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【少女前線】ドールズフロントラインPart568【ドルフロ】

242 :名無しさん@お腹いっぱい。 :2019/05/07(火) 01:14:33.60 ID:obp4wcbf0.net
深刻な崩壊液の被曝によって、指揮官の意識は長い間昏睡状態に陥っていた。
時々正気を取り戻しても、その度にグリフィンから当時の事情聴取や、崩壊液被曝者の研究に協力させられる。
指揮官はもはや心身共に限界を迎えていた。
物理的に破壊されかかっている脳は幼児退行を起こし、正気に戻る頻度も段々と減っていた。
医師からは、次にまた正気に戻れる保証はないと宣告されている。

「わーちゃんうんち出たよー」
「ええ……今綺麗にしてあげるわね」
「わ運!わ運!」

汚物の処理のために、WAは指輪を外す。
かつて、信頼と愛情を込めて指揮官から贈られたはずの指輪は、本来戦術人形であるWAと廃人同然になった指揮官を繋ぎ留める鎖となっていた。
他の人形はとうにグリフィン本部に回収され、新たな部隊、新たな指揮官に配属されているか、解体されているかだろう。
運命の赤い糸が繋がっていたはずなのに、今のWAの小指は、汚物に塗れた鎖が指揮官と繋がれていた。

「指揮官……私……もうこんな貴方見ていられない……」

愛を誓った、聡明で、慎重で、そして勇敢だった指揮官はもうそこにはいない。
今の指揮官を無理に生かしておくことが、指揮官を貶めていることをWAは自覚していた。
二度と正気に戻れなくなれば、指揮官には実験動物としての末路しかない。
今でこそまだ隣にいて、支えてあげられるが。
実験動物には、汚物の世話も、食事の世話も必要ない。いつ自分が異動させられ、ベッドの上の指揮官が檻に入れられるかなど分からない。
明日かも、明後日かも。
それとも、今この後数分後かもしれない。
汚物を洗い流す手は、電脳が演算するいつかはあり得る未来のシミュレートに震えていた。

「わーちゃん...つらい...ぎゅーってして...」

指揮官の目に、一瞬だけ知性の光が宿った……ように、見えたのをWAは捉えた。
WAの汚水を拭った手には、嵌め直した指輪が戻っていた。
戦術人形が指輪の授与により得られる権限は多い。
その主たるものとして、誓約者の許可があれば、人形としての制約を解除できるというものがある。
兵器が勝手に人を殺すことはできない。
だが、兵器に所有者が居るのならば。
殺すことを所有者から命令されるのは、銃の引き金を引くのと同義。
また、兵器が勝手に壊されるのは所有者の損失にもなるため、自衛のためのカウンターアタックも許される。

つまりは。今。WAは。
指揮官の首を絞めて殺すことを考えたのだった。

「私は兵器……私は……殺しのためだけに生まれてきたの……それが、指揮官の命令なら……」

どう考えても、そんな命令をされてなどいない事は理解できていた。
だが。
愛という、兵器に不要なプラグインは、判断アルゴリズムに深刻なバグを発生させたのだった。

WAのか細い、しかし人間を遥かに超える力を出せる手が、指揮官の首に回る。
指揮官の息遣い、暖かさ、脈拍。
指揮官が生きているという実感が、WAの指にある様々なセンサーを通じて、マインドマップへと流れ込んだ。

「……指揮官。ぎゅーって……して、あげる」
「...ありがと......わーちゃん」

銃弾の音に、警報が鳴り響き。
息絶えた指揮官と、マインドマップが修復不可能なまでに、銃弾で物理的に電脳を破壊したWAを警備員が発見するのは、それから何時間も後のことだった。
残っていたWAの躯体から復元できた動作ログからは、何度も指揮官の絞殺を試行し、失敗したであろうことが分かっただけ。
なぜWAが指揮官を絞殺したのか、自らを破壊したのかは判明しなかった。

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