2ちゃんねる スマホ用 ■掲示板に戻る■ 全部 1- 最新50    

■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています

神7のストーリーを作ろうの会part11

1 :ユーは名無しネ:2015/05/05(火) 15:46:04.67 0.net
前スレ 神7のストーリーを作ろうの会part10
http://anago.2ch.net/test/read.cgi/jr2/1414066651/l50

2 :ユーは名無しネ:2015/05/05(火) 15:47:03.76 0.net
前スレ容量オーバー寸前のためたてておいた
規制とかになって立てられなかったら困るし

3 :ユーは名無しネ:2015/05/08(金) 19:20:01.04 0.net
金曜ドラマ劇場「それを恋と呼ぶ日」


克樹は入学式で新入生代表で挨拶をすることになった。毎年入試の結果首席がそれをすることになっている。
緊張しながらそれを終え、校門の「入学式」の看板の前で写真を撮る。母親は、村木の母親と意気投合したのか親同士でしゃべっていてくれるから気は楽だった。
「なんかさー、ブレザーっていかにも『高校生』って感じがしていいよなー。うちの中学学ランだったし」
村木がガラスに映る自分の姿を見ながらそんなことを言った。
「うん。ちょっと大人になった気分だね」
「なんかさっきからキョロキョロしてるけど誰か探してんの?」
「え?」
指摘されて、克樹は戸惑う。そんなつもりなかったからだ。
いや…無意識のうちにそうしていたのかもしれない。克樹は嶺亜の姿を求めていた。
今日は入学式だから在校生は休みなのだが、ちらほらと部活動に来ている生徒が見える。もしかしたらその中に…と期待してしまっている。
いつ出会ってもいいように、克樹は外に出る際は必ずある包みを持って行くことにしている。
新しいハンカチが入った包みだ。
これを「あの時はありがとうございました」と嶺亜に渡すこと。それを目標に克樹はここへ入学したのだ。だから今日も持って来ている。一か月おきに新しいハンカチに買い替えているからこれでもう6枚目だが…
明日から授業が始まるし、できればすぐにでも会いに行きたい。
そんな思いをこめてハンカチの包みを手に持つと、突風が吹いた。

4 :ユーは名無しネ:2015/05/08(金) 19:20:59.12 0.net
満開の桜は、その無骨な風のいたずらによって花びらをもがれてしまう。克樹が目を開けるとその花びらが吹雪のように舞い散った。
その花吹雪の向こうに、シルエットのように佇んでいる人物が視界に入った瞬間に呼吸が止まる。
数か月経っているにもかかわらず、鮮やかに記憶に刻みこまれているその横顔…克樹はそこで思い出す。まるでデジャヴのような光景を。
僕は前に見たことがある…そう、無数の花びらが舞い散って、導かれた先には彼がいて…
そう、そこには嶺亜がいた。
そこまで思い出すと目頭が熱くなった。
あともう少し走りだすのが遅ければきっとこの目に溜まったものは零れ落ちていただろう。だけどそれよりも強い感情の支配によって克樹は動き出していたのだ。
会いたかった
ただひたすらに焦がれたその想いは、ほんの十数メートルの距離を万里にも思わせた。何故か目に映るものがスローモーションのように見える。
あとほんの数メートル、というところでその横顔がゆっくりと真正面を向いた。そのふい打ちの現象に、あれだけ逸っていた気持ちが一瞬にして吹き飛ぶ。
目と目が合う
少し驚いたように見開かれたその瞳に見つめられただけで克樹の全身は燃え盛るような熱を持つ。とりわけ、顔が火のように熱い

5 :ユーは名無しネ:2015/05/08(金) 19:21:28.51 0.net
「…」
頭の中が滅茶苦茶に混乱してしまって、言うべきセリフが全て吹っ飛んでしまった。まるで金魚のようにパクパクと口を開閉することしかできない。
「?」
不思議そうに嶺亜が小首を傾げる。しかし焦れば焦るほどにパニック状態は深刻化してゆく。克樹は目眩がして倒れそうになった。
何か言わなきゃ…
やっと会えたのに…
もつれる言葉はしかし、いきなり口からついて出た。自分じゃない自分が自分を突き動かしている…上手く言えないがそんな感じだ。
「あの…こないだはハンカチありがとうございました…!ずっと返さなきゃと思ってたんですけど、染みが取れなくて新しいのをと思って…」
言いながらどんどん体温が上がってくる。今日の最高気温は例年より低く13度のはずなのに、真夏のように熱い。克樹は背中に汗をかいている自分に気がついた。
「ハンカチ…?」
また嶺亜が首を傾げる。ほんの数度傾けただけのその仕草は信じられないくらいにたおやかで上品だ。それだけで克樹は頭がぼんやりしてくる。
「あの…えっと…去年の文化祭の時に…僕が階段から落ちて鼻血を出してしまって…」
しどろもどろになっていると、嶺亜が「ああ」と手を叩いた。

6 :ユーは名無しネ:2015/05/08(金) 19:22:00.68 0.net
「そういえばそんなことあったねぇ…あの時の子ぉ?どっかで見た気はしたんだぁ」
ふわっと笑ったその柔らかい笑顔に、魂が浄化されてゆくような満たされた気持ちになる。
覚えていてくれたんだ。
そのことが、泣きそうなほどに嬉しかった。
だけど泣いている場合じゃない。急いで鞄からハンカチの入った包みを取り出し、嶺亜に渡す。緊張して手が震えた。
「いいよぉそんなぁ。僕忘れてたしぃ」
笑いながら嶺亜は掌を振る。退いてしまいそうになるが克樹は自分を奮い立たせて包みを嶺亜の前に突き出した。
「いえ…!う、受け取って下さい…!」
祈るような思いで待つと、程なくして何かが手に触れた。
「じゃぁいただきます。ありがとぉ」
受け取った嶺亜の手が触れたのだ、と気付いた時にはもう心臓の鼓動が限界点を超えていた。
このままでは心臓麻痺で死んでしまう…と危惧したのと同時に村木が呼びに来て一命はとりとめられる。
「さっきの人知り合い?どっかで見た気すんだけどなー」
村木の呟きを遠くに聞きながら、克樹はじんじんとまだその手に残る感触の余韻に浸っていた。


.

7 :ユーは名無しネ:2015/05/08(金) 19:22:25.56 0.net
村木とは偶然同じクラスになった。それも心強かったし一週間もすると仲のいい友達もできて高校生活は順調な滑り出しであった。
「俺今日弁当持ってきてないから食堂で食べるわ」
昼休み、弁当を広げようとすると村木がそう言ったので克樹は一緒に食堂で食べることにした。入学してから初めて訪れたがなかなか賑わっている。嬉しそうにメニュー表を見る村木のために座席を確保して待った。
席はすぐに埋まっていく。トレーに料理を乗せた生徒が次々に座っていくから念のため隣の席に荷物を置いておいて正解だった。
村木はなかなか戻って来ない。混んでいるからまだ並んでいるのだろう、先に食べようかな…と弁当の包みを開けようとして手が止まる。
「あ、ここ空いてるぅ?」
トレーにオムライスを乗せた嶺亜がにこにこと問いかけてくる。真っ白な肌。まるで背後の白い壁と同化してしまいそうな…
「あ、空いてます…!」
「ありがとぉ。じゃぁここにしよぉ」
クラスメイトらしき友達と二人で嶺亜はそこに座る。ちょうどそこに村木がきつねうどんといなりの乗ったトレーをかかえて戻ってきた。

8 :ユーは名無しネ:2015/05/08(金) 19:23:25.72 0.net
村木とどういう会話をしたのか覚えていない。ただ、覚えているのはひどく上品にオムライスを食べる嶺亜の姿だけだった。
気になり出すともう拍車がかかって仕方がない。
廊下でたまにすれ違うことがあったら視線で追ってしまうし、たまたまグラウンドに面した教室の授業で嶺亜の体育の授業が目につくともう授業に集中できずずっとチラ見してしまっていたし、特に用がないのに二年生の教室の前を通ろうとしてしまう。
飢えにも似た渇きが抑えられなくなっているのを自覚した頃、それは舞い込んできた。
「なぁ本高、部活決めた?決めてないんならさ、ダンス同好会入ってくんない?友達とかも誘って」
その日の晩に松倉家と合同のホームパーティーをしていると松倉からこう懇願された。
「10人いないと同好会すら認めてもらえなくってさー。一人辞められちゃって…そんな毎回来なくてもいいし、なんなら名前だけでもいいから…助けると思って。今これなくなったら俺生きがいなくしちゃうんだよね」
松倉はダンスが相当好きなようで同好会にも精を出しているのは知っている。一方、克樹はダンスなんてしたこともないし興味もなかった。

9 :ユーは名無しネ:2015/05/08(金) 19:24:02.94 0.net
だけど…とその時脳裏に一つの記憶が蘇った。
確かダンス同好会には…
「まつく、ダンス同好会って今誰と誰がいるの?」
「え?名前言って分かるかな…俺と〜」
松倉はそれから6人の名前を挙げた。やっぱり…克樹は自分の記憶正しいことを確認する。
その中に、嶺亜の名前があった。
部活が一緒なら、接点は多くなるはずだ。そう判断すると克樹は松倉に二つ返事を返した。
かくして克樹は村木を誘ってダンス同好会に入部したのだった。


つづく

10 :ユーは名無しネ:2015/05/10(日) 13:15:16.59 0.net
続きを書いて下さってありがとうございます!
次回の更新も楽しみにしています

11 :ユーは名無しネ:2015/05/10(日) 14:05:55.25 0.net
>>1乙です
作者さんありがとうございます!
下心丸出しなぽんさんが可愛い!

12 :ユーは名無しネ:2015/05/15(金) 17:04:32.56 0.net
続き嬉しい!
作者さん、新スレも楽しみにしてます

13 :ユーは名無しネ:2015/05/15(金) 23:39:16.07 0.net
金曜ドラマ劇場「それを恋と呼ぶ日」


ダンス同好会は基本的に毎日あるが、参加は自由。10月の文化祭での発表に向けて練習するという活動スタイルだそうだ。
同好会には克樹と村木の他にあと二人一年生部員が入った。経験者らしく、いきなり技を披露して周りを沸かせていた。
「おおー!!すげーなお前、なんなん?その技!!」
「スッゲー!本格的―!!」
先輩達の絶賛にその一年生部員は照れ笑いで返す。ガタイが良く、人の良さそうな好青年風の少年だ。大人びていて同い年には見えない。制服よりスーツが似合いそうだった。
「高橋颯。よろしくね。4組だよ」
颯は爽やかな笑顔で握手を求めてくる。朗らかな性格で少し人見知りの気がある克樹でもすぐに打ち解けることができた。
「元太入ってくれんのか!助かる〜」
松倉がにこにこ笑いながら肩をぽんぽんと叩いてもう一人を紹介した。彼も経験者らしい。
「こいつは松田元太。俺が推薦するよ、すげー上手いんだ。な、元太!?」
元太は「ハードル上げるのやめて」と笑っている。柔らかい物腰でおっとりした雰囲気が漂っていた。

14 :ユーは名無しネ:2015/05/15(金) 23:40:10.64 0.net
「どういう知り合い?中学の後輩?」
誰かが訊ねると松倉は得意気に答えた。
「昔通ってたサッカー教室で知り合ったんだよ。家もそんなに遠くないしな。サッカー部に取られなくて良かったー!」
「てことはまつく一人で三人勧誘してきたわけかぁ。なんか奢らなきゃねぇ営業活動のご褒美にぃ」
ふふっと微笑みながら嶺亜が言う。その優雅さに克樹は見とれた。
「やったー!俺たい焼きがいいな。カスタードのやつね!」
「帰りに皆で食いに行こうぜ。新入生歓迎も兼ねて。あ、でもお前ら自分の分は自分で出せよ」
「何それ。ケチくせー」
上級生同士がそう話し合って帰りにダンス同好会メンバーで駅前のショッピングセンターに寄ることになった。
克樹は前を歩く嶺亜の後ろ姿にじっと見入っている。友達と話しながら時折横顔が垣間見える。すらっと通った鼻筋と切れ長の瞼が綺麗で溜息が出そうになった。
「おい本高、本高ってば」
見とれていると村木に肩を揺さぶられる。とっくにたい焼き屋台に付いていて、何にする?と訊かれた。
「あ、じゃあ普通のあんこで」
適当に注文をして受け取って、近くのベンチでそれをかじる。甘さが口の中に広がったが克樹の中にはそれよりも別の甘美なテイストが広がっている。

15 :ユーは名無しネ:2015/05/15(金) 23:40:43.05 0.net
「…」
克樹の正面で嶺亜はカスタードのたい焼きを食べている。その食べ方の上品さと優雅さはただただ驚くばかりである。隣の村木は一口で半分近くたいらげたが嶺亜は一口が小さい。まるで女の子のような食べ方だ。
小さな口が少しずつたい焼きを削っていく…何故かその薄い唇がたい焼きの端を捉えてちぎり、もくもくと口を動かすその様子を見ているだけで血流が促進されてゆく。それだけではなく呼吸も早くなっている気がした。
ずっとそこに魅入っていたかったが、食べ終わるとすぐに解散ムードになってしまった。
「待ってよぉまだ食べてるんだからぁ」
皆が食べ終えても、まだ半分しか嶺亜のたい焼きは減っていない。このまま減らなければいいのに…と願ったが急いで嶺亜が食べ終えてしまったのでそれは虚しく散る。
「でさー、今度の振り付けはー」
帰り道、家が隣の松倉と並んで歩くが克樹は彼の話題に生返事しかできなかった。たい焼きを優雅に食べる嶺亜が脳裏に浮かんで離れないのである。「はあ」とか「うん」とか繰り返してると怪訝な松倉の顔が正面にあった。
「な、何?」
「何、じゃねーよ人の話全然聞いてないじゃん。明日からの練習ちゃんと来てくれよ?戦力として期待してるんだからな」
「あ、うん。それはちゃんと行くよ。けど…」
だけど克樹にはダンスなんて全く経験がないしまともに踊れる気がしない。運動は苦手ではないがリズム感には自信がない。ましてや音楽に合わせて身体を動かすなんて…
その不安は的中する。翌日のレッスンで克樹は全く付いていけなかった。経験者の颯と元太はいとも簡単に踊ってみせてるし、村木も経験がないながらもちゃんと付いていっている。分かってないのは自分だけだった。

