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神7のストーリーを作ろうの会part9

1 :ユーは名無しネ:2014/02/18(火) 13:31:52.50 0.net
終わることのない 神7 Story

363 :ユーは名無しネ:2014/10/14(火) 20:10:01.69 0.net
「次は上手くやろう。やはり電気ドリルは派手な音がするからダメだ。要は打ちつけてる釘さえ抜けりゃあ板は外れる」
「神宮寺、でも暫く時間置いた方がいいよ。今は先生にもマークされてるだろうから次は僕らだけで穴あけしてみてもいいかも」
なんという美しき友情…岸くんは涙ぐむ。最初は変な奴らだと思ったが友達思いのいい奴らばかりだ。
ならば自分も色々と協力できることがあればしなくてはならない。岸くんがそう言うと神宮寺は照れたように頭を掻いた。
「ま、2,3日はおとなしくしとくぜ。古文書に他にも何か情報らしいもんが記されてないかもう一度読み返してみてもいいかもしれねえしな」
「なるほど。三人寄れば…っていうし四人いればなおいいアイディアが生まれるかもね!んじゃ放課後に古文書を皆で解読しようか」
「岸くん頭良さそうには見えないけどまあ期待しとくぜ。んじゃ気を取り直してエロ本でもみっか。今日は特に厳選のやつ持ってきてっからそれを悦しみつつ…」
和気藹藹と教室に戻ってみれば、嶺亜が何やら古びた本を読んでいて、それを片手に神宮寺にちくちくと嫌味を飛ばして来た。
「今度は神宮寺ぃ?なぁにやらかしたのぉ?」
「うるせ。お前にゃ関係ねー。まぁたその怪しげな本読んでんのかよ。なんなんだよそれ」
「神宮寺には関係ないよぉ。文字読めないチンパンジーのくせにぃ」
「あぁ?字ぐらい読めらぁ。それに読むならこういう本をお前も読んでみろ、ほら!」
神宮寺は机の中にしのばせておいたであろうエロ本をばさっと嶺亜の机の上に広げた。見る間に嶺亜の表情が嫌悪感に染まる。彼はそれをはたきおとした。
「そんな汚らわしいもん置かないでぇ。最低ぇ」
「男ならむしろバイブルだろうがよ。まぁ魔女には分かんねえかなー」
「おい、やめろ神宮寺。そろそろ先生が来るぞ」
羽生田に諭され、神宮寺はエロ本を岸くんに手渡してきた。それをまた侮蔑の眼で見ながら嶺亜は本をしまって教科書を出す。
やれやれ…と岸くんが思っていると先生が入ってきた。
とりあえず真面目に授業を受けているフリを…と岸くんと神宮寺達は努める。いつものように一日が過ぎていくと思いきや事件は起こった。4限の体育の後である。グラウンドから教室に戻ってきた岸くん達はぎょっとする。
「なんだこりゃ…」
神宮寺の机の周りがめちゃめちゃに荒らされていた。机の中から鞄の中まで漁られ、エロ本がビリビリに破られて散乱している。
教室内がざわめく。異様な光景にみんなヒソヒソと耳打ちをし合っていた。これはまるで…
「何これ…いじめ…?ひどいよこんな…」
岩橋が怒りを露わにして険しい表情になって呟いた。中学生の時、自身もいじめのようなものに遭ったといつかの雑談で彼が語っていたのを岸くんは思い出す。だからこそ許せないのだろう。
「誰がこんな…」
羽生田が呟くと、皆の視線が一方に集まりだす。タオルで汗を拭きながら教室に入ってきた嶺亜である。

364 :ユーは名無しネ:2014/10/14(火) 20:10:34.57 0.net
「なぁに?…なにこれぇ」
嶺亜は神宮寺の机を見て首を傾げた。傍目には何も知らないと言った風だがしかし神宮寺が彼に歩み寄る。
「おい、なんだよこれ、タチ悪いにもほどがあんだろ!」
「はぁ?」
「はぁ、じゃねーよお前だろこんなことしたの。今朝の仕返しかよ!」
「何言ってるのか分かんないぃ。なんで僕がそんなことしなきゃなんないのぉ?」
嶺亜も睨みかえして反論する。この様子だと彼ではないのか…?と岸くんも判断に迷う。確かにいざこざはあったし仲は決して良くなさそうだがしかし…
「ふざけんなよ、お前しかできねーだろ。さっきの体育の途中トイレ行くっつって暫く戻って来なかっただろ!アリバイがねーだろお前には!」
そうなのだ。授業が始まってすぐに嶺亜は「トイレに行ってきますぅ」と言って校舎に戻って行った。やたら遅いなとは思っていたが…
「確かにトイレには行ったけどぉ…日焼け止め塗るの忘れてたからそこで塗ってたせいで遅くなっただけだよぉ。僕がやったって証拠にはならないでしょぉ」
「なんとでも言えんだろそんなん。女々しいことしてんじゃねーよ!」
なおもつっかかる神宮寺だが嶺亜は引かない。今にも掴みあいの喧嘩が始まるのではという緊張感が教室内に走る。それを羽生田が止めに入った。
「落ち着け神宮寺。状況証拠だけじゃ弱い。それに、騒ぎにすればまた先生から目をつけられる。ここは一旦引こう」
「僕はやってないからぁ」
嶺亜は羽生田を睨む。その視線をかわして羽生田は神宮寺の机の周りを片付けにはいった。岩橋もそれに倣う。次の授業が始まる頃にはもう何事もなかったかのように教室内は静けさを取り戻していた。
岸くんがふと見やった嶺亜の横顔は、氷のように冷たく張りついていて、そこから彼の心理を読み取ることはできなかった。


.

365 :ユーは名無しネ:2014/10/14(火) 20:11:04.34 0.net
谷村は久々に清々しい気持ちで昼休みを迎えた。ラーメンには卵が二つもついていたし、席もちょうど空いている。こんなにスムーズに食事ができたのはいつ以来だろう…。
歓喜に浸りながらラーメンをすすっていると颯と倉本もやってくる。颯は相変わらずのメロンパンづくし、倉本はカツ丼にきつねうどんと大盛りのチキンライスを抱えていた。
「はあ…」
珍しく颯が溜息をついていた。天真爛漫な彼が珍しい。倉本もそう思ったのかきょとん、とその大きな目をぱちくりとさせた。
「何、颯。溜息なんかついて。なんかあったの?」
「どうしよう…この気持ちは一体なんなんだろう…」
胸を掻き毟るかのような切ない顔をして、颯は呟く。楽天家の彼が見せる異様な姿に谷村も少し気になった。
「何かあったの?」
谷村がそう訊ねると、空いている隣の机に賑やかな4人組が座った。その中の一人を見て颯が表情を変える。
「き…岸くん!」
颯はガタッと立ち上がる。そしてその瞳が見る間に潤み出した。
岸くんと呼ばれたその生徒を谷村はどこかで見たような気がしたが思い出せない。記憶の糸を辿っていると4人組のうちの一人…嶺亜と同級生の神宮寺だ…はぶっかけうどんをズルズルかっこみながら何やら怒り心頭なご様子でこう喚いた。
「あーもうクソ腹立つ!!苦労して入手した極上ビニ本だったのに…!!嶺亜のヤロー」
嶺亜の名前が出たことによって谷村の意識はそっちに傾いた。神宮寺と嶺亜の折り合いが良くないことは知っている。いつの頃からかそうなのだ。
「なになに、れいあがどうかしたのかよ!ギャハハハハハハハ!!」
と、そこにバカ笑いで登場したのは栗田恵である。お盆にはオムライスが乗っていた。

366 :ユーは名無しネ:2014/10/14(火) 20:11:35.53 0.net
「れいあと二人で食べようと思ってよー探してんだけどお前らしらね?ギャハハハハハハハ!!」
食堂内に響き渡るガスガス声を放ち、栗田は訊ねてくる。しかし食堂内に嶺亜の姿はないようだ。
「知らねーよ!!俺のビニ本弁償するまで口きいてやんねー!あーもう…」
「あ?れいあがなんだって?」
栗田が首を傾げると、岩橋が補足説明をする。腹痛もちの彼は今日は梅がゆだった。
「さっき体育の時間の間に神宮寺の机がめちゃめちゃに荒らされてて…それができるのはトイレに立った嶺亜しかいないんだ。今朝ちょっと言い合いになったし…だから神宮寺怒ってて」
そんなことがあったのか…と谷村は内心頷く。ビニ本なんて嶺亜からしたら汚物そのものだろうしまあ気性が激しい部分があるからもしかしたら…と思っていると静かな声が響く。
「あ?れいあがそんなことするわけねーだろ」
さっきまでバカ笑いでへらへらしていた栗田の表情が真剣そのものになっていた。声もガスガスではなく低く抑揚のないものになっていて、それだけその言葉に真実味があるように思わせた。
「俺達だってむやみやたらと疑ってるわけじゃない。だけどあまりにも状況証拠が揃いすぎててだな…」
羽生田がそう言っても、栗田は頑として譲らない。
「ジョーキョーショーコとか知らねーよ。とにかくれいあはそんなことしねー。真犯人俺が見つけてやらあ」
きっぱりと断言して、栗田はオムライスを持って去って行った。
「…」
その後ろ姿をぼんやり見ていると、先ほどとは全く声色の違った消え入りそうな神宮寺の声が響いた。
「…俺だって別にあいつのこと本気で疑ってる訳じゃねーよ…」
ふと見ると、神宮寺はひどく悲しそうな眼をしていた。




つづく

367 :ユーは名無しネ:2014/10/16(木) 03:38:15.98 I.net
ちょっと見ない間に沢山更新されてる!作者さん乙です!
れあくりジャスティスだし真犯人が気になります、これは続きが楽しみ…

368 :ユーは名無しネ:2014/10/18(土) 21:11:54.29 0.net
神7シネマ劇場「放課後の楽人たち」


6限終了のチャイムが鳴り、HRもそこそこに放課後に突入する。岸くんは掃除当番に当たっていたので担当場所の社会科教室に向かった。
「あれ?」
教室には箒を手に誰かが先着していた。だけどここの担当は自分なんだけど間違えたかな…と思って近付くとそれは嶺亜だった。
「嶺亜?あれ?ここの担当俺じゃなかったっけ…?」
おそるおそる訊ねてみると、予想もしない答えが返ってくる。
「…こないだ代わってもらったから今日は僕がするよぉ。だから岸は帰ってぇ」
素っ気なく言って、嶺亜はまた箒を動かす。岸くんは茫然と立ち尽くす。
神宮寺達が「あいつが約束を守るわけがない」と言っていたから岸くんもそんな約束はすっかり忘れていた。だけど今、こうして…
なんだか岸くんには良く分からなくなった。確かに嶺亜は二面性が激しくて、ズルくて、少々エキセントリックな趣味があってついていけない部分が多いけど実はそんなに悪い子じゃないんじゃないだろうか…。
神宮寺達と折り合いが良くないのは何かタイミングが悪いとかで、その歯車さえ噛み合えば仲良くなれるんじゃないか、そんな気がした。
そこに思い至ると、岸くんは雑巾を手に取った。

