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【急騰】今買えばいい株7308【トランプ就任】

1 :山師さん(ワッチョイ 83a8-Wk1G):2017/01/20(金) 12:30:30.81 ID:EWYQ8Qs10.net
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実況はコチラへ
市況1板
http://hayabusa3.2ch.net/livemarket1/

・証券コード、銘柄名を併記してください。
・判断材料をできるだけ明確にお願いします。
・注目銘柄の事実に基づいた情報共有が目的なので、単なる買い煽りや自慰行為は控えてください。

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*ブログの宣伝行為、スレの私物化は控えてください。
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※700がスレ立てできないことが分かった時点、或いは800以降次スレがなければ有志が立てること
 (乱立防止のためスレ立て宣言推奨)
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※スレタイの先頭には【急騰】を、途中には通し番号をつけるのをお忘れなく。

ワッチョイの仕様
本文の1行目に下記をコピペしたら ワッチョイになります。
!extend:on:vvvvv:1000:512
!extend:on:vvvvvの「v」の数が
5個の時はワッチョイのみ
4個の時はIP表示のみ
6個の時はワッチョイとIPが表示
メール欄に
ageteoff→スレタイの[転載禁止]を非表示
sageteoff→sage+スレタイの[転載禁止]を非表示
VIPQ2_EXTDAT: default:vvvvv:1000:512:----: EXT was configured

961 :山師さん (ワッチョイ 7e94-mR0Q):2017/05/18(木) 10:21:09.79 ID:NWShKe3u0.net
「召し上がって下さいよ。その方が淋さむしくなくって好いから」
 先生の宅うちは夫婦と下女げじょだけであった。行くたびに大抵たいていはひそりとしていた。高い笑
い声などの聞こえる試しはまるでなかった。或ある時ときは宅の中にいるものは先生と私だけのような気

962 :山師さん (ワッチョイ 7e94-mR0Q):2017/05/18(木) 10:21:25.90 ID:NWShKe3u0.net
がした。
「子供でもあると好いんですがね」と奥さんは私の方を向いていった。私は「そうですな」と答えた。し
かし私の心には何の同情も起らなかった。子供を持った事のないその時の私は、子供をただ蒼蠅うるさい

963 :山師さん (ワッチョイ 7e94-mR0Q):2017/05/18(木) 10:21:41.83 ID:NWShKe3u0.net
もののように考えていた。
「一人貰もらってやろうか」と先生がいった。
「貰もらいッ子じゃ、ねえあなた」と奥さんはまた私の方を向いた。

964 :山師さん (ワッチョイ 7e94-mR0Q):2017/05/18(木) 10:21:58.91 ID:NWShKe3u0.net
「子供はいつまで経たったってできっこないよ」と先生がいった。
 奥さんは黙っていた。「なぜです」と私が代りに聞いた時先生は「天罰だからさ」といって高く笑った


965 :山師さん (ワッチョイ 7e94-mR0Q):2017/05/18(木) 10:22:29.83 ID:NWShKe3u0.net
 私わたくしの知る限り先生と奥さんとは、仲の好いい夫婦の一対いっついであった。家庭の一員として
暮した事のない私のことだから、深い消息は無論解わからなかったけれども、座敷で私と対坐たいざして
いる時、先生は何かのついでに、下女げじょを呼ばないで、奥さんを呼ぶ事があった。(奥さんの名は静

966 :山師さん (ワッチョイ 7e94-mR0Q):2017/05/18(木) 10:22:45.79 ID:NWShKe3u0.net
しずといった)。先生は「おい静」といつでも襖ふすまの方を振り向いた。その呼びかたが私には優やさ
しく聞こえた。返事をして出て来る奥さんの様子も甚はなはだ素直であった。ときたまご馳走ちそうにな
って、奥さんが席へ現われる場合などには、この関係が一層明らかに二人の間あいだに描えがき出される

967 :山師さん (ワッチョイ 7e94-mR0Q):2017/05/18(木) 10:23:01.82 ID:NWShKe3u0.net
ようであった。
 先生は時々奥さんを伴つれて、音楽会だの芝居だのに行った。それから夫婦づれで一週間以内の旅行を
した事も、私の記憶によると、二、三度以上あった。私は箱根はこねから貰った絵端書えはがきをまだ持