16 :ユーは名無しネ:2015/05/15(金) 23:41:24.13 0.net
「すいません…」
勉強なら、すらすらと頭に入るのにダンスはどうやら向いていないようだ。簡単な振り付けすらまごついてしまうし頭がこんがらがる。焦りと恥ずかしさと情けなさで泣きそうになった。
「ドンマイドンマイ!も一回ゆっくり合わせようぜ。誰だって最初は初心者だし」
だが松倉がフォローしてくれてもう一回克樹に合わせてスローテンポで確認してくれても結果はそう変わらなかった。
「うーん…これは個人的に教えた方が分かりやすいかも」
誰かがそう言って、克樹は一対一で教えてもらうことになった。教えてくれるのは…
「人に教えられるほど上手くないんだけどねぇ」
なんと嶺亜だった。嬉しい半面、心配した通り克樹は緊張で身体がカチコチになり、余計にパニックになってしまう。
「えっと…あの…すいません…」
「いいよぉ。もう一回確認しながらやってみよぉ。右手の位置はぁ…」
腕を取られ、その瞬間口から何かが飛び出しそうになる。もしかして自分はピッコロ大魔王になってしまって今からタマゴを生むのではないか…本気でそう危惧したほどだ。
次いで顔が火に炙られたかのように熱を持つ。もしかして風邪?今朝はちゃんとすっきり目覚めたし食欲もあるし特にだるさも感じないのに何故顔だけがこんなに熱くなるのだろう。
そうかと思えば、今度は心臓が痛いくらいに早く打ちだした。まるで胸の内側から激しくノックされているかのようで呼吸が苦しくなる。これは何か重大な疾患の前触れでは…
「本高ぁ?おーい、大丈夫ぅ?」
気を遠くに飛ばしかけていると、嶺亜の顔が目の前にあった。白い肌と涼しげな目もとが視界に入ると今度は目眩までしてきた。いよいよもってやばい状態だ。

17 :ユーは名無しネ:2015/05/15(金) 23:41:47.95 0.net
だけど卒倒するわけにはいかない。できない自分のために自分の練習を止めてまで教えてくれているんだ。誠意のない態度なんてできるわけがない。自分に強く言い聞かせて克樹はこらえた。
「だ、大丈夫です。あの、これで合ってますか?」
なんとか正気を保つことに成功すると克樹は言われた通りに動いて確認を取る。
すると目の前にお花畑が現れた。
「うん。合ってるよぉその調子ぃ」
ついに幻覚まで見え始めた。ここは高校の多目的ホールのはずなのに、何故か無数の色とりどりの花々で埋め尽くされていた。その中央に微笑んだ天使がジャージを着て立っている。
もし天国というものがあるならこれがそこかもしれない。自分の魂は天に召され…
「でぇ、次はこうしてこう…分かるぅ?」
ジャージの天使が親切にそう言っている。克樹は自動的に頷いていた。そして適当に身体を動かす。
「あ、違うよぉ。そうじゃなくてぇ…こう」
いけない。煩悩を断ち切らねば。集中して嶺亜の教えに神経を傾けなければ失礼この上ない。また克樹は己を戒める。
そんなこんなで桃源郷と現実を行き来しているとあっという間に時間は過ぎていく。それは克樹にとってこの上なく幸せな時間だった。


つづく

18 :ユーは名無しネ:2015/05/17(日) 06:31:43.26 0.net
 
お世話になります。
私、責任者の加茂と申します。以後、宜しくお願い致します。
http://www.apamanshop.com/membersite/27009206/images/kamo.jpg
浪速建設様の見解と致しましては、メールによる対応に関しましては
受付しないということで、当初より返信を行っていないようで、今後につい
てもメールや書面での対応は致しかねるというお答えでした。
http://www.o-naniwa.com/index.html 事務員 南野 東条
http://www.o-naniwa.com/company/ 岡田常路
このように現在まで6通のメールを送られたとのことですが、結果一度も
返信がないとう状況になっています。
http://www.apamanshop-hd.co.jp/ 加茂正樹 舟橋大介
http://s-at-e.net/scurl/nibn-apaman.html 大村浩次
私どものほうでも現在までのメール履歴は随時削除を致しております
ので実際に11通のメールを頂戴しているか不明なところであります。
 
・妖怪ウォッチ
 http://s-at-e.net/scurl/Youkai-Watch.html
 
・崖の上のポニョ
 http://s-at-e.net/scurl/Ponyo-drippy.html
 http://s-at-e.net/scurl/Ponyo-spouting.html
 
大阪府八尾市上之島町南 4-11 クリスタル通り2番館203
に入居の引きこもりニートから長期にわたる執拗な嫌がらせを受けています。
この入居者かその家族、親類などについてご存知の方はお知らせ下さい。
hnps203@gmail.com
 
 〈 http://s-at-e.net/scurl/kenmou-post_id_28.html

19 :ユーは名無しネ:2015/05/17(日) 08:35:04.83 0.net
神7

20 :ユーは名無しネ:2015/05/17(日) 12:49:46.95 0.net
作者さん乙です!!!
ピッコロ大魔王wwwww
思い出して1人で大爆笑していましたwwww

21 :ユーは名無しネ:2015/05/17(日) 18:52:16.30 0.net
れあたんの惑わすパワー凄すぎる
負けるなぽんさん!

22 :ユーは名無しネ:2015/05/22(金) 22:38:56.83 0.net
金曜ドラマ劇場「それを恋と呼ぶ日」


一か月も経つとダンスの振り付けにも少しずつ慣れ、なんとか落ちこぼれずに付いて行くことができるようになった。中間テスト期間に突入するとこの期間は同好会も部活動も休止になり、克樹は嶺亜との接点が激減してしまう。そうなると急にこの世界が色褪せてしまった。
「けど、勉強もちゃんとしないと…」
会えないのは寂しいが、勉強にも集中しないといけない。己を戒めて机に向かうとドアがコンコンとノックされる。
「克樹、今日松倉さんとことお寿司一緒にとったから。勉強終わったら降りてきなさい」
母親にそう言われ、区切りをつけると克樹は階下に降りる。もうすでに出前の寿司は届いていて松倉家と団欒している家族がいた。
「おー本高、勉強捗ってるー?」
もぐもぐと甘えびを食べながら松倉が訊いてくる。克樹は「まあまあ」と答えて割り箸を割った。
「偉いよなー。俺なんか一時間もたなくて。さっきまで振付の確認してた」
「一応ちゃんと勉強することを条件に許してもらったから」
「えーでも元々W学院志望だったんだしそんな一生懸命やんなくてもトップになれるだろうちなら。あ、でもそういう問題じゃないのか」
松倉が笑う横では母親同士がビールを飲みながら談笑している。

23 :ユーは名無しネ:2015/05/22(金) 22:39:28.41 0.net
「そうなの。克樹ったらね、急に志望校変えるわそれまで全く興味示さなかったダンスなんか始めるわでもう我が息子ながらついけてなくて」
「いいじゃない克樹君はちゃんと勉強もしてるんだし。海斗なんか部屋から出てこないから勉強してるんだろうと思ったら携帯覗きながらダンスしてるんだもん、思わず怒鳴っちゃったわ」
息子に対する愚痴を母親達は酒の肴にしているようだった。スルーしてると松倉がその話に割って入って行く。
「俺もビックリしたよ。だってW学院とうちの学校じゃ偏差値違いすぎるし、ダンス同好会だって興味ないって一蹴されるかと思ったら二つ返事だし」
「あらー。もしかしたら克樹、海ちゃんに憧れて入ったのかもね。海ちゃんは明るいし活発だし。ダンス踊ってる時イキイキしてるもん」
克樹の母親にそう言われて松倉は満更でもない様子である。克樹は「まあそういうことにしとこうかな」と受け流しておいた。
適当に話に合わせて寿司をつついていると、松倉がデザートのプリンのスプーンを口に咥えながら肩を叩いてくる。
「あ、そだ。さっきさー嶺亜から面白い画像来てー」
「え、何!?見せて!」
食いつくと、そこには友人らしき少年が素っ頓狂な格好とメイクをしておどけている横で笑っている嶺亜の2ショットがあった。

24 :ユーは名無しネ:2015/05/22(金) 22:41:06.36 0.net
「私服だ…」
実は克樹は嶺亜の私服姿を見たことがない。それもそのはず、学校でしか会えないのだからだ。黒い英文字が刻まれた白いTシャツに、迷彩柄のハーフパンツで、スニーカーはピンクだった。
確かピンクが好きだと言っていたっけ…
それを思い出し、そこがいかにも嶺亜らしさがでていて感動に似た思いがかけめぐる。
「すっごい面白い。これ転送して、松倉」
「え?まあいいけど。んじゃ送るわ」
「ありがと!あ、僕の分のプリンも食べてくれていいから。はいどうぞ」
気付けばそう口にしていた。おそらく物凄い回転で頭が回って、この画像を携帯電話に保存していつでも好きな時に見たいという計算が働いたのだろう。自分でも驚くべき機転である。
ある程度勉強を進めておいて良かったと克樹はこの後思うことになる。何故なら夕食が終わって松倉家が帰った後、克樹は自分の部屋で暫くこの画像を眺めているうち日付を超えてしまったからだった。


.

25 :ユーは名無しネ:2015/05/22(金) 22:41:31.66 0.net
中間テストはまあまあの結果だった。横で村木が「うわ学年トップ様と俺友達やらせてもらってんの?」と成績表を覗きこみながらふざけている。笑って返すと別のクラスメイトが声をかけてきた。
「中間終わったしお疲れ会やんねえ?コイツの慰安会も兼ねて」
指を差されたそのクラスメイトは少しふてくされて小さな溜息をついていた。何事かと思ったらファミレスでメロンソーダのストローをくるくるやりながらそいつは愚痴った。
「脈アリだと思ったんだけどなー…。色々親切に教えてくれてたし」
どうやら片想いの女の子に告白してフラれたらしい。周りが口ぐちに慰めの言葉をかける。
「まーまー。女なんて世の中にゃくさるほどいるって」
「そうそう。失恋を癒すには新しい恋だって。他にいねーの?いいなと思ってる子」
「男を磨くチャンスだと思って」
そう言われてもそいつはなかなか暗い雰囲気を吹き飛ばすことはできないようである。頬杖をついて窓の外を眺めて断続的に溜息を繰り返していた。

26 :ユーは名無しネ:2015/05/22(金) 22:42:10.92 0.net
好きな子に受け入れられないってそんなに辛いことなのだろうか…
なんとなく克樹はそんなことを思う。今まで考えたこともなかったが、自分に当てはめて考えてみるとなんだか他人事で済ますのは躊躇われてそいつに声をかけた。
「辛いよね、やっぱ…。仲良くしてくれてたんなら余計に」
そう言うと、何故か分からないけど克樹はちょっと非難されからかわれ始める。
「本高はモテるから分かんないだろー。顔良し、頭良し、性格良しで女の方から群がってくるしよりどりみどりじゃん。どうせすぐに彼女作って俺らからバイバイだろ」
「え、そんなことないよ。何言ってんの?」
「こういう『モテるけど女に興味ありません』ってタイプが一番モテんだよなー。ムカつくー」
「いや…何を言ってるのかさっぱり…」
「まあまあまあ。僻みはよせよせ。本高、中学の時から何度も告られてるけど誰とも付き合おうとしねーしガチで女に興味なさそうだもん」
村木がフォローしてくれるもやいのやいの言われて最後はこれまた何故か克樹がフラれたそいつのジュース代をおごることになってしまった。
帰り道、村木と歩きながらしかし克樹はこう呟く。

27 :ユーは名無しネ:2015/05/22(金) 22:43:34.14 0.net
「失恋って、辛いかな。やっぱ…」
「そりゃそうだろ。誰だって好きな子と上手くいきたいって思うしそれが叶わなかったらつれーよ」
「村木もそうなの?」
「は!?俺に振るなよ。まあ俺今好きな子とかいねーけどあいつみたいに脈あるかもって思ってたのに勘違いだったってなるとダメージ倍増だろうな」
「そっか…そうだよね。親切にしてくれるからって自分のこと好きとは限らないよね…」
克樹は思う。ダンスレッスンでまごつく自分に分かるまで丁寧に教えてくれた嶺亜が自分に対してどういう感情を持っているかなんてその時は考えもしなかった。
だけど、どこかでわざわざ教え役を買って出てくれたのはもしかしたら…と淡い期待のようなものが片隅で芽生えていたからだ。
もちろん、親切でそうしてくれたのだろうしそれ以上でも以下でもないと言われればそれまでだ。というかそう考えるのが普通だろう。
だけどどうしてだろう、そうだったらいいな…と期待させるのは…
それはそこに、相手に対する普通以上の感情があるから。だから期待してしまうんだ。仮に教えてくれたのが他の先輩なら自分はこんなこと考えてもいないはずだ。
人を好きになるというのは自分の中で矛盾した期待や過度な欲求をしてしまうということかもしれない。
それがいいのか悪いのか…今の克樹にはまだ分からなかった。


つづく

28 :ユーは名無しネ:2015/05/25(月) 01:05:12.90 ID:AR4WZIx1b
久しぶりに覗きにきたらpart11まで…いつもいつもありがとうございます!私も余裕があれば話作ってみたいな…

29 :ユーは名無しネ:2015/05/29(金) 23:21:36.96 0.net
つづきまだかな〜まだかな〜わくわく

30 :ユーは名無しネ:2015/05/30(土) 18:03:52.83 0.net
来月P誌はぽんれあ!

31 :ユーは名無しネ:2015/05/31(日) 00:09:17.86 0.net
日曜ドラマ劇場「それを恋と呼ぶ日」


「おい超朗報!!天神祭のステージ決まったぞ!」
初夏が近づく頃、興奮気味の松倉がそう叫びながら更衣室のドアを開けた。
「天神祭のステージって?」
克樹が問うと、松倉は汗を拭きながら答える。
「駅前のショッピング街の祭だよ。ショッピングモールに屋外ステージがあるだろ?毎年そこで歌とか楽器演奏とか有志のステージがあんだけどステージに立てる団体数には限りがあるし抽選なんだよ。去年外れたから今年は当たってほしーなと思ってたら顧問が当ててくれたの」
「へえ…」
「同好会としては、部活に上げてもらうためには活動実績が少しでもあった方がいいからな。文化祭だけじゃ認めてくれないだろうし。さ、気合い入れて練習してこー!!」
松倉はやたらテンションが上がっている。その理由を嶺亜がこっそり耳打ちしてきた。
「松倉はねぇ、その後のお祭りで屋台めぐるのが楽しみなんだよぉ。去年はステージ当たらなかっただけじゃなく雨降って祭自体が中止でがっかりしてたからぁ」
「そうなんですか?」
話しかけられたことに喜んでいると、隣にいた元太が松倉をからかい始める。
「まつくは戦隊モノのお面被って綿菓子なめてるのがすっごい似合うよね」
「ちょっとそれどういう意味だよー!ま、お面も綿菓子も買うけどね!」
「お面なら颯も似合うよねぇ。下駄はいてじんべえ着てさぁ。和装似合うと思うよぉ」
嶺亜が颯に振ると、彼は何故か真剣な顔になった。
「お祭り屋台にメロンパンってある?」
颯のその問いは一瞬の沈黙の後周りの爆笑をさらっていた。和やかなムードでレッスンも始まり、ステージに向けて一層気合いが入っていた。克樹も遅れを取るわけにはいかないから真剣に振付を頭に叩き込んでいたのだが…