369 :ユーは名無しネ:2014/10/18(土) 21:12:29.44 0.net
「…何やってんのぉ?」
「二人でやった方が早く終わるし。忙しいんでしょ?儀式?実験?それ今日もするんでしょ」
机を順番にぎしぎし拭いていくと、嶺亜は再び箒を動かしながらこう呟く。
「今日はやんないよぉ。暇だからぁ…だから掃除しに来ただけぇ。先生に『嶺亜が約束を守ってくれない』って言いつけられたら厄介だからぁ」
素直じゃないなぁ…と岸くんは浅い溜息が出たがこれも嶺亜の性格の一部なのかもしれない。まずは相手を知ることから。岸くんは言った。
「言いつけたりなんかしないって。それに、俺の方が今んとこ圧倒的に先生の信用ないしさ」
冗談めかしたつもりだったが、嶺亜には皮肉に聞こえてしまったようだ。
「こないだ颯が化学室で暴れた時僕らだけ逃げたからねぇ。僕はズルいからねぇ」
「いや、そんな意味で言ったんじゃなく…」
「神宮寺のビニ本破ったのだって、僕しかいないしぃ。皆僕のこと疑ってるの分かるよぉ。あいつならやりかねないってぇ。岸だってそう思うでしょぉ?」
嶺亜の眼は少し悲しそうだった。岸くんが何か上手いフォローの言葉はないかと探っていると彼はしかし次の瞬間に全く違った色をその瞳に宿していた。
その燃えるような決意を孕んだ声が社会科教室に響く。
「誰にどう思われたって僕は気にしないよぉ。そんなことより僕にはやらなきゃいけないことがあるからぁ」
それが何かを訊ねる前に、嶺亜はさっさと箒で集めたゴミを片付けて、教室を出て行った。

.

370 :ユーは名無しネ:2014/10/18(土) 21:12:59.89 0.net
「はい?今、なんて?」
谷村はもう一度訊き返した。聞こえなかったわけではないが、理解が及ばない。
「だからぁ、今日はいいからぁ。勉強するなりゲームするなり好きに過ごしてぇ。じゃあねぇ」
「え、ちょ、ちょっと待って下さい。今日はいいって…絶好の儀式日和じゃないんですか?十五夜の満月出てるし、材料だって全て揃ってるし…」
「そうだけどぉ、なんか今日は気分が乗らないのぉ。そんな日にしたって上手くいく気はしないからぁ」
「…」
それ以上何も言えずにいると、嶺亜はさっさと寮の自分の部屋に戻って行った。
いつもやりたいことがあるのに儀式に付き合わされて、ろくに勉強もできなくて不満を募らせていたがいざ今日は何もしなくていい、と言われると急に手持無沙汰感が襲ってくる。
トカゲをつかまえたり、カエルをつかまえたり、野草や山菜やなんやらを調達してくるのは骨が折れるしくたびれるからもう嫌だと常々嘆いていたのだが…
何より、儀式中及び終了後の触れあいやシャワータイムが今日はないことが堪える。なんだかんだでこれが己の活力源になっている気がするからだ。
唖然としていると、再び部屋から嶺亜が出てくる。手には懐中電灯が握られていた。
「どこか行くんですか?」
「ブレスレットがどこ探してもないんだよぉ…もしかしたら昨日あそこで脱いだ時に落としてきちゃったのかもぉ。急いで服着たからぁ」
「あ、御供します」
「いいよぉ。取ってくるだけだしぃだいたいのめどはついてるからぁ」
そう言ってさっさと嶺亜は行ってしまった。谷村は溜息をつきながら自分の部屋に戻る。なんだか無気力になってしまって何もする気がおきなかった。

371 :ユーは名無しネ:2014/10/18(土) 21:13:31.61 0.net
「はあ…」
同室では、似たような溜息を颯もついていた。二段ベッドの上でなんかブツブツ言っている。
「これは…この気持ちはやっぱり…いやそんな…ああでも瞼を閉じるとその麗しい涙目と法令線と汗だくの姿がこんなに鮮やかに描き出され…」
なんか良く分からんがこいつはこいつで似たような悩みがあるもんなんだな…と谷村は少しだけ颯に親近感を持った。
「颯、何がそんなに苦しいの?誰のこと考えてんの?」
ベッドの下から何気なく問いかけてみると、深い溜息をついた後、颯は二段ベッドの上から顔を覗かせた。
「実は…ある人のことが頭を離れなくて…」
「ある人?誰それ?」
「…」
颯はモジモジしだした。見た目は爽やか好青年でAOKIのスーツが良く似合いそうだが中身は案外乙女なのである。ややあって彼はボソっと聞きとりにくい声で呟く。
「…くん」
「え?」
「…しくん」
「は?」
「…きしくん」
「え?きしめん?なんて言ったの?良く聞こえないんだけど」
「だから岸くんって言ってるだろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」
何度も言わされ羞恥心の頂点に達した颯は完全に我を失ってベッドの上で回りだした。後悔先にたたず。谷村は半泣きで部屋から逃げた。この勢いだと恐らくベッドに穴が開く。これではまた管理人に怒られてしまう…もうすぐ点呼の時間だから叱責は免れない。
今日は厄日か…?やぎ座の運勢は最下位だったのだろうか。暗澹たる思いを抱えながらとりあえずロビーに非難していると苦々しい表情の嶺亜が現れる。息が乱れていた。

372 :ユーは名無しネ:2014/10/18(土) 21:14:14.87 0.net
「どうしたんですか?」
駆け寄ると、嶺亜は方目を細めながら
「腕擦り剥いちゃったぁ…いったぁ…もぉ…」
見ると白くすべすべとした嶺亜の腕のあちこちに擦り傷が見えた。一体どうして…と訊ねると彼は言う。
「ブレスレット取りに行って、倉庫から出ようとしたらぁ…なんか誰かがいる気がしてぇ…懐中電灯で照らそうとしたらぁいきなり襲われそうになったぁ。
シャベル投げ付けてやったらヒットして怯んだからその隙に逃げてきたのぉ。おかげで伸びた雑草に当たってあちこちこんなになってぇ」
「だから俺が付いて行くっていったのに…危ないですよ、一人だと」
「幼稚園児じゃないんだからぁそんな格好悪いことできないよぉ。谷村のくせに子ども扱いしないでくれるぅ?」
「いえ、子ども扱いではなくて…そんなことより応急処置を…」
ロビーの救急箱を持ってくると谷村は消毒液を嶺亜に当てる。
「…っつ」
「あ、すみません。痛かったですか?」
「痛いぃ。もうちょっと優しくしろよぉ…あっ痛ぁ」
「すみません…優しく…こんな感じで…」
「痛いよぉ!…余計に痛いからさっさとしろよぉ」
「はい…すみません…もうちょっとですから…あれ…なかなか出ない…えいっ…えいっ」
「痛いってばぁ!突くなよぉもぉ」
なんだか会話の内容だけだと非常にエッチな感じだなぁ…と密かに谷村は興奮した。嶺亜の痛がる姿もなんだかそそられる…。しかしそんなことを考えているのがバレたらまた絶対零度だからできる限り表には出さず自然に振る舞い…
そこで嶺亜の冷たい声が飛んできた。
「谷村ぁ…そのズボンの膨らみはなぁに?」


つづく

373 :ユーは名無しネ:2014/10/23(木) 19:48:33.84 0.net
神7シネマ劇場「放課後の楽人たち」


寮の朝ご飯はトースト一枚にスクランブルエッグ少々、そして野菜サラダと牛乳である。充分といえば充分かもしれないが朝はきっちり食べたい岸くんには少々物足りない。
食にあまり関心のない神宮寺なら分けてくれるかなと期待しながら彼を待ったがなかなか来ない。寝坊したのだろうか。
「おはよう岸くん」
お腹をおさえて岩橋が現れる。続いて羽生田も姿を現した。
「おはよ。神宮寺は?まだ寝てるの?」
神宮寺と同室である岩橋に問うと、彼は食前の胃薬を飲みながら首を横に振った。
「ううん、もう出たみたい。今朝はやたら早起きで…昨日ちょっとへこんでたし早く寝ちゃったから目が覚めるのも早かったんだろうね」
「そっか。…へこんでたって?ビニ本がおじゃんになったから?」
「それもあるだろうけど…ちょっと自分でも後悔してるみたい。嶺亜を疑っちゃったこと」
「え?そうなの?神宮寺、そんなへこむくらいならなんで…」
トーストをかじりながら岸くんが問うと、岩橋と羽生田は顔を見合わせる。ややあって、メロンをかじりながら羽生田は答えた。もちろん、寮の朝ご飯の中にメロンなどはない。
「あの二人は元々仲が悪いわけじゃないし…一時期べったりな時もあったからな。なんか些細な行き違いで今みたいなちょっとぎくしゃくした関係になっただけだから」
「あ、そうなんだ。些細な行き違いって?」
「なんかよく分かんない。けど、多分嶺亜の方が神宮寺にちょっと距離置きだして…そしたら神宮寺もなんか今までみたく話すこともなくなって…今年同じクラスになったら何かと言い合いみたいなことするようになっちゃった」
岩橋は野菜サラダをつつく。羽生田も頷きながらロイヤルミルクティーをすすった。
「ちょうど同じ頃じゃないか?嶺亜が魔女と呼ばれるようになった奇行に走りだしたのって」
「儀式とか実験とか?そういえばいつも同じ古い本持ってるね。あれ何?」
「…僕らも知らない。何か大事なものみたいだけどあんなの去年は持ってなかったしね」
「ふうん…」
なんとなく、昨日見せた嶺亜の顔にその理由がありそうな気はしたが岸くんにはまだ分からなかった。二人が仲が良かったという事実を聞いて、またそうなれたらいいのになあ…となんとなく思いながら岩橋と羽生田と共に教室に向かう。