968 :山師さん (ワッチョイ 7e94-mR0Q):2017/05/18(木) 10:23:17.84 ID:NWShKe3u0.net
っている。日光にっこうへ行った時は紅葉もみじの葉を一枚封じ込めた郵便も貰った。
 当時の私の眼に映った先生と奥さんの間柄はまずこんなものであった。そのうちにたった一つの例外が
あった。ある日私がいつもの通り、先生の玄関から案内を頼もうとすると、座敷の方でだれかの話し声が

969 :山師さん (ワッチョイ 7e94-mR0Q):2017/05/18(木) 10:23:33.83 ID:NWShKe3u0.net
した。よく聞くと、それが尋常の談話でなくって、どうも言逆いさかいらしかった。先生の宅は玄関の次
がすぐ座敷になっているので、格子こうしの前に立っていた私の耳にその言逆いさかいの調子だけはほぼ
分った。そうしてそのうちの一人が先生だという事も、時々高まって来る男の方の声で解った。相手は先

970 :山師さん (ワッチョイ 7e94-mR0Q):2017/05/18(木) 10:23:49.80 ID:NWShKe3u0.net
生よりも低い音おんなので、誰だか判然はっきりしなかったが、どうも奥さんらしく感ぜられた。泣いて
いるようでもあった。私はどうしたものだろうと思って玄関先で迷ったが、すぐ決心をしてそのまま下宿
へ帰った。

971 :山師さん (ワッチョイ 7e94-mR0Q):2017/05/18(木) 10:24:05.85 ID:NWShKe3u0.net
 妙に不安な心持が私を襲って来た。私は書物を読んでも呑のみ込む能力を失ってしまった。約一時間ば
かりすると先生が窓の下へ来て私の名を呼んだ。私は驚いて窓を開けた。先生は散歩しようといって、下
から私を誘った。先刻さっき帯の間へ包くるんだままの時計を出して見ると、もう八時過ぎであった。私

972 :山師さん (ワッチョイ 7e94-mR0Q):2017/05/18(木) 10:24:21.82 ID:NWShKe3u0.net
は帰ったなりまだ袴はかまを着けていた。私はそれなりすぐ表へ出た。
 その晩私は先生といっしょに麦酒ビールを飲んだ。先生は元来酒量に乏しい人であった。ある程度まで
飲んで、それで酔えなければ、酔うまで飲んでみるという冒険のできない人であった。

973 :山師さん (ワッチョイ 7e94-mR0Q):2017/05/18(木) 10:24:37.85 ID:NWShKe3u0.net
「今日は駄目だめです」といって先生は苦笑した。
「愉快になれませんか」と私は気の毒そうに聞いた。
 私の腹の中には始終先刻さっきの事が引ひっ懸かかっていた。肴さかなの骨が咽喉のどに刺さった時の

974 :山師さん (ワッチョイ 7e94-mR0Q):2017/05/18(木) 10:24:53.87 ID:NWShKe3u0.net
ように、私は苦しんだ。打ち明けてみようかと考えたり、止よした方が好よかろうかと思い直したりする
動揺が、妙に私の様子をそわそわさせた。
「君、今夜はどうかしていますね」と先生の方からいい出した。「実は私も少し変なのですよ。君に分り

975 :山師さん (ワッチョイ 7e94-mR0Q):2017/05/18(木) 10:25:09.86 ID:NWShKe3u0.net
ますか」
 私は何の答えもし得なかった。
「実は先刻さっき妻さいと少し喧嘩けんかをしてね。それで下くだらない神経を昂奮こうふんさせてしま

976 :山師さん (ワッチョイ 7e94-mR0Q):2017/05/18(木) 10:25:25.85 ID:NWShKe3u0.net
ったんです」と先生がまたいった。
「どうして……」
 私には喧嘩という言葉が口へ出て来なかった。

977 :山師さん (ワッチョイ 7e94-mR0Q):2017/05/18(木) 10:25:41.87 ID:NWShKe3u0.net
「妻が私を誤解するのです。それを誤解だといって聞かせても承知しないのです。つい腹を立てたのです

「どんなに先生を誤解なさるんですか」

978 :山師さん (ワッチョイ 7e94-mR0Q):2017/05/18(木) 10:25:57.97 ID:NWShKe3u0.net
 先生は私のこの問いに答えようとはしなかった。
「妻が考えているような人間なら、私だってこんなに苦しんでいやしない」
 先生がどんなに苦しんでいるか、これも私には想像の及ばない問題であった。

