしても龍一はまだブレーキを踏んだままだった。
「いや、でも…」
「じゃあこれは何かなぁ?」
僕は少し意地悪く微笑みかけてみた。龍一のとある部分を握りながら。
「う…」
ばつが悪そうに、龍一は視線を逸らす。すでにそれは硬くなっていて言い訳は不可能だ。僕は龍一の顔を覗きこみながら言った。
「したいならしたいって素直に認めればいいのに」
「だって…あのさ…」
「まだ言うかぁ」
僕が弄りだすと龍一は降参、といった風に僕の腰に手を回し始めた。少しずつ荒くなる息遣いが耳元を撫でる。その吐息が僕の琴線を刺激した。

187 :ユーは名無しネ:2014/07/27(日) 22:22:29.31 0.net
「龍一…」
もう一度僕が龍一の唇を求めると、さすがに龍一も積極性を増してきた。それどころか、まるでたがが外れたみたいに激しく求め始める。
「嶺亜兄ちゃん…!」
強引に抱き寄せると、湯の中で龍一は僕のあちこちをまさぐってきた。龍一の大きな手が僕の全身を這い始める。微かな電流を流されたみたいに次第に僕はピリピリと心地よい刺激に包まれた。
お湯の中でするのってこんなに気持ちいいんだ…とぼんやりとしていく意識の向こうで思っていると龍一が懇願するように囁く。
「ごめん、嶺亜兄ちゃん…俺もう我慢が…」
龍一はガチガチになったそれを僕の下半身に押しつけてきた。僕も同じような状態になってしまっているのを知ってか知らずか返事をする前にもう挿れようとしてくる。
さすがに、今誰かが入ってきたらまずいなぁ…と思わなくもないけど僕ももう頭の中がとろけてしまって冷静な判断はとっくにできなくなっていた。
「いいよ…」
そうして龍一を迎え入れようとした時である。
僕達は一気に現実に引き戻される。戸の開閉音を聴覚が捉え、あと一歩というところで思い留まった。
息を殺して僕も龍一も硬直する。甘い気分は吹き飛んでしまった。
しかも…
「おや、誰もいない。良かったな」
「こんなおばさんが入ってきたところで誰も気にしやしないわよ。私も気にする年でもないし」
僕は龍一と顔を見合わせる。その声は両親のものだった。


.

188 :ユーは名無しネ:2014/07/27(日) 23:17:24.26 I.net
2人とも自重しろwwww
作者さん乙です!
面白いです!

189 :ユーは名無しネ:2014/07/28(月) 23:23:25.54 0.net
リクエストした者です
まだまだ続きそうで嬉しいです
終わったら寂しい
素直じゃないけど大胆なれあたんが可愛いです
温泉もタイムリーな感じで最高です

190 :ユーは名無しネ:2014/07/29(火) 04:14:35.85 0.net
ここは天国!?

191 :ユーは名無しネ:2014/08/03(日) 14:32:48.16 0.net
どういうことぉ?なんでお母さんとお継父さんがぁ…?ここ男風呂じゃないの?」
小声で囁きながら嶺亜兄ちゃんは目を丸くする。やっぱり気付いていなかったようだ。
脱衣所に入る手前に注意書きがしてあるのを俺は見た。ここは混浴の露天風呂なのだ。
嶺亜兄ちゃんは気付いていないようで、さっさと入って行ってしまったから俺は焦った。だけど幸いにも中には誰もいなかったから大丈夫だと思ったのだが、まさか両親が入ってくるなんて…
ここは混浴だよ、と俺が耳打ちすると嶺亜兄ちゃんは俺の頬をつねった。
「そういう大事なことは早く言いなよぉ」
「いて…だってさっさと入って行っちゃったから…」
さてどうしたものか…と俺達が出方を窺ってると両親の会話が静かな水音に乗って響く。
「龍一くん大丈夫かしら?旅行も気が進まない感じだったけど嶺亜が行きたいって言うもんだから無理して合わせてくれたりしてるんじゃないかと思って」
「あの子はこうでもしないと外に出ようとしないからいいんだよ。もう少し社交的になってもらわないと社会でやっていけないからな」
「あら、大人しくて奥ゆかしくていい子じゃない。裏表もないし」
「好意的に見てくれるのは嬉しいけど、基本的に不器用だから勉強しかできない人間になりそうで心配なんだよ。損する性格っていうのかな。主張も弱いし」
少し耳に痛い会話だったが口を挟むことなどできない。完全に出て行くタイミングを失ってしまった。
「二人とも、仲良くやってるみたいだし俺としては本当に嶺亜の存在は有り難いよ。あんな性格の龍一にも仲良くしてくれているし」
「あら、それはどうかしら。嶺亜はいい子ぶるのは得意だから…。龍一くんに陰で意地悪してないといいけど」
嶺亜兄ちゃんの顔を見ると拗ねたように唇をとがらせていた。俺は笑いそうになる。

192 :ユーは名無しネ:2014/08/03(日) 14:33:53.63 0.net
「そんなことないだろう。龍一の内部進学が危ない時も色々励ましてくれてたみたいだし、龍一の方からゲームしようとか誘うぐらいだから。龍一は君が思ってる以上に内向的で人見知りだぞ。半分対人恐怖症なんじゃないかと心配したことさえあるんだ。
学校の先生にも三者面談ではいつも学業面より友達の少なさや自己主張の弱さばかり言われるような子なんだよ。そんなあの子が自分から関わっていこうとしてるんだから嶺亜は本当に龍一に優しいんだと俺は信じてるよ」
今度は嶺亜兄ちゃんが笑いを堪えていた。
「それならいいけど。でも龍一くんはあんなに格好いいんだからきっと学校でも女の子の憧れの的なんじゃない?内部進学も決まったし、恋人を作る余裕もできそうだからそこから変わっていくかも」
「そうだといいけどね。嶺亜は?あの子は明るいし可愛いからもてるんだろう?」
「あの子はまだまだ子どもだからそんな関係にはなれないと思うわ。昔から女の子みたいだって皆に言われるし女の子にとっては恋人にするより友達感覚じゃないかしら」
「二人ともそのうち恋人を作って結婚して家を出て行くんだろうけど…まあ今からそんなことを考えても仕方がないか。まだ家族としてスタートしたばかりだしな」
俺と嶺亜兄ちゃんは目を合わせる。なんだか複雑な気持ちだった。まさかこの岩場の裏でお互いの子が誰にも言えない関係で誰にも言えないことをしていたなんて両親は夢にも思わないだろう。
幸いにものぼせる前に両親は出て行って、代わりにお年寄りの団体が入ってきたから俺達はそそくさと露天風呂を後にした。


.

193 :ユーは名無しネ:2014/08/03(日) 14:34:33.85 0.net
「あ、卓球コーナーなんてあるよ。やろぉ」
食事を終えて部屋に戻る途中で僕は卓球コーナーを見つけた。
「龍一、卓球部なんでしょ?お手柔らかにぃ」
「いや…でも、ほとんど行ってないから…」
龍一のそれは謙遜だと思っていたがそうじゃなかった。全くの初心者の僕にストレート負けしたから本当に幽霊部員だったんだろう。点を入れられるたびに自信なさそうに頭を掻く龍一の仕草がなんだか可愛かった。
「本当に何やらせても自信なさげなんだからぁ。もっと自分に自信持ちなよぉ。そんなんじゃモテないよぉ」
あえてそう諭すと龍一は僕の導きに面白いほど素直にひっかかった。
「別に女の子には興味ないから…」
そう言うだろうと思って僕はわざと意地悪な質問を続ける。
「嘘だぁ。僕とこんなことになる前につきあったりとかしたことないの?それとも龍一はそっち系なの?」
龍一は二つの質問に両方とも首を横に振った。その答えに満足していると今度は龍一が問いかけてくる。
「嶺亜兄ちゃんは?」
「何が?」
「…女の子か男の子とつきあったことがあるの?」
龍一の真剣な顔に僕は笑いそうになる。と同時にまたイタズラ心も芽生えた。
「さあねぇ〜。どうかなぁ」
わざと返事をぼかすと龍一は食いさがってくる。気にしているみたいでなんだか嬉しかったからもう少し愉しんでいようと僕は思った。
「教えてよ。別に今更俺は気にしないから…嶺亜兄ちゃんって初めから慣れた感じで俺に…したし、全く誰ともなんて思ってないから」
「何それ。それって僕が遊び慣れてるって言いたいの?」
「いや…そういう訳じゃ…」
「そうじゃん。いきなり義理の弟にとんでもないことする変態で節操無しだって言いたいんでしょぉ?」
僕が拗ねた振りをしてみせると龍一はだんだん慌て始める。そのまま部屋に戻るとずっと横で言い訳を繰り返していた。いい加減許してあげようかなあ、と思っているといきなり腕を掴まれる。

194 :ユーは名無しネ:2014/08/03(日) 14:35:09.77 0.net
「話聞いてよ」
真剣な表情だった。まだ中学生のくせに大人の男みたいな色気が漂ってきて僕はどきりとさせられる。改めて見つめると大きな二重瞼のその瞳に吸い込まれそうになった。
「はぁい…」
僕はぼ〜っと見とれてしまって知らずそう呟いてしまった。いつもは年下の弟だし、完全に力関係は僕の方が上だけど、なんかこうして強引に支配されようとするのも悪くないかなぁ…なんて思ってしまう。見た目だけなら龍一は僕より年上にしか見えないし…
「俺は嶺亜兄ちゃんのことそんな風に思ってない。ただ、その…今までどんな人と付き合ったのか気になるだけで…」
だけど龍一はまた気弱な及び腰に戻った。さっき見せた男らしさはどこへやら、だ。もっとも稀にしか見れないから価値があるのかもしれないけど。
気になるというのはそれだけ僕のことを想ってくれているからだろう。僕はそう解釈して答えた。
「別に誰とも付き合ってなんかないよ。龍一が気にしてくれるかどうか試しただけ」
龍一はきょとん、とした後でどこか安堵した表情を見せた。その反応も予想と期待どおりで満足する。
二人で笑い合っていると、室内電話が音をたてる。僕が出るとそれは隣の部屋のお母さんからだった。
「明日は9時までに朝ご飯をさっきのお部屋で食べて10時にチェックアウトだから寝坊しないでね」
「うん分かったぁ」
「仲良くしてる?さっきなんだか言い争う声が聞こえたけど、嶺亜あなた龍一くんのこと困らせたりしてないでしょうね」
案外ホテルの壁というのは防音効果は薄いらしい。僕は方目を瞑った。
「してないよ。僕は陰で龍一のこといじめたりなんかしてないからね、僕のことほんと信用してくれてないんだよねママは。パパの方がよっぽど僕のこと分かってくれてるよぉ」
「そんなこと言ってないでしょ。ただ、声が聞こえたから気になっただけ。全くもう…」
お母さんはぼやきながら内線を切った。我が母親ながら息子に対して穿ちすぎだと僕は思う。そりゃあまあ昔から僕は素直ではないけど…。
「どうしたの?お継母さんから?なんて?」
龍一が心配そうに問いかけてくる。僕はこう答えた。
「何もぉ。僕と龍一が喧嘩してると思ったんだってぇ。ここの部屋の壁薄いみたい。これじゃあ今夜はできないよねぇ」
壁をコンコンと叩きながら僕が冗談めかすと、龍一は少しガッカリしたような顔をした。それが可笑しくて僕は笑いころげた。


.

195 :ユーは名無しネ:2014/08/03(日) 14:36:53.34 0.net
ホテルの部屋からは綺麗な星空が見えたがロマンチックな気分に浸りたい一方で壁の向こうで両親に聞かれたら…という不安が交錯してなんとも複雑な気分だった。
嶺亜兄ちゃんはベッドに寝転んでゲームをしている。浴衣から伸びる白い手足がシーツと同化しているような錯覚を覚えた。大理石のような滑らかさに思わず手が伸びる。
「わっちょっとぉなんなのいきなり。びっくりして操作ミスったじゃんもぉ」
嶺亜兄ちゃんは起き上がって頬を膨らませる。その仕草が可愛くて気がつけば俺は嶺亜兄ちゃんに迫っていた。
だけど嶺亜兄ちゃんは…
「ダメだよ聞こえちゃうかもしんないでしょ。もしバレたらどうすんの」
それを言われてしまうとどうしようもない。意気消沈して参考書を取り出し、勉強に切り替えようとするとしかし嶺亜兄ちゃんは背中をつついてきた。
「バレてもいいからしたい、くらい言えないのぉ?」
「え?だって…誰にも知られちゃダメだし…嶺亜兄ちゃんだって今…」
なんだか矛盾した嶺亜兄ちゃんの言動に俺は戸惑う。もしすればバレてしまう可能性も高いしそうしたら俺達の関係はおしまいかもしれない。だったら我慢すべきだとそう嶺亜兄ちゃんも思っているからこそだと思ったのに…。
「そうだよねぇ。パパとママはまさか僕達がこんなことになってるなんて夢にも思わないしさっきお風呂でもいずれ二人とも結婚して家を出て行くってそんな当たり前の普通の未来しか描いてないもんねぇ。僕達って超親不孝ものだねぇ」
自虐と苛立ちをはらんだ嶺亜兄ちゃんの声に俺は何も言えなくなる。
両親が俺達のことを知った時…二人とも深い悲しみにくれるだろう。それだけじゃなく、お互いの連れ子を嫌悪しかねないかもしれない。
どこをどう見たって普通な関係じゃないから、この先は決して明るいとは言えない。誰にも言えず、知られず後ろめたさを常に抱えて生きて行かなければならない。
人目を気にして外では手を繋ぐこともできない。そんな背徳的な関係なんだという現実がここにきて突き刺さってきた。
ふと覗き見た嶺亜兄ちゃんの横顔は貼りついたような能面で、怖いくらいに美しかった。その瞳の奥がまた深海のような不可侵領域の色に染まる。それを認識すると同時に嶺亜兄ちゃんの口が開いた。
「でもさぁ」
嶺亜兄ちゃんは振り向き、俺を真っ直ぐに見据えた。
「もうしょうがないじゃんねぇ。だって僕は龍一が好きだし龍一だって僕が好きでしょ?たまたま好きになった相手が義理の兄弟だったってだけで僕達は人に後ろ指さされるような関係じゃないもんねぇ、そうでしょ?」
「え…」
「だからさぁ、もしバレそうになった時の言い訳を千通りくらい用意しとけばいいんだよぉ。龍一だって前にそれができるって宣言したでしょぉ?」
光が射したようだった。俺は深く頷く。
「言い訳もごまかしも下手だったのに僕とのこと隠し通そうと必死になってた時を思い出しなよぉ。言っとくけどねぇ、僕はそういうの大得意だからね。例え最中に踏み込まれても誰もが笑って済ませるぐらいの言い訳なんか朝飯前だからねぇ」
「てことは…」
今度は嶺亜兄ちゃんが深く頷く。そしてにっこりと微笑んだ。
「とりあえずしよっかぁ」
嶺亜兄ちゃんは部屋の電気を薄明かりに変えた。


.

196 :ユーは名無しネ:2014/08/03(日) 14:37:33.58 0.net
「こうすれば多少防音にはなるよねぇ」
僕は蒲団をがばっと被せて中に収まる。その中に龍一を招き入れた。
「なるべく声出さないでね」
囁くと、暗い布団の中で龍一は頷く。それを合図のようにして僕達は交わる。すぐに息苦しくなって蒲団が滑り落ちていったけどもうそんなことはおかまいなしだった。
なるべく声を出さないで、というのを龍一は懸命に、忠実に守っている。噛み殺した声が時々耳を撫でるけどその度に僕も自分から漏れる声を我慢しなくてはならない。その窮屈さが逆にスリリングで興奮してしまう。
「龍一…龍一…」
吐息に乗せて僕は龍一の名前を呟く。そうする度に愛しさが増すようで、ずっと呼びかけていたくなる。
龍一は息だけで返事をしている…気がした。その一呼吸一呼吸に想いを乗せてくれているようで僕は底なし沼のような快楽に溺れる。
「れい…」
僕の名前を口にしようとして、龍一は慌てて声をひっこめた。どこまでも言いつけに忠実なことに少し皮肉めいたものを感じていると、唐突に龍一が侵入してくる。僕はまだ自分の中に準備ができていなくて思わず大きな声が出てしまった。
「あっ…!」
いけない、と思うが早いか龍一が動いてくる。僕は必死に声を噛み殺した。
「…っ…!」
どういうわけか、龍一はいつもより激しい。気を抜いていると僕は大きな声を出してしまいそうで一気に余裕がなくなってしまった。
いつも、する時は両親がいない家の中でだけど今は違う。すぐ隣の部屋に二人がいる。しかも部屋の壁は薄い。自分で言いだしたこととはいえ僕はだんだん自分が声を抑えられるか自信がなくなってきた。
「はぁ…まっ…」
待って、と言おうとしてもそれが喘ぎ声になりそうで言葉は溶けていく。龍一はまるでたががはずれたかのように僕を求めてくる。ブレーキが壊れてしまったようだ。

197 :ユーは名無しネ:2014/08/03(日) 14:38:06.07 0.net
「嶺亜兄ちゃんっ…!!」
はっきりとした龍一の声が響く。僕は一瞬ドキっとしたがすぐにそんなものは払拭されてしまう。理性の糸がもう切れてしまったようだ。
龍一に突かれながら、僕はもう本能の赴くがままに喘いでしまった。時折それがやむのは唇を重ねている時だけ。
永遠に続けばいいと願いながら、僕も龍一もお互いを求め合った。
そして翌朝…
「なんだか猫の鳴き声みたいなのが世中も聞こえてきて気になって眠れなかったわ…」
朝食の会場でお母さんが欠伸まじりにぼやいていた。僕と龍一は顔を見合わせる。
「嶺亜たちはどうだった?よく眠れたか?」
お継父さんの問いかけに、龍一は相変わらずヒヤっとするくらい動揺を隠しきれていなかったけど僕がすかさずフォローをする。
「遅くまで二人でゲームしてたからちょっと眠いよぉ。猫の鳴き声?野良猫がけっこうたくさんいるんだって従業員の人が言ってたよ。ゲームしてたから気にならなかったけどぉ。ね、龍一?」
「あ、うん…」
ぎこちない返事を龍一は返す。もっと自然にできないものか。後でちょっときつめに言い聞かせておかないと、と思いながら僕は龍一に言った。
「食べたら露天風呂に行こぉ、龍一」
僕の視線の意味にさすがに気付いたのか龍一は頷いた。
「うん。背中流すね、嶺亜兄ちゃん」



Fin

198 :ユーは名無しネ:2014/08/04(月) 14:44:18.53 I.net
作者さんお疲れ様でした!!
とっても面白かったです!次回作も楽しみにしてます!

199 :ユーは名無しネ:2014/08/14(木) 13:53:32.17 0.net
リクエストした者です
リクエストに応えて頂いて本当にありがとうございました!!
終わっちゃってさみしいので、いつか気が向いたときにでも続編を書いてください
2人の関係性がとってもツボです

あと「Rhapsody in Summer」が好きなので映像化することが私の夢です!!

これからも色んなお話を書いてください
作者さんの次回作を楽しみにしています

200 :連載リレー小説 岸家の人々2:2014/08/14(木) 19:16:20.77 0.net
第10話

「38度5分…やばいよ嶺亜、今日は一日寝てなきゃ」
体温計の数字を岸くんが小声で読み上げた。
「ごめんねぇパパぁ…お弁当作れなくってぇ…」
かすれた声で嶺亜が謝る。何言ってんの、気にしないで休みなよと岸くんは言って嶺亜に蒲団をかけた。
「おいパパ、れいあ大丈夫かよ?」
部屋を出ると恵が心配そうに訊ねてくるが岸くんは首を横に振る。岸家緊急事態であることをリビングで皆に告げた。
「嶺亜は今日一日絶対安静だから…各自家事炊事分担するように。とりあえず郁、今日は弁当ないからコンビニで買って行きなさい」
郁に千円札を渡すと彼は嬉々として受け取った。
「300円台の弁当なら3つ買えるなー。それとも2つにして残りをホットスナックにするかなー」
能天気な郁の頭をばしっと叩いて恵は岸くんに言う。
「おいパパ、俺がれいあのこと病院に連れてくからおめーは出社しろよ」
「そういうわけにもいかないよ恵。お前はちゃんと学校行け。俺は時間休使えばいいから」
「嶺亜が風邪かー。パパ昨日ヤりすぎたんじゃねーの?」勇太がトーストをかじりながら冗談めかす。
「嶺亜は寝込むとわりと長引くからな。いい薬処方してもらってくれよパパ」挙武が紅茶をすすりながら言う。
「ちょっとちょっと勇太くんも挙武くんも冷たいよ。嶺亜くんが寝込むなんて相当疲れが溜まってるんだよ。みんなで助けてあげなきゃ!」
5男が模範的かつ建設的な意見を言う。やっぱり颯はいい子だ…と岸くんは感涙に咽ぶ。天国の嶺奈、見てますか?颯はすくすくいい子に育ってます…
「嶺亜兄ちゃんが倒れるとこの家がゴミ屋敷になってしまう…」龍一は震えている
「とにかくみんな、自分のことは自分でするように。家事分担は帰って来てから決めよう。とりあえず学校に行って勉学に励みなさい」
父親らしく岸くんは締めた。一家の母親的存在の嶺亜が伏せってしまうのは岸家にとって危険信号である。早く良くなってまた天使の笑顔を見せてほしい。岸くんは祈りをこめた。
「パパ心配しないで。俺が嶺亜くんの分も家のことするから。パパは安心して仕事しててよ」
「颯…お前って奴は…」
岸くんは涙ぐむ。
「今日はテスト前で部活もないし、俺が夕飯作るよ。腕によりをかけて作るからね!あ、もうこんな時間、遅刻しちゃうから行ってきまーす!」
いそいそと颯は玄関に向かって行った。それを見送りながらまだのんびり食べている他の子ども達に岸くんは説教モードに入った。
「皆、颯を見習わなきゃ。こういう時こそ家族の絆が試されるんだから…おい勇太、挙武、お前達はお兄ちゃんなんだからもうちょっとそれらしく…」
しかし岸くんの説教の途中で勇太と挙武は青ざめ始める。何故か恵達まで同じ表情になった。けろりとしているのは郁だけである。

201 :ユーは名無しネ:2014/08/14(木) 19:17:05.43 0.net
「なに?どうしたの?パパのお説教そんなに怖かった?」
「冗談じゃねえぞ…」
岸くんの言葉を遮って、勇太が呟いた。挙武も続く。
「颯が夕飯を作る…だと…?」
わなわなと震える横で龍一が頭を抱え出した。
「嫌だ…もうあんな悪夢は…」
嶺亜が寝込んだ、と聞かされたときとは比べ物にならないほど恐れをなしている。これは尋常ではない。そのただならぬ雰囲気に岸くんは背中が寒くなった。
「何?どういうこと…?」
訊ねると、恵が珍しく神妙な面持ちでこう説明した。
「パパ、おめーはまだ颯の料理食ったことがねーからそんな平気な顔してられんだぞ。いいか、あいつの作った料理はこの世のモンじゃねえ。
いくら俺がアホでもあんなもん食わされそうになって黙ってられるほど命知らずじゃねえ。帰ったら全力で俺ら止めに入るからな。いいな?」
「へ…?そ、そんなに…?」
「いつだったか…あれは、そう…5年ほど前かな…嶺亜が友達の家に一泊した時のこと…」
挙武が紅茶カップを置いて切々と語り始めた。
「出前で済ますにもママの給料前でそんな金もなく、家には米と若干の野菜と卵と加工食品のみ…どうしようと思ってると颯が『調理実習で包丁や炊飯器の使い方を覚えたから俺が作る!』と言いだした…」
「ふんふん。いい子じゃん。颯らしい」
「皆特に反対しなかった。面倒くさいしな。ママも『颯が作りたいって言ってるならそうさせてあげるぅ』とか言って能天気に任せていたら…」
まるで怪談話のノリである。皆も神妙な面持ちでその昔話を聞いた。
「できあがったものがもう…とてもじゃないけど食えたものじゃないんだ…不思議なんだよ、普通の食材を使ってどうしてあそこまで凄まじい味にできるのか…。一種の才能だな、あれは」
「ま…まーたまたー!大げさすぎだよ挙武は!」
岸くんが冗談で片付けようとすると勇太がかぶりを振った。
「別に誇張も何もしてねえよ。俺が一番キツかったのは砂糖にぎりだな。あれ食った瞬間農家の人に申し訳なく思ったけどリバースしちまったし」
「間違えただけでしょ。小学生の頃でしょ?砂糖と塩間違えるなんて良くあることじゃん。もう高校生なんだから間違えるはずが…」
「あめーよパパ。あいつ自信満々に『塩より砂糖の方が合うと思ったんだ!』って言ってたし。他の料理も食えたもんじゃねえ。あんなの平気で食えんのは郁ぐれーだぜ」
恵が胸のあたりを押さえながらそう言った。その郁は能天気に5枚目のトーストにあんずジャムを塗っている。
「その日から俺達は…颯にだけは料理をさすまいと誓った…その時初めて兄弟が一つになったんだ…」
指をくるくる回しながら龍一が呟く。
「いや…でもさ、張りきってるしもう小学生の頃とは違うんだしやらせてみてもいいんじゃ…」
岸くんがそう諭すと皆は溜息をついた後、
「じゃあパパが責任持って全部食えよ。次はパパが寝込むことになっても俺ら知らねえからな」
勇太の脅しにびびった岸くんは「やっぱり出前を取ろう」という結論に落ち着いた。そして颯にそれを伝える役割を龍一に任せ、その他の家事分担を考えた。

202 :ユーは名無しネ:2014/08/14(木) 19:17:32.83 0.net
「ごめんねぇ、パパぁ…会社遅れちゃうねぇ…」
タクシーを呼び、嶺亜を近くの内科に連れて行く。待合室でレイアは青ざめた顔で頭を下げた。
「何言ってんの。こんな時くらい何も考えないでゆっくりしなよ。夕飯は出前取るし、他の家事も皆に分担したから。いい機会だから皆に家事覚えてもらおうと思って」
「ありがとぉ…でもぉ…あの子達に任すのはそれはそれで心配だけどぉ…」
咳まじりにそう呟いて、診察室に呼ばれて嶺亜は歩いて行く。心配しながらそれを見守り岸くんは会社に連絡した。
嶺亜は夏風邪で喉が赤く腫れていると診断された。薬を処方してもらって家に戻り、寝かしつけると岸くんは出社する。頭を下げて回ると皆温かく迎えてくれて一安心である。
「いやーしかし偉いねー岸くん。その年で高校生の父親やるとかねー」
「ほんとほんと。うちの息子、岸くんと同い年だけど大学生だし遊び回ってるだけで家のことなんにもしないんだもの。爪の垢煎じて飲ませたいわ」
「いやそんな…」
褒められると少しは父親らしくなってきてるのかな、なんて自己評価がやってくる。嶺亜のことは相変わらず心配だから病人食について主婦の社員から知恵を賜る。そして定時にあがらせてもらうと岸くんはダッシュで帰宅した。
そこで惨状を目の当たりにすることになる。

岸くんが会社に2時間遅れで出社する少し前、颯への連絡を義務づけられた龍一は休み時間にメールを打った。
「『パパが出前取ってくれるから颯は作らなくて大丈夫だよ』…まあこんなところでいいか…」
思い出すのも恐ろしい。あんな殺人料理を食べさせられるのは龍一とて御免だ。しかも颯本人はそのことに気付いていないから余計に厄介だ。100%親切のつもりでやっているから滅多なことは言えないのである。
「どうしたの龍一くん、溜息なんかついて」
本高が顔を覗きこみながら訊ねてきた。
「うん…嶺亜兄ちゃんが風邪で倒れちゃって…今日の夕飯を颯が作るって張りきってるんだけど颯の料理はお世辞にも食べれたもんじゃないからやんわりと断りのメールを入れてたんだ」
「え!?嶺亜く…お兄さんが風邪で!?」
本高は目を丸くした。彼は純粋に嶺亜を慕っている。その純粋さはいささかエキセントリックではあるが…
みるみるうちに本高は悲壮な顔つきになっていった。
「僕がもうちょっと早く生まれて医者になってたら…すぐにでも診察にかけつけるのに…。ああ、でも嶺亜く…お兄さんのやわ肌に聴診器を当てるだなんてそれだけで僕が倒れてしまいそうになる…これはどうしたものか…」
「…」
「しかしながら、嶺亜く…お兄さんの中にいるウイルスが飛沫感染および空気感染で僕に伝染るなんてこともあり得る。嶺亜く…お兄さんの体内にあったものが僕の中に…なんという素晴らしきこと哉…あああ、うつされたい…嶺亜くんに風邪をうつされたい…」
「…」
「いいなあ、龍一くんは…。同じ屋根の下で暮らしてればいくらでもうつされるチャンスはあるもんね…はあ…」
本高は勝手に妄想に浸って頭を悩ませ始めた。龍一は放っておいて次の授業の予習を始めた。

203 :ユーは名無しネ:2014/08/14(木) 19:18:17.89 0.net
一方末っ子の通う中学では…
「なんだよ郁、そのコンビニ弁当。しかも3つも」
3つのうち1つ目を早弁しているとクラスメイトの橋本涼に指摘される。わらわらと林蓮音、羽場友紀、金田耀生も集まってくる。
「家事を一手に担ううちの長男が倒れてさー。弁当作ってくれる人がいなくなっちゃって。そんでパパが昼飯代に千円くれたから330円の弁当3つ買ってきたんだよ」
「へー。うちもお母さん風邪引いた時とか飯困ったなー。今日誰か作ってくれんの?」橋本が金田とオセロをしながら訊ねた
「下から三番目の兄ちゃんが作るって言いだしたんだけど他の兄ちゃんが断固阻止しろってすげえ剣幕でさ。確かに昔作った時不思議な味したけど食いもんには違いないから俺は別に良かったんだけどさー。結局出前取るって」
「出前も今高いじゃん?うちこないだピザ頼んだら大してお腹いっぱいにならないのに2300円もしてさー。お前ん家確か7人兄弟だろ?そんでパパが19歳だろ?よくそんな余裕あるな」林がけん玉をしながら訊く
「いやー正直かなり苦しいようち。その下から三番目の兄貴が金かかる私立高に入ったしさ。1ミリも余裕ないね」
「だったらさー、やっぱ出前取るより作った方が良くない?郁が作れば?」羽場が机の上でベーゴマを回しながら提案する
「いやー俺は食うの専門だから」
「じゃあさー郁、瑞稀に教えてもらやいいんだよ。あいつお母さんが入院してる時とか自分で作ってたって言ってたし。それをきっかけにして二人の仲が進展したりして…ひゅーひゅー」
金田が何気なく言った一言に、次の瞬間郁は瑞稀の元にダッシュしていた。
郁が初恋を実らせるべく奔走している頃、また別のところでは…
「おい颯、今日は部活はないがこの朝日と自主練を交えた100M走第247戦だ!今日は俺が勝つ!」
HRを終え、教室を出ようとすると朝日に呼びとめられた。したい気持ちは山々だったが颯は事情を説明する。
「何?家事が得意な兄貴が寝込んでる?」
「そう。夕飯を俺が作ろうかと思ったんだけど双子の弟からパパが出前取るからいいよって連絡があったんだ。でもせめて何か役にはたちたいし早く帰って家事手伝わなきゃ」
それを聞いた朝日は涙ぐむ。
「颯、お前って奴はなんという…さすがこの朝日がライバルと認めた男!!そうと知っちゃ黙っておれん。お前の家は経済的に苦しいと言ってたから出前を取るより自炊した方が良かろう。この朝日に手伝えることがあったらなんでも言え!」
「いや、そんな迷惑かけるわけには…」
颯が遠慮しようとするとそこに朝日の兄達が通りかかった。

204 :ユーは名無しネ:2014/08/14(木) 19:18:47.56 0.net
「え、何?嶺亜が風邪で倒れたの?それは可哀想に。一家のお母さんが倒れたら家中暗くなってんじゃないの?俺が一発ギャグで明るくしてやるよ!」四男の海斗がイノキの物真似をしながら挙手した
「海斗、病に伏せってるレディ…じゃなかった少年にそんなの迷惑だろ。そうだな、俺は薔薇の花束でも持って見舞いに行こうかな」すっかりキャラ変した三男の顕嵐が髪をかきあげる
「病気の時は栄養あるもの食べないとねー」二男、海人が張り切ってお粥レシピのアプリを取得した。
「お前ら迷惑だけはかけるんじゃないぞ。まあ岸くんも困ってるだろうし昔なじみのよしみで助けに行くか」何故か大学から遊びに来ていた長男の閑也が頷く。
「なんか良くわかんないけど皆さんありがとうございます!」
素直な颯は彼らの親切だかおせっかいだか野次馬だか分からないそれに感謝しつつ頭を下げた。
そして颯が人の優しさのありがたみを感じている頃、勇太と挙武は…
「おう挙武、龍一は上手くやっただろうな」
帰り道で挙武に会い、勇太がそう訊ねると「多分」と彼は返事をする。
「嶺亜が倒れると色んな家事が回らなくなるからなー」
「そうだな。普段は困った小悪魔二面性トンデモぶりっこだがこういう時に有難味が分かるというもんだな。早く良くなってもらわないと」
そんな話をしていると家の前でばったりとお向かいの森本家の慎太郎に合う。
「よお、勇太に挙武。これ田舎から送ってきたスイカだけどおすそ分け。でも嶺亜、スイカ嫌いって言ってたから嶺亜にはこっち」
慎太郎は少し照れながらシュークリームの入った箱を掲げた。有名なスイーツ店のものである。
「俺らには田舎から送ってきたモンで嶺亜には有名スイーツかよ。えらい差だなおい慎ちゃんよー」
勇太がぼやきながらも慎太郎の肩に手を伸ばす。
「まあもらえるものはもらおう。うちの経済状況は厳しいんだし」
挙武が勇太をたしなめつつ、シュークリームがいくつあるかさりげなく確かめた。
「まーでも嶺亜は今シュークリームなんか喉通らねえと思うぞ。お粥かうどんぐらいしか食えないし」
「え?どういうこと?」
「嶺亜は今風邪ひいて寝込んでいる。今朝パパが病院に連れて行ったから薬を飲んで今頃寝ているだろうな」
挙武の答えに慎太郎は血相を変えた。
「マジかよ…そんなことになってるなんて…。分かった。至急風邪に効くもん持って行くから待ってろ」
勇太にスイカの箱を手渡し、挙武にシュークリームの箱を押しつけ、慎太郎は家に戻って行った。

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205 :ユーは名無しネ:2014/08/14(木) 19:20:14.52 0.net
「どうもすみません、お先に失礼します」
会社を後にし、ダッシュで岸くんは駅に向かう。電車に乗り込むと知り合いにばったり会った。
「あ、岩橋」
「あ、岸くん。今帰り?お仕事御苦労さま」
「どうも。岩橋は?どっか行ってたの?」
「野球サークルの帰りだよ。今日は市内の練習場が借りられたから」
よく見れば岩橋の荷物はグローブやユニフォームなど野球グッズばかりだった。色白の肌が少し日焼けしている気がする。
それから最寄駅に着く数分の間会話をした。嶺亜が風邪で寝込んでいることを離すと岩橋は心配そうに眉根を寄せた。
「それはかなり一大事だね。岸くん、僕に手伝えることがあったらなんでも言ってよ。こう見えても一人暮らしをしてるから少しは家事についてもたしなんでるよ」
「ホントに?そうしてもらえると凄く助かる!皆で分担したんだけどいかんせんいつも家事は嶺亜に頼りっきりだから今一心配で…」
岸くんは岩橋の好意に甘えることにした。彼を連れて帰宅する。
「ただい…なんだこりゃ?」
玄関に無数の靴が散乱している。8人家族だからいつも多いと言えば多いがそれにしてもその倍はある。不思議に思っているとリビングから何やら騒がしい声が聞こえてくる。
「ただいま…って何これええええええええ!!!!!!!」
リビングのドアを開けるとそこには岸家の人々オールスターズかと思うような面子で溢れかえっていた。
キッチンには颯と朝日と郁と瑞稀、そして海人(うみんちゅの方)が立ち、薔薇の花束をかかえた顕嵐にお医者さんカバンを携えた本高になんだか分からない薬草の束を抱えた慎太郎がジャンケンをしている。
リビングでは閑也と海斗と勇太と挙武がAVのパッケージについて熱い議論を飛ばしている。何がなんだか訳が分からない。
「あ、パパおかえり!」
岸くんに気付いた颯が菜箸を握りながら手を挙げた。
「今すっごおく美味しい夕飯を作ってるからね!嶺亜くんの病人食は職人のうみんちゅさんに任せた!」
「食べ物のことなら任せて任せて」
海人は得意げに胸を叩いた。その横では郁と瑞稀が微笑ましくクッキー作りをしている。
「ちょ…これはどういう…」
岸くんが面喰らっているとジャンケンをしていた顕嵐と本高、慎太郎の決着がついたようである。
「では僕が先陣を切るということで…」
本高がいそいそとお医者さんカバン(ドラ○もんモデル)を手にリビングを出ようとした。
「ちょ、ちょっと待って、先陣を切るって…」
「あ、お父さん今晩は。岩橋くんもこんばんは。相変わらずお可愛いですね。あの、僕医者を目指す者として嶺亜く…お兄さんのウイルスを摂取しに…じゃなくて診察に窺おうと思いまして」
「し、診察?お、お医者さんごっこ?」
岸くんがイケナイ妄想をしかけていると顕嵐がバラの花束を抱えてこう言った。
「次は俺が。病に伏せってるレディの寝室に押しかけるのは趣味じゃないけど」
「…誰?」
なんか前回会った時とキャラが大きく違う気がして岸くんは目を擦った。そうこうしていると薬草だか漢方薬だかの束を抱えた慎太郎が岸くんの前に踊り出る。
「田舎の金沢の近くには薬で有名な富山があるから病に効く薬草を一通り揃えました。嶺亜の風邪はもう大丈夫です、お父さん」
「薬草って…そんな…ド○クエじゃあるまいし…あっちょっと本高くん待ちなさい!嶺亜は今面会謝絶だから!顕嵐くんこのバラありがたくいただくね!セクシーローズって品種なの、オシャレだね!
慎太郎くん薬草はちゃんとすりおろして使わせてもらうから庭に置いといて!ちょっと閑也、お前の弟たちなんとかしろよ!あ、瑞稀ちゃんいらっしゃいいつも郁がお会世話になってます。うみんちゅくんおかゆありがとね。あとで俺が部屋に持って行くから…颯?」
岸くんは一気に来訪者にまくしたてた後、颯が何やら怪しい液体を鍋で似ているのを見た。気のせいか物凄い臭いがそこから放たれてる。

206 :ユーは名無しネ:2014/08/14(木) 19:21:07.64 0.net
「とりあえず換気を…颯、何作ってんの…それ…?」
窓を開けながら恐る恐る訊ねると颯はおたまを持ちながら照れ臭そうに答えた。
「シチューだよ!栄養のあるものいっぱい入れて、食べやすいように色々スパイスも入れたから自信ある!パパも嶺亜くんの看病で疲れてるだろうからしっかり食べて体力作ってよ!」
岸くんはこの時昔読んだ漫画のあるひとコマを思い出した。そう、ドラ○もん第13巻に掲載された「ジャイアンシチュー」の回である。文字通りジャイアンが作ったシチューで、それにはひき肉とたくあんとしおからとジャムとにぼしと大福とその他色々が入っていて…
「できたよ!さあめしあがれ!」
「あ、ありがとう…あ、ビーフシチューだったんだあ…ハハ…」
皿になみなみと盛られたシチューは黒ずんだ半凝固体だった。具に何を入れたのか分からなくなるくらい濁っていて底なし沼を連想させる。
「ホワイトシチューだよ。ルーは市販のやつ使ったけど」
確かにホワイトシチューの箱がキッチンにあった。元は白かったはずのルーがこんなヘドロみたいになるなんて一体何を入れたんだろう…岸くんは戦慄を覚えた。
岸くんは究極の選択を迫られる。どう見てもこれは人間の食べ物じゃない。こんなものを口にしたら胃が爛れて溶けてしまう。「お腹が痛い…」と岩橋のキャラを一時的に拝借するか、疲れてるから後で食べるとごまかすか…
「どうしたのパパ?お腹減ってるでしょ?今日もお仕事ご苦労様」
だけどこの、颯の涙が出るほどの気遣いを無碍にするというのは父親失格のような気がして岸くんは腹を括った。
「い、いただきます…」
結論から言うと、それはこの世のものとは思えない凄まじい味がした。当の本人である颯は平気で味見をしていたがそれにしても常軌を逸している。挙武が朝語った伝説もあながち誇張ではないことを身を持って体験したのである。
殺人シチューが振る舞われ始めると来訪者は蜘蛛の子を散らすように手をつけずに帰って行った。勇太は「オ○ニーのしすぎで食欲がねえ」とスイカを持って自室に逃げ、挙武は「試験勉強をする」とこれまたシュークリームの箱を抱えて自室に逃げた。
龍一はひたすら自我修復を部屋の隅でしながら気配を殺していて、郁だけは協力してくれそうだったのに瑞稀と作ったクッキーを「これが初恋の味か…」と恍惚として見つめ、ひたすらそれを食べていて話を聞いてくれない。
「パパ、どう!?パパのために一生懸命作ったんだよ。嶺亜くんほど美味しくないかもしれないけど…」
純粋な颯の期待に満ちた瞳を見るととてもじゃないが「くそマズイ。マズイっていうかこれ食いもんじゃない」とは言えない。岸くんは滝のような汗を流しながらひたすら「颯くんシチュー」と向き合った。

207 :ユーは名無しネ:2014/08/14(木) 19:33:28.21 I.net
その頃、嶺亜の部屋では…
「ごめんねぇ、恵ちゃん…うつっちゃうからもういいよぉ。少し良くなってきたからぁ」
「何言ってんだれいあ、まだ熱あんぞ。とりあえず海坊主…じゃなかったうみんちゅが作ったおかゆ食えよ。あと水分取って薬飲んで汗かいたら拭けよ。濡れタオルもここに置いとくからよ」
「ありがとぉ…」
けだるい身体を起こしながらうみんちゅ特製のお粥を口にする。さすがに食にこだわる人間が作っただけあって美味しかった。食欲も戻ってきたようだ。
「どした?れいあ?」
「んーん。なぁんか昔のこと思い出しちゃってぇ…。ほら、小学生の時、僕が熱出した時ママの作ったまずいお粥に文句言ったらママが怒って『もう作らないよぉ』って言って…そしたら恵ちゃんが一生懸命作ってくれたのぉ」
「ん?あーそーいやそんなことあったっけな。でもよーれいあ、そん時のおかゆ…」
「うん、ママの数倍マズかったけどぉ…恵ちゃんが作ってくれたんだぁって思ったらぁ全部食べれたよぉ。それでまたママが文句言ったけどぉ」
「そっかー。そうだよなー。だって料理はいつもママかれいあがしてたし、調理実習ですらふざけてマジメにやってなかった小学生の俺がマトモなもん作れるわけねーって今なら分かるけどあん時ゃ世界一美味いおかゆ作れたと思ってたからよ」
「恵ちゃん一生懸命料理の本見て作ったんだよねぇ。あの頃住んでた家狭かったし襖の隙間からそれが見えてなんかすんごく嬉しかったよぉ」
「そりゃれいあのためだからよー。龍一が熱出したら颯に作らせるけどなーギャハハハハハハ!!」
大笑いしたかと思うと恵は「あ」と手を叩いた。
「そういやあいつ、今日は俺が夕飯作る!とか言ってたから龍一にその必要ねーって言っとけって言ったけどあいつしくじったみたいで下で颯がなんか大勢ひきつれて作ってやんの。てなわけで俺暫くここから出ねーよ。颯はいい子だけどあの殺人料理だけはいただけねー」
そんなことになっていたのか、と嶺亜は苦笑いが漏れる。そのせいか階下がなんだか騒がしい気もしたが今は静けさが戻っている。
「颯は一生懸命だからねぇ…パパも優しいからきっと汗だくになりながら食べてあげてるだろうねぇ」
その姿を想像すると可笑しくて嶺亜も恵も笑いが漏れる。
そして嶺亜が薬を飲むための水を汲みに恵がリビングに降りるとそこにはシチューを完食して真っ白に燃え尽きた岸くんがいた。すでにこと切れた岸くんに、恵は浅い溜息をつきながらこう声をかける。
「ったく適当なこと言って残しゃいいのによー。パパおめーはほんとお人良しだな。しゃーねーから俺が明日胃薬買ってきてやるよ」
しかし岸くんの横にはきちんと各種胃薬が置かれていた。颯のシチューの破壊力を察した岩橋が逃げ帰る際に岸くんの身を案じて置いて行ってくれたものだった。



おわり

208 :ユーは名無しネ:2014/08/16(土) 16:16:04.70 I.net
岸君の恋人(になりたい)が、読みたいです!!!

209 :ユーは名無しネ:2014/08/17(日) 22:45:29.54 0.net
作者様乙!
岸くんの恋人(になりたい)私もみたいです!
でも、裏7がとてつもなくみたいな。青い春も終わっちゃったけど番外編で
岸くんが颯きゅんに会うのもみたい!
ごめんなさいwww作者様乙でした!

210 :ユーは名無しネ:2014/08/19(火) 00:18:14.40 I.net
作者さんお疲れ様です!
こちらも、読ませてもらっている側なので作者さんのペースで書いてください!
毎回更新を楽しみにしてます!