374 :ユーは名無しネ:2014/10/23(木) 19:49:08.86 0.net
「…なんかざわめいてない?」
岩橋が教室の前に着いた頃首を傾げた。中に入ると確かにクラスメイト達がざわめいている。その視線の先は…。
「何これ…」
岸くんはデジャヴに襲われた。昨日の4限終了時と同じ光景がそこに広がっていた。
ただ、あの時は神宮寺の机だったが、今度は…
「嶺亜…」
めちゃくちゃに荒らされた机の前に、無表情の嶺亜が立っていた。机の中に入れていたであろう教科書やノートの類はビリビリに破られ、机には無数の切り傷、椅子にも同様に刃物で傷つけられたような跡があった。
「一体誰がこんな…」
「うっす岸くんおはよー」
唖然としていると、神宮寺が後ろからやってくる。彼は教室に入るなり目を丸くした。
「え?おい、なんだよこれ…」
皆の視線が神宮寺に集まる。嶺亜の机の惨状と、その視線を受けて神宮寺は事態を把握したのか戸惑いを見せた。
「え、俺じゃねえぞ…」
そう、皆の視線は神宮寺を疑っている。
「俺じゃねえぞ!俺だって昨日おんなじ目に遭ったんだから…なんで俺のこと疑うんだよ!?」
そうだ。確かに神宮寺は昨日同じような目に遭っている。
だけど、誰かがこう呟いた。
「…仕返しにしてはひどいな…」
「そういや今朝早くに寮出ていくの俺見たし…」
ヒソヒソと、クラスメイトは囁き合う。神宮寺はその囁きの元に突っかかって行った。
「おい!俺は仕返しなんかしてねえぞ!!早く出たのだって教室じゃなくてグラウンドで身体動かしてただけだし、なんで俺がそんなことしなくちゃなんねえんだよ!!」
一転して疑われ始めた神宮寺に、昨日の嶺亜と同じく誰も擁護する者はいない。そう、状況証拠が揃いすぎているからだ。
しかし騒ぐ神宮寺達には目もくれず、嶺亜は表情を殺して散乱した切れ端を無言で片付け始める。その後ろ姿はさすがに痛々しくて、岸くんは思わず身体が動いた。
「…岸ぃ?」
「教科書、俺の見せてやるよ。先生に言えば新しいやつくれるだろうから…」
散らばった紙片を集めながら岸くんは嶺亜にそう言った。そう言うしかできなかった。
一体誰がこんな…怒りすら抱き始め、岸くんは一つの使命感に燃えた。
神宮寺と嶺亜に嫌がらせした犯人を、何がなんでも付きとめて謝罪させてやる…
そう闘志を燃やしながら、岸くんは拳を握りしめた。


.

375 :ユーは名無しネ:2014/10/23(木) 19:49:52.85 0.net
放課後、図書室で岸くん達は真犯人をつきとめるべく作戦会議を設けた。
「犯人は早朝や授業の合間をぬって犯行に及んでいる…ということはつまり、学校関係者に違いない」
岸くんが見解を述べると羽生田が目を覆った。
「アホか岸くん。そんなの当たり前だ。ここは陸の孤島なんだし外部から侵入するのは不可能なんだからいわば『犯人は…地球人だ』と言ってるのと同じ。もうちょっと絞りこまないと」
「あ、そ、そうかな…。うん、それもそう…」
出鼻をくじかれて、岸くんがあたふたしていると岩橋が視線を落とした。
「どうした?岩橋?」
羽生田が訊ねると、岩橋は机に肘をついて顔を覆う。そこで少し震えた声でこう吐露した。
「自分が嫌になる…あんなことになるまで、僕は心のどこかで嶺亜のこと疑ってた。だけど今日ので嶺亜が犯人じゃないって証明された…。いじめは許せないって思ってたのに…自分がそれに加担してしまうところだったなんて…」
「いや、岩橋、それは違うよ。あの状況じゃそれも仕方がないことで…」
岸くんがフォローしても、岩橋は顔を覆ったままで首を左右に振った。
「仕方なくても、嶺亜にしたら無実の罪で疑われて、今度は自分自身もあんなことされて…僕だったら耐えられないよ…」
「それを言うなら俺の方がもっとひどい。『やってない』っていう嶺亜の声を無視して状況証拠がどうのなんて…そんなことより人を信じる方が何倍も建設的なのにハナから疑ってかかってしまった」
羽生田も自己嫌悪に囚われてしまっているようだった。深い溜息が充満する。
「嶺亜にはあとで皆で謝ろうよ。誠意をこめて謝ればきっと分かってくれるって。な、神宮寺?」
それまで無言で座っていた神宮寺の肩に手をやると、しかし彼は唇を噛み、次の瞬間立ちあがって物凄い勢いで椅子を蹴った。
「神宮寺!?」
「…フザけやがって…!!誰だか知んねえけどブッ殺してやる…!!」
怒りにその眼を燃やし、神宮寺は震える拳を握る。怒髪天を突く、とはこのことかもしれない。その怒りは計り知れなかった。
「俺に嶺亜を疑わせて…陰で笑ってやがったんだ…それだけじゃなくて嶺亜にまで…!!ぜってー許せねえ…」
自分自身への怒りと、犯人への怒りで神宮寺は顔を真っ赤にしていた。恐らく岩橋や羽生田の何倍も自己嫌悪にかられているだろうその感情のやり場は、無論犯人に向けられている。
痛いほどに伝わってくるその気持ちを察すると岸くんは椅子を起こして神宮寺の肩に再び手を置いた。
「その通り。ぜってー許せないから一刻も早く犯人割り出さないと。土下座では済まさないよな!?」
岸くんの意見に、三人とも頷いてくれた。


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376 :ユーは名無しネ:2014/10/23(木) 19:50:38.15 0.net
瀬久樹寮のロビーにはインターネットができるパソコンが二台置かれている。無料だが、一人につき15分までという規定が設けられており普段順番待ちの生徒で賑わっている。その片隅に嶺亜と颯、谷村、倉本はいた。
「嶺亜大丈夫!俺達がついてるから!とりあえず回ろうよ」
颯が松岡修造ばりのテンションで嶺亜を励ます。その隣で谷村はコーヒーをすすりながら少し俯き加減である。
「今時そんなあからさまなことする奴いるんだなー。嶺亜くん、何か盗まれたもんとかないの?」
みたらし団子を食べながら倉本が訊く。嶺亜はぶすっとした表情で首を横に振った。
「なぁんにも。教科書破られてただけぇ。てかそれしか置いてないしぃ」
「恨みとか買ってない?そういうことしそうな奴に心当たりはないの?まあ神宮寺もやられてるし二人揃って恨んでる奴とかさー」
ずけずけ言う倉本を嶺亜は睨んだが、そこは倉本の屈託のない性格の特権なのかすぐに平然とした表情に戻る。そして若干卑屈な口調でこう言った。
「さあねえ。僕は『魔女』なんて呼ばれて皆に疎まれてるしぃ…そう考えると誰にやられても不思議じゃないよぉ。今までこんな幼稚なことしてきた奴いないけどぉ」
「そんなことない!嶺亜はちょっと変わったところあるけど本当はいい子だって誰もが知ってるし!」
「ありがとぉ颯。でも颯に変わってるとは言われたくないけどねぇ」
嶺亜は苦笑する。どうも颯には自分が変わっているという感覚はないらしい。もっとも、フグが自分の毒で死なないのと同じ原理なのだろうが…。
「別にこんなの気にしないよぉ。現場押さえられれば局部殴打して蹲ったところにバケツいっぱいのブタの血でも浴びせてそれから熱湯消毒ぐらいのことはしてやるけどぉ」
殺し屋の眼つきになって嶺亜は薄ら笑いを浮かべる。彼のことだからわりとまじでやるかもな…とその場にいる者は思った。
「あれ?」
きょとんとした颯は谷村を見据える。
「谷村?どうしたの、なんかいつも以上に暗いね。停電小僧もびっくりなくらい」
「…」

377 :ユーは名無しネ:2014/10/23(木) 19:51:12.42 0.net
谷村は実は自己嫌悪に苛まれていた。
神宮寺がやられた際、彼が嶺亜を疑っていた時に少し内心同意してしまったからである。それが元々暗い性格をさらに暗くしていた。
「腹へってんの?みたらし団子食う?」
倉本が団子を差し出したが谷村は首を横に振って断った。
儀式をしない、というのは暗に自分を疑った谷村への怒りなのかも…とすら思え、気分は下降一直線である。
そうして谷村が奈落の底へ旅をしているとロビーにけたたましい笑い声が響いてくる。
声の主は分かりきっていたが今顔を上げる気になれない谷村はちびちびとコーヒーをすすることしかできないでいた。
「やっべーパソコン何人待ち!?つい昔懐かしゲームボーイアドバンスのドクターマリオに夢中んなって出遅れちまったぜギャハハハハハハハ!!!」
「あ、栗田くん」
颯が栗田の名を呼ぶ。彼は一目散にこっちに駆けて来た。
「れいあ心配すんな!!おめーの机荒らした犯人はこの俺が捕まえてチンチン蹴りあげて蹲ったところにブタの血浴びせて最後に熱湯消毒して息の根止めてやっからよ!」
「栗ちゃん…」
見る間に嶺亜の眼が潤みだす。先程の殺し屋の眼は微塵も残されていない。
「僕ぅ…怖くて怖くてぇ…ショックだよぉこんなことする子がいるなんてぇ…もう明日から怖くて学校行けないよぉ」
栗田にしがみつきながら嶺亜はスンスンすすり泣く。オスカー賞狙えるんじゃないかと思えるほどの名演技である。さっきまで平然として犯人の急所がどうの…って言ってなかったっけ…。
「アホかれいあ!アホは谷村だけで充分だぞ。俺がついてるだろ!なんかあったら俺んとこ来いよ全力で守ってやらあ!!そのためには早く真犯人血祭りにあげねーとな!明日から調査開始だぜギャハハハハハハハハ!!」
「栗ちゃん…ありがとぉ。そこの谷村で良かったら助手に使ってぇ。たまに霊に憑かれる以外は案外不死身で便利だからぁ鈍器でどつかれたぐらいじゃ死なないよぉ」
「へ、俺?」
突然の指名に谷村は頭が真っ白になる。持ってたコーヒーカップを落としそうになった。
「まじかーでもアホな助手がいてもしょうがなさそーだけどまーいっか。猫の手も借りたいってか谷村の手も借りてー状況だしな!
おい谷村、れいあに嫌がらせした奴つきとめるからお前明日から馬車馬のように働けよ!ギャハハハハハハハ!!」
「は…はい」
栗田の助手なんて死んでも御免だが谷村はなんだか気分が立ち直っていく。そう、犯人さえ突き止めれば…そいつが嶺亜に心ゆくまで嬲られればそれで皆ハッピーだ。そしたらまたいつもの日々が戻ってくる。
使命感が全身をかけめぐるとなんだか世界が光に満ちて見えた。自我修復はピタリとやむ。
「あ、じゃあ俺も協力するよ!!なんでも言って栗田くん!!」
颯も勢い良く挙手した。
「しゃーねーな。コロッケパン3つで俺も協力してやるよ」
倉本も加わり、あれよあれよという間に調査団が結成された。

.

