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孤独のグルメのガイドライン 谷口26ー

428 :水先案名無い人:[ここ壊れてます] .net
老夫婦が着慣れていない洋服を着て、古びたスーツケースを引きずって東京駅は八重洲中央南口の新幹線改札口を通ろうとしている。
おじいさん「しかしすごい人やわいな……母さん、新幹線はこっちだぁ、わし調べて来たからな、しっかりついて来なさいよ」
おばあさんの方はおじいさんにしっかり手を握られ、黙ってうなずく。
昔からおじいさんを信頼して連れ添ってきたのだろう。おじいさんが新幹線の改札で切符を通す。

『ピンポーン、さがって、乗車券と特急券を入れてください』
おじいさん「あんれ……これは……」
もう一度切符を通す。
『ピンポーン、さがって、乗車券と特急券を入れてください』

後ろに並んでいる利用客たちが何事かと2人の様子を見る。舌打ちするものもある。
そこに滝山が通りかかった。
滝山「お父さんお母さん、どうしたの?」
おじいさん「いや……切符が通らねんだ……ちゃんと博多までのよぉ?運賃は払ってんだ……きちんと往復で……」
滝山が切符をちらりと見ると、それは東京〜博多の乗車券であった。特急券を持っていないのだ。
滝山「えっと、お父さんたち帰りはいつ?」
おじいさん「あぁ、しあさってだ……月曜の昼過ぎに息子らさ博多まで送ってくれることになってんだぁ……」
滝山「じゃあ博多は昼の3時頃出るくらいだな。じゃあ、ちょっとここで待ってて」
おじいさん「あぁ……」
5分後。
滝山は東京〜博多の2人往復分のグリーン券と、1万円がチャージされたSuicaカードを2枚持って戻ってきた。
滝山「はい。これで新幹線乗れるよ、ほら、こうして2枚一緒に機械通すの。これが行きでこれが帰り。で、席はJRの人に聞いてね」
滝山「それと、このカードね、お弁当とか飲み物買う時に使えるから」
おじいさん「あ……でも……これお金だいぶかかったんでねが?わしが不慣れなばっかりに申し訳ねぇ……これは受け取──」
滝山「ガハハハ!いいのいいの!そんなことよりほら、ちゃんとお母さん博多まで案内してあげてよ、ね、お父さん頼んだよ!」
おじいさん「あぁ……」
おばあさん「あ……ありがとないなぁ……あんた、お名前はぁ……」
滝山「だからいいんだってそんなこと!旅行楽しんでね、息子さんたちと会えるの楽しみだねぇ、ガハハハ!」
老夫婦は深々と滝山に頭を下げると、今度はきちんと改札を通って行った。
階段を上がる前にもういちど振り返り、滝山に頭を下げる老夫婦。
それを笑顔で手を振り見送る滝山。
自身の親にしたかった孝行をいくらしたところで、滝山に親と呼べる存在はない──なかった。しかしその瞬間だけは、「お父さん、お母さん」と言えたその瞬間だけは、滝山はたしかに《孤独に打ち勝った、ひとりの子供》だったのだ。

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