979 :山師さん (ワッチョイ 7e94-mR0Q):2017/05/18(木) 10:26:13.87 ID:NWShKe3u0.net


980 :山師さん (ワッチョイ 7e94-mR0Q):2017/05/18(木) 10:26:29.86 ID:NWShKe3u0.net
 二人が帰るとき歩きながらの沈黙が一丁ちょうも二丁もつづいた。その後あとで突然先生が口を利きき
出した。
「悪い事をした。怒って出たから妻さいはさぞ心配をしているだろう。考えると女は可哀かわいそうなも

981 :山師さん (ワッチョイ 7e94-mR0Q):2017/05/18(木) 10:26:45.91 ID:NWShKe3u0.net
のですね。私わたくしの妻などは私より外ほかにまるで頼りにするものがないんだから」
 先生の言葉はちょっとそこで途切とぎれたが、別に私の返事を期待する様子もなく、すぐその続きへ移
って行った。

982 :山師さん (ワッチョイ 7e94-mR0Q):2017/05/18(木) 10:27:01.88 ID:NWShKe3u0.net
「そういうと、夫の方はいかにも心丈夫のようで少し滑稽こっけいだが。君、私は君の眼にどう映ります
かね。強い人に見えますか、弱い人に見えますか」
「中位ちゅうぐらいに見えます」と私は答えた。この答えは先生にとって少し案外らしかった。先生はま

983 :山師さん (ワッチョイ 7e94-mR0Q):2017/05/18(木) 10:27:18.02 ID:NWShKe3u0.net
た口を閉じて、無言で歩き出した。
 先生の宅うちへ帰るには私の下宿のつい傍そばを通るのが順路であった。私はそこまで来て、曲り角で
分れるのが先生に済まないような気がした。「ついでにお宅たくの前までお伴ともしましょうか」といっ

984 :山師さん (ワッチョイ 7e94-mR0Q):2017/05/18(木) 10:27:33.89 ID:NWShKe3u0.net
た。先生は忽たちまち手で私を遮さえぎった。
「もう遅いから早く帰りたまえ。私も早く帰ってやるんだから、妻君さいくんのために」
 先生が最後に付け加えた「妻君のために」という言葉は妙にその時の私の心を暖かにした。私はその言

985 :山師さん (ワッチョイ 7e94-mR0Q):2017/05/18(木) 10:27:49.91 ID:NWShKe3u0.net
葉のために、帰ってから安心して寝る事ができた。私はその後ごも長い間この「妻君のために」という言
葉を忘れなかった。
 先生と奥さんの間に起った波瀾はらんが、大したものでない事はこれでも解わかった。それがまた滅多

986 :山師さん (ワッチョイ 7e94-mR0Q):2017/05/18(木) 10:28:05.93 ID:NWShKe3u0.net
めったに起る現象でなかった事も、その後絶えず出入でいりをして来た私にはほぼ推察ができた。それど
ころか先生はある時こんな感想すら私に洩もらした。
「私は世の中で女というものをたった一人しか知らない。妻さい以外の女はほとんど女として私に訴えな

987 :山師さん (ワッチョイ 7e94-mR0Q):2017/05/18(木) 10:28:21.90 ID:NWShKe3u0.net
いのです。妻の方でも、私を天下にただ一人しかない男と思ってくれています。そういう意味からいって
、私たちは最も幸福に生れた人間の一対いっついであるべきはずです」
 私は今前後の行ゆき掛がかりを忘れてしまったから、先生が何のためにこんな自白を私にして聞かせた

988 :山師さん (ワッチョイ 7e94-mR0Q):2017/05/18(木) 10:28:37.92 ID:NWShKe3u0.net
のか、判然はっきりいう事ができない。けれども先生の態度の真面目まじめであったのと、調子の沈んで
いたのとは、いまだに記憶に残っている。その時ただ私の耳に異様に響いたのは、「最も幸福に生れた人
間の一対であるべきはずです」という最後の一句であった。先生はなぜ幸福な人間といい切らないで、あ