378 :ユーは名無しネ:2014/10/23(木) 19:51:37.42 0.net
「古典的ではあるが最も確実な証拠が取れるのがこれだ」
瀬久菩寮の神宮寺・岩橋の部屋で作戦会議が練られる。羽生田がどこからか防犯カメラのようなものを調達してきた。
「なるほどね…教室内全体を見渡せるところに取りつければ犯人が割り出せるね」
顎に手を当てて岩橋が頷く。
「問題はこれをどこに設置するかといつ置くかだな。置いてることが知られたら意味ないしな」
羽生田の言うことはもっともである。神宮寺と岸くんは頷いた。
「早朝か放課後誰もいなくなってからで良くね?」
神宮寺が提案すると、うーんと岩橋が考える仕草を見せる。
「朝だと設置するのに時間がかかったりすると他のクラスの生徒に見られる可能性もあるよね。放課後なんかはそれこそ部活動でかなり遅くまで残ってる子もいるし先生や用務員の人も通りかからないとも言い切れない。とするとやっぱり…」
「ああ、それしかないな…」
羽生田が頷く。神宮寺と岸くんは顔を見合わせた。彼らはまだ付いていけない。置いてけぼりで羽生田と岩橋が話すのをただ黙って聞いていることしかできなかった。
「やはり夜しかないか…とすると、どっちにそれをやってもらうか、だな」
話し終わると羽生田と岩橋は岸くんと神宮寺を交互に見据える。
ジャンケンの後、それは岸くんに決まった。



つづく

379 :ユーは名無しネ:2014/10/26(日) 03:39:54.66 0.net
徐々に話が進んできてドキドキしますな…
続きも楽しみにしてます!

380 :ユーは名無しネ:2014/10/27(月) 19:36:05.55 0.net
神7シネマ劇場「放課後の楽人たち」


「ううう…帰りたい…怖い…」
暗闇で谷村は必死で自我修復で乗り切っていた。そうでもしないと恐怖と疲労で頭がおかしくなってしまう。
そもそも、何故こんなことになったのか…今日の放課後を思い返してみる。
「れいあの机に嫌がらせした奴はもしかしたらまたやるかもしんねー。現場押さえてとっちめるのが一番だ!!」
珍しく栗田が建設的な意見を出したかと思えばそれは少々曲がった方向に行き出した。短絡的な、実に効率の悪いやり方である。しかし谷村が異を唱える前にそれは決まってしまった。
「つーわけで谷村、お前教室の掃除用具入れの中に隠れて夜中から朝にかけて見張っとけ。頼んだぞ!!」
「え、ちょっ…待っ…なんで俺が…」
「おめーはれいあがあんなことされて平気なんか!?あぁ!?」
だったら自分がやれば…と言いかけて、嶺亜の顔が目に映る。すがったり助けを求めるような眼ではなかったが、どこかで頼りにしているような、そんな感じが見受けられて気がつけばここにいる。
「…けど、怖すぎる…」
掃除用具の中は狭くて屈むのがやっとだった。ここで一晩中というのはかなりの苦行である。そもそも、犯人がこんな短いスパンで嫌がらせを再度行うとも思えない。
そもそも、これってここに防犯カメラでも付ければ解決できた話じゃないのか…?
そこに気付いてしまったと同時に異変が訪れる。夜の教室は暗くて静かで物音一つないのだが谷村の耳は微かに足音のようなものを捉えた。そして認識すると同時に窓枠がガタガタと鳴る。恐怖でちびりそうになった。
ガタン、と音がして誰かが着地したような音がこだまする。
極限の恐怖の中で、谷村は記憶の引き出しが開く。確か前に嶺亜が言っていた。「うちの教室の廊下側の窓の鍵ねぇ、ちょっと窓枠揺らしただけで簡単に外れるんだよぉ」と。
もしや誰かが侵入してきたのでは…?
だとしたらまさかそれは嫌がらせの犯人では…

381 :ユーは名無しネ:2014/10/27(月) 19:36:45.98 0.net
怖くて震えていた足はどうにか力が入りだした。谷村はエアガンを握る手に力をこめる。
「おめーはどうも頼りねーからとりあえず犯人来たらこれでハチの巣にしてやれ!!」
そう言って栗田がどこから調達してきたのかでかいエアガンを持ってきた。殺傷能力すらありそうなずっしりと重たい本格的なタイプだ。しかしこういう事態になったとあればそれは心強い。谷村は教わったとおりに操作していつでもぶっ放せる状態にした。
灯りのようなものが灯る。懐中電灯だろう。光がロッカーの隙間から漏れて来た。
「!!」
しかし谷村の予測を裏切って、いきなりロッカーの扉が開けられる。
まさか自分がここに隠れていることがバレていたのか…!?
それはそうとヤバイ。この状況ヤバすぎる。もう犯人だろうがそうじゃなかろうが身の危険から自分を守らなければ。
ていうか怖い。すんげー怖い。ちびりそうだけど水絶ちしてトイレ行っておいて良かった。漏れるもんが何もない。我ながら谷村グッジョブ!!…ってそんなどころじゃねえよもう(1.5秒)
頂点にまで達した恐怖心から谷村は泣き叫びながらエアガンをぶっ放した。とりあえず死にたくない。いいことのあまりない人生だったがまだ死ぬわけにはいかない。そんなら鈍器で殴られてでも嶺亜を押し倒しておくんだった。
生まれてから現在に至るまでの様々な思い出が一瞬で走馬灯のように蘇り、半狂乱になって谷村はエアガンを乱射した。
「うぎゃあああああああああ痛い痛い痛い痛い助けて助けて助けて殺さないでうわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
相手は絶叫する。どこかで聞いた声…それを認識すると手が止まっていた。
その人物が持っていたであろう懐中電灯が床に転がっている。恐る恐るそれを手に取り騒ぎ悶絶するその相手の顔を照らすとそこには見覚えのある顔があった。

382 :ユーは名無しネ:2014/10/27(月) 19:41:44.44 0.net
「…岸くん…?…だったっけ…?」
谷村が呟くと、岸くんもまた驚愕に満ちた表情で見つめてくる。
「え…お前は…確か、谷…谷…なんだっけ…」
「谷村…」
「あ、そーだ。谷村だ」
どうして彼が…?まさか、こいつが犯人…?
谷村は数秒で様々な事実を整理する。岸くんが犯人だとするとそれぞれの犯行は可能かと。辻褄が合うのかと。
だけどパズルのピースは全然合わない。その構築は不可能のように思える。だとすると何故彼はこんなとこにやってきたのか。忘れ物でも取りに来たのかそれとも…
夜の学校徘徊が趣味?
肝試しのドキドキ感に性的興奮を覚える特殊変態タイプ?
夢遊病の一種?
どれもあり得そうな感じがしたがしかし疑問に浸っている暇はなかった。
「誰だ!!?そこで何をしている!!?」
「げ」
やっぱりというか、見周りの警備員が先程の岸くんの大絶叫を聞きつけてやってきた。それからの展開はもう分かりきっている。二人して大目玉を食らい、特に岸くんは化学室の一件から目をつけられていたため今度やらかせば退学、と告げられてしまったのだった。


.

383 :ユーは名無しネ:2014/10/27(月) 19:42:16.80 0.net
「これはやはり連携ミスと言わざるを得ないな」
放課後の図書室で、瀬久菩チーム瀬久樹チームの合同捜査会議が開かれた。そこで羽生田は腕を組みながら渋い顔で呟く。
「いやーまさか瀬久菩チームが防犯カメラ取りつけようとしてたとは思いもよらなかった。谷村が張りこまなくてもそうすれば解決したかもしんないのにな」
呑気にどら焼きをモグモグしながら倉本が呟く。岸くんと谷村は果てしなくグロッキーになりながらうなだれていた。谷村は自我修復をする気力すらない。
「岸くん…あの…この軟膏良かったら使って。打ち身や擦り傷によく効くから…。俺が森で拾った薬草擦って作ったんだけど…」
颯がおずおずとケースを岸くんに差し出したがそれを受け取る気力が今の彼にはない。「ありがと…」と力なく返すのが精いっぱいだ。
「てかよくそんな大胆な方法実行したね。夜通し見張るなんて体力が持つわけないじゃない。無謀だよ」
呆れ半分、心配半分に岩橋が言った。
「谷村だったらできると思ったんだけどなーギャハハハハハハ!!」
栗田が笑うとその向かいで神宮寺が溜息をつく。
「お前ら余計なことすんな。犯人は俺らが吊るし上げてやっから。幸いにも防犯カメラは没収されずに済んだし今夜にでも俺が取りつけてくらあ」
「でも神宮寺ぃ、あの廊下側の窓枠の鍵はもう直されちゃったよぉ。まさか谷村みたいにあそこに一晩中入って取りつけるわけじゃないでしょぉ」
嶺亜が冷静な見解を口にすると神宮寺は決まり悪そうにぶすっと頬杖をついた。
「それにこの一件で警備員や先生も戸締りの時に一応人が隠れそうな場所ぐらい確認してから施錠するでしょ。同じ方法は取れないと思うなー」
草もちを次々に口に放り込みながら倉本がごもっともなことを言う。
うーん、どうしたものか…と手詰まりになっているとそれまで岸くんの心配ばかりしていた颯が呟いた。
「それじゃあ俺達が見張っとくから防犯カメラ今から取り付けに行こうよ。誰か来そうになったら声かけるから」
その手があったか。無駄に9人いるわけじゃない。手分けして行えば済んだ話だ。コロンブスの卵である。
そしてめでたく防犯カメラは誰にも見つからずロッカー内に取りつけることができた。このロッカーが開閉されるのは掃除の時くらいだから、それを引き受けさえすれば防犯カメラに気付かれることはないだろう。
ひとまず手は打った。後は再び犯行が行われれば犯人が割り出せる。どうにか目星がついて安堵のムードが漂った。
しかし事態はまた更なる方向へと歪みだしていた。

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384 :ユーは名無しネ:2014/10/27(月) 19:43:10.52 0.net
その惨状を目の当たりにすると神宮寺は怒りのあまり拳をドアに思いきり打ちつけた。拳がじんじん痛むがそんな感覚すらなくなるほどに燃え上がる感情が炎となって身を包む。
「フザけやがって…!!!」
寮に戻って一息つこうとしてドアを開けると、部屋の中は台風でも通り過ぎたかのように滅茶苦茶に荒らされていた。
狭い二人部屋にはニ段ベットとそれぞれの学習机の他に箪笥とテレビが置かれているだけだが見事にしっちゃかめっちゃかだ。引き出しという引き出しは開けられ、蒲団もひっぺがされ、ベッドの下にしまっていたエロ本やアダルトDVDの類も散乱している。
「なんだってこんな…」
岩橋は恐怖に震えている。剥き出しの悪意がそこにあって、今もこうしている自分達をどこか陰で見ていて嘲笑っているかのようだった。底知れぬ歪んだ感情に鳥肌が立った。
「おい岩橋…俺ら今日ここ出る時ちゃんと鍵閉めたよな?」
「…うん。今開ける時もちゃんと鍵は回った。閉め忘れだったら空回りするはず。ちゃんと鍵は閉められてる…」
「鍵は俺とお前のとで二つ。俺はベルトに付けてるから盗まれるわきゃねえ。今日は体育もないし着替えもしてないからな。お前のはキーホルダーに付けてるよな?それもなくなってねえよな…」
「うん。だとすると、窓から侵入した?でもここは三階だし、窓は開いてない…」
二人がそこに行きつくのに時間はそうかからなかった。顔を見合わせて同時に呟く。
「合いカギを持ってる奴がいる…」
そして瀬久樹寮でもまた同様の事件が起こっていた。