32 :ユーは名無しネ:2015/05/31(日) 00:10:11.38 0.net
「ねぇ颯、ここさぁこうだったっけぇ?」
「うん。それでこっちはこう」
最近密かに気になっていたのだが、嶺亜と颯は気付けば一緒にいることが多い。気が合うのか、嶺亜も颯といる時はにこにこと機嫌がよく何かと話しかけている。
颯はとても穏やかな性格で人あたりも柔らかい。同い年だがどこか大人のような落ち着きを見せるかと思えば子どもっぽい無邪気な一面もある。
ダンスもそうだが何をやらせてもそつなくこなしていてそれでいて嫌味がない。そんなところが克樹も好きだし安心して話しかけることができる。
嶺亜もきっとそうなんだろうな…
心に何か冷たい風のようなものが吹き抜けて行く。誰も悪くないのにどうしてこんな気持ちになるのだろう。なんだかモヤモヤとして気分が優れない。
自分の中に巣食う暗雲に支配されていくのを必死に抵抗してみたが、そうすればするほどに取り憑かれてしまっているかのようだった。
生まれて初めての感情。それは…
「おい本高。合わせるぞ」
肩を叩かれ、現実に引き戻された。だがこんな調子で上手く踊れるはずもなくまた足を引っ張ってしまう。
「…」
焦りと苛立ち、情けなさが波のように訪れる。惨めな気持ちが自分から気力を奪って行くかのようだった。
「大丈夫?もう一回確認しよう。どこか分からないとこある?」
その時の克樹にとって残酷とも言える颯からの気遣いも今は答えるだけの余裕がなかった。黙って首を振ることしかできず、いたたまれなくて反射的に多目的室を飛び出した。

33 :ユーは名無しネ:2015/05/31(日) 00:10:46.88 0.net
しかしだからと言って目的地があるわけじゃない。すぐに足は止まり、近くの石段に座りこみ自己嫌悪に頭を抱える。
なんかもう、色々最悪だ。
どこまでも深く気分を落ち込ませていると、名前を呼ばれた。
「気にすんなって。別に先輩達誰も怒ってないしむしろ心配してたぞ」
村木だった。彼はそう言いながら克樹にオレンジジュースのパックを差し出す。
「なんか、お前でもそんな風に落ち込むことあるんだな。意外」
横に座りながら村木は自分の分のオレンジジュースのストローに口をつけた。
「意外?」
問うと村木は頷く。
「本高ってさ、頭いいし性格もいいしついでにもてるし何やらせても人よりできるってイメージだったけど、そんな風に悩んだりすることもあるんだなって」
「どういう意味?」
「そういう意味。なんか完璧超人みたいだと思ってたけどけっこう人間味あるんだなって付き合い長いけど今更気付いた」
「完璧なんかじゃないよ。現に…」
下らないやきもちを颯に対して妬いて、練習にも集中できなくて、さらには彼のフォローにも背を向けてしまうこんな自分のどこが完璧だというのだろう。そんなものとは程遠いように思えた。
村木だって、きっとこんなこと知ったら呆れるに決まっている。そう思ったが彼の口からはこんな言葉が飛び出してきた。
「なんかちょっと親近感沸いた感じ。あ、ダメなとこ見て安心したーって意味じゃないぞ。俺はいつもお前に励まされる立場だったけど今度は俺が励ます番が来たなーって思っただけ。恩返しの一環ってヤツ?」
村木は笑う。今の克樹にとってそれはかなり救いだった。なんだか、こんな嫌な自分でも認めてくれてるような有り難さを感じる。少しだけ、前を向くことができジュースを飲みほした。

34 :ユーは名無しネ:2015/05/31(日) 00:12:30.33 0.net
「さっきはごめん…教えてもらってもいいかな?最初から」
颯に頭を下げてそう言うと、彼は全く気にした素振りもなく「いいよ」と親切に教えてくれた。それが克樹にとっては立ち直るきっかけになる。
とにかく、ダンスに集中しよう。そうすれば余計な雑念は入ってこないはず。少なくともマイナスな感情は。
必死になって練習している間はふっ切ることができ、なんとかこれ以上自分を嫌いにならずに済みそうだ…と安心しながら着替えをしていると颯と嶺亜が笑って話しているのが視界に入ってしまう。
克樹は意図的に視線を逸らした。よく分からないけど、颯と嶺亜が仲良く話しているのを見てしまうと自分の中に煙のようなものが燻ってくる。耐性がつくまでは見ない方がいい。そう判断してさっさと更衣室を出ようとしたその時だった。
「ねぇ、本高も行けるよねぇ?」
聴き間違うはずもない。嶺亜の声だった。名前を呼ばれて反射的に足を止めて振り返るとニコニコした嶺亜の顔がこちらを向いている。
「え?…え…?」
「天神祭の後さぁ、みんなで打ち上げやるんだけど行けるぅ?」
声より先に首が縦に振られていた。克樹は小刻みに頷きを繰り返す。
「じゃあ決まりぃ」
打ち上げ…
ということは、ステージが終わった後一緒に遊べるということだ。一緒に…
突然の嶺亜からの誘いに、それで今日一日のモヤモヤが全て吹き飛んでしまった。克樹は帰り道、羽が生えたみたいに身体が軽くなってスキップを抑えたくらいだった。


つづく

35 :ユーは名無しネ:2015/06/05(金) 00:39:23.79 0.net
なんとタイムリーにぽんれあの手繋ぎが実現
続きを楽しみにしています

36 :ユーは名無しネ:2015/06/05(金) 22:39:05.54 0.net
んんんんんあつらえたようにぽんれあ始まっちゃったな!現実もストーリーも楽しみ楽しみ!

37 :ユーは名無しネ:2015/06/13(土) 20:04:23.13 0.net
土曜ドラマ劇場「それを恋と呼ぶ日」


天神祭の日が近づくにつれて克樹の気分はだんだんと浮かれていったが、それに相反して天候の心配が浮上した。台風が発生し、予報では進路がまともにこちらにぶつかるらしい。
「とにかく俺達にできることはただ一つ」
誰かがそう言って、更衣室には日を追う毎に手作りのてるてる坊主が増えていった。克樹も勉強の合間に一つ作ってみたからそれを飾ろうとすると、やたら派手で悪趣味な色合いのてるてる坊主が置かれているのが目に留まった。
多分松倉あたりがふざけて置いたんだろうと思って「何コレ?」とつまんで村木と笑っていたらその松倉が笑いを押し殺している。
「まつくじゃないの?これ。この変なてるてる坊主」
「さあ〜誰かなあその変なてるてる坊主作ったの」
ニヤニヤしながら松倉が見たその先を克樹も目で追うと、髪の毛が逆立ちそうになった。
「変なので悪かったねぇ。真面目に作ったんだけどぉ」
頬を膨らませた嶺亜がそこにいた。その仕草はあり得ないくらい可愛かったが克樹にはそこに浸っている余裕は1ミリもない。可及的速やかにこの危機を脱しなければ明日はない。突如襲ってきた大ピンチに克樹は全身大汗をかいた。
「す、すいません…!あの、違うんです…あの…えっと…まつくが作ったのかと思って…!」
「別にいいよぉ。変なことに変わりないもん。持って帰るぅ」
「ちが…あの…えと…」
背を向けられた。駄目だ。すでに動揺のメーターが限界をとっくに振り切ってしまって頭の回路もショートする。
涙目になって焦っていると突然嶺亜が吹きだした。

38 :ユーは名無しネ:2015/06/13(土) 20:06:17.58 0.net
「冗談だってばぁそんな泣きそうな顔しないでよぉ本高ぁ」
きゃっきゃと笑って肩をぽんぽんされると、嬉しいというより安堵でまた涙腺が緩む。怒らせてしまったらどうしよう…と背筋が凍る思いだっただけに。
その場に尻もちをつきそうになるのをこらえていると、村木がさらっと嶺亜に言った。
「俺は独創的でいいな〜と思ってたんですよー。嶺亜くんアートの才能あるんじゃないすか?」
「そお?あ、でも美術は得意なんだよねぇこう見えてぇ」
機嫌を良くした嶺亜はその笑顔を村木に向けた。こういうことがさらっと言えてしまう村木が少し羨ましくなった。確かさっきは一緒になって笑っていたはずなのに…
自分も何か気のきいたことを言って嶺亜を喜ばせたいが、考えている間に話題は移動してしまう。
「嶺亜は私服も個性的だからさー。多分驚くと思うよ二人とも」
「ちょっとぉなんかバカにしてないまつくぅ?」
「してないしてない。よくあんな派手で凄いガラのを見つけてくるなーって感心してるもん」
「あーやっぱりバカにしてるぅ。ムカつくぅ〜!」
ソファに座って嶺亜は足をバタバタさせる。それがなんだか少女のようで愛らしい。
それに、私服ってどんなだろう…と想像するとまた意識がトリップしてしまう。そうこうしてる間にレッスンが始まり、遅れを取らないよう克樹は必死で集中した。

39 :ユーは名無しネ:2015/06/13(土) 20:07:15.06 0.net
「なんとかもちそうじゃね?てるてる坊主さまのおかげかな」
天神祭当日は曇りだった。台風は反れて、その名残の風だけが吹いている。
祭は盛況だった。季節を先取りしたそれは克樹の予想よりも賑やかで屋台も多い。ギャラリーの多さに松倉なんかは俄然張り切っていた。
初めて舞台でダンスを披露する克樹は、直前になると緊張が増してきてどうにも落ち着かなくなってくる。振りは何回も確認したし、フォーメーションだって頭に叩き込んでいる。にもかかわらず不安で足が若干震えた。
ふと隣の村木を見ると掌に「人」を書いて飲み込んでいる。古典的だがやらないよりましかもしれない。克樹もそれに倣った。
「じゃ、円陣組むぞー」
号令がかかり、ダンス同好会は円陣を組む。克樹の隣に嶺亜が来た。そこで少しだけ緊張がほぐれていると、いきなり手に柔らかい感触が伝った。
「へ…!?」
手を握られた…と思う間もなく反対側の手にも感触がやってくる。どうやら円陣の掛け声を出す時は皆で輪になって手を繋ぐことになっているらしい。
それでも克樹の心臓の鼓動はピークに達した。緊張とはまた別の大波が押し寄せてあっという間に飲み込まれてしまう。フラフラと舞台に立つと、あとは音楽がかかって自動的に踊っている自分がいて最後までフワフワしっ放しだった。これが初舞台で覚えている全てである。
着替えた後も残っている嶺亜の手の余韻に浸っていると、早く着替えろと急かされる。慌てて着替えをすませて更衣スペースを出た。

40 :ユーは名無しネ:2015/06/13(土) 20:08:06.27 0.net
「さーここからは楽しむのみ!りんご飴食べてー!」
張りきった松倉の横に苦笑いの嶺亜がいた。
嶺亜は薄いピンクのTシャツに黒のカーゴパンツだった。松倉があんなことを言うからどんな格好で来るのかと楽しい想像をしていたが落ち着いた感じである。しかしこれはこれでいい。
じぃんと手に残る感触に浸りながら屋台を見て回る…夕暮時の涼しさがそれに拍車をかける。まるで夢を見ているような心地だった。
先輩達の後ろに付きながら、屋台で焼きそばや松倉推薦のりんご飴を食べてラムネを飲んで回る。お面を被った小さい子どもが浴衣やじんべえ姿で走り回っていた。夏にはまだ少しあるが懐かしい風景に克樹は和む。
「あ、射的!」
指を指して突然嶺亜がそう叫んだ。
「やろやろぉ!射的大好き!」
子どものようにはしゃぐ嶺亜のその姿にじんわりと胸を温かくしていると出番が克樹に回ってきた。
祭屋台の射的は難しい。向こうも商売だから簡単に当てられては困るだろう。それなりに難易度は高めに設定している。その証拠に誰一人として商品を当てることはできなかったようだ。
もちろん、克樹は射的の腕には全く自信はない。小さい頃に何度か連れて行ってもらった縁日でも射的には興味がないから一度もしたことがないのである。
だけど…
「本高がんばってぇ。あの怪獣の模型狙ってぇ」
後ろから飛んでくる嶺亜の声援に、克樹の集中とやる気は増した。期待に応えたい…その一心で狙いを定め、標的に向かって引鉄を引く。
そして…

41 :ユーは名無しネ:2015/06/13(土) 20:08:58.69 0.net
「お前って時々ミラクル起こすよな」
隣で村木が爆笑しながら腹を抱えている。村木だけでなく皆笑っていた。
「…」
克樹は確かに恐竜の模型を狙った。完璧に計算して引鉄を引いたはずが結果的に弾はその隣のリカちゃん人形セットに命中し、見事倒れたのだった。
屋台のおっさんから「ニイちゃん変わった趣味してるね。はいよ」と豪華なリカちゃん人形セットを渡されるとそれまでこらえていた爆笑の渦が巻き起こったのである。
「いやホント、天才だろ本高」
「そういう趣味があったとは知らなかった。今度オススメ紹介してくれよ!」
「やっぱ裸にして遊んでんの?」
情けないやら恥ずかしいやらでどん底に気分を落としてると、ぽんぽんと嶺亜が肩を叩いてくる。
「うちの妹リカちゃん好きなんだよねぇ。交換しないぃ?」
嶺亜の手には変わったブレスレットが握られていた。なかなか個性的な造りでフリーマーケットとかに置いてそうな感じである。
妹がいるんだ…と情報をインプットしようとしていると松倉が笑いながら嶺亜の肩を叩く。
「ちょっと嶺亜、それお前が自分で作った去年の文化祭のチームに配ったやつだろ。セコすぎー!!」
「えぇ〜いいじゃん。本高がリカちゃん人形大好きなら仕方ないけどさぁ。好きなのぉ?」
話の流れ的なものはちゃんと理解できるのに、嶺亜に「好きなのぉ?」と問いかけられただけで克樹は腰が抜けそうになる。一気に顔が熱くなるが必死に言い聞かせる。訊かれているのはリカちゃん人形のことであって自分の感情ではないのだ。落ち着け克樹。落ち着け、落ち着…

42 :ユーは名無しネ:2015/06/13(土) 20:09:43.00 0.net
「いえ…あの…そういうわけでは…す…す…」
「いらないならいいじゃん。嶺亜くんの妹って何歳なんすかぁ?」
本高がバイブ人形のように震える横で村木がさらっと問う。嶺亜は「今小2だよぉ」と答えていた。
手にしたブレスレットを握りしめながら、わらしべ長者の話を克樹は思い出した。思いがけないお宝ゲットに今更のように喜びが込み上げてくる。
手作りのブレスレット…
毎日つけようかな、それとも神棚に飾っておこうかな…それとも真空パックで保存した方がいいかな…
頭の奥で色々と考えていると、松倉が「あ、そうだ」と鞄をごそごそと探る。
「そういや俺ももらったんだった。色違い色違い」
「…」
そこには色違いのブレスレットがあった。松倉の無邪気な笑顔が克樹には悪魔の笑みにこの時見えた。思わず語気が荒くなる。
「ちょっと今それ言う?まつくって時々空気読めないよね。せっかく人がいい気分に…」
と言いかけてはっと克樹は気付いた。しまった。うっかり本音を吐いてしまった。
焦っていると松倉の悪魔の笑みが本格的なそれに変わる。あ、ヤバイもしかしてこれは大ピンチという奴だろうか…と冷や汗をかいているとドーン!!と大きな爆発音が響き渡る。
なんだ、と思う間もなく夜空が彩られた。

43 :ユーは名無しネ:2015/06/13(土) 20:12:25.15 0.net
「あ…」
「お、花火―!!いやー本格的に夏を迎えられるなー!!」
打ち上げ花火が上がって、松倉はもちろんのことみんなの関心もそこに行ってしまってなんとか克樹は大ピンチを脱した。
二発、三発と花火は上がる。曇り空が赤や黄色、緑に青に染まり始める。
「たーまやー!!」
皆は叫びながら空を見上げ、打ち上げ花火に釘付けだったが克樹はそれを見ることはなかった。
「…」
何故なら閃光に照らされた嶺亜の横顔を花火が終わるまで見つめ続けたからである。
綺麗な横顔に見とれてしまい、もう花火どころではなかった。
それは例えようもなく可憐で美しく思えて、克樹にとっては打ち上げ花火すら霞んでしまったのだった。