989 :山師さん (ワッチョイ 7e94-mR0Q):2017/05/18(木) 10:28:53.90 ID:NWShKe3u0.net
るべきはずであると断わったのか。私にはそれだけが不審であった。ことにそこへ一種の力を入れた先生
の語気が不審であった。先生は事実はたして幸福なのだろうか、また幸福であるべきはずでありながら、
それほど幸福でないのだろうか。私は心の中うちで疑うたぐらざるを得なかった。けれどもその疑いは一

990 :山師さん (ワッチョイ 7e94-mR0Q):2017/05/18(木) 10:29:09.94 ID:NWShKe3u0.net
時限りどこかへ葬ほうむられてしまった。
 私はそのうち先生の留守に行って、奥さんと二人差向さしむかいで話をする機会に出合った。先生はそ
の日横浜よこはまを出帆しゅっぱんする汽船に乗って外国へ行くべき友人を新橋しんばしへ送りに行って

991 :山師さん (ワッチョイ 7e94-mR0Q):2017/05/18(木) 10:29:25.95 ID:NWShKe3u0.net
留守であった。横浜から船に乗る人が、朝八時半の汽車で新橋を立つのはその頃ころの習慣であった。私
はある書物について先生に話してもらう必要があったので、あらかじめ先生の承諾を得た通り、約束の九
時に訪問した。先生の新橋行きは前日わざわざ告別に来た友人に対する礼義れいぎとしてその日突然起っ

992 :山師さん (ワッチョイ 7e94-mR0Q):2017/05/18(木) 10:29:42.05 ID:NWShKe3u0.net
た出来事であった。先生はすぐ帰るから留守でも私に待っているようにといい残して行った。それで私は
座敷へ上がって、先生を待つ間、奥さんと話をした。

993 :山師さん (ワッチョイ 7e94-mR0Q):2017/05/18(木) 10:31:48.27 ID:NWShKe3u0.net
十一

 その時の私わたくしはすでに大学生であった。始めて先生の宅うちへ来た頃ころから見るとずっと成人

994 :山師さん (ワッチョイ 7e94-mR0Q):2017/05/18(木) 10:32:04.24 ID:NWShKe3u0.net
した気でいた。奥さんとも大分だいぶ懇意になった後のちであった。私は奥さんに対して何の窮屈も感じ
なかった。差向さしむかいで色々の話をした。しかしそれは特色のないただの談話だから、今ではまるで
忘れてしまった。そのうちでたった一つ私の耳に留まったものがある。しかしそれを話す前に、ちょっと

995 :山師さん (ワッチョイ 7e94-mR0Q):2017/05/18(木) 10:32:20.28 ID:NWShKe3u0.net
断っておきたい事がある。
 先生は大学出身であった。これは始めから私に知れていた。しかし先生の何もしないで遊んでいるとい
う事は、東京へ帰って少し経たってから始めて分った。私はその時どうして遊んでいられるのかと思った

996 :山師さん (ワッチョイ 7e94-mR0Q):2017/05/18(木) 10:32:36.29 ID:NWShKe3u0.net

 先生はまるで世間に名前を知られていない人であった。だから先生の学問や思想については、先生と密
切みっせつの関係をもっている私より外ほかに敬意を払うもののあるべきはずがなかった。それを私は常

997 :山師さん (ワッチョイ 7e94-mR0Q):2017/05/18(木) 10:32:52.41 ID:NWShKe3u0.net
に惜おしい事だといった。先生はまた「私のようなものが世の中へ出て、口を利きいては済まない」と答
えるぎりで、取り合わなかった。私にはその答えが謙遜けんそん過ぎてかえって世間を冷評するようにも
聞こえた。実際先生は時々昔の同級生で今著名になっている誰彼だれかれを捉とらえて、ひどく無遠慮な

998 :山師さん (ワッチョイ 7e94-mR0Q):2017/05/18(木) 10:33:08.28 ID:NWShKe3u0.net
批評を加える事があった。それで私は露骨にその矛盾を挙げて云々うんぬんしてみた。私の精神は反抗の
意味というよりも、世間が先生を知らないで平気でいるのが残念だったからである。その時先生は沈んだ
調子で、「どうしても私は世間に向かって働き掛ける資格のない男だから仕方がありません」といった。

999 :山師さん (ワッチョイ 7e94-mR0Q):2017/05/18(木) 10:33:24.28 ID:NWShKe3u0.net
先生の顔には深い一種の表情がありありと刻まれた。私にはそれが失望だか、不平だか、悲哀だか、解わ
からなかったけれども、何しろ二の句の継げないほどに強いものだったので、私はそれぎり何もいう勇気
が出なかった。