385 :ユーは名無しネ:2014/10/27(月) 19:43:47.94 0.net
「…」
嶺亜は冷めた目でそれを見おろす。その後ろで颯と谷村が動揺していた。
「なんで嶺亜の部屋まで…」
颯は声を震わせる。谷村はただただ愕然と立ち尽くすことしかできなかった。
あまりにも惨い。一体、誰がなんの目的でこんなことをしたのか…理解に苦しむ光景だった。
寮は二人部屋しかなく、そのほとんどの生徒が相部屋だったが嶺亜は生憎一人でその部屋を使っていた。単に嶺亜の学年で瀬久樹寮に入る生徒が奇数だったためである。
その部屋が見るも無残な形に荒らされていた。
プライベートな空間に土足で踏み入り根こそぎそのプライバシーを奪う…引き出しの中や箪笥の引き出し、クローゼットに至るまですべてひっくり返されていた。傍目には颯がここでヘッドスピンをしたのではないかと思えるほどに。
その颯が珍しく怒りを露わにした声色で叫ぶ。
「ひどいよこんな!!許せない!!」
わなわなと震える颯の声に被せるように、嶺亜の抑揚のない声が響く。
「僕はちゃんと鍵はかけた…どうやってここに入ったのぉ…しかも、鍵はまたちゃんとかけられてた…」
そう、几帳面な嶺亜は施錠を怠ったことはない。今こうしてドアを開ける時もちゃんと鍵は回ったからかけたことは明白だ。それなのに…
「犯人は嶺亜くんの部屋の鍵も持ってるってこと…?合い鍵…?」
ようやく谷村が掠れた声を出すと嶺亜は小さく頷く。
「…ていうかぁ…普通に考えればこの場合全部の部屋の鍵を管理してる人が一番怪しいんだけどねぇ…マスターキーがあるかもしんないしぃ…」
「え、それって…」
嶺亜は頷く。そして絶対零度を放った。
「管理人か、管理人室に自由に出入りできる奴かなぁ」



つづく

386 :ユーは名無しネ:2014/10/28(火) 03:17:47.12 O.net
新作!

387 :ユーは名無しネ:2014/10/29(水) 01:14:04.38 0.net
作者さん乙です。
話が進むにつれてどんどん続きが気になる!つい毎日覗いてしまう…、続き楽しみにしてます。

388 :ユーは名無しネ:2014/10/30(木) 20:31:08.45 0.net
神7シネマ劇場「放課後の楽人たち」


こっそり回収した防犯カメラには変わったものは何も映っていなかった。もっとももう机は荒らされていないから当たり前かもしれないが…
「一度事件を整理してみよう」
机の上に羽生田が紙を置き、日付と起こった事件を書きだして行く。
1、神宮寺の机が荒らされる(4限の体育の授業中)
2、嶺亜の机が荒らされる(1の翌日の早朝、もしくはその日の放課後以降)
3、神宮寺&岩橋の部屋および嶺亜の部屋が荒らされる(昨日)
「犯人は瀬久菩寮と瀬久樹寮の部屋の鍵を自由に操れる人物…つまり管理人があやしいということになるけど、それぞれの寮に管理人は一人ずついるみたいだし、しかもそれだと動機がなあ…」
岸くんは腕を組む。こういう頭脳戦はあまり得意ではないのだ。早くもショートしてきた。
「でもさーなんで管理人が神宮寺と嶺亜に嫌がらせするわけ?ほとんど面識ないんだろ?」
バームクーヘンをむしゃむしゃかじりながら倉本が言う。神宮寺と嶺亜は頷いた。
「管理人を困らせてるのはしょっちゅう回って設備壊す颯の方だけど…俺も同室だし良く思われてないっぽいんだけどね…」
谷村が暗さ全開でぼそぼそと話す。その横で似たような口調の岩橋が神宮寺を指差した。
「あ、でもそういえば神宮寺こないだ渡り廊下の窓の板に穴開けようとした時見周りの管理人に捕まえられたよね?そのことかな…」
「けどそれでなんであそこまでやる必要がある?たっぷりお灸は据えられたしそれ以降目立ったことはしてないはずだが」
羽生田がそう意見した。彼は続ける。
「確かに、鍵を管理してるのは管理人だがいつでも合いカギを作るチャンスはある。体育の時にでもちょっと拝借しておけばいいんだからな。まあ、合いカギなんてすぐに作れるもんじゃないが」
「マスターキーがあるのかも。何かあった時すぐに踏み込めるよう全ての部屋をこれ一本で開けられるって鍵がさ。そしたらそれを盗んで合いカギ作れば僕達から盗まなくてもいいよね?」
岩橋が推理する。それももっともである。とするとやはり容疑者を絞り込むのが難しくなってきた。

389 :ユーは名無しネ:2014/10/30(木) 20:31:55.26 0.net
「でもなんで嶺亜と神宮寺なんだろ。二人ともイジメにあうようなタイプじゃないじゃん。どっちかってえとそれは岩橋か谷村の役のような気がするけどなー」
スティックパンを両手に、倉本がそんなことを言う。谷村と岩橋は心外だ、という表情になった。
「二人して恨み買ってるならやっぱクラスメイトが怪しくね?お前ら二人、誰かに無意識に嫌がらせしちゃったりしてない?例えば神宮寺はうぶなクラスメイトにビニ本ちらつかせてセクハラまがいのことしたとか嶺亜はズルしてそいつに不満持たれてるとか」
嶺亜と神宮寺は顔を見合わせる。が、二人ともすぐにお互いに視線を逸らした。
「おい失礼なこと言うなよ倉本、仮にも俺はお前の一個上の先輩なんだからよ、敬語ぐらい使えよ。もうそんな設定誰も覚えてねーだろうけど。それはともかく、そんな奴ぁうちのクラスにゃいねーな。むしろ見せろ見せろってたかってくるぐらいだしよ」
「僕もぉ。そんな人から恨まれるようなズルはしてないよぉ。もっともこないだの化学室のヘッドスピンの件で岸が根に持ってるなら別だけどぉ」
嶺亜が岸を横目で見る。岸くんに皆の視線が集まり、それまで必死に頭を働かせていた岸くんは急な名指しに慌てた。
「へ、お、俺!?」
「そういえば、この一連の事件は岸くんが来てから起こりだしたな…」
羽生田が呟くと、疑惑の色が濃くなってゆく。予想だにしない事態に岸くんは汗が滝のように流れた。
「ちょ、ちょちょちょちょちょちょっと待って!!俺じゃないよ!?俺にそんなことできないでしょ!体育の時もちゃんと授業受けてたし早朝に学校にも行ってないし部屋が荒らされた時間だって皆といたじゃん!!冤罪だ!!誰か弁護士呼んでえええええええええええええ」
必死になって岸くんが弁論すると、一瞬の沈黙の後爆笑が起こる。
「岸くん犯人説は無理あんだろー!そんなことできそうにないしそんな頭脳もないだろうし」
「我ながら傑作だった…岸くんが犯人だなんて…あはははははははは!」
「岸くんはそんなことする人じゃないよ!皆疑うなんてひどい!」
「推理小説なら一番怪しくない人が犯人だけど…この場合当てはまらなさ過ぎて笑えるよね」
笑いの渦が雰囲気を和やかにしていくその一方で栗田が珍しく真剣な顔と口調で呟く。

390 :ユーは名無しネ:2014/10/30(木) 20:32:31.57 0.net
「…俺はれいあが倉庫から通じる渡り廊下にブレスレット取りに行った時誰かに襲われかけたってのが気になるぜ。もしかしたらそいつかもしんねー。れいあ、顔見たか?」
「ううん。怖かったしぃ逃げるのに必死だったからぁ…」
栗田に寄りかかりながら嶺亜は口元に手を当ててすっかりぶりっこモードだ。彼にとって部屋を荒らされたショックよりも栗田に心配してもらえる喜びが遥かに勝るのかもしれない。
「え!?なんだよその倉庫から通じる渡り廊下って!」
神宮寺が目を丸くして身を乗り出す。
「あそこ入れんのか!?俺の手に入れたこの古文書によるとあそこには神様が眠って…」
「ちょっと神宮寺、今その話はいいでしょ。今は君と嶺亜に仇成す者の話をしてるんだから、それは後で」
岩橋に諭されて、神宮寺は渋々座りなおした。
「何かなくなったものとかはないの?」
岸くんに汗を拭くためのハンカチを渡そうかどうか迷っていた颯はふと思い立ってそう二人に問う。しかし二人とも首を傾げた。
「俺は最初に机に入れてたエロ本破られてたぐらいだな。部屋に置いてたコレクション丁寧にまた揃えたけどなくなってたり壊されたもんとかはねえ。服とか教科書の類も」
「僕もぉ。机の時は教科書破られてたけど昨日はひっくり返されてるだけでなぁんにもぉ」
「だったら物盗り目的じゃなくて、単なる嫌がらせかな…ますます分かんないね」
皆で頭を抱える。3人よれば文殊の知恵というがその3倍の9人が集まっても何ら進展しなかった。
その9人の中で最もアレな頭脳を持つ栗田がこう締めくくる。
「誰だか分かんねえけどよ…とにかくれいあは俺が守る。おいれいあ、今日から俺、お前の部屋で寝泊まりするから。いいな?」
「栗ちゃん…」
恋する乙女のうるうる目になって、嶺亜は両手で口元を押さえる。二人っきりのれあくりワールドが展開されるのを横目に羽生田はオホン、と咳払いをした。
「まあとにかく…防犯カメラをもう二台仕入れてくるからこっそりお互いの部屋の見つかりにくいところに設置しておいてくれ」
とりあえずの防犯対策を練ったということで皆が若干安堵していると神宮寺が茶化すように言った。
「おい嶺亜、栗田。その防犯カメラの映像が18禁になんねえようにほどほどにしとけよ」
栗田はバカ笑いで答えたが、嶺亜は栗田の腕にしっかりしがみつきながら憎まれ口を返す。
「それはお互い様ぁ」