211 :ユーは名無しネ:2014/08/24(日) 17:04:16.20 0.net
神7シネマ劇場「少年の頃」


       僕達が出会ったのは全くの偶然だった


「あのさ、俺転校するんだわ、夏休みの終わりに」
一学期もそろそろ終わろうかというある暑い夏の日、いつものように屋上でだべっていると急に倉本郁がそう呟いた。
「は?転校って?」
神宮寺勇太が食べかけのスナック菓子を吹きながらそう返す。
「ちょっと待ってよぉ、郁ぅまたなんかの冗談?」
中村嶺亜が倉本の顔を怪訝な表情で覗きこむ。
「そんなこと言って…また『ハイ騙されたー』とかって言うんでしょ、どうせ」
岩橋玄樹が呆れ気味に浅い溜息をつく。
「だったら具体的に聞かせてもらわないとな。ほれ、言ってみろ、どこのどの学校に転校するっていうんだ?」
羽生田挙武はペットボトルのお茶を一気に流し込み倉本にけしかけた。
4人はいつもの倉本の冗談だろうとあっさり片付けようとした。
だがそうではなかった。倉本の口から詳細な内容が語られる。最初は聞く耳をもたなかった4人もそれが現実味を帯びてきたことで神妙な面持ちになり始めた。
小学校からの腐れ縁で、住んでいるところも、趣味も、性格もバラバラだったが不思議といつも一緒にいた。5人揃って同じ高校に進学したのもまた偶然。示し合わせたわけじゃない。だからこそその結びつきは強いと言えよう。
それが突然、別離の時を迎えた。
会いに行けない距離じゃない。永遠の別れでもない。むしろ、進学が別になれば遅かれ早かれやってくる別れである。
それでも、4人は寂しかった。それぞれが口に出すことはないが…
「このままサヨナラってのもなー」
終業式の帰り、神宮寺がそう呟く。その一言をきっかけに倉本を誘って夏休みに5人で旅行に行こうという計画が立ちあがった。マクドナルドで店員が嫌な顔をするまでぎゃあぎゃあとその行き先や日程についてポテトM一つで何時間も検討し、それは決まった。
「羽生田様に感謝感謝だなー。太平洋リゾートなんてよー」
似合わないサングラスをかけ、神宮寺は波止場で大スターのように佇む。それを岩橋が可笑しそうに笑う。
「神宮寺大げさすぎ。一応東京都じゃん」
「早く泳ぎたいよぉ。日焼け止め塗るの手伝ってねぇ郁ぅ」
わくわくしながら嶺亜はぴょんぴょん跳ねている。
「リゾートねえ…羽生田、そんな大層なモンなの?」
倉本が訊ねると羽生田は皮肉な笑みをもらした。
「まぁ正直な話、リゾート崩れかな。うちの父親の知り合いが経営してるみたいなんだけど、大分昔…バブルの頃にリゾート建設しようとして頓挫した施設を買い取って改装したみたいでね、タダ同然の格安で泊めてくれるという話だから。おっと迎えの船が来た。あれだぞ」
羽生田が指差した先には漁船のような小さな船があった。5人ははしゃぎながらそこに乗り込む。

212 :ユーは名無しネ:2014/08/24(日) 17:05:33.92 0.net
「ちゃーっす。世話んなりまーっす!」
先頭きって神宮寺が船に上がると、日焼けした逞しい初老の男が「おう」と出迎えた。
「どーもー…ってあれ?」
倉本が船室に入ると、そこには小さな男の子が座っていた。目のくりくりとした凛々しい顔つきの真面目そうな少年である。少年は黙って頭を下げた。
「そいつはうちの甥っ子だ。船の操縦を見たいっつうから連れて来た。まあ仲良くしてやってくれや」
男は少年をそう紹介する。
「なあ、名前なんていうの?俺は倉本郁!」
「…井上瑞稀です」
緊張気味に、自動音声のように瑞稀はそう答えた。小柄だから小学生かと思ったがそう年は違わないらしい。
倉本はすっかり瑞稀が気に入ったようだった。夢中で話しているのを4人がやれやれと見守る。
船を走らせること1時間。岩橋が酔いかけで顔面蒼白になりかけた頃にそれは鮮やかに視界に広がる。
「見えてきたぞ。神七島だ。なんもねえけど自然だけは豊かだからよ。あと魚もうめえし」
男は自慢げに紹介して船を停めた。神宮寺に支えられて岩橋が弱弱しい足取りで降り、嶺亜と羽生田がはしゃぎながら外の空気を吸い込んだ。
「すっごいねぇ。空気が美味しいよぉ。潮の匂いがいい感じぃ」
「まぁたまにはこういう素朴なところも悪くないな」
倉本はというと、相変わらず瑞稀に一方的に話かけていたが少しずつ彼と打ち解け始めたようである。瑞稀の表情が多少柔らかくなっていた。
「羽生田、俺らが泊まるとこってどうやっていくん?岩橋がちょっとヤバ気なんだけど」
神宮寺に訊ねられて羽生田が腕に嵌めた高級時計の針を見る。
「もうそろそろ迎えの車が来るはず。多分岩橋か嶺亜が酔うだろうと思って早めの時間を手配しといた。さすがだろう?」
「僕は酔わないよぉ。岩橋大丈夫ぅ?」
「大丈…うっ!」
岩橋が口を抑えると、それまで支えていた神宮寺が飛びのいた。
だが間一髪セーフで岩橋は耐えた。「ひどいよ…神宮寺…」と非難され神宮寺は岩橋を宥める。
「あっつ…車来るまであそこの日陰で休んどこう」
照りつける日差しを憎々しげに掌の隙間から見ながら羽生田が提案する。その案に賛成多数だったが…
「あのさ、俺瑞稀と一緒にこの島探検してくるわ!瑞稀、そのホテルの場所知ってるって言ってるから後から合流な!んじゃ!」
倉本は快活にそう言い放って若干戸惑い気味の瑞稀の背を押して行ってしまった。4人は唖然とその後ろ姿を見る。
「おいおいおい、なんだよ、あいつの送別会なのに一人で行っちまったぞオイ」
「でもさ…倉本嬉しそうだね。あの子のこと相当気に入ったみたい」
「郁ってぇそういうとこあるもんねぇ。なんかすんごいお気に入り見つけるともうそこしか見えない、みたいなぁ」
「まあいいんじゃないか?あいつが喜んでくれれば俺達もこの旅行を企画した甲斐があるというものだ」
そんなことを話しながら迎えの車を待つが一向に来ない。おかしいな…と羽生田が頭を掻く。
「手違いかな…ここは圏外で携帯も通じないし…第一ホテルの番号も知らないしな」
「どうするぅ?歩くぅ?」
「歩くっつってもよ、道分かんねーよ。羽生田、ホテルまでどんぐらい?」
「さあ…迎えに来てくれるって話だったからな」
どうしたものか右往左往しかけていると、きょろきょろと辺りを見渡しながら少年が歩いてくる。こちらに視線を向けると少し探るように近付いてきた。

213 :ユーは名無しネ:2014/08/24(日) 17:06:17.74 0.net
大きな瞳が印象的な、人の良さそうな少年だ。短い髪を立たせて精悍な雰囲気が漂っている。年は少し上…といったところだろうか。嶺亜も岩橋も神宮寺も羽生田も彼に視線を合わせた。
「えっと…本土からのお客さんで羽生田…さん、だっけ?その御一行?」
柔らかい口調と雰囲気を醸しながら少年は訊ねる。その額から大量の汗が流れていた。
羽生田がそうだ、と答えると少年は申し訳なさそうに頭を下げた。
「迎えに来るはずのうちの親父がちょっと具合悪くて…。俺は運転できないから案内だけでもしてやってくれって頼まれて。ちょっと歩くんだけどいいかな?本当に申し訳ない」
低姿勢で謝りながら少年は先導する。神宮寺が名前を訊ねると岸優太、と彼は名乗った。年は18歳。この春高校を卒業したと語った。気さくな性格で、ホテルに着く頃にはもうすっかり打ち解けていた。
「そのホテルって岸くん家の経営なの?」
岩橋が訊ねるとぶんぶんと岸くんは首を横に振った。
「とんでもない。俺ん家は代々ここで漁師をしてた家系だったんだけど親父が身体悪くしてそれが継げなくて、ホテルの従業員とか便利屋みたいなことして生計立ててんの。俺も今その手伝いで」
「ふうん…岸くんって生まれた時からここに住んでるの?」
「うん。生まれも育ちも神七島!島にはさ、子どもが少なくて俺は同い年が一人もいないんだ。つっても今ここには俺より年下は20人くらいしかいないけど」
「そうなんだぁ…さっきの瑞稀もその一人なんだねぇ」
嶺亜が呟くと、「あ、瑞稀に会ったんだ」と岸くんは答えた。そのいきさつを嶺亜が説明し、羽生田が冗談まじりに補足した。
「実はもう一人同行者がいるんだが…そいつがえらく瑞稀を気に入ったみたいで単独行動で彼と一緒に行ってしまった。まあ島の子が一緒なら迷うこともないと思って」
「そっか。でも瑞稀は人見知りだから。その子心折れてないといいけど」
岸くんは笑う。羽生田はまあ大丈夫だろう、と答える。
「あの気に入りっぷりだとそうめげないだろう。実を言うとそいつが転校しちゃうからその送別の意味で今回旅行を企画したんだけどなんだかおかしなことになっちゃったなっていう…」
「何それ。ケッサクだねー」
笑い合っているといつの間にかそれっぽい建物が見え始める。島の素朴な風景には若干不似合いな洋館である。
「わぁすごいね…正直、あまり期待してなかったけどこんなだとは」
島の澄んだ空気に酔いも大分回復させた岩橋が目を輝かす。
「ほんとだぁ。まるでヨーロッパかどっかの御屋敷みたいだよぉ」
嶺亜と岩橋は女子のノリできゃっきゃと手を合わす。
「さすが羽生田一族の知り合いだな」
羽生田は何故か得意げである。
「おい早く行こうぜ!天蓋つきベッドとかってきっとオナったら気持ちいーだろうな!!」
神宮寺の下ネタに女子チーム二人は眉根を寄せたがチェックインをするべく岸くんの案内で中に入る。

214 :ユーは名無しネ:2014/08/24(日) 17:07:07.98 0.net
「わあ…」
吹きぬけのホールにシャンデリアがぶら下がっていた。嶺亜と岩橋はテンションマックスである。二人できゃあきゃあ叫びながらホール内を見渡していた。
岸くんが「オーナーを呼んでくる」と言って奥に消え、その5分後に柔和な顔つきの恰幅のいい中年男性が現れる。ハンカチ片手に汗をかいていた。
「どうもすみません、こんなところまで歩かせてしまって…どうしても離れられない仕事があって、優太くんに任せてしまった。あ、羽生田さんとこの…大きくなったね」
中年男性は羽生田を知っている風だったが羽生田本人にその記憶はない。聞けば、幼少の頃羽生田一家と会っていたそうである。仕事上の付き合いがあったらしい。
「見てのとおり、建物は立派だけどお客さんも少なくてね。物好きな旅行者とか、島の者の親戚とかが泊まってるくらいだから気兼ねはいらないよ。そうだ、部屋の鍵を渡しておこうね」
オーナーから鍵を手渡され、さて部屋の場所は…と4人が思っていると彼は大声で誰かを呼びつけた。
「颯!颯はいるか!?ちょっと来なさい」
ややあって、奥の扉からまた一人の少年が出て来た。すらりと背が高く、整った顔立ちの清潔感のある16〜7歳くらいの少年が姿を現した。
「部屋に案内してやってくれ。いい機会だから友達になるといい。こっちの挙武くんとお前は小さい頃何回か会ったことがあるんだぞ」
中年男性の息子だと紹介された少年は緊張気味に挨拶をする。
「初めまして…ようこそ。高橋颯です…」
「ちょっと人見知りだけど悪い子じゃないんでね。仲良くしてやってくれ。じゃあ颯、頼んだよ」
父親に任せられて颯は鍵の束を持って案内して回る。
「部屋は全部ツインなんだけど…5人なんだよね?とりあえず3部屋分の鍵を渡しておくね。まずこっちが…」
颯の案内を受けていると、階段で岸くんと擦れ違う。彼は掃除道具を担いでいた。
「お、岸くんじゃん」
神宮寺が声をかけると岸くんはくしゃっと笑顔を向ける。人懐っこい笑顔は人を安心させる作用があるかのようだった。
その岸くんに、颯が少し焦ったように話しかける。
「岸くん、掃除なんていいって言ったのに…おじさんの側にいてあげなよ」
颯が岸くんから掃除道具を受け取ろうとすると彼はそれを手で制止した。
「親父は大したことないから。何かしてた方が気が紛れるし。俺、忙しくしてないと駄目なんだよね」
「でも…」
「いいからいいから。俺はここの従業員なんだからさぼるわけにいかないよ。次は彼らの夕飯作る手伝いしなきゃ」
「え、岸が僕達のご飯作るのぉ?大丈夫ぅ?」
不安げに嶺亜が訊ねると岸くんは胸を張る。
「俺こう見えても料理わりかし得意なんだよ。得意料理はオムライス」
「そうなのぉ?僕オムライス大好きぃ」
嶺亜が可愛らしい仕草で喜ぶと、岸くんは照れながら
「まぁ、夕飯は島の郷土料理だけどね。俺は材料切ったり盛りつけたりするくらい」
と謙遜し、ぱたぱたと階段を降りて行く。
「岸くんと知り合いなの?」
驚いた表情で颯が問う。岩橋がいきさつを話すと彼は「そうなんだ…」と呟いた。
どこか寂しげに見えたその瞳はしかしすぐに元の純度の高いものに戻り、颯は部屋に案内してくれた。

215 :ユーは名無しネ:2014/08/24(日) 17:07:41.27 0.net
「そんでさー、瑞稀ってさ、島の小さい子の面倒も見てやってそれから自分もアクロバットの練習してんだって!凄くね?そんでそんで…」
夕飯の時間になってやっと到着した倉本はご飯粒を撒き散らしながらずっと瑞稀の話ばかりをしていた。相当に気に入ったらしく、目が輝いている。
「俺さ、引っ越しが落ち着いたらまたここに遊びに来よっかなー。あ、瑞稀に来てもらえばいいのか!」
「郁ぅ、これは郁の送別会なんだって忘れないでよぉ。僕達の立場ないよぉ」
嶺亜が冗談めかすと倉本は照れ笑いをする。
「確かに自然がいっぱいでぇこのホテルも素敵だけどぉ…三日もいれば飽きるんじゃないぃ?携帯使えないしさぁ」
「確かにそれは不便だぜ。エロ動画のダウンロードもできゃしねえ。海があるっつっても別に水着ギャルが泳いでるわけじゃないしなー」
「神宮寺、それしか考えることないの…?あーそう、君はそうやっていつも女の子のことばっか考えて」
「むくれるなよ岩橋。まあ嫉妬する気持ちは分からなくもないが」
羽生田が宥めたがあまり効果はなかったようである。
「嫉妬じゃないよ」
岩橋は不機嫌になって黙々と魚料理に手をつけている。神宮寺が弁明しても聞く耳を持たない。完全に拗ねてしまっていた。
「相変わらずらぶらぶだよねぇ」
少し羨ましそうに嶺亜が岩橋と神宮寺を見て呟いた。そこで羽生田が悪ノリを始める。
「なんだったら相手になってやろうか?ん?」
「間に合ってますぅ。羽生田とかタイプじゃないしぃ何してくるか分かんないしぃ」
頬を膨らませ、嶺亜は刺身をつつく。羽生田がよそ見をした隙に彼のメロンにタバスコをかけておいた。


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216 :ユーは名無しネ:2014/08/24(日) 17:08:26.13 0.net
「悪いな優太、余計な仕事増やしちまってよ」
キッチンに立って鍋をかきまぜていると後ろから父親の声が聞こえる。寝床から起きあがってこちらを見ていた。
「別に気にしなくていいよ。今日することなくて暇だったし」
味噌汁をよそい、炊飯器を開く。コンロの中の魚の焼け具合を確かめて火加減を調節した。
「それよりさ、面白い奴らに会ったんだよ。本土の方から遊びに来たみたいで高橋のおじさんの知り合いの子とその友達って言ってたかな。島の子以外の子に会うのも久しぶりだしすっかり打ち解けてさ、明日海で遊ぶ約束したから明日は頼むよ、父さん」
「ああ。そうか…良かったな。おめえの取り柄は人懐っこいとこだもんな」
よっこらしょと立ちあがり、父親は配膳の手伝いをしようとした。びっこをひきながらこちらに向かってくる。
「俺がこんな不甲斐ない親父じゃなきゃもっと好きなことさせてやれただろうにな」
味噌汁をすすりながら愚痴のように父は零す。だけどこれは三日に一回めぐってくる定期便のような呟きだ。
「俺は好きなことやってるよ。お気になさらず」
「そうか?おめえの部屋にあったあの知らせ、あれは去年のじゃねえだろ?優太、おめえは…」
「ちょっと味噌汁零れてるよ。染みになるからちゃんと拭いてよ」
父の指摘に岸くんは苦笑いで返す。人の部屋に勝手に入るな、と何度か衝突したがもう最近では諦めている。彼がそうやって詮索してくるのはそれだけ自分のことを考えてくれているからだと思えるのは大人になった証拠である。
「なあ優太、おめえいつまでもここにいるつもりはねえだろ?だったら遅かれ早かれ…。俺のことは気にすんな。おめえがいなくたって俺は充分やってける」
「馬鹿なこと言ってないでさっさと食べなよ。俺は今の生活で十分足りてるよ。あ、でも18になったから免許は取りたいな。でもなあ…」
そうするには本土の自動車学校に通わなくてはならない。往復二時間の船とそこからバスか電車で…計算しながらたくあんを噛んだ。
その計算が終わるか終わらないかのうちに破裂音のようなものがすぐ近くの外で鳴り響き、続いてギャハハハハハ、とけたたましい笑い声が聞こえる。
「またあのクソガキか…おい優太、俺の代わりに後で蹴り入れといてくれ。まったくもうあいつだけは…」
ぼやいてはいるが、どこか愉しんでいる風の父の口調に岸くんは笑いが漏れる。
「そういや花火が届いたって言ってたっけ…多分谷村もそれに付き合わされてると思うよ。颯もかな」
「おめえも行ってくるか?」
「俺はいいよ。仮にももう18だし、花火で喜ぶような子どもでもないつもり」
「よく言うぜ。こないだまでグリンピースが食べられねえってびーびー泣いてたのによ。とにかくガキの頃のおめえは泣き虫で…」
そこから昔語りが始まった。酒も入ってないのに父はよく喋る。もっともこれは血筋かもしれないが…
この先はだらだらと長くなるばかりである。だからそこからの逃避という意味で岸くんは後片付けを父に任せて花火をしてくる、と家を出た。

217 :ユーは名無しネ:2014/08/24(日) 17:09:38.08 0.net
「ちょっとー近所迷惑なんだけどー」
はしゃぎまわってる中心…もっともはしゃいでるのは一人である。そいつに向かってとび蹴りしながら岸くんはノリノリでつっこんだ。
「いって!なんだよ岸!おめーもやりてーのかよ!やんねーよバーカ!!」
酒ヤケのようなしわがれ声で返してくるのは幼馴染みの栗田恵だった。
家が隣同士(といっても大分距離はある)で年も2つしか違わないから昔からよく遊んでいる仲間である。可愛い顔をしているが破天荒で能天気な性格は竹を割ったかのようで分かりやすい。自分にとことん正直な恵の性格が岸くんは好きだった。
「迷惑料でこれとこれもらうね…お、ロケットもあんじゃん。これもいただき」
「あ、おいそれは俺が最後に谷村にぶっ放すために取っておいたやつだぞふざけんな!おめーは線香花火でもしてろ!!」
逆に蹴りをくらって岸くんは線香花火を押しつけられた。
「俺にぶっ放すって…やっぱり断れば良かった…」
線香花火を持ちながらどんよりと暗い雰囲気を放っているのは谷村龍一である。3つ年下の町長の孫で島きっての秀才だがいかんせん性格が暗く、間も悪くネガティブで恵とは対照的だ。そのわりにいつも一緒にいるから不思議である。
「いって…まったくもう…恵、うちの親父がまぁたあいつかって零してたぞ。明日あたりお前の父さんに話が行って…」
「うっせー!!家にいたってどうせ宿題しろだの勉強しろだのうっせーからこうやって外に出てきてんだ!ゲームしたかったのによー」
「俺を巻きこまないでほしい…」
「あ!?なんか言ったか谷村!!」
恵が谷村を蹴りつけるその横で颯がネズミ花火を持ちながら岸くんに訊ねてくる。
「岸くん…おじさんの具合は?」
「ん?親父?まあ元気だよ。明日はまたいつも通り働けそうだし。心配おかけしました」
「そっか。良かった」
颯はネズミ花火に火をつけた。
「あの子達はどうしてんの?ほら、本土から来たっていう」
「うん、ホテルの屋上で星空に感激してたよ。本土の方じゃこんなに綺麗に見えないんだって」
「へー」
颯と岸くんの会話を聞いて恵も割りこんでくる。
「んだよ、その本土から来た奴らって」
「うちの父さんの知り合いの子らしくて遊びに来てうちのホテルに泊まってるんだ。同い年くらいの子達5人。楽しそうな人達だよ」
颯が説明したが恵は興味なさそうだった。
「明日、俺一緒に海で遊ぶ約束したんだけど恵達も来る?谷村は溺れたことあるから嫌だろうけど」
岸くんが誘ってみたが二人の反応は薄かった。
「俺はいーや。海なんてもう飽き飽きだし。それより明日こそ今やってるRPGゲームクリアしてえな。さっきやろうとしたら母ちゃんに怒鳴られたから花火に変更しただけだし」
「俺も…海はいい…トラウマが…」
人見知りを超えて半対人恐怖の谷村と、人見知りはしないが傍若無人な恵だからあまりよその子に興味は沸かないのだろう。まあいいか、と岸くんが結論付けていると颯が何か言いたそうにこちらを見ていた。
岸くんはそれに気付かない振りをして打ち上げ花火に火をつけた。



つづく

218 :ユーは名無しネ:2014/08/24(日) 19:03:20.22 0.net
夏っぽくていいですね。
岸颯がいろいろありそうだけど楽しみ

219 :ユーは名無しネ:2014/08/24(日) 23:13:10.77 I.net
作者さん乙です。これはまた続きが楽しみだ

220 :ユーは名無しネ:2014/08/25(月) 07:01:39.82 I.net
夏らしいですね!Part8の時の長編を思い出しました!
これからも楽しみです!

221 :ユーは名無しネ:2014/08/25(月) 15:53:16.61 O.net
 ___ _
  ヽo,´-'─ 、 ♪
   r, "~~~~"ヽ
   i. ,'ノレノレ!レ〉    ☆ 日本のカクブソウは絶対に必須です ☆
 __ '!从.゚ ヮ゚ノル   総務省の『憲法改正国民投票法』のURLです。
 ゝン〈(つY_i(つ http://www.soumu.go.jp/senkyo/kokumin_touhyou/index.html
  `,.く,§_,_,ゝ,
   ~i_ンイノ

222 :ユーは名無しネ:2014/08/25(月) 19:12:59.05 0.net
神7シネマ劇場「少年の頃」


「凄いね。こんな綺麗な星空が見られるなんて。同じ東京なのに」
岩橋は感激してずっと夜空を眺めている。同室の神宮寺はそのロマンチストぶりの方が面白い。ついその横顔をスマホに収めた。
一方で、隣室の嶺亜は頭を悩ませていた。
「どぉしよぉ…忘れてきちゃったよぉ」
携帯電話の充電器を忘れてきてしまった。コンセントに挿し込める変換機器を抜いてしまってUSBでないと充電できない。
圏外だから電話やメールなんかはハナからするつもりがないか、写真を撮り過ぎてバッテリーの残量が厳しいことになっていて一日一回必ずやることにしているゲームができない。
「この島、インターネットとかできなさそうだからそんなのないよねぇ…」
悩みつつも、もしかしたらと思いホテルのフロントで従業員に訊ねてみると希望が出て来た。
「インターネット?うーん、俺は良く知らねえけどそういや栗田んとこのせがれがそれ繋いでゲームするとかなんとか言ってたっけな」
「本当ですかぁ?あのぉ、お願いできませんかぁ?僕凄く困っててぇ…」
精いっぱいのぶりっこでおねだりするとフロントのおっさんは快く応じてくれた。電話して、話をつけてくれたのである。
「栗田んとこの家はこっからこう行ってああ行って…」
地図を書いてもらい、嶺亜は駆け足でその家に向かう。街灯があまりないから懐中電灯の灯りが頼りだ。急ぎつつも慎重に地図の通りに進むと少し離れた先に打ち上げ花火が上がっているのが見えた。ちょうど地図の目的地あたりだ。
近付くにつれ、なんだか賑やかな声が聞こえる。ギャハハハハ、という下品な笑い声がやたら目立っていた。
「うわあああああああ!!!!熱い!!!やめろよ!!!シャレにならないって!!!」
誰かの叫び声と共に暗闇の中から影が踊り出てそのまま凄い勢いでぶつかられた。嶺亜は尻もちをついて地面に手をつく。

223 :ユーは名無しネ:2014/08/25(月) 19:14:12.92 0.net
「いったぁ…」
「あ、ごめんなさいごめんなさいごめんなさい…」
陰気な声で謝ってくる相手を嶺亜は見上げる。大人びた容姿の美形だが、辺りが暗いせいもあってどんよりとして負のオーラに満ちて見えた。
「ギャハハハハ!!谷村、ロケット花火サイコーだろ!!おもしれーからもう一発な!!」
その美形の背後からさっきから聞こえて来た下品な酒ヤケ声が飛んでくる。嶺亜が痛さに若干苛ついて文句の一つでも言ってやろうと立ち上がると美形の背後にいた酒ヤケ声の持ち主がひょい、と顔を出した。
「誰お前?…可愛くね?」
顔を覗きこまれてそう言われ、嶺亜はそっくりそのまま同じセリフが喉の手前まで出て来た。
声と真逆で目のぱっちりとした小顔の、おまけに髪もサラサラの美少年がそこにいた。こんなに可愛い顔をした子は見たことないかもしれない。
「ちょっと恵くん、ロケット花火向けるのはさすがに危ないよ…あれ、嶺亜くん?」
ひょっこり顔を出したのは颯だった。岸くんもそこにいて、手持ち花火を両手に持っている。
「お前らがさっき言ってた本土から来た子ってこの子?ふーん、へーえ。明日、俺も海に行こっかなー。なーお前、名前なんてーの?俺栗田恵!栗ちゃんって呼んでくれよギャハハハハ!!」
「中村嶺亜ですぅ…」
うっとりしながら自己紹介を済まし、陰気な美形は谷村龍一とぼそぼそと名乗った。


目覚めると首筋が少し痛かった。呻きながら羽生田は身を起こす。やはり粗末なベッドと枕は身体に合わない。
隣のベッドでは倉本がぐーすか寝ている。本当は一人部屋が良かったのだがジャンケンで嶺亜に負けてしまった。
その嶺亜はというと、朝食を食べながらうきうきと浮かれた様子だった。
「ねぇ滞在もうちょっと伸ばそうよぉ。他に予約入ってないから夏休みじゅういていいよぉってオーナーさん言ってたしぃ」
「昨日は三日で充分とか言ってなかったか?テレビもチャンネル数少ないしコンビニもないから不便で虫も多いから嫌だって」
「そんなこと言ったっけぇ?郁ももうちょっといたいよねぇ?」
ガツガツと朝食の卵かけご飯をかっこむ倉本に嶺亜は同意を求める。
「賛成賛成!!瑞稀も今日海来るって言ってくれたし。夜は花火やろーぜ!!」
「いいねぇ栗ちゃんも誘おうかなぁ」
栗ちゃんって誰?と岩橋が訊ねると嶺亜が説明を始める。昨日スマホの充電をさせてもらって仲良くなったそうである。
「とっても可愛い子でねぇギャハハハハハって笑うのぉ。明るいし皆仲良くなれると思うよぉ。もう一人はすんごい暗かったけどぉ。こう、指と指をくるくる回すのが癖なんだってぇ」
「なんだそりゃ。大丈夫かよそいつ」
神宮寺がトーストをかじりながらつっこむ。ここの朝食はパンにご飯になんでもありだ。倉本は大喜びで片っ端から食べている。

224 :ユーは名無しネ:2014/08/25(月) 19:14:53.21 0.net
「おっはよー。どう?今日の朝食のスクランブルエッグと野菜サラダは俺が作ったんだけど。あとジャムも自家製でさ、卵は生まれたてだしその魚は取れたてで…」
ハイテンションで現れたのは岸くんである。爽やかな笑顔には玉のような汗が幾筋も流れていた。
「これで今日の俺の業務は終了。食べたらビーチまで案内するよ!」
「おー頼もしいじゃん。頼んだぜ岸くん。ちなみにそこ水着ギャルいる?」
神宮寺の最後の問いに隣の岩橋が彼の耳を引っ張った。
「神宮寺無神経すぎぃ。あ、颯ぅ!」
嶺亜が立ちあがって食堂の前を横切る颯を呼びとめる。
「おはよう」
「ねぇ颯、これから皆で海に遊びに行くんだけどぉ颯もおいでよぉ」
「それいいね。颯泳ぎめっちゃ早そう。いい身体してるし」
岩橋があてつけのように神宮寺を横目に見つつそう言うと、彼は少し拗ねたように口をとがらせた。
「俺だって鍛えてんだぜ。後で驚くなよ!」
「いいの?俺が行っても…」
「泊まらせてもらってるんだし遠慮すんなって!よしじゃあ決まり、部屋に戻って着替えてロビー集合な」
水着とTシャツに着替えて持ってきた浮輪やらなんやらビーチグッズを抱えて5人は大張りきりで岸くんと颯の案内の下、島のビーチに向かう。
「カンカン照りだなー。海日和だな!!」
手で太陽をすかしながら、方目を瞑って倉本が叫ぶ。
「蝉すげー!!」
耳を塞ぎながら、神宮寺は大笑いだ。
「海もいいがあそこの山に虫とりに行くのもいいかもな」
羽生田が向こうの山を指差した。その後ろで岩橋は「あ」と鞄の中を探りながら、
「ねえ嶺亜、日焼け止め貸して。忘れてきちゃった」
「いいけどぉ。あ、栗ちゃんだ!栗ちゃーん!!」
遠くに見える誰かを見つけて、嶺亜は駆けて行った。その後ろ姿をやれやれと見据えながら羽生田は颯に問う。
「栗ちゃんって?」
「うん。栗田恵くんっていって島で一緒に育った幼馴染みだよ。年は俺より一つ上だから挙武くん達と同じかな。明るくて面白い子だよ。ちょっとアホ…じゃなくて破天荒だけど」
「隣にいるくら〜いのは?」
「あの子は谷村龍一って言って町長の孫。同い年で頭が良くて難しいこと色々知ってるけどちょっと暗くていつも恵くんに蹴られてる。でもあの二人は基本的に仲良しだから」

225 :ユーは名無しネ:2014/08/25(月) 19:15:27.01 0.net
颯の紹介を受けて羽生田達は島の子である恵と龍一、そして後からやってきた瑞稀と一緒に海岸で遊び回る。海水の透明度に神宮寺が歓声をあげた。
「すっげー!!水が透き通ってんぞ!!」
「ギャハハハハ!!おい神宮寺っつったっけ?何当たり前のことで感激してんだ。お前さてはアホだな!?ギャハハハハハ!!」
「栗ちゃん可愛いねぇ。ねぇ日焼け止め塗ってぇお願いぃ」
「なになに嶺亜、もしかしてこの子のことが気に入ったの?いつもの三倍増し…いや、十倍増しのぶりっこじゃない?」
「岩橋うるさいぃ。日焼け止め貸さないよぉ?」
「なー瑞稀!!あそこまで遠泳競争しようぜ!!」
「え、でも俺泳ぎ苦手なんだけど…」
「しゃーねーな!じゃあ俺がおぶってやるよ。なに、遠慮するな。未来の嫁のためならば」
「いつから瑞稀が倉本の嫁になったの?本土の方ではそういうのアリなの?」
「颯、そんなわけないだろ…お前ほんとに賢いのかアホなのか分からんな…」
「谷村、なんか踏んでるよ」
「え?うわ!!フナムシ!!ああああああだから海は嫌だって言ったんだそれなのに恵くんが無理矢理…」
「あ!?俺は別に来なくてもいいっつっただろうが!」
フナムシを踏み、恵に蹴られた谷村は人差し指と親指をくるくる回しだした。その異様な光景に本土組は唖然とする。
「何それ?なんのおまじない?」
倉本が指摘すると岸くんが苦笑いで答える。
「これ谷村の癖なんだよ。なんかやなこととか落ち込むことがあった時にする自我修復。俗に言うフィンガーセラピー」
「変なおじさんのモノマネも得意だよ」
瑞稀の補足に嶺亜が若干引いている。
「うわぁ…暗いのかなんなのかもう分かんなくなっちゃってるよぉ」
「岩橋の腹痛といい勝負だな」
「…一緒にしないでほしい…ひどいよ羽生田」
自己紹介もろくにしないまま、10人は海ではしゃぐ。潮の匂いと波の音、太陽の眩しさが夏を引き立て磨きをかける。この時間が永遠に続くのではないかと思えるほどに無邪気に少年達は笑い合う。明日も、そのまた次も同じ笑顔がそこにあると…

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226 :ユーは名無しネ:2014/08/25(月) 19:16:01.70 0.net
すっかり仲良くなった10人は日が暮れ始める頃にホテルへの道を行く。肩を組んで歌を歌う岸くんと神宮寺と羽生田、その一歩後ろでそれをうらやましそうに見る颯と岩橋、倉本は相変わらず弾丸のように一方的に瑞稀に話しかける。
「ギャハハハハ!大丈夫か谷村!?」
岩場で思い切りこけて擦り傷を作った谷村に容赦なく恵が患部を刺激する。
「痛い!!やめてくれ…早く消毒したい…」
「どんくさいねぇ谷村ぁ。普通あんなとこでこけるぅ?」
「ギャハハハハ!!こいつ真性のドMだから!れいあ試しに弄ってみ?」
「ほんとにぃ?えいっ」
嶺亜が谷村の傷口をえいっとつっつくとまた谷村は悲鳴をあげる。が、その後で何故か恍惚の表情を浮かべた。
「いた…痛い…フフ…」
「テメー何嬉しそうにニヤついてんだ!このド変態が!!れいあから離れろ!!」
恵が谷村を蹴りつける。それを可笑しそうに見ながら岩橋は颯に言った。
「この島いいね。空気綺麗だし海も綺麗で…皆面白い子達ばかりだし」
「そう?そう言ってもらえると嬉しいけど。都会に比べて便利なものとか面白いもの何もないから。自然だけは豊かだけどね」
颯は眩しそうに遠くの山を見る
「颯は生まれた時からここにいるの?皆も?」
「うん。この島の子たちでよそから来た子はほとんどいないよ。皆生まれも育ちも神七島」
人口1000人弱。小中学校は同じ校舎で高校には一番近くの都立の分校が隣の島にある。毎日高速船で30分かけて通学してるのだという。
「メンバーが変わり映えしないから皆兄弟みたいなもん。俺も瑞稀のことは弟だと思ってるし谷村は…同い年だから双子かっていうとそうでもないけど。恵くんは年は上だけどなんか同い年みたい。岸くんは…」
そこで颯は間を空けた。前を行き、三人で「サンダーバード」を熱唱している岸くん達の背中を見据える。
「本当のお兄ちゃんだったらいいのに、っていつも思う」
声のトーンが少し落ちていたように岩橋は感じた。
それがどういう感情によるものなのか考える前にホテルに到着していた。


つづく

227 :ユーは名無しネ:2014/08/26(火) 00:13:21.71 0.net
颯どうした⁉︎
作者さん乙です

228 :ユーは名無しネ:2014/08/26(火) 19:38:08.57 I.net
ホントに夏らしくて素敵な話ですね!
次回も期待です!
谷栗やっぱり最高だわwww

229 :ユーは名無しネ:2014/08/26(火) 21:46:34.96 0.net
神7シネマ劇場「少年の頃」


「くらもっちゃんの胃袋どうなってんの?食べ物がブラックホールに吸い込まれるみたい」
夕食はホテルの庭でバーベキューが用意されていた。瑞稀と恵と谷村と岸くんもついでにお呼ばれする。それだけでは申し訳ないので瑞稀は親戚の漁家から魚を、岸くんは家から野菜を、恵と谷村も食材を持ちよった。
「腹減ったー。俺もいただき…」
「ちょっと待て岸くん。それは裏がまだ焼けてない」
肉の焼き方にうるさい羽生田は岸くんがレア状態で箸を伸ばすのを許さなかった。その隙をぬって倉本が流し込むように食べるものだから瑞稀が大きな目をさらに丸くさせている。
「トマトは絶対無理ぃ。催眠術でもかけられない限り食べられないよぉ」
「れいあトマト嫌いなのかよ。かわいーな!俺が食ってやるよ。おい谷村ピーマンよけてんじゃねーよちゃんと食え!」
「俺さっきから野菜しか食べてないんだけど…」
恵が谷村のお皿に野菜ばかり入れるものだから颯が気の毒に思って魚とウインナーの乗った皿を渡した。
「颯、おめーは谷村に甘すぎんだよ」
「恵くんが厳しすぎるだけでしょ。宿題教えてもらったりしてるんだからもうちょっと優しくしないと」
「うるせーよ。そんかわり俺はこのアホが田んぼに落ちた時とか助けてやったりしてるだろ。知ってっか?こいつこないだも参考書読みながら歩いてて用水路に落っこちたんだぞ。
俺が通りかからなかったらこいつのエキス入りの米を秋に食う羽目になってたんだからな!ギャハハハハハ」
なんとなく、嶺亜には恵と谷村が兄弟か、それと同じような結びつきのように思えて少し羨ましくなった。そんな眼で二人を見ていると突如恵が庭に生えている槿の樹からその花をむしりとって嶺亜の髪に当てた。
「この花れいあに似合ってね?超かわいーな!」
「えぇ…そぉかなぁ」
恵に可愛いと言われるともうどうでも良くなった。兄弟より深い仲だってあるよぉ…と期待を寄せていると颯が肉を口に入れながら何かを思い出したように「あ」と呟いた。

230 :ユーは名無しネ:2014/08/26(火) 21:47:02.40 0.net
「そうだ、明日のお祭りに皆も来てもらったらどうかな?折角来てくれたんだし、何も予定がなければ」
「なになにお祭り?屋台出んの?」
倉本が肉を頬張りながら期待に目を輝かせる。岸くんが羽生田の許しを得てようやく肉にありつけた。その肉を噛みちぎりながら
「おいでよ。俺ね、盆踊りの見本やるからさ。あと歌も歌うしダンスもするし観に来てよ」
「え?岸くんダンスとかすんのかよ?意外―」
とうもろこしをかじる神宮寺に岸くんちっちと人差し指を振る。
「こう見えても岸優太といえば神七島きってのエンターティナーで有名なんだよ!島じゅうの人が俺のダンスと歌の大ファンで…」
「ギャハハハ!大げさだろ岸!じいちゃんばあちゃん達は谷村が『ドナドナ』を音はずしまくりのアカペラで罰ゲームで歌った時もすげー褒めてたろ!何やったって喜ぶんだよ」
「そんなことないって。岸くんの歌とダンスは本当に凄いから観に来た方がいいよ。天気も大丈夫そうだし是非」
颯に勧められて明日の予定が決まった。


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231 :ユーは名無しネ:2014/08/26(火) 21:47:48.24 0.net
とっぷりと日が暮れた帰り道、あぜ道を歩いていると軽トラックが後ろからクラクションを鳴らした。岸くんと恵、そして龍一は振り返る。
「おめーらどこほっつき歩いてたんだ祭の準備の手伝いもしねえで。おい恵、母ちゃん怒ってっからよ、今日ゲームはすんじゃねえぞ」
恵の父親が運転する軽トラックの荷台に乗せてもらいながら三人で軽く説教された。適当に謝りつつ明日は朝から手伝うことを義務付けられる。ついでに恵の家で祭に使う法被のアイロンがけを手伝わされた。
「なー、本土って楽しいんかな。ちょっと行ってみたくね?」
恵がそう切り出す。岸くんと谷村は顔を見合わせた。
というのも、恵はこれまで本土に興味なんて全くなかったからだ。家族旅行で本土に行く時もひどく面倒くさがって据え置きのゲームができないとぼやいているくらいである。
不思議がっていると、今度は谷村もそれに同意し始める。
「まあ…興味はあるけど…あの子達の住んでるとこってこことは違うんだろうなって…」
岸くんはまた驚かされる。人見知りの半引きこもりの谷村は本土どころかなかなか家からも出てこない。もちろん行きたいなんて聞いたこともない。外に出るのは通学の時か恵が無理矢理首ねっこ掴んで引き摺りだすくらいだ。その谷村までが…
だが岸くんはすぐにピンと来る。
「恵、お前は本土より嶺亜に会いに行きたいんだろ。谷村も似たような理由かな」
「あ、ばれたー?っておい!谷村テメーは家に引きこもってろ!付いてくんじゃねえぞ!」
「…誰もそんなこと言ってない…」
しかし谷村は目を逸らす。やれやれ、と岸くんが思っていると恵がアイロンを谷村に押しつけて寝っころがる。
「岸、おめーだって本土行きてえんだろ。だったらよ、三人で行こうぜ。あ、谷村はやっぱいいや。二人で行こうぜ」
「まあ俺も免許取りたいからその時にでもな。瑞稀も誘ってやるか。倉本にえらく気に入られてるみたいだし」
「あ?免許じゃなくておめー本土のナントカかんとかってとこに入りてえんだろ?俺も高校卒業したら本土で一人暮らししてれいあと毎日会うのもいいかなー」
龍一は黙々とアイロンを法被に当てながら時折こちらを見ている。
「何言ってんの。あれはもう終わったこと。あくまで歌とダンスは趣味で俺にはもっとやるべきことがあるんだよ」
「あん?やるべきことってなんだよ」
そのツッコミに岸くんは絶妙のタイミングでスイカを持って入ってきてくれた恵の母親に助けられた。
やるべきことなんてどこにもないからだ。やりたいことはあるのに。
だけどそれは目下のところ叶うことはないだろう。そう思いながらスイカをかじる。谷村に向かって種を飛ばす恵を見ながら彼の素直さが今は少し羨ましくもあった。

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232 :ユーは名無しネ:2014/08/26(火) 21:48:30.27 0.net
「いてて…焼けすぎたなこれは…嶺亜に日焼け止めを借りるんだった」
脱衣所で服を脱ぎながらすでに腕がヒリヒリし始めていることに羽生田は目を細めた。調子に乗って太陽の下で何時間もいたせいだ。
とりあえずぬるめのシャワーで済まそうと思ってコックを捻ったがお湯が出ない。昨日は問題なく出たのに何故かぽたぽたと雫が落ちるだけだ。どこをどういじってもお湯も水も出てくれない。
「え?そうなの?ごめん、父さんに言って明日直してもらう。今日は俺の家のシャワー使って」
ホテルに隣接する颯の家のシャワーを使わせてもらったが良く考えれば嶺亜か神宮寺達の部屋のシャワーを使わせてもらえば良かったのだ。後で倉本が瑞稀の家から帰ってきたらそう言っておこう。
「良かったら食べていかない?親戚の農家から届いたんだ」
出されたのが好物のメロンだったこともあり、羽生田はご馳走になることにした。
「おや挙武くんいらっしゃい」
颯の父親が仕事から帰ってきて汗を拭きながら羽生田に声をかけた。ビールを飲んで上機嫌になり、昔の話を語り始める。
「羽生田くんには色々世話になって…覚えてないかもしれんが一緒に写真も撮ったんだよその時。ええと、颯のアルバムはどこかな…」
いそいそと棚の中を物色して一冊のアルバムを彼は持ってきた。
「ああこれだ。ほら、挙武くんとお父さんが映ってるだろう?」
どこかの宴会場なのか、そこで羽生田が父親に手を繋がれて映っている写真があった。その隣には颯とその父親。2〜3歳くらいの頃だろう。
「ほんとだ。でも全然記憶ないな…あ、これは」
写真は颯の幼少期のものばかりで、その中に島の海岸のあたりで撮ったであろう写真があった。小さい颯と小学校低学年くらいの少年が映っている。それは岸くんだった。

233 :ユーは名無しネ:2014/08/26(火) 21:49:07.53 0.net
「へえ。岸くんこの頃から顔変わらないな。さすがに小さい頃だと岸くんの方が大きいな」
確か岸くんは自分より二つ年上で颯は一つ下だから彼らは三歳差だ。子どもの頃の三年というのは大きい。身長も大分岸くんの方が高い。
「颯は赤ん坊の頃から優太くんに懐いていてね。人見知りなのに優太くんにだけは自分から関わっていってたっけな。優太くんは優しくて島の子たちのいいお兄ちゃん的存在だからね」
「そうなんですか。まあ人は良さそうですからね。肉を生で食べようとするのはアレだけど」
羽生田が冗談まじりに返すと颯達は笑う。
「岸くんはね、本当に優しいんだよ。小学校がちょっと遠いんだけど一年生になった時毎朝一緒に連れて行ってくれたし谷村が迷子になった時も探してくれたりして…島の子達は皆岸くんが好きだよ。恵くんもあんな感じだけど岸くんのこと大好きだし」
「へえ。颯もそうなんだな?」
何気なく問うたが、颯の反応は羽生田の予想とは少し違ってた。
「うん…。岸くんは多分迷惑だろうけど…」
どこか哀しそうで、何か聞いてはいけないことを聞いてしまったかのような罪悪感すら抱かせる表情に羽生田は戸惑う。
その戸惑いを、颯の父親が取り繕うようにフォローする。
「颯、お前のいけないところはいつまでもそうやってぐじぐじ気にしてることだ。優太くんだって別にお前のことを嫌ったりしていないだろう?考えすぎだ。そうやっていつまでも気にする方が優太くんは嫌だと思うぞ」
父親に諭されて、颯は力なく頷く。何か理由がありそうだったが羽生田はこれ以上颯の顔を曇らせたくなくて訊くのをやめた。



つづく

234 :ユーは名無しネ:2014/08/26(火) 23:03:53.83 I.net
作者さん、お疲れ様です
颯きゅんんんんんんん
岸颯ーーーーーーーーーーー!

谷村に優しい颯きゅん、かわいいし愛おしいww

235 :ユーは名無しネ:2014/08/26(火) 23:51:52.06 I.net
更新速度上がってて嬉しい!
作者さん乙です!!

236 :ユーは名無しネ:2014/08/27(水) 15:41:37.15 0.net
乙です!
この板で唯一まともに機能しているスレなので頑張ってください!