つづく

44 :ユーは名無しネ:2015/06/14(日) 13:54:42.45 0.net
Hey! Say! JUMP ウィークエンダー & キラキラ光れ メドレー グランドピアノ編曲および演奏
https://www.youtube.com/watch?v=SPnkYpdFU0w
がむしゃら行進曲 関ジャニ∞ クラシック調 グランドピアノ編曲および演奏
https://www.youtube.com/watch?v=vdpF3S3SL8E
ジバング・おおきに大作戦 ジャニーズWEST クラシック調 グランドピアノ編曲および演奏
https://www.youtube.com/watch?v=uGHC7G7wu-w
CloveR 関ジャニ∞ クラシック調 グランドピアノ編曲および演奏
https://www.youtube.com/watch?v=9GP03s3B4kw
言ったじゃないか 関ジャニ∞ クラシック調 グランドピアノ編曲および演奏
https://www.youtube.com/watch?v=FBbQgQdsk0w
※ジャニーズの曲をグランドピアノで編曲しました。

45 :ユーは名無しネ:2015/06/15(月) 23:14:25.97 0.net
れあたんの行動に対するぽんさんの反応がピュアでかわいい!続き楽しみにしています

46 :ユーは名無しネ:2015/06/20(土) 03:49:40.47 0.net
ぽんさん可愛いな

47 :ユーは名無しネ:2015/06/21(日) 21:05:29.69 0.net
日曜ドラマ劇場「それを恋と呼ぶ日」


一つ行事を乗り越えると連帯感というか、絆のようなものが生まれたように思えて克樹は嶺亜と話せることが多くなった。嶺亜の方から話しかけてくることも増えて毎日ダンス同好会に行くのが楽しみな日々が続いていた。
「寝る前とかねぇ音楽聞きながらだと落ち着くよぉ。ウォークマン装着しながらタイマーにしてぇ…」
「どんな音楽ですか?」
隣で聞いていた元太が嶺亜のウォークマンの方耳のイヤホンをつける。すると彼は苦い顔になった。
「こんなん聞いて寝れませんよ」
「え、どんなのどんなの?」
克樹は興味津々でイヤホンをつけた。するといきなり爆音が耳をつんざく。思わずのけぞりそうになったが嶺亜はニコニコ笑顔を向けた。
「ね、良く眠れそうでしょぉ?」
と言われるとなんだか讃美歌のように思えてきて克樹は頷く。
「あ、僕も今日TUTAYA寄って借りてみようと思います。曲のタイトルとアーティスト名教えてもらっていいですか?」
「いいよぉ。あとねぇ今ゲームにハマっててぇこれしながら音楽聞いてると自然に眠っちゃうんだぁ」
「え、どんなゲームですか?僕もやってみたいです」
こうやってきゃっきゃと自然と話せる時間は何物にも代えがたい貴重なひと時である…そんな喜びを噛みしめてると向こうで何故か松倉がニヤニヤしながらこちらを見ているのが目に付いた。
その松倉は頬杖をつきながら小悪魔な笑みを湛えてこう呟く。

48 :ユーは名無しネ:2015/06/21(日) 21:06:19.16 0.net
「ほんと本高は嶺亜と話してる時楽しそうだな〜」
「え?」
「大きなお目目が三倍増しでキラキラしてるよ。幸せそう〜」
「ちょっとまつく、何言って…」
いきなり何を言い出すんだこの小悪魔は…!一気に克樹はパニックに陥る。たまたま嶺亜がジュースを買いに席を立ったからいいようなものの…
とりあえず全力で黙らせなくては…と濡れタオルを掴んでいると思わぬ方向からも矢が飛んでくる。
「松倉くん何今更言ってんすか。そんな分かりきったこと」
村木が爪を切りながらぼそっと呟いた。
「幸せそうっていうかもうメロメロだもんね本高。視線も吸い込まれてるし」
元太がミックスジュースをすすりつつ指摘してくる。
「良かったね本高!ハピネスだね!」
颯が背中を叩いてくる。
「え…ちょっと…」
何?何コレ?克樹は頭が真っ白になる。
これは一体…一体何が起こっているのか…
初回から温めていた密やかな嶺亜への恋心がなんでここへ来てだだ漏れなのか…ハルマゲドンが起ころうとしているのか、それともある日突然自分は「サトラレ」になったのか…
はたまた多重人格になってしまって自分の意志と無関係にその人格が暴れてしまっているのか…
純粋な優等生が淡い初恋を経験する中でちょっぴりほろ苦い思いをしつつも成長していくボーイズラブストーリだとばかり思っていたが実は怪奇ミステリーだったのかこれ…
これから僕は僕でなくなって最終的には完全に発狂して海辺の白い壁の四角い部屋に閉じ込められてブウウーン…と何かが鳴る中いつまでも「れあたん…れあたん…」って呟きながらエンドロールが回るのか…そうなのか…嗚呼無常…

49 :ユーは名無しネ:2015/06/21(日) 21:06:47.47 0.net
そんな恐ろしい結末を脳裏に描きながら意識を遠くしてると松倉の笑い声が聞こえてくる。
「本高は分かりやすすぎ!気付いてないの本人だけだって!」
「ど…どういう…」
まだ事態に付いていけないでいると、村木・元太・颯の三人も口ぐちにはやしたててきた。
「嶺亜くんとすれ違っただけで二度見からのガン見だし」
「レッスン中嶺亜くんの方ばっか見てるし」
「スマホの中には嶺亜の写真ばっかだし」
「嶺亜くんの声に反応する速度が音速超えてるし」
出てくるわ出てくるわ…克樹は戦慄した。そんなつもり露ほどもないのに、これは永遠に自分だけの秘めごとであり大切に温めていくはずだったのに周りからしたらダダ漏れもいいところだったなんて…
白目を剥きかけて倒れそうになったところで颯がしかしさらりと呟く。
「でも嶺亜は気付いてないと思うよ。そういう感情には鈍そうだから」
「ちょっと待って!颯はいつから『嶺亜』呼びになったの?一応作中では先輩後輩でしょ?作者だって不思議がってるよ!『確かJJLパジャマパーティーが初だったと思うが…それまで「嶺亜くん」呼びだったのに何故…』って!そこんとこ詳しく!!」
またも脊髄反射してしまって更に爆笑を巻き起こしてしまう。村木なんかは笑いすぎてひきつけを起こしかけていた。
「ほんと本高は嶺亜のこととなると必死だな〜。可愛いな本高〜!」
足をバタバタさせて松倉が笑い転げている。本当に黒い矢印の尻尾が生えてそうだ。
一方克樹はもう顔が火を放ちそうに熱を持ってしまっているのが自覚できるほどになってしまって頭が湯だってしまった。

50 :ユーは名無しネ:2015/06/21(日) 21:07:21.28 0.net
そこで懐かしい記憶が蘇る。小学生の頃、「お前○○のこと好きなんだろー」ってからかわれた友達のことを。その時は克樹には何を言われているのかどういう心理なのかは全く分からず「嫌がってるからやめなよ」と止めることしかできなかったが今はそれが痛いほどに分かる。
そしてその小学生時代の友達が取った行動とまさに同じ行動を自分は取ることになる。良くも悪くも初めての純粋な恋心はまだまだ小学生レベルだったと言えよう。純粋すぎるが故に克樹はこう口走ってしまう。
「みんなやめてよ!違うよ!ただ…ただちょっと今までいなかったタイプの人だから驚いただけだから!だって嶺亜くんって男なのに女の人みたいで不思議だし…みんなだって思うでしょ!?好きとかじゃないよ!!そんな風にからかわれるの迷惑だから!!」
結論を言えば、皆を黙らせることには成功した。
だが黙ったのは克樹の放った言葉に説得力があったからでも皆がからかうことに罪悪感を感じたからでもない。黙らざるを得なくなったからである。
克樹はドアに背中を向けていたから気が付かなかった。何故皆が「あ、ヤバい」といった表情をしているのかを。
そう、後ろを振り向くまでは。
恐る恐る振り向くと後ろにはジュースを手にした嶺亜が立っていた。


.

51 :ユーは名無しネ:2015/06/21(日) 21:07:52.38 0.net
克樹は気が付けば家の自分の部屋の中にいた。どうやって帰宅したのか覚えてもいないし、そもそも更衣室を出た記憶もなかった。
ただ気が付くとベッドの上に座って抱き枕を抱いて天井を見ていた。
母親が夕飯に呼びに来るまで本当にここは白い壁の四角い部屋で自分はもうとっくに狂ってしまっていた患者なのかと危惧していた。だが徐々にそうではないことも確信できつつあった。紛れもない現実だ。
大好きなハンバーグの味も分からないまま食事を済ませ、再び部屋に戻ると携帯電話が鳴る。自動的な動作でそれを手に取ると着信は松倉からだった。
「もしもし?あのさ…なんか今日、ゴメンな」
松倉の声は少し沈んでいて、いつものおどけた感じは一切なかった。だけどそれが一層事態が深刻なものであるという不安に拍車をかける。
その克樹の不安が伝わったのか松倉は懸命にフォローを入れてくれた。
「大丈夫だって。嶺亜って見た目どおりおっとりふんわりしてるしそんなに気にしてないと思うよ。照れ隠しだってことも充分分かってるだろうからさ。俺達もからかったりして悪かった。ホントこの通り。ごめん」
「そんな謝られることじゃないよ…僕もムキになって何も考えずに思ってもないこと言い返しちゃったから…」
そう、反省すべきは自分だ。いくら動揺してたからってあんな思ってもないことを言ってしまうなんて…
今更ながらにひどい自己嫌悪に陥り、克樹はその夜ろくに眠ることができなかった。せめて明日は何か謝罪の一言でも言わなければ…それを考えるうちに空が白み始めてくる。
寝不足でフラフラ状態であることが逆に幸いして放課後まであまり余計なことを考えずに過ごせたのだが、無情な現実が克樹を待っていたのだった。

52 :ユーは名無しネ:2015/06/21(日) 21:08:18.82 0.net
「ちーっす」
「こんにちはー」
村木と一緒に更衣室に入ると、すでに何人か来ていた。その中に嶺亜の姿もあった。
何か話しかけなきゃ
まずは昨日の非礼を詫びて、それから何か当たり障りのない話題を振って、それから…
脳みそをフル回転させてどうにか計算が終了し、固唾を飲みながら嶺亜に歩み寄ろうとしたその時…
「ねえ颯、ジュース買いに行くから付いてきて」
ふいっと嶺亜が自分から目を反らしたのを克樹は感じてしまった。背を向けられ、話しかけて来ないでと言わんばかりの近寄りがたい空気が嶺亜から放たれている。
勘違いじゃない。その証拠に戻ってきてからも嶺亜は一度も克樹と目を合わせてくれなかった。
嫌われた…?
その可能性が脳裏を掠めただけで、全身から体温が奪われていく。足に力が入らなくなり、何も考えられなくなってしまう。
克樹はただ茫然と立っていることしかできなかった。


つづく

53 :ユーは名無しネ:2015/06/22(月) 01:23:51.90 ID:0zsyd8OgG
>>48
ドグラ・マグラですねブゥゥゥ―――ン

54 :ユーは名無しネ:2015/06/25(木) 21:18:13.47 0.net
んんん
れあたんドキドキ

55 :ユーは名無しネ:2015/06/26(金) 22:52:06.50 0.net
レスしたはずが反映されてなかった

>>48のブゥゥゥ―――ンはドグラ・マグラですね

56 :ユーは名無しネ:2015/06/28(日) 20:15:39.99 0.net
日曜ドラマ劇場「それを恋と呼ぶ日」


「なあおい、そんな気にすんなって。気のせいだって」
帰り道、茫然自失の克樹を村木が必死に慰めてくれたがその声は克樹の耳には届かなかった。目の前が真っ暗になったかのような絶望感。生きていることすら苦痛なくらい押し潰されそうになって自分が歩いているのかそうでないのかも曖昧になるくらいだった。
「嫌われたとかねーから。多分、向こうもちょっと気まずいんだろ。俺達がからかったりしたから。数日経てば元通りになるって。だから…」
「でも…今日は一言も話してくれなかったんだよ?」
自分の声が震えているのが分かる。あともう少しで崩れ落ちてしまいそうになるのを寸前でこらえている状態だ。精神のバランスは危ういところで留まっている。
「いや先輩後輩なんだし無二の親友とかじゃねーんだから話さない時くらいあんだろ。俺とお前が一言も口きかなかったらゆゆしき事態だけどよ。他の先輩とも喋らない日くらいあるじゃん」
そう言われても、他の先輩に関して克樹はしゃべったかそうでないかなんて日々気にしていなかった。つまりはそれだけ自分の関心が嶺亜に一点集中しているということだが…
「だから気にしすぎ。俺らも悪かったよ。お前のことからかったりしてあんなことになったからさ。もう言わない。ゴメン、悪かった」
手を合わせて村木は申し訳なさそうに謝ってくるが克樹は別に彼らのせいだとは全く思っていない。確かにからかわれるのは困るが問題はそこじゃない。
自分の気持ちが周りにバレるのが恥ずかしくて、思ってもないことを言ってしまった自分にどうしようもなく腹がたったのだ。

57 :ユーは名無しネ:2015/06/28(日) 20:16:42.77 0.net
なんであんなこと言っちゃったんだろう…
例えあの時嶺亜に聞かれていなくても、きっと今と大差ないくらいに気分は優れなかっただろう。自己嫌悪が渦巻いてサイクロン状になってしまっている。情けなくて涙が出そうになった。
「とにかく明日は俺も一緒に謝るから。な、元気出せよ!」
これ以上落ち込んだ素振りを見せると村木にまで心配かけてしまう。それは嫌だったから克樹は気力を振り絞って前向きな顔で頷いて見せた。
だけど家に帰って一人で部屋にいると救いようのないネガティブに襲われる。何も手につかないし食事すらまともにできない。だけど精神も肉体も疲弊しきっているから意外にも眠りにはあっさりと堕ちた。
そこで夢を見る。

木があった。
それはサクラの木のように思えたが花は咲いておらず、枯れたようなくすんだ色の葉がついている。
その木の下に克樹はいた。
「…」
手に何かが握られている。柔らかい、布のような何か…
ハンカチだ。
柄はぼんやりとしていてはっきりと認識できない。だけど不思議な確信があった。
このハンカチを嶺亜に返さなければ。「あの時はありがとうございました」って…
だけど、あれ?このハンカチは嶺亜に貸してもらったものだったっけ?それとも代わりに買ったものだったっけ…?
考えているうち、向こうに人影が見える。