1000 :山師さん (ワッチョイ 7e94-mR0Q):2017/05/18(木) 10:33:40.29 ID:NWShKe3u0.net
 私が奥さんと話している間に、問題が自然先生の事からそこへ落ちて来た。
「先生はなぜああやって、宅で考えたり勉強したりなさるだけで、世の中へ出て仕事をなさらないんでし
ょう」

1001 :山師さん (ワッチョイ 7e94-mR0Q):2017/05/18(木) 10:33:56.31 ID:NWShKe3u0.net
「あの人は駄目だめですよ。そういう事が嫌いなんですから」
「つまり下くだらない事だと悟っていらっしゃるんでしょうか」
「悟るの悟らないのって、――そりゃ女だからわたくしには解りませんけれど、おそらくそんな意味じゃ

1002 :山師さん (ワッチョイ 7e94-mR0Q):2017/05/18(木) 10:34:12.27 ID:NWShKe3u0.net
ないでしょう。やっぱり何かやりたいのでしょう。それでいてできないんです。だから気の毒ですわ」
「しかし先生は健康からいって、別にどこも悪いところはないようじゃありませんか」
「丈夫ですとも。何にも持病はありません」

1003 :山師さん (ワッチョイ 7e94-mR0Q):2017/05/18(木) 10:34:28.30 ID:NWShKe3u0.net
「それでなぜ活動ができないんでしょう」
「それが解わからないのよ、あなた。それが解るくらいなら私だって、こんなに心配しやしません。わか
らないから気の毒でたまらないんです」

1004 :山師さん (ワッチョイ 7e94-mR0Q):2017/05/18(木) 10:34:44.31 ID:NWShKe3u0.net
 奥さんの語気には非常に同情があった。それでも口元だけには微笑が見えた。外側からいえば、私の方
がむしろ真面目まじめだった。私はむずかしい顔をして黙っていた。すると奥さんが急に思い出したよう
にまた口を開いた。

1005 :山師さん (ワッチョイ 7e94-mR0Q):2017/05/18(木) 10:35:00.28 ID:NWShKe3u0.net
「若い時はあんな人じゃなかったんですよ。若い時はまるで違っていました。それが全く変ってしまった
んです」
「若い時っていつ頃ですか」と私が聞いた。

1006 :山師さん (ワッチョイ 7e94-mR0Q):2017/05/18(木) 10:35:16.32 ID:NWShKe3u0.net
「書生時代よ」
「書生時代から先生を知っていらっしゃったんですか」
 奥さんは急に薄赤い顔をした。

1007 :山師さん (ワッチョイ 7e94-mR0Q):2017/05/18(木) 10:35:32.32 ID:NWShKe3u0.net
十二

1008 :山師さん (ワッチョイ 7e94-mR0Q):2017/05/18(木) 10:35:48.34 ID:NWShKe3u0.net
 奥さんは東京の人であった。それはかつて先生からも奥さん自身からも聞いて知っていた。奥さんは「
本当いうと合あいの子こなんですよ」といった。奥さんの父親はたしか鳥取とっとりかどこかの出である
のに、お母さんの方はまだ江戸といった時分じぶんの市ヶ谷いちがやで生れた女なので、奥さんは冗談半

1009 :山師さん (ワッチョイ 7e94-mR0Q):2017/05/18(木) 10:36:04.34 ID:NWShKe3u0.net
分そういったのである。ところが先生は全く方角違いの新潟にいがた県人であった。だから奥さんがもし
先生の書生時代を知っているとすれば、郷里の関係からでない事は明らかであった。しかし薄赤い顔をし
た奥さんはそれより以上の話をしたくないようだったので、私の方でも深くは聞かずにおいた。

1010 :山師さん (ワッチョイ 7e94-mR0Q):2017/05/18(木) 10:36:20.42 ID:NWShKe3u0.net
 先生と知り合いになってから先生の亡くなるまでに、私はずいぶん色々の問題で先生の思想や情操に触
れてみたが、結婚当時の状況については、ほとんど何ものも聞き得なかった。私は時によると、それを善
意に解釈してもみた。年輩の先生の事だから、艶なまめかしい回想などを若いものに聞かせるのはわざと

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