237 :ユーは名無しネ:2014/08/27(水) 21:03:03.65 0.net
神7シネマ劇場「少年の頃」


携帯の目覚ましアラームが鳴って、嶺亜は目を覚ます。欠伸を一つして身支度もそこそこにロビーに降りた。
まだ午前6時半。嶺亜は早起きなのである。だからこそ一人部屋を選んだのだ。誰かと同室になったら早朝のアラームで喧嘩になるだろうから。
当然ながらロビーはひと気がなくしんとしている。朝ご飯を作ってくれる従業員も7時にならないと来ない。山鳩の鳴き声が静かにこだましていた。
ふと思い立って、嶺亜は外に出る。島の朝は早いのか早朝にもかかわらず人がまばらに行き来していた。が、それらはほとんどが老人である。
「栗ちゃんもう起きてるかなぁ」
携帯電話が使えないというのは何気に不便だ。こんな時、ラインの一つも入れて「起きてる?」と確かめることもできるし電話をかけて起こすこともできる。だがここではそんな常識は通じない。
不便といえば不便だが生まれた時からそんな生活をしているとそう感じないのだろう。それが当たり前なのだから。
そんなことを思いながら歩いていると前方に校舎のような古い建物が見え、そのグラウンドの中央に櫓のようなものが立っているのが確認できた。門柱には「神七小中学校」と刻まれている。お祭り会場はここなのだろうか。覗こうとすると後ろから声がかかる。
「嶺亜くんじゃん。一人で何してるの?」
太鼓のバチを沢山かかえた瑞稀がきょとんとして立っていた。散歩してるのぉ、と答えると瑞稀は「そうなんだ」とシンプルに返す。
「うちはおじいちゃんが和太鼓してるから祭の囃子太鼓を毎年担当してるんだ。昨日遊んでてさぼっちゃったから今日は早くから手伝いしないとって思って」
真面目そうな瑞稀らしい行動である。昨日は倉本が「送って行く」と称してかなり遅くまで一緒にいたらしい。
友達がかけた迷惑を詫びるつもりでバチ運びを手伝うと「どうぞ」と冷たい麦茶とアイスを瑞稀の家の人からもらった。小中学校のグラウンドのベンチでそれを食べる。

238 :ユーは名無しネ:2014/08/27(水) 21:04:57.81 0.net
「郁ねぇ、夏休みが終わったら違う学校に転校するんだぁ。寂しいけど本人は瑞稀に会ってそんなこと全然吹っ飛んじゃったみたいだよぉ」
「転校?学校を変わることか…俺達には一生縁がないけどそういうのって都会ではよくあることなんだってね」
「ずーっと皆一緒ってのもいいけどぉ…たまに飽きない?」
嶺亜が問うと瑞稀はんー、と首を傾げる。
「飽きるも飽きないも変わらないものは変わらないし…。うちのお父さんとお母さんは生まれた時からずっと一緒にいてもう30年以上経つしおじいちゃん達もそう。多分俺もそうなるんだろうなって思う」
そう淡々と答えた後で瑞稀はこう付け加えた。
「でも、島を出て行ったり逆に島に新しく来る人もいないわけじゃないよ。知ってる人でいうと…岸くんなんかは高校を卒業したら島を出てミュージカルの劇団員かなんかになるはずだったんだ。だけどなんか、ダメになったみたい。俺は詳しく知らないけど」
「へぇ。岸がぁ?そういや今日お祭りで歌とダンスするんだって言ってたねぇ」
なんだか意外な気もするが岸くんには人を惹きつける魅力があることも確かだ。人前に出る仕事は向いているかもしれない。
「岸くんの歌とダンスは凄いよ。まだ岸くんが中学生の頃…俺は小学校低学年でここで一緒の校舎で過ごしてたんだけどお祭りの時以外でも音楽会とか卒業式とか入学式とかそういう行事の時、岸くんが体育館の舞台に立って歌ったり踊ったりしてるんだよ。
何回か見たけどすごい上手なんだ。百聞は一見にしかず。今日観たら分かると思うよ」
そんな話をしていると当の岸くんが現れる。手伝いがてらリハーサルを兼ねて朝から張り切ってやってきた、というがそのわりにもう8時を過ぎている。
「朝は苦手で…」
照れ笑いしながら岸くんはもう汗をかいていた。どうやら相当な汗っかきらしい。
「岸、今日楽しみにしてるねぇ。瑞稀から聞いたよぉ岸のダンスと歌凄いってぇ」
「そう?あーでも見ちゃったら俺がかっこ良すぎて嶺亜が俺に夢中になっちゃうから恵が怒りそうだなぁ。だからまぁチラ見程度でいいよ、チラ見で」
「あ、それはないから御心配なくぅ」
嶺亜は笑顔で即答した。

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239 :ユーは名無しネ:2014/08/27(水) 21:05:55.61 0.net
嶺亜が島の小中学校で瑞稀と岸くんと話している頃、ホテルではようやく起き出した神宮寺達が朝食をつっついていた。
「あん?嶺亜どこ行った?」
カフェオレを飲みながら神宮寺がロビー内を見渡す。
「さあ…部屋にはいないんでしょ、羽生田?」
優雅に紅茶を飲みながらホテルで取っている新聞を読んでいる羽生田に岩橋が訊ねる。倉本は相変わらずガツガツと食べていた。
「俺も知らない。栗ちゃんって奴のとこにでも行ってるんじゃないか?通い女房みたいだな」
冗談めかしていると颯が忙しくバタバタと走り回っているのが見える。何をしているのか声をかけると額に汗を浮かばせながら颯は答える。
「祭の準備。今日5時から始まるから来てね!島の小中学校でやるんだ。ちょっと距離はあるけど道自体はややこしくないから分かると思うよ。ホテル出た道を真っ直ぐ行ってそしたら十字路にさしかかるからそこに表示が出てて…」
「屋台出んの?」
倉本の問いに颯は頷く。
「出るよ。フランクフルトとか焼きそばとか…あと瑞稀が和太鼓するし、岸くんが体育館で歌とダンスするから是非見に来て。ホントにかっこいいから!」
岸くんのことを話す颯の眼は輝いていた。岩橋がそこに気付いた時にはもう彼は走り去っていてホテルの従業員も慌ただしそうにしている。ちょうど朝ご飯を終えようかという頃に嶺亜が戻ってきて散歩がてら手伝いをしてきたという報告を受ける。
「岸の練習ちょっとだけ見たよぉ。上手だったぁ」
トーストの残りをかじりながら嶺亜は言う。
「そうなんだ。岸くんってなんか不思議な魅力あるもんね。案外芸能人とか向いてるかも」
岩橋が二人できゃっきゃと岸くんの話をしていると、羽生田がイタズラっ気のある顔で神宮寺をつつく。
「いいのか神宮寺。同じ『ゆうた』として負けられないんじゃないか?」
「あん?うっせーな俺の魅力は分かる奴には分かるんだよ」
「ほう。神宮寺の魅力とは?」
「そんなもん色々あるだろ。このスレンダーな体型とかフサフサな毛髪とかセクシーな唇とか魅惑の腰回しとかマッタリとしたリズム感のラップとかよ!」
羽生田が爆笑する横では相変わらず女子チームがきゃぴきゃぴと話に花を咲かせていた。

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240 :ユーは名無しネ:2014/08/27(水) 21:06:36.77 0.net
「いてて…」
ズキズキ痛む左ほおを抑えて谷村は目を細める。元々低かったテンションがさらに下がり始めていた。
「ったくおめーは鈍くせーな。フツーあんな高さの脚立から落ちるか?」
横で恵が呆れている。谷村は聞こえないフリをして沈黙を貫いた。
祭会場の提灯を取り付けようとして、谷村は脚立から落ちて左ほおを強かに打った。心配した大人達がもう休んでていいと気を遣ってくれて休憩に入ったが何故か恵もついてくる。
「あっちーなおい、体育館行こうぜ」
照りつける日差しを避けるべく体育館に向かうと通りがかりのおばちゃんに「これ食べな」と茹でトウモロコシをもらった。それを抱えて中に入ろうとすると賑やかな音楽が聞こえてくる。
「おーおーやってんじゃん岸」
体育館の中では岸くんがステージリハ中だった。といっても設置された音響に自分で音楽を流して一人で踊って歌っているだけだ。
しかしながらその集中力は凄い。恵達が入ってきたのにも気付かず、岸くんは歌い、踊る。そのパフォーマンスに魅入っていると先客がいたことに谷村が気付いた。
「颯」
声をかけると、そこに佇んでいた颯はびくっと肩を震わせた。彼もまた、岸くんのパフォーマンスに魅入るあまり恵達が入ってきたことに気付かなかったらしい。
「あ、恵くんと谷村。…あれ、谷村どうしたのここ?」
颯が谷村の頬の痣を指差す。
「コイツ提灯取りつけようとして脚立から落ちてやんの。マジうける!」
「笑いすぎだよ…」
「あ?誰がアイスノン取ってきてやったと思ってんだてめー!」
恵は谷村を蹴りつける。確かに落ちたと同時に「おい何やってんだよ」と恵が真っ先にアイスノンを取りに走ってくれたことは認める。優しいのかなんなのか谷村には未だに分からない。
颯はそのやりとりを可笑しそうに笑うとまた視線を岸くんに向ける。曇りのない純粋な憧れの眼差し。谷村はそれを感じとると無意識にこう呟いていた。
「去年、あんなことがなければ岸くんは今頃本当のスターへの階段を上ってたかもしんないのにね…」
言った瞬間、後悔した。恵の蹴りが入ったのもそうだがそれ以上に颯の眼が哀しい色を宿したからだ。
「ごめん、颯…」
慌てて颯に頭を下げる。だが颯はかぶりをふった。
「俺が謝られることじゃないよ。それに、事実だし。本当にタイミングが悪かったんだよ…おじさんがあの日に倒れたのは…」
「岸、また受けりゃいいのに。あいつだったらまた受けりゃ受かるだろ?そのナントカオーディション」
恵がそう口にした。颯も谷村もそう思う。
だけど岸くんは今ここにいる。ここにいて、祭に花を添えるステージパフォーマンスを島の住民のために開いてくれようとしている。
岸くんは神七島の皆のアイドルスターかのようにいつの頃からか毎年恒例でここで歌って踊って皆を楽しませてくれた。それが今年も変わることなく披露される。
そう、変わることなく…
「あれ?おいお前ら来てたの?声くらいかけろよーなんか一人で世界に入りきっちゃってて恥ずかしいじゃん!」
気がつけば、汗を額に浮かびあがらせた岸くんが三人の下に駆け寄っていた。恵がいつものようにバカ笑いでそれを迎え、颯と谷村のフォローをする。
「茹でトウモロコシもらったからよ!休憩がてら食おうと思ってよ。あ、3本しかねーから谷村お前ナシな!」
「え…ちょっとそんな殺生な…」
「ギャハハハハハ!しゃーねーから変なおじさんのモノマネしたら半分分けてやるよ!!もちあそこのステージでな!!」
それから谷村はさっきまで岸くんが歌って踊っていた体育館の特設ステージのど真ん中で変なおじさんの物真似をさせられて茹でトウモロコシを半分恵からもらったのだった。

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241 :ユーは名無しネ:2014/08/27(水) 21:07:38.35 0.net
祭は大賑わいだった。今日ばかりは島の全人口に近い数がこの小中学校に集まる。お年寄りから乳飲み子まで実に色んな年齢層の島民でごったがえしていた。
「祭があると分かってれば甚平を持ってくるんだったな」
あんず飴を舐めながら羽生田が呟く。もう片方の手には焼きそばの皿が乗っていた。
「浴衣ギャル浴衣ギャル…」
茹でトウモロコシをかじり、トッキュウジャーのお面を額に当てながら神宮寺は浴衣ギャルをリサーチしている。だが素朴な島の女の子が何人かいるだけで彼の求めるような人種はいなかった。岩橋はとっくに呆れて倉本と瑞稀の和太鼓を見に行った。
「あーくそ、やっぱ神宮寺眼鏡にかなう子はなかなかいないぜ…しかし喉渇いた…」
「お、あそこにラムネが売ってるぞ?」
「マジ?サイダー好きとしては飲まない訳にいかないぜ、行くぞ羽生田、お前の奢りな!」
神宮寺は羽生田をひっぱってラムネ売り場に急ぐ。
「すいやせん、ラムネ二本!!」
勢い良く二本の指を突きだして神宮寺はラムネを注文する。売り場のおじさんは「島の子じゃないよな?」と神宮寺と羽生田をまじまじと見据えた後ラムネを差し出しながら、
「ああ、優太が言ってた本土から遊びに来た子らってのはおめえらか。確かに面白そうだな」
「え?おっさんなんで俺の名前知ってんの?」
神宮寺がラムネを呷りながら訊き返すが「ゆうた違いだろ」と羽生田がつっこむ。
「岸くんのお父さん?そういやどことなく似てるような…」
印象的な、ぱっちりとした岸くんの眼とラムネ売りのおじさんは似ている気がした。年を取った分瞼が下がってはいるが若かりし頃はきっと今の岸くんのような感じだったろう。
「優太が相手してもらってるみたいで。あいつはすぐ涙目になるけど気だけはいい奴だから仲良くしてやってくれや。これはおまけだ」
おじさんはそう言ってラムネをもう二本くれた。
「もうすぐ盆踊りが始まる。あそこの櫓の下の台に優太が見本で踊るから行ってやってくれ。その後体育館でワンマンショーやるからよ。まあ見てやってくんな。あいつはギャラリーがいた方がやる気出るから」
校庭の中央に立つ櫓を指差しておじさんは誇らしげにそう教えてくれた。神宮寺と羽生田が頷くと誰かに呼ばれておじさんは売り場を離れる。座っている時は気がつかなかったが足が悪そうだった。びっこをひいてそこへ向かって行く。
「えー…間もなく盆踊りを始めます。皆櫓の周りに集まって下さい」
校庭にアナウンスが流れる。岸くんの声だった。神宮寺と羽生田はラムネ二本を一気に飲んで櫓の下へと向かった。

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242 :ユーは名無しネ:2014/08/27(水) 21:08:18.56 0.net
神宮寺の浴衣ギャルサーチに呆れをなした岩橋は倉本と共に瑞稀の和太鼓を見に行く。櫓の上で叩く大役を任せられたらしい瑞稀は真面目にその自主練習にあけくれていた。
「おおー、瑞稀!!似合うー!!」
法被を着てねじり鉢巻きを巻く瑞稀はとても精悍な容貌で、倉本がそれに感激している。持ってきたスマホで記念撮影をすると大喜びで待ち受けにしていた。
「瑞稀腹減っただろ?そこでフランクフルトとファンタ買ってきたから食おうぜ!!お前の分もあるから」
倉本は瑞稀に猛アタックである。こんなに積極的な倉本を見たのは初めてだ。それだけ瑞稀にはその魅力があるということだろう。岩橋は邪魔をしないようにそっと離れようとする。
「あ、岩橋」
ちょうどそこに颯と谷村が通りかかった。彼ら二人は浴衣を着こんでいる。長身だからなかなか画になるなあ…と思いつつ眺めていると谷村の頬に痣のようなものが見えた。
「もうすぐ盆踊り始まるよ。岸くんが見本であそこの台に立ってくれるから」
校庭の真ん中にある櫓を指差して颯が説明する。その向こうに見える空と海との境界線が夕陽のオレンジを映して曖昧になっている。遠くではヒグラシが啼いていて、まさに夏の夕暮れ時だった。
昼間はあんなに暑かったのに今は涼風が心地いい。微かな潮の匂いが新鮮だ。
「他の皆は?」
谷村に訊ねられ、岩橋は答える。ただ、嶺亜だけはお祭り会場に着くと同時に恵と待ち合わせをしている、とどこかへ行ってしまったから今どこにいるのか分からない、と答えると颯が笑う。
「恵くんと嶺亜くんにはさっき会ったよ。二人でヨーヨー釣りしてた。恵くんはヨーヨー釣り上手だからいいとこ見せたかったんだね」
「去年まで『堅苦しくて動きにくいから絶対着ねー』って言ってた浴衣も着たからね…嶺亜くんにリクエストされて」
谷村が苦笑混じりに呟く。ここに恵がいたら「うっせーてめー!!」って蹴りが飛ぶだろうな…と出会ったばかりの岩橋だが容易に想像できた。
「えー…間もなく盆踊りを始めます。皆櫓の周りに集まって下さい」
岸くんの声でアナウンスがあり、ぞろぞろと皆校庭の櫓の周りに集まり出す。岩橋も颯達と向かったが途中で神宮寺と羽生田と出会う。
「浴衣ギャル見つかった?神宮寺」
少し嫌味を効かして訊くと神宮寺は自分の頭に被せていたトッキュウジャーのお面を岩橋に被せてきた。
「いつまでも拗ねてんなよ。そういうの可愛くねーぞ」
「ちょっと、誰が拗ねてるって?だいたい…」
言い合いが始まるか始まらないかのうちに威勢のいい太鼓の音が響く。見上げると、櫓の上で瑞稀が真剣な顔つきで和太鼓に向き合っていた。
囃子笛の音もどこかから鳴り響き、続いて大音量の盆踊りの曲が流れ出す。お馴染みの曲なのか、岸くんの見本を見ずとも島の人達は慣れた様子で踊り始めた。
岩橋も言いたい気持ちをこらえて岸くんを見ながら手足を動かす。踊っているとなんだかささくれだっていた神経が滑らかになって3曲目の終わりには自然と笑顔になっていた。
盆踊りが終わると、「この後は体育館で毎年恒例の優太くんソロライブでーす!」とおばちゃんの声でアナウンスが流れ、皆は拍手で岸くんを煽った。岸くんは低姿勢に頭を下げながら台を降り、体育館へ向かって行く。
「よーし俺達も行くか!!最前取ってかぶりつきで見てやろうぜ!」
神宮寺が張り切りながら駆けて行く。やれやれと羽生田がそれに続き、岩橋もまたそれを追った。

243 :ユーは名無しネ:2014/08/27(水) 21:09:29.85 0.net
体育館は満員御礼だった。出遅れた嶺亜と恵はパイプ椅子が空いてなくて脇で立ち見になる。ふと前の方を見やると神宮寺達が最前に座っていた。
「えーどうも皆様お集まりいただきありがとうございます。恐縮です」
岸くんが舞台に立ち、控えめな挨拶を始める。拍手と笑い、そして歓声が起こった。それだけで岸くんが島の皆から好かれているのが分かる。
「今年の曲はですね…」
曲の説明が終わるとイントロが流れ始める。嶺亜は知らない歌だったが岸くんの歌声は優しくも力強くて、音に魂が乗っているようで聞いていて心地がいい。
それから歌が終わると次はノリのいい曲でダンスが始まる。こっちはエネルギッシュで躍動感溢れる動きで魅了される。あちこちから「おおー」とどよめきが上がった。
「凄いねぇ岸。初めて会った時はなんかぽやぽやしてるなぁって思ったけどまるで別人だよねぇ」
「かっこいいって思うか?」
恵の問いに「うん」と返事をすると少し考えるような素振りを見せて次に恵は呟く。
「俺もやってみっかなー…」
「ほんとにぃ?栗ちゃんが歌って踊ってるとこ見たいよぉ」
わくわくしながら恵の浴衣の袖を掴むとしかし恵は苦笑いしながら首を捻る。
「けど俺には向いてねーよ。ずっと前に岸の真似して谷村と一緒に踊り教えてもらったけどなんかついてけねーって思ったしそれにああいうのはやっぱ好きじゃなきゃできねーだろうし。谷村も全然覚えらんなかったしな」
「そぉなのぉ?でも見たいよぉ」
嶺亜がせがむと恵は少し照れ臭そうに頭を掻いた。
「俺らより颯の方が全然覚え良くてよ。あいつだったら岸と並んで踊っても皆もすげーって思ってくれると思ったっけな。あいつな、変な特技あんだよ。逆さまになってくるくる回れんだ。あれは岸にもできねーからな」
「へぇそうなんだぁ。意外…でもないか。颯って体格いいもんねぇ筋肉もついてるしぃ」
「まーでもあいつは自分でやるより岸のを見てたいってずっと言ってるからなー」
その颯は音響を担当しているのか機材の横にいて、真剣な表情で岸くんのパフォーマンスを見ている。二人が並んで踊れば面白そうなのになぁ…と嶺亜は思った。何故だかそんな気がしたのである。二人並んで踊っているところを想像するとそれは鮮やかに描かれ…
「どうもありがとうございましたー!!」
1時間半におよぶ岸くんのライブは大歓声のうちに終わりを告げ、その後すぐに会場の片付けになったが岸くんの周りには島の人が囲んでいて嶺亜も恵も近寄ることができなかった。
それならそれで、祭の余韻を恵と楽しもうと思って体育館を出ようとすると恵が一人の中年男性に歩み寄った。

244 :ユーは名無しネ:2014/08/27(水) 21:10:04.97 0.net
「おっちゃん岸絶好調だったなー!!見てたんだろ?」
恵が話しかけた中年男性は岸くんによく似ていた。笑うと目尻に深い皺が刻まれ、人懐っこそうな笑顔がそっくりだ。嶺亜はすぐに岸くんの父親だと分かった。
「あいつにゃあれしか取り柄ねえからな。おっと恵、この子は島の子じゃねえよな。優太が言ってた本土からの子か?さっきも二人ラムネ売り場に来たけど」
岸くんの父親は嶺亜をちらりと見やって問う。恵が頷きながら答えた。
「可愛いだろ!!れいあっていうんだぜ!名前も可愛いだろおっちゃん!」
可愛い可愛いと恵に言われ、嶺亜はくすぐったいやら嬉しいやらで少し照れる。はにかんでいると岸くんの父親はまじまじと嶺亜を見つめた。
「うちの女房の若い頃に似てる気がするな。あいつも色、白かったしなあ」
「おい変なこと言うなよおっちゃん!ダメだかんな、れいあは俺の…」
俺の、なぁに?とドキドキしながら続きを待ったがしかし岸くんの父親は誰かに呼ばれてそっちに返事をする。そして挨拶もそこそこに行ってしまった。
ちょっぴり残念に思いながらその後ろ姿を恵と見送る。
「あれぇ?」
嶺亜は首を傾げた。
「岸のお父さん、足、怪我してるのかなぁ。びっこひいてるよぉ」
杖こそついていないが岸くんの父親はぎこちなく歩いて行く。少し気になったのである。その問いに恵が答えてくれた。
「うんにゃ。おっちゃんは片方の足がわりーんだ。昔怪我してよ。それから」
「そぉなんだぁ…」
「おっちゃんは元々漁師だったんだけどな、怪我してその仕事できなくなって颯んとこが経営してるホテルや会社の手伝いしてるって聞いた」
「ふうん…じゃあお父さんが怪我しなかったら岸もいずれ跡を継いで漁師になってたってことぉ?」
「そういうことになんのかな…あいつん家はじいちゃんも漁師だったらしいし。けど、岸が漁師ってあんま想像つかねーよなー」
「そぉだねぇ」
笑い合いながら外に出るともう夜の帳が降りていた。街灯が少ないし人家もまばらで、そのまばらな人家の人達もほとんどまだこの祭会場にいるから闇が広がっている。
ふと、湿った風が頬を撫でた。
嶺亜が空を見上げると、さっきまで雲が薄く張っていただけの空には星は見えず、代わりにぽつぽつと雨が滴ってきた。
そしてその雨は、あっという間に豪雨に変わった。


つづく

245 :ユーは名無しネ:2014/08/28(木) 19:00:31.94 I.net
作者さん乙です!
続き楽しみにしてます!!

246 :ユーは名無しネ:2014/08/29(金) 00:38:03.15 0.net
このスレだけがこの板の癒しです
頑張ってください

247 :ユーは名無しネ:2014/08/29(金) 22:30:02.76 0.net
神7シネマ劇場「少年の頃」


「…のところ、大型の台風はゆっくりと進路を北北東に進めており…」
ロビーのテレビで気象情報を見ると、三日前に発生した台風の進路が変わり、島の近くまで達しているとのことだった。雨に加えて風も出てきており、海水浴も山に虫とりもできそうになかった。
「随分速度がゆっくりみたいだけど…明後日帰る時にも台風がそれてなかったら船出ないよね?」
岩橋が訊ねると羽生田は視線を天井に向けて考える。
「まあ…そういうことになるな。けど船が出ないってことは島に来る人もいないわけだからその分延泊させてもらえると思うけど…確認しとこう」
「俺は夏休みじゅうここにいてもいいけどなー。瑞稀とももっと遊びてーし」
「僕もぉ」
倉本と嶺亜はお気楽な感じで二人で頷き合っている。神宮寺はそろそろ島での生活に飽きてきたが、岸くんが訪れると暇潰しにダンスを教えてもらい、思いのほかのめりこんでいるようである。
その神宮寺に触発されるように羽生田も、岩橋も、気付けば5人ともホテルのロビーでダンスレッスンを受けていた。
「おいなんだよ、面白そうじゃねーかよ、岸俺にも教えろ!」
嶺亜に会いに来た恵と、それに無理矢理付きあわされた谷村までもが参加し始め、ロビーはダンススタジオと化した。幸いにも他に客はいなかったから咎められることもなく賑やかに過ぎて行く。
「鏡があるといいんだけどなー…どっかになかったかな姿見…」
岸くんは考え始める。
「颯が昔ヘッドスピンの練習する時に使ってたやつがあったかな…聞いてみる」
ややあって、大きな移動式鏡を持って岸くんと颯がロビーに現れた。
「皆、岸くんにダンス教わってたんだ」
少し寂しそうな顔を颯がしたのを恵が察知して、彼の背中をばんと叩いた。
「おめーを呼びに行こうと思ってたんだよ!あれ見せてやれよこいつらに。ほらあの逆さまになってくるくる回る技!なんつったっけ…えっと…」
「ヘッドスピン」
岸くんが恵の代わりに言った。颯は少し戸惑いの表情を見せたが周りに煽られ、その技を披露する。
「すっげー!!」
一様に目を丸くして颯のヘッドスピンに魅入った。感激した神宮寺がやってみようと挑戦するも首の骨を痛めそうで断念する。
「凄いな。まるで扇風機みたいだ」
「何その例え」
「ねぇねぇさっきの曲に颯のこれ入れたら面白くなりそうじゃないぃ?」
盛り上がっってわいわいやるうちに話はいつの間にか大きくなって、来年の祭に再び集まって一曲披露しようという流れになる。冗談か本気か…神宮寺なんかはノリノリだ。

248 :ユーは名無しネ:2014/08/29(金) 22:30:30.60 0.net
「それいいじゃんよ!来年一週間くらいここで合宿して一曲完成させて岸くんのワンマンライブに俺達がゲスト出演してよ!」
「ギャハハハハハ!!俺はともかく谷村が登場したらじいちゃんばあちゃん腰抜かすぞ!こいつの破壊力半端ねーからな!」
「なあ瑞稀も入れようぜ!!俺今から呼んでくる」
「落ち着けって倉本。凄い暴風雨だからもう少しやんだ頃にしろよ」
楽しいノリの中でふと岩橋はその眼に気付く。それまで一緒になって盛り上がってる岸くんの表情がどこか冴えなかった。
そしてその岸くんを見つめる颯の横顔もまた、どこか彷徨っているかのようだった。
「あ、ごめん俺ちょっとトイレ」
抑揚のない口調でそう言うと、岸くんはロビーを出て行く。そしてなかなか戻って来なかった。
「なんだぁ岸くんいやになげーな。ウンコか?」
「ちょっとやめてよ神宮寺、下ネタは」
岩橋が神宮寺を叱りつける後ろで倉本だけがその弱弱しく消え入りそうな声をその耳でキャッチした。
「やっぱり…やらなきゃ良かった…」
颯がそう呟いていたのを。


  青い空をいつも 追いかけて行く 丘を駆けて空を つかまえに行く
      でもどんなに駆けても 手をどんなに伸ばしても
空の色 遠くにあって 眩しく輝く目で 笑ってるよ

ホテルに隣接する自宅の自分の部屋で颯は音楽を聞いていた。といっても商品化されているCDではなく、去年の文化祭で歌ったり合奏した曲を自主製作でCD収録した音源だった。小中学校の80周年記念に製作されたものだ。
曲のタイトルは「少年の頃」。5年生から中学三年の生徒14人で歌った合唱曲だ。島に一年だけ赴任していた音楽教師がこの曲は君達にぴったりだ、と勧めたのである。
軽快なメロディで始まり、中間部はピアノ伴奏がなくなってアカペラで少し切ないメロディを歌う。そしてまた冒頭と同じメロディが繰り返される。
メロディもそうだが、颯は歌詞が好きだった。だからひどく拙くてお世辞にも上手とは言い難いこの演奏のCDをなんども繰り返し聞くのである。そう、少し不安定になった時に…
胸の中のざわめきが消えてくれない。楽しかったはずの昼間の皆とのダンスレッスンも、不安をかきたてる。
岸くんは…もしかしたら…
そこまで考えて、部屋の向こうで母親が名前を呼ぶ声がする。CDを止めて降りて行くと玄関に岸くんがいた。
「優太くんがね、わざわざ届けてくれたよ。あんた昨日のお祭りでこれ忘れて行ったでしょ」
母親の手には法被とニット帽が握られていた。
「あ。そうだ忘れて置きっぱなしにしちゃってた。ありがとう岸くん」
「優太くん、雨風ひどいからちょっと休んできな。今お菓子とお茶用意するから颯の部屋で待ってて」
「あ、いえ…」
岸くんは遠慮するが母親は強引に彼をあげてしまった。

249 :ユーは名無しネ:2014/08/29(金) 22:31:24.65 0.net
「ごめんね岸くん。忙しいのに」
「ん?別に忙しくないよ。こっちこそなんか悪いな。颯、勉強とかしてたんじゃないの?」
「ううん…」
母親がスイカと麦茶を持ってやってくる。岸くんはお礼を言ってそれに口をつけた。
「台風が祭の日に来なくて良かったな。まるで祭が終わるの待っててくれたみたいなタイミングでびっくりした」
岸くんはそう話ながら笑う。優しくて眩しい笑顔。昔からちっとも変わらない。
3つ年上の岸くんはいつだって優しかった。物ごころつく前から自分は岸くんのことが大好きで、その背中をずっと見ていた記憶がある。
大きな手はいつの間にか颯が岸くんの身長を越してもそこだけは差が縮まることはないように思う。なんだって掴み取れる大きな手。そう、空の色でさえも…
「成り行きで教えることになっちゃったけど大人数でダンスってのも面白いよな。神宮寺はちょっとリズム感悪いけど表情の付け方とかカッコ付け方とかセンスいいし、羽生田も覚え早いしアホだと思ってた恵もまあまあ行けるし…」
屈託のない笑顔で岸くんは神宮寺達の話をする。昨日今日出会ったばかりの彼らだが不思議と前からの知り合いのような気がするのは颯も同じだ。
「次は俺達があいつらのいるところに行くのも面白いかもな。観光とかもしたいし案内してもらおうぜ」
「うん」
頷いた後で、颯は岸くんのそのキラキラした瞳を見るのが辛くなる。何故かは分からない。予感めいたものが自分の中にあって、それがどうしようもなく神経を揺さぶっている。
「どうした、颯?」
そんな颯の心情が表情に出てしまったのか不思議そうに岸くんは顔を覗きこんできた。
言いたくない、言っちゃいけない、だけどそれは口から出てしまっていた。
「岸くん、いなくなったりしないよね?」
自分でもなんでこんなことを口にしたのか分からない。だけど、何故か口にせずにはいられなかった。
ここで岸くんが即座に「何言ってんの颯、疲れてんの?」と冗談として処理して笑い飛ばしてくれればこれ以上不安が暴走することもなかったかもしれない。
だけど岸くんは明らかな動揺を見せる。それが颯の不安に拍車をかけた。
「でも…俺がいなければ、岸くんは今頃こんなところにいなくて、夢を追いかけてたのに…」
空気が一瞬、張り詰めた…気がした。だけどそれはすぐに消え去り、岸くんの慌てたような声が響く。
「な…に言ってんだよ颯。お前まだ気にしてんの?何年前の話だよ。それに、俺の夢とそれとは関係ないだろ」
「だけど、俺のせいでおじさんは…」
「あのさ、そんなの起こってしまったこととやかく言ってもしょうがないって。そんな気にされる方がなんか重たいよ。何度も言ってるじゃん」
そう。気にすればするほど岸くんを苦しめる。だけど颯の不安定な心は正しい方向を見失ってしまった。
揺れた感情は支えを失い、よろめいて崩れてゆく。颯は震える声で呟いた。
「俺があの時嬉しがってあんなとこでヘッドスピンしなかったら…」
「やめろって言ってるだろ!!」
岸くんの大声に、颯の思考は強制的に一時停止する。驚いて顔をあげると、彼の眼は怒りと哀しみに満ちていた。
猛烈な後悔が押し寄せる。だけど、もう遅い。
「…俺、帰るわ」
消え入るような声でそう言うと、岸くんは部屋を出て行く。
颯は動くことができなかった。

.

250 :ユーは名無しネ:2014/08/29(金) 22:32:28.16 0.net
「あらら…台風停滞してんじゃん。こりゃあと三日くらいは厄介にならないとなー」
翌朝のニュースでも台風はまだまだ反れてくれそうにないと気象情報は伝えていた。それを魚料理をつつきながら皆で見る。
「ちょうどいいじゃん。岸にダンスレッスンしてもらおうよぉ。なんか楽しくなってきたしぃ」
きゃっきゃと嶺亜がそう言うと、その岸くんが通りかかる。掃除機をかかえているから館内の掃除をするのだろう。
「おーっす岸くん。今日も稽古つけてくれよ!」
神宮寺がご飯粒を飛ばしながら呼びかけると岸くんは苦笑いで返す。
「悪いね。俺、今日は一日ここの仕事入ってるからちょっと無理。昨日の復習しといて」
「そうか。そういや岸くんはここの従業員だという設定を忘れてたな」
羽生田が思い出したように呟いてる間に岸くんはさっさと言ってしまった。仕事なら迷惑かけられないな…と皆が思っているとおかわりをせがんだ倉本がこう口にする。
「岸くんって去年高校卒業したんだろ?どっかに就職とか大学とか行かなかったんかな。ここで雇ってもらってんの?」
「そういえばぁ…」
嶺亜は思い出す。昨日、瑞稀が言っていたことを
「瑞稀が岸は高校卒業したらミュージカルの劇団員になるはずだったかもとか言ってたっけぇ。あれだけ歌もダンスも上手かったらそれも納得だけどぉダメになったみたいとかなんとか言ってたぁ。落ちちゃったのかなぁ」
「それはね、優太くんのオーディションの前の日にお父さんが倒れたからだよ」
どこかから誰かの声が聞こえ、そう答えた…と思ったらキッチンの向こうからホテルのオーナー…颯の父親が出て来た。
「どういうことですか?」
岩橋が問うと少しためらいがちにオーナーは答える。
「優太くんは、東京の有名な劇団の団員募集のオーディションを受けて、最終選考まで残ったんだ。それに合格すれば冬ぐらいから劇団員として入団することになるって…。
だけど最終オーディションの前日、お父さんが倒れて…かなり危険な状態になってこの島の病院じゃ手に負えないからもう一つすぐ近くの島にあるもっと大きな病院に運びこまれた。優太くんはオーディションを受けずにお父さんの病院に駆けつけてずっと側にいた」
「お父さんとオーディションだったら…そりゃあお父さんを取るかもね…」
「なんか、岸くんらしいな。俺だったらオーディション取っちまってたかも」
岩橋と神宮寺が囁き合っていると次に羽生田が訊ねる。
「岸くんのお父さん、足も悪いみたいですけど、大きな病気かなんかしたんですか?」
その質問に、オーナーは悲痛な表情になってかぶりをふった。
「いや…去年倒れたのは病気じゃなくて、足が悪いのに無理をして高台に登って作業をしたから転落して怪我をしたんだ。輸血も必要なくらいで、彼の血液はちょっと珍しい型だから、病院にもストックはなくて…」
「え、じゃあどうやって輸血したの?」
倉本がふりかけご飯を放り込みながら訊ねた。
「優太くんも同じ型なんだ。親子だから遺伝性もあるのかどうなのか分からないけど…だから探す手間もなくすぐ輸血できた」
「そっか…そんなら尚更オーディションには行けないよな…」
「彼の足が悪いのは…うちの息子を…颯を助けようとしたからなんだよ。そのせいで漁師の仕事もできなくなって…だから本当に申し訳なくて…せめてもの償いにうちで働いてもらうことに」
そこまで言いかけて、オーナーははっとした表情になる。颯がロビーに入ってきたからだ。
咳払いをするとオーナーは頭を下げてキッチンに戻って行った。

.

251 :ユーは名無しネ:2014/08/29(金) 22:33:46.72 0.net
窓枠がガタガタと鳴っている。暴風雨は依然として衰える気配はない。幸いにも夏休みだから学校に行く必要はないし一日家に籠って宿題を片付けよう…と谷村が問題集を開いていると母親が呼ぶ声がする。
「恵くんが来てるよ。あがってもらおうと思ったけど龍一を呼んでくれって」
嫌な予感がしてしぶしぶ玄関に出向くと予想通り、雨合羽を強引に押し付けられた。
「おめーはすぐ用水路に落っこちるからそっち避けてちょっと遠回りだけど安全ルートで行くぞ!気ぃ引き締めて行けよ!!」
「ちょっと…俺は宿題を…ていうか恵くん、おばさん昨日も怒ってなかった?宿題全然してないって…」
「うっせーなてめーに心配されるほど俺は落ちぶれちゃいねー。早く来い!!」
行き先は分かりきっていた。颯の家が経営するホテルだろう。彼らが泊まっている…
自分が嶺亜に会いたいからって俺を巻きこむのはやめてほしい…そう喉まで出かかったが結局それは口からは出ない。何故なら自分もまた、彼らと一緒にいることをどこかで楽しんでいるからだ。
岸くんのダンス指導についていけなくて恵に蹴られたり神宮寺に馬鹿にされたり嶺亜に絶対零度を飛ばされたりしたが、それでもなんだか楽しかった。ダンスや歌なんて、自分には無縁のものだと思っていたがやってみると案外楽しいことに気付いてしまった。
「やっべ、ちょっと雨強くなってきた。おい、そこでちょっと休憩すんぞ!!」
雨が強くなってきて視界が悪くなってきた。町役場の屋根の下に逃げ込み、息を整えた。
「こんなことしなくてもうちのおじいちゃんに車で送ってもらえば良かったんじゃあ…」
今更ながらの意見を口にすると恵は「うっせー」と言って小突いてきた。だけど谷村は長年の付き合いで知っている。恵の蹴り以外での表現は「そうしときゃ良かったぜ」という同意なのである。
10分ほど待ったが雨の勢いは強まるばかりである。ここからホテルまで約15分。走ればその半分だがこの強さではほとんど前が見えなくなるだろうから危険だ。いくら勝手知ったる島とはいえ
「おい。あれ…」
恵がそう呟いて前方を指差した。見ると、ビニール傘を差してふらふらしている少年が見えた。見覚えがあるな…と思った瞬間に突風によってそのビニール傘は無残に壊れた。
「おいおめー何やってんだ!!こっち来い!!」
恵が飛び出してその少年を引っ張ってきた。ぜえぜえと肩を上下させながらそいつは「サンキュー」と右手をかざす。
「倉本…だったっけ?何やってたのこの暴風雨の中。そんなビニール傘一つで外に出るなんて自殺行為だよ」
「あー死ぬかと思った。想像以上だったぜ。道も分かんなくなってきたからほんと助かったありがとな!」
聞けば倉本はダンスレッスンに瑞稀を誘おうと彼の家に向かったそうである。
「俺らはホテルに行こうとしてたとこ。けど雨風がシャレんならなくなってここで一時避難。おめーも命が惜しかったら弱まるまで待ってろよ」
恵の忠告に倉本は同意した。こうしている間も吹きつける雨が島を濡らして行く。一昨日の穏やかな天気が嘘のようだった。
「練習はかどってっか?」
恵が聞くと、「それしかやることないから」と言った後で倉本は言葉を濁す。
「颯も誘ったんだけど、あいつなんかちょっと元気なくてさ。岸くんも今日は一日ホテルで仕事するからとか言って自主練余儀なくされて。なんかどうもあの二人、昨日に比べてぎこちない感じがすんだよなー」
「ぎこちない?」
谷村が問うと、倉本は頷く。
「すれ違っても視線も合わさないし…喧嘩でもしたんかな?」
「喧嘩なんか一度もしたことないよ、岸くんと颯は」
「そうなん?」
「うん。颯は岸くんのこと、多分誰よりも慕ってるし岸くんだって誰に対しても分け隔てなく優しいし。この島で他の誰が喧嘩しても岸くんと颯はしないだろうね。そうだよね、恵くん?」
同意を求めると「そーだな」と答えた後で恵はしかし頭を掻きながらこんなことを呟く。

252 :ユーは名無しネ:2014/08/29(金) 22:34:37.87 0.net
「けど、颯は…あいつは岸のことが好きすぎて時々すげー負い目を感じてる素振り見せるからな。岸の親父のことで」
そのことについて語るのは躊躇われる気もしたが意外にも倉本は知っている風だった。
「あ、なんだっけ、今朝颯のお父さんから聞いた。岸のお父さんは颯を助けようとして怪我したんだっけ。その事?」
「なんだ…知ってんのかよ。そーだよ、岸の親父の足はな、颯を助けようとして怪我した時の後遺症であんななんだ。俺もその場にいたからよく覚えてるぜ」
雨音で掻き消されがちだったが、恵は倉本に語って聞かせた。
「俺が小3の頃だから…颯は小2で岸はえっと…小5だ。そん時の祭の準備の時だよ。ちょうど今の時期だ」
谷村もその時は小学2年生で夏風邪をこじらせて家で寝ていた。それをぼんやり思い出す。
「岸はその頃はまだ祭であんなワンマンライブとかもやってなかったし、どっちかってえと野球とかそういうの俺らとよくやってて…颯も一緒によく遊んだ。谷村は俺が引っ張ってこない限り外に出やしなかったけど」
そうだった。家で勉強しているといつも恵が「おい谷村!!外出るぞギャハハハハハ!!」と迎えにくるのだ。たまらなく迷惑だった。
「祭の盆踊りの見本を颯がやることになったんだ。颯はすげー張り切ってて会場準備の時にその台で練習してて…。ちょうどその頃ヘッドスピンできるようになっててここでそれを披露しようと練習してた。そしたらその時まだ固定されてなかった櫓が崩れてきて…」
びゅうっと突風が正面から殴りつけた。谷村は思わず顔を背ける。
「その下敷きになるところを、岸の親父が颯に覆いかぶさってあいつのこと守ったんだ。だけどその時櫓の支柱の先端が足に刺さっておっちゃんの足は前みたいに動かなくなった。でもおっちゃんがそうしなかったらそれは颯の腹とか背中とかに刺さってたかもしんねー」
「それで、漁師もできなくなったって颯のお父さんが言ってたな。せめてもの償いにホテルで雇ったって…」
「そーらしいな。おっちゃんは本土のでかい病院に一か月くらい入院しててリハビリもそこでしてたらしいし、岸もその間ずっとそこにいたって。帰ってきたら岸は、落ち込んでる颯を元気づけるためにその間に覚えた歌とかダンスとか見せてあげてたんだぜ。
岸に颯を責める気持ちなんてないのに、颯の奴は未だにその時のことを気にしてやがんだ。まあ気持ちは分かるけどよ」
「岸くんがオーディションに受かったら島を出ることになるって聞いた時、颯はすごく苦しんでた。岸くんの夢を応援したいけど、島から出て行っちゃうのが寂しい。笑って送り出せる自信がない。だけどこんなこと本人には絶対言えないって。
ただでさえ俺のせいでおじさんがあんな身体になっちゃったのにって…」
谷村にはそこまで慕っている人間がいないから、颯の気持ちを100パーセント理解することはできない。だけどもし、例えば…今この隣にいる恵が島からいなくなってしまったら…それは少し寂しいかもしれない。絶対に口には出さないが。
「そっか…」
倉本は目を伏せた。何かを想っている感じだったが谷村にはその内心を測ることはできなかった。
谷村は顔を上げる。さきほどまで狂ったように吹き荒れていた嵐がその勢力を衰えさせていた。二着の雨合羽を三人で分けあって被りながらホテルへの道を急いだ。



つづく

253 :ユーは名無しネ:2014/08/29(金) 23:02:34.01 0.net
岩橋婆の口癖まとめ

「1000なら岩橋デビュー」
「いわちキャワキャワ」
「嶺亜はデビュー」
「神宮寺はない」「岩橋が無理なら神宮寺もない」「じぐいわ推しなら岩橋」
「神宮寺はチンパンジー」
「岸は猿顔」
「顕嵐は女関係が〜」「デビューして欲しくない」
「森田は女関係が〜」「退所しろ」
「永瀬はきつい」「チンピラ」「目が死んでる」「歌い方が変」「退所しろ」
「平野はイケメン(アゲアンチ)」「カスカス」「劣化」
「高海は人気出ない」「東南アジア」
「関西はイメージ悪い」「品がない」
「セクゾは〜」「セクゾ担は〜」「佐藤勝利なんて〜」
「しょうれんかいは〜」「しょうれんかい担は〜」
「高地は無理」「高地は早くやめろ」
「ジェシーと京本はデビューしないパターン」
「俺は〜」「男ヲタは〜」「お前は男ヲタ!」
「“私は人気者”」「“私を嫌っているのは1人だけ!”」
「アンチは消えないよ(キリッ」「次スレ!(2ちゃん依存症)」 

スペオキ→岩橋(何が何でも叩かない・貶さない)
オキニ→嶺亜
大嫌い→永瀬(老婆の「平野&岩橋イチャイチャ妄想」に邪魔な相手)
大嫌いだが岩橋とのホモ妄想相手としてはアリなので複雑な気持ち→神宮寺、平野

254 :ユーは名無しネ:2014/08/30(土) 01:10:45.17 0.net
作者さん乙です
このスレも長いですね。岸颯とれいくりが気になる…

255 :ユーは名無しネ:2014/08/30(土) 11:28:57.45 0.net
れあくりだった。スマソ

256 :ユーは名無しネ:2014/08/30(土) 15:27:55.08 i.net
更新ありがとうございます
続きが楽しみ、期待して待ってる

257 :ユーは名無しネ:2014/08/31(日) 18:52:44.60 0.net
神7シネマ劇場「少年の頃」


「郁、大丈夫かな?凄い雨激しくなってきたけど…」
ロビーの外を見やりながら岩橋が心配そうに呟く。「瑞稀呼んでくる!」と張り切って出て行ったはいいが依然として雨風は強い。
「まああいつのことだから腹が減ってくれば食いもの求めて超人的な力発揮するだろうから引き返すなりなんなりしてくるだろう。それより、この曲のこの部分の振り付けどうだったっけ。覚えてるか?」
CDラジカセから流れる音源を聞きながら羽生田が訊ねる。復習を皆でしていたが、手詰まりになっていた。皆で覚えてる限りで意見を出し合うがどれも違う気がする。
「しゃーねー、仕事中だけど岸くんに訊くか」
神宮寺が立ちあがり、館内を歩きまわりながら岸くんの姿を探すがどこにもいない。オーナーに訊ねると昼食を食べに家に戻ったらしい。
「今日はこんな天気だしやることももうないからいいよって言ったからそのまま家にいるかも」
「マジっすか…岸くん家って遠いんスか?」
簡単に場所を教えられるとそう遠くない場所だと分かったのだが、雨風がなぁ…と思っているとそれが弱まっていた。
「ちょうどいいから俺呼んでくるわ」
皆にそう言って神宮寺は雨合羽を借りてホテルを出た。
蒸し暑さと雨の匂いが鼻腔をくすぐる。こういう天気は好きではないが、とかく台風というと学校が休校になって遊ぶ時間が増えて喜ぶ…という記憶があるためにどこかわくわくした気持ちになってしまう。もっとも今は夏休みだったが。
用水路が濁流のようになっているから、そこに落ちないように気をつけながら進み、ようやく岸くんの家に辿り着いた。素朴な瓦屋根の戸建てである。

258 :ユーは名無しネ:2014/08/31(日) 18:53:37.33 0.net
「なになに神宮寺?どーしたのそんなずぶ濡れで」
「いやー…先生のご享受をいただきたくて」
笑って冗談めかすと岸くんも吹きだす。タオルを渡され、今飯食ってるからとりあえず待っててと言われ部屋に通された。
シンプルな部屋である。学習机と箪笥と本棚と…だけどシンプルなわりに雑然としているのはチラシや紙キレや雑誌が散乱しているからだろう。エロ本はないのかな…とちょっと目でサーチしているとそれが目につく。
「…二次オーディション合格のお知らせ?」
手に取って読み流すと、神宮寺も名前だけは聞いたことのある有名な劇団の団員募集のオーディションの結果通知だった。確か、今朝聞いた話だと去年お父さんが倒れてその最終オーディションに岸くんは行けなくなった、と聞いたが…
「2014年8月30日午後3時より受付…2014年?」
今何年だっけ…?と記憶を掘り起こしていると襖が開く。岸くんが入ってきた。と同時に2014年は今年だ、と神宮寺の頭の中の計算機が弾きだした。
「あ、ちょっとなに人の部屋のもん勝手に見てんだよもー」
「いや、だってそのへんに散らばってたから見る気なかったんだけど…それより岸くんこれ…」
「あのね、そこにあるからって何でもかんでも見ちゃダメ。大方エロ本でも探してたんだろ神宮寺」
岸くんは神宮寺の手からその通知書をぱっと奪う。
「いやそりゃ図星だけどよ。岸くんこの劇団のオーディション受けたん?去年親父さんが倒れてダメんなったって聞いたけど…」
「え、なんで知ってんの?」
不思議そうに首を傾げた後でしかし岸くんは神妙な面持ちになった。
「…誰にも言うなよ。特に颯には」
「言わねえけど…でも良かったじゃん、今度は大丈夫だろ。二回も受かるってことは望みアリじゃん。がんばれよ!」
激励のつもりで背中を叩いたのだが、神宮寺の予想とは全く違った答えが返ってくる。
「受けないよ」
断言するようにきっぱりと岸くんは言った。

259 :ユーは名無しネ:2014/08/31(日) 18:54:27.86 0.net
「最終オーディションにはいかないつもり。これは自己満足のために受けただけだよ。たまたま二次オーディションの日と本土の方に行く用事が重なったから受けただけ。俺はここを出るつもりはないよ」
「なんで?勿体ないじゃん。もし受かればプロの指導も受けられるんだろ?岸くんだったらよ、絶対スターになれると思うぜ。あんなに上手いんだか…」
「俺のは所詮独学だし通用しないよ。それに、親父のことも一人にしておけないし」
神宮寺は首を捻る。何故か、これは岸くんの本心ではない気がした。
自惚れや過信なんて岸くんの歌やダンスからは伝わって来なかったしまた逆に必要以上に卑屈なものもない。
純粋に歌が好きで、憧れて、より自分を磨いて行きたいという向上心と希望がその声と全身から伝わってくる。少なくとも神宮寺は岸くんのパフォーマンスを見てそう感じた。
だからこう口にしていた。
「自己満足だけで受かる世界じゃないだろ。それに、そんなつもりもないのに受ける奴が受かるようなオーディションかよ。選んだ人は岸くんの本気感じたからなんじゃねえの?
なんか支離滅裂だぞ。そりゃ親父さんのことは気になるかもしれねーけど親父さんだって絶対岸くんの夢を応援してくれるに決まってんじゃんかよ!」
神宮寺は自分が少し感情的になってしまってることに気付いていた。
冷静に考えれば岸くんにとってはこんなこと言われるまでもないことだし有難迷惑だろう。他人の家のことにとやかく口を出すべきじゃない。それは分かっているがどうにももどかしくてそれが出てしまう。
「お前に何が分かるんだよ!!俺だって色々考えてんだよ!!考えた結果受けないことに決めたんだ!!夢より大事なもんだってあるんだよ!!」
いつも柔らかい人当たりの岸くんがこんなに感情をむき出しにして声を荒げていることに神宮寺は気圧されそうになる。何か、触れてはいけない部分に触れてしまったような罪悪感すら抱いた。
だけど、その触れてはいけない部分こそが岸くんに本心でないことを言わせている気がして引くことができなかった。
「じゃあなんだよ、その大事なものって」
問うと、岸くんは言葉を飲みこんだ。
沈黙。
窓枠が風でガタガタと揺れる音と、その向こうで荒れ狂う雨風だけがこだまする。ちょうど今の岸くんの心境を示すかのように…
その沈黙を破ったのは神宮寺の声でも岸くんの声でもなかった。
「優太、颯は分かってくれると思うぞ」
それは岸君の父親の声だった。

.

