【急騰】今買えばいい株7426【700ルールは？】

1 ：山師さん(ﾜｯﾁｮｲ 93e6-cGUq)：2017/02/09(木) 13:05:18.81 ID:1MAyiWJi0.net

株式板は　実　況　厳　禁　です！！（ローカルルール参照）
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・証券コード、銘柄名を併記してください。
・判断材料をできるだけ明確にお願いします。
・注目銘柄の事実に基づいた情報共有が目的なので、単なる買い煽りや自慰行為は控えてください。

*コテハンを付ける方は投資一般板やみんかぶ、ブログやツイッターを強く推奨しています。
*ブログの宣伝行為、スレの私物化は控えてください。

避難所
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〇2ちゃんねる初心者の方は必ず使用上のお約束をお読みください。
http://info.2ch.net/guide/faq.html#B0

●次スレは原則>>700が立てること。
※スレ立ての際は1行目に　!extend:on:vvvvv:1000:512　と書いて改行、2行目から>>1の本文を書くこと
※スレ番が正しいか確認してから立てること
※700がスレ立てできないことが分かった時点、或いは800以降次スレがなければ有志が立てること
　（乱立防止のためスレ立て宣言推奨)
※スレタイに特定の銘柄名をつけるのはやめましょう。トラブルの原因です。
※スレタイの先頭には【急騰】を、途中には通し番号をつけるのをお忘れなく。

●風説、店板、インサイダーなどの通報はこちら
証券取引等監視委員会　情報提供窓口　
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前スレ
【急騰】今買えばいい株7425【単なる負け犬】
http://potato.2ch.net/test/read.cgi/stock/1486579613/

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980 ：山師さん (ﾜｯﾁｮｲ cf94-pPum)：2017/05/17(水) 22:02:08.52 ID:7/Y09tcf0.net

はまた突然引ひっ繰くり返かえった。私はその時書物や衣類を詰めた行李こうりをからげていた。父は風
呂ふろへ入ったところであった。父の背中を流しに行った母が大きな声を出して私を呼んだ。私は裸体は
だかのまま母に後ろから抱かれている父を見た。それでも座敷へ伴つれて戻った時、父はもう大丈夫だと

981 ：山師さん (ﾜｯﾁｮｲ cf94-pPum)：2017/05/17(水) 22:02:24.51 ID:7/Y09tcf0.net

いった。念のために枕元まくらもとに坐すわって、濡手拭ぬれてぬぐいで父の頭を冷ひやしていた私は、
九時頃ごろになってようやく形かたばかりの夜食を済ました。
　翌日よくじつになると父は思ったより元気が好よかった。留とめるのも聞かずに歩いて便所へ行ったり

982 ：山師さん (ﾜｯﾁｮｲ cf94-pPum)：2017/05/17(水) 22:02:40.51 ID:7/Y09tcf0.net

した。
「もう大丈夫」
　父は去年の暮倒れた時に私に向かっていったと同じ言葉をまた繰り返した。その時ははたして口でいっ

983 ：山師さん (ﾜｯﾁｮｲ cf94-pPum)：2017/05/17(水) 22:02:56.62 ID:7/Y09tcf0.net

た通りまあ大丈夫であった。私は今度もあるいはそうなるかも知れないと思った。しかし医者はただ用心
が肝要だと注意するだけで、念を押しても判然はっきりした事を話してくれなかった。私は不安のために
、出立しゅったつの日が来てもついに東京へ立つ気が起らなかった。

984 ：山師さん (ﾜｯﾁｮｲ cf94-pPum)：2017/05/17(水) 22:03:12.54 ID:7/Y09tcf0.net

「もう少し様子を見てからにしましょうか」と私は母に相談した。
「そうしておくれ」と母が頼んだ。
　母は父が庭へ出たり背戸せどへ下りたりする元気を見ている間だけは平気でいるくせに、こんな事が起

985 ：山師さん (ﾜｯﾁｮｲ cf94-pPum)：2017/05/17(水) 22:03:28.56 ID:7/Y09tcf0.net

るとまた必要以上に心配したり気を揉もんだりした。
「お前は今日東京へ行くはずじゃなかったか」と父が聞いた。
「ええ、少し延ばしました」と私が答えた。

986 ：山師さん (ﾜｯﾁｮｲ cf94-pPum)：2017/05/17(水) 22:03:44.57 ID:7/Y09tcf0.net

「おれのためにかい」と父が聞き返した。
　私はちょっと躊躇ちゅうちょした。そうだといえば、父の病気の重いのを裏書きするようなものであっ
た。私は父の神経を過敏にしたくなかった。しかし父は私の心をよく見抜いているらしかった。