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391 :ユーは名無しネ:2014/10/30(木) 20:33:30.84 0.net
「ごめんねぇ、まだ完全に片付けできてないからぁ汚くて恥ずかしいんだけどぉ」
いそいそと嶺亜は栗田を部屋に通す。先日荒らされたこの部屋の片づけはまだ完全に終わっていなかった。雑誌や衣類などがまだ乱雑に置かれている。
寮の部屋は全て同じ間取りで備え付けの家具も一緒である。栗田はいつでもどこでも寝られるタイプの人間(人はそれを単細胞と呼ぶ)だが、さすがに今夜は寝る気にはなれなかった。
「れいあ、とりあえずカメラ設置しようぜ。つけてることがバレたら意味ねーから念入りにしねーとな」
「栗ちゃん…」
嶺亜はもう襲われたことも机をひっくり返されたことも部屋を荒らされたこともどうでも良くなった。むしろ、犯人に感謝の念すら抱いた。栗ちゃんと一緒に生活できて、こんなに勇ましい姿まで見られるなんてぇ…
うっとり夢心地に浸りながら、嶺亜は一冊の本を握りしめる。それもこの本のおかげかもしれない…
「れいあ?なんだそのきたねー本?」
「え、あ、これぇ?んーん、なんでもないよぉ。単なる古本。字ばっかりで栗ちゃんには面白くないだろぉからぁ」
「ふーんそっか。ところでよ、カメラここで良くね?ほら、ここなら部屋全体が映るしこうしとけばカメラがあるってあんま分かんねえしさ」
栗田はカメラの場所を考えてくれていたようだ。普段はゲーム大好きアホアホキャラを演じていても、いざという時に頼りになるそのかっこ良さに痺れているとカメラを取りつけながら栗田は言う。
「もうちょっとの辛抱だぜれいあ。犯人さえ見つけりゃあ俺が八つ裂きにしてそこの裏庭に埋めてアイスの棒で墓作ってやっからよ」
「うん…」

392 :ユーは名無しネ:2014/10/30(木) 20:34:04.02 0.net
だけど嶺亜はその背中を見て思う。栗田が優しいのは、それは単に小さな頃からの知り合いで幼馴染みみたいなものだから…だから自分に優しくしてくれるだけであって自分の望むような理由からじゃないんだ、と。
僕は男で、栗ちゃんも男だから…
それを突きつけられて、涙が枯れるほど泣いて悩んで、それで手にしたのがこの本…全くの偶然だったし、運命と呼ぶにはこじつけがすぎる。
だけど、そこにすがるしかなかった。そうしなければ精神の安定を保てない。
『魔女』なんて風変わりなアダ名をつけられても、自分にはこの本が拠り所だから…だから意味のない儀式を繰り返す。それに付き合ってくれるのは谷村だけ…
ぼんやりとその暗くてネガティブで厚ぼったい唇と点在するホクロと大きな二重瞼を思い浮かべていると栗田が振り返る。
「なーれいあ。お前しょっちゅう谷村とつるんでどっか行ってるって聞くけど何してんの?」
「え?」
「お前ら実は付き合ってんじゃね?とかって噂する奴もいるしよ…実際どうなんだよ?」
冗談っぽい感じではなく、真剣な眼差しだった。嶺亜は否がおうにも期待がかけめぐるがそれを自制した。
「やだぁ栗ちゃん何言ってんのぉ?なんで僕が谷村とぉ?可笑しくってお腹がよじれちゃうよぉもぉやだぁあははぁ」
大げさに大笑いして見せると、少しきまり悪そうに栗田はこめかみのあたりを指で掻く。そして呟くようにこう言った。
「まー違うんならそれでいいけどよ…」

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393 :ユーは名無しネ:2014/10/30(木) 20:34:53.85 0.net
荒らされた部屋の片づけがようやくひと段落し、神宮寺はベッドに身を沈める。といっても片付けのほとんどは岩橋がしてくれたのだが…
「ねえ神宮寺、カメラこのへんにしとく?ここなら何か物を置けばカムフラージュできそうだし」
「ああ、それでいいよ。悪いな、俺のせいでこんなことになってよ…」
「気にしないで。早く犯人見つけよう。それより…」
カメラを設置しながら岩橋は少し沈んだ声を出す。
「嶺亜に謝りそびれちゃったね。犯人の推理に皆夢中になっちゃってて…僕もだけど」
「…」
神宮寺は身を起こす。
「…まあ、いいんじゃねーの。あいつ栗田に心配してもらえて嬉しそうだし今そっちで頭がいっぱいだろうよ」
答えると、岩橋は浅い溜息をつく。まるで手のかかる子どもを見るような眼で神宮寺を見ながらこう呟いた。
「素直じゃないよねホント…。気にしてるくせに」
「あ?なんだって?俺が?どこがだよ」
「本当は嶺亜と前みたいに普通に仲良くしたいって思ってるくせに、なんでいつもつっかかるような言い方や態度になっちゃうの?なんか神宮寺らしくないなっていつも思うんだけど」
岩橋はベッドに座る。その瞳は疑問に満ちていた。

394 :ユーは名無しネ:2014/10/30(木) 20:35:30.51 0.net
「別に俺は…」
神宮寺は言いながら、自分でも良く分からない。いつからこうなったのか、どうしてこうなったのか…何かが少し方向が歪んでこうなってしまったという漠然としたものはあったがはっきりとした理由や時期は思い出せない。
ただ…
「嶺亜のことは嫌いじゃねーよ。だけど、確か…あいつの方から俺に距離置きだしたんだ。だから俺も前みたいに話しかけづらくなって、そんで…」
「嶺亜の方からって…神宮寺何かしたの?嶺亜に」
「なんもしてねーよ!あいつが怒るようなことや嫌がることなんてするわけねーだろ。それまで普通に仲良かったのに。ただあいつ、去年栗田と俺がちょっとつるむようになったらなんか急に冷たくなりだしたんだ。
そうだ、俺と栗田が一緒にいるのが嫌みたいだった。それでじゃね?」
「なんで栗田と神宮寺が一緒にいると嶺亜が嫌がるの?そりゃあ嶺亜は栗田にぞっこんだけど…」
「分かんね。あいつが考えてることなんて俺には分かんねえよ」
それはそうだった。神宮寺には嶺亜の考えていることが分からない。だからいつも翻弄されてしまう。これ以上掻き乱されたくないから自分も疎遠になった。ただそれだけなのだ。
自分でもどうにもならないこの関係がもどかしくてつい苛々してしまう…それは嶺亜にではなく自分自身に、だ。
「…とにかく、犯人捕まえて一件落着したら俺もあいつに謝るから。疲れたから今日はもう寝るわ。おやすみ」
無理矢理終了させると、岩橋の浅い溜息が微かに耳に届いた。



つづく

395 :ユーは名無しネ:2014/11/01(土) 20:41:02.39 0.net
初書き込みです 作者さんいつも面白い話をありがとうございます!

396 :ユーは名無しネ:2014/11/03(月) 19:45:43.92 0.net
神7シネマ劇場「放課後の楽人たち」


「こんな物騒なものぶっ放したんだ…谷村ひどいよ、岸くん死んじゃうところだったじゃん」
栗田に返しそびれたエアガンは谷村の部屋に保管されている。そのずっしり重たい機体をまじまじと眺めながら颯が非難してくる。
「俺だって極限状態で死にそうだったんだし咄嗟にそれが岸くんだなんて分からなかったんだ。大したことなくて良かったじゃん。颯のあげた軟膏持って帰ってくれたんだし今頃それ塗って回復してるよ」
「だけど…大丈夫かな…岸くん…」
「そんなに心配なら今から行ってくればいいじゃないか…」
何気なく放った一言にしかし颯は過剰反応する。
「い、いいいいいいいい今からってそそそそそそそっそんな、不自然じゃん!!変に思われたらどうしてくれるの、責任取ってくれんの谷村!!!」
顔を赤くしながら颯は動揺する。そしてヘッドスピン態勢に入ろうとしていた。彼は動揺したり高揚したりするとそれをしてしまう癖がある。
その破壊力は凄まじい。頭が超合金か合成ダイヤモンドでできているのではないかと思えるほどの破壊力をそれは持つ。加えてその旋風は何ヘクトパスカルか見当もつかない。
それをわずか26平方メートルのこの部屋でやられると部屋の中はしっちゃかめっちゃかだし最悪階下に穴が開く。
「うわあ!!やめてくれ回らないでくれ!!頼むから…もう管理人に怒られるのは嫌だ!!」
瀬久樹寮の管理人は年齢不詳の白髪鬼のような風貌の爺さんだ。もうかなり長いことこの寮の管理人をやっているらしいがとにかく怖い。颯が回って何か壊すたびに鬼のように怒り狂うからもう半分恐怖になっている。
回ろうとする颯にしがみつくと彼はバランスを崩して倒れこんだ。谷村も巻き込まれ転倒する。

397 :ユーは名無しネ:2014/11/03(月) 19:46:13.04 0.net
「いてて…」
棚にぶつかり、そこに置いていたものが降ってくる。硬いものが顔に当たり、谷村は顔をしかめた。
「いた…何これ谷村?なんの鍵?」
颯が谷村に当たった硬いもの…鍵を拾う。古い、錆びかけの鍵…中庭倉庫の鍵である。
「あ、それ…返さなきゃ」
「どこの鍵?」
「中庭倉庫の鍵だよ。嶺亜くんが偶然見つけたみたいで、その中に地下通路に通じる入口があって渡り廊下の中に入れるんだ」
「ふうん…あの閉鎖されてるとこ?あんなとこ入って何すんの?バーベキュー?」
「なんで廊下でバーベキューするんだよ…嶺亜くんが、あの場所は儀式にうってつけだって言うからちょくちょくそこに…」
「そっか。ご苦労さん。あんまりしんどかったら時々交代してあげるけど?」
「お気づかいなく…」
その儀式は目下のところ先送りになり続けている。谷村としても早く犯人が見つかってまた元のとおり嶺亜の儀式に振りまわされる日々が戻ってきてほしい。我ながら脳髄の髄までドM体質であることを実感しつつ鍵を鞄にしまって早々に眠りについた。

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398 :ユーは名無しネ:2014/11/03(月) 19:47:01.54 0.net
「疲れた…今日は早く寝よう…」
岸くんは寮の自分の部屋に戻る。転校生だからなのか、今のところルームメイトがおらず一人部屋状態である。気楽でいい。
とりあえず明日の授業の用意だけして寝よう。そう思って部屋の電気のスイッチを押したが…
「あれ?」
何度押しても電気がつかない。これでは真っ暗闇である。どうしたもんか考えたが結局管理人に言うしかなさそうだ。
管理人室は寮のロビーの先にある。ノックをすると中年のおじさんが顔を出す。
「部屋の電気がつかない?何号室?…ああ、あそこか。暫く使ってなかったからな…どれ」
管理人は腰をあげた。岸くんはふと気になって鍵束のあるあたりに目が行く。もしも、神宮寺達の部屋の鍵を手に入れようとするならばこの管理人の眼を盗んで該当の部屋の鍵を盗みだす必要がある。
管理人は寮の清掃や施設点検、夜間の点呼が主な仕事だから管理人室にずっといるわけじゃない。だからいない間にこっそり手に入れてこっそり戻すことも可能…岸くんはそう分析した。
「ああ、切れてるなこれは。換えを今持ってくる」
どうやら蛍光灯が寿命だったらしい。管理人はほどなくして新しい蛍光灯を取りつけてくれた。
「どうもすみません、ありがとうございます」
お礼を言うと管理人は脚立から降りながらいやいやと手を振った。
「転校生だっけか。寮で分からないことがあったら聞きにくるといい。まあ俺もここ来て10年程度でそんな日が経ってないから俺に分からんことはあっちの寮の管理人に訊いてくれ。
瀬久樹寮の方の爺さんは古株だからな。もう半世紀くらいはここにいるんじゃないかな、あの人」
「どうも…」
岸くんは思い出す。瀬久樹寮の管理人には確か以前に怒鳴られたことがある。神宮寺達と渡り廊下を見に行った時だ。おっかなくて不気味な風貌の爺さんだったからなるべく関わりたくない。
管理人に礼を言って、岸くんはベッドに横たわった。