260 :ユーは名無しネ:2014/08/31(日) 18:55:14.67 0.net
倉本が瑞稀を、神宮寺が岸くんを迎えにいき、恵と谷村の到着を待つ三人は自ずと休憩モードである。相変わらず外では嵐が吹き荒れていた。
「ねぇやっぱ颯も呼んでこよぉ」
嶺亜が立ちあがる。少し元気がなさそうだったから声がかけにくかったがあのくるくる回る技がなくては成り立たない。ホテルと颯の家は隣接していて、渡り廊下のような通路があるから濡れなくても済む。嶺亜はそう判断して颯の家のチャイムを鳴らした。
「あら。嶺亜くん…だったかしら。いらっしゃい。颯は部屋にいるよ。二階にあがってすぐのところ。ごめんね、ちょっとお鍋が煮立ってて手が離せなくて…」
颯の母親は申し訳なさそうに言うとぱたぱたとキッチンの方へ戻って行った。嶺亜は言われたとおり二階にあがる。
音楽が聞こえて来た。しかし音楽、というほど立派なものではなくピッチの低い素人のような歌声である。子どもの声も混じっていて歌詞だけは聞き取りやすかった。

  黄色い風といつも かけっこしてる 草むら掻き分けて 走り抜けてく
   でもいつの間にかもう 背を向けて吹きぬける
  風の香 遠くにあって 済んだ歌声で 草揺らして行くよ

コンコン、とドアをノックするとややあってドアが開く。嶺亜が立っていることに颯は驚いていた。
「颯も一緒に踊ろぉ。その音楽なに?なんかいい曲だねぇ」
「あ、これ…」
そう言いながら颯はCDを止めてしまった。もうちょっと聞いていたいのになぁと嶺亜は思う。
「去年の文化祭の演奏なんだよ。自主製作したやつで生徒みんなに配られたんだ」
「そうなんだぁ。じゃあ颯も歌ったのぉ?」
「うん。中三だったから、小中学校では一番年上だし谷村と二人で皆をまとめあげるつもりが二人ともしっかりしてないから中一の女の子とかが率先してやってくれて…」
なんとなく想像できる。谷村が「あの…」ってぼそぼそと練習を始めようとしても誰も聞いてなかったり、颯がちょっと空回りしちゃうところが。
「その二年前の文化祭は岸くんが中三で、みんなのこときちんとまとめてくれてさすがだったんだけど、俺には向いてないみたい。もっとも恵くんなんかは中三の時まとめるどころかサボってばっかだった」
颯の笑顔を久しぶりに見た気がする。実際にはそんなに経っていないだろうが、それでもなんだかひどく久しぶりに思えた。

261 :ユーは名無しネ:2014/08/31(日) 18:56:14.55 0.net
「颯、行こぉ。もうすぐ瑞稀も岸も栗ちゃんも谷村も来るしぃ。あのくるくる回るのやってよぉ」
袖を引っ張って誘ったが颯の表情は優れない。
「ごめん…ちょっと暫くあれは…やりたくない」
「なんでぇ?凄い特技じゃん」
褒めたつもりが、颯の顔はどんどん曇っていく。何かいけないことを言ってしまったのかなぁ…と嶺亜は不安になった。
「あの技…小2の時にできるようになったんだけど、あれをやったせいでおじさんの足をあんな風にしてしまったから、やる度になんか思い出しちゃうんだ」
颯は辛そうに語る。初めてできるようになって、皆が驚いて褒めてくれて、それを夏祭りの準備の時に練習していたら櫓が崩れて岸くんの父親が自分を庇って負傷したことを。
辛くて悲しくてもう二度とヘッドスピンなんかしないと自分に言い聞かせたけど、父親の入院の付添いから戻ってきた岸くんが見せてくれって言ってくれたこと。
「岸くんは俺のことちっとも責めたりしなくてそれまでと全然変わらず優しくしてくれて…俺もそれが嬉しかったけど何かある度に俺が勝手に落ち込むから、昨日はそれで怒らせてしまったんだ」
「…」
「去年…岸くんがオーディションを受ける前日におじさんが怪我をした時も俺はあの時のことがフラッシュバックして岸くんにろくに声もかけられなかった。
それだけじゃない、岸くんは結局オーディションを受けられなかったから島から出て行くこともなくて、どこかでそれを安心してしまったんだ。俺は最低だってその時自分でも…」
「颯、それは違うよぉ」
耐えられなくて、嶺亜は颯の声を遮った。
「颯、それは最低なんかじゃないよぉ。だって颯は岸のことが大好きなんでしょぉ?大好きだったら離れたくないって思うのが普通だし、それが最低なら好きっていう感情自体を否定することになるよぉ」
「でも…」
「岸だって、颯がずっと気にしてるのはそれだけ岸のことが好きだからっての分かってると思うよぉ。
怒ったのはきっと颯にじゃなくて、そういう颯の気持ちを自分の言葉で落ち着かせることができない自分への苛立ちみたいなもんだよぉ。岸だって自分のせいで颯を苦しめちゃってるってずっと気にしてんだよぉ」
嶺亜は颯の腕を取った。
「颯の思ってること全部、岸に伝えなよぉ。島を出てほしくなくてずっと側にいてほしいならそう言えばいいし、夢を追いかけてほしいならそう言えばいいよぉ。岸はきっと、颯がどう思ってるのか知りたいと思うしぃ…」
窓の外に突風が吹きぬける。雨が一層強くガラスを叩きつけた。
「颯も岸の本当の気持ち、知りたいでしょぉ?だったら話そうよぉ」
もう一度颯の腕を引っ張ると、彼は一度だけ瞳をきつく閉じ、立ちあがった。



つづく

262 :ユーは名無しネ:2014/08/31(日) 22:31:43.73 0.net
すごいよ作者様...。
ほんとに乙です!
更新頑張ってください!

263 :ユーは名無しネ:2014/09/01(月) 10:40:53.00 0.net
岩橋婆の口癖まとめ

「1000なら岩橋デビュー」
「いわちキャワキャワ」
「嶺亜はデビュー」
「神宮寺はない」「岩橋が無理なら神宮寺もない」「じぐいわ推しなら岩橋」
「神宮寺はチンパンジー」
「岸は猿顔」
「顕嵐は女関係が〜」「デビューして欲しくない」
「森田は女関係が〜」「退所しろ」
「永瀬はきつい」「チンピラ」「目が死んでる」「歌い方が変」「退所しろ」
「平野はイケメン(アゲアンチ)」「カスカス」「劣化」
「高海は人気出ない」「東南アジア」
「関西はイメージ悪い」「品がない」
「セクゾは〜」「セクゾ担は〜」「佐藤勝利なんて〜」
「しょうれんかいは〜」「しょうれんかい担は〜」
「高地は無理」「高地は早くやめろ」
「ジェシーと京本はデビューしないパターン」
「俺は〜」「男ヲタは〜」「お前は男ヲタ!」
「“私は人気者”」「“私を嫌っているのは1人だけ!”」
「アンチは消えないよ(キリッ」「次スレ!(2ちゃん依存症)」 

スペオキ→岩橋(何が何でも叩かない・貶さない)
オキニ→嶺亜
大嫌い→永瀬(老婆の「平野&岩橋イチャイチャ妄想」に邪魔な相手)
大嫌いだが岩橋とのホモ妄想相手としてはアリなので複雑な気持ち→神宮寺、平野

264 :ユーは名無しネ:2014/09/01(月) 22:00:04.22 0.net
神7シネマ劇場「少年の頃」

「神宮寺遅いね…嶺亜も倉本も戻って来ないし大丈夫かな…」
外を見やりながら心配げに岩橋は呟く。
「三人とも殺しても死なないタイプだとは思うが…もうちょっと待ってみて戻らないようだったらオーナーに言って電話を貸してもらうか。固定電話だったら通じるだろう」
「うん…あのさ」
岩橋は少し躊躇いがちに羽生田に言う。
「岸くんと颯…なんかあったのかな?なんとなく今朝様子が変な気がして。岸くんもそうだけど、颯はなんだかずっと不安そうな顔してる。なんだかいたたまれなくて…」
「そうかもしれないな。昨日とは違って…なんかこう…少しお互いの感情が互い違いになってる感じはする。だけど当人達の問題に俺達が首をつっこむのもどうかと思うし…」
羽生田がそう答えた頃に足音が聞こえてくる。程なくして、恵と谷村、そして倉本がびしょ濡れで入ってきた。
タオルとドライヤーをオーナーが貸してくれて、三人は温かいお茶を飲み一息つく。
「やばかったー。谷村と恵に会わなかったら俺今頃全身ずぶ濡れだよ」
「ギャハハハハ!!恩にきろよ!」
そしてまた足音が響く。入ってきたのは颯と嶺亜だ。
「あ、栗ちゃぁん。えっと…岸と神宮寺はぁ?まだぁ?」
恵に微笑みかけた後、ロビーを見渡して嶺亜は皆に訊ねた。
待つこと数分、そこに岸くんと神宮寺は現れる。そして、岸くんの父親も一緒だった。
「悪い皆待たせて。親父の足が悪くてなかなか急げなくて。颯」
岸くんが颯の名を呼ぶと、びくっと颯の肩が震えた。

265 :ユーは名無しネ:2014/09/01(月) 22:01:04.80 0.net
「昨日はごめんな。急に怒鳴ったりして」
颯は唇の端をきっと結んだ。涙をこらえているということがその場にいる誰にも分かる。
緊張感が走る中で、それとは対照的な穏やかな声で岸くんは颯を真っ直ぐに見据えながらこう言った。
「颯、俺さ、劇団のオーディション…また受けてもいいかな…?」
颯の眼が大きく見開く。
「かっこ悪いけど…去年そこまで進んで受けられなかったことが心残りで諦めきれなくて…こっそり今年も受けたんだ。最終審査の通知が来て、今度の30日に本土の方であるんだけど…」
「うん」
颯がシンプルな答えになったのは、その次を続けようとして涙が零れたからだ。
「お前との約束破ってしまうことになるけど、許してくれる?俺はやれるとこまでやってみたい」
今度は声に出さず、颯は泣きながら頷いた。
約束ってなんだろう…と嶺亜達が思っているとそれは岸くんの父親の口から語られた。
「優太はずっとここにいて、歌って踊って皆のこと笑顔にしてやるっておめえと約束したんだよな、颯?」
颯はまた頷く。そして涙まじりに声をあげた。
「俺が…おじさんに怪我させて…泣いてばっかりいたから…岸くんがそう言ってくれたんだ…どこにも行かないしずっとみんな一緒だって…」
それがずっと岸くんの心にひっかかっていた。夢を見つけて、だけどそれを叶えるには颯との約束が守れない。夢を追うより約束を守ることの方が大事だって自分に言い聞かせていた。だけど…
「去年、オーディションに受かった話をしたら、颯は喜んでくれた。でもきっと本心じゃないって俺には分かった。約束は?ってその眼が言ってる気がして。
親父が怪我して受けられなくなった時、俺は颯との約束を破ろうとしたからこんなことになったんだって思ったけど…それでも諦められなかったんだ」
「俺が岸くんの夢を邪魔してることは分かってたけど…それでも俺は岸くんと離れたくないって気持ちの方が強かったんだ。自分勝手だとは思うけど…どうしても…」
「自分勝手なんかじゃないよ。当たり前の感情だよ」
岩橋がそう声をかける。それでも颯は首を横に振った。

266 :ユーは名無しネ:2014/09/01(月) 22:02:29.94 0.net
「おじさんの人生も台無しにして、岸くんの夢の邪魔もして、俺なんか、俺なんか最初からいなければこんなことにならなかったのに…」
「颯、それは違うぞ」
そう言ったのは岸くんの父親だった。彼は雨で濡れた髪をはらった。
「お前がいなければ、優太は夢を見つけられなかった」
断言し、彼は颯の肩に手を置く。
「俺が入院してる時な、まだばあちゃんも生きてたから優太と一緒に付添ってくれてて…俺がこんなになって落ち込んでる優太を元気づけようとちょうどその時やってた有名なミュージカルを見せにいってくれたんだ。病院の近くに大きな劇場があったからな。そん時…」
「その時の感動が忘れられなくてその日から俺、CDやDVDを買ってもらって歌とダンスにのめりこんだんだよ。楽しくて楽しくて…それを島の人に見せたら喜んでくれて、祭や色んな行事で舞台に立つ度にその快感の虜になって、自分にはこれしかない!って確信したんだ」
「優太のことを、皆が褒めてくれた。島の年寄り連中は毎年祭で優太のステージを見るのが生きがいだ、そのために長生きできるとすら言ってくれる。親としてこれほど嬉しいこたぁねえ。
漁師してた時は忙しくて優太のことほったらかしにしてたけど一緒の時間がたくさんできて、俺は前より幸せだ。その幸せは颯、お前が運んできてくれたんだ」
羽生田がふと窓の外をみやると、さっきまであれだけ激しく吹き荒れていた嵐が急にどこかへ行ってしまったかのように外は穏やかさを取り戻しつつあった。
声をあげて泣く颯に、岸くんが優しく寄り添っている。恵が、
「岸に会いに行きたきゃ俺がいつでも連れてってやる。ついでに谷村もな!」
と慰めていた。皆口々にポジティブな意見を出し合う。
「この便利な世の中にかかれば島と本土を繋ぐ手立ては実にたくさんある。まずインターネットでテレビ電話というのがあってだな…」
「携帯使えるように頼もうぜ!いいか、すっげー便利なんだぞこのスマホという文明の利器は。ラインもメールも通話も思いのまま、エロ動画も見れるしゲームだってできちゃうんだぜ」
「船で一時間でしょぉ?早起きすればぁ土日いっぱい遊べるよぉ。二人でお泊まりなんかしちゃってもいいんじゃなぁい?」
「離れてたって心が通じ合えば大丈夫。二人の絆が強いのは昨日今日出会った僕達でも分かるくらいだから」
「岩橋の言うとおりだぜ!!俺が瑞稀に会いに行く時岸くんも誘ってやんよ」
わいわいと話し合ううちに、ロビーにはオレンジ色の光が挿し込んできた。空は明るく、雲は吹き散らされている。台風がそれたか、温帯低気圧に変わったか…いずれにせよ嵐は過ぎ去った。
笑顔で溢れるロビーには、少年達の笑い声がこだまする。

267 :ユーは名無しネ:2014/09/01(月) 22:03:20.57 0.net
.

   夕暮 訪れて 空の色 赤くなる
  丘には 一人きり 約束していた 明日も 会えるね
 
   夕暮 訪れて 香る風 もういない
  草には 一人きり 挨拶していた 明日も 遊ぼう

    さようなら

「いい歌じゃん。ヘタだけど」
ロビーには颯達の通った小中学校の80周年記念製作盤CDが置かれていた。小5から中三までの14人で歌った「少年の頃」を皆で聞く。訪れた瑞稀が珍しく皆の前で口を開いた。
「俺は声変わりがまだだから、女子のパートを歌ったんだ。嫌だったけど…この歌好きだったから」
「そんな素振りちっとも見せなかったよね瑞稀は。でも瑞稀の声は綺麗だからね」
颯が言うと、谷村も頷く。
「この中間部のアカペラが難しくて…放課後ずっと女子に特訓された記憶がある。早く帰って勉強したかったのに…」
「ギャハハハハハ!!仕方ねーだろ谷村おめーは音痴なんだからよ!」
「えぇ〜聞いてみたいよぉ。谷村歌ってぇ」
嶺亜にせがまれ、周りにはやしたてられ、谷村は渋々アカペラで「赤とんぼ」を歌った。ロビーに爆笑の渦が巻き起こり、そこからまた盛り上がって行った。
笑い声はその夜遅くまで溢れ返った。

268 :ユーは名無しネ:2014/09/02(火) 21:11:43.78 0.net
神7シネマ劇場「少年の頃」


出発の朝が一緒になったのは偶然である。神宮寺、嶺亜、倉本、羽生田、岩橋の5人組が帰る日、岸くんもまたオーディション会場へと向かう。6人で瑞稀の叔父が操縦する小型船に乗せてもらうことになった。
「ほんの数日だったけど、なーんか名残惜しいな。まるで故郷を後にするみたいだぜ」
島を振り返りながら神宮寺がしんみりする。
「いい島だったな。まあまた今度来よう。来年俺達は岸くんの代わりに祭でパフォーマンスしなきゃいけないしな」
羽生田がキャップを深くかぶりながら誓いをたてる。
「僕にできるかな…でも、誰かに見られるってのもいい経験かも。新しい自分になれそうだしブレイクダンスとかバク転に挑戦、とかしてみたりね」
岩橋は意欲的に捉えている。
「栗ちゃん、また来るよぉ。栗ちゃんのパソコンに動画も送るからねぇ。離れていても二人は一つだよぉ。れあくりフォーエヴァーだよぉ」
嶺亜は恵と手を取り合っている。
「おおよ!俺も行くかんな!!もちろん行く時は俺一人で行くからコイツは置いてくるし!!」
恵の後ろには谷村がいた。
「谷村も元気でねぇ。あんまり栗ちゃんのこと困らせたら駄目だよぉ」
「俺がいつも困らせられてるんだけど…」
「あぁ!?なんか言ったか谷村?」
いつものように谷村が恵に蹴られる横では倉本が瑞稀の両手をがっちり握っていた。
「瑞稀!!俺、またすぐ来るからな!手紙も書くからな!電話もするし!携帯持ったら俺に真っ先に番号教えろよ!俺の番号はこれだからいつでもどこでもかけてこいよ!!」
「うん。ありがとうくらもっちゃん。楽しかったよ」
感情をあまり表に出さない瑞稀のその言葉は少し事務的ではあったがそれでも倉本には十分伝わったようだった。

269 :ユーは名無しネ:2014/09/02(火) 21:13:23.48 0.net
「颯」
それまで少し離れた場所で無表情のまま立っている颯に、岸くんが歩み寄った。
「とりあえずやれるだけやってくる。明後日の昼ごろ帰ってくるからまた土産話聞いてくれよ」
「うん…」
「そんな顔すんなよ。仮に受かったとしても向こうに行くのは早くても冬ぐらいなんだから、これが永遠の別れじゃないだろ」
「うん…」
颯はそれしか言えない。何か言おうとしてもこみあげるものが邪魔をする。口を開けばまた岸くんを困らせるようなことを言ってしまいそうだからだ。
だけど、これだけは言わなきゃ、と颯は歯を食いしばった。
「がんばってね、岸くん…!」
「おう。親父が昨日言いふらしたから島の皆の期待背負っちゃってるし、がんばるしかないって感じ。自分の力出し切れるようがんばるよ!」
岸くんが颯の肩に手を置くと、堪えていたものが決壊してしまい、颯は涙を流す。それをよしよしと岸くんが慰めた。その光景を皆は微笑ましく見守る。
「なんか、本当の兄弟みたいだな、あいつら。背は颯の方が高いけどよ」
神宮寺がそう言うと、恵はギャハハハハハと笑う。
「俺はあんな汗だくの涙目の兄貴なんかやだね!颯はあいつ、岸のこと良く言いすぎなんだよ!」
「俺はアホの兄貴の方が嫌だけどね…」
聞こえないように呟いたつもりが、谷村のその呟きはしっかりと恵の耳に入っていてやはり蹴りを喰らう。
「ま、俺らも5人兄弟みたいなもんだったけどな。夏が終わったら倉本は別の学校に行ってしまうからな」
羽生田の言葉に岩橋と嶺亜が「あ」と顔を見合わせた。

270 :ユーは名無しネ:2014/09/02(火) 21:14:56.25 0.net
「そうだったよぉ。これ、郁の送別会だったんだぁ」
「すっかり忘れてたよね、その初期設定」
「おいおいお前ら薄情だなー。つっても岸たちみたいに島と本土の距離とかじゃなく普通に電車で日帰りできる距離だけどなー」
倉本はそうぼやいて小型船に乗り込む。そろそろ出発だよと声をかけられたからだ。皆もそれに倣う。
「じゃあな!!また会おーぜー!!」
船は出発する。恵も龍一も瑞稀も…そして颯もその姿が見えなくなるまで手を振ってくれていた。
船内は6人も乗るとぎゅうぎゅうだからか、身を寄せ合う形になった。
「さー帰ったらいよいよ夏休みが終わるなー」
両手を後頭部でく見ながら神宮寺が呟く。
「ほんとだねぇ。でも、いい思い出出来たよぉ。最高に楽しい夏休みだったぁ」
嶺亜がそう言う横で岩橋も「そうだね」と同意していた。
「岸くん、着いたらすぐ会場入りか?」
羽生田が隣の岸くんに問う。岸くんは紙キレを取り出し、ええと…と頭を捻る。
「まず荷物置きにホテル向かって、置いたらすぐ会場に行くよ。あ、なんか今更ドキドキしてきた。忘れもんなかったかな…財布と二次オーディションの合格通知と住民票と…あれ?財布がない!どこにやったっけ…?あああああああああ」
「ちょっと大丈夫?今なら船、戻してもらえるんじゃない?」
心配げに岩橋がそう言ったと同時に財布が鞄の底から出て来た。一同はホっとする。
「大丈夫ぅ?岸ぃ、なんか心配になってきたよぉ。無事会場まで辿り着けるぅ?」
「俺達で付いてってやろうか?」
「だーいじょうぶだいじょうぶ!!こう見えて俺はもう18だよ!?君達より年上だよ?」
「頼りねーなーオイ。颯の奴よくこんなん慕ってんなー。普通は恵みたくなるぜ」
皆が笑うと岸くんはちっちと指を左右に振った。

271 :ユーは名無しネ:2014/09/02(火) 21:15:34.05 0.net
「あのね、俺は島の皆のお兄ちゃんなの。だからそうカッコ悪いところも見せらんないの。颯にあそこまで言ってハイ落ちましたなんて恥ずかしくてそれこそ島にいられないからなんとしても受からなくちゃ」
「へぇ、一応お兄ちゃんとしてのプライドがあるんだねぇ。見た目は颯の方が大人びてるし色んなことできそうだけどぉ」
嶺亜の小悪魔チックな嫌味に、岸くんはバツが悪そうに頭を掻いた。
「…まあ、当たらずとも遠からず、かな。俺ね、颯にずっと言えなかったことがあるんだけど…」
なになに、と皆が前のめりになると岸くんは小声で、訊きとるのが困難なくらいの音量になる。
「颯がヘッドスピンできるようになって…俺もやってみようと思って何回かこっそり練習してたんだけど、結局できなくてさ。教えてっていうのもカッコつかないしけっこうがんばってたんだけど。それがちょっと悔しくて」
爆笑が狭い船室の中に響き渡る。腹を抱えて笑われ、岸くんは汗だくになった。
「そんな笑うこと?都会の人達は笑いのツボがずれてるよ…まったく」
「だから颯がヘッドスピンし出した時表情が暗かったんだね。あれは悔しかったんだ。謎が解けたね」
岩橋が笑いすぎて涙が出てきたのをハンカチで拭きながら納得していた。羽生田も頷く。
「多分颯は岸くんが必死で練習してる姿くらい見たことあると思うぞ。なんとなくそんな気がするな」
「うっわーそれって超恥ずかしーじゃん!!」
爆笑しながら神宮寺は足をバタバタさせた。
「颯は大人だからきっとこれからも知らないふりを突き通してくれるよ」
岩橋が笑いをこらえながら言う。
「でもでもぉ…それでもあれだけ慕ってるんだからぁ…颯の気持ちは本物だよぉ。良かったねぇ岸ぃ」
嶺亜が岸くんの肩をぽん、と叩くと岸くんは「泣きそうっすね…」と呟いていた。

272 :ユーは名無しネ:2014/09/02(火) 21:16:41.35 0.net
「お前ら騒ぎすぎ。もっとこう…海を見つめて己の心を浄化させろよなー」
それまで一緒になって笑っていた倉本が急に大人の意見を出して来た。皆が不思議そうに顔を見合わせると、倉本は狭い船室から出てデッキに立ち、風と太陽を受けてこう言った。
「あー…なんか眼から海水出て来た。しょっぺー…」
それは潮騒の音に掻き消されそうになったが皆の耳に、心にしっかりと響く。
その皆の気持ちを岩橋が代弁した。
「引越しが終わったら家に遊びに行くよ。だからちゃんとこまめに知らせてよ、倉本?」
倉本は背を向けたまま頷いた。
太陽だけがその顔を覗き見てこう呼びかける。離れていても心はずっと側にいるよ、と。
そう、例えいつかは皆違う場所にいたとしてもずっと一緒だよ。確かに一緒に過ごした少年の頃がその心の中に永遠にあるから…



おわり

参考資料「少年の頃」(佐藤博美:詩 坂田雅弘:曲 混声合唱の為の「五つの映像」から)

273 :ユーは名無しネ:2014/09/03(水) 00:51:20.91 0.net
ほっこりしていてなんだかなつかしくて良い話でした(涙)

タイムリーな作者さん
もし可能でしたらファンカッションの投票のときに
れあたんが谷村に土下座して「お願いします!」と頼み込んで
谷村がまーまーみたいなジェスチャーをしたエピから小説を書いてもらえたら嬉しいです

でも作者さんの好きなものを本当に書いてほしいので
もし余裕があったらで大丈夫です
これからも楽しみにしています

274 :ユーは名無しネ:2014/09/03(水) 02:11:34.86 i.net
作者さん素晴らしかった!ありがとうございます

275 :ユーは名無しネ:2014/09/03(水) 06:47:02.88 I.net
作者さん乙です!
夏らしくて爽やかだったけど、少し切なくて最後はホロリでした…
次回も楽しみにしてます!

276 :ユーは名無しネ:2014/09/03(水) 14:42:27.42 0.net
倉木麻衣がベストアルバム「MAI KURAKI BEST 151A -LOVE & HOPE-」を11月12日にリリースすることが発表された。
倉木にとって3作目のベストアルバムとなる本作は、「Secret of my heart」などのミディアムチューンやバラード曲を15曲集めた“LOVE”と、「Love, Day After Tomorrow」をはじめとしたアップテンポなナンバーを15曲収録した“HOPE”という2枚のCDをパッケージしたもの。
初回限定盤にはDVDが付属し、初回限定盤A付属のDVDでは“LOVE”、初回限定盤B付属のDVDでは“HOPE”の全収録曲のビデオクリップもしくはライブ映像を観ることができる。なお本作のジャケットで倉木は1stアルバム「delicious way」のジャケット写真を再現。
また倉木は、ベストアルバムの収録曲をすべて披露するスペシャルライブ「15th Anniversary Mai Kuraki Live Project 2014 BEST “一期一会” 〜Premium〜」を12月6日に東京・日本武道館で開催することも発表した。

277 :ユーは名無しネ:2014/09/03(水) 19:56:03.29 0.net
また例のageキチガイが発狂してる
このスレも平和な場所に移動した方がいいかもね

278 :ユーは名無しネ:2014/09/04(木) 00:04:44.29 0.net
ここで言われても・・・
文句はそのスレで言ってよね

279 :お前の正体はとっくにばれてるからね:2014/09/04(木) 12:17:35.23 0.net
岩橋婆の口癖まとめ

「1000なら岩橋デビュー」
「いわちキャワキャワ」
「嶺亜はデビュー」
「神宮寺はない」「岩橋が無理なら神宮寺もない」「じぐいわ推しなら岩橋」
「神宮寺はチンパンジー」
「岸は猿顔」
「顕嵐は女関係が〜」「デビューして欲しくない」
「森田は女関係が〜」「退所しろ」
「永瀬はきつい」「チンピラ」「目が死んでる」「歌い方が変」「退所しろ」
「平野はイケメン(アゲアンチ)」「カスカス」「劣化」
「高海は人気出ない」「東南アジア」
「関西はイメージ悪い」「品がない」
「セクゾは〜」「セクゾ担は〜」「佐藤勝利なんて〜」
「しょうれんかいは〜」「しょうれんかい担は〜」
「高地は無理」「高地は早くやめろ」
「ジェシーと京本はデビューしないパターン」
「俺は〜」「男ヲタは〜」「お前は男ヲタ!」
「“私は人気者”」「“私を嫌っているのは1人だけ!”」
「アンチは消えないよ(キリッ」「次スレ!(2ちゃん依存症)」 

スペオキ→岩橋(何が何でも叩かない・貶さない)
オキニ→嶺亜
大嫌い→永瀬(老婆の「平野&岩橋イチャイチャ妄想」に邪魔な相手)
大嫌いだが岩橋とのホモ妄想相手としてはアリなので複雑な気持ち→神宮寺、平野


こいつは他人の予想なんかハナッから聞く気なんてない
ただの自分の差別と偏見に満ちた意見を他人に押し付けたいだけ
自分のイライラ・欲求不満だらけの脳内を他人に投影して相手叩いてスッキリしたいだけ
スレに来る住人はこいつの都合の良い「鏡」ではありません

280 :ユーは名無しネ:2014/09/04(木) 12:37:40.63 0.net
さあーーーーーーーーーーーーーーーーーー 復 習 しまちょうかwwwww 精神異常老婆・岩橋婆wwwww

岩 橋 婆 の 病 名 w

■境界性人格障害 (投影同一視をする悪癖が習慣化)
■自己愛性人格障害 (「私は皆から愛されてる!」妄想、「私の意見は影響力がある!」妄想 ※実際はただの嫌われ者) ←←←←
■強迫性障害 (他人との会話に飢えている・他人と繋がれないとイライラ・孤独恐怖症・自分の無価値を否定したい・異常粘着)
■統合失調症 (妄想妄執・自分の病態をきちんと自覚しない・自慢したがり・反省しない・気に入らない流れになると暴れるetc.)

※主な統失の症状

■幻覚・妄想
・明らかに誤ったネタを信じ、周りが「ガセだよ」「ネタだよ」と訂正してあげても受け入れられない
・他人のなにげない言動を勝手に「攻撃的だ」「喧嘩腰だ」だと決めつける(★被害妄想)
・「誰かが私(2ちゃんねるではスレッド)をコントロールしようとしている」と決めつける(★作為体験妄想)
 (境界性人格障害の投影同一視が癖になっている婆さんにはかなりムカつくらしい)
・「私の言葉には影響力がある」「私の言葉はジャニーズ事務所を動かせる」
 「私は皆から好かれている」「私は人気者」などと妄想する(★誇大妄想) ←←←←←←←←←←←←←←←←←←←←←←←
 (※実際は他人から嫌われまくっていて「価値の無い人間」としか思われてない) ←←←←←←←←←←←←←←←←←←←←

■生活の障害
・コミュニケーション障害(他人と普通の会話ができない、他人への理解が欠如し、すれ違う)
・感情障害(物事に適切な感情がわきにくい(偏愛・それ以外を憎悪して粘着・年齢相応の感情の欠如など))
・意欲障害(根気が続かない、1日中ゴロゴロ、汚部屋を放置、入浴をさぼる、引きこもるなど)
 (※普通の人間ができるような簡単な仕事すらできない(作業ミスが多い、作業効率が悪い))

■病識の障害
・自分自身の病気をきちんと自覚できない ←←←←←←←←←←←←←←←←←←←←←←←←←←←←←←←←←←←←←
・自分自身を他人の立場から見直して自分の誤りを正していく機能が衰えている
 (「反省しない」というより、「私は正しい」と信じ込んでいるから自分を改めない) ←←←←←←←←←←←←←←←←←←←←←


実際は皆から嫌われまくり、 しかも さんざんJr叩きまくって 嫌われるだけのことをしている自覚あるくせにwwwwwwwwwwwww

いつまでも いつまでも 「私は皆から愛されいる!」 と 自己愛性人格障害 & 統合失調症 の症状炸裂させて 勘 違 い w

その結果が 50代老婆になっても 彼氏いない 友達いない 親から鬱陶しがられ&ウザがられる生活とか 大  笑  い  wwww

281 :ユーは名無しネ:2014/09/04(木) 12:45:12.28 0.net
岩橋婆の口癖まとめ

「1000なら岩橋デビュー」
「いわちキャワキャワ」
「嶺亜はデビュー」
「神宮寺はない」「岩橋が無理なら神宮寺もない」「じぐいわ推しなら岩橋」
「神宮寺はチンパンジー」
「岸は猿顔」
「顕嵐は女関係が〜」「デビューして欲しくない」
「森田は女関係が〜」「退所しろ」
「永瀬はきつい」「チンピラ」「目が死んでる」「歌い方が変」「退所しろ」
「平野はイケメン(アゲアンチ)」「カスカス」「劣化」
「高海は人気出ない」「東南アジア」
「関西はイメージ悪い」「品がない」
「セクゾは〜」「セクゾ担は〜」「佐藤勝利なんて〜」
「しょうれんかいは〜」「しょうれんかい担は〜」
「高地は無理」「高地は早くやめろ」
「ジェシーと京本はデビューしないパターン」
「俺は〜」「男ヲタは〜」「お前は男ヲタ!」
「“私は人気者”」「“私を嫌っているのは1人だけ!”」
「アンチは消えないよ(キリッ」「次スレ!(2ちゃん依存症)」 

スペオキ→岩橋(何が何でも叩かない・貶さない)
オキニ→嶺亜
大嫌い→永瀬(老婆の「平野&岩橋イチャイチャ妄想」に邪魔な相手)
大嫌いだが岩橋とのホモ妄想相手としてはアリなので複雑な気持ち→神宮寺、平野


こいつは他人の予想なんかハナッから聞く気なんてない
ただの自分の差別と偏見に満ちた意見を他人に押し付けたいだけ
自分のイライラ・欲求不満だらけの脳内を他人に投影して相手叩いてスッキリしたいだけ
スレに来る住人はこいつの都合の良い「鏡」ではありません

282 :ユーは名無しネ:2014/09/04(木) 15:25:13.18 0.net
>>273
諸事情によりガムシャラ夏祭りに一度も行けていないのでもう少し詳しく教えていただけるとありがたいです

283 :ユーは名無しネ:2014/09/04(木) 17:09:31.53 0.net
>>282
お ま え なんか ただの人生の 負け犬老婆じゃんwwwwwもしかしてまだ気付いてないの?乙wwww


50代になっても性欲まみれに 10代の オトコの子アイドル で 頭がいっぱいの ゴミ老婆、マジで乙w

284 :ユーは名無しネ:2014/09/05(金) 21:13:16.93 I.net
作者さん素晴らしい!!

285 :ユーは名無しネ:2014/09/05(金) 22:59:09.75 0.net
>>284
お前の死期が近づいてるからそう思うんじゃない?wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww


なにせ お前のやってることは いつも いつも  投 影 同 一 視  だもんねwwwwwwwwwwwwww


自分じゃ気が付いてないんだろうけど 常に お前自身の 自己紹介してるよねwwwwwwwwwwwwwww


何度も 何度も 何度も 指摘してあげてるのに、 指摘してあげないと気が付かないでしょwwwwwwwwww


そこが精神病患者のお前の、健常者には絶対に勝てないところだよねwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww


これまでに何度、岩橋婆のミジメったらしい 自己紹介=岩橋婆自身の醜い部分の他人への投影 を指摘してあげたことかw


だ け ど 、 50年 カンチガイし続けた 人生終わった精神病ババアだから いつまで経っても気付かないんだよねwwww


ブザマに ブザマに 私の釣り文章に 反応し続けて文句wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww


赤の他人ならいちいち反応する必要ないのにwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwワロスwwwwwwww負け犬乙wwww

286 :ユーは名無しネ:2014/09/05(金) 23:25:28.00 0.net
>>284
岩橋婆=統合失調症 その症状の一部!wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww


・意欲障害(根気が続かない、1日中ゴロゴロ、汚部屋を放置、入浴をさぼる、引きこもるなど)
 (※普通の人間ができるような簡単な仕事すらできない(作業ミスが多い、作業効率が悪い)) ←←←←←←←←←
・自分自身の病気をきちんと自覚できない


・意欲障害(根気が続かない、1日中ゴロゴロ、汚部屋を放置、入浴をさぼる、引きこもるなど)
 (※普通の人間ができるような簡単な仕事すらできない(作業ミスが多い、作業効率が悪い)) ←←←←←←←←←
・自分自身の病気をきちんと自覚できない


・意欲障害(根気が続かない、1日中ゴロゴロ、汚部屋を放置、入浴をさぼる、引きこもるなど)
 (※普通の人間ができるような簡単な仕事すらできない(作業ミスが多い、作業効率が悪い)) ←←←←←←←←←
・自分自身の病気をきちんと自覚できない


・意欲障害(根気が続かない、1日中ゴロゴロ、汚部屋を放置、入浴をさぼる、引きこもるなど)
 (※普通の人間ができるような簡単な仕事すらできない(作業ミスが多い、作業効率が悪い)) ←←←←←←←←←
・自分自身の病気をきちんと自覚できない


100回ぐらい読み直したら?wwwwwwwwwwwwwwwww統合失調症の負け犬、岩橋老婆!wwwwwwwwwwwwww


>※普通の人間ができるような簡単な仕事すらできない
>※普通の人間ができるような簡単な仕事すらできない
>※普通の人間ができるような簡単な仕事すらできない
>※普通の人間ができるような簡単な仕事すらできない
>※普通の人間ができるような簡単な仕事すらできない


何度注意してあげてもスルー耐性0!我慢できませんwwwwすぐレスしちゃいますwww正真正銘のキチガイの岩橋婆wwww


どこまでもみじめwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww


wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww

287 :ユーは名無しネ:2014/09/06(土) 01:17:20.71 0.net
↑最低
なんでこんなことするの?

288 :ユーは名無しネ:2014/09/06(土) 07:23:40.70 0.net
あげたら寄ってくるからsage進行で行こう

289 :ユーは名無しネ:2014/09/06(土) 14:21:32.26 0.net
谷村と琳寧のイチャイチャ読みたいです!

290 :ユーは名無しネ:2014/09/06(土) 20:18:39.59 0.net
>>286
君、頭大丈夫?

291 :ユーは名無しネ:2014/09/06(土) 22:16:00.06 0.net
>>290


ま  た  今  日  も  自  己  紹  介  、  乙  w


なになに?時間の経過とともにムクムクとその 精神病 が復活する感じになってんの?wwwwwww


一時症状が収まっても、すぐに ま た 我慢できなくなっちゃってwwwwwwwwwwwwwww


い つ も の 「自己紹介乙wwww」 の 投 影 同 一 視 が出て来ちゃう感じ?wwwwwwww


さすが 統合失調症 と 境界性人格障害 を 併発している 真性精神病老婆は違うなぁ〜〜〜〜wwwwww


そうやって、 お ま え は 死ぬ日まで 毎日、 毎日、 毎日、 毎日、


そうやって 醜いミジメな精神病 を 炸裂させ続けるんだねwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww


50代老婆になっても、 彼氏も、 友達もいないおまえwwwwww 年老いた家族からも疎まれてるおまえwwwwwww


ねぇお前の親が死んだら、おまえマジで生きていけないでしょ?wwwwwwwww障害者団体も保護してくれないよ?wwwww


自分で自分の世話もできない奴に、楽しく老後生活送ることなんかできないからねwwww10代や20代の女の子相手に


必死で発狂してるヒマがあるなら、少しでも近い未来の お ま え の老後のことでも考えたら?wwwwwwwwwwwwwwwwwwwww




人生終わってる欲求不満岩橋ババアwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww

292 :ユーは名無しネ:2014/09/06(土) 22:24:19.32 0.net
作者さんどっかいっちゃった?