987 ：山師さん (ﾜｯﾁｮｲ cf94-pPum)：2017/05/17(水) 22:04:00.55 ID:7/Y09tcf0.net

「気の毒だね」といって、庭の方を向いた。
　私は自分の部屋にはいって、そこに放り出された行李を眺めた。行李はいつ持ち出しても差支さしつか
えないように、堅く括くくられたままであった。私はぼんやりその前に立って、また縄を解こうかと考え

988 ：山師さん (ﾜｯﾁｮｲ cf94-pPum)：2017/05/17(水) 22:04:16.54 ID:7/Y09tcf0.net

た。
　私は坐ったまま腰を浮かした時の落ち付かない気分で、また三、四日を過ごした。すると父がまた卒倒
した。医者は絶対に安臥あんがを命じた。

989 ：山師さん (ﾜｯﾁｮｲ cf94-pPum)：2017/05/17(水) 22:04:32.58 ID:7/Y09tcf0.net

「どうしたものだろうね」と母が父に聞こえないような小さな声で私にいった。母の顔はいかにも心細そ
うであった。私は兄と妹いもとに電報を打つ用意をした。けれども寝ている父にはほとんど何の苦悶くも
んもなかった。話をするところなどを見ると、風邪かぜでも引いた時と全く同じ事であった。その上食欲

990 ：山師さん (ﾜｯﾁｮｲ cf94-pPum)：2017/05/17(水) 22:04:48.58 ID:7/Y09tcf0.net

は不断よりも進んだ。傍はたのものが、注意しても容易にいう事を聞かなかった。
「どうせ死ぬんだから、旨うまいものでも食って死ななくっちゃ」
　私には旨いものという父の言葉が滑稽こっけいにも悲酸ひさんにも聞こえた。父は旨いものを口に入れ

991 ：山師さん (ﾜｯﾁｮｲ cf94-pPum)：2017/05/17(水) 22:05:04.84 ID:7/Y09tcf0.net

られる都には住んでいなかったのである。夜よに入いってかき餅もちなどを焼いてもらってぼりぼり噛か
んだ。
「どうしてこう渇かわくのかね。やっぱり心しんに丈夫の所があるのかも知れないよ」

992 ：山師さん (ﾜｯﾁｮｲ cf94-pPum)：2017/05/17(水) 22:05:20.57 ID:7/Y09tcf0.net

　母は失望していいところにかえって頼みを置いた。そのくせ病気の時にしか使わない渇くという昔風の
言葉を、何でも食べたがる意味に用いていた。
　伯父おじが見舞に来たとき、父はいつまでも引き留めて帰さなかった。淋さむしいからもっといてくれ

993 ：山師さん (ﾜｯﾁｮｲ cf94-pPum)：2017/05/17(水) 22:05:36.57 ID:7/Y09tcf0.net

というのが重おもな理由であったが、母や私が、食べたいだけ物を食べさせないという不平を訴えるのも
、その目的の一つであったらしい。

994 ：山師さん (ﾜｯﾁｮｲ cf94-pPum)：2017/05/17(水) 22:05:52.64 ID:7/Y09tcf0.net

十

　父の病気は同じような状態で一週間以上つづいた。私わたくしはその間に長い手紙を九州にいる兄宛あ

995 ：山師さん (ﾜｯﾁｮｲ cf94-pPum)：2017/05/17(水) 22:06:08.67 ID:7/Y09tcf0.net

てで出した。妹いもとへは母から出させた。私は腹の中で、おそらくこれが父の健康に関して二人へやる
最後の音信たよりだろうと思った。それで両方へいよいよという場合には電報を打つから出て来いという
意味を書き込めた。

996 ：山師さん (ﾜｯﾁｮｲ cf94-pPum)：2017/05/17(水) 22:06:24.61 ID:7/Y09tcf0.net

　兄は忙しい職にいた。妹は妊娠中であった。だから父の危険が眼の前に逼せまらないうちに呼び寄せる
自由は利きかなかった。といって、折角都合して来たには来たが、間まに合わなかったといわれるのも辛
つらかった。私は電報を掛ける時機について、人の知らない責任を感じた。

997 ：山師さん (ﾜｯﾁｮｲ cf94-pPum)：2017/05/17(水) 22:06:40.60 ID:7/Y09tcf0.net

「そう判然はっきりした事になると私にも分りません。しかし危険はいつ来るか分らないという事だけは
承知していて下さい」
　停車場ステーションのある町から迎えた医者は私にこういった。私は母と相談して、その医者の周旋で