399 :ユーは名無しネ:2014/11/03(月) 19:47:28.46 0.net
色んなことを考えた。
犯人は誰なのか、その意図はなんなのか、神宮寺と嶺亜の間に何かあったのか、どうして魔女と呼ばれるようになったのか、そもそもなんのために嶺亜はそんなことをするのか、渡り廊下には何があるのか…
考えは一向にまとまらず、果てしなくもつれていく。
そのうちに岸くんは深い眠りに落ちていた。
そして岸くんは夢を見る。暗闇の中、右も左も分からない状態で立っている。ひどく生ぬるい風が頬を撫でた。
「何これ、どこ?おーい!誰か!誰かいるー!!?」
大声で叫んでも、手探りをしても何も得られなかった。そのうちに不安が募り、岸くんは闇雲に走り出した。
だけどどこまで走っても暗闇は終わらない。まるで闇の胃袋の中で転がされているかのようだ。
「誰か!!誰かああああああああ!!!」
ありったけの声で叫ぶとまたさらに深き淵に落とされる。今度は八方塞がりで身動きが取れない。叫ぼうにも声が出なかった。
底知れぬ恐怖と絶望感の中で、見上げた先に一つの顔があった。
その顔はまるで仮面のようにのっぺりとしていて表情に乏しく、それがまた不気味さを引き立てている。思わずぞくりと鳥肌が立った。
仮面の向こうの眼はしかしじっと岸くんを見据えている。そして…
ニィ…と嗤った。
岸くんは恐怖のあまり声なき声で絶叫した。そこで目が覚める。
「…!」
起き上がるとびっしょりと汗をかいていた。まだ夜明け前で、あたりは真っ暗だ。
「…」
息を整えながらふと見やると、開けた覚えのない窓が開いているのがぼんやりと見えた。


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400 :ユーは名無しネ:2014/11/03(月) 19:48:04.77 0.net
欠伸を噛み殺しながら神宮寺は岩橋と登校する。教室につくとすでに羽生田も来ていて予習をしていた。
「岸くんは?」
羽生田に問われ、岩橋が答える。
「なんか変な夢見たみたいで良く眠れなかったんだって。ご飯はしっかり食べてたけどフラフラしてたからギリギリくらいに来るんじゃないかな」
「岸くんでもそういうナイーブな面があるんだな」
笑い合っていると、嶺亜が教室に入ってくる。ひどく機嫌が良さそうで、笑みが零れていた。
「おっはよぉ」
普段はほとんど挨拶もしないのに笑顔で愛想を振りまいてくる。これは超常現象に近い。神宮寺はもちろんのこと、岩橋も羽生田も面喰らった。
「おい…なんなんだあれ…あいつが俺らにスマイル向けて『おっはよぉ』だなんてそれこそ七不思議だ…何か悪いものでも食べたんじゃなかろうか」
ヒソヒソ話をしている間も嶺亜は鼻歌を歌っている。
ゴキゲンの理由を神宮寺が少し不機嫌に分析した。
「栗田にかまってもらってるからだろ?でなきゃあんなにゴキゲンな訳ねえよ」
「ちょうどいいじゃん。機嫌がいいうちにこないだのこと謝ろうよ。今なら『別にいいよぉ気にしないよぉ』とかって言ってくれそうだし…」
岩橋の提案に羽生田は「それも良かろう」と同意したが神宮寺はやはりひねくれた言い方になってしまう。
「俺らに疑われたことなんて忘れてるだろこの様子じゃ。別に良くね?」
しかし神宮寺は岩橋に耳を引っ張られてお説教をされる。
「もういい加減にしなよ!謝るべき時ぐらい素直になんなきゃ。これ以上意地張るならもう知らないよ!?」
いつもおとなしい岩橋が険しい表情になってたしなめてくる。己の暴走を食い止めてくれる岩橋の存在は神宮寺にとってなくてはならないものだ。だから彼に見捨てられるような真似はしたくない。
それに、誰かに嶺亜に謝るきっかけを作ってもらいたかった。
その織りなす二つの背中を押す手がようやく自分の意固地な岩を砕いてくれた。

401 :ユーは名無しネ:2014/11/03(月) 19:48:32.09 0.net
「…おい」
神宮寺は嶺亜に声をかける。若干鼓動が速くなったがそれを自分で見て見ぬふりをする。
「ん?なぁにぃ?」
「…かったな」
「はぁい?なんてぇ?」
「悪かったなっつってんだよ!聞こえねーフリしてんじゃ…」
しかし最後まで言い終わらないうちに神宮寺は岩橋によってその言葉を遮られてしまう。また素直でない部分が露呈してしまう前に。
「こないだはごめん、嶺亜のこと疑って。ほんとにごめん」
「…まあ、その…悪かったとは思ってる。犯人の周到さが嶺亜しか犯人がいないという状況を作りあげたもんだからまんまと騙されてしまった。少し考えれば分かることだっただけに残念と言わざるを得ない」
羽生田もたいがい素直ではない謝り方ではあったが嶺亜は教科書をめくりながら相変わらずの調子でそれを受けた。
「別に気にしてないけどぉ。人に疑われるのなんてなんとも思ってないしぃ。もう栗ちゃんが守ってくれるからぁ」
平常モードなら嫌味攻撃が飛んできそうだが今の嶺亜はすこぶる機嫌がいい。だからなのか、仲直りも円滑にいくというものである。
「でもこういうのなんて言うんだっけ。災い転じて福となす?雨降って地固まる?なんにせよ、これで犯人を見つけ出せばめでたしめでたしだよね。防犯カメラのチェック帰ったらしないとね」
岩橋が柔らかい物腰で雰囲気を和やかにしようと努める。その成果があってか神宮寺も少しずつ軟化し始め、気になっていたことを嶺亜に訊ねた。

402 :ユーは名無しネ:2014/11/03(月) 19:49:09.31 0.net
「こないだの作戦会議で渡り廊下がどうのこうの言ってたよな?あそこってどこから入れんだよ?」
「あぁ、渡り廊下ぁ?あそこはぁ裏庭の倉庫に通じる地下通路の入り口があってぇそこから入れるんだよぉ。誰がどういう意図で作ったのか知らないけどぉ」
「マジか!?おい、俺の手に入れた古文書によるとちょうどあそこには7人の神様が眠ってるという記述があるんだ!」
「あんなとこに神様ぁ?漫画の見すぎじゃない神宮寺ぃ。胡散臭いなぁ…まぁいいけどぉ暫く儀式もするつもりないしぃ。あ、鍵谷村に預けたままだったぁ」
「んじゃ谷村にもらえばいいんだな?よっしゃ!」
神宮寺は張り切って谷村から鍵を受け取り、放課後早速探検しに行こうとしたが生憎岩橋も羽生田も委員会が入っていたのと岸くんは一日睡眠不足によるグロッキー状態で使い物にならなかった。
しかも、鍵をもらったものの色々と分からないことだらけで一人で向かうには多少不都合があった。
「…」
非常に気は進まなかったがこうなった以上仕方がない。意地を張っていてもいいことがないのは明白である。
「えぇ?一人で行けないのぉ?子どもじゃあるまいしさぁもぉしょうがないなぁ」
嶺亜と一緒に、神宮寺は渡り廊下の探検に向かうことになった。だが、そこで思わぬハプニングに遭遇してしまう。
「!!」
地下階段を上り終えて渡り廊下に辿り着いたと思ったら、背後に誰かの気配を感じた。と同時に何か薬品を嗅がされて意識が遠のく。
神宮寺と嶺亜が気付いた時には二人とも真っ暗な闇の中にいた。


つづく

403 :ユーは名無しネ:2014/11/07(金) 19:38:06.73 0.net
神7シネマ劇場「放課後の楽人たち」


「なあ、お前られいあ知らね?」
委員会が終わった岩橋と羽生田は栗田にそう訊ねられる。
「さあ…授業が終わったらすぐ教室出て行ったけど…。寮には戻ってないの?」
「いねーんだよ。部屋の鍵かかったまんまだからよ、俺部屋に入れなくて」
「化学室で実験とかなんとかしてるんじゃないか?」
「それも見たよ。校内でいそうなとこ探したんだけど一向に見つかんねえんだ。谷村に訊いても今日は会ってないから知らねえっつうし」
栗田は頭を掻く。神7学院は森の中にあるため携帯電話は圏外である。有線の固定電話かインターネットも回線を繋いだものでしかできない。それでも携帯電話を持つ者はいるし、嶺亜も一応は持っているらしいがやはり圏外である。
「そのうち帰ってくるだろう。他に行くところなんてないし街に出ても最悪10時には帰ってこないと点呼があるからな。点呼をすっぽかすと後が怖いし」
羽生田がそう諭すが、栗田は納得いかない様子である。その後ろ姿を見届けつつ岩橋達も寮に戻ったが同様に神宮寺の姿がどこにもなかった。
「え?神宮寺いないの?なんで?」
岸くんが目にくまを作りながら訊いてくる。岩橋も羽生田も首を振った。
「部屋にも戻ってきてないんだよ。今朝、嶺亜に謝った時に渡り廊下に行く方法を聞いて放課後行くって言ってたけど…その裏庭倉庫に行ったら鍵がかかってたんだ。だからてっきりもう戻ってると思ったんだけど…」
「嶺亜もいないらしいんだ。栗田が探してたが…あっちはもう見つかったのかな」
気になって瀬久樹寮まで行き、ロビーでオンラインゲームをしていた栗田に訊いてみると彼の顔は大好きなゲームをしているにも関わらず非常に険しかった。まるで、ゲームで気を紛らわせているかのようである。

404 :ユーは名無しネ:2014/11/07(金) 19:38:43.58 0.net
「まだ戻ってこねーよ!れいあどこ行ったんだよ…」
「神宮寺も…どこ行ったの…」
栗田と岩橋は深い溜息をつく。ロビーには二人の放つ重苦しい空気が充満した。
「とにかく待つしかない。案外けろっと帰ってきて心配したのが馬鹿らしく思えるかもしれんしな」
羽生田がそう言って励ますが、点呼の時間になっても二人は戻って来なかった。
神7学院の二つの寮では午後10時に管理人による点呼がされる。この時、部屋にいなかったり不在が明らかになると即学校に報告され厳重注意を受ける。たび重なると停学、最悪退学も余儀なくされてしまうのだ。
「…おい、中村はどこ行った?」
嶺亜の部屋は管理人のマスターキーにより開けられた。栗田がそれに答える。
「…分かんねえ。連絡つかねんだ。誰に聞いても知らねえって言うし俺が訊きてえよ」
「けしからんな…戻ってきたら明日学校に報告しとくと言っておけ」
管理人の老人は鋭い眼つきでそう言い放つ。ぼさぼさの白髪に皺くちゃの肌と血走った眼からその風貌はまるで白髪鬼のようで、しかも何かやらかすと怒号が飛んでくるから生徒からは恐れられている。
いつの頃からここにいるのかは誰も知らない。相当昔からいるらしいが…
「どうしよう…探しに行った方がいいかな」
少し離れたところで栗田と管理人のやりとりと見ていた颯と谷村、倉本が栗田に歩み寄る。彼らも心配で気が気ではない。