293 :ユーは名無しネ:2014/09/06(土) 23:13:29.66 0.net
>>291

股間の中くさってくさい包茎

294 :ユーは名無しネ:2014/09/06(土) 23:15:36.07 0.net
>>291


君の金玉は赤い 血みどろのちんちん

295 :ユーは名無しネ:2014/09/06(土) 23:28:33.86 0.net
またあのキチガイのせいで過疎っちゃう

296 :ユーは名無しネ:2014/09/07(日) 09:09:01.62 0.net
>>291
いい加減にしないときんたま噛みちぎるぞ

297 :ユーは名無しネ:2014/09/07(日) 18:12:17.10 I.net
換気

298 :ユーは名無しネ:2014/09/07(日) 18:13:17.09 I.net
はいはいスルーしようね

299 :ユーは名無しネ:2014/09/07(日) 18:13:57.40 I.net
荒らしてるの中学生かよ

300 :ユーは名無しネ:2014/09/07(日) 19:27:04.41 0.net
>>298
864 :rafale ★:2007/05/16(水) 21:54:59 ID:???0 ?2BP(9000)

真・スルー 何もレスせず本当にスルーする。簡単なようで一番難しい。
偽・スルー みんなにスルーを呼びかける。実はスルーできてない。 ←←←←←←←←←←←wwwwwwwww
予告スルー レスしないと予告してからスルーする。
完全スルー スレに参加すること自体を放棄する。
無理スルー 元の話題がないのに必死でスルーを推奨する。滑稽。
失敗スルー 我慢できずにレスしてしまう。後から「暇だから遊んでやった」などと負け惜しみ。
願いスルー 失敗したレスに対してスルーをお願いする。ある意味3匹目。
激突スルー 話題自体がスルーの話に移行してまう。泥沼状態。
疎開スルー 本スレではスルーできたが、他スレでその話題を出してしまう。見つかると滑稽。
乞食スルー 情報だけもらって雑談はスルーする。
質問スルー 質問をスルーして雑談を続ける。
思い出スルー 攻撃中はスルーして、後日その思い出を語る。
真・自演スルー 議論に負けそうな時、ファビョった後に自演でスルーを呼びかける。 ←←←wwwwwwwwwww
偽・自演スルー 誰も釣られないので、願いスルーのふりをする。狙うは4匹目。
3匹目のスルー 直接的にはスルーしてるが、反応した人に反応してしまう。
4匹目のスルー 3匹目に反応する。以降5匹6匹と続き、激突スルーへ。


2ちゃんねる運営が作ったテンプレだそうです♪


「スルー!スルー!」って必死な奴 = 全くスルーできていない奴 wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww


「いわち」で他の男とのホモ妄想に必死な い つ も の岩橋婆さん自爆おつかれwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww

301 :ユーは名無しネ:2014/09/07(日) 21:44:29.08 0.net
上がってるスレに自動的に書き込まれるみたいだからスルーというよりsage進行にして目に触れないようにした方がいいよ

302 :ユーは名無しネ:2014/09/08(月) 12:39:14.60 0.net
こんな奴のせいで作者さんが来られなくなったら可哀想

303 :ユーは名無しネ:2014/09/10(水) 00:29:21.35 0.net
>>282
リクエストしていて申し訳ないですが、この現場にいなかったので
それ以上のことがわからないです。あぁごめんなさい

作者さんずっと続けて下さいね
ここじゃないところでもいいと思います

304 :ユーは名無しネ:2014/09/10(水) 19:29:47.25 0.net
どんなお話でも、とっても楽しみに待っています!

305 :ユーは名無しネ:2014/09/10(水) 19:34:40.44 0.net
岩橋婆の病名

■境界性人格障害 (投影同一視をする悪癖が習慣化)
■自己愛性人格障害 (「私は皆から愛されてる!」妄想、「私の意見は影響力がある!」妄想 ※実際はただの嫌われ者)
■強迫性障害 (他人との会話に飢えている・他人と繋がれないとイライラ・孤独恐怖症・自分の無価値を否定したい・異常粘着)
■統合失調症 (妄想妄執・自分の病態をきちんと自覚しない・自慢したがり・反省しない・気に入らない流れになると暴れるetc.)

※主な統失の症状

■幻覚・妄想
・明らかに誤ったネタを信じ、周りが「ガセだよ」「ネタだよ」と訂正してあげても受け入れられない
・他人のなにげない言動を勝手に「攻撃的だ」「喧嘩腰だ」だと決めつける(★被害妄想)
・「誰かが私(2ちゃんねるではスレッド)をコントロールしようとしている」と決めつける(★作為体験妄想)
 (境界性人格障害の投影同一視が癖になっている婆さんにはかなりムカつくらしい)
・「私の言葉には影響力がある」「私の言葉はジャニーズ事務所を動かせる」
 「私は皆から好かれている」「私は人気者」などと妄想する(★誇大妄想)
 (※実際は他人から嫌われまくっていて「価値の無い人間」としか思われてない)

■生活の障害
・コミュニケーション障害(他人と普通の会話ができない、他人への理解が欠如し、すれ違う)
・感情障害(物事に適切な感情がわきにくい(偏愛・それ以外を憎悪して粘着・年齢相応の感情の欠如など))
・意欲障害(根気が続かない、1日中ゴロゴロ、汚部屋を放置、入浴をさぼる、引きこもるなど)
 (※普通の人間ができるような簡単な仕事すらできない(作業ミスが多い、作業効率が悪い))

■病識の障害
・自分自身の病気をきちんと自覚できない
・自分自身を他人の立場から見直して自分の誤りを正していく機能が衰えている
 (「反省しない」というより、「私は正しい」と信じ込んでいるから自分を改めない)


岩橋婆さんの好みのタイプ

■北山宏光
■倉本郁
■岩橋玄樹
■中村嶺亜

・揃いも揃って子供っぽい・男らしくない・「あざとぶりっ子」と言われるタイプ
・北山・倉本・岩橋は顔がムニュムニュ・ぷにぷにしているタイプ
・岩橋婆が「男」に全く免疫がないため、この手の男性的でなく一見無害そうなタイプを好む(注:岩橋婆さん→すでに50代)
・リアルで「普通の大人の男性」とまともに付き合えないため、童貞臭い(処女性の強い)タイプに惹かれるらしい

306 :ユーは名無しネ:2014/09/10(水) 20:46:18.54 0.net
だから上げんなっつーの

307 :ユーは名無しネ:2014/09/12(金) 11:06:40.36 0.net
>>282
今更だけど…
Jr票を入れる際、チーム者のメンバーが座って並んでて
その前を谷村が通る時にれあたんが座ったまま「谷村お願い〜」って発言したんだ
マイク入ってて会場全体に聞こえちゃったんじゃないかな、たぶん
で、谷村が投票ボールを入れた後に安井くんが「谷村といえば背伸びたよね!」と谷村の話題に。

あとエンディングでみんな自由に動き回るシーンでたにれあぶつかったみたい?
谷村を見上げて「もーー」って拗ねるような顔したれあたん。
ちなみに谷村の反応は両方ともにこにこ顔(にやにや?)でした


作者さん、素敵なお話を書いて下さってありがとうございます。
心の支えです!これからも楽しみにしています!

308 :ユーは名無しネ:2014/09/13(土) 19:42:14.96 0.net
とりあえず妄想だけで書いてみよう

ガムシャラSexy夏祭り記念


夏真っ盛り。照りつける太陽が肌を刺す。うだるようなその暑さは体力も気力もごっそり奪い去って行くかのように残酷だ。
その辛辣な無言の圧力に耐えながら谷村龍一は六本木を目指す。クーラーの利いた電車を降りるとまたむせかえるような熱気。できるだけ日陰を選んだつもりだが着いた頃には汗が全身から吹きだしていた。
だが無気力になっている余裕はない。これから本番。気の緩みは1ミリも許されないのである。そう、例えバック要員とはいえ出演者には違いないのだから。
楽屋に入るとすでに何人かは先に来ていて振りの確認や休憩にあけくれていた。適当に挨拶をしてバックを置き、椅子に座ろうとすると同じジャニーズJrの菅田琳寧が話しかけて来た。
「あ。タニムー。ハエ止まってるよ」
「え?」
言われて肩のあたりに目をやると、本当にハエが止まっていた。慌てて手で払うと蛍光灯のあたりまで飛んで行く。
「…」
なんか、最近ハエにたかられることが多い気がする…
それもこれは何かの暗示で、今日もまた何か良くないことが起ころうとしているのだろうか…
自我修復しかけて、いやいやいかんと気を引き締めた。とりあえず爽やかな匂いを発しておけば寄って来ないだろうとミントタブレットを数粒口にする。スーっと爽やかな味が口内に広がった。
よし、これで大丈夫だ。アイドルたるものお口のケアも怠ってはいけない。ハエのたかるアイドルなんて笑い話にもならない。

309 :ユーは名無しネ:2014/09/13(土) 19:43:09.83 0.net
「なあ、どこが優勝すると思う?」
楽屋内ではもう終盤にさしかかった我武者羅各チームの勝敗についての話題に花が咲く。ここの楽屋のJrはどのチームにも属していないが皆興味津々だ。
「やっぱ羅じゃね?ダブルダッチ凄いもんよ。迫力もある人らばっかだし」
村木亮太がポッキーを咥えながら言った。その隣でう〜んと本高克樹が首を捻る。
「確かに凄いけど…地味なようでいて実は大変なファンカッションの方が見栄えしない?者じゃないかなー」
「お前は嶺亜くんがいるからそう思うだけだろ」
村木にからかわれて、本高は「そんなことない!」と反論に必死だった。それを横目に鈴木舜映が顎に手を当てながら考える仕草をする。
「案外…武かも。勝敗成績でいうとちょっと厳しいけどここから逆転したら凄いドラマだし。元太とか怪我しながらも頑張ってるしそういう姿がファンの心を打つと思うけどー」
「我じゃない?背も高いし目立つしバスケとかモテそう」
ポリンキーをかじりながらヨーヨー片手に海宝潤がしれっと言い放つ。それぞれが自分なりの意見を言い終わったところで谷村にも意見が求められた。
「タニムーは?どう思う?」
「うーん…分かんない…」
谷村には実のところ良く分からなかった。対戦成績がどうなってるのかも詳しく知らないし自分のポジションをこなす方に意識を置いているからだ。決して無関心な訳じゃないのだが…
「でもさ、俺達の票で勝敗決まるかもって思うとちょっとやる気出るよね」
そうなのだ。何故か勝敗を決定する方法がファンの歓声からそれプラスJrの1票も加わるようになった。まあ歓声で全てを決めるのもどうかという判断に至ったのかもしれない。
「俺の1票かあ…」
なんだかまた責任が増えた気もするが、素直にいいと思ったチームに投票すればいいだけだ。そんなことより立ち位置と振りの確認をきちんとしなければ。間違いは許されないのだから。

310 :ユーは名無しネ:2014/09/13(土) 19:43:58.48 0.net
ステージ裏に向かうと、メインを任されたJr達が衣装や振りなど細かい点の確認を各自がしているのが見えた。今日の対戦はどのチームだったっけ…と考えていると何かにつまづいて転倒しかけた。
「うわっ」
咄嗟に誰かの肩につかまってしまい、その相手がよろめいた。
「あ、ごめんなさ…」
頭を下げかけて、その絶対零度に凍りつく。
グレーのベストにパンツ、フォーマルウェア風の衣装に身を包んだ中村嶺亜がそこにいた。本番前のナーバスな状態であることは誰の眼にも明らかである。谷村はもう背中に汗をかいた。
ファンには「天使」とか「れあたん」とか「ぶりっこ小悪魔」なんて呼ばれているが今の嶺亜はまるで目で人を殺せそうな凄腕のアサシンそのものだ。その瞳から放たれる絶対零度はあらゆる生物を氷漬けにしてしまうほどの威力があり…
「すいません…」
恐怖で上手く発音できず、硬直していると嶺亜は抑揚のない冷たい口調で一言だけ言った。
「気をつけてぇ」
「はい…」
出会った頃はお互いまだ小さくて、特に嶺亜は一つ年上なのに声も高くてふわふわして女の子にしか見えなかった。
あれから約三年。身長も伸びて大人の顔つきになった彼だが、それ以上に自分が身長を伸ばしたためその差はあの頃より開いている。このまま包みこめそうだった。
脱ぐと意外とガタイがいいと言われていても、衣装に身を包むと着痩せするのか驚くほど華奢である。しかし男らしくなるどころか年々女性化している気がする…その白い肌はこの暑さでも全く色づくことはない。
「ダメじゃんタニムー気をつけないと。者と武の人達皆殺気だってるから近付かない方がいいって」
小声で琳寧に諭され、谷村は頷く。見れば嶺亜だけでなく本日の対戦チームは皆無言でイメージトレーニングに励んでいた。和やかさとは対極にある極限の緊張。そこに土足で踏み込んだ瞬間絶対零度どころか無数の槍が飛んできそうである。
「うん。気をつける。刺されたくないし…」
そう答えて、谷村は自分の出番に集中することにした。

311 :ユーは名無しネ:2014/09/13(土) 19:45:06.10 0.net
「もりあがっていこ〜ぜぇ〜!!!」
幕は開けた。集中してしまえばあとはあっという間だ。なんだかんだ言ってもコンサートは楽しいしやりがいがある。自分の団扇を発見するとやる気も上がってくる。人前に立つことに快感を覚えるようになったのは成長かもしれない。
ガムシャラ対決はJr投票にさしかかる。谷村は客観的に見てどちらも凄いと思ったし自分もこうやってチーム一丸となって勝利のために努力するという経験がしてみたくなった。
得意なことより圧倒的に不得意なことが多い自分だが何か試練を与えられれば一皮剥けるかもしれない。
そんなことをぼんやりと思いながら投票権であるボールを手に取り、どっちに投票しようか考える。
チーム武もチーム者も投票権を持つJrに猛烈アピールを始めていた。ある人は「お願い!」と手を合わせていたしある人は入れろ入れろと煽っていて…そしてふと嶺亜を見やったその時…
『お願い(はぁと)者に入れてぇ(はぁと)入れてくれなきゃスネちゃうぞぉ(はぁと)』
「…!?」
谷村は思わず目を擦った。なんだかありえないものが見えている…。
一度目をきつく閉じてみて、また開いたがそれは幻覚ではない。はっきりとこの眼に現在進行形で焼きつかれている。
今さっき絶対零度を放って「気をつけてぇ」と冷たく言い放ったことの方が幻覚だったのではと錯覚させるかのようなうるうるお目目のおねだり状態…まるで彼女が彼氏に「あれ買ってぇ」とでも甘えるかのようなスウィーティーな視線がこちらに投げかけられている。
そして信じられないことに嶺亜の前を通りかかると…
「谷村お願いぃ」
幻聴?谷村は思わず自分の耳を引っ張った。

312 :ユーは名無しネ:2014/09/13(土) 19:45:52.44 0.net
誰かが言っていた。嶺亜は先輩の前では4オクターブ高くなるという…この声色はまさにこれではないのか。
だけど俺は先輩じゃない。むしろ後輩だ。こんな声、三年間一度たりとて俺に出したことなどないのに…
嶺亜が負けず嫌いなのは知っている。だからこそ勝つためには谷村にだって猫撫で声の一つや二つ出せちゃうよぉ…と言ったところだろうか。
上目遣いとぶりっこボイスのコンボの威力は凄まじい。普段むしろわりと虐げられているだけにその破壊力たるや軽くテポドンを超えてしまってもうボールを持つ手が震えた。
「…」
雲の上に乗ったかのような気分で投票を終えると司会の安井謙太郎が「谷村背伸びたね」と話をふってきてくれたがそれにすらなんて答えたか分からない。頭の中は一色に染まっていたのである。
そんな浮ついた気分のままエンディングを迎えようとしていると、やらかしてしまった。フリーで移動の際、嶺亜にぶつかってしまう。体格差があるから彼は一瞬態勢を崩した。
やばい…これは絶対零度来る…
浮かれモードが一瞬吹き飛び、背中を冷やしたがしかしブリザードは飛んでこなかった。
(もぉ〜なにやってんのぉ〜)
拗ねたように見上げながらそんな眼で谷村を見て、嶺亜はすぐに天使のスマイルを客席に向ける。
今日の帰り道、俺は側溝にでも落ちて死ぬのかな…死ぬ前に少しいい思いさせてやろうという神様の慈悲かな…嬉しいやら怖いやらで顔面の筋肉がおかしなことになっていた。
自分が今どんな表情でいるのか全く分からなかったがエンディングも終わって舞台袖にはけると琳寧が怪訝な表情で見てくる。
「どうしたのタニムー。ニヤニヤしちゃって。気持ち悪いよ」
「え?」
「終わりのあたりからずっとニヤついてんじゃん。ファンの子の中に可愛い子でもいたのー?」
琳寧は茶化すが、谷村は指摘されても顔が緩んだままなのがだんだん分かってきた。
今日は絶対零度からのおねだりの上目遣いからの拗ねちゃうもん顔の素晴らしい連携プレイだった…
例えハエにたかられてもなんだか幸せな気分である。浮かれるあまり谷村は楽屋のドアで足の子指をぶつけ、「あいたたたた谷村!」と下らないギャクをかまして皆に白けた眼で見られたがそれでもニタニタはとまらなかったという。


おわり

313 :ユーは名無しネ:2014/09/13(土) 19:46:39.10 0.net
スレが荒らされるようなのでsage進行で投稿します

314 :ユーは名無しネ:2014/09/13(土) 21:57:37.71 0.net
作者さん天才

315 :ユーは名無しネ:2014/09/13(土) 22:02:35.53 0.net
≪ 岩橋玄樹ヲタ婆の病名 ≫

■自己愛性人格障害 (「私は皆から愛されてる!」妄想、「私の意見は影響力がある!」妄想 ※実際はただの嫌われ者)
■境界性人格障害 (投影同一視をする悪癖が習慣化)
■統合失調症 (妄想妄執・自分の病態をきちんと自覚しない・自慢したがり・反省しない・気に入らない流れになると暴れるetc.)
■強迫性障害 (他人との会話に飢えている・他人と繋がれないとイライラ・孤独恐怖症・自分の無価値を否定したい・異常粘着)

≪ 岩橋玄樹ヲタ婆さんの好みのタイプ ≫

■北山宏光
■倉本郁
■岩橋玄樹
■中村嶺亜

・揃いも揃って子供っぽい・男らしくない・「あざとぶりっ子」と言われるタイプ
・北山・倉本・岩橋は顔がムニュムニュ・ぷにぷにしているタイプ
・岩橋婆が「男」に全く免疫がないため、この手の男性的でなく一見無害そうなタイプを好む(注:岩橋婆さん→すでに50代)
・リアルで「普通の大人の男性」とまともに付き合えないため、童貞臭い(処女性の強い)タイプに惹かれるらしい

※岩橋玄樹ヲタ婆自身が「オキニ」である“岩橋センター”での新ユニットでのCDデビューを望んでいるため、
 来年のワールドカップバレーでのCDデビューを異常なまでに意識し、気に食わない相手を徹底的に叩く

※叩くターゲットは@岩橋以外にセンターになりそうなJr(岩橋=センター、の夢を壊す憎い存在)        
           A岩橋以外にセンターになりそうなJrの「ヲタ」(岩橋以外を応援する人間は許さない)
           B岩橋と仲良くなさそうなJr(岩橋とホモ妄想ができない相手は叩き対象)
           C岩橋と仲良くなさそうなJrの「ヲタ」(岩橋を嫌ってそうだから逆恨み)

※つまり、ほとんどの(岩橋以外のJrと、岩橋以外のJr担)が岩橋玄樹ヲタ婆にとっては「叩き対象」である

316 :ユーは名無しネ:2014/09/14(日) 23:10:37.52 0.net
作者さん、たにれあの小説を書いて頂いてありがとうございます
ハエやあいたたたた谷村まで出てきて感激です
とっても大満足です
次の作品も楽しみにしています

317 :ユーは名無しネ:2014/09/18(木) 19:50:08.27 0.net
第11話

「パパ、郁、おめでとー!!」
勢い良くクラッカーが鳴らされ、リビングの中は火薬の臭いと紙吹雪に包まれる。23日の郁の誕生日と29日の岸くんの誕生日が合同で行われた。
「いやーどーもどーも…」
「サンキューみんな!俺も大きくなったよなー!!」
岸くんは照れ照れ、郁は今日ばかりは家族の王様で気分は上々である。ケーキカットに始まりどんちゃん騒ぎで生誕パーティーは過ぎて行った。おりしも季節は秋。学生達はそれぞれの学校の秋の体育祭に燃えている。
「僕はぁ走るのはわりと自信あるんだけどぉ…応援合戦でチアリーダーやることになったよぉ」嶺亜は金色のポンポン片手に張り切っている。
「ギャハハハハハハハ!!俺足長いけど走るのはあんま得意じゃねえからよ!鉄棒ぶら下がりながら3分いけるからそっちでヒーローになってやるぜ!!!」目方の軽い恵は得意分野で張り切っている
「女子が俺の雄姿を見てキャーキャー叫ぶ姿が目に浮かぶぜ…打ちあげでは渇く暇もないかもな…」勇太はもう終わった後のことを考えている
「さて、筋トレ始めるか…」挙武は案外負けず嫌いである。
「パパ、体育祭見に来てね!俺100メートルリレーとスウェーデンリレーとパン食い競争と綱引きと長縄跳びに出るから!!あと応援団もするし!!」颯は岸くんに見に来てもらうのを楽しみにしている
「怪我しませんように…」龍一はいつものようにネガティブ思考だ
「パン食い競争だけは負けないぜ!!」郁は俄然パン食い競争にやる気を出している
「いやぁ…俺も一昨年まで高校生だったけど体育祭とかなつかしいな…俺さ、こう見えてもけっこう運動は得意で…」
しかし岸くんの昔語りは誰も聞いてくれず、ケーキやご馳走の争奪戦になっていた。ただ一人、颯だけは興味深そうに聞いてくれたがなんだかそれはそれでみっともない気がして岸くんはケーキにフォークを刺す。苺は乗っていなかった。

.

318 :ユーは名無しネ:2014/09/18(木) 19:50:46.12 0.net
秋晴れの三連休、岸家は家族揃って颯の体育祭を見に来た。さすがに運動系に力を入れている学校らしい盛大な行事で、近隣住民や保護者や陸上集団トラヴィス・ジャパンのファンやらで埋め尽くされていた。
早起きは苦手だがこの日は可愛い5男のために…と家族みんなで協力して早朝から場所取りに並んだ甲斐あって絶好の観覧スポットにレジャーシートを広げることができた。始まる前から郁はサンドイッチを一箱たいらげている。
「あ、見て見てぇ、颯だよぉ」
100メートル走が始まり、ハチマキを巻いた颯がアップしているのが見えた。岸家は周りが引くくらいに大騒ぎで応援する。龍一だけは周りを気にして小さく旗を振っていた。
「すげーじゃん颯の奴、ぶっちぎり一位だぜギャハハハハハハ!!さすが俺の弟!!!」
颯は大活躍だった。ふとみれば朝日や顕嵐、海人に海斗とトラビス兄弟もいる。女子生徒に人気なのかキャーキャー言われていた。
「いやぁ…我が息子ながら立派になったもんだ…嶺奈見てる?颯はすくすく育ってるよ…」
天国の亡き妻に息子の雄姿を見せてやりたかった…岸くんがしんみりしているとちょうど体育会はハーフタイムの応援合戦に始まる。
「お、始まったぞ。虎比須学園名物和太鼓応援合戦!」
観客が沸き立つ。言う通り、和太鼓が鳴り響く応援合戦は見ごたえがあった。颯も学ランに長ハチマキと気合いの入った格好だ。

319 :ユーは名無しネ:2014/09/18(木) 19:51:19.39 0.net
「しかしあっちの朝日…だっけ?あいつはああいう格好させると本当に高校生に見えないな」
挙武がじゃがりこをかじりながら呟く。確かにあれは15歳というよりも20年前の30代じみている。
「ふんどしとかすげー似合いそうだな」
「やだぁ勇太ぁ何言ってんのぉ…あ、でもいいカラダしてるぅ」
「ちょっと嶺亜、なんか想像してない?男の価値は肉体美より中身…」
「パパ貧弱だもんなー。中学生の俺より背低いし」
「郁、そこまで大きく育ったのは誰のおかげだと思ってんの?ちょっと嶺亜、なんでハートの眼で顕嵐見てんの?ハルカより奏多派でしょ!!」
「パパ、騒がないで…みっともない…」
「ギャハハハハハ!!龍一に言われてんじゃねーよパパ!!おめーはまずその似あわねー茶髪やめろ!!ギャハハハハハハ!!」
騒ぎに騒いで岸家が若干学校側からマークされかけた頃体育祭は終わる。すぐに解散になるから、と颯を待っていると同級生らしき男子生徒と一緒に歩いてきた。
「パパ、みんな、今日は来てくれてありがとう!!今年は途中で怪我することもなく無事終えてよかった!!」
颯が元気にそう言って、そういや去年は最後のリレーでこけてガチで凹んでたのにそれを隠そうと振る舞ってたっけ…と岸くんは懐かしく思う。
「颯お疲れぇ。隣はお友達ぃ?」
颯の隣には愛らしい小動物系の顔をしたすらりと背の高いスタイルのいい少年が立っていた。
「あ、うん。田島くんって言って…応援団の練習で仲良くなったんだ。一緒に帰ってうちに寄ってもらおうと思って…」
「どうもこんにちは、田島将吾と申します」
礼儀正しくぺこりとお辞儀をして、田島は岸家を見据えた。
「颯の家族の人達って楽しそうだね。賑やかで羨ましい」
「ありがと。パパはかっこいいし、嶺亜くんは料理が上手いし、恵くんはゲームが上手いし、勇太くんはエロいし、挙武くんは頭がいいし、龍一は不憫だし、郁は人懐っこくてよく食べるんだ!みんな俺の大事な家族だよ!」
颯は本当に素直でまっすぐないい子だ…岸くんは感涙に咽ぶ。その颯の友達なのだから田島くんもさぞかしいい子なのだろう…歓迎しつつ家に招いた岸くんだったが…

320 :ユーは名無しネ:2014/09/18(木) 19:52:15.10 0.net
「皆さんはUFOを見たことがありますか…?」
リビングに通されてお茶をもらうなり、田島は真剣な表情でこう呟いた。
「…」
沈黙。
「はい?」
岸くんが訊き返すと、田島はいきなりリビングの外を見てただならぬ雰囲気を出し始める。
「…カーテン閉めてもらえますか…もし宇宙人に見られていたら…」
「あの…田島くん…?」
なんか嫌な予感がする…岸くんがそれを察知していると龍一がカーテンを閉めた。
「ありがとうございます…さすがに盗聴器はないと思うけど…念のため小声で…」
更に声のトーンを落とし、田島はまるで恐怖体験を語るかのように話し始める。至って大真面目な口調で。
「あれはある晴れた日…偶然空を見ていたら…見ていたらUFOが…あああこれ以上は恐ろしくて言えない…勘弁してください攫われちゃう…」
いや、話し始めたのはお前だろ、というツッコミは誰も飛ばさなかった。なんだか触っちゃいけないような気がしたからだ。
「大変だよね、宇宙人に連れていかれたら…。大丈夫、田島はちゃんと秘密守ってるから連れて行かれることはないって」
「ありがとう颯。俺はまだ地球でやり残したことがあるから」
岸くん以下岸家はどん引きである。眉唾も甚だしい話だが本人は至って真剣だから余計にタチが悪い。
「この話、信じてくれたの颯だけなんです」
アイスミルクティーをストローで一気にすすりながら田島はしみじみ語る。
自身の少々エキセントリックな話題についていける友人が少ないことやワサビが克服できないこと、XファイルのDVDBOXが高くて手が出ないことなど…大半はどうでもいい話題であった。
岸くんは思う。どうもこの家に来る子はどこか普通でない奇天烈な子が多い気がする…こないだの本高くんといい…

321 :ユーは名無しネ:2014/09/18(木) 19:52:40.62 0.net
それをバッサリ斬ったのは恵だった。
「ギャハハハハハ!!ゆ〜ふぉ〜だかふぉ〜ゆ〜だか知らねーけどそんなもんあるわきゃねーだろ!!おめーさてはアホだな!?そうなんだな!?」
岸家の切り込み隊長がようやく口を開いて皆の気持ちを代弁してくれた。そう、恵の傍若無人さにかかればこんな話は一刀両断である。他の兄弟も弾かれたように恵に続いた。
「そーだぜ田島くんよ!まあ宇宙人モノのAV?とかなくもねーけどな。俺触手系とかもイケるし。よし、ここはお近づきのしるしに勇太様厳選のファンタジーAVでも見せてやっか!」
「まあそのテの話は俺も嫌いじゃない…本場アメリカではFBIまで調査に乗り込むらしいからな…しかしここは日本だ。田島くんとやら、挙武オススメの『宇宙船サジタリウス』のDVDBOXなら貸してやるぞ。シビップの歌声は泣けるぞ。ガチでな」
「宇宙ならスターウォーズがオススメだよぉ。僕と同じ名前のお姫様が出てきてねぇ…なんなら解説しながら見せてあげよっかぁ?」
「そーいや最近角のパン屋にUFOあんぱんってのができてさー気になってんだよねー俺」
「宇宙戦艦ヤマトは不朽の名作だよね…」
リビングには和やかな雰囲気が漂い始めた。これで一安心…岸くんはほうじ茶をすすった。しかし…
「何を言うんですか!!!!!!!!」
田島の怒声が響き渡る。大人しそうな見た目のわりに渋い声で怒鳴る。岸くんはほうじ茶を吹き、全員硬直した。
ワナワナと震えながら、田島は震える声で語りだした。
「命が惜しかったら二度とUFOを甘く見ないで下さい…ジャスティスは…そうやってジャスティスは俺の前から姿を消したんだ…」
頭を抱え、田島は悲痛な声を出す。
「ジャスティス…今も宇宙をさまよってるのか…ジャスティス…」
「あの…ジャスティスって…?」
岸くんが訊ねると、田島は顔を上げ、答えた。
「俺が愛用していた熊のぬいぐるみです」
「ぬ、ぬいぐるみ?」
「そうです。俺とジャスティスはいつも一緒だった。それなのに…ある日突然ジャスティスは俺の前から姿を消した…」
「それは…なくしたとか捨てられたとかじゃなく…」
「ええ…UFOに連れ去られたんです。俺の身代わりとなって」
これまた真剣な顔だった。こいつのオツムの中はどうなってんだろう…と半ば戦慄していると田島は続ける。
「俺がUFOの存在に気付いたから…それを察知した宇宙人が俺を連れ去る代わりにジャスティスが身代わりになってくれたんだ…そうなんだきっと…あああ、恐ろしい…宇宙人恐ろしい…」
恐ろしいのはお前の頭の中身だ、と喉まで出かかるのを堪えて岸くん達はもう合わせるしかないと判断した。
「田島、大丈夫!ジャスティスはきっと帰ってくるよ!!信じて待とうよ!!」
「ありがとう颯…」
颯だけは真剣に聞いてやって信じている様子である。岸くんは純粋すぎるのも玉にキズだなあと思った。

322 :ユーは名無しネ:2014/09/18(木) 19:53:21.48 0.net
「すみません夕飯までご馳走になってしまって」
上品に茶碗を持ち、米の一粒も残さず田島は綺麗に嶺亜の作った夕飯をたいらげた。彼の家は両親共働きで帰りが遅いというので食べていってもらうことにしたのである。
洗い物まできちんとして田島は和やかにリビングで岸家と談笑する。厄介だから誰もUFOの話題は口にしなかった。させなかった。それさえなければ礼儀正しい好青年なのだ。
そこで、インターホンが鳴った。
「今晩は。実家からピオーネが届いてお裾分けに」
大学生でまだ夏休み中の岩橋がピオーネ片手に訪れた。彼は先日アメリカ旅行に行っていて、その土産話を皆でピオーネをつつきながら聞く。
「向こうは何もかも新鮮で…ルート66には凄く感激したよ。ロサンゼルスの町並みも素敵で…そうそう、あっちではね、今未確認飛行物体がブームで…分かる?UF…」
「ああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!」
それまで丁寧にピオーネの皮を剥いていた田島が実ごと握りつぶして叫び声をあげた。汁が飛び散って龍一の眼に入り、龍一は悶える。
「それ以上はやめて下さい!!奴らが…宇宙人がこの家に目をつけてしまう!!!!」
ピオーネ汁でべとべとの手で岩橋の口を塞いで、物凄い剣幕で田島は岩橋に喚き散らした。
「ちょっと…僕が何を…?初対面なのに、これは新手のいじめ…?」
「カーテン閉めて下さい!!カーテンを!!」
田島は錯乱する。ああ、やっちまった…と嫌気がさしながら岸くんは言われた通りにカーテンを閉める。どん引きの岩橋。嶺亜は無言でピオーネをもぐもぐやっていた。
「落ち着いて田島!大丈夫だよ。皆でゲームでもしようよ。恵くん、何か面白いゲームないの?あるよね?」
颯がフォローし、恵にそう投げかけると「お、おう…」と恵は手を拭いて立ち上がる。そしてWiiを出して来た。

323 :ユーは名無しネ:2014/09/18(木) 19:53:51.28 0.net
「あ、僕はゲームはあんまり得意じゃないので見てようと思います」
気を落ち着かせた田島はまた元のとおり物静かな不思議系少年に戻って再びピオーネの皮を剥き始めた。とにかくUFOの話題さえ出さなければなんの問題もないのである。岩橋にそれとなく耳打ちして、その話題は彼の前では禁物だと教えた。
「…岸くんの家に来る子は変な子ばっかり…」
口元をハンカチで拭いながら、誰にも聞きとれないように呟いた岩橋だったがしっかりと岸くんには聞こえていた。暗闇でデーモン化するお前も人のこと言えないだろというセリフは喉の奥にしまっておく。

ゲーム大会で盛り上がり、夜も更けて来た頃、田島が立ちあがる。
「そろそろ家に帰らないと両親が心配するのでおいとまします。今日はとっても楽しかった。お夕飯もご馳走様でした」
ぺこりと一礼をして田島は帰り支度をしようとする。時計を見ながら恵が、
「ギャハハハハハハ!!おめー変な奴だけどまあ退屈しのぎにはなったぜ!!んじゃ最後にこれやって帰れよ!昨日中古ショップで格安で手に入れたんだぜ!!」
恵はよっこらせと何かのセットを出して来た。岸くんも少し前良くゲーセンでやっていた。ストレス解消にけっこう効果があるのである。そう、『太鼓の達人』である。
「お、いいねー俺もやりたい!リズム感にはけっこう自信があるんだよ。田島くん、対戦しようよ」
張り切ってバチを渡そうとすると、それまでにこにことしていた颯が慌て出す。だが間に合わず田島にバチが渡ったその瞬間…
「ええじゃないかーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
そう叫び、田島はバチを両手に持って勢い良く振りおろす。そして一心不乱にリズム打ちをしだした。
「え、ちょ…」
「あああダメだよパパ、田島にバチ渡したら!!」
「え、なんで?颯…いて!」
田島は岸くんの背中をまるで太鼓のように叩き始める。そのリズム感はハンパじゃない。だけど痛い。俺は太鼓じゃない、そう言おうとしたが今の田島には届かなかった。
「田島やめて!!これはパパであって太鼓じゃないから!!どうしても叩きたいならそこの龍一にして!」
「なんで俺を…痛い!!やめてくれ!暴力反対!」
龍一が悶絶する。凄まじいエイトビートを龍一の背中に叩きつけ、田島は和太鼓奏者の構えになっていた。UFOの時とはまた違ったエキセントリックさだ。

324 :ユーは名無しネ:2014/09/18(木) 19:54:38.02 0.net
「颯ぅ、これどういうことぉ…あの子バチ持つと人格変わっちゃうのぉ…?」
すでに食卓の下に非難した嶺亜がそう訊ねる。颯もソファの後ろに隠れて答えた。
「そうなんだよ。田島はね、普段はおとなしくて不思議君でいい奴なんだけど、バチを持つと人格が変わっちゃうんだよ。
今日の応援合戦でもね、最初は和太鼓担当だったんだけどバチ持つとなんでもかんでも太鼓にみ見立てて叩き出すから手がつけられなくて…あれさえなければいい子なんだけど」
「あれがなくても迷惑UFO野郎だけど…」
「本人にその時の記憶はあるのか?」
挙武が問う。颯は首を左右に振った。
「やめさせるにはバチをとりあげるしかなさそうだけど…その前に叩き殺されそうだな」
「ある意味ものすげーSMプレイじゃね?龍一の奴ドMだしあいつらいいコンビになれんじゃねーの?パパもSM好きそうだし3Pで…おい、嶺亜、絶対零度飛ばすな」
挙武と勇太が囁き合う。リビングには龍一の絶叫と岸くんの叫び声が交互にこだました。
「近所迷惑じゃね?あ、龍一兄ちゃん泡吹いてる…」
最終的に颯が体を張って田島の後頭部にヘッドスピンキックをかまし、その衝撃で田島はバチを落としてようやく騒ぎはおさまったのだった。
「UFOが空に現れなければいいけど…」
そして田島は何事もなかったかのように夜空を気にしながら帰宅していった。



おわり

325 :ユーは名無しネ:2014/09/18(木) 22:09:13.10 0.net
始めてコメント失礼します!たじー出てきた上に近キョリネタ出てきた!自分もハルカより奏多派ですw自分の大好きな岸れあがいっぱい見れるから岸家が好きかな〜
作者さんいつも面白い作品をありがとう!
したらばのJr.板に移行したりするのかな?

326 :ユーは名無しネ:2014/09/18(木) 22:39:01.27 0.net
作者さん乙
奇天烈新キャラ登場だね

327 :ユーは名無しネ:2014/09/19(金) 11:49:08.82 0.net
岸家の新作きたー!作者さん乙です!
サジタリウスのくだりでラザニアが食べたくなったw

328 :ゆか:2014/09/26(金) 16:08:25.58 0.net
手越裕也はやくざではない 手越裕也はやくざではない

329 :ユーは名無しネ:2014/09/27(土) 00:50:51.82 0.net
漢字違うよ

330 :ユーは名無しネ:2014/09/27(土) 19:16:16.28 0.net
神7シネマ劇場「放課後の楽人たち」


「すみません、神7学院までお願いします」
駅前で乗り込んだタクシーは街の中心部を離れ、目の前には緑が広がる。岸優太はその景色にぼんやりと見入っていた。
「お客さんまだ高校生だよね?神7学院に何の用?」
陽気なドライバーが気さくに話しかけてくる。
「あ、転校してきたんです。ちょっと緊張してて…」
「あ、そうなの。ふーん。いやぁでもねーここだけの話、あそこはねー妙な噂あるからさー」
「え、なんですか?妙な噂って」
岸くんは前のめりになる。運転手は小声になった。
「ここだけの話…あそこの学校には毎年一人ずつ神隠しにあって生徒が行方不明になってるっつう噂があってな…夜な夜な地獄からの使者の幽霊が徘徊してまわって生贄を探し求めてるって…」
「や…やややややややめて下さいよそんな悪い冗談…くくくくく九月だしかかかかかか怪談話はもう季節外れですよ!!」
背筋を凍らせながら岸くんは歯の根を合わせることができずに運転手にしがみつく。こういった類の話は大の苦手なのだ。
だが運転手はがっはっはと大笑いした。
「冗談だよ!いやぁそんだけリアクションしてくれると逆に気持ちがいいわな。おっと着いたよ。えーと、料金は…」
岸くんは料金を支払うとタクシーを降りる。そして唖然とした。
「ここが神7学院…?」
鬱蒼と茂る森が広がっている…。
タクシーで行き先を告げると運転手が「校門の前までしか行けねえよ」と言った意味はこれだったのか。目の前に細く長い道が続いている。
どうしてこんなところに学校なんか建設したのだろう。これじゃあまるで隔離施設だ。
しかしぼやいていても仕方がない。岸くんは荷物を背負って校門をくぐり、道を進んだ。
「俺はハイキングしに来たんじゃないのに…」
進み始めて数分もすると息が上がってきた。それでもまだ終わりが見えない。天気も悪く、鉛色の空からは今にも雨粒が落ちて来そうで…
「って雨振ってきたじゃん!!カンベンしてよもー!!」
急ごうとするとぬかるんだ地面に足を取られすってんころりんと転んで強かに尻を打つ。こりゃ無理だと思って岸くんはとりあえず脇道の木々の下で雨宿りをしようと判断を下した。

331 :ユーは名無しネ:2014/09/27(土) 19:17:03.89 0.net
「…?」
どうにか雨がしのげそうな木陰に身を宿したその時、それが目につく。
森のもっと奥の方…そこに人らしき陰が見える。動いているから少なくとも生物であることには間違いない。
まさかこんなところに熊なんか出没するはずもないから人間だろう。ちょうど良かった…道があとどれだけ続くのか聞いてみよう、と岸くんはその人影に近づく。
「あのーすみません、俺今日から転校してきたんですけど、この道あとどんだけ…」
声をかけて岸くんはぎょっとする。
まだ少し距離はあったがその人影はひどく白い。傘もささず濡れているから黒い髪の毛が目にかかってはっきり顔も見えない。その奥にある絶対零度を放つ冷たい眼差しに岸くんは戦慄した。
しかも、その人影はこう呟いた。
「見たなぁ…」
あ、無理。俺幽霊とかそっちの類は全然信じてないけどそれとこれとは別。怖いもんは怖い。ていうか足腰が震えだしたから今逃げないともう憑り殺されちゃう。
「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
ありったけの悲鳴をあげて無我夢中の死に物狂いで突っ走っていると今度は物理的な衝撃に襲われる。
「いっで!!どこ見て歩いてんだよ!!」
どうやら誰かとぶつかったようだ。だけど一応人間だ。岸くんは安堵でちびりそうになる。
「あああああああああああああ助けて助けて道は分かんないし幽霊には遭遇するしもう俺死ぬのかな!?嫌だ嫌だ嫌だ死ぬ前に桃に囲まれてトロトロになってトロピカ〜ル恋して〜るくぁwせdrftgyふじこlp;@!!!」
涙目になって相手にしがみつき喚き散らすとなんだなんだと人が取り囲む。
「なんだなんだ。変質者か?」
「かなり錯乱してるね…大丈夫かな…」
かけつけた教師らしき大人がなんだどうしたと人垣をかきわけて生徒達に事情の説明を促した。
「いえ僕らは別に…この人がいきなり神宮寺につっこんできて何やら訳のわからないことをのたまってるんです」
「羽生田の言うとおりだぜ先生!俺いきなり突進されたんだからな。ったくこのビューティフルフェイスに傷でもついたらどうしてくんだよ、なぁ岩橋!?」
「ビューティフルかどうかはともかく…危ないよね。いきなりぶつかってくるのは…」
あれやこれやで岸くんは職員室に引っ張られた。そこでようやく転入生だと理解してもらえたのだが…

332 :ユーは名無しネ:2014/09/27(土) 19:17:42.31 0.net
「幽霊?そんなもんいるわけないだろ。来て早々変な噂流すのはやめなさい」
幽霊のくだりは一蹴され、全く信じてもらえなかった。確かに見たのに…と涙目になったが怖かったし忘れた方がいいのかもなあと岸くんはそれ以上主張しなかった。
「授業は明日からね。えっと…岸くんは瀬久菩寮の方ね。瀬久菩寮は南校舎の一番端…西側のね。そこから入れるから。部屋番号は寮の管理の人に聞いて」
そうなのだ。この神7学院は全寮制の男子校で軽く世間から隔離されている。今どき珍しいが岸くんには選択肢はなかった。言われたとおりに進むとさっきぶつかった三人組とばったり会った。
「何、転校生だったのかよ。良かったなー俺がデキた人間で。本来ならリンチものだぞ」
金に近い茶髪のチャラそうな少年は岸くんとぶつかった奴だ。「神宮寺」と呼ばれていた。
「一体何をそんなに慌ててたっていうんだ。しかも君、正門の方から来なかったか?物好きだな。あんなハイキングコースまがいの道をわざわざ通るなんて」
軍人のような姿勢と言い回しの「羽生田」と呼ばれた少年が呆れ気味にそう呟いた。岸くんは「へ?」と間抜けな返ししかできない。それを「岩橋」と呼ばれる気弱そうな少年が説明した。
「神7学院はね…正門から入ると細くて長い道をずっと駆けあがらなくちゃいけないけど…西門の方からくれば直通のエスカレーターがあるんだよ。来校者はそっちしか使わないよ」
岸くんはショックで倒れそうになった。あんなにしんどい思いをして雨に打たれて幽霊にまで遭遇したのになんという仕打ち…
気を遠くにしていると、神宮寺が
「瀬久菩寮ならこっちだぜ。俺らも瀬久菩寮。まーこの神宮寺センパイが色々教えてやんよ。ん?岸くんっつうのか。ところでSMとか好きそうな顔してるよな。お近づきのしるしに神宮寺特選エロ動画見せてやってもいいぜ」
と肩を組みだした。見た目を裏切らないチャラさだ。
「もう神宮寺…そういう道に誘い込むのやめなよ…あ、お腹痛くなってきた…」
神宮寺を諌めたかと思うと岩橋はお腹をおさえだした。それを羽生田がやれやれと浅い溜息をつきながら見る。
出会いはともかくなんだか悪い奴らではなさそうな気がして、岸くんは彼らなら幽霊を見たという岸くんの話も信じてくれそうな気がして話してみた。すると返ってきた答えは少々意外なものだった。

333 :ユーは名無しネ:2014/09/27(土) 19:18:23.13 0.net
「色が白くて絶対零度…ああ、あいつのことだな」
羽生田は苦虫を噛み潰したような表情で呟く。
「へ?どういうこと?やっぱ実在すんの?幽霊が」
「それ幽霊じゃねえよ、魔女だよ」
神宮寺の答えに岸くんは仰天する。
「ま…魔女!?この平成の日本に!?それは一体どういう…」
生唾を飲みこんでいると岩橋が少し呆れ気味に補足する。
「本物の魔女じゃないよ。アダ名みたいなもので…。僕らと同じクラスの子なんだけど色が白くてちょっと女の子みたいで誰とも群れずにいつもあやしげな儀式だの実験だのしてるからそう呼ばれてるだけ。
多分岸くんが見たのはその子だよ。森には色んな動植物があるから採集に行ってたんだろうね」
「何それ…それはそれで得体がしれない…」
「あんま関わんねえ方がいいぞ。何考えてっか分かんねえし実験台にでもされたらかなわんし。まあ寮が違うからそうからむこともねーけどな」
「あ、そういえば寮って二つあるんだっけ?」
確か最初の学校説明でそう聞いた気がする。神7学院には瀬久菩寮と瀬久樹寮という二つの寮があるらしい。
「そう。そいつは瀬久樹寮。そっちにはそいつ以外にも変わりもんがわんさかいるから気をつけろよ。こっちはマトモな人間ばっかだからよ」
なんだそうか…マトモな方で良かった…と岸くんがほっとしていると神宮寺は顔を近づけて小声でこう囁いた。
「ここだけの話な…この学校にゃすんげえ秘密があんだよ。俺はついにその真相に辿り着こうとしている。岸くんを見込んで話すんだけどな…」
「へ?何?すんげえ秘密って…」
訊き返すと神宮寺はキョロキョロと周りを見て誰もいないのを確かめてから真剣な顔でこう言った。
「この学校にはな…神様が眠ってんだ。それも7体な。だから神7学院っつうんだよ。その神様を呼び起こす古文書を俺は偶然図書室で手に入れた。まあ平安時代か…室町時代ぐらいのものと見てる」
「こ、古文書?そんな古くからあんの?この学校」
「ああ…それがこれだ」
それは藁半紙にサインペンで書かれていた。
岸くんはこいつも魔女と呼ばれてる奴とそう変わりないな、と思った。


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334 :ユーは名無しネ:2014/09/27(土) 19:19:03.55 0.net
「ううう…冷たい…帰りたい…」
降りしきる雨が体温を奪って行く。谷村龍一は半泣きになりながら山道を歩いていた。
「嫌なら戻りなぁ」
前を行く中村嶺亜は振り向きもせず冷たくそう言い放った。しかしそれができるなら始めから付いてきていない。だけどそれは自分の意志ではない。半ば強制的に御供させられていた。一年年上の先輩だから逆らえないのだ。
「…」
ずぶ濡れになっていても全く意に介さずずんずんと嶺亜は進んでいく。元々白い肌が更に色素を薄めている。制服を着た雪女のような風貌である。
「ああもぉ…あんなとこで人に見られるなんてぇ…台無しじゃん…」
口惜しそうに嶺亜は呟く。
谷村は思う。正門からの道を通る奇特な輩がいることに驚きだがそれよりも気の毒だな、と。嶺亜の放つ絶対零度は世にも恐ろしい威力を持つ。断末魔の悲鳴をあげてそいつは走り去って行ったが今頃恐怖で頭が真っ白になってるんじゃなかろうか。
「誰かに見られたら効力がなくなるのにぃ…せっかくのチャンスだったのにぃ…」
恨めしそうに嶺亜は呟く。誰にも見られず儀式を終えなくてはならないらしいがそれなら何故俺を連れて行ったんだろうというツッコミはできなかった。それをした瞬間に絶対零度で氷漬けにされてしまう。
「雨も振ってきたしぃ…今日はもうやめとこうかなぁ」
助かった…谷村はほっと安堵の溜息が漏れる。しかし安堵している暇はなさそうだった。

335 :ユーは名無しネ:2014/09/27(土) 19:19:49.91 0.net
「とりあえず明日に伸ばすからぁ…また生きたトカゲ仕入れといてぇ。寮の屋根裏にでもわんさかいるでしょぉ」
「また俺がトカゲ捕まえるの?」
「文句あんのぉ?お薬の調合は僕じゃなきゃできないんだからぁ…それぐらい谷村がしてぇ」
「それぐらいって…それが一番辛い…」
愚痴ってもそれは聞き入れてもらえなかった。毎度のことである。谷村はもう半ば諦めていた。
しかしながら、谷村がこんな自分になんの得にもならない奇妙奇天烈な嶺亜の趣味に文句も言わずつきあってやってるのはひとえに服従や優しさだけではない。この後にちゃんとご褒美があるのである。
「ずぶ濡れで気持ち悪いぃ…シャワー浴びるぅ」
「あ、御供します」
寮の風呂場に真っ直ぐ進むと嶺亜は濡れた制服も何もかも脱ぎ捨ててシャワーに向かう。白い肌が眩しい。しかも濡れた髪がより淫靡な感じを際立たせている。「魔女」と呼ばれているのはその性別を超えた異次元の色気故かもしれない…と谷村は思う。
「はぁ…」
シャワー音に混じって吐息が漏れる。湯気でおぼろげになったその肢体に谷村は釘付けだった。
脱げば意外としっかり筋肉がついているその身体も後ろ姿では形のいいお尻と滑らかな曲線を描いて男だか女だか分からなくなるような錯覚を起こさせる。それこそがこの「魔女」の持つ最大の魔力なのかもしれない。
「…ってなにしてんだよぉ谷村ぁ!変なもん押し当てるなぁ!」
怒鳴られて、谷村は自分がぴったりと嶺亜に身を寄せていたことに気付く。シャワーのお湯をダイレクトに顔にかけられ思わずのけぞった。

336 :ユーは名無しネ:2014/09/27(土) 19:21:17.29 0.net
「ち…違います!俺の意志とは勝手に身体が…またなんかが憑依したみたいで…!」
「またぁ?谷村憑かれすぎぃ。その霊媒体質なんとかしなよねぇ」
「すみません…お清めの塩をまた仕入れときます」
都合良く霊のせいにして事なきを得るのも毎度のことである。谷村は霊媒体質どころか金縛りにもあったことがない。もちろん幽霊だのなんだのは信じていない。
風呂からあがると入れ違いに同級生の高橋颯が入ってきた。
「あ、嶺亜と谷村。今日も儀式?上手くいった?」
「全然。変な子が邪魔してきて台無しぃ。雨も降ってきたから今日はやめぇ」
「そうなんだ。ご苦労さま。俺は森を一周してきたよ。雨が降ってるの気付かなくてほれこのとおり」
颯は得意げだが、彼が歩いてきたであろうところが水浸しになっていた。
「管理人さんに怒られるよ颯…同室なんだし勘弁してよ…」
谷村のもう一つの悩みはこのルームメイトの破天荒な振る舞いである。とにかくぶっとんでいてその度に管理人や他の生徒から苦情が来るもんだから同室の自分はえらい迷惑だ。
「あ、ごめんごめん。拭いても拭いても濡れるからもういいやって思ってそのまま来ちゃった」
「もぉ〜颯はぱっぱらぱーだねぇ」
うふふと嶺亜は笑う。いや、笑いごっちゃねーだろと谷村はツッコミたかったがもちろんそれは喉の奥に閉じ込めておいた。
そしてこの後颯はシャワー室でヘッドスピンをして水道管を破裂させて大騒ぎを起こしていた。


つづく

337 :ユーは名無しネ:2014/09/28(日) 14:29:12.35 0.net
新作来たーーーーーーーーーーーーーー!