998 ：山師さん (ﾜｯﾁｮｲ cf94-pPum)：2017/05/17(水) 22:06:56.59 ID:7/Y09tcf0.net

、町の病院から看護婦を一人頼む事にした。父は枕元まくらもとへ来て挨拶あいさつする白い服を着た女
を見て変な顔をした。
　父は死病に罹かかっている事をとうから自覚していた。それでいて、眼前にせまりつつある死そのもの

999 ：山師さん (ﾜｯﾁｮｲ cf94-pPum)：2017/05/17(水) 22:07:12.61 ID:7/Y09tcf0.net

には気が付かなかった。
「今に癒なおったらもう一返いっぺん東京へ遊びに行ってみよう。人間はいつ死ぬか分らないからな。何
でもやりたい事は、生きてるうちにやっておくに限る」

1000 ：山師さん (ﾜｯﾁｮｲ cf94-pPum)：2017/05/17(水) 22:07:28.63 ID:7/Y09tcf0.net

　母は仕方なしに「その時は私もいっしょに伴つれて行って頂きましょう」などと調子を合せていた。
　時とするとまた非常に淋さみしがった。
「おれが死んだら、どうかお母さんを大事にしてやってくれ」

1001 ：山師さん (ﾜｯﾁｮｲ cf94-pPum)：2017/05/17(水) 22:07:44.62 ID:7/Y09tcf0.net

　私はこの「おれが死んだら」という言葉に一種の記憶をもっていた。東京を立つ時、先生が奥さんに向
かって何遍なんべんもそれを繰り返したのは、私が卒業した日の晩の事であった。私は笑わらいを帯びた
先生の顔と、縁喜えんぎでもないと耳を塞ふさいだ奥さんの様子とを憶おもい出した。あの時の「おれが

1002 ：山師さん (ﾜｯﾁｮｲ cf94-pPum)：2017/05/17(水) 22:08:00.70 ID:7/Y09tcf0.net

死んだら」は単純な仮定であった。今私が聞くのはいつ起るか分らない事実であった。私は先生に対する
奥さんの態度を学ぶ事ができなかった。しかし口の先では何とか父を紛らさなければならなかった。
「そんな弱い事をおっしゃっちゃいけませんよ。今に癒なおったら東京へ遊びにいらっしゃるはずじゃあ

1003 ：山師さん (ﾜｯﾁｮｲ cf94-pPum)：2017/05/17(水) 22:08:16.59 ID:7/Y09tcf0.net

りませんか。お母さんといっしょに。今度いらっしゃるときっと吃驚びっくりしますよ、変っているんで
。電車の新しい線路だけでも大変増ふえていますからね。電車が通るようになれば自然町並まちなみも変
るし、その上に市区改正もあるし、東京が凝じっとしている時は、まあ二六時中にろくじちゅう一分もな

1004 ：山師さん (ﾜｯﾁｮｲ cf94-pPum)：2017/05/17(水) 22:08:32.71 ID:7/Y09tcf0.net

いといっていいくらいです」
　私は仕方がないからいわないでいい事まで喋舌しゃべった。父はまた、満足らしくそれを聞いていた。
　病人があるので自然家いえの出入りも多くなった。近所にいる親類などは、二日に一人ぐらいの割で代

1005 ：山師さん (ﾜｯﾁｮｲ cf94-pPum)：2017/05/17(水) 22:08:48.59 ID:7/Y09tcf0.net

る代る見舞に来た。中には比較的遠くにいて平生へいぜい疎遠なものもあった。「どうかと思ったら、こ
の様子じゃ大丈夫だ。話も自由だし、だいち顔がちっとも瘠やせていないじゃないか」などといって帰る
ものがあった。私の帰った当時はひっそりし過ぎるほど静かであった家庭が、こんな事で段々ざわざわし

1006 ：山師さん (ﾜｯﾁｮｲ cf94-pPum)：2017/05/17(水) 22:09:04.65 ID:7/Y09tcf0.net

始めた。
　その中に動かずにいる父の病気は、ただ面白くない方へ移って行くばかりであった。私は母や伯父おじ
と相談して、とうとう兄と妹いもとに電報を打った。兄からはすぐ行くという返事が来た。妹の夫からも

1007 ：山師さん (ﾜｯﾁｮｲ cf94-pPum)：2017/05/17(水) 22:09:20.63 ID:7/Y09tcf0.net

立つという報知しらせがあった。妹はこの前懐妊かいにんした時に流産したので、今度こそは癖にならな
いように大事を取らせるつもりだと、かねていい越したその夫は、妹の代りに自分で出て来るかも知れな
かった。

