【DIAMOND】中国人相手の観光地化が破壊したマカオの街並み

あられお菓子 ★

DIAMOND online　2018.5.8
http://diamond.jp/articles/-/169285
カメラに映るのは歴史的建築物ではなく観光客　Photo by Konatsu Himeda
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民家の間にあふれる観光客　Photo by K.H.
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“蟻塚”に群がるアリのような人波

　東洋と西洋が行き交い、過去と現在が混ざり合う街──。かつてポルトガルの植民地だったがマカオには、
昔からそんな不思議な魅力があると言われ、1999年12月に中国へ返還されて以降、30ヵ所にわたる
建造物などが世界遺産に登録された。そんなマカオに、ノスタルジックな気分に浸れればと
期待して訪れたのだが、目の前に広がっていたのはまるで“蟻塚”に群がるアリのような人波だった。

　4月のマカオ訪問を前に、筆者は何冊かの観光ガイドを物色した。世界遺産はマカオ半島に
集中していることから、セナド広場を起点に街を回るのがいいという。全体にこぢんまりした街なので、
じっくりと散策できるのがマカオ観光の強みである。

　ところが、足を踏み入れて愕然とする。決して広いとは言えないセナド広場は、すでに観光客で
びっしりだったのだ。より正確に描写するならば、広場に群がる観光客のほとんどが、大陸から来た
中国人たちだった。

　広場の三方は歴史的建築物で囲まれているのだが、人が多すぎてまるで視界に入らない。
立ち止まれば人にぶつかるから、写真撮影を楽しむどころではない。セナド広場は避けようと、
足早に聖ドミニコ教会に向かった。

　時計はすでに正午を回っていた。事前に目星をつけていたポルトガル料理も、人混みで
探すどころではなかった。お目当ての昼食はもはや無理だとあきらめ、それに代わる飲食店を探す。

　しかし、なぜか中国の人気メニュー「麻辣タン（マーラータン、タンの文字は湯の下に火）」はあっても、
肝心なローカルフードであるマカオ料理の店がない。「さすがにマカオに来てまで四川料理はないだろう」と、
心の中で“却下”していたが、中国人観光客はこれを大喜びで立ち食いしていた。

（中略）

インバウンドは街を潤したのか

　すでにマカオでは、住民の悲鳴が高まっている。「観光客はマカオを裕福にしたが、観光業は
地元マカオ人を苦痛に陥れた」という声は、すでに書籍になって刊行されている。この書籍によれば、
外出や歩行は困難を極め、日常生活に欠かせない食堂や喫茶店、書店までもが消えてしまったという。

　それに取って代わったのが、流行りのドラッグストアや化粧品店を始め、ブランドバッグや貴金属、
携帯電話や家電製品などを扱う店。どの店も「中国人による中国人のため」の物売りばかりだ。

　こうした現象は、住民にとって“街の崩壊”も同然だ。特にマカオは、中国本土と隣接しているだけに、
大陸からの人口圧力は避けようがない。マカオのインバウンドツーリズムは、もはや「生活者の犠牲の上に
成り立っている」といっても過言ではない。

　残念ながら、今のところマカオ当局には、観光客を制限する動きはないようだ。このキャパオーバーに
ついては、マカオ内に新たな観光地を設けることで解消しようとしているらしい。

　2017年、マカオの名目ＧＤＰは4042億マカオパタカ（約500億米ドル、約5兆4555億円）だったが、
その半分は観光業が叩き出している。間違いなくマカオは“観光立区”といえる。

　だが、筆者はマカオで時間を持て余してしまった。香港へ帰る船が出るまでに時間はあるが、
行くべきところ、見るべきもの、買うべきものが見当たらないのである。カジノに関心のない筆者には、
マカオの滞在は苦痛でしかなかった。

　日本も、マカオに共通する点がある。それは「経済効果」という四文字が、すべてに優先する価値だと
認識されている点だ。観光客が来れば日本経済は潤うといわれるが、潤うならそれでいいと言えるのだろうか。
日本各地の観光地は、マカオほどの事態にはなっていないが、「経済効果」という言葉に屈し、
つまらない街並みになり下がった例はすでに存在する。

　街が壊れてしまってからではもはや取り返しはつかない。何のため、誰のための観光なのか──。
それが、マカオが与えてくれた「教訓」だと筆者は受け止めている。

（全文は記事参照。全4ページ）