338 :ユーは名無しネ:2014/09/28(日) 17:36:08.00 0.net
作者さんがバカレア枠の脚本を書くこと
バカレア枠で男子寮のお話を見ること
れあたんはハロウィンが似合うから魔女コスをしてほしい
そんな願いを抱えていた自分にとって夢みたいなお話だ
この作品を読み切るまでは何があって死なない

続きを楽しみにしてます!

339 :ユーは名無しネ:2014/10/02(木) 18:23:01.65 0.net
神7シネマ劇場「放課後の楽人たち」


「えー…今日から一緒に学ぶ岸優太くんだ。みんな仲良くしてやってくれ。ほい、岸の席はそこ」
岸くんは挨拶もそこそこに席につく。今日からまた新たな高校生活が始まるのだ。希望に胸を膨らませていたが…
「あぁ…昨日のぉ」
ふと隣の席を見て岸くんはひっくりかえりそうになった。昨日の雪女…じゃない幽霊…じゃない魔女…と呼ばれている神宮寺達が言っていた子が座っていた。
確かに足はある。だけど白い。白すぎる。背景の白い壁に同化してしまいそうに白かった。これでは見間違えるのも無理はない。
「転校生だったんだぁ。ふーん」
興味なさそうに呟いて魔女っ子は教科書をめくった。
「おい、関わるなよ。ホルマリン漬けにされるぞ」
反対側の隣は神宮寺だった。彼が耳打ちする。が、小声ではないのでしっかりと耳に届いているようで世にも恐ろしい絶対零度が飛んでくる。岸くんはちびりそうになった。
「童貞をホルマリン漬けにしてもなんの材料にもなんないからぁ…早く脱・童貞しなよねぇ」
「うっせ。俺の神聖な貞操はそれなりの相手じゃないと捧げらんねぇんだよ。満月の夜に清らかな衣を纏った美女と俺は初めてのちぎりを交わす予定なんだからな」
「はぁん。寝言は寝て言いなよぉ。衣が好きならエビフライでも食べとけばぁ?エビフライ大のモノしか持ってないくせにぃ」
「あぁ!?誰がエビフライだぁ?俺のコレはマックス時はフィリピンバナナ級だぞコラ!ヒィヒィ言わせてやろうかぁ?」
「笑いすぎてヒィヒィだよぉ…エビフライどころかポークビッツだもんねぇあははぁ」
凄まじい憎まれ口の応酬に岸くんは面喰らった。机を挟んでこのバチバチ合戦に早くも汗をかいているとチョークがとんできて岸くんの額に命中した。

340 :ユーは名無しネ:2014/10/02(木) 18:23:42.79 0.net
「コラァ!神宮寺に中村ぁ!!授業中だろうがぁいい加減にせんかぁお前らはいつもいつもいつも…そんなに俺の授業はつまらんかあああああああああ!!!!」
激昂した教師は次々にチョークを投げ付けるがそのすべてが岸くんに命中し、岸くんの額は粉まみれになった。
こんな変なクラスでやっていけるのかな…と嫌気がさしながらの昼休み、食堂の購買部にパンを買いに行ったが凄い人だかりだ。それでも何か買えるだろうと思っていたのだが…
「えっとーいつものコロッケパンとやきそばパンとコッペパン二つ、それとプリンデニッシュとあんぱんとフレンチトーストとカレーパン三つ!!」
前に並んでいたぽっちゃり系の生徒が根こそぎ買って行ったもんだからパンは売りきれてしまった。残っているのはグリンピースおにぎりしかなく、岸くんはこの世で一番グリンピースが苦手な為泣く泣く諦める。
失意のうちに教室に戻ると神宮寺が岸くんに焼きそばパンをさしだした。
「今朝は悪かったな岸くん。まーこれは俺の奢りだ。遠慮なく食え」
「おお…ありがとう」
神宮寺ってけっこういい奴なのでは…と岸くんは簡単に食べ物で釣られる。それをモグモグやりながら羽生田と岩橋と共にランチタイムを過ごした。
「まぁ岸くん、この二人に挟まれたのは御気の毒だが三日で慣れるだろう。あと二日の我慢だな」
羽生田は高級そうな漆塗りのお重の箱を開けながら冗談めかした。
「まあ嶺亜も悪い子じゃないんだけどちょっと変わってるから…」
岩橋はピザをもぐもぐやりながら言う。たった今宅配で届いたらしい。
「そうだ、岸くん放課後空いてる?」
神宮寺がカレーパンを頬張りながら訊いてきた。
「え?なになになんかすんの?俺野球なら昔やってたから得意だけど」
「え、岸くん野球得意なの?僕もだよ。巨人と阪神どっちが好き?」
岩橋が目を輝かせて野球話を始めるが神宮寺は「そうじゃねーよ」と首を振った。

341 :ユーは名無しネ:2014/10/02(木) 18:24:17.28 0.net
「実はよ…今日はこの古文書の示す場所に行ってみようと思ってな…凄くね?俺らで神様呼び起こすんだぜ?こいつはロマンだぜ!」
「古文書って…室町時代に藁半紙とサインペンなんてあったっけ…インチキ臭いなあ…」
「インチキじゃねーよ。まあ室町時代は言いすぎだけどよ、この学校ができて直後ぐらいのもんじゃね?えっと確か去年創立80周年だったよな?」
岩橋は羽生田に確認を取る。
「85年だな。まあ昭和初期の神様か…どんなもんだろうな」
「神宮寺、その古文書にはなんて書いてあるの?」
岩橋に訊かれて、神宮寺はその古文書とやらを机の上に広げた。
それは文字ではなく、分かりにくい乱雑な絵と地図のようなものが記されている。中央に7体の人型のイラストが描かれていた。他のページも同様に訳の分からないイラストや地図、そしてひどく崩された字体が並んでいる。
「これがこの学校の敷地内のどっかだってことは間違いないんだ。その場所さえ突きとめりゃあ神様が復活する…神7復活だぜ!」
「短絡的だなあ。なんでこれが神様?神宮寺、漫画の読み過ぎじゃない?」
「おいおいバカにすんなよ。俺はなんの根拠もなしにこんなこと言ってるわけじゃねーんだよ。これ見ろ」
神宮寺は今度は古びた書物を取り出す。それはえらく朽ち果てていてボロボロで墨で文字が刻まれていた。これは相当に古いものだと思われる。
「社会科教室の資料だけどちょっと拝借してきた。この学校にまつわる伝説みたいなもんが書き綴られてる。ほれ、ここの部分」
神宮寺が指で示した部分にはこう書かれていた。
『放課後に集いし楽人たちが、神達を再び呼び起こすだろう。7体の神はその時長い間の呪縛から解き放たれる』
古ぼけている上に崩したような字で読みにくいが確かにそう書かれている。岸くんは藁半紙とその書物を見比べた。
「な、面白くね?ちょっくら探してみようぜ!!」
岸くんは他にやることもないし、やきそばパンの恩義を返すべく付き合うことになった。


.

342 :ユーは名無しネ:2014/10/02(木) 18:24:51.38 0.net
昼休みの食堂は戦場と化している。購買部のパン争奪戦、食堂の限定メニュー争奪戦、さらに場所取りとバーゲン会場さながらである。山奥に建てられた神7学院はコンビニに買いにいくこともできないから食堂が唯一の生命線なのである。
その喧騒の中、一人優雅にゆったりとオムライスとひじきの煮物を嶺亜は食している。混雑していても嶺亜の周りは誰も近寄らない。数人の例外を除いては。
「いやー大量大量!!今日もなんとか必要最低限確保できたぜー!!」
どさどさと惣菜パンやら菓子パンやらをテーブルの上に乗せながら倉本郁は満足げである。相変わらずの食欲に嶺亜は見ているだけで胸ヤケをおこしそうになった。
「食べ過ぎじゃないぃ?郁ぅ」
「そっかなー。これでも少ないくらいなんだけど。4限の化学が長引いて出遅れちゃったからさー。最後買い占めてきちゃった」
ばりっとコロッケパンの袋を破りながら倉本は得意げである。
「うわぁ迷惑ぅ…後ろに並んでた子可哀想ぉ」
「そっかなー。まぁそいつなんか汗だくで涙目になってたけどグリンピースおにぎり残してやったから俺いいことしたなーって。みずきも見直してくれるかな?」
そんな話をしているとラーメンを乗せたトレーを持ちながら谷村がウロウロしていた。その後ろをメロンパンを抱えた颯が歩いてくる。
「谷村ぁ、トカゲ捕まえられたぁ?」
「…はい、なんとか…」
谷村はそう答えてラーメンをすする。トッピングについていたはずのかまぼこが入っていないことに気付き若干テンションが落ちる。

343 :ユーは名無しネ:2014/10/02(木) 18:25:28.92 0.net
「トカゲって何に使うの?観察日記でもつけるの?」
無邪気な颯がメロンパンをむしゃむしゃかじりながら問う。嶺亜は「んーん」と首を横に振った。
「儀式に使うのぉ。今日こそ上手くいくといいんだけどぉ…とりあえずトカゲを黒焼きにしてぇ…あとは諸々調合するから放課後化学室借りないとぉ」
「大変だね。何か手伝えることがあったら言って」
「颯はいい子ぉ。じゃあ森で山菜取ってきてぇ。それも調合するからぁ」
「ラジャー!!」
びしっと右手を額に当てながら颯は張り切りを見せる。こいつは何も考えないから気楽でいいよな…と谷村は思う。どうして助手をこっちにしないんだろうと思っていると嶺亜は谷村のラーメンについていたゆでたまごを食べながら言った。
「谷村はぁ魔方陣書く時に使う紫のチョーク10本調達してきてぇ。こないだみたくちびたやつじゃなくてちゃんと新品の長いのねぇ」
「また職員室に忍び込まないといけないの…こないだバレかけて大変だったんだけど…」
「必殺自我修復で乗り切れるでしょぉ。頼んだよぉ」
谷村はすっかり食欲がなくなってしまった。そのラーメンの残りを倉本がスープまで綺麗にたいらげた。



つづく

344 :ユーは名無しネ:2014/10/04(土) 01:56:20.58 I.net
作者さん乙です、続き楽しみ!!!

345 :ユーは名無しネ:2014/10/04(土) 21:01:55.06 0.net
神7シネマ劇場「放課後の楽人たち」


6限の終了を告げるチャイムが鳴ると教室内は緊張から解き放たれ、ゆるいムードが漂い始めた。
「おい、どこ行くんだよ嶺亜。お前掃除当番だろ?」
さっさと荷物をまとめて教室を出ようとする嶺亜に神宮寺が声をかける。だが嶺亜は一瞥だけしてしれっと言い放った。
「忙しいからまた今度ぉ」
「お前こないだもサボったろ!当番制なんだからちゃんとやれよな」
神宮寺がそう咎めても、嶺亜はどこ吹く風でちょうど近くにいた岸くんに向き直る。
「じゃあ岸代わってぇ。今度岸の当番の時に代わるからぁ」
「え?あ…うん」
不意打ちで思わず岸くんは承諾してしまった。それを神宮寺が諭し始める。
「岸くんそんな簡単にOKすんなよ!コイツ代わる気なんかサラサラねーんだからよ!いっつもくだまいて逃げやがんだから断固として断れよ!」
「神宮寺…嶺亜もう行っちゃったよ…」
岩橋に言われて岸くんも神宮寺も嶺亜が忽然と姿を消してることに気付く。神宮寺は悔しそうにゴミ箱を蹴った。それを羽生田が宥める。
「落ち着け神宮寺…。あいつはズルに関しては一枚も二枚も上手だ。スルーした方が精神衛生上いいと思うぞ」
「そうだよ。多分…先生に言っても嶺亜は上手くかわすだろうからそれも無駄だろうし」
岩橋も半ば諦め気味に呟く。どうやら嶺亜はクラスメイトからあまり良く思われていないらしい。確かに変わったところはあるがそう悪い子とも思えないのだが…
岸くんは仕方なしに掃除を終え、寮に帰ろうとした。そこで異臭が鼻をつんざく。

346 :ユーは名無しネ:2014/10/04(土) 21:02:45.18 0.net
「うぇ…なんだこの臭い…」
異臭はどうやらこの先すぐの教室から漂っているようだ。何気なく岸くんが覗きこむと、そこには白衣を着てフラスコ片手に難しい顔をした嶺亜がいた。今度はマッド・サイエンティスト仕様か…
「げほ…何やってんの?それ何?」
鼻を押さえながら岸くんが訊ねると嶺亜は「ああー!!」と叫び声をあげ、岸くんを睨む。絶対零度が飛んできた。
「ちょっとぉ手元狂ったじゃんどうしてくれんだよぉもぉ昨日といい今日といい僕になんか恨みでもあんのぉ!?せっかく上手くいこうとしてたのにぃ!!」
「え…ちょっと何が…俺は別に…」
岸くんがたじろいていると嶺亜は絶対零度を放ったまま手前にあった銀トレーを突き出して来た。
「もっかい最初っからやり直しぃ!!岸、ちょっとこれ持ってぇ」
「え…これ…」
岸くんがその銀トレーの上のものを見やるとそれは…
「うぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!」
岸くんがこの世で最も忌み嫌う生物…カエルが解剖された状態で乗っていた。一瞬にして生理的嫌悪がマックス状態になり、飛び上がって天井に頭をぶつけた。
「カエルごときで何そんな声出してんのぉ?いいからさっさと持ちなよぉ」
「やだやだやだやだやだ!!!そんなん触るぐらいなら死んだ方がマシ!!やめてぇ近づけないでぇ!!!!」
「あーもーうるさいぃ!!!男のくせになんなのぉ!?その法令線なんのためにあんだよぉふざけんなよぉ!!そこ座れぇ!!」
苛ついた嶺亜が悪態をつき始めるとまたガラリと化学室のドアが開く。
入ってきたのはモデルのような足長の美少年である。その美少年は化学室の机の上にぽんと乗っていたゲーム機のようなものに駆け寄った。
「あったあった!!やっぱここだったぜギャハハハハハ!!!俺のPSVita!!!授業中にやるもんじゃねーなーあやうく忘れて寮に戻るとこだったぜギャハハハハハハハ!!!!」
ガッスガスの酒ヤケ声を轟かせて美少年はバカ笑いをする。見た目と180度違って知性も品性もカケラもない話し方に若干岸くんは面喰らったが、それよりも驚愕させたのは次の瞬間嶺亜までもがさっきと180度違った人相になっていたことである。

347 :ユーは名無しネ:2014/10/04(土) 21:03:41.82 0.net
「あ…栗ちゃぁん」
今の声どっから出たの?と耳を疑うくらい4オクターブは違うであろう高音がどうやら嶺亜から発されたようだ。それに加え、今さっき放っていた絶対零度などどこへやら、春の野原のお花畑のような柔らかな笑顔と雰囲気が漂い始めた。
「あれ、れいあまた実験かよ。すんげー臭いすんなーって思ったら。あれこれ何?カエルの解剖?うげー」
「あ、違うよぉそのカエルさんはぁこの子が持ってきたのぉ。解剖が趣味なんだってぇ僕ちょっと怖いよぉ栗ちゃん助けてぇ」
ちょっと待って。そのカエルは今しがた君が解剖して俺に持てよふざけんなよぉって言ってなかったっけ…岸くんは嶺亜の七変化に唖然とする。
「解剖が趣味とか病んでね?ギャハハハハハハおめーアホだろ!?なんつー名前?岸?聞いたことねーギャハハハハハ!!」
耳が割れそうだ…岸くんは汗を垂らした。
「栗ちゃん笑っちゃ可哀想だよぉ。人は誰しも心に闇を抱えてるもんなんだよぉ。岸はぁカエルを解剖することでその闇に少しでも光を当てようと必死でぇ…汗腺の異常な発達もまた闇が故なんだよぉ」
まるでももちか聖子ちゃんばりにプロがかったぶりっこを嶺亜は栗ちゃんと呼ばれた相手に対して繰り広げている。そう、さながら女子が意中の男子に猫をかぶりシナを作るかのように…
「岸っつったっけ?おいテメーれいあに妙な真似したらタダじゃおかねーからな。それちゃんと処分しとけよ。じゃーなれいあ!!ギャハハハハハハ!!」
岸くんにすごんだかと思うと栗ちゃんと呼ばれた美少年はまたバカ笑いして去って行った。化学室には沈黙が訪れる。
「…」
岸くんが恐る恐る嶺亜を見やると彼はまた絶対零度に戻っていた。
「やだもぉ栗ちゃんに見られるとかありえないよぉ…岸のせいだからねぇ」
なんなのこの二面性…そりゃ神宮寺たちも煙たがるわけだ…と岸くんは納得してしまった。
呆れながら化学室を出ようとすると、ちょうど入ってこようとした生徒とぶつかりそうになる。
「おっと、ごめん」
山菜のようなものの束を両手に抱えた男子生徒が入ってきた。爽やかそうなイケメンで走ってきたのか息が弾んでいる。しかしながらその男子生徒は目を大きく見開いて岸くんを見つめた。
「あのう…」
すんごい見られている。岸くんは動けず、困惑した。硬直していると後ろから嶺亜の声が聞こえた。
「颯ありがとぉ。山菜そこに置いといてぇ」
嶺亜に「フウ」と呼ばれたその男子生徒はしかし岸くんから視線を離さず手に持っていた山菜を机の上に置く。そして震える声でこう言った。
「れれれれ嶺亜…こここここのかっこいい人はだだだだ誰…?」

348 :ユーは名無しネ:2014/10/04(土) 21:04:19.10 0.net
かっこいい?かっこいいって俺のこと?岸くんは思わず辺りを見渡した。が、教室内には嶺亜と岸くん、そして颯しかいない。
問われた嶺亜もきょろきょろと左右を見る。そして怪訝な表情になって
「かっこいい?岸のことぉ?颯本気で言ってんのぉ?」
呆れたような口調だった。そしてこんな憎まれ口も飛んでくる。
「途中で毒キノコでも食べたのぉ颯?幻覚でも見てんじゃないのぉ?そこにいるのは汗だく法令線のカエル恐怖症のビビリだよぉ」
しかし颯の耳には届いていないようだ。彼はカタカタと震え始める。
「あ、あの…」
「岸くん…岸くんっていうんだ…名前までかっこいい…」
ふと嶺亜を見やると何故かヘルメットを被りながら机の下に身を潜めている。岸くんがそれに疑問を持った頃それは襲ってきた。
「うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」
颯が逆さまになって回っている…と認識した瞬間、台風のようなものが吹き荒れ、化学室の中は滅茶苦茶になった。岸くんは飛んできたフラスコやらビーカーやらカエルの解剖死体やらでさんざんな目にあった。
しかも、教師が駆け付け「何事だこれは!?」と怒り狂い岸くんを責め立てる。なんで俺だけ…と思っていると嶺亜はもう忽然と姿を消していた。颯もいない。
涙目になって岸くんは瀬久菩寮に帰る。神宮寺達に愚痴ると「だから関わるなって言ったのに」と叱られその日は涙で枕を濡らしたのだった。


.

349 :ユーは名無しネ:2014/10/04(土) 21:05:49.11 0.net
「ううう…嫌だ…暗い怖い不気味…帰りたい…」
谷村は蝋燭片手に嘆いていた。なんで蝋燭…懐中電灯でいいじゃないか…この揺らめく炎がまた気味悪さを増幅させるんだよなあ…
と思っていると前を行く嶺亜が振り向きもせず「嫌なら蝋燭置いて帰ればぁ?」とお約束の返しがやってくる。蝋燭なしでこの暗闇の中歩くのは自殺行為だ。
「とんだ邪魔が入って調合が遅れちゃったよぉ…ほんっとに岸の奴ぅ…」
ブツブツと嶺亜は愚痴っている。彼が今身に纏っているのは黒い衣一枚。その風貌はまさに「魔女」そのものだ。白い肌とのコントラストが絶妙にエロい…いやいやこれはたまらんでぇ…
「ぅわっ」
そんなことを思っているとでっぱりにつまづいて谷村はこけそうになる。だが蝋燭を消すとおしおきが飛んでくるので死守するのに必死だ。
暗さもさることながらこの鼻にツンとくる黴臭い臭いがまた嫌だ。じとじとしてるしもう何もかもが不快指数を上昇させる。
「ここでいっかぁ。谷村ぁチョークちょうだいぃ」
嶺亜は立ち止まり、手を差し出してくる。谷村は持っていた袋からチョークを取り出した。
「…」
木製の床に、嶺亜は黙々と魔方陣のようなものを書いて行く。その手には古びた一冊の本…
蝋燭の炎がその横顔を照らす。ゆらゆらとゆらめき、まるで人間じゃなくて作り物のような美しさを醸し出している。谷村は生唾を飲んでそこに魅入った。
待つこと数分。魔方陣を書きあげた嶺亜は浅い溜息を一つつく。その彫刻のような横顔に一筋の汗が伝う。
「…!」
かと思うと嶺亜は纏っていた衣をずらし始める。まず肩が露わになり続いて上半身…
下半身も…?と思いきや嶺亜はそのまま魔方陣の中央に膝をつきぺたんと座りこむ。黒い布が大事な部分を絶妙に隠していて見えそうで見えないいやらしさが…これが所謂着エロというやつか…谷村はまたごくりと唾を飲む。

350 :ユーは名無しネ:2014/10/04(土) 21:06:30.77 0.net
「…亜zsxdcfvgbhんjmk、l。w背drftgbygvbhんjmk…」
嶺亜は何やら呪文のようなものを唱え始めた。いよいよオカルトじみてきたなぁ…と谷村は呑気に構える。
彼の「儀式」が超常現象を巻き起こすとも思えないしが、もし「成功」したら明日からこんなことに付き合わされなくてもすむだろうか…それはそれでちと寂しい気もするが…
「…んっ…」
眉間に皺を寄せて、嶺亜は苦悶の表情を浮かべる。息も荒く、傍目には何かが憑依したかのように見えるがそれよりも…
「…あっ…んん…っ…」
床に横たわって悶え始め、嶺亜は身をくねらせる。黒い衣がするするとはだけていく。まるでストリップ劇場かAVだ。谷村はかぶりつきになった。
「あぁ…っぅ…ぃい…ん…」
駄目だ。もう無理だ。儀式か何か知らんがこれはもう蛇の生殺し…こんなにエロイもん見せつけられてただ見ていろというのはなんの拷問か…谷村はプッツンした。
「…え?ちょっと何乗っかってんだよぉ谷村ぁ。邪魔したら氷漬けにするよぉ!」
「すいませんすいませんでもこれ俺の意志じゃないんです何かが俺に憑依して身体を乗っ取って…俺は本当はこんなことしたくないんです!」
「ちょっと待てよぉ!谷村ぁいつもいつもいいとこで憑依されるけどほんとなのぉそれぇ。あっこら!どこ触ってんだよぉ変態ぃ!!死ね!!」
「だから違いますって…!変態の霊が俺に憑依して…あああすみません」
全てを霊のせいにして身体をからませあっていると最終的に嶺亜に鈍器でどつかれ谷村はあわや幽体離脱しかけた。



つづく

351 :ユーは名無しネ:2014/10/05(日) 16:27:15.76 0.net
神7のドラマを見ているみたいで最高です
いつか病弱とか儚い系れあたんも見てみたいです
作者さんの作品が大好きなのでこれからも続けてください

352 :ユーは名無しネ:2014/10/07(火) 19:20:05.61 0.net
P誌の黒マントを纏うれあたんを見たらこのお話を思い出したよ

353 :ユーは名無しネ:2014/10/08(水) 03:44:39.89 I.net
作者さん乙です!んんんんれあたんんんんん谷村のポジション羨ましすぎる
続き楽しみにしてますね

354 :ユーは名無しネ:2014/10/08(水) 22:03:56.03 0.net
神7シネマ劇場「放課後の楽人たち」


「ふあ…」
岸くんは欠伸を繰り返す。慣れない寮生活と学校生活で日々疲れがたまっているせいか寝ても寝ても眠い。それでもちゃんと起きないと朝ご飯を食いっぱぐれてしまうから寝坊癖だけは矯正されつつある。
朝ご飯を済まし、時計を見ると8時すぎだった。寮の唯一の利点は学校に徒歩1分で着けることだ。さて行くか…と鞄を持つと神宮寺が手招きをしていた。
「岸くんちょっとこっち来てくれ」
そう言われて来てみたところは寮の端の方…板が打ちつけられた扉である。完全に封鎖されている感じだ。試しに触ってみたが扉はびくともしない。
「何これ。開かずの間?何があんのここに?」
岸くんが訊ねると神宮寺はいつになく真剣な表情になる。
「分かんね。けどこうやって頑丈に閉じてるってことはそれなりに重要なモンが隠されてんじゃないかと俺は思ってる。もしかしたら地図が示す場所はここかもって考えた」
ふむふむ…と岸くんが聞いていると後ろから羽生田の声が響く。
「どうかな。そっちの先は瀬久樹寮らしいし昔は寮同士の渡り廊下的な役割があったらしいからただの空洞だと思うがな」
「え、でも渡り廊下ならなんで閉じるの?」
「さあ…別に女子寮と男子寮ってわけでもないのにな。うちは男子校だからな。まあ昔からなんとなく瀬久菩寮と瀬久樹寮の生徒は馴れ合わないらしいし…意味がないから封鎖したのかもな」
「こいつは絶対なんかあるぜ…怪しい…なんとかしてここに入れねえかな…」
神宮寺は真面目な顔つきでドアに打ちつけられた板を触って見ている。
「外から入れない?渡り廊下なら窓くらいあるよね?」
岩橋が提案する。それに従って放課後、岸くんは神宮寺、羽生田、岩橋と共に寮の裏側に回って渡り廊下のあるあたりまで行くことになった。

355 :ユーは名無しネ:2014/10/08(水) 22:04:52.92 0.net
「いて…けっこうな裏庭だなオイ…」
裏庭は荒れ放題である。ちくちく刺さる生い茂った植物に顔をしかめながら神宮寺は進む。そしてようやくそれらしき場所に辿り着いたが…
「窓にも板が打ちつけられてる…」
岩橋が唖然と呟いた。どうやら完全封鎖のようである。この感じだと中は陽の光も刺さないだろう。一層不気味に見え、岸くんは身震いした。
「無駄だとは思うが…反対側も行ってみるか?」
羽生田がそう提案する。俄然やる気の神宮寺は「おおよ!」と返事をして踵を返してまたずんずん進む。岩橋と羽生田がそれに続く。岸くんはというと、若干やる気がなくなっていた。
「…?」
最後尾を歩いていると、ふと視界がそれを捉える。生い茂る草に隠されるようにして何か石碑のようなものが見えた。こんなところに石碑というのもおかしな話ではあるが…
と、そんなことを気にしている間に三人の姿が見えなくなりかけて焦って岸くんは小走りでそれを追う。
「…やっぱりな…」
反対側にまわってみたが同じように完全封鎖だった。何がなんでもここには入れないぞ、という意志が宿っているかのようである。怪しいといえば怪しいが、触らぬ神に祟りなし。近付かない方が良さそうだ。
だが神宮寺は俄然ファイトを燃やしてしまったようである。
「あと一つ…瀬久樹寮の方からどうなってんのか調べてみるか…ぜってー怪しい。これは怪しすぎるぜ…」
神宮寺に率いられて瀬久樹寮の勝手口に来て見れば、ばったりと嶺亜に会う。その一歩後ろになんだかどんよりとした雰囲気の長身の美形がいた。
「あれぇ神宮寺達ぃ。珍しいねぇこっちに何の用?」
「お前にゃ関係ねぇだろ。俺らは忙しいんだよ」
素っ気なく神宮寺が答えると、嶺亜の眼の奥が澱みだす。二人の間に不穏な空気が漂い始め、岸くんは汗が滲んだ。
「あのね、瀬久樹寮の中で見せてほしいところがあるんだよ。嶺亜はどこ行くの?」
岩橋がフォローをするかのように問いかけたが、嶺亜は機嫌を悪くしたようでさっきの神宮寺のように素っ気なく返す。
「関係ないでしょぉ。谷村行くよぉ」
「あ、ハイ」
谷村と呼ばれた美形は、少しおどおどとしながら嶺亜について行く。

356 :ユーは名無しネ:2014/10/08(水) 22:05:47.84 0.net
「ったく、あいつだけはどうも相容れねーぜ。可愛くねー」
「今のは神宮寺が悪いよ。感じ悪い返しするから」
岩橋が諭すが、神宮寺は聞く耳を持たない。ずかずかと瀬久樹寮に入って行くとばったりと颯に出会う。彼は三人で歩いていたがその他の二人にも岸くんは見覚えがあった。
栗ちゃん、と嶺亜に呼ばれていた足長の酒ヤケ声の美少年と昨日パンを買いだめした背の高いぽっちゃり気味の生徒だ。
神宮寺達は三人とも知っていたようで、声をかける。
「おう、颯に栗田に倉本。お邪魔しやーす」
「なんだ神宮寺達、こっちに何の用だよギャハハハハハ!!」
相変わらず割れた音声のような笑い声を飛ばして栗ちゃん…栗田は問いかけてくる。
「調査だよ。俺ら今すっげーこと計画してるからな。まーアホのお前に説明しても分かんねえだろうけど…」
「誰がアホだギャハハハハハハ!アホは谷村だけで十分なんだよ!ギャハハハハハハ!!」
ばしばし神宮寺を叩いて底抜けに明るくてうるさい笑い声を栗田は放つ。さっきの美形と対照的な雰囲気だな…と岸くんが思っているとぽっちゃり少年が岸くんの顔を覗きこんだ。
「あれ?昨日購買で後ろに並んでた奴じゃん。グリンピースおにぎり美味かった?残してやった俺に感謝だぞ!」
「おかげさまで…」
微妙な気持ちで岸くんが答えると、いきなり誰かが地面に手をついた。びっくりして皆の視線がそこに集まる。
それは颯だった。
「岸くん昨日はごめんなさい!!俺のせいで岸くんが先生に怒られたって…本当にごめんなさい、俺が回ったばっかりに…」
切腹しそうな勢いで颯は岸くんに謝り倒すもんだから、通りかかる生徒も何事だという視線を向けてくる。岸くんは慌てた。
「ちょ…そんなに謝られることじゃないから…いいから顔上げて、皆が見てるああああああああ」
「だって…俺のせいで…俺のせいで…」
今にも泣き出しそうな颯に、岸くんはどうしようどうしようと狼狽する。なんだか自分がとてつもなく悪いことをしているような罪悪感に陥り汗が噴き出した。
それを羽生田が収めに入った。

357 :ユーは名無しネ:2014/10/08(水) 22:06:24.55 0.net
「大げさな奴だな相変わらず。昨日の話は岸くんから聞いた。大方お前はまた回ったんだろうが…元はといえば嶺亜がお前を連れてトンズラしたから岸くんがとばっちりくらったんだろう。お前だけのせいじゃない」
「だけど…岸くんに悪くて…」
「岸くんはもう気にしてないよ。なあ、岸くん?」
羽生田に問われ、岸くんは「あ、う、うん」と答えるしかなかった。しこたま怒られて辛かったが今それを言ったら颯は身投げしてしまうかもしれない。だから言うに言えなかった。
「岸くん…なんて優しい…」
今度は感激で目を潤ませながら颯は岸くんを見つめてくる。なんだか背中がむず痒くなり、岸くんは本来の目的を神宮寺に投げかけた。
「ほら神宮寺、渡り廊下の入り口見に来たんだからさ、そこに案内してもらおうよ」
「お、そうだった。お前らうちの寮との渡り廊下が封鎖されてんの知ってるよな?ちょっとその場所まで案内してくれよ」
「渡り廊下?そんなもん見てどーすんの?」
ぽっちゃり少年(倉本と皆に呼ばれていた)は、キャンディを舐めながら問う。神宮寺は答えをぼかしてそこに案内してもらった。
「やっぱり頑丈に閉じられてるね…」
渡り廊下の入り口であろうドアは瀬久菩寮と同じく、板で打ちつけられていた。「う〜ん…」と唸っていると突如、後ろから声がかかった。
「そこで何をしている!?」
驚いて全員が振り向くと、白髪の老人が険しい表情で立っていた。寮の管理人かなんかだろうか。
「あ、いえ、この向こうどうなってんのかなーって思って…」
神宮寺が軽いノリを装ってごまかそうとしたが、老人はつかつかと歩み寄ってきてぎろりと睨んでくる。なんだか鬼気迫るものがあり、岸くん達はたじろいた。
「どうもなっとらん、危ないからここには近づくな。いいな!?」
頷くしかなく、岸くん達は瀬久菩寮に戻ることにした。


.

358 :ユーは名無しネ:2014/10/08(水) 22:07:59.29 0.net
「あーやだやだぁ、気分悪いよぉ。ほんと神宮寺ってばぁ…」
ぶつぶつと愚痴りながら嶺亜は歩く。機嫌が悪い時には触らない方がいい…そう、触らぬ魔女に祟りなし、谷村は何も言わず黙ってそれを聞いていた。まだ後頭部がズキズキする。
「また栗ちゃんに良からぬもん見せに来たんじゃないよねぇ…もしそうだったらチンチン噛みちぎってやるよぉあの歩く下ネタ魔人がぁ…」
爪を噛み始めるといよいよヤバイ。谷村はこのままフェードアウトして逃げようかな…と天秤が傾く。しかしそうすると後でもっと恐ろしい目に遭うだろうからそれはできなかった。天秤は水平に戻った。
「とりあえず一刻も早く完成させなきゃぁ」
気を持ち直したのか、嶺亜の表情は少し穏やかになっていく。彼は持っていた鍵をそのドアに挿し込み、扉を開けた。
それは寮の裏庭にある倉庫の鍵である。荒れ放題の庭にぽつんと一つ、古びた倉庫を発見したのは谷村だった。嶺亜に言われて野草を取りに行った時のことで一か月ほど前だ。
手入れもされていない、広いこの裏庭に立ち入る者などほとんどいない。ましてやその倉庫など管理人でも把握していないのではないだろうか。
その証拠に、鍵を偶然嶺亜が発見して開けてみると中は埃だらけで錆びた園芸農具や腐りかけの肥料があるだけだ。こんなとこ何もないよぉと嶺亜が再び閉めようとするとそれを発見したのもまた偶然だった。
谷村がお約束どおりでっぱりにつまずいて転倒したその時…
「何これぇ?」
でっぱりは何かの装置だったらしくそれが回転して開いた。その開きの下に階段のようなものが見えたのである。
「これ…」
全開にすると、地下に続くであろう階段が姿を現す。後日懐中電灯を持って二人でそこを探検すると地下室ではなくまた上に続く階段が現れた。そうして行きついた先はまた真っ暗だった。
「…」
中は湿気ていて黴臭く、とてもじゃないが快適な空間ではない。どう考えても長年使われていない。広さはけっこうなもんだが部屋というよりこれは…
「もしかして、渡り廊下じゃないぃこれぇ?」
嶺亜がそう導きだした。階段の距離や方角を考えるとちょうどそこに位置するであろう。確かに、部屋ではなく長い廊下のようである。床は木製だし辺りは家具や物の類はあまり置かれていなさそうだった。
それから、嶺亜は「儀式にうってつけ」だというここに何回か足を運んでいる。こないだは谷村が欲情してしまっておじゃんになったが今回またトライということで…

359 :ユーは名無しネ:2014/10/08(水) 22:08:45.27 0.net
「ちゃんとお清めの塩持ってきたぁ?」
釘をさされて、谷村は袋に入れた伯方の塩を差し出す。
「憑かれそうになったらそれかけるんだよぉ。こないだみたく変態霊に憑かれたりしたら今度こそ本物の霊になってもらうからねぇ」
「分かってます」
今度はどうやって言い訳しようか…谷村はすでに降参モードであった。またあんなエロイ光景が目の前で繰り広げられたら理性がプッツンしてしまう。潔く霊になるしかないのか…
谷村が辞世の句を詠もうとしていると、嶺亜が持っていた瓶の蓋を開けながら、
「じゃぁ始めるよぉ。谷村これ塗ってぇ」
「はい?」
瓶には何やらローションのような液体が詰められている。化学室で調合していたのはこれだろうか。臭いもあまりなく、色もうっすら青がかった透明である。何が配合されているのだろう。
「あの…これは…?」
「こないだはなくてもいけるかと思ったんだけどぉ…やっぱこれ塗った方がいい気がしてぇ。お願いねぇ」
「え?俺が塗るんですか…?」
「そうだよぉ。自分で塗ったら意味がないのぉ。だれかに塗ってもらって完成だってこの本に書いてあるしぃ」
古びた本を指差して嶺亜は言う。いつの頃からいつも手にしている古い本…そこには何が書かれているというのだろう…
「どこに塗ったらいいんですか?」
何気なく問いかけて、とんでもない答えが返ってくる。
「全身に決まってるでしょぉ。余すことなく塗ってよぉ分かったぁ?」
「ぜ…ぜぜぜぜぜぜぜ全身!?そ、それって全部の個所ってことですか?全部?あそこもここも!?」
まさかまさかのローションプレイ…一瞬でイケナイ想像をしてしまい谷村は大声をあげた。それを嶺亜は目を細めながら見る。
「なんか変な事想像してないぃ…?まぁいっかぁ。そうだよぉ。今から僕、服脱ぐからぁちゃんと塗っていってよねぇ」
「ふ…ふふふふふふ服を脱ぐ!!!!?」
「いちいちうるさいぃ。ちゃんとやってよぉ…ってなんでお前も脱いでんだよぉ!?」
気付けば谷村は自分も服を脱いでいた。そんな指示はなかったがなんとなくこの方が興奮…じゃなくて効果があるような気がした。それを口にすると嶺亜は浅い溜息をついた。
「…まぁいいよぉ…ちゃんと塗んなよぉ」
「はい…塗らせていただきます…念入りに…全部の個所に…あそこにもここにも…」
谷村は震える手でローションを掬う。
蝋燭のゆらめく薄暗い空間に全裸の美少年が二人向かい合う…そしてローションをぬったくる…その事実だけで昇天してしまいそうになる。
自分のとある一部分がどうなってるのか認識している余裕はないが目の前の嶺亜がなんだか蔑んだような眼でそれを見ている気がして益々興奮してきてしまった。

360 :ユーは名無しネ:2014/10/08(水) 22:09:29.24 0.net
「で…ででででは…」
自分ではまずは背中あたりから…と思っていたのに意志を超えた本能が手をそこに持っていってしまったようである。嶺亜の表情が若干恥じらいを含ませていた。
「ちょ…いきなりそこかよぉ…」
駄目だ。もう限界だ。理性崩壊。ローションを塗るどころじゃない。
今日が俺の命日だ。だけど死ぬ前に一度くらい官能的喜びに包まれてもいいのではないか、と神に祈った。
明日の朝に屍となって東京湾に浮かんでいるであろう己の姿を想像してぷつん、と理性の糸を切ったその瞬間である。
「…!!?」
機械音と振動音が響き渡る。何か、ドリルのようなものがどこかに当てられたような…
二人して硬直し、息をひそめたが何度かドリルの音がして人の話声のようなものがその向こうから聞こえてくる…気がした。ひどく聞きとりにくかったから耳を澄ませていないと分からないが…
「誰か来たのぉ…?それともこんな時間に工事かなんかぁ…?なんなのぉもぉあと少しだったのにぃ」
口惜しげに呟いて、さっさと嶺亜は服を着る。谷村は出遅れてしまった。
「ちょ、ちょっと待って。置いていかないで!」
「早くしなよぉ。誰かに踏み込まれでもしたらどうすんのぉ。そのまんまでいいから来なぁ」
「そのまんまって…俺全裸なんですけど」
「いいじゃん別にぃ。谷村の裸見たって誰も喜びやしないよぉ。ああまた奇行に及んでんだなぁぐらいにしか思わないからぁ」
「いや、しかし…」
とりあえず下半身だけは隠しておかないと…となんとかズボンまで履き終えると谷村は上着を掴んで嶺亜を追った。
あとちょっとだったのに神様はなんて意地悪なんだ…と自我修復しかけていると苛立ちを含ませた嶺亜の声が前から響く。
「あぁもぉ気持ち悪いぃ…このローション肌に良くないから早く洗い流したいよぉ…シャワー浴びるぅ」
「あ、御供します」
だけどまあとりあえず今はシャワータイムに期待しようと谷村は切り替えることにした。