1008 ：山師さん (ﾜｯﾁｮｲ cf94-pPum)：2017/05/17(水) 22:09:36.77 ID:7/Y09tcf0.net

十一

1009 ：山師さん (ﾜｯﾁｮｲ cf94-pPum)：2017/05/17(水) 22:09:52.65 ID:7/Y09tcf0.net

　こうした落ち付きのない間にも、私わたくしはまだ静かに坐すわる余裕をもっていた。偶たまには書物
を開けて十頁ページもつづけざまに読む時間さえ出て来た。一旦いったん堅く括くくられた私の行李こう
りは、いつの間にか解かれてしまった。私は要いるに任せて、その中から色々なものを取り出した。私は

1010 ：山師さん (ﾜｯﾁｮｲ cf94-pPum)：2017/05/17(水) 22:10:08.67 ID:7/Y09tcf0.net

東京を立つ時、心のうちで極きめた、この夏中の日課を顧みた。私のやった事はこの日課の三さんが一い
ちにも足らなかった。私は今までもこういう不愉快を何度となく重ねて来た。しかしこの夏ほど思った通
り仕事の運ばない例ためしも少なかった。これが人の世の常だろうと思いながらも私は厭いやな気持に抑

1011 ：山師さん (ﾜｯﾁｮｲ cf94-pPum)：2017/05/17(水) 22:10:24.77 ID:7/Y09tcf0.net

おさえ付けられた。
　私はこの不快の裏うちに坐りながら、一方に父の病気を考えた。父の死んだ後あとの事を想像した。そ
うしてそれと同時に、先生の事を一方に思い浮べた。私はこの不快な心持の両端に地位、教育、性格の全

1012 ：山師さん (ﾜｯﾁｮｲ cf94-pPum)：2017/05/17(水) 22:10:40.66 ID:7/Y09tcf0.net

然異なった二人の面影を眺ながめた。
　私が父の枕元まくらもとを離れて、独り取り乱した書物の中に腕組みをしているところへ母が顔を出し
た。

1013 ：山師さん (ﾜｯﾁｮｲ cf94-pPum)：2017/05/17(水) 22:11:12.76 ID:7/Y09tcf0.net

「お父さんは？」と私が聞いた。
「今よく寝てお出いでだよ」と母が答えた。
　母は突然はいって来て私の傍そばに坐すわった。

1014 ：山師さん (ﾜｯﾁｮｲ cf94-pPum)：2017/05/17(水) 22:11:28.69 ID:7/Y09tcf0.net

「先生からまだ何ともいって来ないかい」と聞いた。
　母はその時の私の言葉を信じていた。その時の私は先生からきっと返事があると母に保証した。しかし
父や母の希望するような返事が来るとは、その時の私もまるで期待しなかった。私は心得があって母を欺

1015 ：山師さん (ﾜｯﾁｮｲ cf94-pPum)：2017/05/17(水) 22:11:44.78 ID:7/Y09tcf0.net

あざむいたと同じ結果に陥った。
「もう一遍いっぺん手紙を出してご覧な」と母がいった。
　役に立たない手紙を何通書こうと、それが母の慰安になるなら、手数を厭いとうような私ではなかった

1016 ：山師さん (ﾜｯﾁｮｲ cf94-pPum)：2017/05/17(水) 22:12:00.77 ID:7/Y09tcf0.net

。けれどもこういう用件で先生にせまるのは私の苦痛であった。私は父に叱しかられたり、母の機嫌を損
じたりするよりも、先生から見下げられるのを遥はるかに恐れていた。あの依頼に対して今まで返事の貰
もらえないのも、あるいはそうした訳からじゃないかしらという邪推もあった。

1017 ：山師さん (ﾜｯﾁｮｲ cf94-pPum)：2017/05/17(水) 22:12:16.71 ID:7/Y09tcf0.net

「手紙を書くのは訳はないですが、こういう事は郵便じゃとても埒らちは明きませんよ。どうしても自分
で東京へ出て、じかに頼んで廻まわらなくっちゃ」
「だってお父さんがあの様子じゃ、お前、いつ東京へ出られるか分らないじゃないか」

1018 ：山師さん (ﾜｯﾁｮｲ cf94-pPum)：2017/05/17(水) 22:12:32.71 ID:7/Y09tcf0.net

「だから出やしません。癒なおるとも癒らないとも片付かないうちは、ちゃんとこうしているつもりです
」
「そりゃ解わかり切った話だね。今にもむずかしいという大病人を放ほうちらかしておいて、誰が勝手に

1019 ：山師さん (ﾜｯﾁｮｲ cf94-pPum)：2017/05/17(水) 22:12:48.71 ID:7/Y09tcf0.net

東京へなんか行けるものかね」
　私は始め心のなかで、何も知らない母を憐あわれんだ。しかし母がなぜこんな問題をこのざわざわした
際に持ち出したのか理解できなかった。私が父の病気をよそに、静かに坐ったり書見したりする余裕のあ