58 :ユーは名無しネ:2015/06/28(日) 20:17:15.78 0.net
嶺亜だ。
行かなきゃ。克樹は考えるのをやめてその布を握りしめたまま走り出した。
「…?」
だけど足が思うように動いてくれない。まるで重力が違う星にでも行ったかそれとも水中を走ろうとしているかのようにもどかしいスローモーションのような動きしかできない。
そうこうしているうちに嶺亜と思しき影は遠ざかって行く。
待って
そう叫ぼうとしたが声が出ない。発したはずの声は空気に溶け込んでいく。
狂いそうなほどにもどかしく、克樹は唇を噛みしめながら手を伸ばす。
伸ばした先に何かが触れた。
「あ…」
この感触を自分は覚えている。忘れるはずもない。柔らかくて温かい、優しさすら感じるその感触を
「嶺亜くん…?」
その手は嶺亜のものだ。だけど嶺亜は向こうを向いていて、その表情は見えなかった。
そこで目が覚めた。

「…」
けたたましい目覚まし時計のアラームによって半強制的に覚醒を促された。
克樹の脳はまだ半分夢の中を彷徨う。自分は今どこにいてどういう状況なのかが完全に理解できていない。
ぼんやりと意識がクリアになってくると、朝が来て今から学校に行く支度を始めないといけないといういつもの習慣が戻ってくる。そこでようやく身体を起こした。
自動的に朝食を口の中に放り込んでいると次第に現実問題がジワジワと蘇り始め、体温が下がってゆく。
そうだ、僕は今嶺亜くんに嫌われている最中だった…
それを再認識すると食べ物が受け付けなくなってくる。吐き気すらもよおしはじめ、克樹は洗面所へと走った。
「…はぁ…」
鏡の中の自分を見やるとなんとも情けない顔をしていて余計に気が滅入ってくる。なんとも救いようのない気分で玄関を後にすると、門の前に誰かがいた。

59 :ユーは名無しネ:2015/06/28(日) 20:17:59.27 0.net
「よ。おはよ」
松倉だった。顔色を窺うかのように上目遣いの視線を送ってくる。
「あ、おはよ…」
掠れた声しか出せないでいると松倉は眉根を寄せる。
「なんか…本当ごめんな。こんなことになるなんて思ってもみなかったからさ…」
村木と同じように、松倉も頭を下げてきたが克樹の答えは決まっている。
「別にまつく達のせいじゃないよ。僕が動揺して口からでまかせ言っちゃっただけで…」
「あのさあのさ、俺考えたんだよね昨日。このまま気まずいのも嶺亜だって絶対嫌だと思うし…今度の休みにさ、ダンス同好会みんなでバーベキューとか行かね?大自然の中に包まれれば自然と仲直り…なんちゃって!」
珍しく松倉が気を遣ってくれているようだった。少し無理して明るく装っている感じがしたから気にしていたのかもしれない。村木の時と同じく、これ以上周りに心配をかけたくないから克樹は頷いた。
そして放課後…
「僕その日歯医者さんだからぁ」
無情な答えが嶺亜から返ってきた。誘った松倉も次の一手を全く考えていなかったから動揺してどっかの誰かさんみたいに汗だくになっている。克樹はというと、相変わらずそれを遠くでしか見ていられなくて情けなさに拍車がかかる。

60 :ユーは名無しネ:2015/06/28(日) 20:18:33.58 0.net
「あ、じゃ、じゃあ空いてる日あったら皆で映画とか!嶺亜映画好きでしょ?スターウォーズ観に行こうよ!」
すかさず颯がフォローを入れてくる。彼もまた克樹を気遣ってくれているようだった。
だが…
「スターウォーズ今やってないよぉ。それに、映画こないだ一緒に行ったばっかじゃん颯。途中で寝ちゃって俺には映画は向いてないって言ってなかったっけぇ?」
またも克樹の頭に岩石が落ちてきた。いつの間に颯と嶺亜は二人でお出かけする仲に…もしや二人はもうすでにふうれあだというのか…?そうなのか…?
「あ、じゃあ嶺亜の好きなこととか行きたいところでいいからさ!そんなのないの?」
「まつくもなんかおかしいねぇ。普段は僕のことあんま誘わないしぃ遅刻するからって非難してくるじゃんどういう風の吹き回しぃ?」
だんだんと嶺亜の表情が怪訝なものになっていく。もうこの時点で克樹のメンタルはズタボロだった。きっと察しているんだ。だからこその拒否なんだ…そうなんだ…
気を遠くに飛ばし、暗黒の淵に墜ちているとレッスンが始まってしまう。だが当然ながら振付に集中できず散々な有様だった。
前までならこういう時、振りの確認を迷わず嶺亜にお願いしていたのだが今はそれができない。
話しかけようとしても、拒まれるのが怖くてそれ以上身体が動かない。理屈ではこのままじゃダメだって分かっているのにどうしても一歩踏み出すことができないでいた。
このままもう、話すこともできなくなるのかな…
途端に世界が色褪せて見える。そう、まるで今朝の夢に出て来た木の葉のように。

61 :ユーは名無しネ:2015/06/28(日) 20:19:58.95 0.net
帰り道、克樹は十字架を背負いゴルゴダの丘を目指すキリストのように重々しい足取りで歩きながら思う。
恋をすると楽しいことばかりじゃないんだ、と。
やきもちや焦りは経験したけど、今回のように些細な行き違いで誤解を生んでしまって気まずい思いをすることは初めてで、後悔もそうだが自分の未熟さにただただ呆れるばかりだ。いくら動揺したからって…
「…」
克樹は足を止めて、街灯の下で自分の手を見つめた。
あの時握った嶺亜の手の感触がまだ鮮やかにこの手に残っている。夢の中でも鮮明に思い出せるほどに
繋いだ手を離したくない。強い想いはまだ自分の中に存在していた。



つづく

62 :ユーは名無しネ:2015/06/30(火) 17:41:14.03 ID:cVdMQKbLY
作者さん初めまして!3年前くらいからひっそり読ませてもらってます。それぞれのキャラがきちんとたっていて、いつも素晴らしいお話に感動しきりです。これからも楽しみにしてます!

63 :ユーは名無しネ:2015/07/03(金) 00:47:30.48 0.net
作者さんんんん!
いつもありがとう!
昔からずっと大好き!
規制でなかなかお礼書けないけど全部読んでるよ!

64 :ユーは名無しネ:2015/07/05(日) 22:20:05.25 0.net
日曜ドラマ劇場「それを恋と呼ぶ日」


「…よし!」
両の頬をパン!と自分で叩いて喝を入れ、克樹は玄関を出た。
昨日の晩、悩みに悩んで出した結論はこうだった。
今日は何がなんでも一言交わそう。
時間が経ってしまったがあの時のことも謝って、きちんと説明をして誤解を解こう。できるかどうか自信はないがやるしかない。自分に言い聞かせて一歩踏み出した。
「本高?おいどうした?24ページ音読しなさい」
授業には集中できず教師が怪訝な顔をしても、クラスメイトが不思議がっても、村木が心配してきても克樹はその日放課後までずっと頭の中でシュミレーションし続けた。ありとあらゆる反応を予測して対策をたてる。
嶺亜くんがこう返してきたらこう…話を聞いてくれなさそうな時はこう…実に何パターンもめぐらし最善の策をたてる。そうして放課後を待った。

65 :ユーは名無しネ:2015/07/05(日) 22:20:37.19 0.net
HRが終わると祈るような気持ちで克樹はダンス同好会に向かう。
普段よりも足取りが重いし、心臓が変拍子を売っているのも自覚できた。極度の緊張状態だ。
更衣室の前に立つと一度だけ大きく深呼吸をする。
よし
行くしかない
そう強く言い聞かせてドアノブを捻って中に入った。
「こ…こんにちは」
早くも声がうわずってしまったが怯んでいる暇はない。無理矢理緊張を押し殺して中に入るともう何人か来ていた。
「本高どうしたの?顔が強張ってるよ」
「え?あ、そう?今朝の洗顔フォームが悪かったのかな…」
颯の問いにも適当に返事をして克樹は嶺亜を待つ。HRが長引いているのかなかなか来ない。そうこうしているうちにレッスンが始まろうとしていた。
「…あれ…」
嶺亜は来ない。一向に来る気配がないまま30分が過ぎる。いくらなんでも遅すぎやしないだろうか…
まさか休み?だけど昼休みに遠巻きに見た気がしたから今日は来ていると確信してやってきたのだが…
気になりだした頃、松倉が察してくれたのかこう耳打ちしてくる。

66 :ユーは名無しネ:2015/07/05(日) 22:21:10.15 0.net
「本高…嶺亜暫く忙しいから同好会来れないって言ってたんだけど…」
「え?」
「あいつさ、スケボーやってるからその大会に出るのが決まったみたいでその練習が忙しくなるんだって。うちの同好会の次の予定は秋の文化祭だしさしせまって他の舞台もないからそっちに集中するって今日のお昼食堂で会った時言ってた。だから今日は…」
「…そんな…」
嶺亜はスケボーをやってるのか…という新しい情報を得た喜びなど掻き消されるくらいの木枯らしが克樹の中を拭きぬけて行った。
暫く来ない…ということは暫く会えないということだ。
会えない
その四文字が強烈に精神に負荷を与えた。目の前が文字通り真っ暗闇に染まり凍てつく冷気が全身を包む。まるで死刑宣告を受けたかのように一切の希望が失われてしまった。
まだ謝れてないのに
何も話してないのに
あの時、自分が放った言葉が嶺亜の中に残されたまま会うことも話すこともできないなんてそんな残酷な現実はない。

67 :ユーは名無しネ:2015/07/05(日) 22:22:23.45 0.net
泣きそうになっていると、松倉が肩を叩いた。
「そんな顔すんなよ。嶺亜言ってたぞ。お前があの時のこと気にしてたら気にしないでって言っといてって。だから…」
気にしないでって言ってた…
それってもう僕のことなんて気にもしてないってことの表れなんじゃないだろうか。拒絶されているのと同じなんじゃないか。
救いようのないネガティブ思考に支配されて、克樹はレッスン室を飛び出した。
今からでも嶺亜のところに行って話さなければ。
だけど、どこに嶺亜はいる?
焦燥感と冷静な指摘が交互に訪れて、克樹は立ち尽くす。会いたいのにどこにいるのかも分からない。連絡手段もない。もうすぐ学校は夏休みに入る。そうなると本当に会うことも話すこともできなくなってしまう…
どうしたらいいのか分からなくなり八方塞がりだった。。ようやく決心したのにこんなことになるなんて…
悔やんでも悔やみきれない。だけど悔やんでも仕方がない。全ては自分が招いたことなのだから。
そして、そのケリは自分でつけないといけない。
「まつく、嶺亜くんの連絡先教えてくれない?」
レッスン室に戻ると克樹は松倉に言った。


つづく

68 :ユーは名無しネ:2015/07/12(日) 20:26:23.28 0.net
日曜ドラマ劇場「それを恋と呼ぶ日」


「…」
松倉から聞きだした嶺亜の携帯電話番号にかけても、彼が出てくれることはなかった。留守電設定をしてないのかそれにもならないからメッセージも残せない。
しかし冷静に考えれば向こうは克樹の電話番号を知らないのだから、登録していない番号からかかってきたら警戒して出ないのかもしれない。そう思い直し、克樹は携帯電話を置いた。
部屋のカレンダーを見る。7月ももう半ば。土日を挟んでもうあと数日しか夏休みまでの登校日はなかった。夏休みに入ってしまったらそれこそ接点がなくなってしまう。
焦りだけが襲うが焦っても仕方がない。月曜日に学校に行って直接嶺亜の教室を訪れて話すより他はない。そう判断したが…
「休み?」
「うん。なんか昨日スケボーの練習中に足首痛めたかもしれないって用心のために医者行って学校は休むって。もうあと数日で夏休みに入るしこのまま休んでも問題なさそうだからってさっき嶺亜のクラスの友達が言ってた」
「そんな…」
松倉からそんな情報を得て、完全に克樹は八方塞がりになる。このまま二学期が始まるまで会えずに誤解も解けないままなんて…
どうして…
どうしてあの時、僕は…
また後悔の波が押し寄せる。どんどん追い詰められていく中で克樹の中には疲弊に似た諦めまでもが芽生え始めた。
所詮僕には人を好きになることなんて向いてないのかもしれない
嶺亜を知る前のように、誰にも関心を持たず一定の距離で接している方がずっと楽だし合っている気がする。誰にも心を乱されることなく勉強に集中して医者になりたいという夢を叶えるために努力している方が健全だし将来のためだ。
現にここのところ全く勉強に集中できないから親にも教師にも心配され始めている。ここいらでもうこういう余計な感情は立ち切って本来の自分を取り戻すべきだ。
克樹はそう自分に言い聞かせ、己を律する。だが理屈では分かっていても感情はそんなに簡単にコントロールできない。学校を終えて、予備校の授業を終えて家に帰る途中も相変わらず嶺亜のことが頭を離れなかった。

69 :ユーは名無しネ:2015/07/12(日) 20:27:03.05 0.net
初めて出会った秋の文化祭の日。心配してハンカチを貸してくれた優しい眼差し…
桜吹雪が舞う中で再会した時の嶺亜の美しい横顔…
ダンスを教えてくれた時のえもいわれぬ高揚感…
そして、天神祭で握った手の温もり…
何より、嶺亜を好きになって毎日があんなにも楽しかったという事実は消せない。きっとこの先もずっと色褪せることなく鮮やかに記憶に刻まれているだろう。
好きになったことを否定することなんてできない。
だからそこから逃げることは自分自身を否定することと同じだ。そんな気持ちを抱えたままで何をしても上手くいくことなんてないように思えた。
再び前向きな感情を取り戻しかけ、そろそろ家に着くであろうその時それはいきなりの不意打ちで視界に飛び込んできた。
「…!!」
克樹は思わず立ち止まった。
「嶺亜に会いたい」という気持ちが幻を見せたのかと一瞬頭をよぎる。眼を瞬かせてその可能性を探ろうとした。
だけどそれはすぐに払拭される。何故ならば…
「本高」
その声はしっかりと克樹の耳に届いた。まぎれもない嶺亜の声。それが眼の前の彼から発せられたことも認識できる。
街灯に照らされた嶺亜はやはり記憶の中にあるものと寸分違わぬ美しさを放っていた。白い肌、少しクセのある長めの髪、涼しげな目もとにすっと通った鼻、薄い唇…
何もかもが、克樹の精神を震わせてやまない。抗いがたいその魅力…
会いたかった
目頭が熱くなる。嶺亜が歩み寄ってこなければきっと自分の眼からはその熱い液体が零れ落ちていただろう。それが瞼に留まったのはその感情の昂ぶりよりも絶大な影響力が自分を揺るがしたからだろう。