つづく

361 :ユーは名無しネ:2014/10/14(火) 20:08:45.94 0.net
神7シネマ劇場「放課後の楽人たち」


寮の夕ご飯は魚の煮つけにほうれん草のおひたしに味噌汁に沢庵だった。なんだかわびしい。グリンピースが出てこないだけマシかな…とちまちま食べていると神宮寺が隣に来た。
「岸くんよー…あれどう思う?」
「え?」
「瀬久樹寮のあの爺さんの剣幕…怪しくね?ぜってーあそこになんかあるぜ。俺は確信した」
「そうかなあ。管理人としては封鎖してる場所にあれこれ立ち入ってもらいたくないから怒っただけじゃないの?」
神宮寺のこの浪漫思考は嫌いじゃないが少々漫画の見すぎではないか…と岸くんはやる気を失っていた。
「まあ聞けよ…魚食う?」
「え?いいの?いただきます!」
まあ少年にはロマンが必要だしな…と岸くんは食べ物に釣られる。羽生田と岩橋もやってきて彼の見解に耳を傾けた。
「まあ神様は置いといて…あそこまで頑なに閉じられていると何かあったんじゃないかとは思うな。必要ないなら取り壊しにすればいいだけだし」
羽生田が呟く。彼のトレーの上には明らかに与えられた夕ご飯とは別の豪華な食材が乗っている。伊勢海老が踊っていた。
「単純にお金ないんじゃない?壊すより閉じてた方が楽だし…。そもそも渡り廊下を閉じる理由がないと思うんだけど。自由に行き来できた方が便利だしね」
岩橋は食後の胃薬を飲みながら言った。
「何にせよこの目で見ないことには納得いかねー。そこで俺はこんなもん調達してきた」
神宮寺は机の上に紙袋を置く。そこには電気ドリルが入っていた。
「ちょいと倉庫から拝借してきた。これなら板に穴を開けることぐらいはできんだろ」
「おい…こんなのぶっぱなしてたら管理人なり他の生徒なりが何事かと飛んでくるじゃん。やばいだろ」
岸くんは魚の骨を喉につまらせ、悶えた。
「だから外でやんだって。板が外れて窓ガラスが出てきたら、あとは明るい時間帯に中をのぞきゃいいし」
「いや…でも俺化学室のヘッドスピンハリケーンの件で早速先生にマークされてるし今度何かあったら即退学だって脅されてるし万が一にも問題起こすわけには…」
岸くんは及び腰である。そう、しこたま怒られそんなことを釘刺されたのである。ここを退学になったら行く場所がない。煮魚の恩義はあるがそこまでは…
「しゃーねーな!神宮寺特選SMエロDVD3本立て貸してやっから協力しろよな。岩橋、羽生田、お前らも来るよな!?」
岸くんはエロDVD三本でその夜、裏庭を経由して渡り廊下の封鎖板の穴あけを手伝うことになった。風呂も済ませて裏口からこっそり抜け出す。10時には管理人による点呼が行われるからそれまでに戻っておかないといけない。

362 :ユーは名無しネ:2014/10/14(火) 20:09:30.94 0.net
「…なんか肝試しみたいになってきたな…」
周りを森に囲まれ、灯りは寮の窓から漏れるもののみで真っ暗に近い。懐中電灯をつけていてもその心もとなさに岸くんは身震いした。
「確かに気持ち良くはないね…」
岩橋も眉根を寄せている。だが羽生田と神宮寺は平気のようだ。むしろ羽生田なんかは眼つきがおかしい。
「フフ…なんかこういうのゾクゾクするな…フフ…」
こいつもかなりの変わり者じゃないのか…?と岸くんは今更ながらに思う。なんか眼がイっている。
「ね、あれ何?」
岩橋が肘をつつく。彼の持つ懐中電灯は中庭にある倉庫のようなものを照らした。
「倉庫でしょ。使われてなさそうだし不気味だから無視無視。さっさと板に穴あけて帰ろうよ神宮寺」
「なんだよ岸くん意外と怖がりだな。心配すんなよ、何があってもこの神宮寺様がいる限りあんし…ぅわ!!」
いきなり神宮寺が視界から消えた。まさかもしや神隠し!?岸くんの記憶から、ここに来た時に乗ったタクシーの運転手の怪談話が引き出される。
『ここだけの話…あそこの学校には毎年一人ずつ神隠しにあって生徒が行方不明になってるっつう噂があってな…夜な夜な地獄からの使者の幽霊が徘徊してまわって生贄を探し求めてるって…』
まさかまさかまさか地獄からの使者がその眠りを妨げようとする者を次々と生贄として攫ってそんでxdrcftvgyhぶん…
そこまで考えて、岸くんは総毛立った
「じじじじじ神宮寺!!!いやあああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」
絶叫すると、しかし次の瞬間神宮寺がひょいと姿を現す。
「いってー…こんなところにでかい石が転がってたぜ。足元良く見ねーとな」
「なんだこけただけか…びびらすなよもう…」
「岸くん…ちょっと怖がり過ぎじゃない?」
岩橋にまでクスクス笑われ、岸くんのテンションは下がる。そもそも煮魚とエロDVDではなんだか割に合わない気がする…もう帰りたい…
そう思った矢先に渡り廊下に辿り着いた。若干高さがあるため、念のため持ってきた折り畳み式の脚立を広げると神宮寺は電気ドリルを作動させた。
「うおっ…けっこうキツイな…羽生田変わってくれ」
羽生田に交代し、彼も電気ドリルを操作する。けっこうな騒音である。これってけっこう見つかる危険が高いんじゃないの…と思ったら案の定…
「誰だ!?そこで何をしている!?」
やっぱり見つかった。岸くんはもちろんのこと全員瞬時に「ヤバイ」と即断し、次の瞬間全速力で逃げた。岸くんも半分泣きながら逃げる。体力の限界まで走り続け、転がるように寮に逃げ帰ると神宮寺がいないことに気付く。
「まさか…」
心配した通り、4人ちりぢりに逃げたが運悪く追いかけられた神宮寺は見周りの管理人に捕まり学校にも報告されて次の日しこたま怒られた。職員室から仏頂面で出て来た彼は心配する岩橋達に誇らしげに胸を張る。
「お前らのことは言ってねえからな。あれは俺一人でやったことだって。心配すんな」
こいつ、意外に男気があるなぁ…と岸くんが感心していると岩橋と羽生田は安堵の溜息をつきながら神宮寺の肩を叩く。

363 :ユーは名無しネ:2014/10/14(火) 20:10:01.69 0.net
「次は上手くやろう。やはり電気ドリルは派手な音がするからダメだ。要は打ちつけてる釘さえ抜けりゃあ板は外れる」
「神宮寺、でも暫く時間置いた方がいいよ。今は先生にもマークされてるだろうから次は僕らだけで穴あけしてみてもいいかも」
なんという美しき友情…岸くんは涙ぐむ。最初は変な奴らだと思ったが友達思いのいい奴らばかりだ。
ならば自分も色々と協力できることがあればしなくてはならない。岸くんがそう言うと神宮寺は照れたように頭を掻いた。
「ま、2,3日はおとなしくしとくぜ。古文書に他にも何か情報らしいもんが記されてないかもう一度読み返してみてもいいかもしれねえしな」
「なるほど。三人寄れば…っていうし四人いればなおいいアイディアが生まれるかもね!んじゃ放課後に古文書を皆で解読しようか」
「岸くん頭良さそうには見えないけどまあ期待しとくぜ。んじゃ気を取り直してエロ本でもみっか。今日は特に厳選のやつ持ってきてっからそれを悦しみつつ…」
和気藹藹と教室に戻ってみれば、嶺亜が何やら古びた本を読んでいて、それを片手に神宮寺にちくちくと嫌味を飛ばして来た。
「今度は神宮寺ぃ?なぁにやらかしたのぉ?」
「うるせ。お前にゃ関係ねー。まぁたその怪しげな本読んでんのかよ。なんなんだよそれ」
「神宮寺には関係ないよぉ。文字読めないチンパンジーのくせにぃ」
「あぁ?字ぐらい読めらぁ。それに読むならこういう本をお前も読んでみろ、ほら!」
神宮寺は机の中にしのばせておいたであろうエロ本をばさっと嶺亜の机の上に広げた。見る間に嶺亜の表情が嫌悪感に染まる。彼はそれをはたきおとした。
「そんな汚らわしいもん置かないでぇ。最低ぇ」
「男ならむしろバイブルだろうがよ。まぁ魔女には分かんねえかなー」
「おい、やめろ神宮寺。そろそろ先生が来るぞ」
羽生田に諭され、神宮寺はエロ本を岸くんに手渡してきた。それをまた侮蔑の眼で見ながら嶺亜は本をしまって教科書を出す。
やれやれ…と岸くんが思っていると先生が入ってきた。
とりあえず真面目に授業を受けているフリを…と岸くんと神宮寺達は努める。いつものように一日が過ぎていくと思いきや事件は起こった。4限の体育の後である。グラウンドから教室に戻ってきた岸くん達はぎょっとする。
「なんだこりゃ…」
神宮寺の机の周りがめちゃめちゃに荒らされていた。机の中から鞄の中まで漁られ、エロ本がビリビリに破られて散乱している。
教室内がざわめく。異様な光景にみんなヒソヒソと耳打ちをし合っていた。これはまるで…
「何これ…いじめ…?ひどいよこんな…」
岩橋が怒りを露わにして険しい表情になって呟いた。中学生の時、自身もいじめのようなものに遭ったといつかの雑談で彼が語っていたのを岸くんは思い出す。だからこそ許せないのだろう。
「誰がこんな…」
羽生田が呟くと、皆の視線が一方に集まりだす。タオルで汗を拭きながら教室に入ってきた嶺亜である。

364 :ユーは名無しネ:2014/10/14(火) 20:10:34.57 0.net
「なぁに?…なにこれぇ」
嶺亜は神宮寺の机を見て首を傾げた。傍目には何も知らないと言った風だがしかし神宮寺が彼に歩み寄る。
「おい、なんだよこれ、タチ悪いにもほどがあんだろ!」
「はぁ?」
「はぁ、じゃねーよお前だろこんなことしたの。今朝の仕返しかよ!」
「何言ってるのか分かんないぃ。なんで僕がそんなことしなきゃなんないのぉ?」
嶺亜も睨みかえして反論する。この様子だと彼ではないのか…?と岸くんも判断に迷う。確かにいざこざはあったし仲は決して良くなさそうだがしかし…
「ふざけんなよ、お前しかできねーだろ。さっきの体育の途中トイレ行くっつって暫く戻って来なかっただろ!アリバイがねーだろお前には!」
そうなのだ。授業が始まってすぐに嶺亜は「トイレに行ってきますぅ」と言って校舎に戻って行った。やたら遅いなとは思っていたが…
「確かにトイレには行ったけどぉ…日焼け止め塗るの忘れてたからそこで塗ってたせいで遅くなっただけだよぉ。僕がやったって証拠にはならないでしょぉ」
「なんとでも言えんだろそんなん。女々しいことしてんじゃねーよ!」
なおもつっかかる神宮寺だが嶺亜は引かない。今にも掴みあいの喧嘩が始まるのではという緊張感が教室内に走る。それを羽生田が止めに入った。
「落ち着け神宮寺。状況証拠だけじゃ弱い。それに、騒ぎにすればまた先生から目をつけられる。ここは一旦引こう」
「僕はやってないからぁ」
嶺亜は羽生田を睨む。その視線をかわして羽生田は神宮寺の机の周りを片付けにはいった。岩橋もそれに倣う。次の授業が始まる頃にはもう何事もなかったかのように教室内は静けさを取り戻していた。
岸くんがふと見やった嶺亜の横顔は、氷のように冷たく張りついていて、そこから彼の心理を読み取ることはできなかった。


.

365 :ユーは名無しネ:2014/10/14(火) 20:11:04.34 0.net
谷村は久々に清々しい気持ちで昼休みを迎えた。ラーメンには卵が二つもついていたし、席もちょうど空いている。こんなにスムーズに食事ができたのはいつ以来だろう…。
歓喜に浸りながらラーメンをすすっていると颯と倉本もやってくる。颯は相変わらずのメロンパンづくし、倉本はカツ丼にきつねうどんと大盛りのチキンライスを抱えていた。
「はあ…」
珍しく颯が溜息をついていた。天真爛漫な彼が珍しい。倉本もそう思ったのかきょとん、とその大きな目をぱちくりとさせた。
「何、颯。溜息なんかついて。なんかあったの?」
「どうしよう…この気持ちは一体なんなんだろう…」
胸を掻き毟るかのような切ない顔をして、颯は呟く。楽天家の彼が見せる異様な姿に谷村も少し気になった。
「何かあったの?」
谷村がそう訊ねると、空いている隣の机に賑やかな4人組が座った。その中の一人を見て颯が表情を変える。
「き…岸くん!」
颯はガタッと立ち上がる。そしてその瞳が見る間に潤み出した。
岸くんと呼ばれたその生徒を谷村はどこかで見たような気がしたが思い出せない。記憶の糸を辿っていると4人組のうちの一人…嶺亜と同級生の神宮寺だ…はぶっかけうどんをズルズルかっこみながら何やら怒り心頭なご様子でこう喚いた。
「あーもうクソ腹立つ!!苦労して入手した極上ビニ本だったのに…!!嶺亜のヤロー」
嶺亜の名前が出たことによって谷村の意識はそっちに傾いた。神宮寺と嶺亜の折り合いが良くないことは知っている。いつの頃からかそうなのだ。
「なになに、れいあがどうかしたのかよ!ギャハハハハハハハ!!」
と、そこにバカ笑いで登場したのは栗田恵である。お盆にはオムライスが乗っていた。

366 :ユーは名無しネ:2014/10/14(火) 20:11:35.53 0.net
「れいあと二人で食べようと思ってよー探してんだけどお前らしらね?ギャハハハハハハハ!!」
食堂内に響き渡るガスガス声を放ち、栗田は訊ねてくる。しかし食堂内に嶺亜の姿はないようだ。
「知らねーよ!!俺のビニ本弁償するまで口きいてやんねー!あーもう…」
「あ?れいあがなんだって?」
栗田が首を傾げると、岩橋が補足説明をする。腹痛もちの彼は今日は梅がゆだった。
「さっき体育の時間の間に神宮寺の机がめちゃめちゃに荒らされてて…それができるのはトイレに立った嶺亜しかいないんだ。今朝ちょっと言い合いになったし…だから神宮寺怒ってて」
そんなことがあったのか…と谷村は内心頷く。ビニ本なんて嶺亜からしたら汚物そのものだろうしまあ気性が激しい部分があるからもしかしたら…と思っていると静かな声が響く。
「あ?れいあがそんなことするわけねーだろ」
さっきまでバカ笑いでへらへらしていた栗田の表情が真剣そのものになっていた。声もガスガスではなく低く抑揚のないものになっていて、それだけその言葉に真実味があるように思わせた。
「俺達だってむやみやたらと疑ってるわけじゃない。だけどあまりにも状況証拠が揃いすぎててだな…」
羽生田がそう言っても、栗田は頑として譲らない。
「ジョーキョーショーコとか知らねーよ。とにかくれいあはそんなことしねー。真犯人俺が見つけてやらあ」
きっぱりと断言して、栗田はオムライスを持って去って行った。
「…」
その後ろ姿をぼんやり見ていると、先ほどとは全く声色の違った消え入りそうな神宮寺の声が響いた。
「…俺だって別にあいつのこと本気で疑ってる訳じゃねーよ…」
ふと見ると、神宮寺はひどく悲しそうな眼をしていた。




つづく

367 :ユーは名無しネ:2014/10/16(木) 03:38:15.98 I.net
ちょっと見ない間に沢山更新されてる!作者さん乙です!
れあくりジャスティスだし真犯人が気になります、これは続きが楽しみ…

368 :ユーは名無しネ:2014/10/18(土) 21:11:54.29 0.net
神7シネマ劇場「放課後の楽人たち」


6限終了のチャイムが鳴り、HRもそこそこに放課後に突入する。岸くんは掃除当番に当たっていたので担当場所の社会科教室に向かった。
「あれ?」
教室には箒を手に誰かが先着していた。だけどここの担当は自分なんだけど間違えたかな…と思って近付くとそれは嶺亜だった。
「嶺亜?あれ?ここの担当俺じゃなかったっけ…?」
おそるおそる訊ねてみると、予想もしない答えが返ってくる。
「…こないだ代わってもらったから今日は僕がするよぉ。だから岸は帰ってぇ」
素っ気なく言って、嶺亜はまた箒を動かす。岸くんは茫然と立ち尽くす。
神宮寺達が「あいつが約束を守るわけがない」と言っていたから岸くんもそんな約束はすっかり忘れていた。だけど今、こうして…
なんだか岸くんには良く分からなくなった。確かに嶺亜は二面性が激しくて、ズルくて、少々エキセントリックな趣味があってついていけない部分が多いけど実はそんなに悪い子じゃないんじゃないだろうか…。
神宮寺達と折り合いが良くないのは何かタイミングが悪いとかで、その歯車さえ噛み合えば仲良くなれるんじゃないか、そんな気がした。
そこに思い至ると、岸くんは雑巾を手に取った。

369 :ユーは名無しネ:2014/10/18(土) 21:12:29.44 0.net
「…何やってんのぉ?」
「二人でやった方が早く終わるし。忙しいんでしょ?儀式?実験?それ今日もするんでしょ」
机を順番にぎしぎし拭いていくと、嶺亜は再び箒を動かしながらこう呟く。
「今日はやんないよぉ。暇だからぁ…だから掃除しに来ただけぇ。先生に『嶺亜が約束を守ってくれない』って言いつけられたら厄介だからぁ」
素直じゃないなぁ…と岸くんは浅い溜息が出たがこれも嶺亜の性格の一部なのかもしれない。まずは相手を知ることから。岸くんは言った。
「言いつけたりなんかしないって。それに、俺の方が今んとこ圧倒的に先生の信用ないしさ」
冗談めかしたつもりだったが、嶺亜には皮肉に聞こえてしまったようだ。
「こないだ颯が化学室で暴れた時僕らだけ逃げたからねぇ。僕はズルいからねぇ」
「いや、そんな意味で言ったんじゃなく…」
「神宮寺のビニ本破ったのだって、僕しかいないしぃ。皆僕のこと疑ってるの分かるよぉ。あいつならやりかねないってぇ。岸だってそう思うでしょぉ?」
嶺亜の眼は少し悲しそうだった。岸くんが何か上手いフォローの言葉はないかと探っていると彼はしかし次の瞬間に全く違った色をその瞳に宿していた。
その燃えるような決意を孕んだ声が社会科教室に響く。
「誰にどう思われたって僕は気にしないよぉ。そんなことより僕にはやらなきゃいけないことがあるからぁ」
それが何かを訊ねる前に、嶺亜はさっさと箒で集めたゴミを片付けて、教室を出て行った。

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370 :ユーは名無しネ:2014/10/18(土) 21:12:59.89 0.net
「はい?今、なんて?」
谷村はもう一度訊き返した。聞こえなかったわけではないが、理解が及ばない。
「だからぁ、今日はいいからぁ。勉強するなりゲームするなり好きに過ごしてぇ。じゃあねぇ」
「え、ちょ、ちょっと待って下さい。今日はいいって…絶好の儀式日和じゃないんですか?十五夜の満月出てるし、材料だって全て揃ってるし…」
「そうだけどぉ、なんか今日は気分が乗らないのぉ。そんな日にしたって上手くいく気はしないからぁ」
「…」
それ以上何も言えずにいると、嶺亜はさっさと寮の自分の部屋に戻って行った。
いつもやりたいことがあるのに儀式に付き合わされて、ろくに勉強もできなくて不満を募らせていたがいざ今日は何もしなくていい、と言われると急に手持無沙汰感が襲ってくる。
トカゲをつかまえたり、カエルをつかまえたり、野草や山菜やなんやらを調達してくるのは骨が折れるしくたびれるからもう嫌だと常々嘆いていたのだが…
何より、儀式中及び終了後の触れあいやシャワータイムが今日はないことが堪える。なんだかんだでこれが己の活力源になっている気がするからだ。
唖然としていると、再び部屋から嶺亜が出てくる。手には懐中電灯が握られていた。
「どこか行くんですか?」
「ブレスレットがどこ探してもないんだよぉ…もしかしたら昨日あそこで脱いだ時に落としてきちゃったのかもぉ。急いで服着たからぁ」
「あ、御供します」
「いいよぉ。取ってくるだけだしぃだいたいのめどはついてるからぁ」
そう言ってさっさと嶺亜は行ってしまった。谷村は溜息をつきながら自分の部屋に戻る。なんだか無気力になってしまって何もする気がおきなかった。

371 :ユーは名無しネ:2014/10/18(土) 21:13:31.61 0.net
「はあ…」
同室では、似たような溜息を颯もついていた。二段ベッドの上でなんかブツブツ言っている。
「これは…この気持ちはやっぱり…いやそんな…ああでも瞼を閉じるとその麗しい涙目と法令線と汗だくの姿がこんなに鮮やかに描き出され…」
なんか良く分からんがこいつはこいつで似たような悩みがあるもんなんだな…と谷村は少しだけ颯に親近感を持った。
「颯、何がそんなに苦しいの?誰のこと考えてんの?」
ベッドの下から何気なく問いかけてみると、深い溜息をついた後、颯は二段ベッドの上から顔を覗かせた。
「実は…ある人のことが頭を離れなくて…」
「ある人?誰それ?」
「…」
颯はモジモジしだした。見た目は爽やか好青年でAOKIのスーツが良く似合いそうだが中身は案外乙女なのである。ややあって彼はボソっと聞きとりにくい声で呟く。
「…くん」
「え?」
「…しくん」
「は?」
「…きしくん」
「え?きしめん?なんて言ったの?良く聞こえないんだけど」
「だから岸くんって言ってるだろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」
何度も言わされ羞恥心の頂点に達した颯は完全に我を失ってベッドの上で回りだした。後悔先にたたず。谷村は半泣きで部屋から逃げた。この勢いだと恐らくベッドに穴が開く。これではまた管理人に怒られてしまう…もうすぐ点呼の時間だから叱責は免れない。
今日は厄日か…?やぎ座の運勢は最下位だったのだろうか。暗澹たる思いを抱えながらとりあえずロビーに非難していると苦々しい表情の嶺亜が現れる。息が乱れていた。

372 :ユーは名無しネ:2014/10/18(土) 21:14:14.87 0.net
「どうしたんですか?」
駆け寄ると、嶺亜は方目を細めながら
「腕擦り剥いちゃったぁ…いったぁ…もぉ…」
見ると白くすべすべとした嶺亜の腕のあちこちに擦り傷が見えた。一体どうして…と訊ねると彼は言う。
「ブレスレット取りに行って、倉庫から出ようとしたらぁ…なんか誰かがいる気がしてぇ…懐中電灯で照らそうとしたらぁいきなり襲われそうになったぁ。
シャベル投げ付けてやったらヒットして怯んだからその隙に逃げてきたのぉ。おかげで伸びた雑草に当たってあちこちこんなになってぇ」
「だから俺が付いて行くっていったのに…危ないですよ、一人だと」
「幼稚園児じゃないんだからぁそんな格好悪いことできないよぉ。谷村のくせに子ども扱いしないでくれるぅ?」
「いえ、子ども扱いではなくて…そんなことより応急処置を…」
ロビーの救急箱を持ってくると谷村は消毒液を嶺亜に当てる。
「…っつ」
「あ、すみません。痛かったですか?」
「痛いぃ。もうちょっと優しくしろよぉ…あっ痛ぁ」
「すみません…優しく…こんな感じで…」
「痛いよぉ!…余計に痛いからさっさとしろよぉ」
「はい…すみません…もうちょっとですから…あれ…なかなか出ない…えいっ…えいっ」
「痛いってばぁ!突くなよぉもぉ」
なんだか会話の内容だけだと非常にエッチな感じだなぁ…と密かに谷村は興奮した。嶺亜の痛がる姿もなんだかそそられる…。しかしそんなことを考えているのがバレたらまた絶対零度だからできる限り表には出さず自然に振る舞い…
そこで嶺亜の冷たい声が飛んできた。
「谷村ぁ…そのズボンの膨らみはなぁに?」


つづく

373 :ユーは名無しネ:2014/10/23(木) 19:48:33.84 0.net
神7シネマ劇場「放課後の楽人たち」


寮の朝ご飯はトースト一枚にスクランブルエッグ少々、そして野菜サラダと牛乳である。充分といえば充分かもしれないが朝はきっちり食べたい岸くんには少々物足りない。
食にあまり関心のない神宮寺なら分けてくれるかなと期待しながら彼を待ったがなかなか来ない。寝坊したのだろうか。
「おはよう岸くん」
お腹をおさえて岩橋が現れる。続いて羽生田も姿を現した。
「おはよ。神宮寺は?まだ寝てるの?」
神宮寺と同室である岩橋に問うと、彼は食前の胃薬を飲みながら首を横に振った。
「ううん、もう出たみたい。今朝はやたら早起きで…昨日ちょっとへこんでたし早く寝ちゃったから目が覚めるのも早かったんだろうね」
「そっか。…へこんでたって?ビニ本がおじゃんになったから?」
「それもあるだろうけど…ちょっと自分でも後悔してるみたい。嶺亜を疑っちゃったこと」
「え?そうなの?神宮寺、そんなへこむくらいならなんで…」
トーストをかじりながら岸くんが問うと、岩橋と羽生田は顔を見合わせる。ややあって、メロンをかじりながら羽生田は答えた。もちろん、寮の朝ご飯の中にメロンなどはない。
「あの二人は元々仲が悪いわけじゃないし…一時期べったりな時もあったからな。なんか些細な行き違いで今みたいなちょっとぎくしゃくした関係になっただけだから」
「あ、そうなんだ。些細な行き違いって?」
「なんかよく分かんない。けど、多分嶺亜の方が神宮寺にちょっと距離置きだして…そしたら神宮寺もなんか今までみたく話すこともなくなって…今年同じクラスになったら何かと言い合いみたいなことするようになっちゃった」
岩橋は野菜サラダをつつく。羽生田も頷きながらロイヤルミルクティーをすすった。
「ちょうど同じ頃じゃないか?嶺亜が魔女と呼ばれるようになった奇行に走りだしたのって」
「儀式とか実験とか?そういえばいつも同じ古い本持ってるね。あれ何?」
「…僕らも知らない。何か大事なものみたいだけどあんなの去年は持ってなかったしね」
「ふうん…」
なんとなく、昨日見せた嶺亜の顔にその理由がありそうな気はしたが岸くんにはまだ分からなかった。二人が仲が良かったという事実を聞いて、またそうなれたらいいのになあ…となんとなく思いながら岩橋と羽生田と共に教室に向かう。

374 :ユーは名無しネ:2014/10/23(木) 19:49:08.86 0.net
「…なんかざわめいてない?」
岩橋が教室の前に着いた頃首を傾げた。中に入ると確かにクラスメイト達がざわめいている。その視線の先は…。
「何これ…」
岸くんはデジャヴに襲われた。昨日の4限終了時と同じ光景がそこに広がっていた。
ただ、あの時は神宮寺の机だったが、今度は…
「嶺亜…」
めちゃくちゃに荒らされた机の前に、無表情の嶺亜が立っていた。机の中に入れていたであろう教科書やノートの類はビリビリに破られ、机には無数の切り傷、椅子にも同様に刃物で傷つけられたような跡があった。
「一体誰がこんな…」
「うっす岸くんおはよー」
唖然としていると、神宮寺が後ろからやってくる。彼は教室に入るなり目を丸くした。
「え?おい、なんだよこれ…」
皆の視線が神宮寺に集まる。嶺亜の机の惨状と、その視線を受けて神宮寺は事態を把握したのか戸惑いを見せた。
「え、俺じゃねえぞ…」
そう、皆の視線は神宮寺を疑っている。
「俺じゃねえぞ!俺だって昨日おんなじ目に遭ったんだから…なんで俺のこと疑うんだよ!?」
そうだ。確かに神宮寺は昨日同じような目に遭っている。
だけど、誰かがこう呟いた。
「…仕返しにしてはひどいな…」
「そういや今朝早くに寮出ていくの俺見たし…」
ヒソヒソと、クラスメイトは囁き合う。神宮寺はその囁きの元に突っかかって行った。
「おい!俺は仕返しなんかしてねえぞ!!早く出たのだって教室じゃなくてグラウンドで身体動かしてただけだし、なんで俺がそんなことしなくちゃなんねえんだよ!!」
一転して疑われ始めた神宮寺に、昨日の嶺亜と同じく誰も擁護する者はいない。そう、状況証拠が揃いすぎているからだ。
しかし騒ぐ神宮寺達には目もくれず、嶺亜は表情を殺して散乱した切れ端を無言で片付け始める。その後ろ姿はさすがに痛々しくて、岸くんは思わず身体が動いた。
「…岸ぃ?」
「教科書、俺の見せてやるよ。先生に言えば新しいやつくれるだろうから…」
散らばった紙片を集めながら岸くんは嶺亜にそう言った。そう言うしかできなかった。
一体誰がこんな…怒りすら抱き始め、岸くんは一つの使命感に燃えた。
神宮寺と嶺亜に嫌がらせした犯人を、何がなんでも付きとめて謝罪させてやる…
そう闘志を燃やしながら、岸くんは拳を握りしめた。


.

375 :ユーは名無しネ:2014/10/23(木) 19:49:52.85 0.net
放課後、図書室で岸くん達は真犯人をつきとめるべく作戦会議を設けた。
「犯人は早朝や授業の合間をぬって犯行に及んでいる…ということはつまり、学校関係者に違いない」
岸くんが見解を述べると羽生田が目を覆った。
「アホか岸くん。そんなの当たり前だ。ここは陸の孤島なんだし外部から侵入するのは不可能なんだからいわば『犯人は…地球人だ』と言ってるのと同じ。もうちょっと絞りこまないと」
「あ、そ、そうかな…。うん、それもそう…」
出鼻をくじかれて、岸くんがあたふたしていると岩橋が視線を落とした。
「どうした?岩橋?」
羽生田が訊ねると、岩橋は机に肘をついて顔を覆う。そこで少し震えた声でこう吐露した。
「自分が嫌になる…あんなことになるまで、僕は心のどこかで嶺亜のこと疑ってた。だけど今日ので嶺亜が犯人じゃないって証明された…。いじめは許せないって思ってたのに…自分がそれに加担してしまうところだったなんて…」
「いや、岩橋、それは違うよ。あの状況じゃそれも仕方がないことで…」
岸くんがフォローしても、岩橋は顔を覆ったままで首を左右に振った。
「仕方なくても、嶺亜にしたら無実の罪で疑われて、今度は自分自身もあんなことされて…僕だったら耐えられないよ…」
「それを言うなら俺の方がもっとひどい。『やってない』っていう嶺亜の声を無視して状況証拠がどうのなんて…そんなことより人を信じる方が何倍も建設的なのにハナから疑ってかかってしまった」
羽生田も自己嫌悪に囚われてしまっているようだった。深い溜息が充満する。
「嶺亜にはあとで皆で謝ろうよ。誠意をこめて謝ればきっと分かってくれるって。な、神宮寺?」
それまで無言で座っていた神宮寺の肩に手をやると、しかし彼は唇を噛み、次の瞬間立ちあがって物凄い勢いで椅子を蹴った。
「神宮寺!?」
「…フザけやがって…!!誰だか知んねえけどブッ殺してやる…!!」
怒りにその眼を燃やし、神宮寺は震える拳を握る。怒髪天を突く、とはこのことかもしれない。その怒りは計り知れなかった。
「俺に嶺亜を疑わせて…陰で笑ってやがったんだ…それだけじゃなくて嶺亜にまで…!!ぜってー許せねえ…」
自分自身への怒りと、犯人への怒りで神宮寺は顔を真っ赤にしていた。恐らく岩橋や羽生田の何倍も自己嫌悪にかられているだろうその感情のやり場は、無論犯人に向けられている。
痛いほどに伝わってくるその気持ちを察すると岸くんは椅子を起こして神宮寺の肩に再び手を置いた。
「その通り。ぜってー許せないから一刻も早く犯人割り出さないと。土下座では済まさないよな!?」
岸くんの意見に、三人とも頷いてくれた。


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376 :ユーは名無しネ:2014/10/23(木) 19:50:38.15 0.net
瀬久樹寮のロビーにはインターネットができるパソコンが二台置かれている。無料だが、一人につき15分までという規定が設けられており普段順番待ちの生徒で賑わっている。その片隅に嶺亜と颯、谷村、倉本はいた。
「嶺亜大丈夫!俺達がついてるから!とりあえず回ろうよ」
颯が松岡修造ばりのテンションで嶺亜を励ます。その隣で谷村はコーヒーをすすりながら少し俯き加減である。
「今時そんなあからさまなことする奴いるんだなー。嶺亜くん、何か盗まれたもんとかないの?」
みたらし団子を食べながら倉本が訊く。嶺亜はぶすっとした表情で首を横に振った。
「なぁんにも。教科書破られてただけぇ。てかそれしか置いてないしぃ」
「恨みとか買ってない?そういうことしそうな奴に心当たりはないの?まあ神宮寺もやられてるし二人揃って恨んでる奴とかさー」
ずけずけ言う倉本を嶺亜は睨んだが、そこは倉本の屈託のない性格の特権なのかすぐに平然とした表情に戻る。そして若干卑屈な口調でこう言った。
「さあねえ。僕は『魔女』なんて呼ばれて皆に疎まれてるしぃ…そう考えると誰にやられても不思議じゃないよぉ。今までこんな幼稚なことしてきた奴いないけどぉ」
「そんなことない!嶺亜はちょっと変わったところあるけど本当はいい子だって誰もが知ってるし!」
「ありがとぉ颯。でも颯に変わってるとは言われたくないけどねぇ」
嶺亜は苦笑する。どうも颯には自分が変わっているという感覚はないらしい。もっとも、フグが自分の毒で死なないのと同じ原理なのだろうが…。
「別にこんなの気にしないよぉ。現場押さえられれば局部殴打して蹲ったところにバケツいっぱいのブタの血でも浴びせてそれから熱湯消毒ぐらいのことはしてやるけどぉ」
殺し屋の眼つきになって嶺亜は薄ら笑いを浮かべる。彼のことだからわりとまじでやるかもな…とその場にいる者は思った。
「あれ?」
きょとんとした颯は谷村を見据える。
「谷村?どうしたの、なんかいつも以上に暗いね。停電小僧もびっくりなくらい」
「…」

377 :ユーは名無しネ:2014/10/23(木) 19:51:12.42 0.net
谷村は実は自己嫌悪に苛まれていた。
神宮寺がやられた際、彼が嶺亜を疑っていた時に少し内心同意してしまったからである。それが元々暗い性格をさらに暗くしていた。
「腹へってんの?みたらし団子食う?」
倉本が団子を差し出したが谷村は首を横に振って断った。
儀式をしない、というのは暗に自分を疑った谷村への怒りなのかも…とすら思え、気分は下降一直線である。
そうして谷村が奈落の底へ旅をしているとロビーにけたたましい笑い声が響いてくる。
声の主は分かりきっていたが今顔を上げる気になれない谷村はちびちびとコーヒーをすすることしかできないでいた。
「やっべーパソコン何人待ち!?つい昔懐かしゲームボーイアドバンスのドクターマリオに夢中んなって出遅れちまったぜギャハハハハハハハ!!!」
「あ、栗田くん」
颯が栗田の名を呼ぶ。彼は一目散にこっちに駆けて来た。
「れいあ心配すんな!!おめーの机荒らした犯人はこの俺が捕まえてチンチン蹴りあげて蹲ったところにブタの血浴びせて最後に熱湯消毒して息の根止めてやっからよ!」
「栗ちゃん…」
見る間に嶺亜の眼が潤みだす。先程の殺し屋の眼は微塵も残されていない。
「僕ぅ…怖くて怖くてぇ…ショックだよぉこんなことする子がいるなんてぇ…もう明日から怖くて学校行けないよぉ」
栗田にしがみつきながら嶺亜はスンスンすすり泣く。オスカー賞狙えるんじゃないかと思えるほどの名演技である。さっきまで平然として犯人の急所がどうの…って言ってなかったっけ…。
「アホかれいあ!アホは谷村だけで充分だぞ。俺がついてるだろ!なんかあったら俺んとこ来いよ全力で守ってやらあ!!そのためには早く真犯人血祭りにあげねーとな!明日から調査開始だぜギャハハハハハハハハ!!」
「栗ちゃん…ありがとぉ。そこの谷村で良かったら助手に使ってぇ。たまに霊に憑かれる以外は案外不死身で便利だからぁ鈍器でどつかれたぐらいじゃ死なないよぉ」
「へ、俺?」
突然の指名に谷村は頭が真っ白になる。持ってたコーヒーカップを落としそうになった。
「まじかーでもアホな助手がいてもしょうがなさそーだけどまーいっか。猫の手も借りたいってか谷村の手も借りてー状況だしな!
おい谷村、れいあに嫌がらせした奴つきとめるからお前明日から馬車馬のように働けよ!ギャハハハハハハハ!!」
「は…はい」
栗田の助手なんて死んでも御免だが谷村はなんだか気分が立ち直っていく。そう、犯人さえ突き止めれば…そいつが嶺亜に心ゆくまで嬲られればそれで皆ハッピーだ。そしたらまたいつもの日々が戻ってくる。
使命感が全身をかけめぐるとなんだか世界が光に満ちて見えた。自我修復はピタリとやむ。
「あ、じゃあ俺も協力するよ!!なんでも言って栗田くん!!」
颯も勢い良く挙手した。
「しゃーねーな。コロッケパン3つで俺も協力してやるよ」
倉本も加わり、あれよあれよという間に調査団が結成された。

.

378 :ユーは名無しネ:2014/10/23(木) 19:51:37.42 0.net
「古典的ではあるが最も確実な証拠が取れるのがこれだ」
瀬久菩寮の神宮寺・岩橋の部屋で作戦会議が練られる。羽生田がどこからか防犯カメラのようなものを調達してきた。
「なるほどね…教室内全体を見渡せるところに取りつければ犯人が割り出せるね」
顎に手を当てて岩橋が頷く。
「問題はこれをどこに設置するかといつ置くかだな。置いてることが知られたら意味ないしな」
羽生田の言うことはもっともである。神宮寺と岸くんは頷いた。
「早朝か放課後誰もいなくなってからで良くね?」
神宮寺が提案すると、うーんと岩橋が考える仕草を見せる。
「朝だと設置するのに時間がかかったりすると他のクラスの生徒に見られる可能性もあるよね。放課後なんかはそれこそ部活動でかなり遅くまで残ってる子もいるし先生や用務員の人も通りかからないとも言い切れない。とするとやっぱり…」
「ああ、それしかないな…」
羽生田が頷く。神宮寺と岸くんは顔を見合わせた。彼らはまだ付いていけない。置いてけぼりで羽生田と岩橋が話すのをただ黙って聞いていることしかできなかった。
「やはり夜しかないか…とすると、どっちにそれをやってもらうか、だな」
話し終わると羽生田と岩橋は岸くんと神宮寺を交互に見据える。
ジャンケンの後、それは岸くんに決まった。



つづく

379 :ユーは名無しネ:2014/10/26(日) 03:39:54.66 0.net
徐々に話が進んできてドキドキしますな…
続きも楽しみにしてます!

380 :ユーは名無しネ:2014/10/27(月) 19:36:05.55 0.net
神7シネマ劇場「放課後の楽人たち」


「ううう…帰りたい…怖い…」
暗闇で谷村は必死で自我修復で乗り切っていた。そうでもしないと恐怖と疲労で頭がおかしくなってしまう。
そもそも、何故こんなことになったのか…今日の放課後を思い返してみる。
「れいあの机に嫌がらせした奴はもしかしたらまたやるかもしんねー。現場押さえてとっちめるのが一番だ!!」
珍しく栗田が建設的な意見を出したかと思えばそれは少々曲がった方向に行き出した。短絡的な、実に効率の悪いやり方である。しかし谷村が異を唱える前にそれは決まってしまった。
「つーわけで谷村、お前教室の掃除用具入れの中に隠れて夜中から朝にかけて見張っとけ。頼んだぞ!!」
「え、ちょっ…待っ…なんで俺が…」
「おめーはれいあがあんなことされて平気なんか!?あぁ!?」
だったら自分がやれば…と言いかけて、嶺亜の顔が目に映る。すがったり助けを求めるような眼ではなかったが、どこかで頼りにしているような、そんな感じが見受けられて気がつけばここにいる。
「…けど、怖すぎる…」
掃除用具の中は狭くて屈むのがやっとだった。ここで一晩中というのはかなりの苦行である。そもそも、犯人がこんな短いスパンで嫌がらせを再度行うとも思えない。
そもそも、これってここに防犯カメラでも付ければ解決できた話じゃないのか…?
そこに気付いてしまったと同時に異変が訪れる。夜の教室は暗くて静かで物音一つないのだが谷村の耳は微かに足音のようなものを捉えた。そして認識すると同時に窓枠がガタガタと鳴る。恐怖でちびりそうになった。
ガタン、と音がして誰かが着地したような音がこだまする。
極限の恐怖の中で、谷村は記憶の引き出しが開く。確か前に嶺亜が言っていた。「うちの教室の廊下側の窓の鍵ねぇ、ちょっと窓枠揺らしただけで簡単に外れるんだよぉ」と。
もしや誰かが侵入してきたのでは…?
だとしたらまさかそれは嫌がらせの犯人では…

381 :ユーは名無しネ:2014/10/27(月) 19:36:45.98 0.net
怖くて震えていた足はどうにか力が入りだした。谷村はエアガンを握る手に力をこめる。
「おめーはどうも頼りねーからとりあえず犯人来たらこれでハチの巣にしてやれ!!」
そう言って栗田がどこから調達してきたのかでかいエアガンを持ってきた。殺傷能力すらありそうなずっしりと重たい本格的なタイプだ。しかしこういう事態になったとあればそれは心強い。谷村は教わったとおりに操作していつでもぶっ放せる状態にした。
灯りのようなものが灯る。懐中電灯だろう。光がロッカーの隙間から漏れて来た。
「!!」
しかし谷村の予測を裏切って、いきなりロッカーの扉が開けられる。
まさか自分がここに隠れていることがバレていたのか…!?
それはそうとヤバイ。この状況ヤバすぎる。もう犯人だろうがそうじゃなかろうが身の危険から自分を守らなければ。
ていうか怖い。すんげー怖い。ちびりそうだけど水絶ちしてトイレ行っておいて良かった。漏れるもんが何もない。我ながら谷村グッジョブ!!…ってそんなどころじゃねえよもう(1.5秒)
頂点にまで達した恐怖心から谷村は泣き叫びながらエアガンをぶっ放した。とりあえず死にたくない。いいことのあまりない人生だったがまだ死ぬわけにはいかない。そんなら鈍器で殴られてでも嶺亜を押し倒しておくんだった。
生まれてから現在に至るまでの様々な思い出が一瞬で走馬灯のように蘇り、半狂乱になって谷村はエアガンを乱射した。
「うぎゃあああああああああ痛い痛い痛い痛い助けて助けて助けて殺さないでうわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
相手は絶叫する。どこかで聞いた声…それを認識すると手が止まっていた。
その人物が持っていたであろう懐中電灯が床に転がっている。恐る恐るそれを手に取り騒ぎ悶絶するその相手の顔を照らすとそこには見覚えのある顔があった。

382 :ユーは名無しネ:2014/10/27(月) 19:41:44.44 0.net
「…岸くん…?…だったっけ…?」
谷村が呟くと、岸くんもまた驚愕に満ちた表情で見つめてくる。
「え…お前は…確か、谷…谷…なんだっけ…」
「谷村…」
「あ、そーだ。谷村だ」
どうして彼が…?まさか、こいつが犯人…?
谷村は数秒で様々な事実を整理する。岸くんが犯人だとするとそれぞれの犯行は可能かと。辻褄が合うのかと。
だけどパズルのピースは全然合わない。その構築は不可能のように思える。だとすると何故彼はこんなとこにやってきたのか。忘れ物でも取りに来たのかそれとも…
夜の学校徘徊が趣味?
肝試しのドキドキ感に性的興奮を覚える特殊変態タイプ?
夢遊病の一種?
どれもあり得そうな感じがしたがしかし疑問に浸っている暇はなかった。
「誰だ!!?そこで何をしている!!?」
「げ」
やっぱりというか、見周りの警備員が先程の岸くんの大絶叫を聞きつけてやってきた。それからの展開はもう分かりきっている。二人して大目玉を食らい、特に岸くんは化学室の一件から目をつけられていたため今度やらかせば退学、と告げられてしまったのだった。


.

