【自動車】三菱ショックに青ざめる｢企業城下町｣の現実　行き場失った新車が雨ざらしに

海江田三郎 ★

http://toyokeizai.net/articles/-/116384

三菱自動車による軽乗用車の燃費偽装問題が、地域経済に大きな打撃を与えている。
対象車種の販売停止を受け、同社の水島製作所（岡山県倉敷市）は4月20日以降、
軽の生産ラインが停止し、同工場で働く従業員約3600人のうち約1300人が自宅待機を強いられている。
岡山県内には売上高の半分以上を三菱自に頼る下請け業者も多く、影響は深刻だ。活気を失いつつある三菱自の「企業城下町」を歩いた。

問題発覚から1週間が過ぎた4月28日朝、水島製作所から南へ約1キロにある約18万平方メートルの
広大な敷地では約2400台の軽が雨に打たれていた。販売停止で行き場を失った「eKワゴン」などの新車だ。
水島製作所では年間31万台の軽やセダン、電気自動車を生産し、約6割の19万台が軽だ。三菱自は4月20日以降、
偽装が発覚した軽4車種の生産を停止している。「普段はもっと忙しくしてるよ。寂しくなっちゃった」。6
0歳代の男性警備員は敷地入り口の警備員室で自嘲気味に話した。
三菱自の不祥事は2000年以降の大規模なリコール隠しに続き、これで3度目。同社の社員からは怒りや不安の声が上がっている。

自宅待機中の男性社員は水島製作所で20年以上働く。過去2回の不祥事も経験しており、
「上が変わっても、根が変わってないということだ」と失望をあらわにする。
「給料カットになれば今の生活は難しい。転職を検討しないと」と漏らした。
別の50歳代の男性社員は「自分たちの知らないことが次々に明らかになる。先が見えない」と不安な表情を浮かべた。
地域経済にとって、影響はより深刻だ。
岡山県商工会連合会が中小の自動車部品メーカー90社を対象に行った調査によると、三菱自関連の売上高が
半分以上を占める企業は47％に上った。同連合会の額田（ぬかだ）修弘事務局長は「過去のリコール隠し問題でも、
生産ラインは止まらなかった。今回は次元が違う」と話す。
倉敷市のある塗装メーカーは三菱自との取引が全体の9割を占め、軽部品の塗装に携わる一部社員は現在、
社内の清掃や研修などで過ごしている。同社幹部は「従業員の生活を考えると簡単に休ませて給料を減らすことはできない」というが、
生産再開は見通せない。「新しい仕事を見つけるのが先か、資金が底をつくのが先か」とため息をつく。
岡山県総社市の三菱自に関係の深い工業団地では、電力使用量が4～5割減った。社員に振り替え休日を取らせるメーカーもあり、
三菱自の協力会社でつくる組合「ウイングバレイ」は「生産停止の車種が増えれば影響が広がる」と危惧する。

愛着も
一方で、三菱自に愛着を持つ企業も少なくない。戦前に進出した三菱グループは、地域の発展に大きな役割を果たしてきたからだ。
倉敷市にある下請け会社の社長は4月25日、三菱自動車水島製作所の幹部から、
「ご迷惑をおかけして申し訳ございません」と謝罪を受けた。問い詰めたいことが山ほどあったが、
疲れ切った幹部の様子を見て「我々にもできることがあったら言ってほしい」と申し出た。
三菱関連の売上高は5割に達し、軽関連の業務を担う社員60人は仕事がなくなった。
他部門の仕事を割り振り乗り切ってきたが、限界になりつつある。
だが、社長は「水島製作所の人は、良い車のために皆、愚直に働いてきた」とかばう。
長年の愛着と偽装への憤りが複雑に交錯しているという。
地方都市にとって大企業の工場は地元の産業・雇用を支える重要な役割を果たす。
特に、自動車は1台2万～3万点の部品が使われ、産業の裾野が広い。「水島」の窮状は一企業の不祥事が当事者だけでなく、
多くの人の生活に打撃を与えかねないことを示している。

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