70 :ユーは名無しネ:2015/07/12(日) 20:28:21.25 0.net
嶺亜はその薄い唇を動かす。
「ずっと電話くれてたんだね、ゴメンね出られなくてぇ」
そう言って嶺亜は自分の携帯電話を取り出した。
「知らない番号からだったから…出るに出られなくてぇ」
「すみません…僕…」
声が震えてしまっているのが自分でも分かる。やっと会えたのに、言わなくてはいけないことが山ほどあるのに、あんなにシュミレーションしたのにもどかしいくらいにそれは口から出て来ない。
言葉は全て空気に溶けてしまった飛散していってしまった。
代わりに、自分でも全く思ってもみなかった言葉が声となって出て行った。
「僕は…ずっと嶺亜くんのことが好きでした」
どうしてこんなことが突然自分の中から言葉となって出てしまったのか。克樹は自分でも分からない。きっとどう分析してもそれを証明することは不可能だろう。
ただ一つ言えることは、それが一番強い想いだったからではないかと思う。
何から説明してどう筋道だててとかはもう意味を成さなかった。唐突でも、脈絡がなくてもそれはもう嶺亜に伝わった。ぼんやりとそれを認識すると詰まっていた言葉は放出され始める。
「初めて会った時から…ハンカチを貸してくれたあの日からずっと僕は嶺亜くんのことが好きだったんです。嶺亜くんに会いたい一心でこの学校に入ってダンス同好会にも入って…毎日本当に楽しかった。嶺亜くんのことを好きでいられる毎日が…」
嶺亜は黙って聞いている。その表情から感情は読み取れない。それでも克樹は続けた。
「だけどその気持ちが伝わるのが怖くて、恥ずかしくて…自分でも思ってもいないことを言ってしまって…すぐに謝りたかったけど、拒絶されるのが怖くて…」
そこで、ギリギリ留まっていたものが溢れ出てしまう。涙が頬を伝う感触と、声が震えて上手く出せないことで克樹は自分が泣いてしまっていることに気付く。
「だけどどうしても、このままは嫌だったからなんとかして話したくて…まつくに嶺亜くんの連絡先を聞きました。それですっとかけたんです。でもやっぱり知らない番号からは気持ち悪いですよね、ごめんなさい…僕は…」
そこでこらえきれず、克樹は口に手を当てた。そうしないと嗚咽が漏れてしまいそうになるからだ。歯止めがきかないくらいに感情が暴走してしまってコントロールがきかない。
会えて嬉しい一方で、自分自身の弱さと情けなさを一番知られたくない人にこうして曝け出してしまっていることの苦しさが冷静さを奪っていく…
その辛さもまた、人を好きになったが故というならば受け入れなくてはいけないと分かっていてもどうなるものでもなかった。
だけど早くこんな自分をどうにかしないときっと嶺亜は困るだろう。その焦りがまた克樹を半分パニックに陥れる。過剰に早くなる呼吸をどうにかして抑えようと必死に歯を食いしばっているとその感触が頬を撫でた。

71 :ユーは名無しネ:2015/07/12(日) 20:29:08.40 0.net
なんだろう…これ…
ああ、これは布だ…柔らかい布…
意識の向こうでそれを認識し、知らぬ間にきつく閉じていた瞼を開けるとそれは目の前にあった。
ハンカチだった。
瞬間、デジャヴのようなものがかけめぐる。前にもこんなことがあったかのような…それが通り過ぎて行こうとする前に克樹の記憶の引き出しは開く。
そうだ。それは初めて嶺亜に会ったあの日…!
呼吸は止まる。一瞬の後、あれだけ抑えがきかなかった過呼吸は綺麗に吹き飛ばされてしまった。
「泣かないでよぉ」
少し困ったような表情で、嶺亜は言った。克樹はほぼ自動的に差し出されたそのハンカチを掴んだ。
「あのさぁ、本高ぁ…」
嶺亜は穏やかな口調だった。
「あの時、僕がなんで本高に声かけたかわかるぅ?」
「え…」
嶺亜の問いかけの意味が克樹には分からなかった…というよりはまだパニック状態は完全に去ってはいないから正常な思考力が戻ってきていない。必死にそれを手繰り寄せているとまるで独り言を呟くように嶺亜は克樹の答えを待たず続ける。
「なんとなくねぇ…あの文化祭の日、楽屋の外をウロウロしてたら僕の目にちょっとソワソワしてる子が映ったんだぁ。焦ってるみたいだし何してんだろぉってぼんやり見てたの。そしたらその子、いきなり階段から落ちちゃってぇ」
「…」
「綺麗な顔してるなぁって思ったら鼻血が凄くて僕びっくりして思わずハンカチ出しちゃったけどその後すぐに本番になっちゃったから名前も聞けなかったなぁって…。
そしたら何の偶然か同じ学校に入ってきて同好会にも入ってきてぇ。運命の神様が僕に微笑んでるのかと思ったよぉ」
「え…」
心臓の音が聞こえる。克樹はハンカチを握りしめていた。涙はとうのすでに止まっている。
「また会えるとは思ってなかったんだぁ。一目惚れした子にぃ」

72 :ユーは名無しネ:2015/07/12(日) 20:30:09.31 0.net
聞こえなかったわけではない。
理解できなかったわけでもない。
それでも、克樹は信じがたいその一言をもう一度訊き返していた。
「あの…今、なんて…」
いくら論理的に組み立てようとしても上手くいかない。さっきとは全く種類の異なる混乱が訪れている。と同時に頭の先からつまさきまでひどく熱を帯び始め…
熱はしかし次の瞬間に上限を超えた。
「二回も言わせないでくれるかなぁ…だからぁ…僕も本高が好きだったってことだよぉ」
少し恥ずかしそうに眉根を寄せて視線をそらす嶺亜のその顔は、今まで見たそのどれよりも愛らしかった。
克樹は自分の頬を後に青痣になるまでつねった。嶺亜が慌てて止めるまで渾身の力をこめて。
「何やってんのぉちょっとぉ…早く冷やした方がいいよぉ真っ赤になってるじゃん」
右の頬にじんじんと残る鈍い痛みは消えさる気配はなかった。
夢ではない。
これはまぎれもない現実だ。もしこれで夢オチだったら僕は作者を一生許さない。今すぐPCを叩き割りに行く。
「あの時、本高が村木やまつくからからかわれてるの聞こえてはいたんだけどぉ…なんとなく出ていきにくくて暫くドアの外で聞いてたら、本高があんなこと言うんだもん。僕ショックでさぁ」
「あ…」
「本高は知らないだろうけど、けっこう前から皆が本高は僕にだけ態度が違うみたいなこと言うしぃちょっと自分の中で期待してた部分があってぇ…
それが一気に現実に叩きつけられた感じがしてなんとなく同好会にも行きにくくなっちゃったからスケボーに逃げちゃったんだけどぉ…」
まるで紐が解かれるかのように色んな事実が嶺亜の口から語られる。その一つ一つを克樹は不思議な感慨を持って聞いた。
「集中してないからこの通り、膝ちょっと痛めちゃったぁ」
履いていたパンツの裾を嶺亜は上げる。そこには膝に巻かれたサポーターがあった。
「あ、だ、大丈夫ですか!?」
純粋に心配になってそう叫ぶと、嶺亜は慌てて人差し指を立てる。
「そんな大きな声出したら近所迷惑だよぉ。今何時だと思ってんのぉ」
「すいません…」
そういえば…克樹は気付く。予備校が終わってからだからもうかなり遅い時間だ。嶺亜はいつからここで待っていてくれたんだろう…

73 :ユーは名無しネ:2015/07/12(日) 20:30:43.98 0.net
腕時計の時間を見る。10時40分を過ぎていた。
「こんな時間…あの、僕送ります。こんな遅い時間に一人で歩くなんて危険ですから。家まで送ります」
これもまた、純粋な心配から出たのだが嶺亜は一瞬きょとんとして次に吹きだした。
「あのねぇかよわい女の子じゃないんだからさぁ。大丈夫だよぉ一人で帰れるってばぁ」
「いえ…あの…心配なんで」
「年下に心配されるとかさぁ…とにかくいいよぉ一人で帰るぅ。もう話したいことは話せたしぃ」
「でも駅までの道暗いし危ないから…嶺亜くんにもしものことがあったら僕は…」
「ちょっとー人の家の前でイチャつかないでくれる?」
突如として頭上から降り注いだ声に克樹と嶺亜は見上げた。そこには二階の窓から松倉が頬杖をつきながら若干呆れ気味にこちらを見ている姿があった。
「会話筒抜けなんだけどー。聞いてるこっちが恥ずかしくなるからそのへんにしときなよ」
「まつく…!まさか今の全部聞いて…」
「聞く気がなくても聞こえてくるんだから仕方ないじゃん。俺の部屋に聞こえるくらいだから本高、家の人に訊かれてるかもよー」
ニヤニヤ笑う松倉に、克樹は今更ながらに猛烈な羞恥心が沸き起こる。頭から湯気が出そうになり目眩までやってきた。それを必死に抑えてると嶺亜が冷めた目を松倉に向ける。
「嘘ばっかりぃ。最初から聞き耳たててた癖にぃ。悪趣味ぃ」
「それくらいいいじゃん。俺のおかげで仲直りできたしこうしてめでたく両想いになれたんだからさ」
得意満面の松倉の笑顔に、克樹は頭が豆腐のように真っ白になる。
「え?」
「恩着せがましいよぉ。まぁいいや。明日はちゃんと同好会行くからぁ。またねぇ」
事態についていけない間に嶺亜はさっさと駅に向かってしまった。追うことも去ることもできず疑問符を抱えたまま翌日を克樹は迎える。


.

74 :ユーは名無しネ:2015/07/12(日) 20:31:48.90 0.net
「俺は自分でしでかしたことの後始末は自分でちゃんとつけるポリシーだから」
ダンス同好会の更衣室の片隅で松倉は胸を張ってこう言い放った。
「まあ俺達がからかったことで二人がぎくしゃくしちゃったしこれは俺がなんとかするしかないって思ってさ。
嶺亜に本高から電話があるかもよって番号も教えてやったら直接話したいって言うから。予備校の終わる時間を本高のお母さんに聞いて、時間になるまでうちにいてもらったわけ。うちと本高の家が隣同士っていう設定がここで活きたわけだよなー」
「そういうこと…」
全て謎は解けた。教えたはずのない自分の家の前で嶺亜が待っていたのも、深夜近くまで待っていたと思っていたのも松倉の家にいたからで…符合したパズルを組み立て終わると克樹は全身から力が抜けていく。
「正直、まつくに聞かれるのは死んでも嫌だったけどぉ…まぁなりふりかまってらんないからぁ」
いちごオレを飲みながら嶺亜はちょっぴり不満げに呟く。
「俺って愛のキューピッドだよな!やっぱりまつくには小悪魔より天使の衣装が似合うよな!パルック頭に乗せよっかなー」
なんだか納得いかないが、しかし松倉には感謝するしかない。彼の計らいのおかげでちゃんと嶺亜と話をすることができたし、それに…
「僕に一目惚れ…」
今更だが、ふつふつとくすぐったいような恥ずかしいような照れ臭いような喜びが沸き上がってくる。
ハンカチを貸しにかけよってきてくれたのは僕に見とれていたから…桜の木の下で再会したのは運命というより他はない。ダンス同好会で親切に教えてくれたのはそこに気持ちが存在したからで…まじでHITOMEBOREなんだ。
「おい本高、涎垂れてる」
村木の指摘に慌てて口元を拭うと何もついていなかった。途端に爆笑がおこる
「…ってなんで村木がここに…」
最初は克樹と嶺亜と松倉だけで話していたはずなのにいつの間にか村木がいた。そしてよくよく見れば元太も颯も周りを囲んでいる。

75 :ユーは名無しネ:2015/07/12(日) 20:32:41.69 0.net
「もう公認でしょ、これは」
松倉が小悪魔の笑みを湛えた。
「コソコソつきあうのも可哀想だから俺からみんなに報告しといた。だからこれからは人目も憚らずイチャイチャできるということで」
「ちょっとまつく…!」
「まーいーじゃん。この夏はさ、お前も苦手なカブトムシ克服しろよ。嶺亜くんの名前つければ愛でられるだろ。昆虫も触れないような男はみっともないもんなー」
「む、村木…そんな二年も前のネタ…」
「夏が始まるし、両想いになったからって決して油断できないと思うよ。どっかのイケメンゴリラにダブルダッチの練習を通じて奪われちゃったりしないかちゃんと見とかないとね。さ、俺もリズム打ち練習しなきゃ。まつくもSHOCKで離れるからこれ以上世話もやけないだろうし」
「元太…?何を言ってるのかさっぱりなんだけど…」
「良かったね本高!嶺亜はいい子だから。ちょっと待ち合わせに四時間遅れたり、約束したと思ったら『歯医者忘れてたぁ』って帰っちゃったり一緒にディ○ニーに行ったら雨が降ったりでなかなか厳しいけど…
オムライスとひじきが好きで下の妹さんにすごく優しくてパパの誕生日にホットケーキミックスでバースデーケーキ作っちゃうくらいの父親想いの娘…じゃなくて息子だから。これからハッピーにね!」
「ちょ…颯…君はいつの間にそんなに親しく…」
色んな情報と現実が交錯して涙目になっていると、小さな咳払いが聞こえた。
「人の言うことにいちいち惑わされないのぉ。行くよぉ本高ぁ」
そう諭して、嶺亜は克樹の手を握って更衣室を出ようとする。後ろで「ヒューヒュー」とはやし声が聞こえたがそれを無視して嶺亜はずんずんと進む。
「…はい!」
克樹はその手を強く握り返した。すると、嶺亜も負けない力でぎゅっと握ってくる。それが気持ちの確かさを表しているようでとてつもない喜びが全身をかけめぐる。
誰かを好きになること…恋をすることが僕にはできないのかもしれない。
そんなことを思っていたのを今はひどく遠い昔のように感じる。だって今、こんなにも好きになれる人がすぐ側にいるのだから。
繋いだ手をもう離したくない。それを恋と呼ぶ日。確かな想いは今この手に全て凝縮されていた。



END

76 :ユーは名無しネ:2015/07/12(日) 21:25:43.71 ID:y8PVN+B5o
完結おめでとうございます。どうなることかと思ったけど報われてよかった…毎週この更新を楽しみに平日頑張ってました。また次回作があれば楽しみにしてます。

77 :ユーは名無しネ:2015/07/12(日) 22:40:16.19 0.net
長らくのお付き合いありがとうございました
次回より小品の楽屋劇場を挟み、長編に入ります

78 :ユーは名無しネ:2015/07/12(日) 22:57:50.51 0.net
作者さんお疲れ様でした!ぽんれあラブラブハッピーエンドな上時事ネタを入れてくるとは流石です…。ぽんさん良かったね!
あまりコメントはしていなかったのですがいつも見させてもらってます。次の作品も楽しみにしてます。

79 :ユーは名無しネ:2015/07/12(日) 23:31:07.79 0.net
作者さんおつかれさまでした
とってもキュンとしたしぽんさんの可愛さに悶えてました
次回からの更新楽しみを見います!
(岸家も書いてくれればうれしいです!)