383 :ユーは名無しネ:2014/10/27(月) 19:42:16.80 0.net
「これはやはり連携ミスと言わざるを得ないな」
放課後の図書室で、瀬久菩チーム瀬久樹チームの合同捜査会議が開かれた。そこで羽生田は腕を組みながら渋い顔で呟く。
「いやーまさか瀬久菩チームが防犯カメラ取りつけようとしてたとは思いもよらなかった。谷村が張りこまなくてもそうすれば解決したかもしんないのにな」
呑気にどら焼きをモグモグしながら倉本が呟く。岸くんと谷村は果てしなくグロッキーになりながらうなだれていた。谷村は自我修復をする気力すらない。
「岸くん…あの…この軟膏良かったら使って。打ち身や擦り傷によく効くから…。俺が森で拾った薬草擦って作ったんだけど…」
颯がおずおずとケースを岸くんに差し出したがそれを受け取る気力が今の彼にはない。「ありがと…」と力なく返すのが精いっぱいだ。
「てかよくそんな大胆な方法実行したね。夜通し見張るなんて体力が持つわけないじゃない。無謀だよ」
呆れ半分、心配半分に岩橋が言った。
「谷村だったらできると思ったんだけどなーギャハハハハハハ!!」
栗田が笑うとその向かいで神宮寺が溜息をつく。
「お前ら余計なことすんな。犯人は俺らが吊るし上げてやっから。幸いにも防犯カメラは没収されずに済んだし今夜にでも俺が取りつけてくらあ」
「でも神宮寺ぃ、あの廊下側の窓枠の鍵はもう直されちゃったよぉ。まさか谷村みたいにあそこに一晩中入って取りつけるわけじゃないでしょぉ」
嶺亜が冷静な見解を口にすると神宮寺は決まり悪そうにぶすっと頬杖をついた。
「それにこの一件で警備員や先生も戸締りの時に一応人が隠れそうな場所ぐらい確認してから施錠するでしょ。同じ方法は取れないと思うなー」
草もちを次々に口に放り込みながら倉本がごもっともなことを言う。
うーん、どうしたものか…と手詰まりになっているとそれまで岸くんの心配ばかりしていた颯が呟いた。
「それじゃあ俺達が見張っとくから防犯カメラ今から取り付けに行こうよ。誰か来そうになったら声かけるから」
その手があったか。無駄に9人いるわけじゃない。手分けして行えば済んだ話だ。コロンブスの卵である。
そしてめでたく防犯カメラは誰にも見つからずロッカー内に取りつけることができた。このロッカーが開閉されるのは掃除の時くらいだから、それを引き受けさえすれば防犯カメラに気付かれることはないだろう。
ひとまず手は打った。後は再び犯行が行われれば犯人が割り出せる。どうにか目星がついて安堵のムードが漂った。
しかし事態はまた更なる方向へと歪みだしていた。

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384 :ユーは名無しネ:2014/10/27(月) 19:43:10.52 0.net
その惨状を目の当たりにすると神宮寺は怒りのあまり拳をドアに思いきり打ちつけた。拳がじんじん痛むがそんな感覚すらなくなるほどに燃え上がる感情が炎となって身を包む。
「フザけやがって…!!!」
寮に戻って一息つこうとしてドアを開けると、部屋の中は台風でも通り過ぎたかのように滅茶苦茶に荒らされていた。
狭い二人部屋にはニ段ベットとそれぞれの学習机の他に箪笥とテレビが置かれているだけだが見事にしっちゃかめっちゃかだ。引き出しという引き出しは開けられ、蒲団もひっぺがされ、ベッドの下にしまっていたエロ本やアダルトDVDの類も散乱している。
「なんだってこんな…」
岩橋は恐怖に震えている。剥き出しの悪意がそこにあって、今もこうしている自分達をどこか陰で見ていて嘲笑っているかのようだった。底知れぬ歪んだ感情に鳥肌が立った。
「おい岩橋…俺ら今日ここ出る時ちゃんと鍵閉めたよな?」
「…うん。今開ける時もちゃんと鍵は回った。閉め忘れだったら空回りするはず。ちゃんと鍵は閉められてる…」
「鍵は俺とお前のとで二つ。俺はベルトに付けてるから盗まれるわきゃねえ。今日は体育もないし着替えもしてないからな。お前のはキーホルダーに付けてるよな?それもなくなってねえよな…」
「うん。だとすると、窓から侵入した?でもここは三階だし、窓は開いてない…」
二人がそこに行きつくのに時間はそうかからなかった。顔を見合わせて同時に呟く。
「合いカギを持ってる奴がいる…」
そして瀬久樹寮でもまた同様の事件が起こっていた。

385 :ユーは名無しネ:2014/10/27(月) 19:43:47.94 0.net
「…」
嶺亜は冷めた目でそれを見おろす。その後ろで颯と谷村が動揺していた。
「なんで嶺亜の部屋まで…」
颯は声を震わせる。谷村はただただ愕然と立ち尽くすことしかできなかった。
あまりにも惨い。一体、誰がなんの目的でこんなことをしたのか…理解に苦しむ光景だった。
寮は二人部屋しかなく、そのほとんどの生徒が相部屋だったが嶺亜は生憎一人でその部屋を使っていた。単に嶺亜の学年で瀬久樹寮に入る生徒が奇数だったためである。
その部屋が見るも無残な形に荒らされていた。
プライベートな空間に土足で踏み入り根こそぎそのプライバシーを奪う…引き出しの中や箪笥の引き出し、クローゼットに至るまですべてひっくり返されていた。傍目には颯がここでヘッドスピンをしたのではないかと思えるほどに。
その颯が珍しく怒りを露わにした声色で叫ぶ。
「ひどいよこんな!!許せない!!」
わなわなと震える颯の声に被せるように、嶺亜の抑揚のない声が響く。
「僕はちゃんと鍵はかけた…どうやってここに入ったのぉ…しかも、鍵はまたちゃんとかけられてた…」
そう、几帳面な嶺亜は施錠を怠ったことはない。今こうしてドアを開ける時もちゃんと鍵は回ったからかけたことは明白だ。それなのに…
「犯人は嶺亜くんの部屋の鍵も持ってるってこと…?合い鍵…?」
ようやく谷村が掠れた声を出すと嶺亜は小さく頷く。
「…ていうかぁ…普通に考えればこの場合全部の部屋の鍵を管理してる人が一番怪しいんだけどねぇ…マスターキーがあるかもしんないしぃ…」
「え、それって…」
嶺亜は頷く。そして絶対零度を放った。
「管理人か、管理人室に自由に出入りできる奴かなぁ」



つづく

386 :ユーは名無しネ:2014/10/28(火) 03:17:47.12 O.net
新作!

387 :ユーは名無しネ:2014/10/29(水) 01:14:04.38 0.net
作者さん乙です。
話が進むにつれてどんどん続きが気になる!つい毎日覗いてしまう…、続き楽しみにしてます。

388 :ユーは名無しネ:2014/10/30(木) 20:31:08.45 0.net
神7シネマ劇場「放課後の楽人たち」


こっそり回収した防犯カメラには変わったものは何も映っていなかった。もっとももう机は荒らされていないから当たり前かもしれないが…
「一度事件を整理してみよう」
机の上に羽生田が紙を置き、日付と起こった事件を書きだして行く。
1、神宮寺の机が荒らされる(4限の体育の授業中)
2、嶺亜の机が荒らされる(1の翌日の早朝、もしくはその日の放課後以降)
3、神宮寺&岩橋の部屋および嶺亜の部屋が荒らされる(昨日)
「犯人は瀬久菩寮と瀬久樹寮の部屋の鍵を自由に操れる人物…つまり管理人があやしいということになるけど、それぞれの寮に管理人は一人ずついるみたいだし、しかもそれだと動機がなあ…」
岸くんは腕を組む。こういう頭脳戦はあまり得意ではないのだ。早くもショートしてきた。
「でもさーなんで管理人が神宮寺と嶺亜に嫌がらせするわけ?ほとんど面識ないんだろ?」
バームクーヘンをむしゃむしゃかじりながら倉本が言う。神宮寺と嶺亜は頷いた。
「管理人を困らせてるのはしょっちゅう回って設備壊す颯の方だけど…俺も同室だし良く思われてないっぽいんだけどね…」
谷村が暗さ全開でぼそぼそと話す。その横で似たような口調の岩橋が神宮寺を指差した。
「あ、でもそういえば神宮寺こないだ渡り廊下の窓の板に穴開けようとした時見周りの管理人に捕まえられたよね?そのことかな…」
「けどそれでなんであそこまでやる必要がある?たっぷりお灸は据えられたしそれ以降目立ったことはしてないはずだが」
羽生田がそう意見した。彼は続ける。
「確かに、鍵を管理してるのは管理人だがいつでも合いカギを作るチャンスはある。体育の時にでもちょっと拝借しておけばいいんだからな。まあ、合いカギなんてすぐに作れるもんじゃないが」
「マスターキーがあるのかも。何かあった時すぐに踏み込めるよう全ての部屋をこれ一本で開けられるって鍵がさ。そしたらそれを盗んで合いカギ作れば僕達から盗まなくてもいいよね?」
岩橋が推理する。それももっともである。とするとやはり容疑者を絞り込むのが難しくなってきた。

389 :ユーは名無しネ:2014/10/30(木) 20:31:55.26 0.net
「でもなんで嶺亜と神宮寺なんだろ。二人ともイジメにあうようなタイプじゃないじゃん。どっちかってえとそれは岩橋か谷村の役のような気がするけどなー」
スティックパンを両手に、倉本がそんなことを言う。谷村と岩橋は心外だ、という表情になった。
「二人して恨み買ってるならやっぱクラスメイトが怪しくね?お前ら二人、誰かに無意識に嫌がらせしちゃったりしてない?例えば神宮寺はうぶなクラスメイトにビニ本ちらつかせてセクハラまがいのことしたとか嶺亜はズルしてそいつに不満持たれてるとか」
嶺亜と神宮寺は顔を見合わせる。が、二人ともすぐにお互いに視線を逸らした。
「おい失礼なこと言うなよ倉本、仮にも俺はお前の一個上の先輩なんだからよ、敬語ぐらい使えよ。もうそんな設定誰も覚えてねーだろうけど。それはともかく、そんな奴ぁうちのクラスにゃいねーな。むしろ見せろ見せろってたかってくるぐらいだしよ」
「僕もぉ。そんな人から恨まれるようなズルはしてないよぉ。もっともこないだの化学室のヘッドスピンの件で岸が根に持ってるなら別だけどぉ」
嶺亜が岸を横目で見る。岸くんに皆の視線が集まり、それまで必死に頭を働かせていた岸くんは急な名指しに慌てた。
「へ、お、俺!?」
「そういえば、この一連の事件は岸くんが来てから起こりだしたな…」
羽生田が呟くと、疑惑の色が濃くなってゆく。予想だにしない事態に岸くんは汗が滝のように流れた。
「ちょ、ちょちょちょちょちょちょっと待って!!俺じゃないよ!?俺にそんなことできないでしょ!体育の時もちゃんと授業受けてたし早朝に学校にも行ってないし部屋が荒らされた時間だって皆といたじゃん!!冤罪だ!!誰か弁護士呼んでえええええええええええええ」
必死になって岸くんが弁論すると、一瞬の沈黙の後爆笑が起こる。
「岸くん犯人説は無理あんだろー!そんなことできそうにないしそんな頭脳もないだろうし」
「我ながら傑作だった…岸くんが犯人だなんて…あはははははははは!」
「岸くんはそんなことする人じゃないよ!皆疑うなんてひどい!」
「推理小説なら一番怪しくない人が犯人だけど…この場合当てはまらなさ過ぎて笑えるよね」
笑いの渦が雰囲気を和やかにしていくその一方で栗田が珍しく真剣な顔と口調で呟く。

390 :ユーは名無しネ:2014/10/30(木) 20:32:31.57 0.net
「…俺はれいあが倉庫から通じる渡り廊下にブレスレット取りに行った時誰かに襲われかけたってのが気になるぜ。もしかしたらそいつかもしんねー。れいあ、顔見たか?」
「ううん。怖かったしぃ逃げるのに必死だったからぁ…」
栗田に寄りかかりながら嶺亜は口元に手を当ててすっかりぶりっこモードだ。彼にとって部屋を荒らされたショックよりも栗田に心配してもらえる喜びが遥かに勝るのかもしれない。
「え!?なんだよその倉庫から通じる渡り廊下って!」
神宮寺が目を丸くして身を乗り出す。
「あそこ入れんのか!?俺の手に入れたこの古文書によるとあそこには神様が眠って…」
「ちょっと神宮寺、今その話はいいでしょ。今は君と嶺亜に仇成す者の話をしてるんだから、それは後で」
岩橋に諭されて、神宮寺は渋々座りなおした。
「何かなくなったものとかはないの?」
岸くんに汗を拭くためのハンカチを渡そうかどうか迷っていた颯はふと思い立ってそう二人に問う。しかし二人とも首を傾げた。
「俺は最初に机に入れてたエロ本破られてたぐらいだな。部屋に置いてたコレクション丁寧にまた揃えたけどなくなってたり壊されたもんとかはねえ。服とか教科書の類も」
「僕もぉ。机の時は教科書破られてたけど昨日はひっくり返されてるだけでなぁんにもぉ」
「だったら物盗り目的じゃなくて、単なる嫌がらせかな…ますます分かんないね」
皆で頭を抱える。3人よれば文殊の知恵というがその3倍の9人が集まっても何ら進展しなかった。
その9人の中で最もアレな頭脳を持つ栗田がこう締めくくる。
「誰だか分かんねえけどよ…とにかくれいあは俺が守る。おいれいあ、今日から俺、お前の部屋で寝泊まりするから。いいな?」
「栗ちゃん…」
恋する乙女のうるうる目になって、嶺亜は両手で口元を押さえる。二人っきりのれあくりワールドが展開されるのを横目に羽生田はオホン、と咳払いをした。
「まあとにかく…防犯カメラをもう二台仕入れてくるからこっそりお互いの部屋の見つかりにくいところに設置しておいてくれ」
とりあえずの防犯対策を練ったということで皆が若干安堵していると神宮寺が茶化すように言った。
「おい嶺亜、栗田。その防犯カメラの映像が18禁になんねえようにほどほどにしとけよ」
栗田はバカ笑いで答えたが、嶺亜は栗田の腕にしっかりしがみつきながら憎まれ口を返す。
「それはお互い様ぁ」


.

391 :ユーは名無しネ:2014/10/30(木) 20:33:30.84 0.net
「ごめんねぇ、まだ完全に片付けできてないからぁ汚くて恥ずかしいんだけどぉ」
いそいそと嶺亜は栗田を部屋に通す。先日荒らされたこの部屋の片づけはまだ完全に終わっていなかった。雑誌や衣類などがまだ乱雑に置かれている。
寮の部屋は全て同じ間取りで備え付けの家具も一緒である。栗田はいつでもどこでも寝られるタイプの人間(人はそれを単細胞と呼ぶ)だが、さすがに今夜は寝る気にはなれなかった。
「れいあ、とりあえずカメラ設置しようぜ。つけてることがバレたら意味ねーから念入りにしねーとな」
「栗ちゃん…」
嶺亜はもう襲われたことも机をひっくり返されたことも部屋を荒らされたこともどうでも良くなった。むしろ、犯人に感謝の念すら抱いた。栗ちゃんと一緒に生活できて、こんなに勇ましい姿まで見られるなんてぇ…
うっとり夢心地に浸りながら、嶺亜は一冊の本を握りしめる。それもこの本のおかげかもしれない…
「れいあ?なんだそのきたねー本?」
「え、あ、これぇ?んーん、なんでもないよぉ。単なる古本。字ばっかりで栗ちゃんには面白くないだろぉからぁ」
「ふーんそっか。ところでよ、カメラここで良くね?ほら、ここなら部屋全体が映るしこうしとけばカメラがあるってあんま分かんねえしさ」
栗田はカメラの場所を考えてくれていたようだ。普段はゲーム大好きアホアホキャラを演じていても、いざという時に頼りになるそのかっこ良さに痺れているとカメラを取りつけながら栗田は言う。
「もうちょっとの辛抱だぜれいあ。犯人さえ見つけりゃあ俺が八つ裂きにしてそこの裏庭に埋めてアイスの棒で墓作ってやっからよ」
「うん…」

392 :ユーは名無しネ:2014/10/30(木) 20:34:04.02 0.net
だけど嶺亜はその背中を見て思う。栗田が優しいのは、それは単に小さな頃からの知り合いで幼馴染みみたいなものだから…だから自分に優しくしてくれるだけであって自分の望むような理由からじゃないんだ、と。
僕は男で、栗ちゃんも男だから…
それを突きつけられて、涙が枯れるほど泣いて悩んで、それで手にしたのがこの本…全くの偶然だったし、運命と呼ぶにはこじつけがすぎる。
だけど、そこにすがるしかなかった。そうしなければ精神の安定を保てない。
『魔女』なんて風変わりなアダ名をつけられても、自分にはこの本が拠り所だから…だから意味のない儀式を繰り返す。それに付き合ってくれるのは谷村だけ…
ぼんやりとその暗くてネガティブで厚ぼったい唇と点在するホクロと大きな二重瞼を思い浮かべていると栗田が振り返る。
「なーれいあ。お前しょっちゅう谷村とつるんでどっか行ってるって聞くけど何してんの?」
「え?」
「お前ら実は付き合ってんじゃね?とかって噂する奴もいるしよ…実際どうなんだよ?」
冗談っぽい感じではなく、真剣な眼差しだった。嶺亜は否がおうにも期待がかけめぐるがそれを自制した。
「やだぁ栗ちゃん何言ってんのぉ?なんで僕が谷村とぉ?可笑しくってお腹がよじれちゃうよぉもぉやだぁあははぁ」
大げさに大笑いして見せると、少しきまり悪そうに栗田はこめかみのあたりを指で掻く。そして呟くようにこう言った。
「まー違うんならそれでいいけどよ…」

.

393 :ユーは名無しネ:2014/10/30(木) 20:34:53.85 0.net
荒らされた部屋の片づけがようやくひと段落し、神宮寺はベッドに身を沈める。といっても片付けのほとんどは岩橋がしてくれたのだが…
「ねえ神宮寺、カメラこのへんにしとく?ここなら何か物を置けばカムフラージュできそうだし」
「ああ、それでいいよ。悪いな、俺のせいでこんなことになってよ…」
「気にしないで。早く犯人見つけよう。それより…」
カメラを設置しながら岩橋は少し沈んだ声を出す。
「嶺亜に謝りそびれちゃったね。犯人の推理に皆夢中になっちゃってて…僕もだけど」
「…」
神宮寺は身を起こす。
「…まあ、いいんじゃねーの。あいつ栗田に心配してもらえて嬉しそうだし今そっちで頭がいっぱいだろうよ」
答えると、岩橋は浅い溜息をつく。まるで手のかかる子どもを見るような眼で神宮寺を見ながらこう呟いた。
「素直じゃないよねホント…。気にしてるくせに」
「あ?なんだって?俺が?どこがだよ」
「本当は嶺亜と前みたいに普通に仲良くしたいって思ってるくせに、なんでいつもつっかかるような言い方や態度になっちゃうの?なんか神宮寺らしくないなっていつも思うんだけど」
岩橋はベッドに座る。その瞳は疑問に満ちていた。

394 :ユーは名無しネ:2014/10/30(木) 20:35:30.51 0.net
「別に俺は…」
神宮寺は言いながら、自分でも良く分からない。いつからこうなったのか、どうしてこうなったのか…何かが少し方向が歪んでこうなってしまったという漠然としたものはあったがはっきりとした理由や時期は思い出せない。
ただ…
「嶺亜のことは嫌いじゃねーよ。だけど、確か…あいつの方から俺に距離置きだしたんだ。だから俺も前みたいに話しかけづらくなって、そんで…」
「嶺亜の方からって…神宮寺何かしたの?嶺亜に」
「なんもしてねーよ!あいつが怒るようなことや嫌がることなんてするわけねーだろ。それまで普通に仲良かったのに。ただあいつ、去年栗田と俺がちょっとつるむようになったらなんか急に冷たくなりだしたんだ。
そうだ、俺と栗田が一緒にいるのが嫌みたいだった。それでじゃね?」
「なんで栗田と神宮寺が一緒にいると嶺亜が嫌がるの?そりゃあ嶺亜は栗田にぞっこんだけど…」
「分かんね。あいつが考えてることなんて俺には分かんねえよ」
それはそうだった。神宮寺には嶺亜の考えていることが分からない。だからいつも翻弄されてしまう。これ以上掻き乱されたくないから自分も疎遠になった。ただそれだけなのだ。
自分でもどうにもならないこの関係がもどかしくてつい苛々してしまう…それは嶺亜にではなく自分自身に、だ。
「…とにかく、犯人捕まえて一件落着したら俺もあいつに謝るから。疲れたから今日はもう寝るわ。おやすみ」
無理矢理終了させると、岩橋の浅い溜息が微かに耳に届いた。



つづく

395 :ユーは名無しネ:2014/11/01(土) 20:41:02.39 0.net
初書き込みです 作者さんいつも面白い話をありがとうございます!

396 :ユーは名無しネ:2014/11/03(月) 19:45:43.92 0.net
神7シネマ劇場「放課後の楽人たち」


「こんな物騒なものぶっ放したんだ…谷村ひどいよ、岸くん死んじゃうところだったじゃん」
栗田に返しそびれたエアガンは谷村の部屋に保管されている。そのずっしり重たい機体をまじまじと眺めながら颯が非難してくる。
「俺だって極限状態で死にそうだったんだし咄嗟にそれが岸くんだなんて分からなかったんだ。大したことなくて良かったじゃん。颯のあげた軟膏持って帰ってくれたんだし今頃それ塗って回復してるよ」
「だけど…大丈夫かな…岸くん…」
「そんなに心配なら今から行ってくればいいじゃないか…」
何気なく放った一言にしかし颯は過剰反応する。
「い、いいいいいいいい今からってそそそそそそそっそんな、不自然じゃん!!変に思われたらどうしてくれるの、責任取ってくれんの谷村!!!」
顔を赤くしながら颯は動揺する。そしてヘッドスピン態勢に入ろうとしていた。彼は動揺したり高揚したりするとそれをしてしまう癖がある。
その破壊力は凄まじい。頭が超合金か合成ダイヤモンドでできているのではないかと思えるほどの破壊力をそれは持つ。加えてその旋風は何ヘクトパスカルか見当もつかない。
それをわずか26平方メートルのこの部屋でやられると部屋の中はしっちゃかめっちゃかだし最悪階下に穴が開く。
「うわあ!!やめてくれ回らないでくれ!!頼むから…もう管理人に怒られるのは嫌だ!!」
瀬久樹寮の管理人は年齢不詳の白髪鬼のような風貌の爺さんだ。もうかなり長いことこの寮の管理人をやっているらしいがとにかく怖い。颯が回って何か壊すたびに鬼のように怒り狂うからもう半分恐怖になっている。
回ろうとする颯にしがみつくと彼はバランスを崩して倒れこんだ。谷村も巻き込まれ転倒する。

397 :ユーは名無しネ:2014/11/03(月) 19:46:13.04 0.net
「いてて…」
棚にぶつかり、そこに置いていたものが降ってくる。硬いものが顔に当たり、谷村は顔をしかめた。
「いた…何これ谷村?なんの鍵?」
颯が谷村に当たった硬いもの…鍵を拾う。古い、錆びかけの鍵…中庭倉庫の鍵である。
「あ、それ…返さなきゃ」
「どこの鍵?」
「中庭倉庫の鍵だよ。嶺亜くんが偶然見つけたみたいで、その中に地下通路に通じる入口があって渡り廊下の中に入れるんだ」
「ふうん…あの閉鎖されてるとこ?あんなとこ入って何すんの?バーベキュー?」
「なんで廊下でバーベキューするんだよ…嶺亜くんが、あの場所は儀式にうってつけだって言うからちょくちょくそこに…」
「そっか。ご苦労さん。あんまりしんどかったら時々交代してあげるけど?」
「お気づかいなく…」
その儀式は目下のところ先送りになり続けている。谷村としても早く犯人が見つかってまた元のとおり嶺亜の儀式に振りまわされる日々が戻ってきてほしい。我ながら脳髄の髄までドM体質であることを実感しつつ鍵を鞄にしまって早々に眠りについた。

.

398 :ユーは名無しネ:2014/11/03(月) 19:47:01.54 0.net
「疲れた…今日は早く寝よう…」
岸くんは寮の自分の部屋に戻る。転校生だからなのか、今のところルームメイトがおらず一人部屋状態である。気楽でいい。
とりあえず明日の授業の用意だけして寝よう。そう思って部屋の電気のスイッチを押したが…
「あれ?」
何度押しても電気がつかない。これでは真っ暗闇である。どうしたもんか考えたが結局管理人に言うしかなさそうだ。
管理人室は寮のロビーの先にある。ノックをすると中年のおじさんが顔を出す。
「部屋の電気がつかない?何号室?…ああ、あそこか。暫く使ってなかったからな…どれ」
管理人は腰をあげた。岸くんはふと気になって鍵束のあるあたりに目が行く。もしも、神宮寺達の部屋の鍵を手に入れようとするならばこの管理人の眼を盗んで該当の部屋の鍵を盗みだす必要がある。
管理人は寮の清掃や施設点検、夜間の点呼が主な仕事だから管理人室にずっといるわけじゃない。だからいない間にこっそり手に入れてこっそり戻すことも可能…岸くんはそう分析した。
「ああ、切れてるなこれは。換えを今持ってくる」
どうやら蛍光灯が寿命だったらしい。管理人はほどなくして新しい蛍光灯を取りつけてくれた。
「どうもすみません、ありがとうございます」
お礼を言うと管理人は脚立から降りながらいやいやと手を振った。
「転校生だっけか。寮で分からないことがあったら聞きにくるといい。まあ俺もここ来て10年程度でそんな日が経ってないから俺に分からんことはあっちの寮の管理人に訊いてくれ。
瀬久樹寮の方の爺さんは古株だからな。もう半世紀くらいはここにいるんじゃないかな、あの人」
「どうも…」
岸くんは思い出す。瀬久樹寮の管理人には確か以前に怒鳴られたことがある。神宮寺達と渡り廊下を見に行った時だ。おっかなくて不気味な風貌の爺さんだったからなるべく関わりたくない。
管理人に礼を言って、岸くんはベッドに横たわった。

399 :ユーは名無しネ:2014/11/03(月) 19:47:28.46 0.net
色んなことを考えた。
犯人は誰なのか、その意図はなんなのか、神宮寺と嶺亜の間に何かあったのか、どうして魔女と呼ばれるようになったのか、そもそもなんのために嶺亜はそんなことをするのか、渡り廊下には何があるのか…
考えは一向にまとまらず、果てしなくもつれていく。
そのうちに岸くんは深い眠りに落ちていた。
そして岸くんは夢を見る。暗闇の中、右も左も分からない状態で立っている。ひどく生ぬるい風が頬を撫でた。
「何これ、どこ?おーい!誰か!誰かいるー!!?」
大声で叫んでも、手探りをしても何も得られなかった。そのうちに不安が募り、岸くんは闇雲に走り出した。
だけどどこまで走っても暗闇は終わらない。まるで闇の胃袋の中で転がされているかのようだ。
「誰か!!誰かああああああああ!!!」
ありったけの声で叫ぶとまたさらに深き淵に落とされる。今度は八方塞がりで身動きが取れない。叫ぼうにも声が出なかった。
底知れぬ恐怖と絶望感の中で、見上げた先に一つの顔があった。
その顔はまるで仮面のようにのっぺりとしていて表情に乏しく、それがまた不気味さを引き立てている。思わずぞくりと鳥肌が立った。
仮面の向こうの眼はしかしじっと岸くんを見据えている。そして…
ニィ…と嗤った。
岸くんは恐怖のあまり声なき声で絶叫した。そこで目が覚める。
「…!」
起き上がるとびっしょりと汗をかいていた。まだ夜明け前で、あたりは真っ暗だ。
「…」
息を整えながらふと見やると、開けた覚えのない窓が開いているのがぼんやりと見えた。


.

400 :ユーは名無しネ:2014/11/03(月) 19:48:04.77 0.net
欠伸を噛み殺しながら神宮寺は岩橋と登校する。教室につくとすでに羽生田も来ていて予習をしていた。
「岸くんは?」
羽生田に問われ、岩橋が答える。
「なんか変な夢見たみたいで良く眠れなかったんだって。ご飯はしっかり食べてたけどフラフラしてたからギリギリくらいに来るんじゃないかな」
「岸くんでもそういうナイーブな面があるんだな」
笑い合っていると、嶺亜が教室に入ってくる。ひどく機嫌が良さそうで、笑みが零れていた。
「おっはよぉ」
普段はほとんど挨拶もしないのに笑顔で愛想を振りまいてくる。これは超常現象に近い。神宮寺はもちろんのこと、岩橋も羽生田も面喰らった。
「おい…なんなんだあれ…あいつが俺らにスマイル向けて『おっはよぉ』だなんてそれこそ七不思議だ…何か悪いものでも食べたんじゃなかろうか」
ヒソヒソ話をしている間も嶺亜は鼻歌を歌っている。
ゴキゲンの理由を神宮寺が少し不機嫌に分析した。
「栗田にかまってもらってるからだろ?でなきゃあんなにゴキゲンな訳ねえよ」
「ちょうどいいじゃん。機嫌がいいうちにこないだのこと謝ろうよ。今なら『別にいいよぉ気にしないよぉ』とかって言ってくれそうだし…」
岩橋の提案に羽生田は「それも良かろう」と同意したが神宮寺はやはりひねくれた言い方になってしまう。
「俺らに疑われたことなんて忘れてるだろこの様子じゃ。別に良くね?」
しかし神宮寺は岩橋に耳を引っ張られてお説教をされる。
「もういい加減にしなよ!謝るべき時ぐらい素直になんなきゃ。これ以上意地張るならもう知らないよ!?」
いつもおとなしい岩橋が険しい表情になってたしなめてくる。己の暴走を食い止めてくれる岩橋の存在は神宮寺にとってなくてはならないものだ。だから彼に見捨てられるような真似はしたくない。
それに、誰かに嶺亜に謝るきっかけを作ってもらいたかった。
その織りなす二つの背中を押す手がようやく自分の意固地な岩を砕いてくれた。

401 :ユーは名無しネ:2014/11/03(月) 19:48:32.09 0.net
「…おい」
神宮寺は嶺亜に声をかける。若干鼓動が速くなったがそれを自分で見て見ぬふりをする。
「ん?なぁにぃ?」
「…かったな」
「はぁい?なんてぇ?」
「悪かったなっつってんだよ!聞こえねーフリしてんじゃ…」
しかし最後まで言い終わらないうちに神宮寺は岩橋によってその言葉を遮られてしまう。また素直でない部分が露呈してしまう前に。
「こないだはごめん、嶺亜のこと疑って。ほんとにごめん」
「…まあ、その…悪かったとは思ってる。犯人の周到さが嶺亜しか犯人がいないという状況を作りあげたもんだからまんまと騙されてしまった。少し考えれば分かることだっただけに残念と言わざるを得ない」
羽生田もたいがい素直ではない謝り方ではあったが嶺亜は教科書をめくりながら相変わらずの調子でそれを受けた。
「別に気にしてないけどぉ。人に疑われるのなんてなんとも思ってないしぃ。もう栗ちゃんが守ってくれるからぁ」
平常モードなら嫌味攻撃が飛んできそうだが今の嶺亜はすこぶる機嫌がいい。だからなのか、仲直りも円滑にいくというものである。
「でもこういうのなんて言うんだっけ。災い転じて福となす?雨降って地固まる?なんにせよ、これで犯人を見つけ出せばめでたしめでたしだよね。防犯カメラのチェック帰ったらしないとね」
岩橋が柔らかい物腰で雰囲気を和やかにしようと努める。その成果があってか神宮寺も少しずつ軟化し始め、気になっていたことを嶺亜に訊ねた。

402 :ユーは名無しネ:2014/11/03(月) 19:49:09.31 0.net
「こないだの作戦会議で渡り廊下がどうのこうの言ってたよな?あそこってどこから入れんだよ?」
「あぁ、渡り廊下ぁ?あそこはぁ裏庭の倉庫に通じる地下通路の入り口があってぇそこから入れるんだよぉ。誰がどういう意図で作ったのか知らないけどぉ」
「マジか!?おい、俺の手に入れた古文書によるとちょうどあそこには7人の神様が眠ってるという記述があるんだ!」
「あんなとこに神様ぁ?漫画の見すぎじゃない神宮寺ぃ。胡散臭いなぁ…まぁいいけどぉ暫く儀式もするつもりないしぃ。あ、鍵谷村に預けたままだったぁ」
「んじゃ谷村にもらえばいいんだな?よっしゃ!」
神宮寺は張り切って谷村から鍵を受け取り、放課後早速探検しに行こうとしたが生憎岩橋も羽生田も委員会が入っていたのと岸くんは一日睡眠不足によるグロッキー状態で使い物にならなかった。
しかも、鍵をもらったものの色々と分からないことだらけで一人で向かうには多少不都合があった。
「…」
非常に気は進まなかったがこうなった以上仕方がない。意地を張っていてもいいことがないのは明白である。
「えぇ?一人で行けないのぉ?子どもじゃあるまいしさぁもぉしょうがないなぁ」
嶺亜と一緒に、神宮寺は渡り廊下の探検に向かうことになった。だが、そこで思わぬハプニングに遭遇してしまう。
「!!」
地下階段を上り終えて渡り廊下に辿り着いたと思ったら、背後に誰かの気配を感じた。と同時に何か薬品を嗅がされて意識が遠のく。
神宮寺と嶺亜が気付いた時には二人とも真っ暗な闇の中にいた。


つづく

403 :ユーは名無しネ:2014/11/07(金) 19:38:06.73 0.net
神7シネマ劇場「放課後の楽人たち」


「なあ、お前られいあ知らね?」
委員会が終わった岩橋と羽生田は栗田にそう訊ねられる。
「さあ…授業が終わったらすぐ教室出て行ったけど…。寮には戻ってないの?」
「いねーんだよ。部屋の鍵かかったまんまだからよ、俺部屋に入れなくて」
「化学室で実験とかなんとかしてるんじゃないか?」
「それも見たよ。校内でいそうなとこ探したんだけど一向に見つかんねえんだ。谷村に訊いても今日は会ってないから知らねえっつうし」
栗田は頭を掻く。神7学院は森の中にあるため携帯電話は圏外である。有線の固定電話かインターネットも回線を繋いだものでしかできない。それでも携帯電話を持つ者はいるし、嶺亜も一応は持っているらしいがやはり圏外である。
「そのうち帰ってくるだろう。他に行くところなんてないし街に出ても最悪10時には帰ってこないと点呼があるからな。点呼をすっぽかすと後が怖いし」
羽生田がそう諭すが、栗田は納得いかない様子である。その後ろ姿を見届けつつ岩橋達も寮に戻ったが同様に神宮寺の姿がどこにもなかった。
「え?神宮寺いないの?なんで?」
岸くんが目にくまを作りながら訊いてくる。岩橋も羽生田も首を振った。
「部屋にも戻ってきてないんだよ。今朝、嶺亜に謝った時に渡り廊下に行く方法を聞いて放課後行くって言ってたけど…その裏庭倉庫に行ったら鍵がかかってたんだ。だからてっきりもう戻ってると思ったんだけど…」
「嶺亜もいないらしいんだ。栗田が探してたが…あっちはもう見つかったのかな」
気になって瀬久樹寮まで行き、ロビーでオンラインゲームをしていた栗田に訊いてみると彼の顔は大好きなゲームをしているにも関わらず非常に険しかった。まるで、ゲームで気を紛らわせているかのようである。

404 :ユーは名無しネ:2014/11/07(金) 19:38:43.58 0.net
「まだ戻ってこねーよ!れいあどこ行ったんだよ…」
「神宮寺も…どこ行ったの…」
栗田と岩橋は深い溜息をつく。ロビーには二人の放つ重苦しい空気が充満した。
「とにかく待つしかない。案外けろっと帰ってきて心配したのが馬鹿らしく思えるかもしれんしな」
羽生田がそう言って励ますが、点呼の時間になっても二人は戻って来なかった。
神7学院の二つの寮では午後10時に管理人による点呼がされる。この時、部屋にいなかったり不在が明らかになると即学校に報告され厳重注意を受ける。たび重なると停学、最悪退学も余儀なくされてしまうのだ。
「…おい、中村はどこ行った?」
嶺亜の部屋は管理人のマスターキーにより開けられた。栗田がそれに答える。
「…分かんねえ。連絡つかねんだ。誰に聞いても知らねえって言うし俺が訊きてえよ」
「けしからんな…戻ってきたら明日学校に報告しとくと言っておけ」
管理人の老人は鋭い眼つきでそう言い放つ。ぼさぼさの白髪に皺くちゃの肌と血走った眼からその風貌はまるで白髪鬼のようで、しかも何かやらかすと怒号が飛んでくるから生徒からは恐れられている。
いつの頃からここにいるのかは誰も知らない。相当昔からいるらしいが…
「どうしよう…探しに行った方がいいかな」
少し離れたところで栗田と管理人のやりとりと見ていた颯と谷村、倉本が栗田に歩み寄る。彼らも心配で気が気ではない。

405 :ユーは名無しネ:2014/11/07(金) 19:39:17.03 0.net
「俺が行ってくらあ。もしかしたら森に何か取りに行ってどっかで事故に遭ってるかもしんねーし。懐中電灯どこにある?」
栗田が足を進めようとすると、谷村が待ったをかけた。
「それはちょっと考えにくいと思う…。嶺亜くんは自分で森に何かを取りに行くことはないよ。いつも俺に取ってきてぇって言うから…」
「おめーがアテになんねえから一人で行ったかもしんねえだろ」
「いや、谷村の言うことはもっともだよ。嶺亜くんが谷村をパシらず自分で動くなんて考えられない。それより神宮寺もいないってのが気になる」
倉本がそう言った。颯も顎に手を当てながら考える仕草をする。
「昼休みに一緒にご飯食べた時、冤罪の件についてあの三人が謝ってきたよぉってゴキゲンだったからもしかしたら二人和解してどっか出かけてはめをはずしてる…なんてことは…」
「神宮寺とれいあが二人でどっか行くわきゃねーだろ!!それこそありえねえ。いや、ありえねえは言いすぎだけどよ、それならなんで連絡の一つもないんだよ。第一、岩橋だって神宮寺がどこ行ったか知らねえみたいだぞ」
「それもそうか…じゃあ二人で森にでも行ったのかな…何しに…?」
4人は頭を悩ませる。だが結論が出ないので栗田がいてもたってもいられず懐中電灯片手に森へ向かおうとするが出入り口には管理人がいる。こんな時間に出て行こうとすれば必ず咎められるから一階のトイレの窓からこっそり抜け出した。
颯と谷村も付いて行き、倉本は戻ってきた彼ら三人を窓から入れるために脚立とロープを持って待機していた。
二時間後、焦燥感にくれた三人が戻ってくる。その間も、嶺亜は瀬久樹寮に戻ってくることはなかった。

406 :ユーは名無しネ:2014/11/07(金) 19:40:04.11 0.net
「なに?同室の奴が戻って来ないって?」
瀬久菩寮でも午後10時の点呼が行われていた。岩橋は管理人に神宮寺が戻って来ないことを話す。
「悪いが点呼時にいないと学校に報告しないといけないからな。最後にもう一回来るからその時もいなかったらしょうがない」
管理人は仕方がないと言った風だった。岩橋は溜息をつく。
「連絡はないのか?友達ならどこに行くとか話したりするだろ?」
「いえ…今日は僕は委員会で放課後彼とは別行動でしたから…あ、でももしかしたら…」
岩橋は気付く。今朝神宮寺は嶺亜から渡り廊下に通じる秘密通路の存在を教えてもらってえらくはりきっているからもしかしたらそこに…
それを管理人に話すと、彼は怪訝な表情になる。
「渡り廊下への通路?なんだそりゃ。裏庭の倉庫ならもう長年使われてないし渡り廊下なんかもっと古い時代から使われてないらしいからな。
使われてない場所をあれこれ詮索すると瀬久樹寮の爺さんがえらい剣幕で怒鳴ってくるから俺も下手にいじれん。しかしそんなところに行って何をするって言うんだ」
「はあ…」
古文書のことは言わないでおいた。言ったところで笑い飛ばされるのがオチだ。
「仮にそこに行ったとして、入れたんだから出れるだろう。とにかく点呼が一通り済んだら戻ってくるから」
管理人は岩橋の話にはあまり耳を傾けることなく行ってしまった。そして15分後に点呼を終えた管理人が再び部屋を訪れても神宮寺はまだ帰らない。
「やれやれ…確かコイツは数日前電気ドリル勝手に持ち出してイタズラしようとしてた奴だったと思うが…これじゃ停学は免れんぞ」
「そんな…」
岩橋が愕然としていると、後ろから声が響く。

407 :ユーは名無しネ:2014/11/07(金) 19:40:38.09 0.net
「なんとか今日中は待ってもらえませんか?」
振り向くと羽生田と岸くんがいた。二人とも心配して来てくれたのだ。
「僕達が今から探して来ます。これだけ待ってても来ないんだとすると多分どっかで事故に遭ったか自力で帰ってこれないところにいるはず。可能性があるとすると森のどこかだと思いますけど…」
岸くんと羽生田の手には懐中電灯が握られていた。岩橋はそこで勇気づけられる。
「僕も探します!だからもう少し待って下さい!お願いします!」
三人で頭を下げると管理人は弱ったように頭を掻いた。そして数秒待った後首を横に振る。
「ダメだ。こんな時間に森へ行くなんて許可できない。君らが事故に遭うかもしれないんだぞ」
「だけど…」
「明日の朝まで待つ。それまでに帰ってこなければ…点呼をすっぽかしたというよりやはり事故に遭ってる可能性が高いからそういう風に学校には言っておくから君らは今日は自分の部屋でちゃんと待ってろ。いいな?」
説得されて、岩橋達は仕方なしに首を縦に振る。少なくとも管理人に温情がありそうだから停学という事態は免れそうだがそれにしても心配は拭い去ることはできない。
瀬久樹寮の方でもまだ嶺亜が戻らないようだった。心配で寝付けないまま夜が明ける。
そして…
「おい、中村と神宮寺が行方不明だってよ」
朝からもう生徒たちの間で二人の行方が分からないことは噂となって広がっていた。その話はどこでどう歪曲したのかこういう見解になっていた。
「二人ともこないだからいじめみたいなもんに遭ってたからな…もしかしたらそれを苦に…」
何故か二人は陰湿ないじめに耐えかねて失踪したという噂がまことしやかに流れていた。


.

408 :ユーは名無しネ:2014/11/07(金) 19:41:18.47 0.net
暗闇の中で目を開けても、そこに光は届かない。自分が起きているのか寝ているのかすらぼんやりとして曖昧だった。まだ頭がクラクラする。
「どこぉ…?ここぉ…?」
視覚は闇しかとらえないが嗅覚はその独特な臭いを嗅ぎ取っていた。黴臭いじめじめとした嫌な臭い…そう、渡り廊下のそれだ。嶺亜は暗闇の中で顔をしかめた。
すぐ側に人の気配がする。そいつは呻いた後、ごそごそと動きながら掠れた声で呟いた。
「なんだ…?ここどこ…?」
神宮寺の声である。嶺亜はどこか暗いところに彼と二人でいることを自覚する。これが現実であることを認識するのに若干の時間を擁した。
「神宮寺ぃ…僕達一体どうしちゃったんだろぉ…」
そう問いかけると神宮寺はびくっと肩を震わせた…気がする。
「な、なんだ脅かすなよ…嶺亜か。おい、ここどこだよ?確か俺達渡り廊下に…」
「そうだよねぇ…でもここ…臭いは渡り廊下のそれに似てるけどぉ…なんかあちこちごろごろした石みたいなのもあるしぃ…」
手さぐりをすると硬くてバラバラしたものが幾つも転がっているのが分かる。湿気もあってじめじめとしている。
「おいちょっと待て…いって。あちこちいてえ…携帯の灯りでなんか分かるかな…」
神宮寺が何かを取り出す気配がする。ほどなくしてパっと液晶の画面が光り…
その瞬間、嶺亜と神宮寺は同時に悲鳴をあげ身を寄せ合った。
「な…なななななななにぃこれぇ…!!!」
「ちょ…シャレんなんねえぞ…!!」
つたない灯りが照らしたもの…それは骸骨だった。石かと思ったものは骨だ。そこいらに散らばっている…1体、2体、3体…恐ろしくて数えることもできない。

409 :ユーは名無しネ:2014/11/07(金) 19:41:49.11 0.net
「やだぁ!!やだやだやだ!!こんなとこ早く出よぉよぉ神宮寺ぃ!!」
「あ、あったり前だろ!!俺はこういうの大嫌いなんだよ!!ホラーは映画だけで充分だっつーの!!」
二人しがみつき合いながら立ち上がったが足が震えて上手く立てない。しかも、どこにも出入り口のようなものはなかった。頭上だけがかなり高いことぐらいしか分からない。
「なんなのぉここぉ…墓場にしては無造作に置きすぎだよぉ…?」
「わっかんねーよ!!一体なんなんだよこれ…!!なんだってガイコツがこんなとこに…」
「とにかく出ようよぉ。あ、ポケットにちっちゃい懐中電灯持って来てたの忘れてたよぉ。これで出口をぉ…」
嶺亜はポケット懐中電灯を取り出し灯りをつける。だが…
「おい…これって出口は上しかないんじゃね…?」
「そぉみたいぃ…」
空間には人骨がまばらに散らばっていたが、ぱっと見はどこにも出口はなさそうだった。あるとすれば光の届かない頭上か…
「ていうかぁ…なんで僕達こんなとこに閉じ込められちゃったのぉ…?一体誰がぁ?」
「そんなん分かるわけねーだろ!確か…渡り廊下に着いたと同時になんか変な臭いがしてフラフラして…そんで気付いたらここにいた…ここは渡り廊下のどこかか?」
「渡り廊下はもっとだだっぴろい空間だよぉ。床は木製だしぃ。最初に来た時に谷村と懐中電灯ですみずみまで見て回ったけどぉ…ほとんど何もないとこだったしぃましてやガイコツなんてぇ…」
言いながら、声が二人とも声が震えているのを自覚する。まるでガイコツ達がじっと自分達を凝視しているかのようで落ち着かない。
「んじゃここどこだっつうんだよ。どうでもいいけど早く出ねえと…今何時だ?」
神宮寺が携帯電話で確かめると朝の八時過ぎだった。12時間以上眠っていたことになる。どうりで頭がぼうっとするわけだ。
「どうやってぇ?手が届きそうにないよぉかなり上は高いみたいだよぉ」
「とりあえず俺がお前を肩車すっからできるだけ手、伸ばせ。よいしょ」
神宮寺がフラフラになりながら嶺亜を肩車し、一生懸命手を伸ばすが空を切るばかりである。交代してみても結果は同じだった。



つづく

410 :ユーは名無しネ:2014/11/11(火) 20:02:04.19 0.net
容量オーバーのため、次スレに移行します

411 :ユーは名無しネ:2014/11/11(火) 22:28:13.54 0.net
うんこ

412 :ユーは名無しネ:2020/05/16(土) 13:56:39.10
うんこというやつが一番ウンコな賢

総レス数 412
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