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【バーチャルYouTuber】.LIVEアイドル部アンチスレ#9882【アップランド】

286 :名無しさん@お腹いっぱい。 :2020/01/03(金) 23:26:37.52 ID:/yWufXXQa.net
「久しぶりだね、なとりん…」

花音ちゃんがハグをして私の肩に頭をコツン、と乗せた。
甘えたような安心したような声音が私の涙腺を熱くさせた。

「もっと早く直接謝りたかったんです……でも、勇気が出せなくて──」

「わかってる」

冷え切った私の手を彼女はその細い手指で大事そうにつつんで、ほのかに紅潮した自身の頬にあてがった。
冷たさで彼女は「うひゃっ」と愛嬌のある悲鳴を上げてはに噛んだ。
彼女の優しさと暖かさが身に染みて、年上だというのに涙が堪えきれなくなる。

涙目を覆い隠すように私も花音ちゃんの肩に頭を預ける。
柔らかなシャンプーの匂い、暖かい首と冷たい耳の温度が伝わる。

「なとりんのこと、大好きだよ」

耳元で囁かれ、私の心臓は早鐘を打つ。

「私も、あなたのことが──」


伝えようとしたところで、私の意識は現実世界へ引き戻される。


手狭な1Kの自宅は整理されているものの、小さな丸テーブルの上にはくしゃくしゃの履歴書が散乱している。
貴重な二十代をアイドル部での活動に費やし、事務所が潰れてから始めたイラストレーターとしての職も、絵柄から身バレしてネットストーカーから嫌がらせを受けて辞めてしまった。

あの二人は今も配信業を続けている。他のメンバーとはほとんど連絡を取っていないが、みな結婚したりフリーターとしての日々を送っているようだ。
私もそんな生活ができれば楽なはずなのに、ちんけなプライドが邪魔をしてフリーターにすらなれなかった。

両親からの仕送りと祖父の年金のおこぼれにすがり付いている現状が最悪なことは分かっているのにどうにもできない。
もし昨夜見た夢のような機会があったとしても、きっと私はこんな自分を見せたくなくて顔を合わせることは出来ないだろう。

なのに私は今日も花音のTwitterアカウントのDMを開く。

『八重沢なとりです。久しぶりに会えませんか?』

送信ボタンをタップする勇気もないのに、日課のようにこうして自分の臆病さと惨めさを再確認して、私は一体何がしたいのだろう。

「あの頃に、戻りたいな……」

私をこの世界に繋ぎ止めるものは、既に過去の栄光だけになってしまっていた。

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