80 :ユーは名無しネ:2015/07/13(月) 16:33:02.30 0.net
作者さんお疲れ様でしたぁ
可愛いぽんさんにきゅんきゅんでした
この夏はイケメンゴリラと仲良くするれあたんにんんんんんんんんん

81 :ユーは名無しネ:2015/07/13(月) 21:50:57.92 0.net
ガムシャラサマーステーション記念

ガムシャラ楽屋劇場「チーム我」


「…安西先生、バスケがしたいです…」
渾身のモノマネ、バスケット少年のバイブル『スラムダンク』の名場面である。三井寿は永遠の兄貴だ…田中樹はリスペクトもこめてその名場面を演じた。
「ぎゃーはっはっは!似てる似てるー!!って元がどんなだか知らなかったわ!でも似てるー!!」
両手を叩いて爆笑のジェシーの反応に満足感を得ているとガリガリ君を食べながらタオルを首にひっかけた増田良が目を丸くしている。
「何それ。安西先生って誰?ジュリーの恩人?」
「おいジュリーはやめろ。うちの上層部みたいだろ。全くこれだからシャニーは」
「あ、今シャニー・ヘデルをバカにした?もしかしてバカにした?」
「あ、気に入らなかった?これだからヘデルは」
「てか完全に馬鹿にしてるだろ!ああもう一曲歌うよ?無駄に美声で歌うよ?いいの?」
樹と増田が軽く戦闘態勢に入ってるとまあまあと陽気なアメリカン、ジェシーが二人を宥める。
「ジュリーもシャニーもやめろよ。このジェシーの顔に免じて」
「あ、今韻踏んだでしょ。ラップは俺の担当だから!お前は何も考えずキンキ歌ってろや!人のアイデンティティを奪うな!」
「WHAT?」
「ちょ、いきなり英語はズルくね?俺はラップでは歌えても文法はさっぱりなんだからな!おいシャニー!ヘブライ語で笑うな!余計にわけわかんねーだろーが!」
「ヘブライ語じゃないよ。アラブ語だよ」
「わかんねーことに変わりねーじゃねーか!」
「あーもううるさいなあゆっくり昼寝もできやしない」
むっくりと起き上がってきた森田美勇人はけだるそうに肩を揉んだ。さっきからなんだか邪魔なボディピローがあるなと思っていたら彼であった。

82 :ユーは名無しネ:2015/07/13(月) 21:51:39.22 0.net
「どうでもいいけどミュート、ヘアバンドしたまま寝てんの?」
「誰が消音やねん…じゃなくてカタカナ表記はやめてよ。ちゃんと美勇人って呼んでよ…」
「そうしたいのはやまやまだけどいちいち変換がめんどくさいって作者が横着…いやいや、その方がなんか一体感生まれないか?ジェシーにシャニーにジュリーにミュートに…」
「おおー言われてみれば。なんか俺までハーフになった気分!なーミュート?」
「だからカタカナ表記やめてってば」
「じゃあ俺は?」
またいきなりあらぬ方向から声がし始めた。大きな観葉植物だと思ったら人間だった。半澤暁がよっちゃんイカをモグモグしながら不満げにこちらを睨んでいる。
「半澤は半澤で良くね?」
「だよな。暁もなんだか違うし半澤は半澤」
「異議なし」
「てかそれしか呼びようがない」
四人一致で半澤のミドルネーム風ニックネームは却下されてしまった。半澤は不満顔だ。
「顔の濃さだったら俺もハーフっぽく見えないこともないと思うんだけど。ハンザーワとかアカツーキとか…美勇人どう思う?」
「それ外国語っぽく発音しただけじゃん」
「ハーフザーワでいいんじゃね?半分の澤でハーフザーワ!」
「いーねージェシー!アメリカンジョーク冴えてるねー!!」
「HAHAHA!!」
ぶーぶー文句を言う半澤を無視して束の間の休憩時間を過ごすと再び練習の時間になってしまった。

83 :ユーは名無しネ:2015/07/13(月) 21:52:15.80 0.net
「さーて。優勝目指していっちょ練習しますか」
美勇人がバンドをしっかりし直しながら呟くとジェシーが大げさな身振りで返す。
「いやいや現状一番遅れてるアナタがしっかりしてくんなきゃいけないでしょ。てかそのバンドの下に第三の目があってそれが開眼して超人的な能力放つとかしてくんない限りうちの優勝厳しいよ」
「それなんていう三只眼…ってこれ知ってる人どれくらいいるの?あまりに古すぎない?」
増田が半澤に振ると、半澤はぼそりと呟く。
「てかスラムダンクの時点で古いだろ…」
そして一番後列を歩きながら樹は思った。
「…この中で俺だけ身長180以下…やはり俺が目指すべきはミッチーじゃなくてリョーちんか…ドリブルこそチビの生きる道なんだよ!ってか」
またも『スラムダンク』の名言を口にしながら樹は今からでも身長が伸びるかもしれないと途中の売店でしこたま牛乳を買ったのだった。
そしてバスケ漫画といえば『黒子のバスケ』だろというツッコミは作者は受け入れない。何故なら読んだことがないからだ。『Dear Boys』もなんか違う。
チーム我、果たして今年の出来やいかに…。


NEXT→「チーム武」

84 :ユーは名無しネ:2015/07/14(火) 20:36:37.03 0.net
ガムシャラ楽屋劇場「チーム武」


「りんねはとっても忙しい…でも選ばれたからにはがんばらなきゃ」
楽屋の前で菅田琳寧はぐっと拳に力をこめた。去年はバックダンサーとして参加したガムシャラに今年はチーム入りさせてもらった。このチャンスを無駄にはしたくない。
幸いにもチームメイトは優しそうな人ばかりだから仲良くやっていけるはず。リーダーの岩橋も岸くんも優しくて頼もしいし同学年の高橋颯がいるし心強い。そう思いながら楽屋のドアを開けた。
「こんにちわー。うわっ」
「痛い…お腹が痛い…」
いきなり何かに躓きそうになって琳寧は焦った。危うく踏んづけるところだったがそれは蹲った岩橋だった。
「岩橋くん、大丈夫ですか?お腹が痛いんですか?りんねはとっても心配です」
背中をさすると岩橋は涙目で感謝の意を述べる。
「ありがとうりんね…ありがとう…正露丸持ってたらくれない?今日忘れてきてしまって…」
「すみません岩橋くん…りんねは滅多にお腹痛くならないので正露丸は持ってないです。役立たずですいません。とっても申し訳ないです」
「いいんだ…気にしないで。いつまで腹痛キャラやってるつもりなんだよって思われるかもしれないけど…なかなか治らなくて…」
「そんなこと思ってません。岩橋くんはとっても素敵な先輩です。りんねの憧れです。りんねも岩橋くんみたいに可愛い顔して意外とゴツい足してんだなとかとりあえずテロップつけてくんないとそのウィスパーボイスと奇跡のカツゼツの悪さ聞きとれないよぉ…
って作者に思われるようになりたいです」
「…?なんか悪口言ってない…?まあいいや…あいたたた…」
「あ、あいたたた谷村は谷村の持ちネタなのでやめた方がいいと思います。でないと益々負のオーラの餌食になりますから」
忠告を済ませると岩橋のために琳寧は楽屋のクーラーを弱めた。腹痛に冷えは大敵である。だが…

85 :ユーは名無しネ:2015/07/14(火) 20:37:28.58 0.net
「あれ…?なんだかとっても視界が悪い…」
途端に霧のようなものが目の前を白く染め始めた。それとともになんだか臭いが…
「誰クーラー消したの!?暑いよ。汗がまた噴き出てくるじゃん」
楽屋の隅にその霧を放つ物体が蠢いた…と思ったらそれは岸くんだった。琳寧は駆け寄る。
「大丈夫ですか岸くん。その汗尋常じゃないです。りんねはとっても迷惑…じゃなくて心配です」
「いいからクーラーつけてよ。でないと俺汗で蜃気楼作っちゃうから…」
「ごめんなさい岸くん。りんねにはできません。岩橋くんが腹痛でとっても苦しんでるので…」
「俺と岩橋どっちが大事なの。頼むからつけてよ。頼むから頼むからー!!」
岸くんは地団太を踏み始めた。
「岸くん…確か岸くんはもうすぐ20歳のはず。作者とほぼ同じタイミングで年を取るから分かるんです。とっても大人げないと思いませんか?…分かりました。じゃありんねが団扇で煽ぎますから」
仕方なしに楽屋にあった巨大団扇で岸くんを煽ごうとすると、団扇を動かしてもいないのにいきなり突風が吹いた。
「え…何これ。このとってもすごい風は一体…?」
恐る恐る琳寧が後ろを振り向くとハリケーンが起こっていた。その中心地にいるのは…
「岸くん!俺が岸くんの汗を吹き飛ばしてあげるから!!岸颯ジャスティス!!忘れられない夏にしようね!」
高橋颯だった。秘技ヘッドスピンで楽屋に何ヘクトパスカルか想像もつかない暴風を巻き起こし始めた。つくづく彼の身体能力には驚かされる。
しかしそんな呑気なことを思っている場合ではない。

86 :ユーは名無しネ:2015/07/14(火) 20:38:30.65 0.net
「ちょっと颯やめてよ。そんな風起こされたらとってもひどいことに…あ、岩橋くんがお腹おさえたまま宙に舞ってる。いいからやめ…あ、岸くんまで舞い始めた…
ああどうしよう…次はりんねの番なの…怪我したら「Rの○則」に出られなくなっちゃう…それはとっても困る…」
覚悟を決めたその時、風はピタリと止んだ。巻き込まれた岩橋と岸、そして発信源の颯の三人ともぐったりとその身を床に沈めていた。
「ったく何やってんだようっせーなーもー。静かにしろよお前ら。大人げねーな」
林蓮音が颯の延髄にロンダードキックをかまして気絶させたのだった。ブラックコーヒー片手に英字新聞を読みながらこちらを呆れた目で見ている。
「蓮音…ありがとうとっても助かった…」
「お礼はいいからちゃんとこの後の練習こなせよ。とっても忙しいかもしれないけどちゃんとやらねーと次から使ってもらえねーからな」
「はい…心がけます」
「それと基礎練は怠るなよ。できると思った時が危険だからな。去年それで怪我した奴いたから」
「はい。気をつけます」
「次の練習二時半からだから。遅れんなよ」
「分かりました…」
琳寧は思った。一番頼れるのは蓮音かもしれない、と。付いて行くならこの人だ。
そして倒れている岩橋と岸くんと颯を介抱しながら楽屋の掃除を始めたのだった。
チーム武、今年は最下位を脱することができるか…


NEXT→「チーム者」

87 :ユーは名無しネ:2015/07/15(水) 20:16:39.58 0.net
ガムシャラ楽屋劇場「チーム者」


「お姉さん、俺のスティックも握ってみない?なーんちゃってな!」
今日も絶好調。泣く子も腰を振るセクシー担当神宮寺勇太は今日も行く。今年もガムシャラの夏の舞台で大忙しだ。何せ対決の他に特別公演もある。目も回るほどの忙しさだ。
その日々の忙しさを癒してくれるものはやはり一つしかない。はからずも思春期男子。毎日のたしなみは忘れない。
「さーて、今日のオカズは…と」
ダンダンガタタンと微かに振動音を感じ、楽屋のドアを開けながらスマホを起動させようとするといきなり眼前を何かが物凄いスピードで横切った。
「うぉ、なんだぁ!?」
それはスティックだった。そしてその発射元は松田元太だった。
「おい元太、あぶねぇな!楽屋でスティック投げんなよ!」
「だってできないんだもんイラついてムカついてしょうがなくて…」
汗をしたたらせながら元太は呟く。その表情は苦々しく苦悩に満ちていた。
「まあまあお前は去年ブレイクダンスのチームだったから全く違う競技になって苦戦するのも分かる。どれ、頼れるリーダー神宮寺様がお前の息抜きにいいもの見せてやろう、こっち寄れ」
海よりも広い心で招き入れたが、元太は冷めた眼になる。
「そっちこそ去年経験してるくせに全然できてないじゃん。できてない上にハワイとか行っちゃって…人のこと言えないと思うんだけど。エロ動画見てる暇あったら練習したらいいのに」
年下からの辛辣な指摘に神宮寺は面喰らう。リーダーに対する敬意など微塵も感じられないこの不遜な態度…コイツこんなキャラだったっけ…

88 :ユーは名無しネ:2015/07/15(水) 20:17:40.26 0.net
「うっせーな俺だって一生懸命やってるもんよ!俺のスティック捌き見たか?三本目のスティックはもっと立派だかんな!」
「三本目が一番小さくて短いの間違いでしょ」
「うっせー!てめー表出ろやこのアダルトバナナ!」
「うわああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!」
やりあおうとしていると突然誰かの叫び声が炸裂する。元太と神宮寺が視線を合わせるとそこには顔面蒼白で頭を抱えた田島がいた。
いつも穏やかでおとなしい田島とは思えぬ取り乱しよう…これは何か一大事があったのかもしれない。元太と神宮寺は一時休戦して田島に駆け寄った。
「どうした田島くん!何があった!三日間オナ禁でもして禁断症状でも現れたか!?」
「田島しっかり!気を確かに!これ何本?」
神宮寺が下ネタを交えつつ背中をさすっても、元太が指を差し出しても田島は発狂寸前で呻いている。その嗚咽はダンダンダダダンと何かの音に遮られよく聞こえなかった。
「ジャスティス…俺のジャスティス…」
「ジャスティス?」
なんだっけ…なんか聞いたことあるような…神宮寺と元太が記憶の糸を辿っていると背後で声がした。
「ジャスティスってのは田島がいつも持ち歩いていた熊のぬいぐるみだろう」
羽生田が肉まん食べ食べ呑気に答えを導き出していた。ああそうだった、と手をぽんと叩きながら神宮寺は蹲る田島の肩を抱く。

89 :ユーは名無しネ:2015/07/15(水) 20:18:21.77 0.net
「おーおー田島くんよ、ジャスティスはお前のダッチワ○フだもんな!そりゃなくしたら哀しいよな!よし、俺らみんなで探してやんよ!だから落ち着けって」
「おや、あの熊にはそんな役割があったのか。獣○趣味か。変わってるなとは思ったがそこまでとは思わなかった。付き合い方を考えねば」
「おいはにうだ!人の性癖にケチつけちゃいけねーよ!お前だって嶺亜でフィニッシュしてんだろ!?それに比べれば獣○なんてまだまだ可愛いもんだろ!」
「アホなこと言うな!いつ俺が嶺亜でフィニッシュした!?何時何分何曜日地球が何回回った時だ!ん!?」
ダンダンダンダン…何かが響く中で神宮寺と羽生田は放送ギリギリの舌戦を繰り広げる。その間も田島はジャスティスがいないことで取り乱し右往左往している。
元太は「いいトシして熊のぬいぐるみとかアホか」と言いたくなるのを必死にこらえながらジャスティスを探すふりをし続けた。だが見つからない。
「ジャスティス!!ジャァスティイイイイイイイイイイイイイイイッス!!!!!」
いよいよおかしくなった田島は咆哮し、半狂乱になって楽屋じゅうを無茶苦茶に走りまわる。その間神宮寺と羽生田は「Jrの中で誰が一番精力絶倫か」という下ネタで盛り上がっており、元太はもう勝手にしてくれとモナ王をかじりながらダンススクエアを読み始めた。
いよいよ収拾がつかなくなった頃…
「なんぴとたりとも俺のドラムの妨げになることは許さん…」
誰かの低い呟きが聞こえたと思ったら田島がそいつの足元に沈められていた。