1020 ：山師さん (ﾜｯﾁｮｲ cf94-pPum)：2017/05/17(水) 22:13:04.73 ID:7/Y09tcf0.net

るごとくに、母も眼の前の病人を忘れて、外ほかの事を考えるだけ、胸に空地すきまがあるのかしらと疑
うたぐった。その時「実はね」と母がいい出した。
「実はお父さんの生きてお出いでのうちに、お前の口が極きまったらさぞ安心なさるだろうと思うんだが

1021 ：山師さん (ﾜｯﾁｮｲ cf94-pPum)：2017/05/17(水) 22:13:20.78 ID:7/Y09tcf0.net

ね。この様子じゃ、とても間に合わないかも知れないけれども、それにしても、まだああやって口も慥た
しかなら気も慥かなんだから、ああしてお出のうちに喜ばして上げるように親孝行をおしな」
　憐れな私は親孝行のできない境遇にいた。私はついに一行の手紙も先生に出さなかった。

1022 ：山師さん (ﾜｯﾁｮｲ cf94-pPum)：2017/05/17(水) 22:13:36.73 ID:7/Y09tcf0.net

十二

1023 ：山師さん (ﾜｯﾁｮｲ cf94-pPum)：2017/05/17(水) 22:13:52.72 ID:7/Y09tcf0.net

　兄が帰って来た時、父は寝ながら新聞を読んでいた。父は平生へいぜいから何を措おいても新聞だけに
は眼を通す習慣であったが、床とこについてからは、退屈のため猶更なおさらそれを読みたがった。母も
私わたくしも強しいては反対せずに、なるべく病人の思い通りにさせておいた。

1024 ：山師さん (ﾜｯﾁｮｲ cf94-pPum)：2017/05/17(水) 22:14:09.11 ID:7/Y09tcf0.net

「そういう元気なら結構なものだ。よっぽど悪いかと思って来たら、大変好いいようじゃありませんか」
　兄はこんな事をいいながら父と話をした。その賑にぎやか過ぎる調子が私にはかえって不調和に聞こえ
た。それでも父の前を外はずして私と差し向いになった時は、むしろ沈んでいた。

1025 ：山師さん (ﾜｯﾁｮｲ cf94-pPum)：2017/05/17(水) 22:14:24.83 ID:7/Y09tcf0.net

「新聞なんか読ましちゃいけなかないか」
「私わたしもそう思うんだけれども、読まないと承知しないんだから、仕様がない」
　兄は私の弁解を黙って聞いていた。やがて、「よく解わかるのかな」といった。兄は父の理解力が病気

1026 ：山師さん (ﾜｯﾁｮｲ cf94-pPum)：2017/05/17(水) 22:14:40.85 ID:7/Y09tcf0.net

のために、平生よりはよっぽど鈍にぶっているように観察したらしい。
「そりゃ慥たしかです。私わたしはさっき二十分ばかり枕元まくらもとに坐すわって色々話してみたが、
調子の狂ったところは少しもないです。あの様子じゃことによるとまだなかなか持つかも知れませんよ」

1027 ：山師さん (ﾜｯﾁｮｲ cf94-pPum)：2017/05/17(水) 22:14:56.74 ID:7/Y09tcf0.net

　兄と前後して着いた妹いもとの夫の意見は、我々よりもよほど楽観的であった。父は彼に向かって妹の
事をあれこれと尋ねていた。「身体からだが身体だからむやみに汽車になんぞ乗って揺ゆれない方が好い
。無理をして見舞に来られたりすると、かえってこっちが心配だから」といっていた。「なに今に治った

1028 ：山師さん (ﾜｯﾁｮｲ cf94-pPum)：2017/05/17(水) 22:15:12.76 ID:7/Y09tcf0.net

ら赤ん坊の顔でも見に、久しぶりにこっちから出掛けるから差支さしつかえない」ともいっていた。
　乃木大将のぎだいしょうの死んだ時も、父は一番さきに新聞でそれを知った。
「大変だ大変だ」といった。

1029 ：山師さん (ﾜｯﾁｮｲ cf94-pPum)：2017/05/17(水) 22:15:28.75 ID:7/Y09tcf0.net

　何事も知らない私たちはこの突然な言葉に驚かされた。
「あの時はいよいよ頭が変になったのかと思って、ひやりとした」と後で兄が私にいった。「私わたしも
実は驚きました」と妹の夫も同感らしい言葉つきであった。