405 :ユーは名無しネ:2014/11/07(金) 19:39:17.03 0.net
「俺が行ってくらあ。もしかしたら森に何か取りに行ってどっかで事故に遭ってるかもしんねーし。懐中電灯どこにある?」
栗田が足を進めようとすると、谷村が待ったをかけた。
「それはちょっと考えにくいと思う…。嶺亜くんは自分で森に何かを取りに行くことはないよ。いつも俺に取ってきてぇって言うから…」
「おめーがアテになんねえから一人で行ったかもしんねえだろ」
「いや、谷村の言うことはもっともだよ。嶺亜くんが谷村をパシらず自分で動くなんて考えられない。それより神宮寺もいないってのが気になる」
倉本がそう言った。颯も顎に手を当てながら考える仕草をする。
「昼休みに一緒にご飯食べた時、冤罪の件についてあの三人が謝ってきたよぉってゴキゲンだったからもしかしたら二人和解してどっか出かけてはめをはずしてる…なんてことは…」
「神宮寺とれいあが二人でどっか行くわきゃねーだろ!!それこそありえねえ。いや、ありえねえは言いすぎだけどよ、それならなんで連絡の一つもないんだよ。第一、岩橋だって神宮寺がどこ行ったか知らねえみたいだぞ」
「それもそうか…じゃあ二人で森にでも行ったのかな…何しに…?」
4人は頭を悩ませる。だが結論が出ないので栗田がいてもたってもいられず懐中電灯片手に森へ向かおうとするが出入り口には管理人がいる。こんな時間に出て行こうとすれば必ず咎められるから一階のトイレの窓からこっそり抜け出した。
颯と谷村も付いて行き、倉本は戻ってきた彼ら三人を窓から入れるために脚立とロープを持って待機していた。
二時間後、焦燥感にくれた三人が戻ってくる。その間も、嶺亜は瀬久樹寮に戻ってくることはなかった。

406 :ユーは名無しネ:2014/11/07(金) 19:40:04.11 0.net
「なに?同室の奴が戻って来ないって?」
瀬久菩寮でも午後10時の点呼が行われていた。岩橋は管理人に神宮寺が戻って来ないことを話す。
「悪いが点呼時にいないと学校に報告しないといけないからな。最後にもう一回来るからその時もいなかったらしょうがない」
管理人は仕方がないと言った風だった。岩橋は溜息をつく。
「連絡はないのか?友達ならどこに行くとか話したりするだろ?」
「いえ…今日は僕は委員会で放課後彼とは別行動でしたから…あ、でももしかしたら…」
岩橋は気付く。今朝神宮寺は嶺亜から渡り廊下に通じる秘密通路の存在を教えてもらってえらくはりきっているからもしかしたらそこに…
それを管理人に話すと、彼は怪訝な表情になる。
「渡り廊下への通路?なんだそりゃ。裏庭の倉庫ならもう長年使われてないし渡り廊下なんかもっと古い時代から使われてないらしいからな。
使われてない場所をあれこれ詮索すると瀬久樹寮の爺さんがえらい剣幕で怒鳴ってくるから俺も下手にいじれん。しかしそんなところに行って何をするって言うんだ」
「はあ…」
古文書のことは言わないでおいた。言ったところで笑い飛ばされるのがオチだ。
「仮にそこに行ったとして、入れたんだから出れるだろう。とにかく点呼が一通り済んだら戻ってくるから」
管理人は岩橋の話にはあまり耳を傾けることなく行ってしまった。そして15分後に点呼を終えた管理人が再び部屋を訪れても神宮寺はまだ帰らない。
「やれやれ…確かコイツは数日前電気ドリル勝手に持ち出してイタズラしようとしてた奴だったと思うが…これじゃ停学は免れんぞ」
「そんな…」
岩橋が愕然としていると、後ろから声が響く。

407 :ユーは名無しネ:2014/11/07(金) 19:40:38.09 0.net
「なんとか今日中は待ってもらえませんか?」
振り向くと羽生田と岸くんがいた。二人とも心配して来てくれたのだ。
「僕達が今から探して来ます。これだけ待ってても来ないんだとすると多分どっかで事故に遭ったか自力で帰ってこれないところにいるはず。可能性があるとすると森のどこかだと思いますけど…」
岸くんと羽生田の手には懐中電灯が握られていた。岩橋はそこで勇気づけられる。
「僕も探します!だからもう少し待って下さい!お願いします!」
三人で頭を下げると管理人は弱ったように頭を掻いた。そして数秒待った後首を横に振る。
「ダメだ。こんな時間に森へ行くなんて許可できない。君らが事故に遭うかもしれないんだぞ」
「だけど…」
「明日の朝まで待つ。それまでに帰ってこなければ…点呼をすっぽかしたというよりやはり事故に遭ってる可能性が高いからそういう風に学校には言っておくから君らは今日は自分の部屋でちゃんと待ってろ。いいな?」
説得されて、岩橋達は仕方なしに首を縦に振る。少なくとも管理人に温情がありそうだから停学という事態は免れそうだがそれにしても心配は拭い去ることはできない。
瀬久樹寮の方でもまだ嶺亜が戻らないようだった。心配で寝付けないまま夜が明ける。
そして…
「おい、中村と神宮寺が行方不明だってよ」
朝からもう生徒たちの間で二人の行方が分からないことは噂となって広がっていた。その話はどこでどう歪曲したのかこういう見解になっていた。
「二人ともこないだからいじめみたいなもんに遭ってたからな…もしかしたらそれを苦に…」
何故か二人は陰湿ないじめに耐えかねて失踪したという噂がまことしやかに流れていた。


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408 :ユーは名無しネ:2014/11/07(金) 19:41:18.47 0.net
暗闇の中で目を開けても、そこに光は届かない。自分が起きているのか寝ているのかすらぼんやりとして曖昧だった。まだ頭がクラクラする。
「どこぉ…?ここぉ…?」
視覚は闇しかとらえないが嗅覚はその独特な臭いを嗅ぎ取っていた。黴臭いじめじめとした嫌な臭い…そう、渡り廊下のそれだ。嶺亜は暗闇の中で顔をしかめた。
すぐ側に人の気配がする。そいつは呻いた後、ごそごそと動きながら掠れた声で呟いた。
「なんだ…?ここどこ…?」
神宮寺の声である。嶺亜はどこか暗いところに彼と二人でいることを自覚する。これが現実であることを認識するのに若干の時間を擁した。
「神宮寺ぃ…僕達一体どうしちゃったんだろぉ…」
そう問いかけると神宮寺はびくっと肩を震わせた…気がする。
「な、なんだ脅かすなよ…嶺亜か。おい、ここどこだよ?確か俺達渡り廊下に…」
「そうだよねぇ…でもここ…臭いは渡り廊下のそれに似てるけどぉ…なんかあちこちごろごろした石みたいなのもあるしぃ…」
手さぐりをすると硬くてバラバラしたものが幾つも転がっているのが分かる。湿気もあってじめじめとしている。
「おいちょっと待て…いって。あちこちいてえ…携帯の灯りでなんか分かるかな…」
神宮寺が何かを取り出す気配がする。ほどなくしてパっと液晶の画面が光り…
その瞬間、嶺亜と神宮寺は同時に悲鳴をあげ身を寄せ合った。
「な…なななななななにぃこれぇ…!!!」
「ちょ…シャレんなんねえぞ…!!」
つたない灯りが照らしたもの…それは骸骨だった。石かと思ったものは骨だ。そこいらに散らばっている…1体、2体、3体…恐ろしくて数えることもできない。

409 :ユーは名無しネ:2014/11/07(金) 19:41:49.11 0.net
「やだぁ!!やだやだやだ!!こんなとこ早く出よぉよぉ神宮寺ぃ!!」
「あ、あったり前だろ!!俺はこういうの大嫌いなんだよ!!ホラーは映画だけで充分だっつーの!!」
二人しがみつき合いながら立ち上がったが足が震えて上手く立てない。しかも、どこにも出入り口のようなものはなかった。頭上だけがかなり高いことぐらいしか分からない。
「なんなのぉここぉ…墓場にしては無造作に置きすぎだよぉ…?」
「わっかんねーよ!!一体なんなんだよこれ…!!なんだってガイコツがこんなとこに…」
「とにかく出ようよぉ。あ、ポケットにちっちゃい懐中電灯持って来てたの忘れてたよぉ。これで出口をぉ…」
嶺亜はポケット懐中電灯を取り出し灯りをつける。だが…
「おい…これって出口は上しかないんじゃね…?」
「そぉみたいぃ…」
空間には人骨がまばらに散らばっていたが、ぱっと見はどこにも出口はなさそうだった。あるとすれば光の届かない頭上か…
「ていうかぁ…なんで僕達こんなとこに閉じ込められちゃったのぉ…?一体誰がぁ?」
「そんなん分かるわけねーだろ!確か…渡り廊下に着いたと同時になんか変な臭いがしてフラフラして…そんで気付いたらここにいた…ここは渡り廊下のどこかか?」
「渡り廊下はもっとだだっぴろい空間だよぉ。床は木製だしぃ。最初に来た時に谷村と懐中電灯ですみずみまで見て回ったけどぉ…ほとんど何もないとこだったしぃましてやガイコツなんてぇ…」
言いながら、声が二人とも声が震えているのを自覚する。まるでガイコツ達がじっと自分達を凝視しているかのようで落ち着かない。
「んじゃここどこだっつうんだよ。どうでもいいけど早く出ねえと…今何時だ?」
神宮寺が携帯電話で確かめると朝の八時過ぎだった。12時間以上眠っていたことになる。どうりで頭がぼうっとするわけだ。
「どうやってぇ?手が届きそうにないよぉかなり上は高いみたいだよぉ」
「とりあえず俺がお前を肩車すっからできるだけ手、伸ばせ。よいしょ」
神宮寺がフラフラになりながら嶺亜を肩車し、一生懸命手を伸ばすが空を切るばかりである。交代してみても結果は同じだった。



つづく

410 :ユーは名無しネ:2014/11/11(火) 20:02:04.19 0.net
容量オーバーのため、次スレに移行します

411 :ユーは名無しネ:2014/11/11(火) 22:28:13.54 0.net
うんこ

412 :ユーは名無しネ:2020/05/16(土) 13:56:39.10
うんこというやつが一番ウンコな賢

総レス数 412
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