90 :ユーは名無しネ:2015/07/15(水) 20:18:58.34 0.net
その手にしっかり握られたスティック…立ち昇る湯気のような白い煙…その白煙の中から鋭い眼光が覗く。神宮寺と羽生田はそのあまりの狂気じみた迫力に「Jrの中で誰だったらギリでヌけるか」の談義を中断した。
そういえば…ダンダンダダダンと楽屋に入った時からずっとBGMのように鳴り続けたその音が今はぴったりと止まっている。
だがそいつの腕が再び動いた時…そのBGMは再開された。
ずっと一心不乱にドラムを叩いていたその男の名は萩谷慧悟。元HIPHOPJUMP…そんな肩書はどうでもいい。稀代のドラムバカとして密かに名を馳せる真性のキチ○イドラマーとはこの男のこと…
「ハイ。すいませんでした邪魔しませんので続きをどうぞ…」
正気を取り戻した田島は後頭部をさすりながらいつもの穏やか天然ボーイに戻って楽屋の隅でおとなしく瞑想を始めた。
「なあおい羽生田…ドラムとそいとげるAVとかってあったっけ…あるとしたら何ジャンルだ?」
「知るか神宮寺…あるとしたらさながらタイトルは『ドラムエクスタシー』とか『太鼓の達人〜叩いて握ってワタシのスティック〜』とかだろうか…いずれにしても特殊すぎて受注生産がいいとこだろうな…」
「一回くらいなら見てやってもいいかな…今後の参考のために…」
「よせ神宮寺…ああなりたくなかったらその一線は越えちゃダメだ。見ろあの目…あれはあっちの世界の住人にしか出せない狂気の色だ」
その後一時間にわたりひたすらずっとドラムを叩き続けた萩谷の半径3メートル以内には誰も近寄らなかったという。
チーム者、今年こそは優勝できるのか…


NEXT→「チーム羅」

91 :ユーは名無しネ:2015/07/16(木) 00:28:47.31 0.net
ヤッパリ萩チャレンジはキチ※イだったのか……

92 :ユーは名無しネ:2015/07/16(木) 20:44:45.12 0.net
ガムシャラ楽屋劇場「チーム羅」


「みつめるたぁ〜びにぃ〜こいぃ〜まよいもかぁ〜げもぉ〜ないぃ〜」
上機嫌で鼻歌を歌いながら中村嶺亜はパックジュースを抱えて楽屋のドアを開ける。
「練習お疲れ様でしたぁ。ジュース買ってきましたよぉ」
あたかも野球部の美人マネージャーかのような振る舞いで嶺亜は楽屋にいるチームメイトに声をかける。みんながこちらを振り向いた。
「ありがと嶺亜。気が利くな」
りんごジュースをさっと受け取り、爽やかな笑顔で松村北斗が髪をかきあげる。さながら大物俳優のような佇まいに思わずうっとりと見とれた。
「そんなことないですぅ…練習の後だから喉渇いてると思ってぇ…」
「分からないとこあったらいつでも言えよ。ターナーは大変だからな。きついかもしれないけど大事なポジションだから頼んだよ」
「はぁい」
北斗はこれまた優雅な仕草でりんごジュースを飲みながら何故か楽屋にあったアームチェアーに揺られながら『犬を手なずける百の心得』という本を読み始めた。
ああ素敵…『北斗の犬』のフザけた衣装が似合うのもきっと北斗だけだろう。彼ならば実写版『北斗の拳』ができるかもしれない。その時はユリア役をやらせてもらえるといいな…

93 :ユーは名無しネ:2015/07/16(木) 20:45:23.17 0.net
北斗が上半身裸で「ほわちゃあ!」とか「秘孔をついた…お前はもう、死んでいる」だの言っているところを想像しながら嶺亜は野菜ジュースを高地優吾に差し出す。
「高地くんお疲れ様ですぅ。今日はターナー、ミスばっかでごめんなさいぃ」
「気にすんな。雑雑言っちゃったし実際全然俺もできてないからな。サンキュー」
「そんなことぉ…」
この優しさ。優吾の優は優しいの優だよぉこれがリア充大学生の男の魅力…さすが周りのJr人気が高いだけはあるよぉ…真にいい男は同性からも好かれる男を体現しているよぉ
「あ、待って嶺亜」
次に行こうとする嶺亜を高地は呼び止める。
「皆の分買ってきてくれたんだろ。はい」
高地は財布から千円札を取り出して嶺亜に渡した。
「でもこれぇ…」
「いいっていいって。腐っても最年長なんだから後輩に出させるわけにはいかねえから」
さりげない大人の男の気配り…こういう男に女はコロっといっちゃうんだよぉ心得てるよぉ。B・Iシャドウ時代はオチに使われることが多かったのにいつの間にこんな大人になったのぉ高地くん。
作者が数年前初めて訪れた某平成グループのコンサートの前座で堂々と仕切っている様を見て「あのカツゼツの良さと持ち声の良さは羨望に価する」と評価しただけのことはあるよぉ舞台頑張ってぇ
るんるんと次に行こうとするとそれはちょっとした難関だった。

94 :ユーは名無しネ:2015/07/16(木) 20:46:15.44 0.net
「…そう。そんでさー聞いてよ颯。え?楽屋出て直接話しに来ればいいじゃんって?いやーでも遅れるとまたゴリ…慎ちゃんに怒られるからー」
ラテンのノリで陽気に電話するカウアンだった。電話の相手はもちろん颯だ。颯は嶺亜の数少ないJr内での親友でもある。最近では奪い合いしてるんじゃないかとファンの間でも囁かれているが…
「カウアン、はい青汁ぅ」
電話に夢中のカウアンに青汁を差し出すと彼はそれを自動的に飲み、次に吹いた。
「グッファア!!てめフザけんな!なんじゃこのマズいジュース!!いやがらせかこの女郎蜘蛛がああ!!」
「あ、ごめーんカウアンこういうの好きかと思ってぇ」
「ちょっと颯聞いてくれる?嶺亜が俺に青汁飲ませたんだけど!え?嶺亜に悪気はないって?なんでお前はそんなに純粋ピュアピュア南アルプスの天然水ボーイなんだよ悪気しかねーよこの女狐は!
あ?怒らないでやってくれって?なんで毎回そんなかばうわけ?だいたい嶺亜は…」
とりあえずしてやったりぃ…と思いながら次へ行こうとすると電話しながらカウアンはカポエイラをしかけてきた。格闘技マッチョ厄介すぎぃ…と一応携帯しているスタンガンのスイッチを入れかけると救いの手が差し伸べられる。
「やめろカウアン。嶺亜に手を出すのは許さない」
出たぁ。真打ち登場だよぉスノープリンスだよぉ白馬の王子様ならぬ白雪の王子様慎ちゃんこと森本慎太郎(昨日でやっと18歳)だよぉ。
「慎ちゃん…カウアンを責めないであげてぇ。ストレス溜まってるみたいだからぁしょうがないよぉ」
「嶺亜なんでお前そんな優しいんだよ…まあいいや、今回は許すけどちゃんと真面目に練習やんねーと今度こそカメラの前だろうがなんだろうが遠慮なく俺はキレるからな」
カウアンはまた電話で「ゴリが嶺亜ばっかり贔屓する」と颯に愚痴り始めた。それを横目に嶺亜は両手でMei○iの牛乳を差し出す。

95 :ユーは名無しネ:2015/07/16(木) 20:47:16.67 0.net
「慎ちゃんはいどうぞぉ喉渇いてるでしょぉ。カルシウム摂ると体にいいと思ってぇ。なんか売店の牛乳よく売れててこれが最後の一本だったんだぁ。よりマッチョになれますようにぃ北斗の拳が実写化されたらラオウかトキやってねぇ」
「サンキュ。嶺亜…サマステ終わったらサーフィン行こうな」
キラリと光る白い歯に眩しい笑顔…こういう「昭和風イケメン」って実は全方位でウケがいいんだよねぇああ素敵ぃ…
「うん…楽しみにしてるよぉ。昨日日焼け止め1ダース買ったからいつでも誘ってぇ」
「サーフィンの後は花火でもしようか。浜辺でバーベキューもいいな」
「そうだねぇ…夜は星を見ながらスノープリンス時代を語り合うのもいいかもぉ…」
慎太郎に寄り添いながら嶺亜は恍惚とした表情でパインジュースを口にする。
去年のチーム者では得られなかったものがチーム羅にはある。
マッチョ系ゴリゴリイケメンズの中に咲く一輪のかすみ草…それが嶺亜だよぉ作者も去年は行けなかったけど今年はサマーステーション行くよぉ足腰鍛えながら楽しみにしてるよぉ後は台風が来ないことを祈るばかりだよぉ
チーム羅、今年も優勝できるか…


NEXT→「チーム覇」

96 :ユーは名無しネ:2015/07/16(木) 21:33:36.84 0.net
犯罪者 中野隆一「なかのりゅういち」
美容室 ブルーム コスタ 赤羽 デコラ 池袋 カレン 川口 社長
上記人物はお客様の事を偽証申告して逮捕状をとる
共犯 遠藤孝輔「えんどうこうすけ」
意識の革命家 ザーマスターキーIII
美容師 美容院 中野隆一の店 フジテレビ 荒川区在住
散髪 ヘアメイク ホットペッパービューティー とらばーゆ
タウンワーク アシスタント レセプション

97 :ユーは名無しネ:2015/07/17(金) 04:14:55.88 0.net
チーム羅待ってましたー!羅サーの姫れあたん最高…。日焼け止め1ダースワロタ

98 :ユーは名無しネ:2015/07/17(金) 20:32:29.06 0.net
ガムシャラ楽屋劇場「チーム覇」


俺はJrの長男坊、安井“永遠の18歳”謙太郎23歳。あと数日で24歳。人生の一大事を迎えている。
楽屋内には俺の他に4人「チーム覇」のチームメイトがいる。当然ながら俺が最年長。ていうか二番目とも6歳差だ。最年少とは…数えたくない。
いくら俺が童顔でも中身はもう社会人である23歳だ。市役所の窓口にいてもおかしくないしファーストフード店の副店長としてブラックにこき使われていてもおかしくない。Jr歴も断トツ長い。そんな俺がチームのためにできることとは何か…
「安井くん、安井くん」
肩を叩かれ、ふりむくとそこにはひょっとこがいた。何故Jrの楽屋にひょっとこ…しかもかなり精度が高くてリアルだ。不思議に思って凝視しているとそのひょっとこはいきなり吹きだした。
「ちょっと安井くん!人が渾身のモノマネしてるのに真顔はやめて下さいよ!逆に笑えてくるじゃないっすか!!」
ひょっとこだと思ったのは宮近海斗だった。どうやらモノマネで場を和まそうとしてくれたらしい。
となると俺の取るべき反応はただ一つ。
「なーんだそうだったの!あまりに似すぎて本物のひょっとこが現れたのかと思ったよ!ほーんと宮近って面白いな。今度俺にもそのひょっとこのモノマネ教えてくれよ!!」
殊更陽気にそう返すと宮近の顔は何故かひきつった。
「ひょっとこじゃなくてベッカムのモノマネなんすけど…」
マズい。これはマズい。傷つけちゃったかもしんない。チームが一つにならなければいけないっていうのに俺としたことが…

99 :ユーは名無しネ:2015/07/17(金) 20:33:17.02 0.net
となれば助けを求めるのも一つの策だ。俺は宮近の隣で「週刊プレイボーイ」を読んでいる阿部顕嵐に声をかけた。
「いやーまいっちゃったなこれ…ねえあらん!ひょっとことベッカムって一見似てるよな?お前もそう思うだろ、な?あらん?」
「いえ全く思わないですね。バナナとリンゴくらい違います」
サイボーグのような答えが返ってくる。陽気かと思ったら真面目。真面目かと思ったらやらかす。顕嵐という男を俺はまだ測りかねている。優しくていい奴だが時々血が通っていない感じがするのが…
いや、そんなことを言っていてはダメだ謙太郎。この二人には中堅として頑張ってもらわねばならない。マッチでーすのコンサートを控えて忙しい中、やったこともないインラインスケートにてこずっているんだ。なんとか和ませてやらねば…
「そだ、今度チーム覇で牛丼食いに行こう!安井くん奢っちゃうよ?吉○屋でもす○屋でも松○でもどんと来い!みずきとはしもっちゃんも予定空けといて!」
これはいいアイデアだ。やはりお前は頼れるリーダー安井謙太郎。これから夏を一緒に乗り切るメンバーとメシ…これは結束力を高める定石だ。
まずは飯を食いながら語り合う…そこから芽生える年齢差を超えた友情…チーム覇はこれで一丸となり優勝を目指すんだ。まさに青春漫画そのものだ。イイ!これはイイ!ナイス謙太郎!
「牛…丼…?」
それまで真面目にインラインスケート講座のDVDを楽屋のテレビで見ていた井上瑞稀がその大きな目を更に見開いて振り向いた。
瑞稀はまだ14歳の中学三年生。正直ジェネレーションギャップはあるだろうがこの夏を通じて「みずたん」「けんたん」と呼び合う仲になれる。少なくとも俺はそう思っている。そして俺のこの想いはきっと瑞稀にも通じているはずだ。

100 :ユーは名無しネ:2015/07/17(金) 20:34:29.45 0.net
「そう!牛丼!やっぱ男ならガッツリ牛丼だな!みずき、何杯でもおかわりどんとこいだ!」
ばしっと背中を叩いて景気づけると瑞稀はいきなり震えだし、ぽたぽたと汗をしたたらせて俯き始めた。
「…?どうした瑞稀?牛丼嫌いなの?だったら他のものでも…」
「牛丼…牛肉…三か月ぶりの肉…」
「え?」
よく聞きとれなくて訊き返すと瑞稀はまるでうわごとのように呟き始めた。
「まさか再び肉にお目にかかれる機会があるなんて…生きててまた牛の肉がこの口に入る機会があるなんて…。最後に食べたのは確かロケ弁に入ってたわずかな野菜炒めの切れ端肉…?それとも滝沢歌舞伎の差し入れの肉まんのひき肉…?
もう長いこと家ではめざしやいわしなどの魚しか…ああ…」
「どうしたみずき…?し、しっかり…」
「きっと昔のJr仲間のあいつなら…「牛丼奢ってくれんの!?んじゃ俺店が潰れるくらい食いつくすからな!みずき、競争だぜ!夫婦でどれだけ食べられるか!」なんて無邪気に誘ってくるんだろうな。元気かなあ…くらもっちゃん…」
「あの…みずき…くん?」
「だけど俺だけ肉を食べるなんて…家にはお腹をすかした弟と俺にJrを続けさせるために日々節約して自分のご飯に麦まで混ぜてしのいでいる母さんと休みなく働く父さんがいるのに…。
いくら9歳年上の苦労知らずのボンボンのポケットマネーとはいえそんな簡単に肉を口にしていいものか…今年受験生なのにこれでバチが当たって不合格になりやしないか…そうしたら中卒で働くことになるし今のご時世まともな職につけるとは思えないよ…
Jrも続けられなくなるしこの夏でせっかく瑞稀推しになってくれたファンをガッカリさせてしまう…作者も悲しむ…そんなことになったら小学三年生から今まで頑張ってきたのが無駄になってしまうよ。それだけは…それだけは嫌だ」
「井上さん…あの…お気を確かに…」
「牛丼は死ぬほど食べたい…だけどこの誘いに乗るとJrを続けられなくなる…そういう結論が出た以上、俺は行くわけにはいかなさそうです。ごめんなさい、安井くん」
瑞稀は歯を食いしばり、血の涙を流しながら深々と頭(こうべ)を垂れた。

総レス数 707
1025 KB
新着レスの表示

掲示板に戻る 全部 前100 次100 最新50
read.cgi ver 2014.07.20.01.SC 2014/07/20 D ★