キングコング西野公論　266

Facebook

【死】

楽しいモノしか作りたくない。
ツライことなんて現実世界でいくらでも経験するから、僕が提供するものは楽しいモノだけで、ハッピーエンドだけと決めている。

ただ、今回は、今回だけは『死』というテーマで記事を書かねばならない。これが最初で最後だ。

まずは今年の10月12日（KING KONG LIVE 大阪公演の前夜）に書いたコチラの記事をご覧いただきたい。

・・・・・・・・・・・
（要約）台風が来てるけどキンコンライブは中止しない。でも無理して来るな。
振替ライブで新ネタ追加した完全版やるから。
・・・・・・・・・・・・・

お客さんの無事を第一に考えた判断に、当時は拍手喝采。
ファンの方からだけでなく、当時のマネージャーからも「あの判断は素晴らしい」と、わざわざ連絡があったほど。

正直に言うと、心のどこかでは「なんばグランド花月で単独ライブをやって、お客さん10人。それが合法的に許される。ウシシ…」と面白がっていた部分があるかもしれない。

ただ、お客さんの無事を第一に考えた気持ちに嘘はない。

「こんな台風は見たことがない」と国際宇宙ステーションからの写真でも話題になった台風19号『ヴォンフォン』
JR西日本をはじめ、交通機関各社が翌日の運休を決めるなんて僕の34年間の人生では初めてのことで、「5098名の犠牲者を出した伊勢湾台風と同等か、それ以上」と言われていた。「過去最強クラス」とも。

そんな中、お客さんを呼ぶことは僕にはできない。芸人として、人として、できるわけがない。
自分のファンの方に、もし万が一のことがあったら、僕は責任をとれないからだ。
謝って済む問題じゃない。

だから「来るな」と言った。そこに嘘はない。

劇場支配人と直接かけあって、追加公演を決め、そして台風直撃の中で開催することになった通常公演は、たとえお客さんが10人でも5人でも全力でやると決めた。

そして、ライブ当日だ。

あまり雨が降っていない。
風もそこまで強くない。

あれ？

事実、僕はホテルから劇場まで傘をささずに歩いて行けた。
肩が少し濡れた程度。

ん？

過去最強？伊勢湾台風と同等かそれ以上？

なんだか変だ。

楽屋入りし、身支度を整える。
ネクタイを締めながら、5人～10人の客席に向けて、悲壮感が出ないようなツカミを考える。
その時、スタッフがとても嬉しそうな表情で楽屋に入ってきて、言った。
「お客さん、500人ぐらい来てくださいました！」

キングコング西野公論 266

キングコング西野公論　266